(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水添スチレン系ブロック共重合体(C)の重量平均分子量は、50,000〜900,000である、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の磁気粘性流体組成物。
組成物の全質量に対して40質量%〜95質量%の前記磁性粒子(A)と、組成物の全質量に対して0.1質量%〜8質量%の前記水添スチレン系ブロック共重合体(C)と、を含む、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の磁気粘性流体組成物。
清浄剤、分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤、極圧剤、及び摩擦調整剤から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の磁気粘性流体組成物。
【背景技術】
【0002】
磁性流体は、合成油に磁性粒子及び界面活性剤を混合したものであり、一般に販売されている。磁性流体に用いられる磁性粒子の粒子径は、数ナノメートルと極めて小さいため界面活性剤の分散力で粒子凝集を防ぐことができ、通常、数年間静置しても磁性粒子は沈降しない。
しかし、磁性流体に使用されている磁性粒子は、粒子径が極めて小さいので、磁界を印加しても、粘度や降伏応力の増加幅も小さく、磁性流体は、クラッチ、ダンパー等へ適用することが困難であり、磁気シール等の用途での使用に留まっている。
【0003】
近年、自動車のダンパーへの適用を目的として、磁性流体に使用されている磁性粒子に比べて、格段に粒子径が大きい磁性粒子を基油に配合した、磁気粘性流体(Magneto−Rheological Fluid:MR流体)が開発されている。
磁気粘性流体は、外部から印加される磁界強度に応じて、流動性の高い状態から大きな降伏応力を有するゲル状態に、急速かつ連続的、可逆的に変化する機能性流体である。
磁気粘性流体が充填されたダンパーは、一般に、MRダンパーと呼ばれている。MRダンパーは、磁界強度を変化させることにより降伏応力の大きさを制御できることから、減衰力の調整が幅広い範囲で可能なため、自動車のダンパーへ適用した場合、自動車の車体安定性を向上させると同時に、卓越した乗り心地を実現できるとされている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2参照)。
【0004】
磁気粘性流体は、近年では、自動車用のMRダンパーのみならず、各種クラッチ、アクチェーター、ブレーキ等への応用が種々検討されている。
磁気粘性流体は、最近では、高層ビル、一般の戸建住宅等の建造物の免震及び制振構造分野においても注目され、振動に対する構造物の応答加速度と応答変位との両方を低減させる目的で、ダンパーなどのエネルギー吸収部材に応用されつつある。この用途にMRダンパーを適用すると、降伏応力の制御範囲が広いため、建造物の揺れ度合いに応じた減衰力を発生することができ、地震発生時に、建造物の揺れを抑制することができる。
【0005】
磁気粘性流体は、潤滑油基油に磁性粒子を配合したものであるが、潤滑油基油と磁性粒子の2成分のみでは、基油に比べ格段に密度の大きい磁性粒子は早期に沈降しやすく、一旦、磁性粒子が沈降すると、設定値に見合う出力(降伏応力)が必要時に得られ難いことが知られている。
【0006】
例えば、建造物に設置されたMRダンパーは、長い間、静置状態にあるため、磁性粒子が沈降し、例えば、地震発生時に磁界オン(即ち、磁気粘性流体に磁界を印加した状態)になった場合でも、実際の降伏応力は小さく、初期設定値に比べ十分な制震効果が得られないおそれがある。
【0007】
磁気粘性流体に各種添加剤を配合して磁性粒子の沈降を抑制しようとする試みとして、例えば、キャリヤ流体(潤滑油基油)として50質量%のグリコール類にヒュームドシリカを配合した磁気粘性流体が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
さらに、長期にわたり磁性粒子の沈降を抑制できる安定性に優れた磁気粘性剤組成物として、特定の基油と、特定の平均粒子径である特定の磁性粒子と、特定の沈降抑制剤と、を含有する磁気粘性剤組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の磁気粘性流体組成物について詳細に説明する。
なお、本明細書中、数値範囲を表す「〜」は、その上限値及び下限値としてそれぞれ記載されている数値を含む範囲を表す。また、数値範囲において上限値のみ単位が記載されている場合は、下限値も上限値と同じ単位であることを意味する。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率又は含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
【0016】
《磁気粘性流体組成物》
本発明の磁気粘性流体組成物は、少なくとも、磁性粒子(A)と、潤滑油基油(B)と、水添スチレン系ブロック共重合体(C)(以下、「特定ブロック共重合体(C)」ともいう。)と、を含有する。
磁気粘性流体組成物は、上記成分に加え、他の成分を含んでいてもよい。
【0017】
本発明の磁気粘性流体組成物は、磁性粒子(A)と、潤滑油基油(B)と、特定ブロック共重合体(C)と、を含有することにより、磁性粒子の沈降が抑制され、かつ、長期安定性に優れる傾向がある。
この理由は、明らかではないが、以下のように推測される。
例えば、特許文献2に記載の沈降抑制剤は、分子内に4つのアミド基を有し、かつ、側鎖に特定のアルキル基を有するので、水素結合を駆動力としてミクロンオーダーの自己組織体を形成する。この自己組織体が基油中で広がり三次元ネットワーク構造を形成することで、磁性粒子の沈降を抑制していると推察される。これに対し、本発明の磁気粘性流体組成物は、高分子化合物である特定ブロック共重合体(C)を含むため、高分子鎖同士が絡まりあい、その特定の絡まりあい構造が磁性粒子の沈降を抑制すると考えられる。
高分子鎖同士の絡まりあい構造は、水素結合によるネットワーク構造に比べて、温度変化、水分、振動等の外部要因による影響を受けにくく、強固で安定的であると考えられる。
【0018】
そのため、本発明の磁気粘性流体組成物は、磁性粒子の沈降を抑制し、長期安定性に優れると推察される。
以下、本発明の磁気粘性流体組成物に含まれる各成分の詳細について説明する。
【0019】
<磁性粒子(A)>
本発明の磁気粘性流体組成物は、磁性粒子(A)を含有する。
磁性粒子としては、例えば、鉄、コバルト及びニッケルから選ばれる少なくとも1種の金属を(好ましくは主成分として)含む金属粒子、並びに、窒化鉄、炭化鉄、フェライト及びマグネタイトから選ばれる少なくとも1種の化合物を(好ましくは主成分として)含み、かつ、強磁性を示す金属化合物粒子が挙げられる。
この中でも、磁性粒子としては、鉄を主成分とする金属粒子及びフェライトを主成分とする金属化合物粒子の少なくとも一方であることが好ましく、鉄を主成分とする金属粒子であることがより好ましい。
磁性粒子は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0020】
本明細書において、「金属粒子」とは、基本的に、金属単体の粒子、2種以上の金属が結合した合金の粒子、2種以上の金属が結合せずに含まれる粒子等を意味する。例えば、後述するカルボニル鉄のように、金属を主成分とし、原料中の金属以外の残留成分も含まれる粒子も包含される。金属化合物粒子についても同様に、金属を主成分とし、原料中の金属以外の残留成分も含まれる粒子も包含される。
また、本明細書において、「主成分」とは、磁性粒子を構成する成分のうち質量割合が最も多い成分を意味し、好ましくは、磁性粒子を構成する成分の50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上である。
【0021】
磁性粒子が、鉄を主成分とする金属粒子を含有する場合、鉄を主成分とする金属粒子としては、飽和磁化が高くなる観点から、鉄含有率が高く、かつ、不純物が少ない金属粒子ほど好ましい。
なお、本明細書中において、不純物とは、原材料に含まれる成分、または、製造の過程で混入する成分であって、意図的に金属粒子に含有させたものではない成分を指す。
【0022】
磁性粒子が鉄を含む金属粒子である場合、鉄の含有率としては、金属粒子の全質量に対して、98質量%以上であることが好ましく、より好ましくは99質量%以上である。
鉄含有率が上記範囲である磁性粒子としては、カルボニル鉄が挙げられる。カルボニル鉄は、ペンタカルボニル鉄(Fe(Co)
5)の熱分解により製造される高純度の金属粒子である。
【0023】
磁性粒子の累積50%粒子径は、好ましくは0.05μm〜50μmであり、より好ましくは0.1μm〜30μm、さらに好ましくは1.0μm〜20μmである。
累積50%粒子径が0.05μm以上であると、磁界印加時の降伏応力がより高く好ましい。
また、累積50%粒子径が50μm以下であると、基油中での磁性粒子の沈降をより遅くすることができる。また装置の摩擦部位の潤滑において、装置部材の摩耗をより少なくすることができる。
なお、本明細書において、累積50%粒子径とは、磁性粒子の全体積が100%となるような累積曲線を求めたときに、その累積曲線の累積値50%に対応する粒子径(μm)を意味する。
累積50%粒子径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(装置名:SKマイクロアナライザーLMS−2000e:(株)セイシン企業製)により測定することができる。
【0024】
磁性粒子は、各種のカップリング剤又は樹脂で表面処理したものであってもよいし、未処理のものでもよい。
各種のカップリング剤としては、シラン系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等が挙げられる。
樹脂としては、炭化水素系樹脂、ワックス、ポリエチレン、ポリメタクリレート等が挙げられる。
【0025】
磁性粒子の含有率としては、磁気粘性流体組成物の全質量に対して、好ましくは40質量%〜95質量%、より好ましくは50質量%〜92質量%、更に好ましくは60質量%〜90質量%である。
磁性粒子の含有率が、40質量%以上であると、磁界印加時に必要なせん断応力を得られる傾向がある。また、磁性粒子の含有率が、95質量%以下であると、磁気粘性流体組成物は、流体となりやすい傾向があり、装置への充填が行いやすく、磁気粘性流体としての機能を得られやすい。
【0026】
<潤滑油基油(B)>
本発明の磁気粘性流体組成物は、潤滑油基油(B)を含有する。
潤滑油基油は、磁気粘性流体組成物において、上記磁性粒子(A)と、後述の特定ブロック共重合体(C)の分散媒の役割を担う。
潤滑油基油を構成する基油成分としては、特に制限されず、鉱油系潤滑油基油成分であってもよく、合成系潤滑油基油成分又は植物油系潤滑油基油成分であってもよい。
【0027】
鉱油系潤滑油基油としては、例えば、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、及び水素化精製等の処理を少なくとも1つ行って精製したもの、及び、ワックス異性化鉱油等が挙げられる。
鉱油系潤滑油基油成分としては、パラフィン系潤滑油基油及びナフテン系潤滑油基油が好適である。
【0028】
合成系潤滑油基油成分としては、フィッシャー・トロプシュ合成で得られたワックス等の原料を水素化分解処理及び水素化異性化処理して得られる潤滑油基油、ポリ−α−オレフィン基油、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の芳香族系合成油、エステル油、アルキル化フェニルエーテル油、イソパラフィン油、ポリブテン油、ポリアルキレングリコール類等の合成系潤滑油基油などが挙げられる。
ポリ−α−オレフィン基油の好適な製造方法としては、エチレンの低重合又はワックスの熱分解によって炭素数6〜18のα−オレフィンを合成し、このα−オレフィン2〜9単位を重合し、水添反応を行う方法が挙げられる。
【0029】
エステル油の好適な例としては、1価アルコールとジカルボン酸とから製造されるジエステル、ポリオールとモノカルボン酸とから製造されるポリオールエステル、又はポリオールとモノカルボン酸とポリカルボン酸とから製造されるコンプレックスエステル等が挙げられる。
【0030】
ジエステルとしては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の二塩基酸のエステルが挙げられる。
【0031】
二塩基酸としては、炭素数4〜36の脂肪族二塩基酸が好ましい。二塩基酸のエステルのエステル部を構成するアルコール残基としては、炭素数4〜26の1価アルコール残基が好ましい。
【0032】
このようなジエステルとしては、ジオクチルアジペート、ジオクチルセバケート、ジイソデシルアジペート、ジオクチルアゼレート等が挙げられる。
【0033】
また、ポリオールエステル及びコンプレックスエステルに用いられるポリオールとしては、具体的には、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール等のβ水素を持たないヒンダードアルコールが好適に用いられる。
また、ポリオールエステル及びコンプレックスエステルに用いられるモノカルボン酸としては、ヤシ油脂肪酸、ステアリン酸等の直鎖飽和脂肪酸、オレイン酸等の直鎖不飽和脂肪酸、イソステアリン酸等の分岐脂肪酸などが好適に用いられ、ポリカルボン酸としてはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の直鎖飽和ポリカルボン酸が好適に用いられる。
【0034】
アルキル化フェニルエーテル油の好適な例としては、アルキル化ジフェニルエーテル、(アルキル化)ポリフェニルエーテル等が挙げられる。
【0035】
ポリアルキレングリコール類としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、又はエチレンオキサイド-プロピレンオキサイドコポリマー、プロピレンオキサイド-ブチレンオキサイドコポリマー、及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0036】
植物油系潤滑油基油としては、大豆油、菜種油、パーム油等が挙げられる。
【0037】
これらの潤滑油基油は、それぞれ1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、鉱油系潤滑油基油、合成系潤滑油基油及び植物油系潤滑油基油から選ばれる2種以上の潤滑油基油を混合して使用してもよい。
【0038】
潤滑油基油(B)の40℃における動粘度は、2mm
2/s〜5000mm
2/sであることが好ましく、より好ましくは3mm
2/s〜2000mm
2/s、更に好ましくは3mm
2/s〜1000mm
2/sである。
また、潤滑油基油(B)の粘度指数は、50以上が好ましく、80〜200がより好ましい。
なお、潤滑油基油(B)の40℃における動粘度及び粘度指数は、日本規格協会JIS K2283(2000)「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」により求めることができる。
基油の40℃における動粘度が2mm
2/s以上であると、引火点が高くなる傾向があり、蒸発が抑えられ傾向にあるため、MR流体として好ましい。
また、基油の40℃における動粘度が5000mm
2/s以下であると、粘稠性が低くなる傾向があり、磁気粘性流体組成物の製造時に基油中への磁性粒子の安定分散がより容易になる。
【0039】
<水添スチレン系ブロック共重合体(C)>
本発明の磁気粘性流体組成物は、水添スチレン系ブロック共重合体(C)(特定ブロック共重合体(C))を含有する。
本発明の磁気粘性流体組成物は、特定ブロック共重合体(C)を含むことで、磁性粒子の沈降を抑制することが可能となる。
水添スチレン系ブロック共重合体としては、ビニル芳香族化合物又はそのアルキル化誘導体から選ばれる少なくとも1種のモノマーと、共役ジエンから選ばれる1種以上のモノマーと、を共重合させたのち、水素化処理して得られるものが挙げられる。
【0040】
ビニル芳香族化合物又はそのアルキル化誘導体としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられ、中でも、共役ジエンと共重合可能なモノマーであることが好ましい。
【0041】
共役ジエンとしては、例えば、ブタジエン、2−メチル−ブタジエン、2,3−ジメチル−ブタジエン、2−エチル−ブタジエン、2,3−ジエチル−ブタジエン、ペンタジエン、2−メチル−ペンタジエン、3−メチル−ペンタジエン等が挙げられ、中でも、ビニル芳香族化合物又はそのアルキル化誘導体と共重合可能なモノマーであることが好ましい。
【0042】
水添スチレン系ブロック共重合体としては、スチレンと、2−メチル−ブタジエンと、を共重合させたのち、水素化処理して得られる共重合体であることが好ましい。
【0043】
ビニル芳香族化合物又はそのアルキル化誘導体から選ばれる少なくとも1種のモノマーの共重合割合は、水添スチレン系ブロック共重合体の全質量に対して、好ましくは20質量%〜70質量%であり、より好ましくは30質量%〜60質量%である。
共役ジエンから選ばれる少なくとも1種のモノマーの共重合割合は、水添スチレン系ブロック共重合体の全質量に対して、好ましくは30質量%〜80質量%であり、より好ましくは40質量%〜70質量%である。
水添スチレン系ブロック共重合体は、共役ジエンを共重合させた後に、水素化処理しているので、共役ジエンに由来する不飽和結合は少なくなる傾向にあるが、共役ジエンに由来する不飽和結合を有するものであってもよい。
共役ジエンに由来する不飽和度は低い方が好ましく、共役ジエンに基づく繰り返し単位の合計量に対して、不飽和結合を有する共役ジエンに基づく繰り返し単位が50質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが更に好ましい。
【0044】
特定ブロック共重合体(C)は、主としてビニル芳香族化合物又はそのアルキル化誘導体に由来する構成単位と、共役ジエンに由来する構成単位と、を含有するが、本発明の目的が損なわれない限り、上記ビニル芳香族化合物又はそのアルキル化誘導体に由来する構成単位及び共役ジエンに由来する構成単位に加えて、極性基を有するモノマーに由来する構成単位を更に含有してもよい。
【0045】
極性基を有するモノマーの具体例としては、アルキル−ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン及びビニルイミダゾール等の窒素原子含有化合物、ポリアルキレングリコールエステル、マレイン酸エステル及びフマル酸エステル等のエステル類が挙げられる。
極性基を有するモノマーは1種単独であってもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
特定ブロック共重合体(C)の重量平均分子量は、50,000〜900,000であることが好ましく、より好ましくは70,000〜800,000であり、更に好ましくは100,000〜700,000である。
重量平均分子量が50,000以上であると、磁性粒子の沈降をより抑制することが可能となる。重量平均分子量が900,000以下であると、特定ブロック共重合体(C)が均一に溶解しやすく、磁気粘性流体組成物中で均一な分散状態を保つことが可能となる。
なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定されたポリスチレン換算による値である。
【0047】
<条件>
装置:Shodex GPC−101(昭和電工社製)
カラム:Shodex GPC LF−804(昭和電工社製)3本
検出器:示差屈折検出器
移動相:THF(テトラヒドロフラン)
流量:1ml/分
試料濃度:約1.0質量%/vol%THF
注入量:100μL
【0048】
特定ブロック共重合体(C)の含有率は、磁気粘性流体組成物の全質量に対して、好ましくは0.1質量%〜8質量%であり、より好ましくは0.1質量%〜6質量%であり、さらに好ましくは0.2質量%〜5質量%である。
特定ブロック共重合体(C)の含有率が0.1質量%以上であると、磁性粒子の沈降をより抑制する傾向がある。また、特定ブロック共重合体(C)の含有率が8質量%以下であると、特定ブロック共重合体(C)が均一に溶解しやすく、磁気粘性流体組成物中で均一な分散状態を保つことが可能となる。
特定ブロック共重合体(C)は、1種を単独使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
<潤滑油添加剤>
長期安定性を確保する観点から、磁気粘性流体組成物は、潤滑油組成物に用いられる一般的な潤滑油添加剤を、更に含んでいてもよい。
潤滑油添加剤としては、例えば、清浄剤、分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤、極圧剤、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、金属不活性化剤、防錆剤、消泡剤、着色剤等が挙げられる。
これらの中でも、本発明の磁気粘性流体組成物は、清浄剤、分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤、極圧剤、及び摩擦調整剤から選ばれる少なくとも1種の潤滑油添加剤を含むことが好ましい。
【0050】
潤滑油添加剤の配合割合は、得られる磁気粘性流体組成物の用途に応じて、適宜設定することができる。
潤滑油添加剤の合計配合割合としては、磁気粘性流体組成物の全質量に対して、好ましくは0質量%〜10質量%、より好ましくは0質量%〜8質量%、更に好ましくは0質量%〜6質量%である。
【0051】
(清浄剤)
清浄剤としては、金属成分がカルシウムやマグネシウムである、スルホネート、フィネート、サリシレート等が挙げられる。
上記清浄剤は、特に機械内部が高温になる環境で使用される磁気粘性流体組成物に好適である。
【0052】
(分散剤)
分散剤としては、コハク酸イミド系無灰分散剤、コハク酸アミド系無灰分散剤、又はこれらのホウ素化誘導体などが挙げられる。
コハク酸イミド系無灰分散剤としては、ビスポリプロペニルコハク酸イミド、モノプロペニルコハク酸イミド、ビスポリブテニルコハク酸イミド、モノブテニルコハク酸イミド、ビスポリペンテニルコハク酸イミド、モノペンテニルコハク酸イミドなどのポリアルケニルコハク酸イミドなどが挙げられる。
コハク酸アミド系無灰分散剤としては、ポリプロペニルコハク酸アミド、ポリブテニルコハク酸アミド、ポリペンテニルコハク酸アミドなどのポリアルケニルコハク酸アミド等が挙げられる。
通常、これらの無灰分散剤におけるポリアルケニル基の重量平均分子量は、70〜50000程度である。
また、これらのホウ素化誘導体としては、ポリアルケニルコハク酸無水物を、ホウ酸、ホウ酸エステル、ホウ酸塩などのホウ素化合物及びポリアミンなどと反応させることにより得られる無灰分散剤が挙げられる。
【0053】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、亜鉛系、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。
具体的には、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール等の単環フェノール系酸化防止剤、4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−エチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、6,6’−メチレンビス(2−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール)等のビスフェノール系酸化防止剤、4,4’チオビス−(2,6−ジ−t−ブチル−フェノール)、4,4’チオビス−(2−メチル−6−t−ブチル−フェノール)等の硫黄含有フェノール系酸化防止剤、芳香族アミン化合物、アルキルジフェニルアミン、アルキルナフチルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、アルキルホスファイト、アリールホスファイト類等のリン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0054】
(摩耗防止剤)
摩耗防止剤としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、各種のリン酸エステル、チオリン酸エステル、各種リン酸エステルのアミン塩などが挙げられる。
【0055】
(極圧剤)
極圧剤としては、炭化水素硫化物、硫化油脂、硫化オレフィン、硫黄、リン酸エステル、亜リン酸エステル、塩素化パラフィン、塩素化ジフェニルなどが挙げられる。
【0056】
(摩擦調整剤)
摩擦調整剤としては、有機モリブテン化合物、多価アルコール部分エステル系、アミン系、アミド系、硫化エステル、リン酸エステル、酸性リン酸エステルやそのアミン塩、ジオール類、オレイン酸、ステアリン酸、高級アルコール、アミン、エステル、硫化油脂、酸性リン酸エステル、酸性亜リン酸エステルなどが挙げられる。
【0057】
<その他の成分>
本発明の磁気粘性流体組成物は、上記の成分以外に、必要に応じて、磁性粒子の安定分散の目的で用いられる界面活性剤、磁性粒子の沈降抑制の目的から水添スチレン系ブロック共重合体以外の沈降抑制剤を配合することが可能である。
【0058】
界面活性剤としては、磁性粒子と親和性のある官能基とを備えたものが好ましい。
界面活性剤の具体例としては、カプロン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸、脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等のエステル類などが挙げられる。
また、脂肪酸アミド、脂肪酸アミン、ポリオキシエチレン誘導体、グリセリン誘導体、ひまし油誘導体、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0059】
水添スチレン系ブロック共重合体以外の沈降抑制剤としては、例えば、ヒュームドシリカ、脂肪酸アマイドワックス、ベントナイト等が挙げられる。
【0060】
磁気粘性流体組成物の調製方法は、磁性粒子、潤滑油基油、水添スチレン系ブロック共重合体、各種潤滑油添加剤及び、必要に応じてその他の添加剤を適宜混合すればよい。
各成分の混合順序は特に制限されるものではなく、プロペラタイプの高速撹拌機、プラネタリミキサー型の撹拌装置等が好ましく用いられ、撹拌時の磁気粘性流体組成物の温度は50℃〜100℃程度であることが好ましい。
【0061】
本発明の磁気粘性流体組成物は、各種車両用又は工業用のダンパー、クラッチ、トルク伝達装置及びブレーキ、更には、建造物の耐震装置等に好適に利用することができる。
【実施例】
【0062】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明は、これらの例によって何ら制限されるものではない。
【0063】
実施例1〜14及び比較例1〜6の磁気粘性流体組成物は、以下に示す成分を、下記表1〜表3に示す割合で配合し、プロペラタイプの高速撹拌機を用いて、約70℃〜85℃で混合し、調製した。
得られた各磁気粘性流体組成物の性能を評価した。結果を表1〜表3に示す。
なお、40℃動粘度、粘度指数及び重量平均分子量は、既述の方法で測定及び算出したものである。表中の「−」は、当該成分を配合していないこと又は測定していないことを意味する。
【0064】
実施例及び比較例の磁気粘性流体組成物の調製に用いた成分は次の通りである。
(磁性粒子(A))
・カルボニル鉄粉:ペンタカルボニル鉄(Fe(Co)
5)の熱分解物、鉄含有率;99.7質量%、累積50%粒子径;6.2μm
【0065】
(潤滑油基油(B))
・潤滑油基油A:ポリ−α−オレフィン、40℃動粘度;5.2mm
2/s
・潤滑油基油B:ジ−2−エチルヘキシルセバケート、40℃動粘度;11.57mm
2/s、粘度指数:152
・潤滑油基油C:鉱油系潤滑油基油;API(米国石油協会)の基油カテゴリー グループI、40℃動粘度;33.73mm
2/s、粘度指数;108
・潤滑油基油D:鉱油系潤滑油基油;API(米国石油協会)の基油カテゴリー グループIII、40℃動粘度;20.06mm
2/s、粘度指数;122
・潤滑油基油E;鉱油系潤滑油基油;API(米国石油協会)の基油カテゴリー グループI、40℃動粘度は504.0mm
2/s、粘度指数;97
【0066】
(水添スチレン系ブロック共重合体(C))
・ポリマーA;スチレン−水素添加された1,4イソプレンーブロック共重合体、重量平均分子量;284,000
・ポリマーB;スチレン−水素添加された3,4ブタジエンーブロック共重合体、重量平均分子量は290,000
・ポリマーC;スチレン−水素添加された1,4イソプレンーエチレンーブロック共重合体、重量平均分子量;496,000
【0067】
(水添スチレン系ブロック共重合体(C)以外のポリマー)
・ポリマーD;ポリメタアクリレート、重量平均分子量;275,000
【0068】
<その他の添加剤>
・沈降抑制剤;下記式(1)で表される化合物
【0069】
(R
2−HNOC)
2−R
1−(CONH−R
3)
2 (1)
式(1)中、R
1はベンゼンから4個の水素原子を除いた基であり、R
2は炭素数8の飽和の脂肪族炭化水素基(2−エチルヘキシル基)であり、R
3は炭素数18の不飽和の脂肪族炭化水素基(オレイル基)である化合物。
【0070】
・酸化防止剤;2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール
・極圧剤;硫化オレフィン
・界面活性剤;オレイン酸
・添加剤混合物;清浄剤(カルシウムスルフォネート)、分散剤(コハク酸イミド)、酸化防止剤(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール)、摩耗防止剤(ジアルキルジチオリン酸亜鉛)、極圧剤(硫化オレフィン)、及び摩擦調整剤(硫化油脂)の混合物
・ヒュームドシリカ;日本アエロジル株式会社製、ジメチルジクロロシラン表面処理、ETによる比表面積;110m
2/g±20m
2/g、一次粒子の平均径;約16nm
【0071】
[評価]
(実施例1〜14及び比較例1〜6)
実施例1〜14及び比較例1〜6の磁気粘性流体組成物は、次の方法によって沈降特性を評価した。
【0072】
−沈降特性試験−
10mlのガラス製メスシリンダーに、磁気粘性流体組成物を10ml入れ、室温(約20℃)にて648時間又は7296時間静置した。648時間又は7296時間後にメスシリンダーの上部に分離してきた分離油量[ml]を目視で読み取り、この数値を下記式(1)に代入して、分離率を求めた。結果を表1〜表3に示す。
【0073】
分離率(%)=(分離油量[ml]/10[ml])×100 (1)
【0074】
分離率の値が少ないほど沈降抑制に優れ、実用的なものは分離率が25%以下であり、20%以下が好ましく、15%以下がより好ましい。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
表1〜表3に示すように、磁性粒子(A)と、潤滑油基油(B)と、水添スチレン系ブロック共重合体(C)と、を含有する、実施例1〜実施例14の磁気粘性流体組成物は、磁性粒子の沈降が抑制され、長期安定性に優れていた。
これに対して、水添スチレン系ブロック共重合体(C)を含まない、比較例1〜比較例6の磁気粘性流体組成物は、磁性粒子の沈降抑制に劣っていた。
【0079】
以上より、本発明の磁気粘性流体組成物は、磁性粒子の沈降を抑制し、長期安定性に優れるので、特に各種車両用又は工業用のダンパー、クラッチ、トルク伝達装置及びブレーキ、更に建造物の耐震装置等の使用に、極めて有用である。