(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6807839
(24)【登録日】2020年12月10日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】宝石、特にはファセットダイヤモンド、およびそれを台に取り付ける方法
(51)【国際特許分類】
A44C 27/00 20060101AFI20201221BHJP
【FI】
A44C27/00
【請求項の数】26
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-528827(P2017-528827)
(86)(22)【出願日】2015年11月30日
(65)【公表番号】特表2017-536183(P2017-536183A)
(43)【公表日】2017年12月7日
(86)【国際出願番号】CH2015000175
(87)【国際公開番号】WO2016086323
(87)【国際公開日】20160609
【審査請求日】2018年10月2日
(31)【優先権主張番号】01856/14
(32)【優先日】2014年12月2日
(33)【優先権主張国】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】506059942
【氏名又は名称】カルティエ インターナショナル アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100149249
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 達也
(72)【発明者】
【氏名】ロマン モイーズ
(72)【発明者】
【氏名】マリー=アデレード ロー
【審査官】
東 勝之
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2014/0047867(US,A1)
【文献】
特開2012−075900(JP,A)
【文献】
特開平09−173115(JP,A)
【文献】
特開昭62−236504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44C 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然材料または合成材料からなる宝石(10)であって、クラウン(12)と呼ばれる目に見える正面部分と、前記宝石(10)が台に取り付けられた際に少なくとも部分的に隠される背面部とを含み、前記背面部はパビリオン(13)と呼ばれ、前記クラウン(12)と前記パビリオン(13)との間のガードル(14)と呼ばれる中間部により前記クラウン(12)から離間されており、前記宝石(10)は、前記宝石(10)を前記台に固定可能とする金属固定手段(20)を含み、前記金属固定手段(20)は、前記パビリオン(13)上に位置する接続域(21)を含む宝石において、
前記接続域(21)は、前記パビリオン(13)の限定された幅を有する周縁部(131)の一部または全部に配置され、
前記周縁部(131)は、
空気/石の界面から前記宝石(10)に侵入する前記クラウン(12)上の入射光(R3)が前記接続域(21)を含む前記周縁部(131)に当たるとき、前記周縁部(131)内の前記宝石(10)の第1のパビリオン/空気界面によって全反射され、それ未満の角度ではもはや全反射を受けることがない限界の角度である限界角度i1より小さい角度で前記パビリオン(13)の反対側のファセット(11)の第2のパビリオン/空気界面に戻され、前記宝石(10)の前記第2のパビリオン/空気界面を介して前記パビリオン(13)の後方で前記宝石の外側に屈折され、また、
空気/石の界面から前記宝石(10)に侵入する前記クラウン(12)上の入射光(R4)が前記周縁部(131)の下方の前記第1のパビリオン/空気界面に当たるとき、前記第1のパビリオン/空気界面によって全反射され、前記第1のパビリオン/空気界面の反対側の前記第2のパビリオン/空気界面に衝突し、そこで第2の全反射を受け、前記クラウン(12)に向けて反射されるように構成され、
前記周縁部(131)は、前記パビリオン(13)の周囲360°にわたって延びる帯(22)を含み、前記帯(22)は、前記パビリオン(13)の表面の少なくとも約20〜35%に対応する領域を覆うことを特徴とする宝石。
【請求項2】
前記周縁部(131)は、前記ガードル(14)の近くの前記パビリオン(13)上に位置する、請求項1に記載の宝石。
【請求項3】
前記周縁部(131)は、空気/クラウン界面で屈折した入射光(R3)が前記第1のパビリオン/空気界面によって反射されない、いわゆる不可視領域(ZI)を含む、請求項1に記載の宝石。
【請求項4】
前記金属固定手段(20)は、サンドイッチ状に堆積された複数の金属層を含む、請求項1〜3の何れか1項に記載の宝石。
【請求項5】
前記複数の金属層は、前記宝石と炭化物の層を形成する内側層を含む、請求項4に記載の宝石。
【請求項6】
前記内側層は、チタン、タンタル、ハフニウムまたはニオブを含む、請求項5に記載の宝石。
【請求項7】
前記複数の金属層は、前記宝石を収容するよう意図された台の材料と同じ材料を含む外側層を含む、請求項4〜6の何れか1項に記載の宝石。
【請求項8】
前記外側層および前記台は金を含む、請求項7に記載の宝石。
【請求項9】
前記複数の金属層は、内側層と外側層との間に拡散障壁を形成する中間層を含む、請求項4〜8の何れか1項に記載の宝石。
【請求項10】
前記中間層は白金を含む、請求項9に記載の宝石。
【請求項11】
前記金属固定手段は、PVD法を用いて堆積される、請求項1〜10の何れか1項に記載の宝石。
【請求項12】
宝石(10)を台に固定する方法であって、前記宝石(10)は、天然材料または合成材料からなり、クラウン(12)と呼ばれる目に見える正面部分と、前記宝石(10)が台に取り付けられた際に少なくとも部分的に隠される背面部とを含み、前記背面部はパビリオン(13)と呼ばれ、前記クラウンと前記パビリオンとの間のガードル(14)と呼ばれる中間部により前記クラウンから離間されており、前記宝石(10)は、前記宝石(10)を前記台に固定可能とする金属固定手段(20)を含み、前記金属固定手段(20)は、前記パビリオン(13)上に位置する接続域(21)を含む方法において、前記接続域(21)は、前記パビリオン(13)の限定された幅の周縁部(131)の一部または全部を覆って堆積され、
前記周縁部(131)は、
空気/石の界面から前記宝石(10)に侵入する前記クラウン(12)上の入射光(R3)が前記接続域(21)を含む前記周縁部(131)に当たるとき、前記周縁部(131)内の前記宝石(10)の第1のパビリオン/空気界面によって全反射され、それ未満の角度ではもはや全反射を受けることがない限界の角度である限界角度i1より小さい角度で前記パビリオン(13)の反対側のファセット(11)の第2のパビリオン/空気界面に戻され、前記宝石(10)の前記第2のパビリオン/空気界面を介して前記パビリオン(13)の後方で前記宝石(10)の外側に屈折され、また、
空気/石の界面から前記宝石(10)に侵入する前記クラウン(12)上の入射光(R4)が前記周縁部(131)の下方の前記第1のパビリオン/空気界面に当たるとき、前記第1のパビリオン/空気界面によって全反射され、前記第1のパビリオン/空気界面の反対側の前記第2のパビリオン/空気界面に衝突し、そこで第2の全反射を受け、前記クラウン(12)に向けて反射されるように構成され、
前記パビリオン(13)の周囲360°にわたって延びる帯(22)を前記周縁部(131)内に配置し、前記帯(22)は、前記パビリオン(13)の表面の少なくとも約20〜35%に対応する領域を覆うことを特徴とする方法。
【請求項13】
前記周縁部は、前記ガードル(14)の近くの前記パビリオン(13)に画定される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
複数の金属層をサンドイッチ状に堆積して前記金属固定手段(20)を形成する、請求項12〜13の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
チタン、タンタル、ハフニウムまたはニオブを含む内側層を前記宝石に堆積させ炭化物の層を形成する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記宝石を収容することを意図された前記台と同じ材料を含む外側層を堆積させる、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
内側層と外側層との間に拡散障壁を形成する中間層を堆積させる、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記金属固定手段(20)は、PVD法を用いて堆積される、請求項12〜17の何れか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記PVD法は、不活性ガスを含むチャンバ内で、10−4〜10−2mbarの圧力で行われるPVD堆積を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記宝石は熱圧着により前記台に固定される、請求項12〜19の何れか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記金属固定手段(20)は、2〜20kg/mm2の力と100〜600℃の温度で20秒〜60分の持続時間にわたって前記台に対して圧着される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
圧着温度が200〜450℃である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記宝石は溶接によって前記台に固定される、請求項12〜19の何れか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記金属固定手段(20)は、5〜50g/mm2の力および280〜350℃の温度で1秒〜5分間の持続時間にわたって前記台に対して溶接される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
プリフォームを用いる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記宝石を固定する前に、前記宝石を収容するよう意図された前記台の表面の一部に金属層を堆積する、請求項12〜25の何れか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然材料または合成材料、特にはファセットダイヤモンドからなる宝石であって、クラウンと呼ばれる目に見える正面部分と、石が台に取り付けられた際に少なくとも部分的に隠される背面部とを含み、この背面部はパビリオンと呼ばれ、クラウンとパビリオンとの間のガードルと呼ばれる中間部によりクラウンから離間されており、前記宝石は、それを前記台に固定可能とする固定手段を含み、前記固定手段は、前記パビリオン上に位置する金属接続域を含む宝石に関する。
【0002】
また、本発明は、上記したような宝石を台に取り付ける方法であって、前記宝石は、それを前記台に固定可能とするように配置された固定手段を含み、前記固定手段は前記パビリオン上に位置する金属接続域を含む方法に関する。
【背景技術】
【0003】
宝石、特にダイヤモンドは、台または枠に固定され、例えば、宝飾品または時計を形成することが意図されている。既知の一実施形態によれば、石の台への固定は、溶接、リベット止め等の方法により、石を台に密着固定可能とする金属コーティングを石の周面の一部に堆積させることにより行われる。
【0004】
例えば、仏国特許公開公報第2,042,156号明細書には、金属層が堆積されたパビリオンを有する宝石が記載されている。この金属層は、石を台に溶接することを可能にする。しかしながら、このような構成は、金属化領域に位置する石の出口界面によって反射された特定の入射光線が、全反射によって石により戻され、金属化層の像を返すという事実のために、この金属化層が見えるので、審美的ではないという欠点を有する。
【0005】
特開平9−173115号公報には、第1の層、例えばチタン(Ti)、銅(Cu)、銀(Ag)および/またはジルコニウム(Zr)を含む合金をダイヤモンド上に堆積し、第2の金属層、例えば金(Au)合金を台に堆積した、台にダイヤモンド等の宝石を固定する技術が記載されている。次に、金属の2つの層を一緒に溶接して、ダイヤモンドを台にしっかりと固定する。金属層は、ダイヤモンドのパビリオン上で、より詳細には、ダイヤモンドのパビリオンの中央で、パビリオンの全表面よりも小さい面に堆積される。上記の理由と同じ理由で、この技術は、金属化領域の石に反射した入射光線が石のクラウンを通って出射する際に金属層が見えるという審美的欠点を有する。
【0006】
国際公開第00/57743号パンフレットは、中空の宝飾品に貴石を圧着することを可能にするシステムに関する。このシステムは、貴石の表面に付される金属固定域を形成するために使用される装置と、中空の宝飾部品のシェル上に金属固定域を固定するよう機能する接続装置とを含む。金属固定域を形成するために、貴石の表面の周縁部分が金属化され、貴金属の表面の金属化された周縁部分に電気分解によって金属の層が堆積される。この固定帯は、石に窪んだ溝内に形成され、少なくとも部分的に石の正面部分(すなわちクラウン)に侵入する。
【0007】
国際公開第2014/30068号パンフレットは、貴石、取り付け面およびろう付け接合部を含むフレームに関する。ろう付け接合部は反応性金属合金から形成され、この合金は貴石の表面上のある点を直接取り付け面に接着することを可能とする。しかし、この文献に記載されている固定技術は、石の十分に信頼性のある、または有効な保守を提供しないというおそれがあり、記載されたろう付け方法は、一般に800℃を超える高温を必要とし、これはかなりのエネルギーを消費し、最上級品用の台の繊細な取り付け面を潜在的に損傷するおそれがある。
【0008】
宝石類を台に固定することによって生じる問題は、固定に高い処理温度を必要とせずに石を効果的かつ確実に保守することと、石の輝きを損なわないように、この固定を特に見えないように行うということとの両方にある。既知の技術は、これらの問題に対して満足のいく解決策を提供しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】仏国特許公開公報第2,042,156号
【特許文献2】特開平9−173115号
【特許文献3】国際公開第00/57743号
【特許文献4】国際公開第2014/30068号
【発明の概要】
【0010】
本発明は、台上に目に見えないように固定できるように構成された宝石、および、台上に石を固定する方法を提供することにより、上記の欠点を克服するものであり、得られる固定は、効果的で、信頼性があり、耐久性が高く、かつ、目に見えない。
【0011】
この目的のために、本発明は、おいて書き部に規定された宝石類に関するものであって、前記接続域は、前記パビリオンの限定された幅を有する周縁部の一部または全部に配置され、空気/石の界面から石に侵入するクラウン上の入射光が、前記接続域よりも小さい前記パビリオンの一部の第1のパビリオン/空気界面によって反射されるか、または、前記接続域を含む周縁部内の前記石の前記第1のパビリオン/前記界面によって全反射され、前記石の少なくとも1つの第2のパビリオン/空気界面を介して前記パビリオンの後方で前記石の外側に屈折されることを特徴とする。
【0012】
好ましい一実施形態によれば、前記周縁部は、前記ガードルの近くの前記パビリオン上に位置する。前記周縁部は、好ましくは、空気/クラウン界面で屈折した入射光が第1のパビリオン/空気界面によって反射されない、いわゆる不可視領域を含むことができる。前記周縁部は、有利には、前記パビリオンの周囲360°にわたって延びる帯を含むことができる。前記帯は、好ましくは、前記パビリオンの表面の少なくとも約20〜35%に対応する領域を覆う。
【0013】
特に有利には、金属固定手段は、サンドイッチ状に堆積された複数の金属層を含むことができる。複数の金属層は、好ましくは、石と炭化物の層を形成する内側層を含む。有利な一実施形態によれば、前記内側層は、チタン、タンタル、ハフニウムまたはニオブを含む。
【0014】
また、複数の金属層は、好ましくは、石を収容するよう意図された台の材料と同じ材料を含む外側層を含む。好ましくは、外側層および台は金を含む。別の実施形態によれば、複数の金属層は、前記内側層と前記外側層との間に拡散障壁を形成する中間層を含む。中間層は白金を含むことができる。有利には、金属固定手段は、PVD法を用いて堆積される。
【0015】
また、この目的のために、本発明は、おいて書き部で規定された固定方法に関し、前記接続域は、前記パビリオンの限定された幅の周縁部の一部または全部を覆って堆積され、空気/石の界面から石に侵入するクラウン上の入射光線が、前記接続域よりも下方の前記パビリオンの点上の第1のパビリオン/空気界面によって反射されるか、または、前記接続域を含む周縁部内の前記石の前記第1のパビリオン/前記界面によって全反射され、前記石の少なくとも1つの第2のパビリオン/空気界面を介して前記パビリオンの後方で前記石の外側に屈折されることを特徴とする。
【0016】
この方法において、前記周縁部は、前記ガードルの近くの前記パビリオンに有利に画定される。有利には、前記パビリオンの表面の少なくとも約20〜35%に対応する領域を覆う前記周縁部に帯が堆積される。帯は、有利には、前記パビリオンの表面の少なくとも約20〜35%に対応する領域を覆う。
【0017】
この方法に関連して、複数の金属層をサンドイッチ状に堆積して金属固定手段を形成することが可能である。また、炭化物の層を形成する内側層を石に付着させることも可能であり、この内側層はチタン、タンタル、ハフニウムまたはニオブを含む。また、前記石を固定する前に、前記石を収容することを意図された前記台と同じ材料を含む外側層を堆積させることも可能である。
【0018】
本発明およびその利点は、添付の図面を参照して非限定的な例として提供される一実施形態に関する以下の説明において明確に示されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1および第2のパビリオン/空気界面で全反射した後の、前記石のクラウンを侵入し、クラウンによって反射された光線の軌跡を模式的に示す石の軸方向断面図である。
【
図2】パビリオンの限定された部分を覆う接続域を備えた前記石のクラウンに侵入する光線の軌跡を概略的に示す石の軸方向断面図である。
【
図3】不可視領域内に接続域が設けられた前記石のクラウンに侵入する光線の軌跡を模式的に示す石の軸方向断面図である。
【
図4】前記接続域が設けられた本発明による石の側面図である。
【
図5】前記接続域が設けられた本発明による石の底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、以下において「石」10と称される宝石に関する。本発明による石10は、天然または合成とすることができ、特にファセットダイヤモンドから構成することができるが、エメラルド、サファイア、ルビーまたは他の種類の石から構成することもできる。図示の例では、石10は、複数のカットファセット11を有する円形ダイヤモンドである。この例示的な実施形態は、勿論限定的ではなく、本発明は様々な形状の石に向けられる。
【0021】
図を参照すると、図示のように、石10は、石10が台(図示せず)に固定されたときに見える、一般にクラウン12と呼ばれる前部を含む。石は、複数のファセット11を有するように切断されることが一般的である。クラウン12の後方に、石10は、一般にパビリオン13と呼ばれる背側部分を含み、これは一般にガードル14と呼ばれる中間部分によってクラウン12に対して画定される。パビリオン13は、一般に一点で切断され、また、複数のファセット11を有することもできる。典型的には、パビリオン13は、石がその台に取り付けられた際に少なくとも部分的に隠される。実際、典型的には、パビリオン13は、石10の固定部ができる限り見えないようにしつつ、クラウン12のみが目に見えるように石10を台に固定するのに使用される。宝石商が求めている1つの目的は、用途にかかわらず、したがって、例えば時計または宝飾品から構成され得る台の種類と独立して、固定の信頼性を確保しつつも、石10の最適な光沢または輝きを備えた、石10の固定手段を隠すことにある。
【0022】
図1に特に示されているように、石10のファセット11の寸法に応じて、クラウン12を通過して石10に侵入する入射光線R1、R2は、パビリオン13内の石/空気界面上で1回または複数回の全反射を受けて、入射光がクラウン12の石/空気界面を介して戻され、輝きおよび所望の審美性を石10に付与する。情報として、光線R1は、点A1において、光線R1の入射点A1の法線H
A1に対する角i1に沿って、石10のクラウン12のファセット11に当たるが、この光線R1は石10に侵入し、クラウン12の空気/石の界面で屈折現象を受ける。スネル・デカルトの法則によれば、空気の屈折率n
1と石10の屈折率n
2と入射角i
1と屈折角i
2とを結ぶ関係は次のように表される。
n
1sin(i
1)=n
2sin(i
2)
【0023】
屈折した光線R'1は、法線H
A1に対して角度i
2だけずれており、この角度i
2は、空気の屈折率n
1が石10の屈折率n
2よりも小さいので、入射光R1の入射角i
1よりも小さい。この屈折された光線R'1は石10の内部を進み、パビリオン13の壁に、より具体的には第1のパビリオン/空気境界面に、完全反射を受ける点B1で当たる。実際、屈折された光線R'1は、点B1で、全反射が発生する限界角度i
lよりも大きい角度i
rを法線H
B1に対して形成する。この限界角度i
lは、次の法則に従う。
i
l=arcsin(n
1/n
2)
【0024】
例えば、屈折率n
2=2.42のダイヤモンド石10と空気の屈折率n
1=1に対して、限界角度i1は実質的に24°に等しい。次に、反射された光線R'1は、点B1での角度i
rに沿って、第2のパビリオン/空気界面点C1上に送られ、第3のクラウン/空気界面に点D1で戻る前に、そこで新しい全反射を受ける。出射角i
4が点D1での入射角i
3より大きくなるように屈折する。なお、クラウン12の点A1での入射光が、クラウン12の点D1に光線R”1の形で戻され、上記の条件が満たされた場合に、石10がすべての輝きをもって輝く。
【0025】
第2の入射光線R2が
図1に示されている。光線R2は、クラウン12の中央領域21に対して実質的に垂直に侵入し、入射点A2において屈折を受けることなく直線で伝播する。光線は石10に侵入し、第1のパビリオン/空気界面に到達し、点B2で第1の全反射を受け、次に第2のパビリオン/空気界面の点C2で第2の全反射を受ける。光は、屈折を受けることなく、クラウン12の中心範囲121に対して実質的に垂直に離れる。前述のように、入射光線は、石10内で多かれ少なかれ複雑な光路をたどった後に戻される。
【0026】
上記の条件下で、かつ、石を台に固定する固定手段を配置するために、パビリオン13の表面を不透明コーティングで一部または全部を金属化または被覆したと仮定して、石10を通過し、不透明コーティングを設けた表面により反射された光の少なくとも一部が、この不透明コーティングの像を返し、石10の所望の輝きを失うが、これは回避することが望まれている。
【0027】
このため、本発明による石10は、
図2〜
図4に示すように、台(図示せず)上に石を固定可能とする金属固定手段20を備えている。この実施形態では、これらの金属固定手段20は、パビリオン13の限定された周縁部131の一部または全部に位置する接続領域21を含む。金属固定手段20は、光の通常の移動を変更するのではなく、周縁部131内に、それらが不可視になるように配置される。実際、パビリオン13の周縁部131は、以下で説明する特定の光学特性を有する。接続領域21は、
図5に示すように、パビリオンの周囲に完全に、すなわち360°にわたって延びる金属帯22の形態をとることができる。帯22は、ガードル14の直下に位置することができる。金属帯22は、パビリオン13の高さに対して限定された幅を有し、少なくとも部分的にパビリオン13の周縁部131にわたって延びる金属コーティングまたは金属層によって形成することができる。その結果、周縁部131を、台に応じて、部分的または完全に金属化することができる。好ましくは、周縁部131は、パビリオン13の表面の20〜35%に対応する領域を覆う金属帯22を含む。
【0028】
一例として、
図2に示すように、入射光線R3は、ガードル14に近い衝突点A3で石10のクラウン12のファセット11の1つに送られる。光線R3は、ガードル14に隣接するファセット11に送られることに留意されたい。光線は、点A3においてファセット11の法線H
A3に接近しつつ、光線R'3の形態でクラウン12に侵入し、金属帯22が堆積された周縁部131内のパビリオン13の第1のパビリオン/空気界面に当たる。光線R’3は点B3で全反射する。この全反射のために、光線は、それ未満の角度ではもはや全反射を受けることがなく、屈折される限界の角度である限界角度i
lより小さい角度で、点C3においてパビリオン13の反対側のファセット11の第2のパビリオン/空気界面に戻される。これは、周縁部131で反射された光線の場合であり、この光線は、パビリオン13の第2のパビリオン/空気界面によって石10を離れると屈折する。このため、パビリオン13の周縁部131は、第2のパビリオン/空気界面での第2の全反射を可能にする条件下で光を戻さないという特殊性を有する。その結果、この周縁部131に位置する金属化または不透明金属帯22の像は、石10の前面では見えない。すなわち、クラウン12を観察した場合に、固定手段20として機能する金属帯22が見えないので、観察者には石10の接続領域21が見えない。
【0029】
図2に示す第2の光線R4は、クラウン12上の衝突点A4で屈折し、石10に光線R'4の形態で侵入しながら屈折し、光線R'4は、金属帯22の下方の点B4において第1のパビリオン/空気界面で反射される。光線R'4は、その全反射後、点C4で、第1のパビリオン/空気境界面の反対側の第2のパビリオン/空気境界面に衝突し、そこで第2の全反射を受ける。光線R’4は、次にクラウン12に向けて反射され、屈折しながら点D4を通過する。光線R4は、その光軌跡に関して、
図1の光線R1およびR2に再結合し、石10に輝きを与えるのに寄与しながら入射光を戻す。この光線R4は周縁部131で反射されず、観察者により可視である。
【0030】
また、
図3に示すように、周縁部131は、いわゆる不可視領域ZIを含んでおり、空気/クラウン界面で屈折した入射光線R3は、前記不可視領域ZIの外側の第1のパビリオン/空気界面によってのみ反射される。換言すれば、光線は不可視領域において反射されない。この不可視領域ZIはガードルの下方に位置し、その高さはガードルの高さにより決まり、典型的には、石の直径の2〜6%である。例えば、直径が2mmの石10では、この代替例の不可視領域の幅は0.25mmとすることができる。この不可視領域ZI内に配置するのに十分に細い金属帯22を提供する場合には、空気/クラウン界面での入射光線は、帯22の外側の第1の光度/空気界面で反射される。その結果、光線が不可視領域に到達することができないので、金属帯22は見えない。この場合、帯22を含む接続領域21は周縁部131を完全には覆わない。
【0031】
その結果、周縁部131の特定の光学的特性により、この周縁部131の一部または全部に接続領域21を配置することが可能となり、接続領域は、クラウン12を介して石10を見る観察者には見えないようになる。周縁部131がガードル14の直下に位置し、パビリオン13の全表面よりも小さい表面上に延在していることが、ファセット付円形ダイヤモンドにおいて観察されている。
【0032】
本発明の一実施形態によれば、金属固定手段20は、PVD(物理的気相成長)法を用いて石の表面に堆積される。PVDの使用は、石の表面に制御された正確な方法で接続領域21を形成することを可能にする。PVD堆積ステップは、石の表面を洗浄するステップと、任意選択で、付着層を堆積させるステップとの前に行うことができる。好ましくは、PVD堆積ステップは、アルゴン等の不活性ガスを含むチャンバ内で、10
−4〜10
−2mbarの圧力で行われる。
【0033】
一実施形態では、金属固定手段20は、石の表面にサンドイッチ状に堆積された複数の金属層を含む。1つの特権的な代替案によれば、まずチタン(またはチタン基合金)からなる内部金属層が石上に、続いて白金(または白金基合金)で作られた中間層、次いで金(または金基合金)からなる外部層が堆積される。ここで、好ましくは40〜500nmの厚さを有するチタンの層は、付着の役割を果たし、チタンは石と炭化物の層を形成する。代替的に、内部層としてチタンの代わりに、石と炭化物層を形成することができる他の材料(例えば、タンタル、ハフニウムまたはニオブ)を使用することができる。好ましくは100〜2000nmの厚さを有する金からなる外部層は、以下で説明するように、溶接または熱圧着によって金を台に固定する。無論、石を受け入れることが意図された台が別の材料から作られている場合、外層の材料はそれに応じて適合させることができる。白金層は、好ましくは厚さが60〜500nmであり、チタンの層と金の層との間に拡散バリアを形成するが、他の材料も中間層として使用することができる。言及したもの以外の他の層が締結手段20内に存在してもよい。
【0034】
石の表面上に金属固定手段20を形成した後に、上記で詳述したように、接続領域21が正しく位置決めされ識別できないことを確実にするために、化学洗浄ステップを行って、不要な位置に存在する金属材料を排除することができる。
【0035】
金属化の後、金属固定手段20を含む石は、異なる技術を用いて対応する台に固定することができるが、熱圧着または溶接によって固定されることが好ましい。熱圧着の状況において、また、好ましくは溶接の状況においても、石(および特に金属固定手段20)を受け入れることが意図された台の表面の部分に、PVD法によって金属層を形成する。特に、金の台上に対しては、堆積される金属層も金から作られることが好ましい。また、台上の金属層のこの堆積の前に、対象の台の表面を清浄にするステップを行うこともできる。
【0036】
1つの代替案によれば、石は、熱圧着によって台に固定され、金の外層を含む金属固定手段20は、台上に堆積された金の層に対して圧縮される。一実施例では、2〜20kg/mm
2の力と100〜600℃(またはより好ましくは200〜450℃)の温度で20秒〜60分の持続時間にわたり作動する圧縮機を、このステップで使用する。
【0037】
別の代替案によれば、石は、溶接機によって5〜50g/mm
2の力および280〜350℃の温度で1秒〜5分間の持続時間にわたって台に固定される。上述したように、この場合には、適切な形状を有する適切な材料のプリフォーム(例えば、金−スズからなる円錐形リング)を用い、台は、その表面上に予め堆積された金の層を有することが好ましい。化学的清浄化工程は、残渣を除去するために溶接後に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
この説明は、金属帯22がガードル直下の不可視領域ZIにあるがために認識できない、または、金属帯22の配置された周縁部131によって第1のパビリオン/空気界面で反射された入射光線R3の全てが、全反射限界角ilより小さい角度で第2のパビリオン/空気界面に戻され、見えることなく石のパビリオン13の後方に屈折して抜けることを明らかに示している。本発明は、所望の目的を達成すること、すなわち石10の接続領域21を台に固定した際に見えないようにすることを可能にする。
【0039】
PVD法を使用してパビリオン上に金属固定手段20を堆積することにより、寸法が制御であり、位置が正確な金属接続領域21の形成が可能になる。この接続領域21は、金属帯22のようにパビリオンの周りに360°にわたって延在することが好ましく、それによって、石が小さく、帯22が比較的薄い幅を有している場合でも、台への確実で強固な固定が可能となる。さらに、金属固定手段20を含む石は、温度が600℃を超えない条件、より好ましくは450℃を超えない条件に従って台に固定されることが有利である。
【0040】
本発明は、説明された例示的な実施形態に限定されず、当業者に自明の任意の修正および代替形態に拡張される。