(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明は、反毛ポリエステル繊維が含まれることが肝要である。
ここで、反毛繊維は、繊維製品の古着等を回収したものを、裁断、反毛設備を利用して短繊維等にもどしたものであり、繊維としては、通常、天然繊維や合成繊維等がランダムに混ざった物となっている。本発明で使用される反毛ポリエステル繊維は、これらを選別して回収しリサイクルすることにより得ることができる。本発明の反毛ポリエステル繊維においては、好ましくは60重量%以上、より好ましくは80重量%以上、更により好ましくは90重量%以上がポリエステル繊維からなることである。繊維製品の古着等としては、具体的には作業着、カーテン生地、車の表皮等が挙げられる。これらの製品は、主にポリエステル繊維等の素材が使用されているため、その製造工程で発生した端材や外観不良品等を使用したり、あるいは、それらを選別し回収した布帛を裁断、解繊、反毛したものを用いることができる。なお、本発明における反毛が発生しうる製造工程には、長繊維、短繊維、さらには、最終的な布帛製品にするまでに発生する染色等の品質に問題ある物を使用することも含む。繊維の平均カット長(平均繊維長)のバラツキ、単糸の太さ斑、繊維(糸)の撚り、捲縮数等の違いがあることを手掛かりに、反毛ポリエステルと非反毛ポリエステルを分別することができる。
【0009】
前記反毛ポリエステル繊維には、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(ポリテトラメチレンテレフタレート)、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリ−1,4−ジメチレンシクロヘキサンテレフタレート、ポリ−1,4−ジメチレンキシリレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート(ポリテトラメチレンナフタレート)、ポリヘキサメチレンナフタレート、ポリ−1,4−ジメチレンシクロヘキサンナフタレート、ポリ−1,4−ジメチレンシクロヘキサンナフタレート、ポリ−1,4−ジメチレンキシリレンナフタレート、ポリピバロラクトン、ポリ乳酸(PLA)、ステレオコンプレックスポリ乳酸、ポリグリシン酸、ポリ(2−ヒドロキシ酪酸)、またはこれらの共重合体からなる反毛ポリエステル繊維、または上記ポリエステル成分を少なくとも一成分として含み、異なる種類のポリエステル成分またはポリエステル以外の他の熱可塑性樹脂繊維を含む反毛複合繊維を好ましく挙げることができる。複合繊維としては、海島型複合繊維、芯鞘型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維のいずれであっても良い。
【0010】
なお、かかるポリエステル中には、着色剤、各種安定剤、紫外線吸収剤、増粘分岐剤、艶消し剤、その他各種の改良剤等が配合されていてもよい。
なお、一般に、反毛用原料は、ポリエステル繊維以外も含まれため、本特許に使用される反毛ポリエステル繊維の中に、少量の他の歩ポリエステル以外の熱可塑性樹脂成分の繊維が含まれていても、本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0011】
本発明において表される、反毛ポリエステル繊維は水分付着量が0.8〜3.0重量%に調整されることが必要である。ポリエステル繊維の工程水分率は、一般に0.4重量%であることが知られている。本発明における水分付着している状態とは、反毛ポリエステル繊維が、その繊維を構成している高分子ポリマー成分中に吸湿しているにとどまらず、1本の繊維表面が濡れていたり、1本の繊維表面と他の繊維表面の接触している箇所やその近傍、あるいは近接している箇所に形成されるミクロな空間に水分が水滴状ないし膜状に付着している状態までを含めて表している。そして本発明における水分付着量とは、このような状態において、水付与前の反毛ポリエステル繊維の重量を基準とした水分による重量増加分を表すものとする。詳細には下記式(A)で表される。
水分付着量(%)=(水分付着後繊維重量−水分付着前繊維重量)/(水分付着前繊維重量)×100・・・・・・(A)
【0012】
このような繊維表面が水分で濡れているような状態であっても、排出ウェブ速度が30m/分以上となるローラーカード工程に反毛ポリエステル繊維を、0.8重量%未満の水分付着量で使用した場合、カードでの開繊作用で、通常の短繊維よりも繊維剥離作用が大きく静電気が発生しやすく、その静電による、ローラーカード工程における、カード間の移行斑、フライコーム、ブラシロール、コンベヤー等への貼り付き等が発生し、ウェブ斑の要因となり、製品の表面に凹凸が発生する。さらに、斑が大きくなると、ウェブ切れとなる。さらに、各ロールに繊維が巻き付きウェブが出てこなくなる。一方、3.0重量%を超える水分付着量となる場合は、繊維と金属等の摩擦が大きくなり、ローラーカードへの繊維の巻付の原因となり、また、繊維間の摩擦も大きくなり、開繊が不良となり、カード後のウェブ斑の要因となる。なお、排出するウェブ速度が、30m/分未満の場合は、ウェブ速度が遅くなるため、静電気発生の影響が低くなる。なお、水分付着量の調整は、反毛加工を実施する時、不織布工程の混綿工程、カード前周辺で付与できる。また、その方法は、水スプレー等で付与することにより調整することができる。水分付着量は高速カード性、ウェブの地合等の観点から、好ましくは、0.9〜2.5重量%、より好ましくは1.1〜2.2重量%の範囲とすることである。より好ましい本発明の実施形態としては、高速カード性、ウェブの地合、製品外観等の観点から、排出ウェブ速度が40m/分以上のローラーカード工程において、水分付着量が0.8〜3.0重量%、好ましくは、0.9〜2.5重量%、より好ましくは1.1〜2.2重量%の範囲の反毛ポリエステル繊維を用いることである。
【0013】
さらに、反毛ポリエステル繊維の平均カット長が、15mm〜70mmであることが好ましい、該繊維長が15mmよりも短いとカード工程において、ローラー間でのウェブの脱落の要因となり、カードの工定性が悪くなる。逆に該繊維の平均カット長が70mmよりも長いとカードの工程安定性が損われるおそれがあると同時に、ネップ(毛玉)が発生しやすく製品外観および風合いが悪いものとなる。さらに、好ましくは、20〜60mmの範囲であり、さらにより好ましくは30〜50mmの範囲である。特に、反毛繊維のため、繊維長が分布を持ち、さらに、ウェブ速度が、30m/分以上とする場合は、この現象が顕著となるため、この範囲とすることが重要となる場合がある。
【0014】
さらに、前記水分に、必要に応じ界面活性剤を含ませて使用すること、または直接界面活性剤を付与した反毛ポリエステル繊維を使用することは、可能であり、高速カード性を発現しうる範囲内において好ましい態様である。但し、スカム発生や、コストアップ等となるため、出来るだけ少量が好ましい。界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、またはカチオン界面活性等の界面活性剤を利用する事ができる。なお、付着量としては、反毛ポリエステル繊維に対する固形分濃度で0.5重量%以下が好ましい。より好ましくは、上記の様な観点から固形分濃度で0.005〜0.45重量%であり、更により好ましくは0.01〜0.2重量%である。
【0015】
さらに、反毛ポリエステル繊維が、乾式不織布の全重量の20重量%以上含むこと
が必要である。20重量%未満である場合には、ポリエステル不織布としての特徴を発揮することができず、好ましくない。より好ましくは、25重量%以上100重量%以下とすることであり、更により好ましくは30重量%以上80重量%以下とすることである。この範囲で反毛ポリエステル繊維を用いることによって、幅広くいかなる用途のポリエステル繊維製品を回収して得られた反毛ポリエステル繊維においても、十分に製品外観や地合においても十分な品質のポリエステル繊維を含む乾式不織布を製造することができる。
【0016】
反毛ポリエステル繊維と通常のポリエステル繊維を混綿して使用する場合には、ウエパン等の計量機にて反毛ポリエステル繊維と通常のポリエステル繊維の重量を計量し、上記の重量比率の範囲にて混綿することが好ましく採用することができる。一方、反毛ポリエステル繊維を用いた不織布製品は上述のように、繊維の平均カット長(平均繊維長)、単糸の太さ斑、繊維(糸)の撚りの有無、撚り数の違い、捲縮数等の斑があることを手掛かりに、反毛ポリエステルと非を分別することができる。
【0017】
また、上述のように反毛ポリエステル繊維以外の繊維を用いる場合には、その反毛ポリエステル繊維以外の繊維の単糸繊度が0.5〜20.0デシテックスであることが好ましく、より好ましくは1.0〜10.0デシテックス、更により好ましくは2.0〜8.0デシテックスの範囲とすることである。単糸繊度をこの数値範囲とすることで、あらゆる用途のポリエステル繊維製品を回収して得られた反毛ポリエステル繊維においても、高速カード性、ウェブ地合、製品外観に優れた乾式ポリエステル不織布を製造することができる。
【0018】
不織布に使用される、反毛ポリエステル繊維以外の繊維としては、他の再生繊維や、合成繊維等が利用できる。具体的には、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル、アセテート(ジアセテート繊維、トリアセテート繊維を含む)等の再生セルロース繊維またはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ナイロン6、ナイロン10、ナイロン11、ナイロン4,6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート(ポリブチレンテレフタレート)、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリ−1,4−ジメチレンシクロヘキサンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリテトラメチレンナフタレート(ポリブチレンナフタレート)、ポリヘキサメチレンナフタレート、ポリ−1,4−ジメチレンシクロヘキサンナフタレートと言った高分子ポリマーから得られる合成繊維を利用することができる。なお、用途により、それらの合成繊維を構成する高分子ポリマーの一部または全部に、融点が200℃以下、好ましくは融点が150℃以下、より好ましくは融点が130℃以下の低融点の高分子ポリマー成分を配置した、熱接着性繊維を使用することもできる。更に、その熱接着性繊維は、少なくとも一部のポリマー成分が融点150℃以下であるポリエステルを含むポリエステル繊維を用いることが、熱接着させることによって織編物、低目付の不織布のみならず、シート、クッション、詰綿等の各種用途に好適な繊維製品を製造することができる観点から好ましい。
【0019】
さらに、排出ウェブ速度が30m/分以上とは、ローラーカード工程において、ドッファーロールより排出されるウェブの速度である。カーディングするとは、ローラーカード工程において、短繊維を使用した乾式不織布を生産されるために用いる一般的な工程の1つであり、ロールにメタリックワイヤーを巻いたシリンダーロール、ウォーカーロール、ストリッパーロール、ドッファーフォール等を要した設備を用いて、短繊維をほぐし、ウェブを製造する工程をいう。
【0020】
さらに、積層するとは、クロスレイヤーにより、ローラーカード工程で得られたウェブを厚み方向へ折畳むことである。積層操作が終了した後は、ニードルパンチ工程、熱処理工程、または接着剤処理等を経て、繊維同士を絡合し、ないし繊維同士を直接熱接着し、或いは繊維同士を接着剤により接着させることにより不織布製品となる。または上記の積層操作およびニードルパンチ工程や、熱処理工程の代わりにStruto設備等による、不織布製造工程の流れ方向にアコーディオン状に、不織製品の厚さ方向にほぼ平行となる様にウェブを折り畳み、さらにその後の熱処理工程等を経て、繊維同士を直接熱接着させることにより不織布製品となる場合も含むものである。
【0021】
このような操作にて得られる不織布の目付としては、反毛ポリエステル繊維を含む不織布製品の用途を考慮すると50〜800g/m
2であることが好ましく、より好ましくは100〜500g/m
2、更により好ましくは200〜450g/m
2の範囲とすることである。またこのような操作にて得られる不織布の厚みとしては、同様の観点から1〜100mmであることが好ましく、より好ましくは5〜50mm、更により好ましくは10〜40mmの範囲とすることである。この数値範囲の目付、厚みとすることで、反毛ポリエステル繊維を含む不織布として、目付・厚み斑が小さいのみならず、不織布の引張強度のような機械的性質、製品外観等の品質が安定したポリエステル不織布とすることができる。
【実施例】
【0022】
次に本発明の実施例および比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0023】
(1)高速カード性とウェブ地合:
室温20℃、相対湿度55%の条件下で、ダブルドッファータイプのローラーカードを用い、各40m/分のドッファーロール速度で30g/m
2のウェブを排出したときのカード性および不織布の地合いの評価を下記の項目で判定した。
(a)高速カード性:
カードから排出されるウェブの静電気による変化を以下の基準で目視により評価した。
レベル1:ロールへの巻付、ウェブコンベヤーベルトへの貼り付きがある。
レベル2:ロールへの巻付ないが、ウェブコンベヤーベルトへの貼り付きがある。
レベル3:ロールへの巻付ないが、ウェブコンベヤーベルトへの貼り付もない。
(b)ウェブ地合い:
ウェブコンベヤーのウェブの外観を観察し、以下の基準で目視により評価した。なお、観察時間は、60分とした。
レベル1:ネップと目付斑(濃淡、たて筋)が目立ち、不均一な地合いである。
レベル2:ネップは目立たないが、目付斑(濃淡、たて筋)が目視で確認できる。
レベル3:ネップや目付斑(濃淡、たて筋)が目視で見られず、均一な地合いである。
【0024】
(2)平均カット長:
反毛ポリエステル繊維の塊より、ランダムに50本の繊維を抜取後、黒のビロード板に、引張ることなく、捲縮を除き、その長さを測定する。50本の反毛ポリエステル繊維のカット長の平均値を平均カット長とする。
【0025】
(3)水分付着量の測定:
反毛ポリエステル繊維試料に対して、上記したように水スプレー等により反毛ポリエステル繊維に水分を付与し、その反毛ポリエステル繊維試料から約5gをサンプリングする。サンプリングした反毛ポリエステル繊維試料の重量を精密秤にて測定し、その試料を乾燥機の中で乾燥した後、再度重量を精密秤にて測定する。2回の重量値から下記(A)式により水分付着量を算出した。
水分付着量(%)=(水分付着後繊維重量−水分付着前繊維重量)/(水分付着前繊維重量)×100・・・・・・(A)
【0026】
(4)排出ウェブ速度:
不織布設備におけるドッファーロール表面速度を排出ウェブ速度とみなした。
【0027】
(5)平均カット長(平均繊維長):
JIS.L1015:2010 化学繊維ステープル試験方法の8.4.1に記載の平均繊維長 直接法(C法)に準じた方法で測定、なお、N=50本での測定を行った。
【0028】
(6)反毛・非反毛の分別:
繊維長のバラツキ、撚糸の混在の有無により反毛か否かを分別した。
【0029】
(7)界面活性剤の付着量および種類:
界面活性剤が付着した反毛繊維をメタノールで洗浄し、得られた洗浄後のメタノール溶液を蒸発乾固させ、得られた固形成分をGC(ガスクロマトグラフィー),HPLCで分離し、各成分の重量を測定し、更にIR,
1H−NMR,
13C−NMR,EA(元素分析)により化学構造を特定することによって、付着している界面活性剤の付着量と種類を特定した。
【0030】
(8)繊維を構成している高分子ポリマーの融点:
DSCを用い、昇温速度20℃/分の速度で昇温し、得られた吸熱ピークのピークトップ温度を融点として算出した。
【0031】
[実施例1]
ポリエステルフィラメントよりなる作業服を回収し、裁断後、通常の反毛機を使用して、平均カット長43mmの反毛ポリエステル繊維を得た。その反毛ポリエステル繊維をベールオープナーで開繊する時に、スプレーで水を付与した。その反毛ポリエステル繊維の水分付着量は表1に示すように2.0重量%であった。この反毛ポリエステル繊維を使用し、反毛ポリエステル繊維/単糸繊度6.6デシテックスの黒色のポリエステル短繊維/単糸繊度2.2デシテックスの低融点短繊維(融点110℃)=40/30/30重量%の比率で混綿し、ウェブ速度40m/分のカード工程を経て、その後Struto装置および熱風乾燥機を通して、嵩高性のある乾式不織布を得た。その乾式不織布は、厚みが20mm、目付が400g/m
2であった。その時の高速カード性、ウェブ地合い、製品外観の評価結果を表1に示した。
【0032】
[実施例2,3]
実施例1において、水の付与量を表1に示す値に変更し、水分付着量がこれらの値となる様に調整するほかは実施例1と同様にして操作を行い、乾式不織布を製造し評価を行った。結果を表1に示した。
【0033】
[実施例4]
実施例3において、準備したスプレー前の水の中に、松本油脂製薬(株)製ノニオン系界面活性剤を分散させ、固形分濃度で0.05重量%が繊維に付着するようにスプレーにて水の付与の仕方を調整するほかは実施例1と同様にして操作を行い、乾式不織布を製造し評価を行った。結果を表1に示した。
【0034】
[比較例1]
実施例1において、水付与操作を実施しないで、反毛ポリエステル繊維を使用する以外は実施例1と同様にして操作を行い、乾式不織布を製造し評価を行った。評価結果を表1に示した。この場合、水分付着量の数値としては、反毛は使用しているものの、通常のポリエステル繊維であるため、外気の湿度を吸収して0.3重量%であった。
【0035】
[比較例2]
実施例1において、水の付与量を6.0重量%に変更し、水分付着量がこの値となるように調整するほかは実施例1と同様にして操作を行い、乾式不織布を製造し評価を行った。結果を表1に示した。
【0036】
【表1】