【実施例1】
【0162】
以下の実施例は、開示した主題に係る方法及び結果を示すために説明される。これらの実施例は、本明細書にて開示した主題の全ての態様を含むことを目的とせず、むしろ、例示的な方法及び結果を示すことを目的とする。これらの実施例は、当業者に明らかである等価物及び変形形態を除外することを目的としない。
【0163】
数(例えば量、温度等)に関して、正確性を確保するための努力がなされたが、若干の誤差及びずれは考慮されなければならない。特に指示がない限り、部は重量部であり、温度は摂氏(℃)または周囲温度であり、かつ圧力は大気圧またはその付近である。反応条件、例えば成分濃度、温度、圧力、及び他の反応範囲、並びに、生成物の純度、及び記載されたプロセスから得られる収率を最適化することができる条件には、多数の変化及び組み合わせが存在する。かかるプロセス条件を最適化するには、妥当かつ定型化した実験が必要なだけある。
実施例1
【0164】
環状ヘプタペプチドシクロ(FΦRRRRQ)(cFΦR
4、式中ΦはL−2−ナフチルアラニンである)が、哺乳類細胞に効率的に内在化されることが見出された。本研究では、内在化メカニズムは、薬理学的作用物質及び遺伝子変異を導入することで、種々のエンドサイトーシスの事象を乱すことにより調査した。結果は、cFΦR
4は膜のリン脂質に直接結合することができ、エンドサイトーシスによりヒト癌細胞に内在化することができ、かつ初期エンドソームから細胞質に移動することができることを示している。カーゴ能力は、低分子染料、状態が様々に変化した直鎖及び環状ペプチド、並びにタンパク質を含む多種多様の分子により調査した。カーゴの性質に応じて、カーゴは環内(cFΦR
4環内へのカーゴの挿入)、環外(Gln側鎖へのカーゴの結合)、または二環式アプローチ(cFΦR
4と環状カーゴ環の縮合)により送達されてよい。cFΦR
4の全体的な送達効率(即ち、カーゴの細胞質及び核への送達)は、非アルギニン(R
9)、HIV Tat由来のペプチド(Tat)、またはペネトラチン(Antp)の効率よりも4〜12倍高かった。優れた血清安定性、最少の毒性、及び合成の実施容易性と合わさった高い送達効率は、cFΦR
4を、細胞内カーゴ送達のための有用なトランスポーターに、及びエンドソームエスケープのメカニズムを調査するための好適なシステムにする。
導入
【0165】
原形質膜は、特にペプチド、タンパク質及び核酸等の生物学的製剤に対する薬剤発見において、大きな課題を提示している。膜障壁を破壊して生物学的製剤を細胞内に送達する、1つの見込みのある方法は、生物学的製剤に「細胞膜透過性ペプチド(CPP)」を結合させることである。HIVの転写のトランス活性化因子(Tat)が哺乳類細胞に内在化して、ウイルス性複製を活性化することが1980年代後半に初めて見つかって以来(Frankel,AD and Pabo,CO.Cell,1988,55,1189−1193;Green,M and Loewenstein,PM.Cell,1988,55,1179−1188)、6〜20個の残基を有する多数のCPPが報告されている(Langel,U.Cell−penetrating peptides:methods and protocols,Humana Press,New York,2011,p xv;Schmidt,N et al.FEBS Lett.,2010,584,1806−1813;Futaki,S.Adv.Drug Delivery Rev.,2005,57,547−558;Stewart,KM et al.Org.Biomol.Chem.,2008,6,2242−2255;Deshayes,S et al.Cell.Mol.Life Sci.,2005,62,1839−1849;Goun,EA et al.ChemBioChem,2005,7,1497−1515)。CPPは、低分子作用物質(Rothbard,JB et al.Nat.Med.,2000,6,1253−1257;Nori,A et al.Bioconjugate Chem.,2003,14,44−50)、DNA(Hoyer,J and Neundorf,I.Acc.Chem.Res.,2012,45,1048−1056;Eguchi,A et al.J.Biol.Chem.,2001,276,26204−26210)、RNA(Nakase,I et al.Acc.Chem.Res.,2012,45,1132−1139;Andaloussi,SE et al.Nucleic Acids Res.,2011,39,3972−3987;Jeong,JH et al.Bioconjugate Chem.,2009,20,5−14;Muratovska,A and Eccles,MR.FEBS Lett.,2004,558,63−68)、タンパク質(Wadia,JS and Dowdy,SF.Adv.Drug Delivery Rev.,2005,57,579−596;Pooga,M et al.FASEB J.,2001,15,1451−1453;Schwarze,SR et al.Science,1999,285,1569−1572)、及びナノ粒子(Josephson,L et al.Bioconjugate Chem.,1999,10,186−191;Gupta,B et al.Adv.Drug Delivery Rev.,2005,57,637−651;Liu,J et al.Biomacromolecules,2001,2,362−8)を、共有結合または静電会合(electrostatic association)のいずれかにより哺乳類細胞及び組織に送達するために使用されてきた。多くのCPPは、生理学的に関係のある濃度において、最少の毒性及び免疫原性を示し(Saar,K et al.Anal.Biochem.,2005,345,55−65;Suhorutsenko,J et al.Bioconjugate Chem.,2011,22,2255−2262)、特定の非天然アミノ酸の導入(Rueping,M et al.ChemBioChem,2002,3,257−259)、及び他の化学部位(Cooley,CB et al.J.Am.Chem.Soc.,2009,131,16401−16403;Pham,W et al.Chembiochem,2004,5,1148−1151)は、安定性及び細胞質基質への送達を増加させることが見出された。
【0166】
30年間の調査にも関わらず、CPP活性の基本原理は分かりづらいままである。2つの異なる、相互に排他的でないメカニズムが、一次配列が複数のアルギニン残基を有することを特徴とするCPPに関して提案されてきた。最初のメカニズム(直接の膜移動)においては、アルギニングアニジウム基は原形質膜のリン脂質と相互作用して 膜内で受動的に拡散する中性のイオン対を生成する(Herce,HD and Garcia,AE.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,2007,104,20805−20810;Hirose,H et al.Mol.Ther.,2012,20,984−993)か、またはCPPに脂質二分子膜を超えることを可能にする一時的な孔の形成を容易にさせる(Herce,HD et al.Biophys.J.,2009,97,1917−1925;Palm−Apergi,C et al.FASEB J.,2009,23,214−223)。2つ目のメカニズムでは、CPPは細胞表面の糖タンパク質及び膜リン脂質と会合し、エンドサイトーシスによって細胞内に内在化し(Richard,JP et al.J.Biol.Chem.,2005,280,15300−15306;Ferrari,A et al.Mol.Ther.,2003,8,284−294;Fittipaldi,A et al.J.Biol.Chem.,2003, 278,34141−34149;Kaplan,IM et al.J.Controlled Release,2005,102,247−253;Nakase,I et al.Biochemistry,2007,46,492−501)、続いてエンドソームから抜け出して細胞質内に移動する。これらを合わせると、データの大部分は、低いCPP濃度では、細胞の取り込みは殆どがエンドサイトーシスによって発生するものの、直接の膜転座は10μMを超える濃度で優性となることを示す(Duchardt,F et al.Traffic,2007,8,848−866)。しかし、中に入るメカニズム、及び取り込み効率はCPPの同一性、カーゴ、細胞の種類、及び他の要因で変化し得る(Mueller,J et al.Bioconjugate Chem.,2008,19,2363−2374;Maiolo,JR et al.Biochim.Biophys.Acta.,2005,1712,161−172)。
【0167】
エンドサイトーシスにより細胞内に入るCPPは、細胞質基質に到達するために、エンドサイトーシス小胞から出なければならない。残念なことに、エンドソーム膜は、これらのCPPの細胞質送達における重要な障壁であることが証明されている。多くの場合、ごく少量のペプチドの分画しか細胞内に流出しない(El−Sayed,A et al.AAPS J.,2009,11,13−22;Varkouhi,AK et al.J.Controlled Release,2011,151,220−228;Appelbaum,JS et al.Chem.Biol.,2012,19,819−830)。例えば、エンドソームでのカーゴ放出を向上させることが示されている、膜融合性ヘマグルチニンペプチドHA2の存在下においても、99%を超えるTat−Cre融合タンパク質は、初期の取り込みの24時間後にマクロピノソーム(macropinosome)内に閉じ込められたままである(Kaplan,IM et al.J.Controlled Release,2005,102,247−253)。近年、エンドソームエスケープ効率が向上した、新たに2つの種類のCPPが発見されている。Appelbaumらは、個々のペンタアルギニンモチーフを含有する、フォールディングされたミニチュアタンパク質(miniature protein) は、エンドソームの閉じ込めを効果的に克服し、哺乳類細胞の細胞質基質に到達可能であることを示した(Appelbaum,JS et al.Chem.Biol.,2012,19,819−830)。このモチーフは、3巻きのαヘリックスに5つのアルギニンが含まれ、このモチーフを含有するタンパク質は、初期(Rab5
+)エンドソームから放出されて細胞内に到達する。一定のアルギニンリッチなCPPの環化は、その細胞取り込みを向上させることもまた見出された(Qian,Z et al.ACS Chem.Biol.,2013,8,423−431;Lattig−Tunnemann,G et al.Nat.Commun.,2011,2,453;Mandal,D et al.Angew.Chem.Int.Ed.,2011,50,9633−9637;Zhao,K et al.Soft Matter,2012,8,6430−6433)。シクロ(FΦRRRRQ)(cFΦR
4、式中、ΦはL−2−ナフチルアラニンである)等の両親媒性の小型環状ペプチド はエネルギーに依存した方法で哺乳類細胞により内在化され、非アルギニン(R
9)よりも2〜5倍高い効率で、細胞質及び核内に入る(Qian,Z et al.ACS Chem.Biol.,2013,8,423−431)。更に、ホスホペプチド等の細胞膜非透過性カーゴは、cFΦR
4環内に挿入されることができ、標的細胞の細胞質内へのカーゴの送達をもたらす。しかし、「環内」送達法(
図1A)と本明細書で呼ばれる、カーゴの環状ペプチド環への挿入は、大型の環は不十分な内在化効率を示すため、比較的短いペプチド(7個のアミノ酸以下)に限定される(Qian,Z et al.ACS Chem.Biol.,2013,8,423−431)。
【0168】
cFΦR
4の作用メカニズムを考察し、依然として高い効率の環状CPPを場合により設計するために、本明細書では、種々のエンドサイトーシスの事象を乱す人工膜及び薬理学的作用物質、並びに遺伝子変異を使用して、cFΦR
4の内在化メカニズムを調査した。データは、cFΦR
4は原形質膜のリン脂質に直接結合可能であり、エンドサイトーシスにより細胞内に入ることを示している。ペンタアルギニンモチーフを示すミニチュアタンパク質(Appelbaum,JS et al.Chem.Biol.,2012,19,819−830)と同様に、cFΦR
4は初期のエンドソームで流出して細胞質基質に達することができる。種々の電荷の直鎖ペプチド、環状ペプチド、及び大型タンパク質を含む、広範囲のカーゴ分子を、環外(Gln側鎖へのカーゴの結合;
図1B)、または二環式送達法(cFΦR
4及び環式カーゴ環の縮合;
図1C)により哺乳類細胞の細胞質内に送達するcFΦR
4の能力もまた調査した。cFΦR
4はカーゴのサイズ及び性質に対して許容範囲が高く、試験したカーゴ全てを、哺乳類細胞の細胞質及び核内に効率的に輸送したことが見出された。更に、cFΦR
4は、直鎖CPPに対するタンパク質分解には優れた安定性、及び最少の細胞毒性を示した。したがって、cFΦR
4は細胞質基質カーゴ送達に特に有用なトランスポーター、及び初期エンドソームでのカーゴ放出のメカニズムを調査するためのシステムを提供する。
【0169】
材料。ペプチド合成の試薬は、Advanced ChemTech(Louisville,KY)、NovaBiochem(La Jolla,CA)、またはAnaspec(San Jose,CA)から購入した。2,2’−ジピリジルジスルフィド、リサミンローダミンBスルホニルクロリド、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、 デキサメタゾン(Dex)、補酵素Aトリリチウム塩、FITC標識デキストラン(デキストラン
FITC)及びヒト血清は、Sigma−Aldrich(St.Louis,MO)から購入した。細胞培地である、ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリン−ストレプトマイシン、0.25%トリプシン−EDTA Hoescht 33342、 Alexa488標識デキストラン(デキストラン
Alexa488)、ダルベッコリン酸塩−緩衝生理食塩水(DPBS)(2.67mMの塩化カリウム、1.47mMのリン酸カリウム(一塩基性)、137mMの塩化ナトリウム、8.06mMのリン酸ナトリウム(二塩基性))、及びリポフェクタミン2000は、Invitrogen(Carlsbad,CA)から購入した。PD−10脱塩カラムは、GE−Healthcare(Piscataway,NJ)から購入した。核染色染料DRAQ5(商標)は、Thermo Scientific(Rockford,IL)から購入したが、細胞増殖キット(MTT)はRoche(Indianapolis,IN)から購入した。抗ホスホチロシン(pY)抗体(クローン4G10)は、Millipore(Temecula,CA)から購入した。
【0170】
Rink樹脂LS(100−200メッシュ、0.2mmol/g)はAdvanced ChemTechから購入した。LC−SMCC(スクシンイミジル−4−[N−マレイミドメチル]シクロヘキサン−1−カルボキシ−[6−アミドカプロエート])は、Thermo Scientific(Rockford,IL)から購入したが、1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(POPC)、1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホ(1'−rac−グリセロール)(ナトリウム塩)(POPG)、1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(POPE)、スフィンゴミエリン(Brain、Porcine)、及びコレステロールは、Avanti Polar Lipids(Alabaster,AL)から購入した。ヘパラン硫酸(HO−03103、ロット番号HO−10697) はCelcus Laboratories(Cincinnati,OH)から入手した。
【0171】
ペプチド合成及びラベリング。ペプチドは、標準的なFmocの化学的性質を使用して、Rink樹脂LS(0.2mmol/g)上で合成した。通常のカップリング反応は、5当量のFmocアミノ酸、5当量の2−(7−アザ−1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)及び10当量のジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を含有し、75分間混合することで処理した。最後の(N末端)残基を添加した後で、C末端のGlu残基上にあるアリル基を、無水DCM中でのPd(PPh
3)
4及びフェニルシラン(それぞれ0.1及び10当量)で処理(3×15分)することにより除去した。N末端のFmoc基を、DMF中の20%ピペリジンで処理することにより除去し、ペプチドを、DMF中でベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス−ピロリジノ−ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(PyBOP)/HOBt/DIPEA(5、5、及び10当量)により3時間処理して環化した。82.5:5:5:5:2.5(体積/体積)のTFA/チオアニソール/水/フェノール/エタンジチオールで2時間処理することにより、ペプチドを脱保護し樹脂から外した。ペプチドを冷却したエチルエーテルで粉砕し(3回)、C
18カラム上で逆相HPLCにより精製した。各ペプチドの確実性は、MALDI−TOF質量分析により確認した。
【0172】
FITCでのペプチドのラベリングは、1:1:1(体積/体積)のDMSO/DMF/150mMの重炭酸ナトリウム(pH8.5)300μLに精製ペプチド(1mg以下)を溶解させ、DMSO(100mg/mL)中のFITC(10μL)で混合することにより実施した。室温で20分後に、反応混合物をC
18カラム上で逆相HPLCに通し、FITC標識ペプチドを単離した。ローダミン標識、及びDex標識ペプチド(
図2)を生成するために、N
ε−4−メトキシトリチル−L−リジンをC末端に添加した。ペプチド固相合成法の後、CH
2Cl
2中のトリフルオロ酢酸(1%、体積/体積)を使用して、リジン側鎖を選択的に脱保護した。DMF中のリサミンローダミンBスルホニルクロリド/DIPEA(それぞれ5当量)により、樹脂を一晩インキュベーションした。ペプチドを完全に脱保護し、ジエチルエーテルで粉砕してHPLCで精製した。DMF中のデキサメタゾン−21−チオプロピオン酸/HBTU/DIPEAU(5、5、及び10当量)で3時間インキュベーションすることにより、Dex標識ペプチドを生成した(Appelbaum,JS et al.Chem.Biol.,2012,19,819−830)。次にペプチドを脱保護し、粉砕してHPLCにより精製した。二環式ペプチド、ホスホクマリンアミノプロピオン酸(pCAP)、及びpCAP含有ペプチド(PCP)を、先に記した通りに合成した(Lian,W et al.J.Am.Chem.Soc.,2013,135,11990−11995;Mitra,S and Barrios,AM.Bioorg.Med.Chem.Lett.,2005,15,5124−5145;Stanford,SM et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,2012,109,13972−13977)。各ペプチドの確実性を、MALDI−TOF質量分析により確認した。
【0173】
cFΦR
4−タンパク質コンジュゲートの調製。PTP1Bの触媒領域(アミノ酸1〜321)をコードするための遺伝子を、PTP1B cDNAをテンプレートとして、並びにオリゴヌクレオチド5’−ggaattccatatggagatggaaaaggagttcgagcag−3’及び5’−gggatccgtcgacattgtgtggctccaggattcgtttgg−3’をプライマーとして用いるポリメラーゼ連鎖反応により増幅した。得られたDNA断片をエンドヌクレアーゼNdeI及びSalIで消化し、原核細胞のベクターpET−22b(+)−ybbR内に挿入した(Yin,J et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,2005,102,15815−15820)。このクローニング手順は、PTP1BのN末端にybbRタグ(VLDSLEFIASKL)の添加をもたらした。ybbRタグPTP1Bの発現及び精製は、上述した通りに実施した(Ren,L et al.Biochemistry,2011,50,2339−2356)。
【0174】
C末端システインを含有するペプチドcFΦR
4(cFΦR
4−SH、約10μmol;
図3)を、脱気したDPBS(1mL)に溶解させ、アセトン(0.5mL)に溶解させた2,2’−ジピリジルジスルフィド(5当量)と混合した。室温で2時間後に、反応生成物cFΦR
4−SS−Pyを逆相HPLCで精製した。生成物をDPBS中の補酵素A(2当量)で2時間インキュベーションした。得られたcFΦR
4−SS−CoA付加化合物を逆相HPLCで再び精製した。N末端ybbRタグ(VLDSLEFIASKL)及びC末端の6個のヒスチジンタグを含有する緑色蛍光タンパク質(GFP)を大腸菌内で発現させ、上述の通りに精製した(Yin,J et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,2005,102,15815−15820)。次に、ybbR−GFP(30μM)、cFΦR
4−SS−CoA(30μM)、及びホスホパンテテイニルトランスフェラーゼSfp(0.5μM)を50mMのHEPES(pH7.4)、10mMのMgCl
2(総体積1.5mL)内で混合し、 37℃で15分間インキュベーションした。標識したタンパク質であるcFΦR
4−S−S−GFP(
図3)を、PD−10脱塩カラムに反応混合物を通すことで、未反応のcFΦR
4−SS−CoAから分離した。TatにコンジュゲートしたGFP(Tat−S−S−GFP)、及びcFΦR
4がコンジュゲートしたPTP1B(cFΦR
4−PTP1B)を同様にして調製した(
図4)。
【0175】
C末端リジンを含有するペプチド(cFΦR
4−Lys、約10μmol、
図4)を固相上で合成し、脱保護して支持体から外し、脱気したDPBS(pH7.4、1mL)中に溶解し、DMSO(0.2mL)に溶解させた二官能性リンカーLC−SMCC(5当量)と混合した。2時間室温でインキュベーションした後、反応生成物であるcFΦR
4−SMCC(
図4)を、C
18カラムを装着した逆相HPLCで精製した。次に、生成物をDPBS中の補酵素A(2当量)で混合し、2時間インキュベーションした。得られたcFΦR
4−SMCC−CoA付加化合物を、逆相HPLCで再び精製した。次に、ybbRタグPTP1B(30μM)、cFΦR
4−SMCC−CoA(30μM)、及びホスホパンテテイニルトランスフェラーゼSfp(0.5μM)を50mMのHEPES(pH7.4)、10mMのMgCl
2(総体積1.5mL)中で混合し、37℃で15分間インキュベーションした。標識タンパク質(cFΦR
4−PTP1B;
図4)を、PD−10脱塩カラムに反応混合物を通してDPBSで溶出することで、未反応のcFΦR
4−SMCC−CoAから分離した。
【0176】
細胞培養及びトランスフェクション。HEK293、ヒーラー、MCF−7、NIH3T3及びA549細胞を、DMEM、10%のFBS、及び1%のペニシリン/ストレプトマイシンからなる培地中で維持した。Jurkat、H1650、及びH1299細胞を、10%のFBS及び1%のペニシリン/ストレプトマイシンを補充したRPMI−1640中で増殖させた。細胞を、5%CO
2の加湿インキュベーター内で、37℃で培養した。ヒーラー細胞のトランスフェクションに関しては、細胞を10,000細胞/ウェルの密度で、96ウェルプレート上に播種した。付着させた後、リポフェクタミン2000メーカーのプロトコールに従い、Rab5−緑色蛍光タンパク質融合(Rab5−GFP)、Rab7−GFP(Addgeneプラスミド番号28047)、グルココルチコイド受容体(C638G)−GFP融合(GR−GFP)(Holub,JM et al.Biochemistry,2013,50,9036−6046)、DsRed−Rab5 WT(Addgeneプラスミド番号13050)またはDsRed−Rab5
Q79L(Addgeneプラスミド番号29688)をコードするプラスミドで細胞をトランスフェクションした。
【0177】
小型単層膜ベシクル(SUV)の調製。先に報告した手順(Magzoub,M et al.Biochim.Biophys.Acta,2002,1563,53−63)を変更することにより、SUVを調製した。適切な脂質混合物を試験管内のクロロホルムに溶解させた。溶液にアルゴンを吹き込むことで、脂質混合物を緩やかに乾燥させ、デシケータに一晩保管した。乾燥した脂質をDPBS中で再び水和させ、脂質の総濃度を最終的に10mMとした。懸濁液が透明になるまで、氷上で懸濁液を攪拌して音波処理することによって激しく混合させた。通常の調製では、約80nmの平均直径、及びZeta Sizer Nano Series(Malvern,Brookhaven,CT)を使用して静的光散乱測定により測定した多分散度(PdI)指標が0.15未満のベシクルを含有する均一溶液が得られる。SUV溶液を4℃で保管し、同じ日にFP実験で使用した。
【0178】
蛍光偏光。室温で2時間、種々の濃度のDPBS中のヘパラン硫酸(0〜5,000nM)で、100nMのFITC標識ペプチドをインキュベーションすることにより通常の実験を実施した。FP値をMolecular DevicesのSpectramax M5分光蛍光光度計で測定した。励起及び発光波長はそれぞれ485及び525nmであった。ヘパラン硫酸濃度の関数としてFP値をプロットすることによりEC
50を測定し、GraphPad Prismソフトウェア(バージョン6)により4パラメータロジスティック曲線に合わせた。
【0179】
脂質膜を有するCPPのEC
50値を得るために、濃度を増加させてDPBS中のSUV溶液(0〜10mM)と共にFITC標識ペプチド(100nM)を使用して、FP実験を同様に実施した。FP値を同様に測定、プロット、及び分析した。
【0180】
画像分析。imageJを使用して原画像を均一に修正した。Just Another Colocalization Plugin(JACoP)を使用して、エンドソーム領域からピアソンの相関係数(R)を入手した(Bolte,S and Cordelieres,FP.J.Microsc.,2006,224,213−232)。GR−GFP位置変更アッセイに関して、個々のGFP及びHoescht画像を、改造したCellProfilerパイプラインにロードし、灰色に着色した(Carpenter,AE et al.Genome Biol.,2006,7,R100)。大津の自動3クラス閾値化によりHoescht画像から細胞核を区別し、中間の強度クラスのピクセルはバックグラウンドに割り当てた。GaussianのLaplacianモデリング(Laplacian of Gaussian modeling)を使用して固めたオブジェクトを識別し、形状により分離した。核領域は、Hoeschtオブジェクトの直径が1μm収縮したとして定義し、一方で、細胞質基質環領域は、核の直径と核の直径の間が2μm拡大した領域として定義した。転座率は、細胞あたりで測定した細胞質基質領域内の平均GFPシグナルで、核領域内の平均GFPシグナルを割ったものとして定義し、15〜30個の画像から30〜70個の細胞を、試験した各条件について捕捉した。
【0181】
共焦点顕微鏡法。ローダミン標識環状ペプチド(cFΦR
4Rho)とRab5
+またはRa7
+エンドソーム間での共局在性を試験するために、実験の前日に、Rab5−GFPまたはRab7−GFPでトランスフェクションしたヒーラー細胞を配置した(200μL、10
4細胞/ウェル、96ウェルのガラス底MatriPlates)。実験の日に、300nMのHoescht33342を補充したDMEM培地内で30分間、ヒーラー細胞を1μMのcFΦR
4Rhoで処理した。その後、細胞をHKR緩衝液(10mMのHEPES(pH7.4)、140mMのNaCl、2mMのKCl、1mMのCaCl
2、1mMのMgCl
2)で洗浄し、PerkinElmer LiveViewのスピニングディスク共焦点顕微鏡を使用してイメージングした。
【0182】
GR転座アッセイに関して、GR−GFPでトランスフェクションしたヒーラー細胞を上述の通りに配置した(Holub,JM et al.Biochemistry,2013,50,9036−6046)。1μMのDexまたはDexペプチドコンジュゲート、及び300nMのHoescht33342を含有するDMEM培地で、細胞を30分間処理し、Ziess Axiocam mRMカメラとEXFO−Exciteシリーズの120Hgアークランプを外付けした、Zeiss Axiovert 200M落射蛍光顕微鏡を使用してイメージングした。エンドサイトーシス阻害剤の効果を調べるために、DexまたはDexペプチドコンジュゲートによりインキュベーションする前に、阻害剤を含有する透明なDMEMで、トランスフェクションしたヒーラー細胞を30分間前処理した。Rab5活性がエンドソームエスケープに必要か否かを試験するために、DexまたはDexペプチドコンジュゲートで処理し、上述の通りにイメージングする前に、ヒーラー細胞を、GR−GFPとDsRed−Rab5 WTまたはDsRed−Rab5
Q79Lでトランスフェクションした(Appelbaum,JS et al.Chem.Biol.,2012,19,819−830)。
【0183】
ローダミン標識ペプチドの内在化を調べるために、5×10
4個のHEK293細胞を、35mmのガラス底ディッシュ(MatTek)に配置した。実験の日に、細胞をペプチド溶液(5μM)と0.5mg/mLのデキストラン
FITCで、37℃で2時間インキュベーションした。細胞をDPBSで2回、穏やかに洗浄し、Visitech Infinity 3 Hawk 2Dアレイ生細胞イメージング共焦点顕微鏡でイメージングした。pCAP含有ペプチドの内在化を検出するために、HEK293細胞を同様に配置して、ペプチド溶液(5μM)により37℃で60分間インキュベーションした。培地を取り除いた後、ペルバナジウム酸ナトリウム含有のDPBS(1mM)で2回、細胞を穏やかに洗浄し、5μMの核染色染料DRAQ5を含有するDPBS中で10分間インキュベーションした。得られた細胞をDPBSで2回洗浄し、スピニングディスク共焦点顕微鏡(UltraView Vox CSUX1システム)でイメージングした。GFPの内在化を監視するために、35mmのガラス底マイクロウェルディッシュ内に5×10
4個のHEK293細胞を播種し、一晩培養した。細胞を、cFΦR
4−S−S−GFP(1μM)により37℃で2時間処理した。培地を取り除いた後、細胞を、5μMのDRAQ5を含有するDPBSで10分間インキュベーションした。細胞をDPBSで2回洗浄し、Visitech Infinity 3 Hawk 2Dアレイ生細胞イメージング共焦点顕微鏡でイメージングした。
【0184】
フローサイトメトリー。pCAP含有ペプチドの送達効率を定量化するために、ヒーラー細胞を6ウェルプレート(ウェルあたり5×10
5個の細胞)内で24時間培養した。実験の日に、1%のFBSを含む透明なDMEM内にて、37℃で2時間、細胞を10μMのpCAP含有ペプチドでインキュベーションした。1mMのペルバナジウム酸ナトリウムを含有するDPBSで細胞を洗浄し、0.25%トリプシンでプレートから分離し、1%のウシ血清アルブミンを含有するDPBS中に懸濁し、BD FACS Ariaフローサイトメーターにより355nmの励起で分析した。Flowjoソフトウェア(Tree Star)でデータを分析した。
【0185】
エンドサイトーシスでのcFΦR
4の効果を判断するため、ヒーラー細胞を6ウェルプレート(ウェルあたり5×10
5個の細胞)に播種し、一晩付着させた。付着の後、補助成分非含有の透明DMEM、1μMのcFΦR
4ペプチド、100μMのデキストラン
Alexa488(Life Technologies,D−22910)、または1μMの環状ペプチドと100μMのデキストラン
Alexa488の両方を含有する透明DMEMで、標準的な細胞培養条件下にて30分間細胞を処理した。細胞をDPBSで2回洗浄し、0.25%トリプシンでプレートから取り除き、10%FBSを含有する透明DMEM内に希釈し、300gで5分間ペレット操作し、DPBSにて1回洗浄し、200μLのDPBS中に再懸濁した。細胞全体でのデキストラン取り込みを、メーカーのFL1レーザー及びフィルタセットを使用してBD Accuri C6フローサイトメーターで分析した。
【0186】
免疫ブロット法。NIH3T3細胞を完全増殖培地で培養し、80%コンフルエンスに到達させた。細胞を血清非含有培地内で3時間飢餓状態にし、異なる濃度のcFΦR
4−PTP1Bまたは非タグPTP1Bで2時間処理し、続いて、1mMのペルバナジウム酸ナトリウムを補充した培地内で30分インキュベーションした。溶液を取り除き、細胞を冷却したDPBSで2回洗浄した。細胞を取り外し、50mMのTris−Hcl(pH7.4)、150mMのNaCl、1%のNP−40、10mMのピロリン酸ナトリウム、5mMのヨード酢酸、10mMのNaF、1mMのEDTA、2mMのペルバナジウム酸ナトリウム、0.1mg/mLのフッ化フェニルメタンスルホニル、1mMのベンズアミジン、及び0.1mg/mLのトリプシン阻害剤中で溶解させた。氷上での30分のインキュベーション後、細胞可溶化物を微細遠心分離器で25分間、15,000rpmで遠心分離した。細胞タンパク質を全て、SDS−PAGEで分離し、PVDF膜に電気泳動により移動させ、これを抗pY抗体4G10を用いて免疫ブロッティングした。
【0187】
血清安定性試験。安定性試験は、先に報告した手順を修正して実施した(Nguyen,LT et al.PLoS One,2010,5,e12684)。希釈したヒト血清(25%)を15,000rpmで10分間遠心分離し、上清を収集した。ペプチド原液を上清に希釈させて、最終濃度はcFΦR
4及びAntpに関しては5μM、ペプチドR
9及びTatに関しては50μMにし、37℃でインキュベーションした。種々の時点(0〜6時間)において、200μLのアリコートを取り出し、15%のトリクロロ酢酸(50μL)と混合して一晩4℃でインキュベーションした。最終混合物を15,000rpmで10分間、微細遠心分離器で遠心分離し、C
18カラム(Waters)を装着した逆相HPLCで上清を分析した。ペプチドピーク(214nmで監視)の下の面積を積分することにより、残存ペプチドの量(%)を測定し、対照反応(血清なし)での残存ペプチドの量と比較した。
【0188】
細胞毒性アッセイ。MTTアッセイを行い、複数の哺乳動物細胞に対する環状ペプチドの細胞毒性を評価した(Mosmann,T.J.Immunol.Methods,1983,65,55−63)。100μLのMCF−7、HEK293、H1299、H1650、A549(1×10
5cell/mL)細胞を96ウェル培養プレートの各ウェルに配置し、一晩増殖させた。種々の濃度のペプチド(5または50μM)を各ウェルに加え、5% CO
2で細胞を37℃にて24〜72時間インキュベーションした。10μLのMTT原液を各ウェルに添加した。増殖培地への10μLの溶液の添加(細胞なし)を陰性対照として使用した。プレートを37℃で4時間インキュベーションした。次に、100μLのSDS−HCl可溶化緩衝液を各ウェルに添加し、得られた溶液を完全に混合した。プレートを更に4時間、37℃でインキュベーションした。ホルマザン生成物の吸光度を、Molecular Devices Spectramax M5プレートリーダーを使用して570nmにて測定した。各実験を3通りで実施し、いかなるペプチドも加えていない細胞を対照として処理した。
【0189】
cFΦR
4は膜のリン脂質に結合する。負に荷電したリン脂質(90%ホスファチジルコリン(PC)及び10%ホスファチジルグリセロ−ル(PG))を含有するベシクルにより1μMのFITC標識環状ペプチドcFΦR
4FTICをインキュベーションすると、ペプチドの蛍光がクエンチされ、cFΦR
4のリン脂質への直接結合と一致することが、以前に観察されている (Qian,Z et al.ACS Chem.Biol.,2013,8,423−431)。エンドサイトーシスでのCPPの取り込みの間における、膜結合の潜在的な役割を試験するために、哺乳類細胞の外膜を模したSUV(45%のPC、20%のホスファチジルエタノールアミン、20%のスフィンゴミエリン、及び15%のコレステロール)を調製し、蛍光偏光(FP)アッセイにより、FITC標識cFΦR
4、R
9、及びTat(それぞれ100nM)への結合を試験した。cFΦR
4は2.1±0.1mMのEC
50値(cFΦR
4FTICの半分が結合した脂質濃度)で中性SUVに結合した(
図5)。R
9は、人工膜には更に弱い結合(EC
50>10mM)を示したが、Tatは全く結合しなかった。次に、ヘパラン硫酸への結合に関してCPPを試験した。これは、以前にカチオン性CPPの主要な結合標的として提示されていた(Nakase,I et al.Biochemistry,2007,46,492−501;Rusnati,M et al.J.Biol.Chem.,1999,274,28198−28205;Tyagi,M et al.J.Biol.Chem.,2001,276,3254−3261;Ziegler,A and Seelig,J.Biophys.J.,2004,86,254−263;Goncalves,E et al.Biochemistry,2005,44,2692−2702;Ziegler,A.Adv.Drug Delivery Rev.,2008,60,580−597)。R
9とTatは共に、高い親和性でヘパラン硫酸に結合し、それぞれ144nMと304nMのEC
50値を有していた(
図5B)。同一条件下にて、cFΦR
4はヘパラン硫酸に対して検出可能な結合を示さなかった。これらの結果は、非両親媒性のカチオン性CPP(例えばTat及びR
9)は細胞表面のプロテオグリカン(例えばヘパラン硫酸)に強力に結合するが、膜脂質にはわずかに弱くしか結合しないという以前の観察と一致する(Ziegler,A.Adv.Drug Delivery Rev.,2008,60,580−597)。cFΦR
4の正電荷数が不十分であることは、ヘパラン硫酸との強力な静電相互作用を欠いていることの原因となっているように思われる。一方、cFΦR
4の両親媒性性質、及び更に強固な環状構造は、中性脂質膜への結合を容易にするはずである。これらのデータは、上述した種々のエンドサイトーシス阻害剤の阻害パターンと合わせて、cFΦR
4は原形質膜のリン脂質に直接結合可能であり、全てのエンドサイトーシスメカニズムにより、ピギーバック法で内在化することができることを示唆している。
【0190】
ペプチジルカーゴの細胞内送達。cFΦR
4による環内送達はヘプタペプチドまたはより小さいカーゴに限られるため(Qian,Z et al.ACS Chem.Biol.,2013,8,423−431)、本研究では、Gln側鎖に結合した種々のサイズのカーゴをcFΦR
4が送達できる能力、 及びカーゴの物理化学的性質(
図1B、環外送達)を試験した。まず、正に荷電した(RRRRR)、中性(AAAAA)、疎水性(FFFF)及び負に荷電したペプチド[DE(pCAP)LI]をcFΦR
4に共有結合させた。最初の3つのペプチドは、C末端リジン側鎖をローダミンBで標識し(
図2)、HEK293細胞への内在化を生細胞共焦点顕微鏡法により調査した。5μMのペプチドcFΦR
4−A
5(
図6A)またはcFΦR
4−R
5(
図6B)で2時間インキュベーションした細胞は、点状と拡散の両方を備えた蛍光の証拠を示し、後者は細胞を通してほぼ均一に分布されている。対照的に、流体相のエンドサイトーシスマーカーデキストラン
FITCは、エンドソームの局在化を示す、点状が優勢した蛍光を示した。拡散したローダミン蛍光は、ペプチドの分画が細胞の細胞質基質と核に到達したことを示唆している。cFΦR
4(1μM)及びデキストラン
Alexa488との細胞の共培養は、エンドサイトーシスマーカーの内在化を15%増加させ(
図7)、これは、培養細胞内でcFΦR
4がエンドサイトーシスを活性化可能であることを示唆している。cFΦR
4−F4は水への溶解度が不十分なため、試験をしなかった。
【0191】
ペプチドcFΦR
4−DE(pCAP)LI(cFΦR
4−PCP;
図2)を、負に荷電したカーゴをcFΦR
4が送達する能力を試験し、かつ、広範にわたって使用される他のCPP(例えばR
9、Tat、及びペネトラチン(Antp))との、cFΦR
4の細胞質送達効率を比較するために設計した。したがって、非タグPCP[Ac−DE(pCap)LI−NH
2]、及びR
9(R
9−PCP)、Tat(Tat−PCP)、またはAntp(Antp−PCP)とコンジュゲートしたPCPもまた調製した。生理的pHでは、cFΦR
4−PCPの実効電荷は0であることを記しておく。pCAPは非蛍光性であるが、細胞内に入る際には、内因性のタンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)により速やかに脱リン酸化され、蛍光性生成物であるクマリンアミノプロピオン酸(キャップ、励起355nm;発光450nm)を生成しなければならない(Mitra,S and Barrios,AM.Bioorg.Med.Chem.Lett.,2005,15,5124−5145;Stanford,SM et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,2012,109,13972−13977)。in vitroでPTPパネルに対してアッセイをしたとき、4つのCPP−PCPコンジュゲートは全て、効率的に脱リン酸化された(表8)。このアッセイは、細胞質内及び核内のCPPカーゴのみを検出し、ここでは、既知の全ての哺乳類PTPの触媒ドメインが局在化される(Alonso,A et al.Cell,2004,117,699−711)。更に、キャップは脱プロトン化状態(pKa=7.8)の時しか蛍光性でない。若干の脱リン酸化がエンドソーム(pH6.5〜4.5)またはリソソーム(pH4.5)内で生じても、全体の蛍光には殆ど寄与しない(
図8)。HEK293細胞を5μMのcFΦR
4−PCPで60分間処理することは、細胞全体への青色の蛍光の拡散をもたらし、このことは、cFΦR
4−PCPは細胞内に到達したが、非タグPCPは同一条件下にて細胞内に入ることができなかったことを示唆している(
図9A)。cFΦR
4−PCP(5μM)とインキュベーションする前にHEK293細胞をPTP阻害剤のペルバナジウム酸ナトリウムで1時間前処理した際、細胞内のCAP蛍光はバックグラウンドレベルまで低減した。同一条件下にてR
9−PCP、Antp−PCP、またはTat−PCPで処理したHEK293細胞は弱い蛍光を示し、これは、これらのペプチドの細胞内に到達する能力が不十分であることと一致する(
図9A)。相対的な細胞内PCP送達効率を定量化するために、ヒーラー細胞を各ペプチドで処理し、蛍光活性化細胞選別により分析した(
図9B)。cFΦR
4−PCPは平均蛍光強度(MFI)が3510(任意単位、AU)でヒーラー細胞により最も効率的に内在化されたが、R
9−PCP、Antp−PCP、Tat−PCP及び非タグ式PCPは、それぞれ960、400、290、及び30AUのMFI値を出した(
図9C)。ここで再び、ペルバナジウム酸ナトリウムの存在下で細胞をcFΦR
4−PCPにより処理した場合、CAP蛍光の量がバックグラウンドレベル付近(70AU)まで減少した。したがって、cFΦR4は、R
9、Antp及びTatよりも3.7〜12倍の効率で、種々の物理化学的性質を有するペプチジルカーゴを細胞質に送達することができる。
【0192】
【表13】
aK
cat/K
Mを前述の通りに測定した(Ren,L et al.Biochemistry,2011,50,2339−2356)。
【0193】
環状ペプチドの細胞内送達。近年、治療薬及び生物医学用調査道具としての環状ペプチドに一層の興味が持たれている(Driggers,EM et al.Nat.Rev.Drug Discov.,2008,7,608−624;Marsault,E and Peterson,ML.J.Med.Chem.,2011,54,1961−2004)。例えば、環状ペプチドはタンパク質とタンパク質の相互作用を阻害するのに効果的であり(Lian,W et al.J.Am.Chem.Soc.,2013,135,11990−11995;Liu,T et al.ACS Comb.Sci.,2011,13,537−546;Dewan,V et al.ACS Chem.Biol.,2012,7,761−769;Wu,X et al.Med.Chem.Commun.,2013,4,378−382)、これは従来の低分子に対しては困難な目標である。環状ペプチド治療薬の開発における主な障害は、これらが通常、細胞膜を透過しないことである(Kwon,YU and Kodadek,T.Chem.Biol.,2007,14,671−677;Rezai,T et al.J.Am.Chem.Soc.,2006,128,2510−2511;Chatterjee,J et al.Acc.Chem.Res.,2008,41,1331−1342)。環内法によりcFΦR
4の環状ペプチドを送達する試みは、限定的にしか成功していない。カーゴのサイズを1〜7残基に増加させると、細胞の取り込みは漸進的に不十分となるが、これは、カーゴが大きくなればなるほど、柔軟な環が細胞膜により不十分に結合するためと思われる(Qian,Z et al.ACS Chem.Biol.,2013,8,423−431)。この制限を克服するために、二環式ペプチド系が調査され、この系では、一方の環はCPPモチーフ(例えばFΦR
4)を含有しているが、他方の環は所望の標的に特異的なペプチド配列からなる(
図1C)。カーゴはCPP環の構造を変えず、送達効率にはあまり影響を与えないはずで、二環式環は原則として、任意のサイズのカーゴを収容可能なはずである。二環式構造の更なる硬直性はまた、代謝安定性、並びに標的結合親和性及び特異性を改善するはずである。二環式ペプチドは、1つのトリメソイルスキャホールドと、対応する直鎖ペプチド上の3つのアミノ基(即ち、N末端アミン、C末端ジアミノプロピオン酸(Dap)の側鎖、及びCPPと標的結合モチーフ間に埋め込まれたリジン(またはオルニチン、Dap)の側鎖)との間で3つのアミドを形成することにより容易に合成される(Lian,W et al.J.Am.Chem.Soc.,2013,135,11990−11995)。本手法の妥当性を試験するために、FΦR
4をCPP部位としてC末端環内で選択し、異なる長さ及び電荷のペプチド(AAAAA、AAAAAAA、RARAR、またはDADAD)をカーゴとして選択した(表8、化合物13〜16)。比較のため、FΦR
4をトランスポーターとして、並びにペプチドA
5及びA
7をカーゴとして含有する2つの単環式ペプチド(表8、化合物17及び18) もまた調製した。ペプチドは全て、C末端リジン側鎖をローダミンBで標識し(
図2)、HEK293細胞への内在化を生細胞共焦点顕微鏡法により調査した。5μMのペプチドで2時間細胞を処理することで、6つのペプチド全ての効率的な内在化がもたらされた(
図10)が、FACS分析は、ビシクロ(FΦR
4−A
5)
Rhoの取り込みは、対応する単環式ペプチド(化合物17)よりも約3倍効率的であったことを示した。内在化ペプチドの細胞内分布は二環式ペプチドと単環式ペプチドとの間で極めて異なっていた。4つの二環式ペプチドは、ペプチドが細胞質/核(拡散したローダミン蛍光により示された)及びエンドソーム(蛍光の斑点により示された)内の両方に存在するという証拠を示したが、単環式ペプチドは主に、エンドサイトーシスマーカーデキストラン
FITCの蛍光と重なった、優勢な点状の蛍光を示した。全ての場合において、エンドサイトーシスマーカーは点状の蛍光のみを示し、このことは、エンドソームはペプチドで処理した細胞内でインタクトであったことを示唆している。これらの結果は、おそらくは、原形質膜とエンドソーム膜への結合が改善されたために、二環式ペプチドの構造的硬直性の増加が、エンドサイトーシスによる初期取り込み及びエンドソーム放出の両方を容易にしたことを示している。二環式環は、環状及び二環式ペプチドの細胞内送達に対する全体的な戦略を提供し得る。
【0194】
タンパク質カーゴの細胞内送達。cFΦR
4が完全長タンパク質を哺乳類細胞内に輸送することが可能か否かを試験するため、ジスルフィド結合により、GFPをcFΦR
4のN末端に結合させた(
図11A及び
図3)。GFPは、固有の蛍光を理由として選択した。ジスルフィド交換反応は非常に特異的で効率がよく、かつ可逆的である。細胞質内に入る際、 CPP−S−S−タンパク質のコンジュゲートは速やかに還元され、天然タンパク質を放出する。cFΦR
4は、カーゴタンパク質上の天然または改変した表面システイン残基に直接結合することができるが、N末端に12個のアミノ酸ybbRタグを含有するGFP変異体を使用し、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼSfpを使用して、cFΦR
4をybbRタグに酵素によって結合させた(Yin,J et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,2005,102,15815−15820)。これは、単一のcFΦR
4ユニットを部位特異的な方法でGFPに結合させることを可能にした。比較のため、Tat−S−S−GFPコンジュゲートを同様の方法で生成した。1μMのcFΦR
4−S−S−GFPの存在下にてHEK293細胞をインキュベーションすることにより、細胞内での緑色蛍光の蓄積がもたらされた(
図11B)。蛍光シグナルは拡散して細胞の容量全体に存在したが、核内では濃度が更に高かった。細胞のいくつかは強い緑色蛍光の小さな点(
図11Bで矢印により示す)を含有し、これは、細胞内でエンドソームにより封鎖されたcFΦR
4−S−S−GFPまたは凝集GFPを表す。非タグGFPは細胞内に入ることができなかったが、Tat−S−S−GFPはcFΦR
4−S−S−GFPよりも非効率的に細胞内に入った(
図11B)。1μMのタンパク質で処理したヒーラー細胞のFACS分析は、後者よりも合計で5.5倍高い細胞内蛍光を示した。細胞周辺部における蛍光斑点、及びTat−S−S−GFPで処理した細胞の核領域における検出可能な任意の蛍光の欠如は、Tat−S−S−GFPは大部分がエンドソーム内に閉じ込められおり、以前の報告(Kaplan,IM et al.J.Controlled Release,2005,102,247−253)と一致することを示す。したがって、カーゴとしてのタンパク質と共に、cFΦR
4はまた、初期取り込み及びエンドソームエスケープの両方に関して、Tatよりも高い効率を有する。
【0195】
タンパク質送達に関するcFΦR
4の普遍性を実証するために、機能性酵素(PTP1Bの触媒領域:アミノ酸1〜321)を選択し、細胞内に送達した。非切断結合もまた送達方法と適合性があることを示すため、cFΦR
4を、チオエーテル結合を介してybbRタグPTP1Bとコンジュゲートさせた(cFΦR
4−PTP1B)(
図4)。p−ニトロフェニルホスフェートを基質として使用したin vitroアッセイは、cFΦR
4タグの添加は、PTP1Bの触媒活性に影響を与えなかったことを示した(表9)。非タグPTP1BまたはcFΦR
4−PTP1Bの存在下にてNIH3T3を2時間インキュベーションし、抗pYウェスタンブロッティングにより、グローバルpYタンパク質レベルを分析した(
図12A)。非タグPTP1Bではなく、cFΦR
4−PTP1Bで細胞を処理すると、全てではないが、大部分のタンパク質のpYレベルの濃度依存性低下がもたらされた。クマシーブルー染色により検出した細胞タンパク質の総量は変化せず(
図12B)、これは、観察されたpYレベルの低下が、cFΦR
4−PTP1BによるpYタンパク質の脱リン酸化、及び/またはcFΦR
4−PTP1Bの導入により引き起こされた二次的影響(例えば、細胞プロテインチロシンキナーゼの失活)によるものであったことを示す。 興味深いことに、異なるタンパク質は種々の脱リン酸化反応速度を示した。いくつかの、範囲が150〜200kDのタンパク質は、62nMのcFΦR
4−PTP1Bを添加した際に完全に脱リン酸化されたが、約80kDのタンパク質は500nMのcFΦR
4−PTP1Bで、リン酸化されたままであった。pYパターンの変化はPTP1Bの広範な基質特異性と一致しており(Ren,L et al. Biochemistry,2011,50,2339−2356)、哺乳類細胞の細胞質基質内でのPTP1Bの過剰発現により引き起こされた変化に非常に類似している(LaMontagne Jr.,KR et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,1998,95,14094−14099)。これらの結果は、cFΦR
4は、PTP1BをNIH3T3細胞内に、触媒活性形態で、かつ細胞シグナル伝達プロセスを乱すのに十分な量で送達可能であることを示している。したがって、cFΦR
4は、細胞機能を調査するために、他の機能性タンパク質、特に、遺伝子的に発現不可能なタンパク質(例えば、毒性かつ化学修飾したタンパク質)を、哺乳類細胞内に導入するための手段を提供する。
【0196】
【表14】
apNPP=p−ニトロフェニルホスフェート;k
cat/K
Mは上述の通りに測定した(Ren,L et al.Biochemistry,2011,50,2339−2356)。
【0197】
cFΦR
4の安定性及び細胞毒性。タンパク質分解に対するcFΦR
4、R
9、Tat及びAntp(表8、化合物19〜22)の相対的安定性は、25%のヒト血清中で、37℃にてCPPをインキュベーションし、続いて逆相HPLCにより完全長ペプチドの消失を観察することにより測定した。カチオン性トリプトファン含有ペプチドであるAntpは、4つのCPPの中では最も安定性が低く、20分未満の半減期で分解し、2時間後には完全に消化された(
図13A)。R
9及びTatはAntpよりもわずかに安定しており、約30分の半減期を有した。対照的に、cFΦR
4は血清プロテアーゼに対しては非常に安定していた。6時間インキュベーションした後、分解は10%未満であり、血清中で24時間インキュベーションした後は、70%を超えるcFΦR
4がインタクトなままであった。他の多数の研究もまた、ペプチドの環化は、タンパク質分解安定性を増大させることを示した(Nguyen,LT et al.PLoS One,2010,5,e12684)。cFΦR
4の潜在的細胞毒性は、5つの異なるヒト細胞(HEK293、MCF−7、A549、H1650、及びH1299)によりMTTアッセイで評価した。最大50μMのcFΦR
4により、24〜48時間インキュベーションした後、細胞株のいずれにおいても、著しい増殖阻害は存在しなかった(
図13B及び
図14)。72時間後、わずかな増殖阻害(最大20%)が50μMで観察された(
図14)。したがって、cFΦR
4は哺乳類細胞に対して比較的無毒である。
【0198】
本研究では、cFΦR
4は、低分子、ペプチド及びタンパク質カーゴを、哺乳類細胞の細胞質及び核内に環外送達するのに効果的であることができることが示された。pCAP含有ペプチドをカーゴ/レポーターとして用いることにより、cFΦR
4は細胞質カーゴ送達に関して、R
9、Tat、及びAntpよりも3.7〜12倍効率的であることができ、cFΦR
4を、今日まで最も活性な既知のCPPとしていることが示された。疎水性アシル基の添加等により多塩基CPPを修飾することは、類似の程度で細胞取り込みを向上させることが以前から報告されている(Pham,W et al.Chembiochem,2004,5,1148−1151)が、これらの以前の研究は、向上した取り込みが細胞質でのCPP濃度の同様の増加に変わるか否かについては確立していない。本明細書で記載されるpCAP系のレポーターシステムは、他のCPPの細胞質送達効率を定量的に評価するための、簡便かつ頑強な方法を提供することができる。一連のいくつかの証拠は、cFΦR
4は、アジ化ナトリウムの存在下において4℃で細胞内に入れないこと、cFΦR
4Rhoの蛍光斑点と流体相エンドサイトーシスマーカーのデキストラン
FITCとの部分的な重なり、cFΦR
4Rhoと、タンパク質Rab5及びRab7の共局在化、並びに、エンドサイトーシス阻害剤の投与時における、cFΦR
4Dex取り込みの減少を含む、複数のエンドサイトーシスメカニズムにより、細胞内に入ることができることを示している。cFΦR
4とRab5
+エンドソーム間で観察される強力な共局在化に加えて、cFΦR
4の細胞質送達における、PI3K阻害剤であるワートマニンの最少の効果、及びRab5 Q79L変異は、cFΦR
4は初期エンドソームから流出することができることを示唆している(
図15)。比較すると、Tatは、エンドサイトーシスにより細胞内に入り、及び後期エンドソームからの放出されることが示され、一方で、R
9はRab7動員の前にエンドソームから流出する(Appelbaum,JS et al.Chem.Biol.,2012,19,819−830)。初期エンドソーム放出は、特にペプチド及びタンパク質カーゴに対して利点を提供することができる。これは、初期エンドソーム放出が、後期エンドソーム及びリポソームプロテアーゼによるカーゴ分解、並びにエンドソーム成熟中における酸性化により引き起こされる変性によるカーゴの分解を最小限に抑えることができるためである。実際、cFΦR
4により細胞質内に送達されたGFP及びPTP1Bは共に、折りたたまれた活性形態となっていて、これらはそれぞれ、緑色蛍光、及び細胞内のpYタンパク質の脱リン酸化能力によって示された。更に、より硬直した構造のために、cFΦR
4は直鎖ペプチドよりもタンパク質分解に対して一層安定であることができ、かつサイズがより小さいために、cFΦR
4は合成するのにそれほど高価ではなく、潜在的にカーゴ機能との干渉が起こりにくい。これらの性質は、cFΦR
4を、低分子をタンパク質カーゴに細胞質基質送達するための有用なトランスポーターにすることができる。DNAトランスフェクション及びその後の遺伝子発現において、向上した時間制御を提供することができ、かつ、化学修飾タンパク質、及び発現により毒性を引き起こす可能性があるタンパク質の送達を可能にするため、直接タンパク質送達は、例えばタンパク質の細胞機能を研究するための、有用な研究ツールを提供することができる。cFΦR
4が初期エンドソームで流出する能力、及びcFΦR
4の簡便な構造はまた、エンドソームエスケープのメカニズム、及び流出効率に影響を及ぼす因子を明らかにする優れたシステムも提供することができる。
実施例2
【0199】
ペプチドリガンドの環化は、タンパク質分解に対する安定性の向上、及び場合によっては細胞膜透過性に関して効果的であることができる。しかし、この方法は、拡張したコンホメーション(例えばβストランド及びαヘリックス)のペプチドリガンドを認識するタンパク質とは適合性がない。本研究では、直鎖ペプチドリガンドを、両親媒性配列モチーフ(例えばRRRRΦF、式中ΦはL−ナフチルアラニンである)と縮合させ、得られたコンジュゲートをジスルフィド結合を介して環化させることにより、直鎖ペプチドリガンドの細胞内送達の一般的方法を開発した。環化ペプチドは、向上したタンパク質分解安定性及膜透過性を有することができる。細胞の細胞質/核内に入る際、ジスルフィド結合は還元細胞内環境により切断され、直鎖の生物学的に活性なペプチドを放出することができる。本方法は、カスパーゼ基質としての細胞膜透過性ペプチド、及び嚢胞性線維症の潜在的治療のためのCAL PDZドメインに対する阻害剤を生成するために適用された。
【0200】
直鎖ペプチドの、薬剤としての適用性は多くの場合、タンパク質分解切断を受けやすいこと、及び不十分な膜透過性により制限されてきた。ペプチドの環化は、ペプチドのタンパク質分解安定性を向上させるのに効果的であることができる(Nguyen,LT et al.PLoS One,2010,5,e12684)。更に、一定の両親媒性ペプチド(FΦRRRR、式中ΦはL−2−ナフチルアラニンである)を環化すると、このペプチドを能動輸送メカニズムより細胞膜透過性とすることができることが近年では報告された(Qian,Z et al.ACS Chem.Biol.2013,8,423)。生物学的に活性な環状ペプチドは、このペプチド内にこれらの短い配列モチーフを導入することにより、哺乳類細胞の細胞質及び核内に送達可能である(Qian,Z et al.ACS Chem.Biol.2013,8,423)。しかし、多くの状況において、分子標的への結合(例えばPDZ(Doyle,DA et al.Cell 1996,85,1067;Morais Cabral,JH et al.,Nature 1996,382,649)及びBIRドメイン(Wu,G et al.Nature 2000,408,1008))には、ペプチジルリガンドが拡張コンホメーション(例えばαヘリックス及びβストランド)内に存在する必要がある可能性があり、環化が標的結合と干渉する場合がある。本明細書において、直鎖ペプチドリガンドを、可逆的なジスルフィド結合が仲立ちする環化により哺乳類細胞内に送達するための潜在的な一般的方法を試験する。酸化細胞外環境に存在する場合、ペプチドは大員環として存在することができ、これはタンパク質分解及び細胞膜透過性に対する安定性を有することができる。細胞内(即ち細胞質及び/または核)に入る際、ジスルフィド結合は細胞内のチオールにより還元され、直鎖の生物学的に活性なペプチドを生成することができる(
図16)(Cascales,L et al.J.Biol Chem.2011,286,36932;Jha,D et al.Bioconj Chem.2011,22,319)。
【0201】
材料。ペプチド合成の試薬は、Advanced ChemTech(Louisville,KY)、NovaBiochem(La Jolla,CA)、またはAnaspec(San Jose,CA)から購入した。Rink樹脂LS(100−200メッシュ、0.2mmol/g)はAdvanced ChemTechから購入した。デキストラン
Rho、トリプシン及びα−キモトリプシンはSigma−Aldrich(St.Louis,MO)から購入した。細胞培養培地、ウシ胎児血清、ペニシリン−ストレプトマイシン、0.25%トリプシン−EDTA、及びDPBSは、Invitrogen(Carlsbad,CA)から購入した。核染色染料DRAQ5(商標)はThermo Scientific(Rockford,IL)から購入した。カスパーゼ−3ヒト組み換えタンパク質はEMD Chemicals(San Diego,CA)から購入した。
【0202】
ペプチド合成。大部分のペプチドは、標準的なFmoc化学的性質を使用して、Rink樹脂LS(0.2mmol/g)上で合成した。通常のカップリング反応は、5当量のFmocアミノ酸、5当量の2−(7−アザ−1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)及び10当量のジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を含有し、75分間混合することで処理した。ペプチドを脱保護し、92.5:2.5:2.5:2.5(体積/体積)のトリフルオロ酢酸(TFA)/水/フェノール/トリイソプロピルシラン(TIPS)で2時間処理することにより、ペプチドを脱保護し樹脂から外した。ペプチドを冷却したエチルエーテルで粉砕し(3回)、C
18カラムを装着した逆相HPLCにより精製した。フルオレセインイソチオシアネート(FITC)によるペプチド標識は、精製タンパク質(それぞれ約1mg)を、300μLの1:1:1のDMSO/DMF/150mM重炭酸ナトリウム(pH8.5)中に溶解させ、DMSO(100mg/mL)中のFITC(10μL)と混合することにより実施した。室温で20分後に、反応混合物をC
18カラム上で逆相HPLCに通し、FITC標識ペプチドを単離した。
【0203】
ジスルフィド結合が仲立ちする環状ペプチドを作成するため、DMF中の20%(体積/体積)ピペリジンにより処理することで、N末端のFmoc保護基を除去した後で、無水DCM中のN,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)(10当量)及び4−(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)(0.1当量)を2時間使用して、3,3’−ジチオジプロピオン酸(10当量)をN末端にカップリングした。次に、樹脂をDMF中の20%β−メルカプトエタノールで2時間2回インキュベーションし、遊離チオールにさらした。粉砕した粗直鎖ペプチドを、pH7.4のPBS緩衝液中の5%DMSOで一晩インキュベーションし(Tam,JP et al.J.Am.Chem.Soc.1991,113,6657)、続いて、上述の通りに粉砕し、HPLC精製した(Tam,JP et al.J.Am.Chem.Soc.1991,113,6657)。
【0204】
チオエーテルが仲立ちする環状ペプチドを作製するために、DMF中の20%(体積/体積)ピペリジンにより処理することで、N末端のFmoc保護基を除去した後で、無水DCM中の、10当量のDIC及び0.1当量のDMAPを2時間使用して、4−ブロモ酪酸(10当量)をN末端にカップリングした。L−システイン側鎖上の4−メトキシトリチル(Mmt)保護基を、DCM中の1%トリフルオロ酢酸(TFA)を用いて選択的に除去した。チオエーテルの形成は、DMF中の1%DIPEA内で、窒素保護下にて一晩樹脂をインキュベーションすることにより実施した。次に環化したペプチドを、上述の通りに粉砕して精製した(Roberts,KD et al.Tetrahedron Lett.1998,39,8357)。
【0205】
Fmoc−Asp(Wang−樹脂)−AMC(AMC=7−アミノ−4−メチルクマリン)(NovaBiochem)を固体支持体として使用し、蛍光性カスパーゼ基質を合成した。標準的なFmocの化学的特徴を用いて、固相上でペプチドを合成した。これらのペプチドを、95:2.5:2.5(体積/体積)のTFA/フェノール/水で2時間処理することにより、樹脂から取り外した(Maly,DJ et al.J.Org.Chem.2002,67,910)。
【0206】
細胞培養。DMEM、10%ウシ胎児血清(FBS)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンからなる培地中でヒーラー細胞を保管した。RPMI−1640、10%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンからなる培地中でJurkat細胞を保管した。10%FBS、及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンで補充したL−グルタミンを含有するDMEM中で、ΔF508−CFTR変異とホモ接合した、気管支上皮CFBE細胞株を保管した。ヒトフィブロネクチン(1mg/mL)、ウシI型コラーゲン(3mg/mL)を用いて組織培養皿を覆い、5% CO
2の加湿したインキュベーター内で、37℃にてウシ血清アルブミン(1mg/mL)細胞をインキュベーションした。
【0207】
共焦点顕微鏡法。ペプチドの内在化を検出するために、1mLのヒーラー細胞懸濁液(5×10
4個の細胞)を、35mmのガラス底マイクロウェルディッシュ(MatTek)内に播種し、一晩培養した。細胞をDPBSで穏やかに2回洗浄し、5% CO
2の存在下にて37℃で1時間、1%の血清を含有する、フェノールレッド非含有DMEM中のFITC標識ペプチド(5μM)及びデキストラン
Rho(0.5mg mL
−1)で処理した。培地を取り除いた後、細胞をDPBSで2回穏やかに洗浄し、DPBS中の5μMのDRAQ5で10分間インキュベーションした。細胞を再び、DPBSで2回洗浄し、Visitech Infinity 3 Hawk 2Dアレイ生細胞イメージング共焦点顕微鏡でイメージングした。画像を同一パラメーターの下で捕捉し、MetaMorph(Molecular Devices)を使用して同一条件下で調節した。
【0208】
フローサイトメトリー。ヒーラー細胞を6ウェルプレート(ウェルあたり5×10
5個の細胞)内で24時間培養した。実験の日に、細胞を37℃で2時間、1%FBSを有する透明DMEM中の、5μMのFITC標識ペプチドでインキュベーションした。細胞をDPBSで洗浄し、0.25%トリプシンでプレートから分離し、10%FBSを含有する透明DMEM内に希釈し、250gを5分間ペレット操作し、DPBSにて1回洗浄し、1%ウシ血清アルブミンを含有するDPBS中で再懸濁し、BD FACS Ariaフローサイトメーターで分析した。Flowjoソフトウェア(Tree Star)でデータを分析した。
【0209】
PCPコンジュゲートペプチドの送達効率を定量化するため、ヒーラー細胞を6ウェルプレート(ウェルあたり5×10
5個の細胞)内で24時間培養した。実験の日に、1%のFBSを含む透明なDMEM中にて、37℃で2時間、細胞を5μMのpCAP含有ペプチドでインキュベーションした。1mMのペルバナジウム酸ナトリウムを含有するDPBSで細胞を洗浄し、0.25%トリプシンでプレートから分離し、1%のウシ血清アルブミンを含有するDPBS中に懸濁し、BD FACS Ariaフローサイトメーターにより355nmの励起で分析した。
【0210】
ペプチドのタンパク質分解安定性アッセイ。安定性試験は、以前に報告した手順(Frackenpohl,J et al.Chembiochem 2001,2,445)をわずかに修正することにより実施した。1.5mMのペプチド溶液(24μL)を、200μLの作業緩衝液(50mMのTris−Hcl、pH8.0、NaCl(100mM)、CaCl
2(10mM))中の50μMのα−キモトリプシン(30μL)、及び、50μMのトリプシン(30μL)により37℃でインキュベーションした。種々の時点(0〜12時間)において、40μLのアリコートを取り出し、15%のトリクロロ酢酸(40μL)と混合し、4℃で一晩インキュベーションした。最終混合物を15,000rpmで10分間、微細遠心分離器で遠心分離し、上清を、C
18カラム(Waters)を装着した逆相HPLCで分析した。残存ペプチドの量(%)をペプチドピーク(214nmで監視)の下の面積を積分することにより求め、対照反応(プロテアーゼなし)の量と比較した。
【0211】
細胞内蛍光分析アッセイ。100μLのJurkat細胞懸濁液(5×10
5cells/mL)を、実験の1時間前に96ウェルプレートに播種した。10μLのスタウロスポリン原液(10μM)を半分のウェルに加えてアポトーシスを誘発した一方で、10μLの培地を他のウェルに加えた。1時間のインキュベーションの後、カスパーゼ−3蛍光原基質を細胞に加え、最終濃度を5μMにした。放出したクマリンの蛍光を、種々の時点(0〜6時間)で、励起及び発光波長を360及び440nmとして、Spectramax M5プレートリーダーで測定した。誘発細胞及び非誘発細胞間での蛍光単位(FU)の増加を時間に対してプロットし、生細胞内でリアルタイムで種々の蛍光原基質を用いて測定したカスパーゼ−3活性を示した。それぞれ3通りで実施した、3つの独立した一連の実験を行った。
【0212】
in vitroでの蛍光分析アッセイ。0.5μL(100U/μL)のカスパーゼ−3酵素を、まず96ウェルプレート内で30分間、90μLの反応緩衝液(50mMのHEPES、pH7.4、100mMのNaCl、10mMのDTT)でインキュベーションした。蛍光原基質(10μL、100μM)を上記溶液に混合して反応を開始させ、Spectramax M5プレートリーダー(Ex=360nm、Em=440nm)(Molecular Devices)でプレートを測定した。1分間隔での蛍光単位(FU)の増加は、プロテアーゼ活性によるAmcの放出と相関した。ΔFU/分を、反応曲線の直線部分から計算した。報告値は、3つの試験の平均であり、標準偏差と共に示している。
【0213】
蛍光異方性。完全な蛍光異方性(FA)滴定実験を、100nMのフルオロフォア標識ペプチジルリガンドを、室温で2時間、FA緩衝液(20mMのHEPES、pH7.4、150mMのNaCl、5mMのグルタチオン、0.1%(重量/体積)のウシ血清アルブミン)中にて種々の濃度(0〜6μM)のCAL−PDZ(Cushing,PR et al.Biochemistry 2008,47,10084)によりインキュベーションすること により実施した。FA値を、励起及び発光波長はそれぞれ、485nm及び525nmにて、Molecular Devices Spectramax M5分光蛍光光度計で測定した。CAL−PDZ濃度の関数として蛍光異方性値をプロットすることにより、平衡解離定数(K
D)を測定した。滴定曲線は以下の等式に一致し、この等式は1:1の結合化学量論を推定する。
【数1】
【0214】
式中、Yは所与のCAL−PDZ濃度xにおける測定された異方性であり、Lは二環式ペプチドの濃度であり、Q
b/Q
fは染料−タンパク質の相互作用に関する補正係数であり、A
maxは、ペプチド全てがCAP−PDZに結合した場合の最大の異方性であり、一方、A
minはペプチド全てが遊離した場合の最少の異方性である。
【0215】
免疫蛍光染色。簡単に説明すると、DF508−CFTR変異体とホモ接合した気管支上皮CFBE細胞を、50μMの非標識ペプチド8の存在下及び不在下において、10mMのCorr−4aで処理した。処理の後、細胞を冷却したメタノール中で20分間固定した。次に、スライドを1% BSA/PBS中で10分間インキュベーションした後、マウス抗ヒトモノクロナールCFTR抗体(R&D Systems)により1時間、37℃でインキュベーションした。その後、スライドを、Alexa Fluor(登録商標)488−コンジュゲート化抗マウスIgG2a二次抗体で45分間、37℃でインキュベーションした。細胞をLeica TCS SP2 AOBS共焦点レーザー走査顕微鏡で可視化した。全ての測定は、2つの独立した調査員により、二重盲検法で実施した。
【0216】
SPQの細胞内塩素濃度アッセイ。SPQの蛍光は 細胞内塩素の濃度の増加と負の相関があるため(Illsley,NP and Verkman,AS.Biochemistry 1987,26,1215)、SPQ(6−メトキシ−N−(3−スルホプロピル)キノリニウム)アッセイを用いて、CFBE細胞内におけるΔF508−CFTR活動の輸送活性を推定した。L−グルタミン及び10% FBSを補充したDMEM培地を用いて、CFBE細胞を96ウェルプレート上で増殖させた。プレートは1mg/mLのヒトフィブロネクチン、3mg/mLのウシI型コラーゲン、及び1mg/mLのウシ血清アルブミンでプレコートした。まず、細胞を20μMのCFTRコレクタVX809(Van Goor,F et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.2011,108,18843)の存在下または不存在下にて24時間、及び50μMのCAL−PDZドメイン阻害剤で1時間処理した。次に細胞に、10mMの1:1(体積/体積)Opti−MEM/水溶液を含有するSPQにより、15分間37℃にて、低張ショックを使用してSPQと共に担持した。次に、細胞を蛍光クエンチNaI緩衝液(130mMのNaI、5mMのKNO
3、2.5mMのCa(NO
3)
2、2.5mMのMg(NO
3)
2、10mMのD−グルコース、10mMのN−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−N’−(2−エタンスルホン)酸(HEPES、pH7.4))により2回洗浄して、10分間インキュベーションした。その後、細胞を、CFTR活性化カクテル(10μMのフォルスコリン及び50μMのゲニステイン)と共に脱クエンチ等張性NaNo
3緩衝液(130mMのNaIを130mMのNaNO
3で置き換えたことを除いて、NaI緩衝液と同一)に移し替えた。CFTRが仲立ちするヨウ化物に非特異的な蛍光の発散は、細胞を、活性化カクテル及びCFTR特異的阻害剤のGlyH101(10μM)でインキュベーションすることにより測定した。CAL−PDZ阻害剤の効果を、基本量を上回る蛍光の増加割合により評価した。脱クエンチしたSPQの蛍光を、350nmでの励起波長を有し、及びDAPI発光フィルターを備えたプレートリーダーVICTOR X3(Perkin Elmer)を使用して測定した。データは、少なくとも3つの別の実験からの、平均値±標準偏差として示した。
【0217】
ホモデクティック(homodectic)な両親媒性環状ペプチドであるシクロ(FΦRRRRQ)(cFΦR
4)は、エンドサイトーシス及びエンドソームエスケープにより哺乳類細胞の細胞質内に入ることができる、非常に活性の細胞膜透過性ペプチド(CPP)として報告されている(Qian,Z et al.ACS Chem.Biol.2013,8,423)。可逆的環化方法の有効性を試験するために、N−3−メルカプトプロピオニル−FΦRRRRCK−NH
2ペプチドを合成した後、分子内ジスルフィド結合を形成することにより環化した(
図17;表10、ペプチド1)。同一配列の直鎖ペプチド(表10、ペプチド2) もまた、N末端の3−メルカプトプロピオニル基をブチリル基で、かつC末端のシステインを2−アミノ酪酸(AbuまたはU)で置き換えることにより合成した。ペプチドは共に、C末端リジン残基をフルオレセインイソチオシアネート(FITC)で標識し、生細胞共焦点顕微鏡法及びフローサイトメトリーにより、これらの細胞取り込みを評価した。環状ペプチド(5μM)で処理したヒーラー細胞は、細胞の容量全体を通して強力で拡散した緑色蛍光を示したが、エンドサイトーシスマーカーであるローダミン標識デキストラン(デキストラン
Rho)は、細胞質領域でのみ点状の蛍光を示した(
図18A)。細胞質及び核領域の両方における、FITC蛍光のほぼ一様な分布は、環状ペプチドはヒーラー細胞により効率的に内在化され、かつ同様に、親環状ペプチドであるcFΦR
4は、エンドソームから効率的に流出できたことを示唆している。対照的に、直鎖の対照ペプチドで処理した細胞は、同一のイメージング条件下において、一層弱い細胞内蛍光を示した。蛍光活性細胞選別(FACS)による、細胞内蛍光の全ての定量化では、ジスルフィド環化ペプチド、直鎖ペプチド、及びFITCのみで処理した細胞の平均蛍光強度(MFI)は、それぞれ27,100、5530、及び1200任意単位(AU)であった(
図18B)。非常に負に荷電したペンタペプチドのAsp−Glu−pCAP−Leu−Ile(PCP、pCAPはホスホクマリルアミノプロピオン酸)もまたカーゴとして使用し、ポリエチレングリコールリンカーを介してペプチド1及び2に結合した(
図17)。pCAPは非蛍光性であるが、哺乳類細胞質内に送達した場合、速やかに脱リン酸化を受けて、蛍光生成物であるクマリルアミノプロピオン酸(CAP)を生成した(Stanford,SM et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.2012,109,13972)。それゆえ、pCAPアッセイは、異なるCPPの細胞質/核濃度の定量的評価を提供する(Qian,Z et al.ACS Chem.Biol.2013,8,423)。5μMのペプチド1−PCP及びペプチド2−PCPで処理したヒーラー細胞のFACS分析では、MFI値はそれぞれ3020及び700となった(
図19)。したがって、上の結果は、ジスルフィド結合を介したFΦRRRRの環化 は、N〜C環化と類似の効果を有することができ、細胞取り込み効率を約5倍増加させることができることを示している(Qian,Z et al.ACS Chem.Biol.2013,8,423)。更に、ジスルフィド結合形成による環化は、ペプチドのタンパク質分解耐性を向上させることができる。プロテアーゼカクテルでペプチド1を12時間インキュベーションすると、50%未満が分解されたが、直鎖ペプチド2は同一条件下にて約20分の半減期で分解した(
図20)。
【0218】
【表15】
aAmc=7−アミノ−4−メチルクマリン;FITC=フルオレセインイソチオシアネート;Φ=L−2−ナフチルアラニン;Ω=ノルロイシン;U=2−アミノ酪酸。
【0219】
可逆的環化法の実用性を示すため、この環化法を使用して特異的カスパーゼ基質を細胞内に送達し、細胞内カスパーゼ活性をリアルタイムで監視した(Riedl,SJ and Shi,Y.Nat.Rev.Mol.Cell Biol.2004,5,897)。ペプチジルクマリン誘導体は、in vitroでカスパーゼ活性を検出するために幅広く使用されてきている(Maly,DJ et al.Chembiochem 2002,3,16)が、この誘導体は通常、哺乳動物細胞への不透過性のために、in vivo用途には適していない。細胞膜透過性カスパーゼ基質を生成するため、カスパーゼ3/7基質であるAc−Asp−Nle−Abu−Asp−Amc(Thornberry,NA et al.J.Biol.Chem.1997,272,17907)(表10、ペプチド3、式中、Amcは7−アミノ−4−メチルクマリンであり、Nleはノルロイシンである)を、CPPモチーフRRRRΦFと縮合させた。続いて、縮合ペプチドを、3−メルカプトプロピオニル基をN末端に添加し、 C末端のAbuをシステインで置き換え、分子内ジスルフィド結合を形成することにより環化し、環状ペプチド4(表10)を得た。比較のため、等配電子であり、非可逆的に環化したペプチド(表10、ペプチド5) を、N末端のブロモブチリル部位とC末端のシステイン間にチオエーテル結合を形成することにより合成した(
図17)。同一配列の直鎖対照ペプチドもまた、上述の通りに調製した(表10、ペプチド6)。最終的に、カスパーゼ3/7基質を非アルギニン(R
9)とコンジュゲートし、陽性対照ペプチドを生成した(表10、ペプチド7)。in vitroの動力学的分析は、カスパーゼ3/7基質をRRRRΦF及びR
9に縮合させると、ペプチド3と比較してそれぞれ活性を53%、72%低下させたが、一方、チオエーテル形成による環化は、ペプチドを組み換えカスパーゼ3に対して不活性とさせた(表11)ことを明らかにした。カスパーゼ3に対するペプチド4の活性は、カスパーゼアッセイが、ジスルフィド結合を切断する還元環境を必要としたため、確実に測定できなかった。ペプチド4及び5の構造類似性を考慮すると、環状形態のペプチド4はカスパーゼに対してもまた不活性であるが、ジスルフィド結合の還元切断の後はペプチド6に対して類似の活性を有すると想定することができる。
【表16】
【0220】
Jurkat細胞をキナーゼ阻害剤のスタウロスポリンで前処理し、カスパーゼ活性を誘発させることで、アポトーシスを誘発させた(Belmokhtar,CA et al.Biochem.J.1996,315,21)。次に、これらの細胞をペプチド3〜7でインキュベーションし、放出したAmcの量を種々の時点(0〜10時間)で監視した。不透過性のカスパーゼ基質(ペプチド3)は、10時間の間で殆ど蛍光増加を生み出さなかった(
図21)。ペプチド4は最速で蛍光増加を生み出し、459蛍光単位(FU)に達し、ペプチド7及び6が後に続いた。カスパーゼ3に対しては不活性であるペプチド5もまた、大幅に遅い速度ではあるが、時間に依存した方法でAMCを産生した(99FU)。この、AMC放出の遅い速度は、他の細胞内プロテアーゼ及びペプチダーゼによる加水分解に起因し得る。この解釈と一致するように、Jurkat細胞を汎カスパーゼ阻害剤のZ−VAD(OMe)−FMK(Slee,EA et al.Biochem J.1996,315,21)により前処理し、続いてペプチド4でインキュベーションすることで、ペプチド5のみの速度と同様の速度でAMCを放出した。上記観測結果の一解釈は、ペプチド4及び5は共に、細胞内に効率的に入ることができるが、ペプチド4のみが細胞内で直鎖カスパーゼ基質に転換できるということである。
【0221】
多くのタンパク質−タンパク質相互作用(PPI)は、拡張コンホメーション(例えばαヘリックス及びβストランド)における、タンパク質ドメイン結合短ペプチドにより仲立ちされる(Pawson,T and Nash,P.Science 2003,300,445)。例えば、PDZドメインは、ヒトに対する細菌のシグナル伝達タンパク質で見出される、80〜90個のアミノ酸の共通構造ドメイン (Doyle,DA et al.Cell 1996,85,1067;Morais Cabral,JH et al.,Nature 1996,382,649;Lee,HJ and Zheng,JJ.Cell Commun.Signal.2010,8,8)である。PDZドメインは、結合パートナーのC末端における特異的配列を認識し、かつ、結合したペプチドリガンドは、ドメインの拡張βストランドコンホメーション内にある(Doyle,DA et al.Cell 1996,85,1067;Songyang,Z et al.Science 1997,275,73)。嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)である、嚢胞性線維症(CF)患者内で変異した塩化物イオンチャネルタンパク質の活性は、PDZドメイン(CAL−PDZ)を通して、CFTR会合リガンド(CAL)により負に調節されることが近年報告されている(Wolde,M et al.J.Biol.Chem.2007,282,8099)。CFTR/CAL−PDZ相互作用の阻害は、プロテアソームが仲立ちする分解を減少させることにより(Cushing,PR et al.Angew.Chem.Int.Ed.2010,49,9907)、最も一般的なCFTR変異の形態である、ΔPhe508−CFTRの活性(Cheng,SH et al.Cell 1990,63,827;Kerem,BS et al.Science 1989,245,1073)を改善することが示された。以前のライブラリースクリーニング及び合理的設計は、適度な潜在能(高nMから低μM範囲でのK
D値)を有するCAL−PDZドメインの、いくつかのペプチジル阻害剤を識別している(Cushing,PR et al.Angew.Chem.Int.Ed.2010,49,9907;Roberts,KE et al.PLos Comput.Biol.2008,8,e1002477;Kundu,R et al.Angew.Chem.Int.Ed.2012,51,7217−7220)。しかし、ペプチド阻害剤のいずれもが細胞膜透過性ではなく、その治療的可能性を限定している。
【0222】
CAL−PDZドメインに対するヘキサペプチドリガンドから、ジスルフィドが仲立ちする環状ペプチドであるWQVTRV(Roberts,KE et al.PLos Comput.Biol.2008,8,e1002477)を、配列CRRRRFをN末端に添加し、−3位のValをシステインで置き換えることにより設計した(表10、ペプチド8)。したがって、ペプチド8では、−5位のトリプトファン残基を、PDZ結合と膜転座という、二重の機能を果たすように設計した。細胞取り込みの親和性測定及び定量化を容易にするため、FITC基をペプチド8のN末端に添加した。FA分析は、還元剤の不存在下で、ペプチド8はCAL−PDZドメインに検出可能な結合を示さないことを示した(
図22A)。ジスルフィド結合を還元可能な2mMのトリス(カルボキシエチル)ホスフィンの存在下において、ペプチド8はCAL−PDZドメインに、489nMのK
D値で結合した。ペプチド8は容易に細胞膜を透過することができた。5μMのペプチド8でヒーラー細胞を2時間インキュベーションすることで、細胞全体にわたり、強力かつ拡散した蛍光が得られた(
図22B)。
【0223】
予想通り、ペプチド8は容易に細胞膜を透過することができた(
図25C)。ΔF508−CFTR変異体とホモ接合した、気管支上皮CFBE細胞を、50μMの非標識ペプチド8の存在下及び不存在下において、10μMのCorr−4aで処理した。CAL−PDZドメインの機能を阻害することにより、ペプチド8は、原形質膜に移動したΔF508−CFTRタンパク質の量を増大させることが予想される一方で、Corr−4aは、原形質膜に送達されたΔF508−CFTRタンパク質のフォールディングを補助する低分子である。未処理細胞の免疫染色(
図25D、パネルI)は、発現したΔF508−CFTRの大部分は、細胞核を取り巻く小胞体内に存在したことを示した。対照的に、Corr−4a及びペプチド8での細胞の処理は、細胞表面により大量のタンパク質をもたらした(
図25D、パネルII)。細胞集団の定量化により、少量ではあるが、著しい割合の細胞が、細胞表面において野生型同様のΔF508−CFTR分布を有することが明らかとなった(
図25D)。最終的に、SPQアッセイを利用して、未処理、またはCFTRフォールディングコレクタVX809及びペプチド8で処理したΔF508−CFTR CFBE細胞のイオンチャンネル活性を定量化した。再び、VX809及びペプチド8は相乗的に作用し、ΔF508−CFTRのチャネル活性の機能を向上させた(
図25E)。
実施例3
【0224】
環状ペプチドは、治療薬及び研究手段として大いなる可能性を有するが、通常細胞膜には不透過性である。環状ペプチドを環状細胞膜透過性ペプチドと縮合することで、細胞膜透過性であることができる二環式ペプチドを作製し、特異的な細胞内標的を認識する能力を維持することができる。タンパク質チロシンホスファターゼ1B、及びペプチジルプロリルシス−トランスイソメラーゼPin1を本方法に適用することで、酵素に対して強力、選択的、タンパク質分解に対して安定であり、かつ生物学的に活性な阻害剤を得た。
【0225】
環状ペプチド(及びデプシペプチド)は、広範囲の生物活性を示す(Pomilio,AB et al.Curr.Org.Chem.2006,10,2075−2121)。個別に(Meutermans,WDF et al.J.Am.Chem.Soc.1999,121,9790−9796;Schafmeister,CE et al.J.Am.Chem.Soc.2000,122,5891−5892;Sun,Y et al.Org.Lett.2001,3,1681−1684;Kohli,RM et al.Nature 2002,418,658−661;Qin,C et al.J.Comb.Chem.2004,6,398−406;Turner,RA et al.Org.Lett.2007,9,5011−5014;Hili,R et al.J.Am.Chem.Soc.2010,132,2889−2891;Lee,J et al.J.Am.Chem.Soc.2009,131,2122−2124;Frost,JR et al.ChemBioChem 2013,14,147−160)、または組み合わせにより(Eichler,J et al.Mol.Divers.1996,1,233−240;Giebel,LB et al.Biochemistry 1995,34,15430−15435;Scott,CP et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1999,96,13638−13643; Millward,SW et al.J.Am.Chem.Soc.2005,127,14142 −14143;Sako,Y et al.J.Am.Chem.Soc.2008,130,7232−7234.;Li,S et al.Chem.Commun.2005,581−583.;Joo,SH et al.J.Am.Chem.Soc.2006,128,13000−13009;Heinis,C et al.Nat.Chem.Biol.2009,5,502−507;Tse,BN et al.J.Am.Chem.Soc.2008,130,15611−15626)のいずれかで、環状ペプチドを合成し、これらの生物活性をスクリーニングするいくつかの革新的方法論が近年開発されている。環状ペプチドの特に刺激的な用途は、タンパク質−タンパク質相互作用(PPI)の阻害(Leduc,AM et al.Proc.Natl.Acad.Sic.USA 2003,100,11273−11278;Millward,SW et al.ACS Chem Biol 2007,2,625−634;Tavassoli,A et al.ACS Chem.Biol.2008,3,757−764.;Wu,X et al.Med.Chem.Commun.2013,4,378−382;Birts,CN et al.Chem.Sci.2013,4,3046−3057;Kawakami,T et al.ACS Chem.Biol.2013,8,1205−1214;Lian,W et al.J.Am.Chem.Soc.2013,135,11990−11995)であるが、この用途は、従来の低分子に対しては依然として課題目標のままである。しかし、環状ペプチドの主な制限は、通常細胞膜に不透過性であり、治療に関係のあるPPIの大部分を含む細胞内標的に対する、いかなる用途も排除していることである。分子内水素結合(Rezai,T et al.J.Am.Chem.Soc.2006,128,14073−14080)、またはペプチド骨格のN
a−メチル化(Chatterjee,J et al.Acc.Chem.Res.2008,41,1331−1342;White,TR et al.Nat.Chem.Biol.2011,7,810−817)の形成は、一定の環状ペプチドの膜透過性を改善することができるが、環状ペプチドの細胞膜透過性を増加させる代わりの方法が明確に必要である。
【0226】
プロテインチロシンホスファターゼ1B(PTP1B)はPTPスーパーファミリーのプロトタイプメンバーであり、真核細胞シグナル伝達中に種々の役割を果たす。インスリン及びレプチン受容体シグナリングを負に調節する役割のために、PTP1Bは2型糖尿病及び肥満の治療に関する有効な標的である(Elchelby,M et al.Science 1999,283,1544-1548;Zabolotny,JM et al.Dev.Cell 2002,2,489−495)。多数のPTP1B阻害剤が報告されている(He,R et al.in New Therapeutic Strategies for Type 2 Diabetes:Small Molecule Approaches.Ed.R.M.Jones,RSC Publishing 2012,pp142)ものの、これらは全て、臨床的には成功していない。ホスホチロシン(pY)同配体(例えばジフルオロホスホノメチルフェニルアラニン(F
2Pmp))の大部分は細胞膜に不透過性である(Burke Jr.,TR et al.Biochem.Biophys.Res.Commun.1994,204,129−134)ため、PTP阻害剤の設計は困難である。更に、全てのPTPが同様の活性部位を共有しているため、単一のPTPに対する選択性を達成することは困難であった。本明細書においては、細胞内タンパク質(例えばPTP1B)に対する細胞膜透過性環状ペプチジル阻害剤を設計するための、潜在的な一般的アプローチを報告している。
【0227】
材料。Fmoc保護アミノ酸は、Advanced ChemTech(Louisville,KY)、Peptides International(Louisville,KY)、またはAapptec(Louisville,KY)から購入した。Fmoc−F
2Pmp−OHはEMD Millipore(Darmstadt,Germany)から購入した。アミノメチル−ChemMatrix樹脂(0.66mmol/g)はSJPC(Quebec,Canada)から入手した。Rink樹脂LS(100〜200メッシュ、0.2mmol/g)及びN−(9−フルオレニルメトキシカルボニルオキシ)スクシンイミド(Fmoc−Osu)はAdvanced ChemTechから購入した。O−ベンゾトリアゾール−N,N,N,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、2−(7−アザ−1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物(HOBt)はAapptecから購入した。1mLの密封アンプル内のフェニルイソチオシアネート、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミンB標識デキストラン(デキストラン
Rho)はSigma−Aldrichから購入した。細胞培地である、ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリン−ストレプトマイシン、0.25%トリプシン−EDTA、ダルベッコリン酸塩−緩衝生理食塩水(DPBS)(2.67mMの塩化カリウム、1.47mMのリン酸カリウム(一塩基性)、137mMの塩化ナトリウム、8.06mMのリン酸ナトリウム(二塩基性))、及び抗−ホスホ−IR/IGF1R抗体 は、Invitrogen(Carlsbad,CA)から購入した。核染色染料DRAQ5(商標)及び抗β−アクチン抗体はThermo Scientific(Rockford,IL)から購入した。抗体4G10はMillipore(Temecula,CA)から購入した。全ての溶媒、及び他の化学試薬はSigma−Aldrich(St.Louis,MO)から購入し、別段の定めがある場合を除き、更に精製することなく使用した。
【0228】
細胞培養。A549、HEK293、及びHepG2細胞は、5% CO
2を有する37℃の加湿インキュベーター内で、10% FBSを補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)内で保管した。
【0229】
タンパク質発現、精製及びラベリング。PTP1Bの触媒領域(アミノ酸1〜321)をコードするための遺伝子を、PTP1B cDNAをテンプレートとして、並びにオリゴヌクレオチド5’−ggaattccatatggagatggaaaaggagttcgagcag−3’及び5’−gggatccgtcgacattgtgtggctccaggattcgtttgg−3’をプライマーとして用いるポリメラーゼ連鎖反応により増幅した。得られたDNA断片をエンドヌクレアーゼNde I及びSal/Iで消化し、原核細胞ベクターpET−22b(+)−ybbR内に挿入した(Yin,J et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.2005,102,15815−15820)。このクローニング手順は、PTP1BのN末端にybbRタグ(VLDSLEFIASKL)の添加をもたらした。ybbRタグPTP1Bの発現及び精製は、上述の通りに実施した(Ren,L et al.Biochemistry 2011,50,2339−2356)。PTP1BのTexas Red標識は、50mMのHEPES(pH7.4)、10mMのMgCl
2中のybbRタグPTP1Bタンパク質(80μM)を、Sfpホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(1μM)及びTexas Red−CoA(100μM)により30分間、室温で処理することにより実施した(Yin,J et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.2005,102,15815−15820)。反応混合物を30mMのHEPES(pH7.4)、150mMのNaClで平衡化したG−25高速脱塩カラムに通し、あらゆる遊離染料分子を除去した。完全長ヒトS16A/Y23A変異体Pin1が発現し、これを上述の通りに大腸菌から精製した(Liu,T et al.J.Med.Chem.2010,53,2494−2501)。
【0230】
ライブラリー合成。環状ペプチドライブラリーを、1.35gのアミノメチル−ChemMatrix樹脂(0.57mmol/g)上で合成した。ライブラリー合成は、別の記載がない限り室温で実施した。リンカー配列(BBM)を、標準的なFmoc化学作用を用いて合成した。典型的なカップリング反応は、5当量のFmocアミノ酸、5当量のHBTU、及び10当量のジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を含有し、2時間混合しながら進めた。Fmoc基は、DMF中の20%(体積/体積)ピペリジンで2回(5+15分)処理することで除去し、ビーズをDMFで完全に洗浄した(6回)。ビーズを外層及び内層に空間的に分離させるため、(N末端のFmoc基を除去した後の)樹脂をDMFと水で洗浄し、水中に一晩浸した。樹脂を速やかに取り除き、20mLの1:1(体積/体積)のDCM/ジエチルエーテル中の、Fmoc−Glu(δ−NHS)−OAll(0.10当量)、Boc−Met−Osu(0.4当量)及びN−メチルモルホリン(2当量)の溶液に懸濁させた(Joo,SH et al.J.Am.Chem.Soc.2006,128,13000−13009)。混合物を回転シェーカーで30分間インキュベーションした。ビーズを1:1 DCM/ジエチルエーテル(3回)及びDMF(8回)で洗浄した。次に、Fmoc基をピペリジン処理により除去した。次いで、Fmoc−Arg(Pbf)−OH(4回)、Fmoc−Nal−OH、及びFmoc−Phe−OHを、標準的なFmoc化学作用により、連続して樹脂の半分とカップリングさせた。他の半分は逆配列で、同一のアミノ酸とカップリングさせた。樹脂を組み合わせ、5当量のFmocアミノ酸、カップリング剤として5当量のHATU及び10当量のDIPEAを使用したスプリットプール法によりランダムな配列を合成した。カップリング反応をもう一度繰り返し、各工程にて確実に完全なカップリングを行った。ランダムな位置に関して、10個のタンパク質構成α−L−アミノ酸(Ala、Asp、Gln、Gly、His、Ile、Ser、Trp、Pro、及びTyr)、5つの非タンパク質構成α−L−アミノ酸(L−4−フルオロフェニルアラニン(Fpa)、L−ホモプロリン(Pip)、L−ノルロイシン(Nle)、L−フェニルグリシン(Phg)及びL−4−(ホスホノジフルオロメチル)フェニルアラニン(F
2Pmp))、並びに9個のα−D−アミノ酸(D−2−ナフチルアラニン(D−Nal)、D−Ala、D−Asn、D−Glu、D−Leu、D−Phe、D−Pro、D−Thr、及びD−Valを含む24個のアミノ酸の集合は、構造の多様性、 代謝安定性、 及び商業上の利用可能性に基づいて選択した。PED−MS分析中の同重アミノ酸(isobaric amino acid)を区別するため、4%(mol/mol)のCD
3CO
2DをD−Ala、D−Leu、及びD−Proのカップリング反応に添加し、一方で、4%のCH
3CD
2CO
2DをNle反応に加えた。Fmoc−F
2Pmp−OH(0.06当量)及びFmoc−Tyr−OH(0.54当量)を、HATU/DIPEAを用いてランダムな位置の中央に配置した。配列全体を合成した後、C末端のGlu残基上にあるアリル基を、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(PPh
3)
4、0.25当量]及びフェニルシラン(5当量)を含有するDCM溶液で15分間(3回)処理することにより除去した。ビーズを、DMF中の0.5%(体積/体積)DIPEA、DMF中の0.5%(重量/体積)ジメチルジチオカルバミド酸ナトリウム水和物、DMF(3回)、DCM(3回)、及びDMF(3回)で連続して洗浄した。N末端のランダムな残基上のFmoc基を、上述の通りにピペリジンにより除去した。ビーズをDMF(6回)、DCM(3回)、及びDMF中の1M HOBt(3回)で洗浄した。ペプチド環化に関して、DMF中のPyBOP/HOBt/DIPEA(それぞれ5、5、10当量)の溶液を樹脂と混合し、混合物を回転シェーカーで3時間インキュベーションした。樹脂をDMF(3回)及びDCM(3回)で洗浄し、真空下にて1時間を超えて乾燥させた。側鎖の脱保護は、変性試薬K(78.5:7.5:5:5:2.5:1:1(体積/体積)のTFA/フェノール/水/チオアニソール/エタンジチオール/アニソール/トリイソプロピルシラン)により3時間実施した。樹脂をTFA及びDCMで洗浄し、真空下にて乾燥させた後−20℃で保存した。
【0231】
ライブラリースクリーニング及びペプチド配列決定。ライブラリーの樹脂(100mg、約300,000個のビーズ)をDCM中で膨潤させ、DMFにより広範囲にわたり洗浄し、H
2Oで2回蒸留し、20nMのTexas Red標識PTP1Bを含有する(1mL)のブロック緩衝液(PBS、pH7.4、150mMのNaCl、0.05%のTween20及び0.1%のゼラチン)中で、4℃にて3時間インキュベーションした。ビーズを、蛍光灯照明器を装着したOlympus SZX12顕微鏡(Olympus America,Center Valley,PA)で調査し、最も強力な蛍光ビーズを、陽性ヒットとして手動で収集した。コード直鎖ペプチドを含有するビーズを、部分Edman分解及び質量分析(PED−MS)により配列決定した(Liu,T et al.J.Med.Chem.2010,53,2494−2501)。
【0232】
個々のペプチド合成及びラベリング。単環式及び二環式ペプチドを、標準的なFmoc化学作用を用いて、Rink樹脂LS(0.2mmol/g)上で合成した。単環式ペプチドに関しては、最後(N末端)の残基をカップリングした後、C末端のGlu残基上にあるアリル基を、無水DCM中のPd(PPh
3)
4及びフェニルシラン(それぞれ0.1及び10当量)で処理(3×15分)することにより除去した。N末端のFmoc基を、DMF中の20%(体積/体積)ピペリジンで処理することにより除去し、DMF中のPyBOP/HOBt/DIPEA(5、5、及び10当量)で3時間処理することにより、ペプチドを環化した。二環式ペプチドに関しては、N末端のFmoc基をピペリジンで除去し、HBTUをカップリング剤として用いて、トリメシン酸をN末端アミン上にカップリングした。2つのDap残基の側鎖上にあるアリルオキシカルボニル基を、無水DCM中のPd(PPh
3)
4及びフェニルシラン(それぞれ0.1及び10当量)で2時間処理することにより除去した。得られたペプチドを、上述の通りPyBOPを用いて環化した。82.5:5:5:5:2.5(体積/体積)のTFA/チオアニソール/水/フェノール/エタンジチオールで2時間処理することにより、ペプチドを脱保護し樹脂から外した。ペプチドを冷却したエチルエーテルで粉砕し(3回)、C
18カラム上で逆相HPLCにより精製した。各ペプチドの確実性は、MALDI−TOF質量分析により確認した。FITCでのペプチドのラベリングは、1:1:1(体積/体積)のDMSO/DMF/150mMの重炭酸ナトリウム(pH8.5)300μLに精製ペプチド(約1mg)を溶解させ、DMSO(100mg/mL)中のFITC(10μL)で混合することにより実施した。室温で20分後に、反応混合物をC
18カラム上で逆相HPLCに通し、FITC標識ペプチドを単離した。
【0233】
PTP阻害アッセイ。石英キュベット(総容積150μL)内でPTPアッセイを実施した。反応混合物は、100mMのTris−Hcl(pH7.4)、50mMのNaCl、2mMのEDTA、1mMのTCEP、0〜1μMのPTP阻害剤、及び500μMのp−ニトロフェニルホスフェート(pNPP)を含有する。酵素反応は、PTPを添加することにより開始し(最終濃度15〜75nM)、UV−VIS分光光度計で405nmにて連続的に監視した。初期速度を、反応進行曲線から計算した(通常、60秒未満)。最大半減阻害定数(IC
50)を、酵素活性を50%まで低下させた阻害剤の濃度として定義し、阻害剤濃度[I]に対する速度(V)をプロットし、データを等式
【数2】
に当てはめることで入手した。式中、V
0は、阻害剤の不存在下における酵素反応速度である。阻害定数(K
i)は、固定した酵素濃度(15nM)、かつ種々のpNPPの濃度(0〜24mM)及び阻害剤濃度(0〜112nM)にて、初期速度を測ることにより測定した。反応速度(V)を、pNPP濃度([S])に対してプロットし、等式
【数3】
に当てはめ、ミカエリス定数Kを得た。K
i値は、K値を阻害濃度[I]に対してプロットし、等式
【数4】
に当てはめることにより得た。式中、K
0は阻害剤の不存在下([I]=0)における、ミカエリス定数である。
【0234】
共焦点顕微鏡法。およそ5×10
4個のA549細胞を、1mLの培地を含有する、35mmのガラス底マイクロウェルディッシュ(MatTek)内で播種し、1日培養した。A549細胞を、DPBSで1回穏やかに洗浄し、5% CO
2の存在下において、増殖培地中のFITC標識PTP1B阻害剤(5μM)、デキストラン
Rho(1mg mL
−1)により、37℃にて2時間処理した。ペプチド含有培地を取り除き、細胞をDPBSで3回洗浄し、5μMのDRAQ5を含有する1mLのDPBS中で10分間インキュベーションした。細胞を再び、DPBSで2回洗浄した。次に、細胞を、5%のCO
2の存在下において、(60倍の油浸レンズを備えた)Visitech Infinity 3 Hawk 2Dアレイ生細胞イメージング共焦点顕微鏡で、37℃にてイメージングした。FITC標識Pin1阻害剤での処理後の、HEK293細胞の生細胞共焦点顕微鏡イメージングもまた、同様に実施した。
【0235】
免疫ブロット法。A549細胞を完全増殖培地で培養し、80%コンフルエンスまで到達させた。細胞を血清非含有培地内で3時間飢餓状態にし、種々の濃度のPTP1B阻害剤で2時間処理し、続いて、1mMのペルバナジウム酸ナトリウムを補充した培地内で30分インキュベーションした。溶液を取り除き、細胞を冷却したDPBSで2回洗浄した。細胞を取り外し、50mMのTris−HCl(pH7.4)、150mMのNaCl、1%のNP−40、10mMのピロリン酸ナトリウム、5mMのヨード酢酸、10mMのNaF、1mのMEDTA、2mMのペルバナジウム酸ナトリウム、0.1mg/mLのフッ化フェニルメタンスルホニル、1mMのベンズアミジン、及び0.1mg/mLのトリプシン阻害剤中で溶解させた。氷上での30分のインキュベーション後、細胞可溶化物を微細遠心分離器で25分間、15,000rpmで遠心分離した。細胞タンパク質を全て、SDS−PAGEにより分離してPVDF膜に電気泳動により移動させ、これらを、抗ホスホチロシン抗体4G10を使用して免疫ブロッティングした。同一サンプルを別のSDS−PAGEゲル上で分析し、クマシーブリリアントブルーにより染色し、全てのレーンにおいて等しいサンプル担持を確認した。
【0236】
阻害剤の、インスリンシグナル伝達経路への影響を試験するため、HepG2細胞を培養して80%コンフルエンスまで到達させた。細胞を血清非含有DMEM中で4時間飢餓状態にさせた後で、PTP1B阻害剤で処理し(2時間)、続いて100nMのインスリンで5分間刺激した。サンプルを上述の通りにSDS−PAGEで分析し、抗ホスホIR/IGF1R抗体を使用して免疫ブロッティングした。PVDF膜もまた、抗β−アクチン抗体をローディング対照として使用して調査した。
【0237】
血清安定性試験。安定性試験は、先に報告した手順を修正して実施した(Nguyen,LT et al.PLoS One 2010,5,e12684)。希釈したヒトの血清(25%)を15,000rpmで10分間遠心分離し、上清を収集した。ペプチド原液を上清に希釈させて、最終濃度を5μMとし、37℃でインキュベーションした。種々の時点(0〜24時間)において、200μLのアリコートを取り出し、15%のトリクロロ酢酸(50μL)と混合して一晩4℃でインキュベーションした。最終混合物を15,000rpmで10分間、微細遠心分離器で遠心分離し、C
18カラムを装着した逆相HPLCで上清を分析した。残存ペプチドの量(%)を、ペプチドピーク(214nmで監視)の下の面積を積分することにより求め、対照反応(血清なし)の量と比較した。
【0238】
蛍光異方性。FA実験を、100nMのFITC標識ペプチドを、20mMのHEPES(pH7.4)、150mMのNaCl、2mMの酢酸マグネシウム、及び0.1%のウシ血清アルブミン(BSA)内の種々の濃度のタンパク質で、室温で2時間インキュベーションすることにより実施した。FA値は、励起及び発光波長をそれぞれ485及び525nmとして、Molecular Devices Spectramax M5プレートリーダーで測定した。FA値をタンパク質濃度の関数としてプロットし、曲線を以下の式
【数5】
に当てはめることにより、平衡解離定数(K
D)を測定した。式中、Yは所与のタンパク質濃度xにおけるFA値であり、Lはペプチドの濃度であり、Q
b/Q
fはフルオロフォアタンパク質の相互作用に対する補正係数であり、A
maxは、ペプチド全てタンパク質に結合した場合の最大のFA値であり、一方で、A
minはペプチド全てが遊離した場合のFA値である。100nMのFITC標識Pin1阻害剤5を1μMのPin1でインキュベーションし、続いて0〜5μMの非標識阻害剤を添加することによりFA競合アッセイを実施した。FA値をプレートリーダーで同様に測定した。4つのパラメーターの用量応答阻害式(Prism 6,GraphPad)を使用して、競合濃度に対してFA値をプロットし、曲線に当てはめることによりIC
50値を得た。
【0239】
細胞膜透過性ペプチド(CPP)の一種である、シクロ(Phe−Nal−Arg−Arg−Arg−Arg−Gln)(cFΦR
4、式中、ΦすなわちNalはL−ナフチルアラニンである)が近年発見された(Qian,Z et al.ACS Chem.Biol.2013,8,423−431)。通常は直鎖ペプチドである、エンドソーム内に優勢に閉じ込められる以前のCPPとは異なり、cFΦR
4はエンドソームから細胞質に効率的に流入することが可能である。短いペプチドカーゴ(1〜7個のアミノ酸)を、cFΦR
4環内に直接取り込むことにより、哺乳類細胞内に送達することが可能である。細胞内タンパク質に対する細胞膜透過性阻害剤としての、細胞膜透過性配列及び標的結合配列の両方を含有する二官能性環状ペプチドの開発可能性を試験した。PTP1Bに対して特異的な阻害剤を作製するために、1ビーズ2化合物ライブラリーを、空間的に分離したChemMatrix樹脂上で合成した(Liu,R et al.J.Am.Chem.Soc.2002,124,7678−7680)。このライブラリーでは、各ビーズは表面で二官能性環状ペプチドを示し、内部にコードタグとして対応する直鎖ペプチドを含有した(
図23及び
図24)。二官能性環状ペプチドは全て、片側に両親媒性CPPモチーフFΦR
4(またはその逆配列のRRRRΦF)を、及び逆側にランダムなペンタペプチド配列(X
1X
2X
3X
4X
5)を特徴とした。式中、X
2はTyr及びF2Pmpの9:1(mol/mol)混合物を示し、 X
1、及びX
3〜X
5は、10個のタンパク質構成L−アミノ酸(Ala、Asp、Gln、Gly、His、Ile、Pro、Ser、Tyr、Trp)、5つの非天然α−L−アミノ酸(F
2Pmp、L−4−フルオロフェニルアラニン(Fpa)、L−ノルロイシン(Nle)、L−フェニルグリシン(Phg)、L−ピペコリン酸(Pip))、並びに、9個のα−D−アミノ酸(D−Ala、D−Asn、D−Glu、D−Leu、L−β−ナフチルアラニン(D−Nal)、D−Phe、D−Pro、D−Thr、及びD−Val)を含む24個のアミノ酸のいずれかである。9:1の比率のTyr/F2PmpをX
2位で用いると、表面ペプチド担持が5分の1に低下したと共に、ビーズ表面でのF2Pmp含有ペプチドの量を50倍低下させ、ライブラリースクリーニング中の厳密性を増加させ、非特異的結合を最小限に抑える(Chen,X et al.J.Comb.Chem.2009,11,604−611)。Texas Red標識PTP1Bに対するライブラリー(理論上の多様性は6.6×10
5個)をスクリーニングすることで65個の陽性ビーズが得られ、これらを別々に、部分Edman分解及び質量分析(PED−MS)(Thakkar,A et al.Anal.Chem.2006,78,5935−5939)で配列決定し、42個の完全な配列を得た(表12)。興味深いことに、選択したPTP1B阻害剤の大部分は、逆CPPモチーフ(RRRRΦF)を含んだ。
【0240】
【表17】
【表18】
【表19】
aFpa=L−4−フルオロフェニルアラニン;Pip=L−ホモプロリン;Nle=L−ノルロイシン;Phg=L−フェニルグリシン;F
2Pmp=L−4−(ホスホノジフルオロメチル)フェニルアラニン。
*配列を更に分析に通した。
【0241】
3つのヒット配列(D−Thr−D−Asn−D−Val−F
2Pmp−D−Ala−Arg−Arg−Arg−Arg−Nal−Phe−Gln(阻害剤1)、Ser−D−Val−Pro−F2Pmp−His−Arg−Arg−Arg−Arg−Nal−Phe−Gln(阻害剤2)、及びIle−Pro−Phg−F2Pmp−Nle−Arg−Arg−Arg−Arg−Nal−Phe−Gln(阻害剤3))を再び合成し、HPLCで精製した。3つのペプチドは全て、競合PTP1B阻害剤であり(表13)、ペプチド2が最も強力である(K
I=54nM)(
図25)。フルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識阻害剤2で処理したヒト細胞の共焦点顕微鏡分析は、不十分ペプチドの細胞取り込みを示した(
図26a)。cFΦR
4環内に挿入されるカーゴのサイズが増加すると、環状ペプチドの細胞取り込み効率が低下することが以前から示されている(Qian,Z et al.ACS Chem.Biol.2013,8,423−431)。より大きな環は、構造的に一層柔軟であり、エンドサイトーシス中に細胞表面受容体(例えば膜リン脂質)にさほど強力に結合しない場合がある。負に荷電したF2Pmpはまた、FΦR
4モチーフと細胞内で相互作用し、CPP機能に干渉する場合がある。
【0242】
【表20】
阻害剤2の細胞膜透過性を向上させるために、CPPモチーフが一方の環内に配置されながら、標的結合配列が別の環を構成する二環式環(
図23)を調査した。二環式環はCPP環を最少の大きさにとどめ、以前に観察した動向(Qian,Z et al.ACS Chem.Biol.2013,8,423−431)によると、より効率的な細胞内取り込みをもたらすことができる。後者の組み込みはCPP環のサイズを変化させず、それ故に環状CPPの送達効率に影響を与えるはずはないため、二環式環は任意のサイズのカーゴを収容することができなければならない。硬いスキャフォールド(例えばトリメシン酸)の使用はまた、CPP及びカーゴモチーフを互いに離したまま保持し、いかなる相互干渉をも最小限に抑え得る。単環式ペプチドと比較して、二環式ペプチドのより小さな環は、構造的により強い硬さ、及び改善された代謝安定性をもたらすことができる。
【0243】
単環式PTP1B阻害剤2を二環式ペプチドに転換するため、(固体支持体への結合、及びペプチド環化に使用した)Gln残基を(S)−2,3−ジアミノプロピオン酸(Dap)で置き換え、第2のDap残基をCPPとPTP1B結合配列の分枝点(C末端からHis)に挿入した(
図23)。自転車(bicycle)の合成を、トリメシン酸、N末端アミン、及び2つのDap残基の側鎖間に3つのアミド結合を形成することにより達成した(
図27)(Lian,W et al.J.Am.Chem.Soc.2013,135,11990−11995)。手短かに言えば、直鎖ペプチドを、Rinkアミド樹脂上で標準的なFmoc化学作用、及びN
β−アロキシカルボニル(Alloc)保護Dapを使用して合成した。N末端Fmoc基を除去した後、露出したアミンをトリメシン酸でアシル化した。Alloc基をPd(PPh
3)
4で除去した後、PyBOPで処理することにより、所望の二環式構造体を得た。蛍光プローブでのラベリングを容易にするため、C末端にリジンを添加した。二環式ペプチド(二環式ペプチド4)をTFAで脱保護し、HPLCにより均質に精製した。
【0244】
二環式ペプチド4は、37nMのK
I値を有し、PTP1Bの競合阻害剤として作用することができる(
図26b)。このペプチドは、PTP1Bに対して非常に選択的である。基質としてのp−ニトロフェニルホスフェート(500μM)に対してアッセイを行った場合、阻害剤4は、PTP1B及びTCPTPに対して、それぞれ30及び500nMのIC
50値を有した(
図26c及び表14)。試験した他のPTPのいずれに対しても、最小限の阻害を示した(1μMの阻害濃度で、HePTP、SHP−1、PTPRC、PTPH1、またはPTPROを10%以下で阻害)。FITC標識阻害剤4で処理したA549細胞の生細胞共焦点顕微鏡法により検出したように、阻害剤4は、ペプチド2よりも向上した細胞膜透過性を有する(
図26a)。処理した細胞は、細胞質及び核全体における拡散した蛍光及び蛍光斑点の両方を示し、このことは、阻害剤の分画が細胞質及び核に到達した一方で、残りはエンドソーム内に取り込まれた可能性が高いことを示唆している。阻害剤4をヒト血清中で、37℃にて24時間インキュベーションすると、約10%が分解した一方、阻害剤2の91%が同一条件下で分解した(
図28)。全体的に、阻害剤4は、潜在能、非常に類似したTCPTPを上回る選択性(17倍)、細胞膜透過性、及び安定性に関して今日まで報告されている低分子PTP1B阻害剤(Qian,Z et al.ACS Chem.Biol.2013,8,423−431)と比較しても遜色がない。
【0245】
【表21】
aNAは、1μMの阻害剤で目立った阻害がなかった。
【0246】
次に、阻害剤4の細胞シグナル伝達中にPTP1B機能を乱す能力について試験した。A549細胞を阻害剤4(0〜5μM)で処理すると、多数のタンパク質のホスホチロシン(pY)量が用量に依存して増加し、このことは、PTP1Bの広範な基質特異性と一致する(Ren,L et al.Biochemistry 2011,50,2339)(
図29a)。クマシーブルー染色による同一サンプルの分析は、全てのサンプルにおいて同量のタンパク質を示し(
図29b)、このことは、増加したpYの量は、全タンパク質の量の変化の代わりに、リン酸化反応の増加(またはPTP反応の減少)を反映したことを示している。注目すべきことに、チロシンリン酸化反応の増加は、8nMの阻害剤4で既に明らかであった。興味深いことに、阻害剤濃度が1μMを超えて更に増加すると、チロシンリン酸化反応の効果が逆転し、この観測結果は以前にも、異なるPTP1B阻害剤に関して、Zhang及び協力者により出されていた(Xie,L et al.Biochemistry 2003,42,12792−12804)。細胞内PTP1Bがペプチド4により阻害されたという更なる証拠を得るために、in vivoでの、インスリン受容体(IR)である、十分に確立されたPTP1B基質におけるpYの量(Elchelby,M et al.Science 1999,283,1544−1548;Zabolotny,JM et al.Dev.Cell 2002,2,489−495)を、pY
1162pY
1163部位に対する、特異的抗体による免疫ブロッティングにより監視した。再び、阻害剤4での処理は、インスリン受容体のリン酸化反応の、1μMの阻害剤までの用量依存性増加を引き起こし、この効果はより高い濃度では横ばいとなった(
図29c、d)。これらを合わせると、これらのデータは、二環式阻害剤4は哺乳類細胞内に効率的に入ることができ、in vivoでPTP1Bを阻害することができることを示している。高い阻害剤濃度におけるリン酸化反応の減少は、他のPTPの非特異的阻害により引き起こされる場合がある(そして結果的に、プロテインチロシンキナーゼを下方制御し得る)。リン酸化反応の減少はまた、PTP1Bが果たす多面発現性の役割を反映する場合もあり、これは異なるプロテインキナーゼの活性を負、及び正の両方で制御することができる(Lessard,L et al.Biochim.Biophys.Acta 2010,1804,613)。
【0247】
二環式アプローチの普遍性を試験するため、このアプローチを利用し、強力で選択的、かつ生物学的に活性な阻害剤を依然として欠いている(More,JD and Potter,A.Bioorg.Med.Chem.Lett.2013,23,4283−91)、癌を含む種々のヒト疾患の治療のための潜在的標的である、ペプチジルプロリルシス−トランスイソメラーゼPin1に対する細胞膜透過性阻害剤を設計した(Lu,KP and Zhou,XZ.Nat.Rev.Mol.Cell Biol.2007,8,904−916)。したがって、in vitroではPin1に対する強力阻害剤である(K
Dは258nM)が、膜不透過性である、以前に報告されている単環式ペプチド(5)(Liu,T et al.J.Med.Chem.2010,53,2494−2501)を、cFΦR
4と縮合させた(
図30)。更に、pThr+3位のL−TyrをArgで置き換え、水への可溶性を向上させた。得られた二環式ペプチド6は、131nMのK
D値でPin1に結合した(表15及び
図31)。D−AlaをpThr+5位に挿入することで、Pin1結合及び細胞膜透過モチーフとの分離を増加させて、阻害剤の潜在能が約2倍改善した(阻害剤7に対するK
D=72nM)。阻害剤7はPin1への結合に関してFITC標識阻害剤5と競合し(
図32)、このことは、これらが共にPin1の活性部位に結合できることを示している。阻害剤7のD−pThrをD−Thrで置換することで、潜在能が約10倍低下した(阻害剤8に関して、K
D=620nM、表16)が、ピペコリル残基をD−Alaで更に置き換えると、Pin1阻害活性は消失した(ペプチド9)。二環式阻害剤7〜9は細胞膜透過性であった(
図33)。阻害剤7によるヒーラー細胞の処理は、細胞増殖の時間依存性及び用量依存性阻害をもたらした(20μMの阻害剤7による処理で、3日後に45%阻害)が、単環式阻害剤5及び不活性ペプチド9には効果がなかった(
図34)。ペプチド8もまた細胞増殖を阻害したが、阻害剤7よりは小規模だった。
【0248】
【表22】
aDap=L−2,3−ジアミノプロピオン酸;Nal=L−β−ナフチルアラニン;Pip=L−ピペコリン酸;Sar=サルコシン;Tm=トリメシン酸。FA分析に関して、全てのペプチドについて、C末端リジン側鎖をFITCで標識した。
【0249】
結論として、細胞内標的に対する細胞膜透過性二環式ペプチドを設計する、潜在的に一般的なアプローチが開発された。これらの予備研究は、PTP1B結合モチーフを、異なる物理化学的性質を有する他のペプチド配列で置き換えることでもまた、培養した哺乳類細胞内への効率的な送達が得られたことを示している。 一般的な細胞内送達法の利用可能性は、薬物発見及び生物医学的調査における、環状ペプチドの実用性を大いに拡大するはずである。
実施例4
【0250】
表16のCPP配列についてもまた、本明細書で議論する。全ての取り込み/送達効率は表17に示し、これらはcFΦR
4(290−1F、100%)の取り込み/送達効率と比較する。SUV1は、哺乳類細胞の中性外膜を模した、単層小ベシクルである[45%のホスファチジルコリン(PC)、20%のホスファチジルエタノールアミン(PE)、20%のスフィンゴミエリン(SM)、及び15%のコレステロール(CHO)]。SUV2は、哺乳類細胞の負に荷電したエンドソーム膜を模した単層小ベシクルである[50%のPC、20%のPE、10%のホスファチジルイノシトール(PI)、及び20%のビス(モノアシルグリセロール)ホスフェート]。
【0251】
測定は、FITC標識環状ペプチドを使用して、増加するベシクル濃度に対して蛍光偏光を行った。実験を、pH7.4及び5.5で実施した(pHは、細胞内の後期エンドソームのもの)。
【0252】
全体の送達効率は、pH7.4におけるエンドソーム膜に対するCPPの結合親和性と相関するようである。即ち、結合が強力であると、送達効率は高くなる。
【表23】
【表24】
Φ=L−ナフチルアラニン;φ=D−ナフチルアラニン;f=D−フェニルアラニン;r=D−アルギニン;q=D−グルタミン
実施例5
【0253】
心筋細胞は通常、DNAをトランスフェクションすることが困難であり、以前のCPPを用いて細胞内にタンパク質を送達することは成功していない。したがって、心臓組織内に治療用タンパク質を送達する必要が満たされていない。
【0254】
開示した環状CPPは、タンパク質を心筋細胞内に送達するのに大変効果的である。フルオレセインイソチオシアネート(FITC)で標識した環状CPP[c(FΦRRRRQ)−K(FITC)−NH
2及びc(fΦRrRrQ)−K(FITC)−NH
2]を合成し、これらの、マウス心室心筋細胞への内在化を、細胞を5μMのFITC標識ペプチドで3時間処理することにより、試験した。細胞外ペプチドを洗い流した後、蛍光生細胞共焦点顕微鏡法により、CPPの内在化を調査した。両方のペプチドが、細胞全体に著しい、かつ優勢な拡散傾向を示し、このことは、CPPの心筋細胞への効率的な内在化を示す(
図35a及び35b)。環状CPPが、完全長タンパク質を心筋細胞内に輸送可能であるか否かを試験した。多機能性のカルシウム結合メッセンジャータンパク質であるカルモジュリン(Thr5Cysを組み換え)を、N末端付近のCys残基にて、ジスルフィド結合を介してc(FΦRRRRQ)−C−NH
2にコンジュゲートさせた。ジスルフィド交換反応は非常に特異的、効率的、かつ可逆的である。更に、細胞の細胞質基質に入る際、ジスルフィド結合が還元され、天然のタンパク質を放出することが予想される(
図35c)。CPP−タンパク質コンジュゲートを、内在化カルモジュリンの可視化を可能にするシアニン3によりアミノ基上で化学的に標識した。マウスの心室心筋細胞を、6μMのCPP−カルモジュリンコンジュゲートで3時間インキュベーションし、生細胞共焦点顕微鏡法により調査した。細胞内蛍光シグナルは、細胞の容量全体を通して現れ、サルコメア模様を示した(
図35d)。このことは、内在化カルモジュリンは適切に、細胞内機構に組み込まれたことを示している。これらのデータは、開示した環状CPP(例えばc(FΦRRRRQ)) は低分子及びタンパク質(天然形態と思われる)を心筋細胞内に高効率で、比類無く送達することができることを示しており、将来的な治療用途への扉が開かれている。
実施例6
【0255】
Pin1は、リン酸化依存性ペプチジル−プロリルシス/トランスイソメラーゼ(PPIase)である。Pin1は、N末端WWドメインとC末端触媒領域を含有し、これらは共に、タンパク質基質内で特異的なホスホセリン(pSer)/ホスホスレオニン(pThr)−Proモチーフを認識する。特異的pSer/pThr−Pro結合のシス−トランス異性化により、Pin1はその量、活性、及び多種多様のリンタンパク質の細胞内局在性を制御する。例えば、Pin1はサイクリンD1とサイクリンEの生体内安定性を調節し、不活性の不安定形態と活性の安定形態との間で、c−Jun、c−Fos、及びNF−κBを切り替える。Pin1による異性化はまた、ホスファターゼCDC25C及びキナーゼWee1等の、多数の細胞周期シグナリングタンパク質の触媒活性も制御する。最終的に、Pin1触媒による、β−カテニン及びNF−κBのコンホメーション変化は、細胞内転座をもたらした。
【0256】
ヒトの癌における細胞周期制御、並びに発現レベル及び活性の増加における重要な役割を考慮して、Pin1は抗癌剤の開発のための潜在的標的として提示されてきた。Pin1はまた、アルツハイマー病等の神経変性疾患にも関与している。したがって、Pin1に対する特異的阻害剤の開発に、大きな関心が存在し続けている。ジュグロン、PiB、ジペンタメチレンチウラムモノスルフィド及びハロゲン化フェニルイソチアゾロン(TME−001)等の低分子阻害剤は通常、十分な潜在能及び/または特異性を欠いている。多数の強力なペプチジルPin1阻害剤が報告され、これらは低分子阻害剤よりも選択的である。しかし、ペプチジル阻害剤は通常、細胞膜に不透過性であるため、治療薬またはin vivoプローブとしては実用性が限られている。一方の環(A環)がPin1結合ホスホペプチドモチーフ[D−pThr−Pip−Nal、式中、Pip及びNalはそれぞれ、(R)−ピペリジン−2−カルボン酸及びL−ナフチルアラニンである]であり、一方、第2の環(B環)が細胞膜透過性ペプチドであるPhe−Nal−Arg−Arg−Arg−Argを含有する、Pin1に対する細胞膜透過性二環式ペプチジル阻害剤を、
図36に示す(ペプチド1)。二環式ペプチジル阻害剤が細胞アッセイでは強力(K
D=72nM)かつ活性であるものの、D−pThr部位は、非特異的ホスファターゼによる加水分解のため、代謝的に不安定であり得る。ホスフェート基の負電荷はまた、阻害剤の細胞内流入を阻害し得る。ここで、Pin1に対する非リン酸化二環式ペプチジル阻害剤を、ペプチドライブラリーをスクリーニングし、ヒット最適化により調製した。得られた二環式ペプチジル阻害剤は、Pin1に対してはin vitroで強力かつ選択的であり、細胞膜透過性であり、かつ、バイオアッセイで代謝的に安定している。
【0257】
ペプチド1のホスホリル基を除去すると、Pin1に対する潜在能が著しく低下したが、非リン酸化ペプチド(
図36、ペプチド2)は依然として、比較的強力なPin1阻害剤であった(K
D=0.62μM)。D−Thr−Pip−Nalモチーフに隣接する配列を最適化することにより、ペプチド2の潜在能を更に改善させてよい。そのため、第2世代二環式ペプチドライブラリーのビシクロ[Tm−(X
1X
2X
3−Pip−Nal−Arg−Ala−D−Ala)−Dap−(Phe−Nal−Arg−Arg−Arg−Arg−Dap)]−β−Ala−β−Ala−Pra−β−Ala−Hmb−β−Ala−β−Ala−Met−樹脂(
図35、式中、Tmはトリメシン酸、Dapは2,3−ジアミノプロピオン酸、β−Alaはβ−アラニン、PraはL−プロパルギルグリシン、及びHmbは4−ヒドロキシメチル安息香酸である)を、ペプチド2の3つのN末端残基を無作為化することにより作製した。X
1及びX
2は、12個のタンパク質構成L−アミノ酸[Arg、Asp、Gln、Gly、His、Ile、Lys、Pro、Ser、Thr、Trp、及びTyr]、5個の非タンパク質構成α−L−アミノ酸[L−4−フルオロフェニルアラニン(Fpa)、L−ノルロイシン(Nle)、L−オルニチン(Orn)、L−フェニルグリシン(Phg)、及びL−Nal]、6個のα−D−アミノ酸[D−Ala、D−Asn、D−Glu、D−Leu、D−Phe、及びD−Val]、並びに4個のN
α−メチル化L−アミノ酸[L−N
α−メチルアラニン(Mal)、L−N
α−メチルロイシン(Mle)、L−N
α−メチルフェニルアラニン(Mpa)、及びサルコシン(Sar)]を含む、27個のアミノ酸構築ブロックのいずれかを示し、X
3はAsp、Glu、D−Asp、D−Glu、またはD−Thrであった。これらの非タンパク質原生アミノ酸の組み込みは、ライブラリーペプチドの構造的多様性及びタンパク質分解安定性の両方を増加させることが予想された。ライブラリーは理論上、5×27×27、または3645個の異なる二環式ペプチドの多様性を有し、これらの(全てではないにせよ)大部分は、細胞膜透過性であることが予想された。ライブラリーは、500mgのTentaGelマイクロビーズ(130μm、約7.8×10
5個のビーズ/g、約350pmolのペプチド/ビーズ)上で合成した。ペプチド環化は、Tm、N末端アミン、及び2つのDap残基の側鎖間で3つのアミド結合を形成することにより達成された。
【0258】
【表25】
aヒット1〜3は第1ラウンドのスクリーニングから選択したが、ヒット4〜7は第2ラウンドのスクリーニングから選択した。
【0259】
β−Alaは柔軟なリンカーを提供する一方、Praは二環式ペプチドの、蛍光プローブを用いた、クリックケミストリーによるビーズ上での標識のためのハンドルとして機能する。Hmbのエステル結合は、溶液相結合分析のための、樹脂から二環式ペプチドの選択的放出を可能にする。最終的に、C末端のMetが、MS分析の前にCNBr切断により、樹脂からのペプチド放出を可能にする。
ライブラリー(100mgの樹脂)を、欠陥WWドメインを有するS16A/Y23A変異体Pin1に対してスクリーニングした。変異体Pin1を、N末端にてマルトース結合タンパク質(MBP)融合として作製した。スクリーニングの第1ラウンドの間、Texas−Redで標識したMBP−Pin1をペプチドライブラリーでインキュベーションし、蛍光ビーズを顕微鏡下にてライブラリーから取り除いた。3つの陽性ビーズが、残りのヒットよりも著しく大きい蛍光強度を有し、これらを部分Edman分解および質量分析(PED−MS)によるペプチド配列決定に直接通した(表17)。他の13個の蛍光ビーズをスクリーニングの第2ラウンドに通し、この間に、各ビーズ上の二環式ペプチドをテトラメチルローダミン(TMR)アジドで、Pra残基を標識し、NaOH溶液による処理でビーズから外した。
【0260】
【表26】
【表27】
【表28】
【表29】
【表30】
【0261】
放出したペプチドを5μMのMBP−Pin1でインキュベーションし、蛍光異方性(FA)の増加を測定した。(非タンパク質対照と比較して)50%以上のFA増加を示した二環式ペプチドに関して、対応するビーズ(5ビーズ、依然として直鎖コードペプチドを含有した)をPED−MSにより配列決定し、4つの更なる完全配列を得た(表1)。7つのヒット配列は全て、X
3位にD−アミノ酸を含有し、これは、Pin1がこの位置にてpThrよりもD−pThrを好むという観測結果に一致した。X
1位においては、疎水性、特に芳香族疎水性残基が強く好まれるが、X
2位では明確な選択性は存在しない。
【0262】
ヒット最適化。6つのヒット配列(ヒット1及び2は同一配列を有する)を、リジンをC末端に添加して再合成し、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)で標識し、FAによりPin1への結合を試験した(表18、ペプチド3〜8)。6つのペプチドは全て、中程度な親和性(K
Dは約1μM)でPin1に結合したが、ペプチド2では改善されなかった(K
D=0.62μM)。ペプチド3及び4を、構造活性関係の分析及び最適化のために使用した。Pin1結合環(A環)のサイズを拡大または縮小するかのいずれかにより、結合親和性が低下した(表18、ペプチド9〜16)。ペプチド3のAla残基を、Arg、Asp、Ser、Tyr及びValを含む、異なる物理化学的性質の側鎖を含有するアミノ酸で置き換えることでもまた、結合親和性を著しく改善することはできなかった(表18、ペプチド17〜21)。一方、D−Ala残基の修飾は、この位置におけるD−Pheの置換は、Pin1阻害活性を約2倍(ペプチド22に関して、K
D=0.48μM)増加させたことを明らかにした。
【0263】
ペプチド4を、同様にSAR研究に通した。ペプチド3について観察されたように、ペプチド4のAla残基を(Glyに)修飾することは、殆ど効果がなかった(ペプチド26)が、D−Ala残基をD−Pheで置き換えることで、Pin1への結合が約2倍改善された(表18、ペプチド27に関して、K
D=0.27μM)。X
2位にてFpa残基を修飾(例えば、他のハロゲン化フェニルアラニン類似体による置き換え)することで、阻害潜在能は全て低下した(ペプチド28〜32)。同様に、X
1位における芳香族側鎖の除去は、Pin1結合に有害であった(ペプチド33及び34)。しかし、ハロゲン化D−Phe類似体の置換は、Pin1結合活性を改善した(ペプチド35〜38)。特に、D−PheをD−4−フルオロフェニルアラニン(D−Fpa)で置き換えることで、この一連の中で最も強力なPin1阻害剤が得られた(ペプチド37に関して、K
D=0.12μM)(
図36及び37a)。D−Thr残基またはCPPモチーフを修飾する更なる試みでは、Pin1活性を改善することはできなかった(表18、ペプチド39〜45)。
【0264】
生物学的評価。ペプチド37がPin1の触媒部位に結合するか否かを測定するために、Pin1への結合について、ペプチド1との競合能力をFA分析により調査した。ペプチド1は以前に、Pin1の活性部位に結合することが示されている。予想通り、ペプチド37は、190nMのIC
50値で、ペプチド1のPin1への結合を阻害した(
図37b)。次に、濃度が増加するペプチド37の存在下における、ペプチド基質のSuc−Ala−Glu−Pro−Phe−pNAに対するPin1の触媒活性を監視した。ペプチド37は濃度に依存してPin1活性を阻害し、IC
50値は170nMであった(
図37c)。これらの結果は、ペプチド37はPin1の活性部位(またはその近く)に結合することを示している。
【0265】
ペプチド37の選択性を、2つの異なる試験により評価した。まず、 ウシ血清アルブミン(BSA)、タンパク質チロシンホスファターゼ1B、SHP1及びSHP2、Grb2 SH2ドメイン、Ras、並びに腫瘍壊死因子αを含む、任意に選択したタンパク質のパネルへの結合について、ペプチド37を試験した。ペプチド37はBSAにわずかに結合した(K
D=約20μM)が、他の6つのタンパク質はいずれも結合しなかった。次に、3つの他の、一般的なヒトペプチジル−プロリルシストランスイソメラーゼである、Pin4、FKBP12、及びサイクロフィリンAの潜在的阻害に関して、ペプチド37を試験した。Pin4はPin1に構造的に類似し、部分的にはPin1と重なる機能を有するが、ペプチド37はPin4をほんのわずかに阻害し(5μMの阻害剤で約15%)、推定IC
50値は約34μMである(
図37c)。ペプチド37は、5μMの濃度までは、FKBP12またはサイクロフィリンAの触媒活性には影響を及ぼさなかった。これらのデータは、ペプチド37はPin1の非常に特異的な阻害剤であることを示唆している。
【0266】
ペプチド37の代謝安定性を、種々の時間でヒト血清中にてインキュベーションし、逆相HPLCにより反応混合物を分析することにより評価した。pThr含有Pin1阻害剤1を対照として使用した。6時間のインキュベーション後、97%のペプチド37はインタクトなままであったが、二環式ペプチド1の約50%は3時間後に分解された(
図37d)。ペプチド1の消失は、HPLCにて新しいピークが付随的に現れることにより達成された。新しい種の質量分析は、この消失をペプチド1の脱リン酸化生成物(ペプチド2)と識別した。この結果は、構造上制約のある二環式ペプチドが、タンパク質分解に大変耐性があるという我々の以前の観測結果と一致する。D−pThr部位は、ヒト血清中において、非特異的ホスファターゼによる加水分解を受けやすいままである。
【0267】
ペプチド37、ペプチド1、及び以前に報告した膜不透過性単環式Pin1阻害剤(表18、ペプチド46)の細胞取り込み効率を、FITC標識ペプチド(5μM)で2時間、ヒーラー細胞をインキュベーションし、フローサイトメトリー分析により、細胞内の全蛍光を定量化することにより評価した。予想通り、未処理細胞、及びペプチド46で処理した細胞は殆ど細胞蛍光を示さず、それぞれ101、及び193の平均蛍光強度(MFI)値を有した(
図38a)。対照的に、ペプチド1及び37で処理した細胞はそれぞれ、2562、及び8792のMFI値を示した。したがって、ペプチド37はペプチド1よりも、ヒーラー細胞により約4倍効率的に内在化された。おそらく、ペプチド1の負に荷電したホスフェート基が正に荷電したCPPモチーフと静電相互作用を起こし、後者の細胞取り込み効率を低下させた。
【0268】
Pin1活性の阻害は細胞増殖を低下させることが、以前に示されている。ヒーラー細胞の増殖におけるペプチド37の効果を、MTT細胞生存アッセイを使用して調査した。膜不透過性ペプチド46、及び細胞膜透過性ではあるが、不活性な(Pin1結合を欠損している)二環式ペプチド(表18、ペプチド47)を対照として使用した。ペプチド37は、1.0μMのIC
50で、濃度に依存して細胞増殖を阻害した(
図38b)。予想通り、ペプチド46も47も、細胞増殖にいかなる影響も及ぼさなかった。経時変化研究もまた、ペプチド46または47ではなく、5μMのペプチド37で3日処理した後の、著しい増殖阻害(60%超)を示した。類似の試験条件下での、リン酸化二環式ペプチド1は、1.8μMのIC
50値を有した。
【0269】
最終的に、Pin1がin vivoでのペプチド37の分子標的であることを確認するために、十分に確立したPin1基質の細胞内タンパク質である、前骨レチノイン酸(promyeloretinoic)白血病タンパク質(PML)の量を、ウェスタンブロット分析で調査した。Pin1はリン酸化反応に依存してPMLの量を負に調節し、Pin1活性の阻害は、PMLを安定化させ、PMLの細胞内の量を増加させることが予想される。実際、ヒーラー細胞をペプチド37(0.2〜5μMで処理することで、PML量の濃度依存性増加がもたらされた(
図38c、d)。効果は、0.2μMの阻害剤で既に著しく(PMLの量が1.8倍増加)、約1μMで平坦となった(3.3倍の増加)。再び、二環式ペプチド47は同一条件下にて影響を及ぼさなかった一方、ペプチド1(陽性対照、5μMにて)はPMLの量を3.1倍増加させた。
【0270】
ペプチドライブラリーのスクリーニング、続いて従来の医薬品化学アプローチにより、第1の、ヒトPin1に対して強力で選択的、代謝安定的、かつ細胞膜透過性のペプチジル阻害剤が開示された。この高い潜在能及び選択性は、細胞膜透過性ペプチドを、Pin1の細胞機能を調査するための有用な化学プローブとするはずである。
【0271】
別段定めがない限り、本明細書で使用する全ての技術及び科学用語は、開示される発明が属する当業者により一般的に理解されるのと同一の意味を有する。本明細書で引用した出版物、及びこれらから引用されている材料は明確に、参考として組み込まれる。
【0272】
当業者は、日常的な実験だけを用いて、本明細書で記載される本発明の特定の実施形態の多くの均等物を認識するか、または確認することができるであろう。かかる均等物は、以下の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。