特許第6807871号(P6807871)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6807871改変された視覚特性を有するステンレス薄鋼板を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6807871
(24)【登録日】2020年12月10日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】改変された視覚特性を有するステンレス薄鋼板を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 31/00 20060101AFI20201221BHJP
   B21B 1/22 20060101ALI20201221BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20201221BHJP
   B24C 1/06 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   B21D31/00 B
   B21B1/22 Z
   C21D9/46 Q
   B24C1/06
【請求項の数】12
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-560321(P2017-560321)
(86)(22)【出願日】2016年5月18日
(65)【公表番号】特表2018-524175(P2018-524175A)
(43)【公表日】2018年8月30日
(86)【国際出願番号】EP2016061100
(87)【国際公開番号】WO2016184891
(87)【国際公開日】20161124
【審査請求日】2019年4月12日
(31)【優先権主張番号】15167926.3
(32)【優先日】2015年5月18日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591064047
【氏名又は名称】オウトクンプ オサケイティオ ユルキネン
【氏名又は名称原語表記】OUTOKUMPU OYJ
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】イェルン タイペル
(72)【発明者】
【氏名】ディルク ヴィーマー
(72)【発明者】
【氏名】ルッツ ツォップケ
(72)【発明者】
【氏名】パトリック フォーゲル
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス イェーガー
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ヴェーク
(72)【発明者】
【氏名】ブルクハルト アルノルト
(72)【発明者】
【氏名】フランク ヴェルスター
【審査官】 藤田 和英
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−182401(JP,A)
【文献】 特開2000−233205(JP,A)
【文献】 特開平07−256303(JP,A)
【文献】 特開平06−179002(JP,A)
【文献】 特開2002−361303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 31/00
B21D 22/02
B21B 1/22
B24C 1/06
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.3mm〜3.5mmの厚さを有する変形されたステンレス薄鋼板から可視光の波長域で向上した視覚特性を有するパターン化ステンレス薄鋼板を製造する方法であって、前記方法は、
0.3mm〜3.5mmの厚さを有する変形されたステンレス薄鋼板を供給するステップと、
前記変形されたステンレス薄鋼板のために少なくとも1つの熱処理が行われるステップであって、前記変形されたステンレス薄鋼板のための前記熱処理は、温度範囲900℃〜1200℃で行われる、ステップと、
前記熱処理されたステンレス薄鋼板の少なくとも1つの表面に少なくとも1つの機械的処理が行われるステップと、
前記機械的処理されたステンレス薄鋼板をパターン化プロセスのために移送するステップであって、前記パターン化プロセスでは、エンボス深さが最大100マイクロメートルである面を有するパターン化用ロールを用いて、前記機械的処理されたステンレス薄鋼板の少なくとも片面をパターン化してパターン化ステンレス薄鋼板がもたらされる、ステップと、
前記パターン化ステンレス薄鋼板のために少なくとも1つの熱処理が行われるステップであって、前記パターン化ステンレス薄鋼板のための前記熱処理は、温度範囲900℃〜1200℃において行われる、ステップと、
を含み、
前記パターン化プロセスの前の前記機械的処理は、ブラスト法によって行われることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記変形されたステンレス薄鋼板のための前記熱処理は、温度範囲1150℃〜1200℃で行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記変形されたステンレス薄鋼板のための前記熱処理は、焼鈍およびピックリングプロセスとして行われることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記変形されたステンレス薄鋼板のための前記熱処理は、光輝焼鈍プロセスとして行われることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記パターン化ステンレス薄鋼板のための前記熱処理は、温度範囲1150℃〜1200℃において行われることを特徴とする、請求項1〜の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記パターン化ステンレス薄鋼板のための前記熱処理は、焼鈍およびピックリングプロセスとして行われることを特徴とする、請求項1〜の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記パターン化ステンレス薄鋼板のための前記熱処理は、光輝焼鈍プロセスとして行われることを特徴とする、請求項1〜の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記熱処理されたパターン化ステンレス薄鋼板は、テンションレベリングされることを特徴とする、請求項1〜の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ステンレス薄鋼板は、オーステナイト系ステンレス鋼で作られることを特徴とする、請求項1〜の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ステンレス薄鋼板は、フェライト系ステンレス鋼で作られることを特徴とする、請求項1〜の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ステンレス薄鋼板は、フェライトオーステナイト系ステンレス鋼で作られることを特徴とする、請求項1〜の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ステンレス薄鋼板は、外装建材、内装建材、車両用鋼板、業務用調理機器、家電製品の外板、厨房機器および台所周り用品の外板として利用可能であることを特徴とする、請求項1〜11の何れか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光の波長域で改変された視覚特性、たとえば低反射率および低グレア(low glare)を有する一方でステンレス鋼の本来のスパークルを少なくとも維持するパターン化ステンレス薄鋼板(sheet)を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス薄鋼板の表面に良好な視覚特性を持たせることは一般的である。たとえば、特許文献1は、良好な研摩性能を有するオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法を記載している。この方法ではオーステナイト系ステンレス鋼は、化粧板を得るべく、熱間圧延を行うこと、熱間圧延焼鈍を行うこと、熱間圧延焼鈍後に酸洗(acid washing)を行うこと、冷間圧延を行うこと、冷間圧延焼鈍を行うこと、冷間圧延焼鈍後に酸洗を行うこと、および精製することによって処理される。
【0003】
特許文献2の目的は、ステンレス鋼表面の光沢を向上させることである。特許文献2の製造方法は、オーステナイト系ステンレス鋼ストリップの冷間圧延プロセスと、ステンレス鋼ストリップの結晶粒径が0.0134mm〜0.027mmとなるようなその後の光輝焼鈍プロセスとを含む。光輝焼鈍の後、ストリップは調質圧延され、プレスされ、プレスされた製品のために電解研摩プロセスが行われ、製品はさらに、表面の微細な凹凸を消失させ、表面の平滑さおよび鏡面研摩を実現することによって、表面の光沢を向上させるよう処理される。
【0004】
特許文献3は、表面光沢に優れた冷間圧延フェライト系ステンレス鋼ストリップを製造する方法に関する。冷間圧延、焼鈍、またはさらにピックリング(pickling)を施す表面仕上げは、鋼ロールの表面にクロムめっきを施した後にロール幅方向に0.003μm〜0.010μmの平均粗さRaに研磨されたロールを用い、したがって無潤滑の調質圧延により行われる。
【0005】
特許文献1、特許文献2および特許文献3では、方法の最終製品を実現するために個別の洗浄、研摩またはめっきプロセスステップが必要である。
【0006】
特許文献4は、フェライト系ステンレス鋼のための製造プロセスを記載している。この方法は、焼鈍プロセス、後続の調質圧延ミルプロセス、表面仕上げおよび多段形状修正プロセスを含む。60度の光反射角におけるフェライト系ステンレス鋼の光沢度は、150〜420の範囲に調節される。多段形状修正プロセスはこの製造プロセスをより複雑にし、したがって製造コストが高い。
【0007】
特許文献5は、仕上げ冷間圧延および光輝焼鈍後にダルローラーを用いて調質圧延を行うことによって製造されるステンレス鋼板(plate)に関する。最後の調質圧延後、板は、表面性状が影響を受けない範囲で、脱脂、ならびにテンションレベラーおよびスリットなどの精製プロセスに通されることもある。光輝焼鈍までのトータル冷間圧延比は、70%以上に設定された。ステンレス鋼板は、外装建材、内装建材、車両用鋼板、業務用厨房機器、家電製品の外板、厨房機器および台所周り用品の外板、ならびにコンピュータ部材、デジタル機器部材、HDD(ハードディスクドライブ)部材および太陽電池基板材などの精密機器部品および電子機器部品として適用可能である。特許文献5によれば、塵埃の付着の原因であるマイクロピットを制御することによって洗浄性が向上し、マイクロピットの開口および発生を抑制する条件において調質圧延が行われる。したがって、洗浄性を維持しながらグレア防止性を向上させることが可能である。したがって、この特許文献5の目的は、板をできるだけ平らに維持することであり、したがって、板の表面上にパターンなどの装飾構造がある。
【0008】
特許文献6は、ダル仕上げステンレス鋼板の製造方法に関する。この方法では、冷間圧延、焼鈍およびピックリングの後にダルロールを用いて軽度の圧延が行われ、次にさらに焼鈍され、ピックリングされる。焼鈍およびピックリングの代りに光輝焼鈍が行われてもよい。材料のパターン化は、防眩表面を除いてまったく記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】中国特許出願公開102925649号
【特許文献2】特開2000−144257号
【特許文献3】特開2011−110594号
【特許文献4】韓国公開特許第2012−0059970号
【特許文献5】米国特許出願公開第2014/017517号
【特許文献6】特開平06−182401号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、従来技術のいくつかの欠点を解消し、可視光の波長域で改変された視覚特性、たとえば低反射率および低グレアを有する一方でステンレス鋼の本来のスパークルおよび鮮やかさは残したままのパターン化ステンレス薄鋼板を製造する方法を確立することである。本発明の必須の特徴は、添付の特許請求の範囲に挙げられる。
【0011】
本発明によれば、本方法のための材料は、その後のプロセスステップのために所望の還元度、ひいては0.3mm〜3.5mmの所望の厚さ範囲を有するステンレス薄鋼板を得るべく、まず冷間変形、たとえば冷間圧延される。冷間変形されたステンレス薄鋼板は、少なくとも1つの熱処理ステップと少なくとも1つの機械処理ステップとによって前処理され、その後にステンレス薄鋼板はパターン化用のミルに移される。パターン化操作後、パターン化ステンレス薄鋼板のためにさらに少なくとも1つの熱処理ステップが行われ、その後に可視光の波長域(380nm〜800nm)で視覚特性、たとえば低反射率および低グレアならびにステンレス鋼の本来のスパークルを備える所望の表面特性を有する最終製品とするためにシートを精製する。
【0012】
変形されたステンレス薄鋼板は、パターン化処理の前に900℃〜1200℃の温度範囲で、好ましくは1050℃〜1200℃の温度範囲で熱処理される。変形されたステンレス薄鋼板のための熱処理は、焼鈍およびピックリングステップとして、または光輝焼鈍ステップとして行われる。
【0013】
熱処理されたステンレス薄鋼板は、パターン化操作の前に、熱処理されたステンレス薄鋼板の少なくとも1つの表面においてさらに機械的に処理される。パターン化の前の機械的処理は、有利には、ダルロールでスキンパス圧延するか、またはマットブラストされた表面を得るためのブラストプロセスによって行われる。
【0014】
パターン化操作時に、有利には、ステンレス薄鋼板の表面への所望のデザインのパターン化プロセスを行うために少なくとも機械的に処理されたステンレス薄鋼板の表面においてパターン装置、たとえばロールが用いられる。パターン化操作の対象をステンレス薄鋼板の1つの表面のみにするとき、反対側では滑面ロールが利用される。ロールなどパターン装置の面のエンボスの深さは、最大100μmである。
【0015】
パターン化ステンレス薄鋼板は、さらに、900℃〜1200℃の温度範囲で、好ましくは1050℃〜1200℃の温度範囲で熱処理され、この熱処理は焼鈍およびピックリング操作として、または光輝焼鈍操作として行うことにより行われる。熱処理後、パターン化ステンレス薄鋼板は、本方法の最終製品として用いることができる。熱処理されたパターン化ステンレス薄鋼板については、本発明の方法による薄鋼板を最終製品として用意する前に、たとえば所望の平坦さを持たせるために、精製し、たとえばテンションレベリングすることも可能である。
【0016】
本発明の方法によって処理されたステンレス薄鋼板は、優れた表面均一性を示し、表面のナゲットのそれぞれにおいてわずかにマットではあるがスパークルがある。表面は、高くなったスパークル性と表面の均質性とによってこの特性が実現されるため、従来技術においては25%未満の値以下の鏡面反射率を示す。
【0017】
本発明の方法によって処理されたステンレス薄鋼板は、さらに、可視波長域において10%未満の鏡面反射率を示すが、依然としてスパークルがある鮮やかな外観を示す。これらの所望の特性は、変形されたシートのための熱処理とともに、パターン化プロセスステップ時にパターンが形成される高度にマットブラストされた表面を得るために機械的ブラストプロセスが行われると、実現され得る。
【0018】
パターン化操作の前の、変形され熱処理されたステンレス薄鋼板のためのスキンパス圧延は、有利には、テクスチャーロールを用いて行うことができる。スキンパス圧延は、表面に0.5μm〜2.5μmの粗さRaを実現し、この粗さが最終製品の低反射率につながり、表面のこの追加のテクスチャーによって本発明による方法の最終製品のスパークルが増加する。
【0019】
本発明によるパターン化ステンレス薄鋼板を製造する方法は、有利には、少なくとも間隔をおいて連続、好ましくは基本的に一定連続である。したがって、所望の厚さを有する変形されたステンレス薄鋼板は、すべてのプロセスステップを通して連続的に移送されてよく、このことはより低い製造コストおよび均一な品質、たとえば最終製品の表面の均一性を意味する。
【0020】
本発明の方法において用いられるステンレス薄鋼板は、オーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼またはフェライトオーステナイト系ステンレス鋼であってよい。本発明の方法によって処理されるステンレス薄鋼板は、外装建材、内装建材、車両用鋼板、業務用調理機器、家電製品の外板、厨房機器および台所周り用品の外板として利用可能である。