特許第6807870号(P6807870)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6807870メチルペルフルオロヘプテンエーテル及びtrans−1,2−ジクロロエチレンの三元組成物、並びにその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6807870
(24)【登録日】2020年12月10日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】メチルペルフルオロヘプテンエーテル及びtrans−1,2−ジクロロエチレンの三元組成物、並びにその使用
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/50 20060101AFI20201221BHJP
   C11D 7/30 20060101ALI20201221BHJP
   C23G 5/028 20060101ALI20201221BHJP
   B08B 3/08 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   C11D7/50
   C11D7/30
   C23G5/028
   B08B3/08 Z
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-558529(P2017-558529)
(86)(22)【出願日】2016年4月19日
(65)【公表番号】特表2018-520224(P2018-520224A)
(43)【公表日】2018年7月26日
(86)【国際出願番号】US2016028209
(87)【国際公開番号】WO2016182700
(87)【国際公開日】20161117
【審査請求日】2019年2月1日
(31)【優先権主張番号】14/707,126
(32)【優先日】2015年5月8日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515269383
【氏名又は名称】ザ ケマーズ カンパニー エフシー リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マーク エル.ロビン
(72)【発明者】
【氏名】ハリソン ケー.ムシミ
(72)【発明者】
【氏名】ジェイソン アール.ジュハス
【審査官】 林 建二
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−511428(JP,A)
【文献】 特表2005−523991(JP,A)
【文献】 特表2009−528432(JP,A)
【文献】 仏国特許出願公開第02921665(FR,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0244922(US,A1)
【文献】 国際公開第2014/197290(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00−19/00
B08B 3/00−3/14
C09K 3/00
C09K 3/30
C09K 5/00−5/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
90〜99重量パーセントのtrans−1,2−ジクロロエチレン、0.1〜8重量パーセントのメチルペルフルオロヘプテンエーテル、及び、Z−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン、1,3,4,4,4−ペンタフルオロ−3−トリフルオメチル−1−ブテン、1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン、ペルフルオロブチルエチルエーテル、ペルフルオロイソプロピルメチルエーテル、ペルフルオロエチルイソプロピルケトン、ヘプタフルオロシクロペンタン、及びE−1,1,1−トリフルオロ−3−クロロ−2−プロペンからなる群から選択される、0.9〜2.0重量パーセントのフルオロカーボンを含む共沸様組成物であって、前記組成物は不燃性である組成物。
【請求項2】
93〜97重量パーセントのtrans−1,2−ジクロロエチレン、3〜6重量パーセントのメチルペルフルオロヘプテンエーテル、及び、Z−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン、1,3,4,4,4−ペンタフルオロ−3−トリフルオロメチル−1−ブテン、1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン、ペルフルオロブチルエチルエーテル、ペルフルオロイソプロピルメチルエーテル、ペルフルオロエチルイソプロピルケトン、ヘプタフルオロシクロペンタン、及びE−1,1,1−トリフルオロ−3−クロロ−2−プロペンからなる群から選択される、0.9〜2.0重量パーセントのフルオロカーボンを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
95重量パーセントのtrans−1,2−ジクロロエチレン、4.0〜4.4重量パーセントのメチルペルフルオロヘプテンエーテル、及び、Z−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン、1,3,4,4,4−ペンタフルオロ−3−トリフルオロメチル−1−ブテン、1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン、ペルフルオロブチルエチルエーテル、ペルフルオロイソプロピルメチルエーテル、ペルフルオロエチルイソプロピルケトン、ヘプタフルオロシクロペンタン、及びE−1,1,1−トリフルオロ−3−クロロ−2−プロペンからなる群から選択される、0.9〜1.0重量パーセントのフルオロカーボンを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
物品の表面から残渣を除去する方法であって、
(a)前記表面を、90〜99重量パーセントのtrans−1,2−ジクロロエチレン、0.1〜8重量パーセントのメチルペルフルオロヘプテンエーテル、及び、Z−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン、1,3,4,4,4−ペンタフルオロ−3−トリフルオロメチル−1−ブテン、1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン、ペルフルオロブチルエチルエーテル、ペルフルオロイソプロピルメチルエーテル、ペルフルオロエチルイソプロピルケトン、ヘプタフルオロシクロペンタン、及びE−1,1,1−トリフルオロ−3−クロロ−2−プロペンからなる群から選択される、0.9〜2.0重量パーセントのフルオロカーボンを含む共沸様組成物に接触させる工程と、
(b)前記組成物から前記表面を回収する工程と、を含む、方法。
【請求項5】
前記接触させる工程が、蒸気脱脂によって行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記接触させる工程が、前記組成物で飽和した物体で前記表面を拭くことによって行われる、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、メチルペルフルオロヘプテンエーテル組成物の分野に関する。これら組成物は、ゼロODP、低GWP組成物であり、フラックス除去剤として精密洗浄用途において、そして、表面から油又は残渣を除去するために有用である。
【背景技術】
【0002】
精密洗浄は、広範囲にわたる近代産業の至るところで必要とされている。プリント回路基板の製造及び時計製造等の多様な産業は、最終製品が信頼できる、故障のない品質を確実に提供できるように、厳しい規格に合わせた洗浄を必要とする。航空宇宙、運輸、電気通信、及びデータ処理産業を含むありとあらゆる産業は全て、故障が大惨事になり得る重要なエレクトロニクス及び回路基板を使用する。これらシステムで使用されるプリント回路基板(PCB)は、PCB製造プロセス中に導入されるフラックス及び他の汚れを除去するために、使用前に溶媒で洗浄しなければならない。半導体産業で用いられる製品は、厳しい品質基準を満たすために精密洗浄を必要とする。航空宇宙産業は、滞留水(trapped water)による着陸装置部品の破損をなくすために、着陸装置の精密洗浄を必要とする。宝石及び時計製造産業では、審美的に美しく、スポットがなく、かつ全くの汚れのない最終製品が求められる。手術針から人工心臓弁に及ぶ医療機器は、感染及び病気の蔓延を防ぐために厳しい規格に合わせて洗浄しなければならない。自動車産業は、燃料噴射装置、ABSブレーキ、コンプレッサ、継電器、センサ、及びスイッチ等の重要な部品の精密洗浄を必要とする。また、光学アセンブリ、レンズ、光ファイバー、及びフラットパネルディスプレイを含む光学部品のスポットフリー洗浄にも溶媒が必要とされる。
【0003】
精密溶媒は、理想的には、不燃性であり、かつ使用上の安全性を提供するために低毒性でなければならない。汚れの除去において溶媒の有効性が高いことも望ましい。溶媒の有効性は、典型的には、カウリブタノール(KB)価として表され、これは、重炭化水素グリースを溶解させる溶媒の能力を反映し、KB価が高いほど、溶媒の有効性が高い。
【0004】
1970年代前半、精密溶媒に最も一般的な溶媒は、トリクロロエチレン(TCE)であった。しかし、水質及び土壌汚染に関連する環境問題に起因して、TCEは、1970年代後半の初頭に、多くの用途においてフッ素系溶媒CFC−113によって置き換えられた。TCEは、国内外で、増加する規制に直面し続けており、また、潜在性発癌物質でもある。しかし、CFC−113は、成層圏のオゾンの破壊の原因となる溶媒であり、大きなオゾン層破壊係数(ODP値)を特徴とする。その結果、CFC−113は、1987年のモントリオール議定書の規定により、そのオゾン層破壊特性のために禁止されている。CFC−113の禁止後、HCFC−141b及びHCFC−225等の溶媒を含む、ODPが低いがゼロではない溶媒が開発された。これらの溶媒は、そのオゾン層破壊特性によって、近い将来段階的に廃止される予定である。より最近では、ヒドロフルオロカーボン(HFC)及びヒドロフルオロエーテル(HFE)を含むゼロODP溶媒が開発された。これら化合物はオゾン層破壊には寄与しないが、中程度の地球温暖化係数(GWP)を特徴とし、温室効果ガス(GHG)、すなわち、地球温暖化/気候変動に多少寄与する気体に分類される。精密溶媒用途に有用であることが見出されているHFCとしては、商業的にはVertrel XFとして知られている1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(HFC−43−10mee)が挙げられる。約58〜68重量パーセントの1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(HFC−43−10mee)及び約32〜42重量パーセントのtrans−1,2−ジクロロエチレンを含む共沸組成物が、米国特許第5,196,137号に記載されている。
【0005】
0.4〜29重量パーセントのMPHE及びtrans−1,2−ジクロロエチレンを含む共沸組成物が、米国特許第8,410,039号に開示されている。13.5重量パーセントのMPHE及び86.5重量パーセントのtrans−1,2−ジクロロエチレンを含む組成物は、一部の溶媒洗浄用途で用いるのに十分な程度不燃性ではない。かかる組成物は、ASTM D56−05に従って引火点について試験したとき、複数回にわたる複製での試験中に、いくつかの引火を示す。これは、特定条件下において、若干の燃焼性がある可能性を示している。
【0006】
低毒性及び高溶解作用だけでなく、ゼロODP及び低GWPも特徴とする精密溶媒が必要とされていることは明らかである。不燃性でもある溶媒が更により望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、半導体チップ及び回路基板の洗浄、フラックス除去、及び脱脂プロセス等の精密洗浄用途において有用なゼロODP、低GWP組成物を提供する。また、本組成物は、高い溶解力、低毒性及び不燃性も特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、(a)0.1〜8重量パーセントのメチルペルフルオロヘプテンエーテル(MPHE)、90〜99重量パーセントのtrans−1,2−ジクロロエチレン、及び、Z−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン、1,3,4,4,4−ペンタフルオロ−3−トリフルオロメチル−1−ブテン、1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン、ペルフルオロブチルメチルエーテル、ペルフルオロブチル(perflurobutyl)エチルエーテル、ペルフルオロイソプロピルメチルエーテル、ペルフルオロエチルイソプロピルケトン、ヘプタフルオロシクロペンタン、及びE−1,1,1−トリフルオロ−3−クロロ−2−プロペンからなる群から選択される、0.6〜2.0重量パーセントのフルオロカーボンを含み、不燃性である、ゼロODP、低GWPの組成物を提供する。 本開示は、物品の表面から残渣を除去する方法を更に提供し、この方法は、(a)物品を、MPHE、trans−1,2−ジクロロエチレン、及び、Z−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン、1,3,4,4,4−ペンタフルオロ−3−トリフルオロメチル−1−ブテン、1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン、ペルフルオロブチルメチルエーテル、ペルフルオロブチル(perflurobutyl)エチルエーテル、ペルフルオロイソプロピルメチルエーテル、ペルフルオロエチルイソプロピルケトン、ヘプタフルオロシクロペンタン、及びE−1,1,1−トリフルオロ−3−クロロ−2−プロペンの組成物を含む組成物と接触させる工程と、(b)組成物から表面を回収する工程と、を含む。
【発明を実施するための形態】
【0009】
メチルペルフルオロヘプテンエーテル(MPHE)、trans−1,2−ジクロロエチレン、及び、Z−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン、1,3,4,4,4−ペンタフルオロ−3−トリフルオロメチル−1−ブテン、1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン、ペルフルオロブチルメチルエーテル、ペルフルオロブチル(perflurobutyl)エチルエーテル、ペルフルオロイソプロピルメチルエーテル、ペルフルオロエチルイソプロピルケトン、ヘプタフルオロシクロペンタン、及びE−1,1,1−トリフルオロ−3−クロロ−2−プロペンからなる群から選択される少なくとも1つのフルオロカーボンの組成物が、本明細書中で開示される。MPHEは、米国特許第8,399,713号に記載されている。また、MPHE、trans−1,2−ジクロロエチレン、及び、Z−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン、1,3,4,4,4−ペンタフルオロ−3−トリフルオロメチル−1−ブテン、1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン、ペルフルオロブチルメチルエーテル、ペルフルオロブチル(perflurobutyl)エチルエーテル、ペルフルオロイソプロピルメチルエーテル、ペルフルオロエチルイソプロピルケトン、ヘプタフルオロシクロペンタン、及びE−1,1,1−トリフルオロ−3−クロロ−2−プロペンからなる群から選択されるフルオロカーボンを含む本発明の組成物を使用する新規の方法も本明細書に記載される。これら組成物は、溶媒用途において優れた洗浄を示し、ASTM D56−05(2010)に従って試験したとき、引火点を示さない。
【0010】
0.4〜29重量パーセントのMPHE及びtrans−1,2−ジクロロエチレンを含む共沸組成物が、米国特許第8,410,039号に開示されている。13.5重量パーセントのMPHE及び86.5のtrans−1,2−ジクロロエチレンを含む組成物は、一部の溶媒洗浄用途で用いるのに十分な程度不燃性ではない。
【0011】
本発明で使用するとき、用語「備える(comprises)」、「備える(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(has)」、「有する(having)」、又はこれらの他の任意の変化形は、非排他的な包含を網羅することを意図する。例えば、要素のリストを含むプロセス、方法、物品、又は装置は、これらの要素に必ずしも限定されるものではなく、そのようなプロセス、方法、物品、又は装置に対して明示的に記載されていない、又はこれらに固有のものではない、他の要素も含む場合がある。更に、明示的に逆の記載がない限り、「又は」は、包括的な又はを指し、排他的な又はを指すものではない。例えば、条件A又はBは、以下のいずれかを満たす。Aは真であり(又は存在し)かつBは偽である(又は存在しない)、Aは偽であり(又は存在しないものであり)かつBは真である(又は存在する)、並びに、A及びBの両者が真である(又は存在する)。本明細書で使用するとき、用語「から本質的になる」は、引用されている材料と、請求される組成物の基本的特徴及び新規特徴に影響を与えない他の成分とを含有する組成物を網羅することを意図する。
【0012】
移行句「〜からなる」は、特定されない任意の要素、工程、又は成分を除外する。特許請求の範囲における場合には、材料に通常付随する不純物を除き、このような句は、列挙された材料以外の材料の包含を特許請求項から締め出す。語句「からなる」が序文の直後ではなく請求項の本文の節内で現れるとき、この語句はその請求項内に示される要素のみを制限するものであり、他の要素が特許請求の範囲全体から除外されるわけではない。
【0013】
また、「a」又は「an」の使用は、本明細書に記載される要素及び成分を説明するために採用される。これは、単に便宜上、及び本発明の範囲の一般的な意味を与えるためのものである。この記載は、1つ又は少なくとも1つを含むものと解釈されるべきであり、単数形は、別の意味を有することが明白でない限り、複数形も含む。
【0014】
特に定義しない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明の属する当該技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同一の意味を有する。本明細書に記載されるものと類似又は同等の方法及び材料を、本開示の実施形態の実施又は試験において使用することができるが、好適な方法及び材料を以下に記載する。本明細書において言及する全ての刊行物、特許出願、特許、及び他の参照文献は、特定の一節を引用するものでない限り、その全文が参照により本明細書に援用される。矛盾が生じた場合は、定義を含め、本明細書が優先される。更に、材料、方法、及び実施例は、単なる例証であり、限定することを意図するものではない。
【0015】
上記に数多くの態様及び実施形態が記述されているが、これらは単に例示であり、限定するものではない。本明細書を読んだ後、当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、他の態様及び実施形態が可能であることを理解するであろう。
【0016】
本明細書で使用するとき、共沸組成物は、2つ以上の物質の定沸液体混合物であり、この混合物は、組成が実質的に変化することなく蒸留し、定沸組成物として挙動する。共沸性であることを特徴とする定沸組成物は、同一物質の非共沸混合物と比較して、最高沸点又は最低沸点のいずれかを示す。共沸組成物は、液体の部分蒸発又は蒸留によって生成される蒸気が液体と同じ組成を有する点で、単一の物質として挙動する2つ以上の物質の液体混合物である均質な共沸混合物を含む。共沸組成物は、本明細書で使用するとき、液相が2つ以上の液相に分かれる、不均質な共沸混合物も含む。これら実施形態では、共沸点において、蒸気相は、2つの液相と平衡状態にあり、3相全てが異なる組成を有する。不均質な共沸混合物の2つの平衡な液相を合わせ、液相全体の組成を計算した場合、これは、蒸気相の組成と同一になる。
【0017】
本明細書で使用するとき、時に「近共沸組成物」とも称される「共沸様組成物」という用語は、単一の物質として挙動する2つ以上の物質の定沸又は実質的定沸液体混合物を意味する。共沸様組成物を特徴付ける1つの方法は、液体の部分的蒸発又は蒸留によって発生した蒸気が、蒸発又は蒸留させた液体と実質的に同じ組成を有することである。すなわち、混合物は、実質的に組成が変化することなく蒸留又は還流する。あるいは、共沸様組成物は、各純粋な成分の沸点よりも低い沸点温度を有する組成物であることを特徴とし得る。
【0018】
更に、共沸様組成物を特性評価するための更に別の方法は、特定の温度における組成物の気泡点圧力及び組成物の露点蒸気圧が実質的に同じであることである。近共沸組成物は、ほぼ圧力差のない露点圧力及び気泡点圧力を示す。したがって、所与の温度における露点圧力と気泡点圧力との差は、小さな値になる。露点圧力と気泡点圧力との差が(気泡点圧力に基づいて)3パーセント以下である組成物は、近共沸であると考えてよいと記載することができる。
【0019】
MPHEは、強塩基の存在下におけるペルフルオロ−3−ヘプテン等のペルフルオロヘプテンとメタノールとの反応生成物である不飽和フルオロエーテルの異性体混合物を含む。1つの実施形態では、混合物は、以下の化合物のうちの1つ以上の混合物を含む:CFCFCF=CFCF(OR)CFCF、CFCFC(OR)=CFCFCFCF、CFCF=CFCF(OR)CFCFCF、及びCFCFCF=C(OR)CFCFCF;(式中、R=CH)。
【0020】
13.5重量パーセントのMPHEを含有する、MPHE及びtransジクロロエチレンを含む組成物が、洗浄用途において有用である。しかし、ASTM試験法に従って引火点について複数回試験を実施したとき、引火点の断続的な観察によって、本発明者らは他の不燃性組成物を探索する。
【0021】
本発明者らは、Z−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン、1,3,4,4,4−ペンタフルオロ−3−トリフルオロメチル−1−ブテン、1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン、ペルフルオロブチルメチルエーテル、ペルフルオロブチル(perflurobutyl)エチルエーテル、ペルフルオロイソプロピルメチルエーテル、ペルフルオロエチルイソプロピルケトン、ヘプタフルオロシクロペンタン、及びE−1,1,1−トリフルオロ−3−クロロ−2−プロペンからなる群から選択される少量のフルオロカーボンを、MPHE及びtrans−ジクロロエチレンの二元組成物に付加することで、定沸特性を示し、燃焼性が低減した組成物が得られることを見出した。上記のフルオロカーボンの0.6重量パーセント〜1.5重量パーセントのような低い量の添加は、密閉式引火点試験において測定可能な引火点を示さない組成物をもたらす。
【0022】
本発明の1つの実施形態では、組成物は、約90〜99重量パーセントのtrans−1,2−ジクロロエチレン、0.1〜8重量パーセントのMPHE、及び、Z−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン、1,3,4,4,4−ペンタフルオロ−3−トリフルオロメチル−1−ブテン、1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン、ペルフルオロブチルメチルエーテル、ペルフルオロブチル(perflurobutyl)エチルエーテル、ペルフルオロイソプロピルメチルエーテル、ペルフルオロエチルイソプロピルケトン、ヘプタフルオロシクロペンタン、及びE−1,1,1−トリフルオロ−3−クロロ−2−プロペンからなる群から選択される、0.6〜2重量パーセントのフルオロカーボンを含む。本発明の別の実施形態では、組成物は、約93〜97重量パーセントのtrans−1,2−ジクロロエチレン、3〜6重量パーセントのMPHE、及び、Z−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン、1,3,4,4,4−ペンタフルオロ−3−トリフルオロメチル−1−ブテン、1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン、ペルフルオロブチルメチルエーテル、ペルフルオロブチル(perflurobutyl)エチルエーテル、ペルフルオロイソプロピルメチルエーテル、ペルフルオロエチルイソプロピルケトン、ヘプタフルオロシクロペンタン、及びE−1,1,1−トリフルオロ−3−クロロ−2−プロペンからなる群から選択される、0.5〜2重量パーセントのフルオロカーボンを含む。本発明の更に別の実施形態では、組成物は、95重量パーセントのtrans−1,2−ジクロロエチレン、4.0〜4.4重量パーセントのMPHE、及び、Z−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン、1,3,4,4,4−ペンタフルオロ−3−トリフルオロメチル−1−ブテン、1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン、ペルフルオロブチルメチルエーテル、ペルフルオロブチル(perflurobutyl)エチルエーテル、ペルフルオロイソプロピルメチルエーテル、ペルフルオロエチルイソプロピルケトン、ヘプタフルオロシクロペンタン、及びE−1,1,1−トリフルオロ−3−クロロ−2−プロペンからなる群から選択される、0.6〜1.0重量パーセントのフルオロカーボンを含む。
【0023】
本発明の1つの実施形態では、組成物は、約90〜99重量パーセントのtrans−1,2−ジクロロエチレン、0.1〜8重量パーセントのMPHE、及び、Z−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン、1,3,4,4,4−ペンタフルオロ−3−トリフルオロメチル−1−ブテン、1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン、ペルフルオロブチルメチルエーテル、ペルフルオロブチル(perflurobutyl)エチルエーテル、ペルフルオロイソプロピルメチルエーテル、ペルフルオロエチルイソプロピルケトン、ヘプタフルオロシクロペンタン、及びE−1,1,1−トリフルオロ−3−クロロ−2−プロペンからなる群から選択される、0.5〜2重量パーセントのフルオロカーボンから実質的になる。本発明の別の実施形態では、組成物は、約93〜97重量パーセントのtrans−1,2−ジクロロエチレン、3〜6重量パーセントのMPHE、及び、Z−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン、1,3,4,4,4−ペンタフルオロ−3−トリフルオロメチル−1−ブテン、1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン、ペルフルオロブチルメチルエーテル、ペルフルオロブチル(perflurobutyl)エチルエーテル、ペルフルオロイソプロピルメチルエーテル、ペルフルオロエチルイソプロピルケトン、ヘプタフルオロシクロペンタン、及びE−1,1,1−トリフルオロ−3−クロロ−2−プロペンからなる群から選択される、0.6〜2重量パーセントのフルオロカーボンから実質的になる。本発明の更に別の実施形態では、組成物は、95重量パーセントのtrans−1,2−ジクロロエチレン、4.0〜4.4重量パーセントのMPHE、及び、Z−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン、1,3,4,4,4−ペンタフルオロ−3−トリフルオロメチル−1−ブテン、1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン、ペルフルオロブチルメチルエーテル、ペルフルオロブチル(perflurobutyl)エチルエーテル、ペルフルオロイソプロピルメチルエーテル、ペルフルオロエチルイソプロピルケトン、ヘプタフルオロシクロペンタン、及びE−1,1,1−トリフルオロ−3−クロロ−2−プロペンからなる群から選択される、0.6〜1.0重量パーセントのフルオロカーボンから実質的になる。
【0024】
1つの実施形態では、本組成物は、噴射剤を更に含んでよい。エアゾール噴射剤は、本組成物をエアゾールの形態で保管容器から表面に送達するのを支援し得る。エアゾール噴射剤は、任意で、全組成物の最大約25重量パーセント、本組成物に含まれる。代表的なエアゾール噴射剤は、空気、窒素、二酸化炭素、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)、trans−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze)、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye)、ジフルオロメタン(CF、HFC−32)、トリフルオロメタン(CFH、HFC−23)、ジフルオロエタン(CHFCH、HFC−152a)、トリフルオロエタン(CHCF、HFC−143a;又はCHFCHF、HFC−143)、テトラフルオロエタン(CFCHF、HFC−134a;又はCFHCFH、HFC−134)、ペンタフルオロエタン(CFCFH、HFC−125)、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFC−227ea)、及びプロパン、ブタン、又はペンタンなどの炭化水素、ジメチルエーテル、又はこれらの組み合わせを含む。
【0025】
別の実施形態では、本組成物は、少なくとも1つの界面活性剤を更に含んでよい。本開示の界面活性剤は、基材の脱水又は乾燥について当技術分野において公知の全ての界面活性剤を含む。代表的な界面活性剤としては、アルキルホスフェートアミン塩(2−エチルヘキシルアミンとイソオクチルホスフェートとの1:1塩など);エトキシル化アルコール、メルカプタン又はアルキルフェノール;アルキルホスフェートの第四級アンモニウム塩(アンモニウム基上又はホスフェート基上のいずれかにフルオロアルキル基を有する);及び、フッ素化アミンのモノ−又はジ−アルキルホスフェート、が挙げられる。更なるフッ素化界面活性剤化合物は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,908,822号に記載されている。
【0026】
本発明の脱水組成物に含まれる界面活性剤の量は、組成物が用いられる具体的な乾燥用途に応じて大きく変動し得るが、当業者には容易に明らかである。1つの実施形態では、不飽和フッ素化エーテル溶媒に溶解する界面活性剤の量は、界面活性剤/溶媒組成物の総重量に基づいて、約1重量パーセント以下である。別の実施形態では、組成物で処理した後に、界面活性剤を含まないか又は最小限しか含まない溶媒で、乾燥させる基材を処理する場合、より多量の界面活性剤を用いてもよい。1つの実施形態では、界面活性剤の量は、少なくとも約50百万分率(ppm、重量基準)である。別の実施形態では、界面活性剤の量は、約100〜約5000ppmである。更に別の実施形態では、用いられる界面活性剤の量は、脱水組成物の総重量に基づいて、約200〜約2000ppmである。
【0027】
任意で、脱水に用いるための溶媒及び界面活性剤を含む本組成物には他の添加剤が含まれていてもよい。このような添加剤としては、帯電防止特性;ガラス及びシリカ等の非伝導性物質から静電荷を散逸させる能力を有する化合物が挙げられる。本発明の脱水組成物における帯電防止添加剤の使用は、ガラスレンズ及びミラー等の非導電性部品から水又は水溶液を乾燥させるとき、スポット及び染みを防ぐために必須であり得る。また、本発明の大部分の不飽和フルオロエーテル溶媒は、誘電性流体としても有用である、すなわち、電流の導体としての能力が低く、静電荷を容易には散逸させない。
【0028】
従来の乾燥及び洗浄機器における脱水組成物の沸騰及び大循環は、特に、水の大部分が基材から除去された乾燥プロセスの終盤に、静電荷を発生させ得る。このような静電荷は、基材の非伝導性表面上に集まり、水が表面から放出されるのを妨げる。残留水は、その場で乾燥して、基材上に望ましくないスポット及び染みが生じる。基材上に残る静電荷は、洗浄プロセス由来の不純物を追い出し得るか、又は許容できない洗浄性能の原因となる、空気由来の綿埃等の不純物を引き付け得る。
【0029】
1つの実施形態では、望ましい帯電防止添加剤は、極性化合物であり、これは、本不飽和フッ素化エーテル溶媒に可溶性であり、かつ基材から静電荷を散逸させる不飽和フッ素化エーテル溶媒の伝導性を増大させる。別の実施形態では、帯電防止添加剤は、不飽和フッ素化エーテル溶媒の標準沸点近傍に標準沸点を有し、水に対する溶解度を最小限しか又は全く有しない。更に別の実施形態では、帯電防止添加剤の水に対する溶解度は、約0.5重量パーセント未満である。1つの実施形態では、帯電防止剤の溶解度は、不飽和フッ素化エーテル溶媒に対して少なくとも0.5重量パーセントである。1つの実施形態では、帯電防止添加剤は、ニトロメタン(CHNO)である。
【0030】
1つの実施形態では、帯電防止添加剤を含有する脱水組成物は、以下に記載する通り基材を脱水又は乾燥させる方法の脱水工程及び乾燥工程及びすすぎ工程において有効である。
【0031】
別の実施形態は、基材を脱水又は乾燥させる方法であって、
(a)基材を、90〜99重量パーセントのtrans−1,2−ジクロロエチレン、0.1〜8重量パーセントのメチルペルフルオロヘプテンエーテル、及び、Z−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン、1,3,4,4,4−ペンタフルオロ−3−トリフルオロメチル−1−ブテン、1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン、ペルフルオロブチルメチルエーテル、ペルフルオロブチル(perflurobutyl)エチルエーテル、ペルフルオロイソプロピルメチルエーテル、ペルフルオロエチルイソプロピルケトン、ヘプタフルオロシクロペンタン、及びE−1,1,1−トリフルオロ−3−クロロ−2−プロペンからなる群から選択される、0.1〜2.0重量パーセントのフルオロカーボンを含み、界面活性剤を更に含む組成物に接触させ、それによって基材を脱水する、工程と、
(b)組成物から、脱水された基材を回収する工程と、を含む。
【0032】
1つの実施形態では、脱水及び乾燥用の界面活性剤は、溶媒/界面活性剤組成物の総重量に基づいて、少なくとも1重量パーセント可溶性である。別の実施形態では、本開示の脱水又は乾燥方法は、タングステン、銅、金、ベリリウム、ステンレス鋼、アルミニウム合金、黄銅等の金属を含む広範な基材から;ガラス、サファイア、ホウケイ酸ガラス、アルミナ、シリカ(電子回路で使用されるシリコンウェア等)、焼成アルミナ等のガラス及びセラミック表面から;並びに、ポリオレフィン(「Alathon」、Rynite(登録商標)、「Tenite」)、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン(Styron)、ポリテトラフルオロエチレン(Teflon(登録商標))、テトラフルオロエチレン−エチレンコポリマー(Tefzel(登録商標))、ポリフッ化ビニリデン(「Kynar」)、アイオノマー(Surlyn(登録商標))、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンポリマー(Kralac(登録商標))、フェノール−ホルムアルデヒドコポリマー、セルロース(「Ethocel」)、エポキシ樹脂、ポリアセタール(Delrin(登録商標))、ポリ(p−フェニレンオキシド)(Noryl(登録商標))、ポリエーテルケトン(「Ultrapek」)、ポリエーテルエーテルケトン(「Victrex」)、ポリ(ブチレンテレフタレート)(「Valox」)、ポリアリーレート(polyarylate)(Arylon(登録商標))、液晶ポリマー、ポリイミド(Vespel(登録商標))、ポリエーテルイミド(「Ultem」)、ポリアミドイミド(「Torlon」)、ポリ(p−フェニレンスルフィド)(「Rython」)、ポリスルホン(「Udel」)、及びポリアリールスルホン(「Rydel」)等のプラスチックから;水を移動させるのに非常に有効である。別の実施形態では、本脱水方法又は乾燥方法で用いるための組成物は、エラストマーと相溶性である。
【0033】
1つの実施形態では、本開示は、濡れている基材の表面から水の少なくとも一部を除去する(脱水する)方法であって、基材を前述の脱水組成物と接触させる工程と、次いで、脱水組成物との接触から基材を取り除く工程と、を含む、方法に関する。別の実施形態では、基材の表面に元々結合していた水は、溶媒及び/又は界面活性剤によって置換され、脱水組成物と共に離れる。本明細書で使用するとき、用語「水の少なくとも一部」とは、浸漬サイクル当たり、基材の表面の水の少なくとも約75重量パーセントが除去されることを意味する。本明細書で使用するとき、用語「浸漬サイクル」とは、本脱水組成物に基材を浸漬する工程を少なくとも含む1つのサイクルを意味する。
【0034】
任意に、基材を、界面活性剤を含まないハロカーボン溶媒と接触させる工程によって、基材に付着したまま残っている最小量の界面活性剤を更に除去してもよい。物品を溶媒蒸気又は還流溶媒中で保持すると、基材上に残る界面活性剤の存在が更に低減される。基材の表面に付着している溶媒の除去は、蒸発によって行われる。大気圧又は準大気圧で溶媒を蒸発させてよく、ハロカーボン溶媒の沸点よりも高い又は低い温度を用いてよい。
【0035】
基材を脱水組成物と接触させる方法は、重要ではなく、大きく異なり得る。例えば、基材を組成物に浸漬してもよく、又は従来の機器を用いて基材に組成物を噴霧してもよい。一般的に組成物と基材の全ての曝露表面との接触が確保されるので、基材を完全に浸漬することが好ましい。しかし、このような完全な接触を容易に提供することができる任意の他の方法を用いてもよい。
【0036】
基材と脱水組成物とを接触させる時間は、大きく変動し得る。通常、接触時間は、最大約5分間であるが、必要に応じてより長い時間を用いてもよい。脱水方法の1つの実施形態では、接触時間は、約1秒間〜約5分間である。別の実施形態では、脱水方法の接触時間は、約15秒間〜約4分間である。
【0037】
また、接触温度は、組成物の沸点に応じて大きく変動し得る。一般に、接触温度は、組成物の標準沸点以下である。
【0038】
1つの実施形態では、本開示の組成物は、共溶媒を更に含有してよい。本組成物を基材からの従来のプロセス残渣の洗浄において、例えば、はんだ付け用フラックスの除去及び本発明の基材を含む機械部品の脱脂において使用する場合、このような共溶媒が望ましい。このような共溶媒としては、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール)、エーテル(例えば、ジエチルエーテル、メチルt−ブチルエーテル)、ケトン(例えば、アセトン)、エステル(例えば、酢酸エチル、ドデカン酸メチル、ミリスチン酸イソプロピル、及びコハク酸、グルタル酸、若しくはアジピン酸のジメチル若しくはジイソブチルエステル、又はこれらの混合物)、エーテルアルコール(例えば、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノメチルエーテル)、及び炭化水素(例えば、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン)、及びヒドロクロロカーボン(例えば、trans−1,2−ジクロロエチレン)が挙げられる。基材の脱水又は洗浄のために本組成物と共にこのような共溶媒を使用するとき、共溶媒は、全組成物の重量に基づいて、約1重量パーセント〜約50重量パーセントの量で存在し得る。
【0039】
本開示の別の実施形態は、表面を洗浄する方法であって、
(a)表面を、90〜99重量パーセントのtrans−1,2−ジクロロエチレン、0.1〜8重量パーセントのメチルペルフルオロヘプテンエーテル、及び、Z−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン、1,3,4,4,4−ペンタフルオロ−3−トリフルオロメチル−1−ブテン、1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン、ペルフルオロブチルメチルエーテル、ペルフルオロブチル(perflurobutyl)エチルエーテル、ペルフルオロイソプロピルメチルエーテル、ペルフルオロエチルイソプロピルケトン、ヘプタフルオロシクロペンタン、及びE−1,1,1−トリフルオロ−3−クロロ−2−プロペンからなる群から選択される、0.5〜2.0重量パーセントのフルオロカーボンを含む組成物に接触させる工程と、
(b)組成物から表面を回収する工程と、を含む。
【0040】
1つの実施形態では、本発明の組成物は、洗浄組成物、洗浄剤、沈着溶媒、及び脱水又は乾燥溶媒として有用である。別の実施形態では、本発明は、表面又は基材から残渣を除去する方法であって、表面又は基材を本開示の洗浄組成物又は洗浄剤と接触させる工程と、任意に、洗浄組成物又は洗浄剤から残渣を実質的に含まない表面又は基材を回収する工程と、を含む、方法に関する。
【0041】
更に別の実施形態では、本開示は、表面から汚染物質を除去する工程によって表面を洗浄する方法に関する。表面から汚染物質を除去する方法は、汚染物質を有する表面を本発明の洗浄組成物と接触させて、汚染物質を可溶化させる、工程と、任意に、洗浄組成物から表面を回収する工程と、を含む。その後、表面は、汚染物質を実質的に含まない。上述の通り、本方法によって除去することができる汚染物質又は残渣としては、油及びグリース、フラックス残渣、並びに粒子状汚染物質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
本開示の1つの実施形態では、接触させる方法は、噴霧、フラッシング、基材で拭く、例えば、洗浄組成物を組み込んだ布又は紙で拭くことによって行ってよい。本開示の別の実施形態では、接触させる方法は、洗浄組成物の浴に物品を漬ける又は浸漬することによって行ってよい。
【0043】
本開示の1つの実施形態では、回収する方法は、接触した表面を洗浄組成物浴から取り出すことによって行われる。本発明の別の実施形態では、回収する方法は、ディスク上の噴霧、フラッシング、又は拭き取りされた洗浄組成物を排出することによって行われる。更に、前の工程が完了した後に残っている可能性のある任意の残留洗浄組成物を、沈着方法と同様に蒸発させてよい。
【0044】
表面を洗浄する方法は、以下に記載する沈着方法と同じ種類の表面に適用してよい。シリカ、ガラス、金属若しくは金属酸化物、又はカーボンの半導体表面又は磁気媒体ディスクは、本発明の方法によって除去される汚染物質を有し得る。上記方法では、ディスクを洗浄組成物と接触させる工程と、ディスクを洗浄組成物から回収する工程とによって、ディスクから汚染物質を除去してよい。
【0045】
更に別の実施形態では、本方法は、また、物品を本開示の洗浄組成物と接触させる工程によって、製品、部品、コンポーネント、基材、又はこれらの任意の他の物品若しくは部分から汚染物質を除去する方法を提供する。本明細書で参照するとき、用語「物品」とは、全てのこのような製品、部品、コンポーネント、基材等を指し、更に、これらの任意の表面又は部分を指すことを意図する。
【0046】
本明細書で使用するとき、用語「汚染物質」は、物品上に存在する任意の望ましくない材料又は物質(このような物質が意図的に物品上に配置されたものであっても)を指すことを意図する。例えば、半導体装置の製造では、フォトレジスト材料を基材上に沈着させてエッチング操作のためのマスクを形成し、次いで、基材からフォトレジスト材料を除去するのが一般的である。用語「汚染物質」は、本明細書で使用するとき、このようなフォトレジスト材料を網羅及び包含することを意図する。炭化水素系の油及びグリース、並びにジオクチルフタレートは、カーボンコーティングされたディスク上に見られ得る汚染物質の例である。
【0047】
1つの実施形態では、本発明の方法は、蒸気脱脂及び溶媒洗浄方法において、物品を本発明の洗浄組成物と接触させる工程を含む。1つのこのような実施形態では、蒸気脱脂及び溶媒洗浄方法は、好ましくは室温で、沸騰している洗浄組成物の蒸気に物品を曝露する工程からなる。物体上において凝縮している蒸気は、グリース又は他の汚染物質を洗い落とすために、比較的清浄な、蒸留された洗浄組成物を提供するという利点を有する。したがって、このような方法は、物体を単に液体洗浄組成物で洗浄した場合と比べて、物体から本洗浄組成物を最後に蒸発させることによって比較的少量の残渣しか残らないという更なる利点を有する。
【0048】
別の実施形態では、物品が、除去することが困難な汚染物質を含む用途では、本発明の方法は、周囲温度よりも高い温度、又はこのような用途において洗浄組成物の洗浄作用を実質的に改善するのに有効な任意の他の温度まで洗浄組成物を昇温することを含む。1つのこのような実施形態では、このような方法はまた、一般的に、物品、特に、金属部品及びアセンブリの洗浄を効率的かつ速やかに行わなければならない大量の組立ライン作業に用いられる。
【0049】
1つの実施形態では、本開示の洗浄方法は、高温で、洗浄する物品を液体洗浄組成物に浸漬する工程を含む。別の実施形態では、本開示の洗浄方法は、おおよそ洗浄組成物の沸点で、洗浄する物品を液体洗浄組成物に浸漬する工程を含む。1つのこのような実施形態では、この工程は、物品からかなりの量の標的汚染物質を除去する。更に別の実施形態では、この工程は、物品から大部分の標的汚染物質を除去する。1つの実施形態では、この工程の後に、新たに蒸留した洗浄組成物に物品を浸漬し、この洗浄組成物は、前の浸漬工程における液体洗浄組成物の温度よりも低い温度である。1つのこのような実施形態では、新たに蒸留した洗浄組成物は、おおよそ周囲温度又は室温である。更に別の実施形態では、本方法は、次いで、最初に言及した浸漬工程に関連する熱く/沸騰している洗浄組成物から発生した蒸気に物品を曝露する工程によって、物品を洗浄組成物の比較的熱い蒸気と接触させる工程も含む。1つのこのような実施形態では、これによって、物品上で洗浄組成物の蒸気が凝縮する。特定の好ましい実施形態では、最後のすすぎ前に、蒸留した洗浄組成物を物品に噴霧してよい。
【0050】
多くの種類及びタイプの蒸気脱気装置が、本方法に関連する使用に適用可能であると考えられる。このような装置の一例及びその動作は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第3,085,918号に開示されている。本明細書に開示する装置としては、洗浄組成物を収容するための沸騰サンプ、蒸留した洗浄組成物を収容するための洗浄サンプ、水分離機、及び他の補助装置が挙げられる。
【0051】
本洗浄方法は、また、汚染された物品を周囲温度又は室温条件下で本開示の流体洗浄組成物に浸漬するか、又はこのような条件下で、洗浄組成物を含浸させた布きれ又は類似の物体で拭く、冷洗浄も含み得る。
【実施例】
【0052】
本明細書に記述される概念について以下の実施例で更に説明するが、これは、特許請求の範囲に記載する本発明の範囲を限定するものではない。一般記述又は実施例において上述された作業の全てが必要なわけではなく、特定の作業の一部は必要でない場合があり、また、1つ以上の更なる作業を上述の作業に加えて実施してもよいことに注意されたい。また更に、作業が記載されている順序は、必ずしも実施される順序ではない。
【0053】
上述の明細書において、具体的な実施例を参照して本発明の概念が記述されている。しかしながら、下記の特許請求の範囲に示されている本発明の範囲から逸脱することなく、様々な修正及び変更をなすことが可能であることが、当業者は理解されよう。したがって、本明細書は、制限的な意味ではなく例示として見なされるものであり、そのような修正が全て、本発明の範囲内に含まれることが意図される。
【0054】
利益、その他の利点、及び問題の解決策が、具体的な実施形態に関連して上記に記述されている。しかしながら、これらの利益、利点、問題の解決策、及び、任意の利益、利点又は解決策を生じる場合がある又はより明らかにする場合があるようないかなる特徴も、特許請求の範囲の一部又は全てにおいて必須、必要、又は不可欠な特徴として解釈されるものではない。
【0055】
明確にするために、別個の実施形態の文脈において本明細書に記述されている特定の特徴は、単一の実施形態中で組み合わせて提供されてもよいことが理解されるべきである。逆に、簡潔にするために、単一の実施形態の文脈において記述されている様々な特徴も、別個に提供されてよく、また任意の下位組み合わせで提供されてもよい。更に、範囲で記載した値に対する言及は、その範囲内の各値及び全ての値を含む。
【0056】
実施例1:MPHE、T−DCE及びHFCPの組成物の燃焼性
以下の表1に示されるMPHE、t−DCE及びHFCPの組成物の引火点を、ASTM D56−05(2010)のタグ密閉式試験機による引火点に関する標準試験法によって測定する。結果を以下に示すが、0.8重量%を超えるHFCPを含有する混合物は不燃性である。
【0057】
【表1】
【0058】
実施例2MPHE、HFCP、及びt−DCEブレンドの共沸様挙動
表に示す三元混合物を作製し、エブリオメーター中で沸点を測定した。示されているように、95重量%のt−DCE、0〜1.8重量%のHFCP及び5重量%のMPHEをそれぞれ含有する各混合物は、共沸様挙動、すなわち、本組成範囲にわたって沸点は一定であることを示している。
【0059】
【表2】
【0060】
実施例3:MPHE、T−DCE及び1336mzz−Zの組成物の燃焼性
以下の表3に示されるMPHE、t−DCE及びZ−1336mzzの組成物の引火点を、ASTM D56−05(2010)のタグ密閉式試験機による引火点に関する標準試験法によって測定する。結果を以下の表に列挙するが、0.5重量%を超えるZ−1336mzzを含有する混合物は、不燃性である。
【0061】
【表3】
【0062】
実施例4:MPHE、t−DCE、Z−1336mzzブレンドの沸点挙動
表に示す三元混合物を作製し、エブリオメーター中で沸点を測定した。示されているように、95重量%のt−DCE、0〜2重量%のZ−1336mzz及び5重量%のMPHEをそれぞれ含有する各混合物は、共沸様挙動、すなわち、本組成範囲にわたって沸点は一定であることを示している。
【0063】
【表4】
【0064】
実施例5:MPHE、T−DCE及びHFO 1438ezyの組成物の燃焼性
以下の表5に示されるMPHE、t−DCE及びHFO 1438ezyの組成物の引火点を、ASTM D56−05(2010)のタグ密閉式試験機による引火点に関する標準試験法によって測定する。結果を以下の表に列挙するが、0.7重量%を超えるHFO 1438ezyを含有する混合物は、不燃性である。
【0065】
【表5】
【0066】
実施例6:MPHE、T−DCE及びHFO−1438mzzの組成物の燃焼性
以下の表6に示されるMPHE、t−DCE及びHFO 1438mzzの組成物の引火点を、ASTM D56−05(2010)のタグ密閉式試験機による引火点に関する標準試験法によって測定する。結果を以下の表に列挙するが、0.7重量%を超えるHFO 1438mzzを含有する混合物は、不燃性である。
【0067】
【表6】
【0068】
実施例7:MPHE、T−DCE及びNovec 1230の組成物の燃焼性
以下の表7に示されるMPHE、t−DCE及びNovec 1230の組成物の引火点を、ASTM D56−05(2010)のタグ密閉式試験機による引火点に関する標準試験法によって測定する。結果を以下の表に列挙するが、0.5重量%を超えるNovec 1230を含有する混合物は、不燃性である。
【0069】
【表7】
【0070】
実施例8:MPHE、T−DCE及びHFE−7100の組成物の燃焼性
以下の表8に示されるMPHE、t−DCE及びHFE−7100の組成物の引火点を、ASTM D56−05(2010)のタグ密閉式試験機による引火点に関する標準試験法によって測定する。結果を以下の表に列挙するが、0.6重量%を超えるHFE−7100を含有する混合物は、不燃性である。
【0071】
【表8】
【0072】
実施例9:MPHE、T−DCE及びHFE−7200の組成物の燃焼性
以下の表9に示されるMPHE、t−DCE及びHFE−7200の組成物の引火点を、ASTM D56−05(2010)のタグ密閉式試験機による引火点に関する標準試験法によって測定する。結果を以下の表に列挙するが、0.7重量%を超えるHFE−7200を含有する混合物は、不燃性である。
【0073】
【表9】
【0074】
実施例10:MPHE、T−DCE及びHFE−7000の組成物の燃焼性
以下の表10に示されるMPHE、t−DCE及びHFE−7000の組成物の引火点を、ASTM D56−05(2010)のタグ密閉式試験機による引火点に関する標準試験法によって測定する。結果を以下の表に列挙するが、0.7重量%を超えるHFE−7000を含有する混合物は、不燃性である。
【0075】
【表10】
【0076】
実施例11:MPHE、T−DCE及びHFO E−1233zdの組成物の燃焼性
以下の表11に示されるMPHE、t−DCE及びHFO E−1233zdの組成物の引火点を、ASTM D56−05(2010)のタグ密閉式試験機による引火点に関する標準試験法によって測定する。結果を以下の表に列挙するが、0.6重量%を超えるHFO E−1233zdを含有する混合物は、不燃性である。
【0077】
【表11】