特許第6807768号(P6807768)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6807768
(24)【登録日】2020年12月10日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】エレベータの調速機
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/04 20060101AFI20201221BHJP
【FI】
   B66B5/04 C
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-21760(P2017-21760)
(22)【出願日】2017年2月9日
(65)【公開番号】特開2018-127330(P2018-127330A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2019年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000228246
【氏名又は名称】日本オーチス・エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】古市 直斗
(72)【発明者】
【氏名】黒川 大五郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 充
【審査官】 加藤 三慶
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−094544(JP,A)
【文献】 特開2011−195229(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/056111(WO,A1)
【文献】 特開2014−107221(JP,A)
【文献】 特開昭61−032313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータの乗りかごが走行移動する昇降路の上部および下部にそれぞれ配置されたガバナシーブと、
上記一対のカバナシーブ間に巻き掛けられると共に、上記乗りかごに連結されて、この乗りかごの走行移動に伴って走行移動するガバナロープと、
上記一対のガバナシーブのうちいずれか一方に装着されて、このガバナシーブの径方向で移動可能なフライウエイトと、
上記フライウエイトを有するガバナシーブに近接して配置され、上記フライウエイトとの当接により揺動動作するトリッパと、
上記トリッパに近接して配置され、このトリッパにより押圧操作される出没式の押圧子を有する過速検出スイッチと、
を備えていて、
上記乗りかごの移動速度が予め設定された速度よりも速くなった場合に作動して上記乗りかごを停止させるエレベータの調速機であって、
上記トリッパは、
上記フライウエイトを有するガバナシーブの回転中心の方向を指向していて上記フライウエイトとの当接部として機能するレバー部と、
上記トリッパ自体の揺動中心と同心状の円弧に類似した円弧状面と、
上記円弧状面のうち上記レバー部から隔離した位置に上記トリッパの揺動中心に向かって窪むように形成された切欠凹部と、
を有していて、
通常時は、上記過速検出スイッチの押圧子が上記トリッパの揺動中心の方向を指向しつつ上記切欠凹部に係合することで上記押圧子と上記トリッパとの相対位置が規制されている一方、
速時には、上記トリッパの揺動動作に伴い、上記過速検出スイッチの押圧子が上記切欠凹部から抜け出て上記円弧状面に乗り上げることで押圧子が押し込まれるようになっていて、
上記円弧状面は、上記押圧子が当該円弧状面に乗り上げた時に及ぼす反力の分力が上記トリッパの揺動中心から外れた方向を指向する形状となっていることを特徴とするエレベータの調速機。
【請求項2】
上記円弧状面は、上記押圧子が当該円弧状面に乗り上げた時の接触点の接線方向に対して垂直な方向の分力が上記トリッパの揺動中心から外れた方向を指向する形状となっていることを特徴とする請求項1に記載のエレベータの調速機。
【請求項3】
上記切欠凹部を含む円弧状面の形状は、通常時において上記過速検出スイッチの押圧子が指向する方向を対象中心として左右対称に形成されていることを特徴とする請求項2に記載のエレベータの調速機。
【請求項4】
上記過速検出スイッチは、上記押圧子がケースから突出する方向にそのケースに内蔵された弾性手段により常時付勢されていることを特徴とする請求項3に記載のエレベータの調速機。
【請求項5】
上記トリッパと上記過速検出スイッチは、上記フライウエイトを有するガバナシーブが支持された支持体に共に支持されていて、
上記トリッパと上記支持体との間には、上記トリッパの揺動変位量を規制するストッパ手段が設けられていることを特徴とする請求項4に記載のエレベータの調速機。
【請求項6】
上記トリッパと上記支持体との間には、過速検出状態にある上記トリッパを通常時の状態に復旧させる復旧手段が設けられていることを特徴とする請求項5に記載のエレベータの調速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータの安全装置の一つとして備えられて、乗りかごが予め設定された速度を超えて走行した場合に電源からの電力供給を強制的に遮断する調速機に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のエレベータの調速機として例えば特許文献1に記載されたものが提案されている。この特許文献1に記載された調速機では、調速機に付帯して過速検出スイッチとして機能するリミットスイッチの作動機構に主眼が置かれていて、このリミットスイッチ作動機構は、ベースと、レバー、カムおよびリミットスイッチを備えている。そして、レバーは、ベースに回動可能に軸支持される。カムは、レバーと一体に設けられ、レバーの回動中心に対して同心円の一部が向心方向へ変位した凹部を外周面に有する。リミットスイッチは、作動子を有し、ベースに固定される。作動子は、カムの外周面に当接する状態にそのカムの回動中心に向かって付勢され、カムが回動するのに伴い、カムの外周面に追従して回動中心に対する半径方向へ変位する、ものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−094544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された調速機の構造では、エレベータの乗りかごの過速検出時に、レバーと一体のカムの回転に伴い、リミットスイッチのローラプランジャ型の作動子がカムの凹部から抜け出て、そのカムの外周面に乗り上げるように移動することになるものの、カムの外周面は同心円部とされていて、そのカムの回転中心と同心円状のものとなっている(特許文献1の段落[0015]参照)。そして、カムの同心円部にリミットスイッチの作動子が達すると、作動子がカムの回転中心に向かって付勢されているために、カムには回転トルクが発生することはない。
【0005】
そのため、カムの同心円部にリミットスイッチの作動子が乗り上げた状態で、例えば予期せぬ振動や衝撃を受けると、カムが回転変位して、意図せずうちに過速検出スイッチとしてのリミットスイッチが元の状態に復旧してしまうおそれがあった。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであり、とりわけ過速検出状態で、予期せぬ振動や衝撃を受けた場合にも、過速検出スイッチが復旧してしまうことがないように考慮されたエレベータの調速機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、エレベータの乗りかごが走行移動する昇降路の上部および下部にそれぞれ配置されたガバナシーブと、上記一対のカバナシーブ間に巻き掛けられると共に、上記乗りかごに連結されて、この乗りかごの走行移動に伴って走行移動するガバナロープと、上記一対のガバナシーブのうちいずれか一方に装着されて、このガバナシーブの径方向で移動可能なフライウエイトと、上記フライウエイトを有するガバナシーブに近接して配置され、上記フライウエイトとの当接により揺動動作するトリッパと、上記トリッパに近接して配置され、このトリッパにより押圧操作される出没式の押圧子を有する過速検出スイッチと、とを備えていて、上記乗りかごの移動速度が予め設定された速度よりも速くなった場合に作動して上記乗りかごを停止させるエレベータの調速機である。
【0008】
その上で、上記トリッパは、上記フライウエイトを有するガバナシーブの回転中心の方向を指向していて上記フライウエイトとの当接部として機能するレバー部と、上記トリッパ自体の揺動中心と同心状の円弧に類似した円弧状面と、上記円弧状面のうち上記レバー部から隔離した位置に上記トリッパの揺動中心に向かって窪むように形成された切欠凹部と、を有している。
【0009】
そして、通常時は、上記過速検出スイッチの押圧子が上記トリッパの揺動中心の方向を指向しつつ上記切欠凹部に係合することで上記押圧子と上記トリッパとの相対位置が規制されている一方、過速時には、上記トリッパの揺動動作に伴い、上記過速検出スイッチの押圧子が上記切欠凹部から抜け出て上記円弧状面に乗り上げることで押圧子が押し込まれるようになっていて、上記円弧状面は、上記押圧子が当該円弧状面に乗り上げた時に及ぼす反力の分力が上記トリッパの揺動中心から外れた方向を指向する形状となっていることを特徴とするものである。
【0010】
望ましい態様としては、上記円弧状面は、上記押圧子が当該円弧状面に乗り上げた時の接触点の接線方向に対して垂直な方向の分力が上記トリッパの揺動中心から外れた方向を指向する形状となっているものとする。
【0011】
また、望ましい態様としては、上記切欠凹部を含む円弧状面の形状は、通常時において上記過速検出スイッチの押圧子が指向する方向を対象中心として左右対称に形成されているものとする。
【0012】
同様に望ましい態様としては、上記過速検出スイッチは、上記押圧子がケースから突出する方向にそのケースに内蔵された弾性手段により常時付勢されているものとする。


【0013】
より望ましい態様としては、上記トリッパと上記過速検出スイッチは、上記フライウエイトを有するガバナシーブが支持された支持体に共に支持されていて、上記トリッパと上記支持体との間には、上記トリッパの揺動変位量を規制するストッパ手段が設けられているものとする。
【0014】
さらに望ましい態様としては、上記トリッパと上記支持体との間には、過速検出状態にある上記トリッパを通常時の状態に復旧させる復旧手段が設けられているものとする。
【0015】
したがって、本発明では、トリッパの円弧状面に乗り上げた押圧子がその円弧状面に及ぼす押圧力の分力がトリッパの揺動中心から外れた方向を指向するようになっていることにより、トリッパにはそのトリッパをさらに回転させようとする回転トルクが作用することになる。そのため、予期せぬ振動や衝撃を受けた場合でもそれに対抗することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、過速検出状態で、予期せぬ振動や衝撃を受けた場合にも、過速検出スイッチが意図せずに復旧してしまうような事態を未然に防止することができ、安全性の一層の向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係るエレベータの調速機のより具体的な実施の形態を示す図で、当該調速機を含むエレベータの概略説明図。
図2図1に示した調速機の詳細を示す拡大説明図。
図3図2に示した調速機におけるトリッパおよびリミットスイッチ(過速検出スイッチ)を中心とした要部拡大図。
図4図3に示したトリッパ単独での拡大図。
図5図3の状態から過速検出した時の説明図。
図6】過速検出時にリミットスイッチのローラプランジャ(押圧子)がトリッパに及ぼす力の説明図。
図7図2に示した調速機のトリッパおよびリミットスイッチに付帯する復旧機構の拡大説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1〜7は本発明に係るエレベータの調速機を実施するためのより具体的な第1の形態を示し、特に図1は調速機を含むエレベータの概略構造を示している。
【0019】
図1に示すエレベータは、図示外の巻上機に巻き掛けられたメインロープ(主ロープ)1の一端に乗りかご2が、他端に図示を省略したカウンターウエイトがそれぞれ吊り下げられたいわゆるトラクション方式のものであって、巻上機によってメインロープ1を駆動することで乗りかご2およびカウンターウエイトが同じく図示を省略した昇降路内を走行(昇降)移動する周知の構造のものである。なお、乗りかご2の上下に複数のガイドシュー3が設けられていて、これらのガイドシュー3がガイドレールに案内されることになるが、図1ではガイドレールを図示省略している。また、下側のガイドシュー3に近接して、後述する非常止め機構13が配置されている。
【0020】
昇降路の下部には下部ガバナシーブ4を主要素とする調速機5が、昇降路の上部には上部ガバナシーブ(調速機用ロープ張り車)6がそれぞれ配置されていて、調速機5における下部ガバナシーブ4の回転中心上にはウエイトケース7に収容された所定重量のテンションウエイト8が吊り下げ支持されている。そして、双方のガバナシーブ4,6間にはエンドレス(無端状)のガバナロープ(調速機ロープ)9が巻き掛けられている。これにより、ガバナロープ9にはウエイトケース7およびテンションウエイト8を含む調速機5全体の重量に応じた張力が付与されている。
【0021】
なお、本実施の形態では、下部ガバナシーブ4側を調速機5としているが、上部ガバナシーブ6側を調速機とすることももちろん可能である。また、ガバナロープ9は複数のストランド(撚り線)を中心繊維とともにさらに撚り合わせて構成された周知の構造のものである。さらに、ウエイトケース7およびテンションウエイト8を含む調速機5は、図示を省略した振れ止め機構により振れ止めが施されている。
【0022】
他方、乗りかご2側には非常止め機構13のリンク機構10が付帯している。リンク機構10の両端にはベルクランク11a,11bがあり、それぞれのベルクランク11a,11bには下方に延びるリフトロッド12が接続されている。一方のベルクランク11aはガバナロープ9の駆動側9aの連結部9cに接続されているとともに、それぞれのリフトロッド12は乗りかご2の下部の非常止め機構13に接続されている。
【0023】
これにより、乗りかご2の走行移動に伴ってガバナロープ9が上部ガバナシーブ6と下部ガバナシーブ4との間を走行移動し、調速機5側の下部ガバナシーブ4が回転するようになっている。そして、調速機5および非常止め機構13は、乗りかご2が設定された速度以上の速度で走行することを防止し、乗りかご2を安全に停止させるための安全装置として機能する。
【0024】
具体的には、後述する乗りかご2の過速検出時には、調速機5がガバナロープ9の動きを強制的に止めることから、それに伴ってリンク機構10が作動し、そのリンク機構10におけるリフトロッド12が相対的に引き上げられることで、乗りかご2側の非常止め機構13が作動することになる。この非常止め機構13は、例えばウエッジとテーパブロックとの組み合わせからなる公知の構造のものであり、非常止め機構13の作動によってガイドレールを掴んで乗りかご2の動きを止めることになる。
【0025】
なお、図1に示したガバナロープ9のうち左側の部分の連結部9cにリンク機構10のベルクランク11aが連結されていて、乗りかご2の走行移動に応じてガバナロープ9が走行移動することになるものの、連結部9cが下部ガバナシーブ4や上部ガバナシーブ6を超えることはないので、ここでは、便宜上、図1に示したガバナロープ9のうち左側の部分をガバナロープ9の駆動側9aと称し、右側の部分をガバナロープ9の従動側9bと称するものとする。
【0026】
図2図1に示した調速機5の詳細を示す説明図であって、また図3図2での後述するトリッパ15およびリミットスイッチ16を中心とした要部の拡大図を示している。
【0027】
図2,3に示すように、調速機5は、先に述べた上部ガバナシーブ6、下部ガバナシーブ4およびガバナロープ9のほか、フライウエイト14と、下部ガバナシーブ4に近接して配置されたトリッパ15と、過速検出スイッチとして機能するリミットスイッチ16等を備えている。下部ガバナシーブ4の上半部側では、当該下部ガバナシーブ4やガバナロープ9と干渉しないように、テンションウエイトを兼ねたウエイトフレーム17と支持体として機能するフレーム22とが横方向から装着されて、ボルト17aにより互いに締結固定されている。フレーム22には下部ガバナシーブ4が軸部材26を介して回転可能に軸受支持されている。そして、ウエイトフレーム17とフレーム22とが、図1に示したテンションウエイト8を含むウエイトケース7として機能するようになっている。
【0028】
図2に示したフライウエイト14は、二つ一組で下部ガバナシーブ4に組み付けられている。これらのフライウエイト14は、下部ガバナシーブ4の回転中心を対称中心として回転対称のかたちで設けられている。また、各フライウエイト14は、ピン18を揺動中心として揺動可能なプレート状のレバー部材14aに円形のウエイト本体14bを固定したものであり、レバー部材14a同士はロッド19で相互に連結されている。また、双方のフライウエイト14は図示を省略したばね部材により下部ガバナシーブ4の回転中心の方向に向かって付勢されている。そして、乗りかご2の走行移動と共にガバナロープ9が走行して双方のガバナシーブ4,6が回転すると、下部ガバナシーブ4に組み込まれてるフライウエイト14が、遠心力によって下部ガバナシーブ4の中心から離れる方向、すなわち下部ガバナシーブ4の径方向外側に変位または移動することになる。
【0029】
さらに、下部ガバナシーブ4には、当該下部ガバナシーブ4と同軸状で且つ下部ガバナシーブ4とは相対回転不能なラチェットホイール20が設けられていると共に、このラチェットホイール20に対応するラチェット21が各レバー部材14aのピン18と同軸状に設けられている。そして、先に述べた過速検出スイッチとしてのリミットスイッチ16が作動した以降もなおも乗りかご2が過速を続ける場合に、これらのラチェットホイール20とラチェット21とが噛み合うことで、下部ガバナシーブ4の動き、ひいては調速機5の動きを止めるはたらきをする。
【0030】
図2に示すように、フレーム22の内側面側にトリッパ15と過速検出スイッチとして機能するリミットスイッチ16が装着されている。トリッパ15はボルト状のピン23によりフレーム22に揺動可能に軸支持されている一方、リミットスイッチ16はその押圧子であるローラプランジャ16aがトリッパ15の一部に接触する姿勢となるように、フレーム22にビス24にて固定されている。トリッパ15は、乗りかご2の走行速度が予め設定された速度を超えた場合に、遠心力によって下部ガバナシーブ4の半径方向外側に変位したフライウエイト14側のアジャストボルト25(図3参照)の一部と当接可能な位置に設けられている。
【0031】
ここで、図4図3に示したトリッパ15を裏側から見た詳細を示している。同図に示すように、トリッパ15は、上部が略半円状の大径部15aとして形成されていると共に、大径部15aから下方に延びる幅狭のレバー部15bが一体に形成された異形プレート状のものである。トリッパ15は、大径部15aとレバー部15bとの双方にまたがって直角に折り曲げることで形成された起立片15cと、起立片15cとは反対側の位置でレバー部15bの一部のみを直角に折り曲げることで形成された起立片15dと、を有している。また、大径部15aには図3に示したボルト状のピン23のための軸穴27が形成されていると共に、大径部15aの外周面は円弧状面28となっていて、その円弧状面28の一部には、トリッパ15自体の回転中心に向かって略V溝状に窪んだ切欠凹部29が形成されている。
【0032】
そして、図4に示すように、軸穴27の中心を通り且つレバー部15bの幅寸法を二分する中心線Q1は、図3に示すように、下部ガバナシーブ4の回転中心である軸部材26の中心と軸穴27(ピン23)の中心とを結んだ線と一致するように予め設定されている。さらに、図3,4に示すように、トリッパ15の軸穴27の中心と略V溝状の切欠凹部29の最深部とを結んだ線が、リミットスイッチ16のケース30に対するローラプランジャ16aの出没方向と一致するように予め設定されている。
【0033】
すなわち、図3,4に示すように、ピン23と軸穴27とでフレーム22(図2参照)に揺動可能に支持されるトリッパ15は、レバー部15bの長手方向を下部ガバナシーブ4の回転中心である軸部材26に指向させた場合に、大径部15a側の切欠凹部29がリミットスイッチ16におけるローラプランジャ16aの出没方向に一致するように設定されている。この状態で、リミットスイッチ16のローラプランジャ16aが大径部15a側の切欠凹部29に落ち込んで係合することで、その状態を自己保持している。
【0034】
その上で、図4に示すように、トリッパ15の大径部15aにおける円弧状面28は、トリッパ15の軸穴27の中心と切欠凹部29の最深部とを結んだ中心線Q2の方向の長径とした楕円形状の円弧状面として形成されている。さらに、切欠凹部29を含む楕円形状の円弧状面28は、中心線Q2を対称中心として左右対称に形成されている。なお、図3に示すように、トリッパ15にはピン23と同心円上に一対のボルト状のストッパピン31が突設されていて、これらのストッパピン31は、後述する図7に示すように、フレーム22側に形成された円弧状で且つ長穴状のスロット部32に係合している。これにより、トリッパ15の揺動範囲がスロット部32の長さの範囲内に規制されていて、ストッパピン31とスロット部32は、トリッパ15の揺動範囲を規制するストッパ手段を形成している。
【0035】
図2,3に示した加速検出スイッチとしてのリミットスイッチ16は、先端にローラが装着された押圧子としての出没可能なローラプランジャ16aを備えるいわゆるローラプランジャ型のリミットスイッチであって、ローラプランジャ16aは内蔵する弾性手段としてのばね部材によりケース30から突出する方向に付勢されている。したがって、図2,3に示すように、ローラプランジャ16aがトリッパ15の切欠凹部29に落ち込んで係合している時には、両者はわずかなばね力で圧接している。また、リミットスイッチ16は、ローラプランジャ16aが外力で所定ストロークだけ押し込まれると、内蔵するマイクロスイッチの接点が強制的に開離される強制開離機構付きで且ついわゆるノーマルクローズタイプ(常閉型)のリミットスイッチである。そして、リミットスイッチ16におけるマイクロスイッチの接点は、例えば乗りかご2を走行させるための図示を省略した巻上機の電源に直列に接続される。なお、リミットスイッチ16は一般に市販されているものである。また、リミットスイッチ16には信号出力のためのケーブル16b(図2参照)が付帯している。
【0036】
このように構成された調速機5では、先にも述べたように、乗りかご2の走行移動に伴って下部ガバナシーブ4が回転すると、その下部ガバナシーブ4に組み込まれたフライウエイト14が遠心力によって下部ガバナシーブ4の中心から離れる方向、すなわち下部ガバナシーブ4の径方向外側に変位する。乗りかご2の走行速度が予め設定された速度よりも早くなった場合、フライウエイト14の一部に付設されているアジャストボルト25の頭部がトリッパ15のレバー部15bに当接して、例えば図3の状態から図5の状態へと変化する。すなわち、図5に示すように、トリッパ15がフライウエイト14により跳ね上げられるようにして、ピン23を中心として時計回り方向に揺動変位する。
【0037】
これにより、それまでトリッパ15の切欠凹部29に係合していたリミットスイッチ16のローラプランジャ16aが切欠凹部29から抜け出て、トリッパ15における大径部15aの円弧状面28に乗り上げるかたちとなる。その結果、切欠凹部29と円弧状面28との高さの差の分だけリミットスイッチ16のローラプランジャ16aが押し込まれて、内蔵されているマイクロスイッチの接点が強制的に開離されることになる。このことは、先に述べたように、乗りかご2を走行させるための図示を省略した巻上機の電源が遮断されることを意味する。
【0038】
この場合において、リミットスイッチ16のローラプランジャ16aが乗り上げたトリッパ15側の円弧状面28は、図4に示した中心線Q2の方向を長径とする楕円形状のものとして形成されていることは先に述べた通りである。
【0039】
図6は、トリッパ15の大径部15aにおける切欠凹部29から抜け出たリミットスイッチ16のローラプランジャ16aがトリッパ15に及ぼす力の関係を示している。トリッパ15の大径部15a側の円弧状面28が、図4の中心線Q2の方向を長径とする楕円形状のものとして形成されていることは先に述べた。そのため、リミットスイッチ16のローラプランジャ16aがケース30内に押し込まれたことによる反力F1は、円弧状面28に対するローラプランジャ16aの接触点の接線Pの方向の分力F2と、接線Pに直交する方向の分力F3とを生ずることなる。そして、接線Pに直交する方向の分力F3は、トリッパ15の揺動中心であるピン23の中心から外れた方向を指向するかたちとなる。
【0040】
つまり、トリッパ15の円弧状面28が、中心線Q2の方向を長径とする楕円形状のものとして形成さているが故に、ローラプランジャ16aがその楕円形状の円弧状面28に乗り上げた時の接触点の接線Pの方向に対して垂直な方向の分力F3が、トリッパ15の揺動中心であるピン23の方向を指向しなくなる。このことは、図6の状態において、トリッパ15には、分力F3に基づいて矢印R方向の回転トルクが作用していることにほかならない。そのため、加速検出状態において、図5の状態を自己保持することができるほか、仮に予期せぬ振動や衝撃を受けた場合でも、図5の状態をもってそれに対抗することができる。
【0041】
すなわち、図6の状態では、トリッパ15の切欠凹部29にローラプランジャ16aが落ち込む方向には自律的に戻ることはできず、結果として、リミットスイッチ16が意図せずに復旧してしまうような事態を未然に防止することができ、ひいては安全性の一層の向上に寄与することができることになる。
【0042】
なお、トリッパ15の円弧状面28が中心線Q2の方向を長径とする楕円形状のものとして形成さているのと同時に、中心線Q2を対称中心として左右対称のものとして形成されているため、図5,6の場合とは逆にトリッパ15が反時計回り方向に揺動変位した場合であっても、上記と同様の機能が発揮されることは言うまでもない。なお、図6の分力F3を発生することができるならば、トリッパ15における大径部15aの外周面は、必ずしも楕円形状の円弧状面である必要はなく、例えばインボリュート形状面等であっても良い。
【0043】
ここで、図2に示したフレーム22には、上記のように過速検出時に作動したトリッパ15およびリミットスイッチ16を通常状態に復旧させるための復旧機構が付帯しているが、図2では図面の錯綜化を避けるために意図的に当該復旧機構の図示を省略している。
【0044】
そこで、図2の要部を拡大した別の図7に基づいて上記復旧機構の詳細について説明する。図7において、フライウエイト14のほか、フレーム22、トリッパ15およびリミットスイッチ16の配置関係は、図2,3に示したものと同じである。
【0045】
図7に示すように、フレーム22には、その内側面側のトリッパ15およびリミットスイッチ16と一部が重なるようなかたちでスライドプレート33が配置されている。スライドプレート33は、幅広のガイド部33aとそれよりも幅狭のエクステンション部33bとが直列に形成されているものであり、エクステンション部33bには長穴状で真直なスロット部34が形成されている。スライドプレート33は、リミットスイッチ16におけるローラプランジャ16aの出没方向にスライド可能なように、ガイド部33aが一対のスライドガイド35に案内されていると共に、エクステンション部33bに形成された長穴状のスロット部34が、フレーム22にねじ締め固定された一対のビス36に係合することで案内されている。
【0046】
そして、スライドプレート33のガイド部33aとエクステンション部33bとの間に幅方向の段差をもって形成されたショルダー部37が、所定距離を隔ててフレーム22側のスロット部32から突出している一対のボルト状のストッパピン31の先端部と対向している。なお、一対のボルト状のピン31は、図3に示したトリッパ15の大径部15aに立設されていて、先にも述べたように、スロット部32と共にトリッパ15の揺動範囲を規制するストッパ手段を形成している。
【0047】
また、スライドプレート33は、幅広のガイド部33aとフレーム22との間に張設された引っ張りコイルばね38により、同図の右方向に引っ張られるかたちで付勢されている。その一方、フレーム22のうちスライドプレート33におけるエクステンション部33bの先端と対向する位置には、ワイヤ39aをアウタチューブ39bで保護してなるプルワイヤ39のアウタチューブ39bの一方の端末部がブラケット40を介して固定されている。そして、アウタチューブ39bから突出するワイヤ39aの一方の端末部がスライドプレート33におけるエクステンション部33bの先端にビス41にて連結されている。
【0048】
なお、プルワイヤ39のアウタチューブ39bの他方の端末部は、エレベータの本来の機能に支障をきたすことがない適当な遠隔位置に固定され、そのアウタチューブ39bの他方の端末部から突出するワイヤ39aの他方の端末部は、例えばプル操作のための図示を省略した電磁アクチュエータとしてのソレノイドに接続される。このように、少なくともスライドプレート33とプルワイヤ39とにより、トリッパ15およびリミットスイッチ16のための遠隔操作が可能な復旧機構が構成されている。この場合において、プルワイヤ39におけるワイヤ39aのプル操作は、ソレノイドに代えてハンドル等を接続するならば、電磁駆動によるプル操作に代えて手動操作とすることも可能である。
【0049】
したがって、先に説明したように、過速検出時にトリッパ15が時計回り方向または反時計回り方向に揺動変位すると、図7に示す一対のボルト状のストッパピン31とスロット部32とが相対変位することになるが、いずれの回転方向においてもトリッパ15の揺動変位はスロット部32の長さの範囲内に規制され、トリッパ15の回転方向が時計回り方向であるか反時計回り方向であるかにかかわらず、一対のストッパピン31は必ずスロット部32内に位置していることになる。
【0050】
そこで、上記のような過速検出時に所定の処置を施した後に、トリッパ15およびリミットスイッチ16を通常状態に復旧するには、上記プルワイヤ39のワイヤ39aを遠隔操作にて牽引操作(プル操作)するものとする。図5に示したような過速検出状態において、図7のワイヤ39aが牽引されると、それに連結されているスライドプレート33が引っ張りコイルばね38のばね力に打ち勝って同図の左方向にスライド移動する。
【0051】
スライドプレート33がスライド移動すると、ショルダー部37が一対のストッパピン31のうちいずれか一方に当接し、トリッパ15およびリミットスイッチ16が図3のような通常状態に復旧することになる。なお、トリッパ15が図5とは逆方向に揺動変位していたとしても、上記プルワイヤ39のワイヤ39aを牽引操作することに基づく復旧時の挙動は上記の場合と全く同様である。つまり、プルワイヤ39の牽引操作に基づくスライドプレート33のスライド変位により、トリッパ15を反時計回り方向にも時計回り方向にも回転(揺動)させることができるものである。
【0052】
このような復旧機構を備えた本実施の形態によれば、簡単な構造のものでありながら、過速検出時に、遠隔位置からのプルワイヤ39の牽引操作にて、トリッパ15およびリミットスイッチ16をスムーズに且つ確実に通常状態に復旧させることができることになる。
【符号の説明】
【0053】
2…乗りかご
4…下部ガバナシーブ
5…調速機
6…上部ガバナシーブ
9…ガバナロープ
14…フライウエイト
15…トリッパ
15a…大径部
15b…レバー部
16…リミットスイッチ(過速検出スイッチ)
16a…ローラプランジャ(押圧子)
22…フレーム(支持体)
28…円弧状面
29…切欠凹部
31…ストッパピン(ストッパ手段)
32…スロット部(ストッパ手段)
33…スライドプレート(復旧手段)
39…プルワイヤ(復旧手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7