特許第6807789号(P6807789)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6807789-高強度中空繊維 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6807789
(24)【登録日】2020年12月10日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】高強度中空繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/60 20060101AFI20201221BHJP
   D01F 6/80 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   D01F6/60 371D
   D01F6/60 321A
   D01F6/80 331
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-57312(P2017-57312)
(22)【出願日】2017年3月23日
(65)【公開番号】特開2018-159157(P2018-159157A)
(43)【公開日】2018年10月11日
【審査請求日】2019年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】新見 友樹
(72)【発明者】
【氏名】小宮 直也
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−277811(JP,A)
【文献】 特公昭46−017302(JP,B1)
【文献】 特開2002−020928(JP,A)
【文献】 韓国登録特許第10−1415046(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00 − 13/02
D01F 1/00 − 6/96
D01F 9/00 − 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂がパラ系芳香族ポリアミド樹脂からなる繊維であって、直径100μm以下の中空構造をもち、強度が10cN/dtex以上であることを特徴とする高強度中空繊維。
【請求項2】
中空部の、膜厚が10〜35μmである請求項1記載の高強度中空繊維。
【請求項3】
合成樹脂が共重合芳香族ポリアミド樹脂である請求項1、または2に記載の高強度中空繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に空隙を持つ中空構造でありながら、高強度を併せ持つ高強度中空繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂からなる繊維は、衣料用途や各種産業用途に幅広く用いられている。中でも高強度な合成繊維は、その物性を生かすべく、さまざまな分野に使用されている。しかしながら強度が強くなればなるほど、繊維が剛直となりやすく、生産や加工が困難になるという問題があった。
【0003】
一方、合成繊維としては中空繊維とすることが、保温性等の物性や柔軟性の面から、着用快適性を高める手段として、広く用いられている。しかし、高強度な合成繊維は加工が困難であって、中空繊維、特に内部空隙が十分に小さい中空繊維を得ることは非常に困難であった。
【0004】
たとえば特許文献1では、不溶解粒子を分離した清澄液を紡糸原液として湿式紡糸するアラミド(芳香族ポリアミド)中空繊維の製造方法が開示されているが、薄い膜厚と実用に耐える強度を有する繊維の製造は困難であって、中空繊維の太さとしてはせいぜい内径が0.5mm、膜の厚みが10μmの繊維が得られたに過ぎなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−20928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、内部に空隙を持つ中空構造でありながら、高強度を併せ持つ高強度中空繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の高強度中空繊維は、合成樹脂がパラ系芳香族ポリアミド樹脂からなる繊維であって、直径100μm以下の中空構造をもち、強度が10cN/dtex以上であることを特徴とする。さらには、中空部の、膜厚が10〜35μmであることや、合成樹脂が共重合芳香族ポリアミド樹脂であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、内部に空隙を持つ中空構造でありながら、高強度を併せ持つ高強度中空繊維が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例1で用いた中空繊維用の紡糸口金の模式図
図2】本発明の実施例2で用いた中空繊維用の紡糸口金の模式図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の高強度中空繊維は合成樹脂がパラ系芳香族ポリアミド樹脂からなる繊維であって、直径100μm以下の中空構造をもち、強度が15cN/dtex以上である繊維である。
【0012】
本発明の繊維を構成する合成樹脂としては繊維成形性のある樹脂であって、樹脂成分を含有する溶液を紡糸口金から吐出するなどして繊維を形成することが可能な樹脂である。中でも繊維強度等の物性からは合成樹脂が全芳香族ポリアミド樹脂であることが好ましい。
【0013】
このように本発明に好ましく用いられる全芳香族ポリアミドは、1種または2種以上の2価の芳香族基がアミド結合により連結されたポリマーであって、芳香族基には2個以上の芳香環が存在してもよく、その芳香環は直接結合していても、酸素や硫黄を介して結合していてもよい。また、2価の芳香族基の水素原子は、ハロゲン化物、低級アルキル基、フェニル機で置換されていてもよい。
【0014】
このような本発明で好ましく用いることのできる全芳香族ポリアミドは、例えば、アミ
ド系極性溶媒中で、芳香族ジカルボン酸クロライド成分と芳香族ジアミン成分とを溶液中
で反応させて得ることができるものである。特には強度の観点からはパラ系の全芳香族ポ
リアミドであることが好ましく、またポリマー溶液から中空繊維を得る際に中空形状を調
整しやすい観点からは、共重合全芳香族ポリアミドであることが好ましい。
【0015】
ここで全芳香族ポリアミドの製造で使用される芳香族ジカルボン酸クロライド成分とし
ては、特に限定されるものではないが、得られる繊維物性の観点から、テレフタル酸クロ
ライドであることが好ましい。同じく、全芳香族ポリアミドの製造において使用される芳
香族ジアミン成分としては、特に限定されるものではないが、得られる繊維物性の観点か
ら、p−フェニレンジアミンと3,4‘−ジアミノジフェニルエーテルとを組み合わせて
用いることが好ましい。このようなパラ系の共重合全芳香族ポリアミドを用いることによ
って、強度と中空形状とを高いレベルで維持することが可能となる。
【0016】
好ましく用いることができる全芳香族ポリアミドにおける芳香族ジカルボン酸クロライド成分と、芳香族ジアミン成分との比は、芳香族ジアミン成分に対する芳香族ジカルボン酸クロライド成分のモル比として0.90〜1.10の範囲とすることが好ましい。さらには0.95〜1.05の範囲とすることが好ましい。芳香族ジカルボン酸クロライド成分のモル比がこの範囲を外れると、芳香族ジアミン成分との反応の進行が阻害され、重合度が低くなる懸念がある。
【0017】
本発明の高強度中空繊維は、上記のような合成樹脂からなる繊維であって、直径100μm以下の中空構造を有する繊維である。さらには3〜80μmの範囲であることが好ましく、特には10〜30μmの範囲であることが好ましい。中空部の直径が100μmより大きいと、繊維横断面形状が潰れ易くなり、中空繊維の有する効果を得ることができない。また、中空部の直径が小さすぎる場合、空気を含む量が少なくなって保温性が低下したり、吸汗性などの中空繊維特有の性質が発現できなくなる。また本発明のようなドープの吐出後にエアギャップを介し、その後凝固させて繊維形状を形成する場合には、中空部がつぶれてしまい、安定して生産することができない。
【0018】
そして本発明の高強度中空繊維では、その中空部の膜厚が10〜35μmであることが好ましい。さらには15〜35μmの範囲であることが好ましく、特には20〜35μmの範囲であることが好ましい。中空繊維の膜厚が小さいと、繊維の強度が低下し、高強度繊維とならない傾向にある。また、膜厚が大きすぎると、中空構造が形成されず特有の物性が得られないばかりで無く、中空繊維を安定して生産することが不可能となる。
【0019】
高強度繊維としては、強度が10cN/dtex以上であることが必要であるが、さらには12cN/dtex以上であることが好ましく、特には15〜30cN/dtexの範囲であることが好ましい。通常このような高強度繊維では中空繊維とすることが困難であったが、本発明においては下記に述べる製造方法によって、求める高強度な中空繊維を得ることが可能となった。
【0020】
もう一つの本発明の高強度中空繊維の製造方法は、溶液中に溶解した合成樹脂を分割された複数の口金から空気中に吐出して中空構造の繊維状物とし、湿式凝固した後に、5倍以上に延伸することを特徴とする製造方法である。
【0021】
ここで繊維を形成する合成樹脂としては、先に述べた繊維成形性のある樹脂を用いることができ、本発明の製造方法では、このような樹脂を溶液中に溶解して用いることが好ましい。
【0022】
中でも好ましく用いられる樹脂としては、繊維強度等の物性からは全芳香族ポリアミド樹脂であることが好ましい。中でも、強度の観点からはパラ系の全芳香族ポリアミドであることが好ましく、またポリマー溶液から中空繊維を得る際に中空形状を調整しやすい観点からは、共重合全芳香族ポリアミドであることが好ましい。特には芳香族ジカルボン酸クロライド成分としては、テレフタル酸クロライドであることが好ましく、芳香族ジアミン成分としては、p−フェニレンジアミンと3,4‘−ジアミノジフェニルエーテルとを組み合わせて用いることが好ましい。このようなパラ系の共重合全芳香族ポリアミドを用いることによって、最終的に得られる繊維の強度と中空形状とを高いレベルで維持することが可能となる。芳香族ジカルボン酸クロライド成分と、芳香族ジアミン成分との比は、芳香族ジアミン成分に対する芳香族ジカルボン酸クロライド成分のモル比として0.90〜1.10の範囲とすることが好ましい。さらには0.95〜1.05の範囲とすることが好ましい。
【0023】
そして本発明の製造方法において、このような繊維を形成する樹脂を重合するためや、繊維を形成するためにその樹脂を溶解に用いる場合の溶媒としては、アミド系極性溶媒であることが好ましく、中でも、全芳香族ポリアミドの生成に適した、溶解性の高いN−メチル−2−ピロリドンを用いることが、最も好ましい。なお重合反応終了後に、塩基性無機化合物を加えて系中の塩酸を中和するのも良い方法である。
【0024】
本発明の高強度中空繊維の製造方法では、このような溶液中に溶解した合成樹脂を分割された複数の口金から空気中に吐出して、中空構造の繊維状物とする。このような中空繊維を形成するための口金としては、たとえば図1図2に示すような形状であることが好ましい。
【0025】
紡糸用の口金から吐出された合成樹脂溶液は、エアギャップを介して凝固液に着液し凝固し、いわゆる湿式凝固によって繊維形状となる。本発明の製造方法では紡糸口金吐出直後にエアギャップがあり、空気中で予備的に繊維化される。この時分割された複数の口金から吐出された成分が融合し、中空構造を形成する。ただし最終の繊維物性を確保する目的からはエアギャップは短い方が好ましく、繊維内部の中空構造を保つためにも、吐出から凝固液までの距離が短い方が好ましい。ただしエアギャップが短すぎると凝固液面の揺れによって口金に凝固液が付着し、吐出不良となりやすい傾向にある。さらにエアギャップ長は5mm以上30mm以下が好ましい。特には10mm以上25mm以下の範囲であることがより好ましい。
【0026】
また本発明の製造方法は、上記のような繊維成形性を有する樹脂を、湿式凝固するのであるが、その凝固液の組成としては、合成繊維、特には芳香族ポリアミド繊維を用いる場合には、好ましくは全芳香族ポリアミドの貧溶媒であることが好ましい。必ずしも組成が単一である必要はなく、例えばNMPと水との混合溶液でもよい。凝固液の温度としては30℃以上であることが好ましい。より好ましくは60℃以上が好ましい。しかし、凝固液の温度が高すぎると凝固液が揮発し、霧状の液滴が口金面に付着して吐出不良を起こすため、100℃以下が適切である。なお、凝固液の温度は高いほど中空構造を形成しやすい傾向にある。凝固速度が速いほど、吐出時の形状を保ちやすくなるためである。
その後、さらに水洗工程を実施して形成された未延伸糸から十分に溶媒を除去することが好ましい。
【0027】
そして凝固液から凝固糸条を引き上げた後、本発明の高強度中空繊維の製造方法では、5倍以上に延伸することが必要である。延伸前に未延伸繊維を乾燥することも好ましい。本発明の製造方法では延伸することによって十分に細い中空繊維を得ることが可能となった。さらにこのように延伸することにより分子鎖を配向させ、最終的な繊維物性を向上させることが可能となった。延伸の方法は特に限定されるものではなく、凝固糸状態での水洗延伸、沸水延伸のみならず、乾燥糸状態での加熱延伸など、各種の方法を採用することができる。
【0028】
延伸倍率としては5倍以上であることが必須であるが、さらには8倍以上であることが、特には8〜14倍の範囲であることが好ましい。延伸倍率を制御することにより、得られる中空繊維の伸度や強度等の物性を制御することも可能となる。
【0029】
延伸温度としては、500〜600℃の範囲であることが好ましく、特に中空繊維がガラス転移温度を有する場合にはそのガラス転移温度の+220℃以下、特にはガラス転移温度の+180℃以下の温度で行うことが好ましい。
【0030】
本発明の高強度中空繊維は、たとえばこのような製造方法によって得られる繊維であって、中空でありながら高強度な繊維であって、保温性や風合い、補強効果に優れ、各種衣料や産業資材に広く用いることが可能となった。
【実施例】
【0031】
以下、実施例及び比較例により、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例及び比較例に制限されるものではない。
【0032】
(1)繊度の測定
得られた繊維を、検尺機を用いて100m採取し、その質量を測定した。得られた値を100倍し、繊度の値とした。
【0033】
(2)繊維の引張強度の測定
引張試験機(INSTRON社製、「INSTRON」、型式:5565型)により、糸試験用チャックを用いて、ASTM D885の手順に基づき、以下の条件で繊維の引張強度を測定した。
[測定条件] 温度:室温、試験長:75mm、引張速度:250mm/分、チャック間距離:500mm
【0034】
(3)中空部の外径測定
得られた中空繊維の断面画像をマイクロスコープ(キーエンス社製、「デジタルマイクロスコープ VHX−2000」)にて撮影し、その画像から中空部分の直径を算出した。
【0035】
(4)中空繊維の膜厚測定
上記(3)と同様に、得られた繊維の断面画像をマイクロスコープ(「デジタルマイクロスコープ VHX−2000」)にて撮影し、その画像から繊維の外壁部分の厚みを算出した。1本の繊維において、その外壁の厚さが最大となる点で測定し、その値を繊維の外壁厚みとした。
【0036】
[実施例1]
芳香族ジカルボン酸クロライド成分としてテレフタル酸クロライドを用い、芳香族ジアミン成分としてp−フェニレンジアミンと3,4‘−ジアミノジフェニルエーテルを用いて、重合する際の溶媒としてはN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いて、ポリマー濃度6重量%のパラ系共重合芳香族ポリアミド紡糸用の合成樹脂溶液(ポリマー溶液)を得た。このポリマー溶液を、図1の形状の吐出孔から、中空吐出繊維が15本となる口金より吐出し、10mmのエアギャップを介して、NMP濃度30%の水溶液中で凝固させた後、水洗、乾燥を経て温度530℃で10倍に延伸し、全芳香族ポリアミド樹脂からなる高強度中空繊維を得た。なおこの繊維のガラス転移点温度は370℃であった。得られた高強度中空繊維の物性を表1に示す。
【0037】
[実施例2]
実施例1と同様にして、ただし吐出孔の形状を図1から図2のものに変更し、ポリマー溶液の吐出量を実施例1の3分の1として、高強度中空繊維を得た。得られた高強度中空繊維の形状と物性を表1に併せて示す。
【0038】
[比較例1、2]
ポリエチレンテレフタレート(ポリエステル)樹脂(比較例1)及びナイロン6樹脂(比較例2)を用いて、溶融紡糸して表1記載の中空繊維を得た。中空部の直径や膜厚を満足するものの、強度は不足する繊維であった。物性を表1に併せて示す。
【0039】
【表1】
図1
図2