(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸方向端部に開口孔が設けられた、内部にタンク室が形成される筒状の第一部材と、前記第一部材の前記開口孔に嵌る、外周面に環状の溝が設けられた第二部材と、を備える高圧タンクの、前記第一部材と前記第二部材との間をシールするシール構造であって、
前記溝の内部において前記タンク室側に配置され、前記タンク室の圧力により前記タンク室側とは反対の軸方向へ押圧されて移動する環状のシール部材と、
前記溝の内部において前記シール部材よりも前記タンク室側とは反対側に配置され、それぞれ互いに対向する斜面部を有し、前記タンク室の圧力により移動した前記シール部材に押圧されることにより前記斜面部同士が当接した状態でスライドして全体の径方向幅が大きくなるように変形する第一バックアップ部材及び第二バックアップ部材と、
を備え、
前記第一バックアップ部材の前記斜面部は、
前記第一部材の軸方向に対して所定角度に傾斜する第一低角度傾斜部と、
前記シール部材からの押圧時に前記第一低角度傾斜部での当接タイミングよりも後に当接が生じる、前記第一部材の軸方向に対して前記所定角度よりも大きい角度に傾斜する第一高角度傾斜部と、
前記第一低角度傾斜部と前記第一高角度傾斜部とが互いに連接する谷折り角部と、
を有し、
前記第二バックアップ部材の前記斜面部は、
前記第一部材の軸方向に対して前記第一低角度傾斜部の前記所定角度に対応した対応角度に傾斜する第二低角度傾斜部と、
前記シール部材からの押圧時に前記第二低角度傾斜部での当接タイミングよりも後に当接が生じる、前記第一部材の軸方向に対して前記対応角度よりも大きい角度に傾斜する第二高角度傾斜部と、
前記第二低角度傾斜部と前記第二高角度傾斜部とが互いに連接する山折り角部と、
を有し、
前記第一バックアップ部材及び前記第二バックアップ部材は、前記第一高角度傾斜部と前記第二高角度傾斜部とが互いに当接した状態で前記タンク室の圧力による前記シール部材の更なる押圧によりスライドする、高圧タンクのシール構造。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る高圧タンクのシール構造の具体的な実施形態及び変形形態について、図面を用いて説明する。
【0012】
尚、以下に示す実施形態においては、容器本体10が特許請求の範囲に記載した「第一部材」に、口金40が特許請求の範囲に記載した「第二部材」に、Oリング51が特許請求の範囲に記載した「シール部材」に、第二バックアップリング54が特許請求の範囲に記載した「第一バックアップ部材」に、第一バックアップリング53が特許請求の範囲に記載した「第二バックアップ部材」に、第二低角度傾斜部56aが特許請求の範囲に記載した「第一低角度傾斜部」に、第二高角度傾斜部56bが特許請求の範囲に記載した「第一高角度傾斜部」に、第一低角度傾斜部55aが特許請求の範囲に記載した「第二低角度傾斜部」に、第一高角度傾斜部55bが特許請求の範囲に記載した「第二高角度傾斜部」に、それぞれ相当している。
【0013】
一実施形態の高圧タンク1は、例えば水素ガスや天然ガスなどを高圧で充填することが可能なタンクである。高圧タンク1は、例えば自動車などに搭載される。高圧タンク1は、
図1及び
図3に示す如く、容器本体10を備えている。容器本体10は、略円筒状に形成されている。容器本体10は、
図2に示す如く、内周壁20と外周壁30との二重壁により構成されている。容器本体10の内部には、タンク室11が形成されている。以下、高圧タンク1や容器本体10の軸が延びる方向を、適宜、軸方向Aと称す。
【0014】
内周壁20は、ガスバリア性を有する材料(例えば、ポリエチレンやポリプロピレン,ナイロン,EVOH(エチレン−ビニルアルコール共重合体),その他の樹脂など)により形成された中空の樹脂製ライナである。尚、内周壁20は、例えばアルミニウムなどの材料により形成された金属ライナであってもよい。内周壁20は、それぞれ略均一な外径及び内径を有している。外周壁30は、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を含浸させたカーボン繊維やガラス繊維,アラミド繊維などの高強度繊維により形成された繊維強化部材である。外周壁30は、フィラメントワインディング法などにより内周壁20の外面側に高強度繊維を巻き締めて被覆し樹脂硬化(乾燥)させることにより形成される。
【0015】
内周壁20の軸方向両端部にはそれぞれ、円形の開口孔21が設けられている。高圧タンク1は、また、口金40を有している。口金40は、略半球状に形成されたドーム部41と、ドーム部41から軸方向Aの内方へ向けて延びる、内周壁20の開口孔21に嵌入可能な筒状に形成された嵌入部42と、ドーム部41の頂点近傍から軸方向Aの外方へ突出するボス部43と、を有している。
【0016】
口金40は、ステンレスやアルミニウムなどの金属により形成されている。口金40は、内周壁20の軸方向両端部それぞれに取り付け固定される。この口金40の取り付け固定は、嵌入部42が内周壁20の開口孔21に嵌入されることにより実現される。口金40には、高圧タンク1の外部とタンク室11とを連通する連通孔44が設けられる。口金40の連通孔44には、バルブ(図示せず)が螺合により取り付けられる。口金40の連通孔44は、バルブにより閉じられる。
【0017】
高圧タンク1は、容器本体10の内周壁20と口金40とが組み付けられて互いに取り付け固定されると共に、その内周壁20と口金40との組付構造体の外面に外周壁30が被覆されることにより製造される。このように高圧タンク1が製造されると、容器本体10の内周壁20の内部(径方向内側)には、閉塞されたタンク室11が形成される。この閉塞されたタンク室11には、ガスが充填される。タンク室11へのガスの充填は、規定圧(例えば700気圧)まで行われることが可能である。
【0018】
容器本体10の内周壁20及び口金40はそれぞれ、内周壁20の内径と口金40の嵌入部42の外径とが略一致するように形成されている。尚、口金40のドーム部41の最大外径(具体的には、ドーム部41が嵌入部42に連接する部位の外径)は、内周壁20の内径に比して大きくてよい。
【0019】
高圧タンク1は、更に、
図4に示す如く、シール部材50を備えている。シール部材50は、容器本体10の内周壁20と口金40との組付後における内周壁20の内周面と口金40の外周面との径方向に空いた隙間を塞ぐことにより容器本体10の内周壁20と口金40との間をシールする部材である。
【0020】
口金40の嵌入部42の軸方向先端側の外周面には、溝47が設けられている。溝47は、シール部材50を取り付けるための取付溝である。溝47は、環状かつ帯状に形成されている。シール部材50は、溝47に嵌められて取り付けられる。溝47は、容器本体10の内周壁20と口金40との組付後、内部にシール部材50が配設された状態で閉塞された空間となる。尚、溝47は、支持プレートを介してタンク室11と区画されている。また、溝47の閉塞状態とは、嵌入部42の外周面と内周壁20の内周面との間に、溝47とタンク室11とが連通し得る僅かな隙間が形成された状態を含む。
【0021】
シール部材50は、Oリング51と、バックアップリング52と、を有している。Oリング51は、例えばゴム製などの弾性を有する材料により構成されたシールリングである。Oリング51は、口金40の嵌入部42における溝47の径方向底壁47aの外周を取り囲むように環状に形成されている。Oリング51の内径は、自然状態で溝47の径方向底壁47aの外径よりも小径であり、径方向底壁47aに対して締め代を有している。
【0022】
Oリング51は、溝47の内部においてタンク室11側に配置されている。尚、Oリング51の外径は、溝47の径方向底壁47aに取り付けた状態で、内周壁20の内径よりも大径であり、内周壁20に対して締め代を有している。Oリング51の断面形状は、略円形である。
【0023】
バックアップリング52は、溝47の内部においてOリング51よりもタンク室11側とは反対側に配置されている。バックアップリング52は、自然状態から拡径することにより容器本体10の内周壁20と口金40との間をシールすることが可能である。バックアップリング52は、互いに別体で構成された、第一バックアップリング53と、第二バックアップリング54と、からなる。第一及び第二バックアップリング53,54はそれぞれ、例えば樹脂製材料や金属製材料により構成されたリング部材である。第一及び第二バックアップリング53,54はそれぞれ、口金40の嵌入部42における溝47の径方向底壁47aの外周を取り囲むように環状に形成されている。
【0024】
第一及び第二バックアップリング53,54それぞれの内径は、自然状態で溝47の径方向底壁47aの外径と略同じである。また、第一及び第二バックアップリング53,54それぞれの外径は、自然状態で嵌入部42の外径と略同じであって、内周壁20の内径よりも僅かに小さい。第一及び第二バックアップリング53,54は、溝47内において軸方向Aに並んで配置されている。第一バックアップリング53は、第二バックアップリング54よりもタンク室11側かつ径方向内側に配置されている。第二バックアップリング54は、口金40の溝47の側壁をなす軸方向側壁47bに接するように口金40に対して支持されている。
【0025】
第一バックアップリング53は、斜面部55を有している。第二バックアップリング54は、斜面部56を有している。斜面部55と斜面部56とは、軸方向Aに対して斜め方向で互いに対向している。斜面部55,56はそれぞれ、軸方向Aに対して傾斜するようにテーパ状に形成されている。
【0026】
環状の第一バックアップリング53の径方向幅は、軸方向位置に応じて異なると共に、同じ軸方向位置において全周に亘って略一定である。また、環状の第二バックアップリング54の径方向幅は、軸方向位置に応じて異なると共に、同じ軸方向位置において全周に亘って略一定である。第一バックアップリング53の径方向幅の最大値、及び、第二バックアップリング54の径方向幅の最大値はそれぞれ、組付後の口金40の溝47の径方向底壁47aと内周壁20の内周面との径方向隙間に比して小さい。また、第一バックアップリング53の軸方向長さは、径方向位置に応じて異なると共に、同じ径方向位置において全周に亘って略一定である。第二バックアップリング54の軸方向長さは、径方向位置に応じて異なると共に、同じ径方向位置において全周に亘って略一定である。
【0027】
具体的には、第一バックアップリング53の軸方向長さは、外径側位置から内径側位置にかけて徐々に大きくなる。第一バックアップリング53の径方向幅は、軸方向Aのタンク室11側の位置から反対側の位置にかけて徐々に小さくなる。また、第二バックアップリング54の軸方向長さは、外径側位置から内径側位置にかけて徐々に小さくなる。第二バックアップリング54の径方向幅は、軸方向Aのタンク室11側の位置から反対側の位置にかけて徐々に大きくなる。第一バックアップリング53と第二バックアップリング54とは、斜面部55,56同士が対向した状態で軸方向Aに重ね合わされている。
【0028】
図6に示す如く、第一及び第二バックアップリング53,54の斜面部55,56はそれぞれ、軸方向Aに対して傾斜する角度が変化するように形成されている。斜面部55は、第一低角度傾斜部55aと、第一高角度傾斜部55bと、山折り角部55cと、を有している。第一低角度傾斜部55aと第一高角度傾斜部55bとは、山折り角部55cを介して互いに連接している。山折り角部55cは、第一バックアップリング53の外周全周に亘って環状に形成されている。山折り角部55cは、第一バックアップリング53の斜面部55を第一低角度傾斜部55aと第一高角度傾斜部55bとに山折りしている。
【0029】
斜面部56は、第二低角度傾斜部56aと、第二高角度傾斜部56bと、谷折り角部56cと、を有している。第二低角度傾斜部56aと第二高角度傾斜部56bとは、谷折り角部56cを介して互いに連接している。谷折り角部56cは、第二バックアップリング54の外周全周に亘って環状に形成されている。谷折り角部56cは、第二バックアップリング54の斜面部56を第二低角度傾斜部56aと第二高角度傾斜部56bとに谷折りしている。
【0030】
斜面部55の第一低角度傾斜部55aは、軸方向Aに対して角度α1だけ傾斜する平面部位である。第一高角度傾斜部55bは、軸方向Aに対して角度α2だけ傾斜する平面部位である。角度α2は、角度α1よりも大きい。すなわち、第一高角度傾斜部55bは、第一低角度傾斜部55aよりも法線が軸方向Aに対してなす角度が小さい部位である。
【0031】
第一低角度傾斜部55aは、第一高角度傾斜部55bよりも軸方向Aのタンク室11側に位置している。第一バックアップリング53の斜面部55は、第一低角度傾斜部55aが軸方向Aのタンク室11側かつ径方向外側に位置しかつ第一高角度傾斜部55bが軸方向Aのタンク室11側とは反対側かつ径方向内側に位置するように配置されている。第一バックアップリング53の斜面部55は、角部55cで山折りされている。
【0032】
第一バックアップリング53の軸方向長さは、最外径側位置から内径側の角部55cの位置にかけて一定割合で徐々に大きくなると共に、その角部55cの位置から最内径側位置にかけてその一定割合を下回る一定割合で徐々に大きくなる。第一バックアップリング53の径方向幅は、軸方向Aの最もタンク室11側の位置から角部55cの軸方向位置にかけて一定割合で徐々に小さくなると共に、その角部55cの軸方向位置から軸方向Aの最もタンク室11側とは反対側の位置にかけてその一定割合を上回る一定割合で徐々に小さくなる。
【0033】
尚、第一バックアップリング53は、軸方向Aのタンク室11側とは反対側の端部が軸方向Aに対して垂直な平面でカットされることで軸方向Aに向いた端面を有するように形成されていてもよい。また同様に、第一バックアップリング53は、最外径側端部が径方向に対して垂直な面でカットされることで径方向外側に向いた端面を有するように形成されていてもよい。
【0034】
上記のように、第一バックアップリング53における第一高角度傾斜部55bのタンク室11側とは反対側の端部が軸方向Aに対して垂直な平面でカットされれば、第一バックアップリング53において先端部の鋭い角部が無くなるので、第一バックアップリング53が破損し難くなる。また同様に、第一バックアップリング53における最外径側端部が径方向に対して垂直な面でカットされれば、第一バックアップリング53が破損し難くなる。
【0035】
斜面部56の第二低角度傾斜部56aは、軸方向Aに対して角度β1だけ傾斜する平面部位である。第二高角度傾斜部56bは、軸方向Aに対して角度β2だけ傾斜する平面部位である。角度β2は、角度β1よりも大きい。すなわち、第二高角度傾斜部56bは、第二低角度傾斜部56aよりも法線が軸方向Aに対してなす角度が小さい部位である。角度β1は、第一バックアップリング53の斜面部55の第一低角度傾斜部55aの角度α1に対応している。また、角度β2は、第一バックアップリング53の斜面部55の第一高角度傾斜部55bの角度α2に対応している。
【0036】
第二低角度傾斜部56aは、第二高角度傾斜部56bよりも軸方向Aのタンク室11側に位置している。第二バックアップリング54の斜面部56は、第二低角度傾斜部56aが軸方向Aのタンク室11側かつ径方向外側に位置しかつ第二高角度傾斜部56bが軸方向Aのタンク室11側とは反対側かつ径方向内側に位置するように配置されている。第二バックアップリング54の斜面部56は、角部56cで谷折りされている。
【0037】
第二バックアップリング54の軸方向長さは、最外径側位置から内径側の角部56cの位置にかけて一定割合で徐々に小さくなると共に、その角部56cの位置から最内径側位置にかけてその一定割合を下回る一定割合で徐々に小さくなる。第二バックアップリング54の径方向幅は、軸方向Aの最もタンク室11側の位置から角部56cの軸方向位置にかけて一定割合で徐々に大きくなると共に、その角部56cの軸方向位置から軸方向Aの最もタンク室11側とは反対側の位置にかけてその一定割合を上回る一定割合で徐々に大きくなる。
【0038】
第一バックアップリング53及び第二バックアップリング54は、後述の如きOリング51からの押圧による両バックアップリング53,54の当接が第一低角度傾斜部55aと第二低角度傾斜部56aの外径側部位との間で開始され、その後に第二低角度傾斜部56aの内径側部位へ移行されるように形成されている。また、第一バックアップリング53及び第二バックアップリング54は、後述の如きOリング51からの押圧による両バックアップリング53,54の当接が第一低角度傾斜部55aと第二低角度傾斜部56aとの間で行われた後に第一高角度傾斜部55bと第二高角度傾斜部56bとの間へ移行するように形成されている。
【0039】
尚、第二バックアップリング54は、軸方向Aのタンク室11側の端部が軸方向Aに対して垂直な平面でカットされることで軸方向Aに向いた端面を有するように形成されていてもよい。また同様に、第二バックアップリング54は、最内径側端部が径方向に対して垂直な面でカットされることで径方向内側に向いた端面を有するように形成されていてもよい。
【0040】
上記のように、第二バックアップリング54における第二低角度傾斜部56aのタンク室11側の端部が軸方向Aに対して垂直な平面でカットされれば、第二バックアップリング54において先端部の鋭い角部が無くなるので、第二バックアップリング54が破損し難くなる。また同様に、第二バックアップリング54における最内径側端部が径方向に対して垂直な面でカットされれば、第二バックアップリング54が破損し難くなる。
【0041】
第二バックアップリング54は、自然状態から拡径することが可能に形成されている。例えば、第二バックアップリング54の環状形状は、周方向の一部が切断されたスリット付きのものであってよい。第二バックアップリング54は、後述の如くOリング51に当接された第一バックアップリング53から押圧されるまでは、その外径が口金40の嵌入部42の外径と略同じ又は内周壁20の内径よりも小さい状態にある一方、第一バックアップリング53からの押圧力の伝達により押圧されることによって、斜面部56と第一バックアップリング53の斜面部55とのスライド摺動により拡径する。この第二バックアップリング54の拡径は、第二バックアップリング54の外周面が容器本体10の内周壁20の内周面に当接するまで継続される。
【0042】
尚、第一バックアップリング53は、自然状態から縮径することが可能に形成されていてもよい。この場合、例えば、第一バックアップリング53の環状形状は、周方向の一部が切断されたスリット付きのものであってよい。また、この場合、第一バックアップリング53は、その内径が溝47の径方向底壁47aの外径よりも僅かに大きい状態すなわち第一バックアップリング53の内周面と溝47の径方向底壁47aとの間に隙間が形成された状態にあるときは、Oリング51に当接されて押圧されることによって、斜面部55と第二バックアップリング54の斜面部56とのスライド摺動により縮径する。この第一バックアップリング53の縮径は、第一バックアップリング53の内周面が溝47の径方向底壁47aに当接するまで継続される。
【0043】
上記した高圧タンク1の構造においては、容器本体10の内周壁20と口金40との組付後、タンク室11にガスが充填されると、容器本体10の内周壁20の内周面と口金40の外周面との間の隙間を介してタンク室11内のガスが溝47へ進入する。
【0044】
溝47に高圧のガスが進入すると、まず、その高圧ガスの圧力が、溝47内でタンク室11側に配置されたOリング51に付与されることで、そのOリング51の全体がタンク室11側とは反対の軸方向Aへ押圧されて移動する。かかるOリング51の移動が生じると、そのOリング51が第一バックアップリング53の軸方向Aに向いた端面に当接することで、第一バックアップリング53に軸方向Aへ移動させる押圧力が付与される。
【0045】
Oリング51からの押圧力が第一バックアップリング53に付与されてその第一バックアップリング53がタンク室11側とは反対の軸方向Aへ移動されると、その第一バックアップリング53が第二バックアップリング54に当接することで、第二バックアップリング54が溝47の軸方向側壁47bに接することで口金40に対して支持された状態で、第一バックアップリング53から第二バックアップリング54にその第二バックアップリング54を径方向外側へ移動させる押圧力が付与される。
【0046】
Oリング51からの押圧による第一バックアップリング53と第二バックアップリング54との当接は、両バックアップリング53,54の斜面部55,56同士で行われる。かかる当接が行われると、両斜面部55,56同士が摺動しながらスライドする。この場合、第一及び第二バックアップリング53,54を含むバックアップリング52全体は、その外径が大きくなる拡径が生じる又はその拡径と共に更にその内径が小さくなる縮径が生じるように、すなわち、全周に亘って径方向幅が大きくなるように変形する。
【0047】
このバックアップリング52の変形が、バックアップリング52の径方向両端部(具体的には、第一バックアップリング53の内周側端部及び第二バックアップリング54の外周側端部)が内周壁20の内周面及び口金40の溝47の径方向底壁47aに当接するまで進行すると、容器本体10の内周壁20の内周面と口金40の外周面との間の径方向隙間がそのバックアップリング52により塞がれる。従って、高圧タンク1の構造によれば、弾性変形可能なOリング51を用いて容器本体10の内周壁20と口金40との間をシールすることができると共に、径方向幅が拡大し得るバックアップリング52を用いて、タンク室11への高圧ガスの充填による容器本体10の内周壁20と口金40との間へのOリング51の一部の入り込み現象を防止することができる。
【0048】
また、本実施形態の高圧タンク1において、上記したOリング51からの押圧による第一バックアップリング53と第二バックアップリング54との当接は、より具体的には、まず、
図6に示す如く、第一バックアップリング53の斜面部55の第一低角度傾斜部55aと第二バックアップリング54の斜面部56の第二低角度傾斜部56aの外径側部位との間で開始される。この際、第一バックアップリング53は、第二バックアップリング54に軸方向Aへ押圧力F1を付与する。そして、Oリング51からバックアップリング52への押圧が継続すると、第一バックアップリング53と第二バックアップリング54との当接は、第一低角度傾斜部55aと第二低角度傾斜部56aとのスライド摺動により第一低角度傾斜部55aと第二低角度傾斜部56aの内径側部位との間へ移行される。
【0049】
第一低角度傾斜部55a及び第二低角度傾斜部56aの軸方向Aに対する角度α1,β1は、第一高角度傾斜部55b及び第二高角度傾斜部56bの軸方向Aに対する角度α2,β2よりも小さい。このため、第一低角度傾斜部55aと第二低角度傾斜部56aとのスライド摺動中は、第一バックアップリング53の軸方向Aへの変位Xの単位量当たり、その第一バックアップリング53(具体的には、第一低角度傾斜部55a)が第二バックアップリング54(具体的には、第二低角度傾斜部56a)を径方向外側へ押圧する力F2の変化量が、第一高角度傾斜部55bと第二高角度傾斜部56bとのスライド摺動中の径方向外側への押圧力F2の変化量に比べて、大きい。この単位変位量当たりの押圧力F2の変化量が比較的大きい状態は、第一バックアップリング53の変位Xが、その斜面部55の角部55cの位置が第二バックアップリング54の斜面部56の角部56cの位置に一致する所定変位に達するまで継続される。
【0050】
そして、タンク室11が所定圧以上の高圧状態に達することで第一バックアップリング53の変位Xが上記の所定変位に達した後は、
図7に示す如く、Oリング51からの押圧による第一バックアップリング53と第二バックアップリング54との当接は、第一バックアップリング53の斜面部55の第一高角度傾斜部55bと第二バックアップリング54の斜面部56の第二高角度傾斜部56bとの間へ移行される。
【0051】
上記の如く、角度α2,β2は、角度α1,β1よりも大きい。このため、第一高角度傾斜部55bと第二高角度傾斜部56bとのスライド摺動中は、第一バックアップリング53から第二バックアップリング54への軸方向Aに押圧する力F1が同じであっても、第一バックアップリング53の軸方向Aへの変位Xの単位量当たり、その第一バックアップリング53(具体的には、第一高角度傾斜部55b)が第二バックアップリング54(具体的には、第二高角度傾斜部56b)を径方向外側へ押圧する力F2の変化量が、第一低角度傾斜部55aと第二低角度傾斜部56aとのスライド摺動中の径方向外側への押圧力F2の変化量に比べて、小さい。
【0052】
このように、高圧タンク1のシール構造においては、第一及び第二バックアップリング53,54の斜面部55,56同士の当接が、軸方向Aに対する傾斜角度が比較的小さい第一及び第二低角度傾斜部55a,56aで生じ、その後、軸方向Aに対する傾斜角度が比較的大きい第一及び第二高角度傾斜部55b,56bへ移行される。
【0053】
上記した斜面部55,56同士の当接タイミングによれば、第一及び第二低角度傾斜部55a,56aのスライド摺動時は、第一バックアップリング53から第二バックアップリング54へ径方向外側に向けて付与する押圧力F2を大きくすることができるので、タンク室11が低圧状態にあっても、バックアップリング52を拡径する力を十分に確保することができると共に、Oリング51の押圧によるバックアップリング52の拡径を速やかに行うことができる。このため、バックアップリング52の外周側端部を容器本体10の内周壁20の内周面に確実かつ速やかに当接させることで、その内周壁20と口金40との間の径方向隙間をバックアップリング52により塞ぐことができる。
【0054】
更に、第一及び第二低角度傾斜部55a,56aのスライド摺動後の、第一及び第二高角度傾斜部55b,56bのスライド摺動時は、第一バックアップリング53から第二バックアップリング54へ径方向外側に向けて付与する押圧力F2を小さく抑えることができる。このため、バックアップリング52の外周側端部が容器本体10の内周壁20の内周面に当接してその内周壁20と口金40との間の径方向隙間がバックアップリング52により塞がれた後、バックアップリング52から内周壁20への拡径による荷重が過度に生じるのを抑えることができる。
【0055】
従って、高圧タンク1のシール構造によれば、容器本体10の内周壁20と口金40との径方向隙間をバックアップリング52の径方向への変形により塞ぐことでOリング51のシール性を確保しつつ、その径方向隙間が塞がれた後におけるバックアップリング52から容器本体10の内周壁20への径方向の押圧力を抑えることができる。特に、容器本体10の内周壁20は樹脂製の部材であるので、バックアップリング52が内周壁20を径方向外側へ押圧する力が過大であると、その内周壁20が破損するおそれがある。これに対して、本実施形態では、上記の如く、バックアップリング52の拡径変形により樹脂製の内周壁20を径方向外側へ押圧する力を小さく抑えることができるので、バックアップリング52からの荷重によるその内周壁20の内周面の破損ひいては容器本体10全体の破壊強度の低下を確実に防止することができる。
【0056】
ところで、上記の実施形態においては、バックアップリング52が、互いに別体で形成された第一及び第二バックアップリング53,54からなり、斜面部55,56同士が対向した状態で軸方向Aに重ね合わされている。また、
図4及び
図5などに示す如く、第一バックアップリング53が溝47の内部において第二バックアップリング54よりも軸方向Aのタンク室11側かつ径方向内側に配置されている。そして、第一バックアップリング53が、軸方向Aのタンク室11側から反対側にかけて外径が徐々に小さくなる斜面部55を有するように形成されていると共に、その斜面部55が、軸方向Aに対して傾斜する角度が比較的小さい第一低角度傾斜部55aと、軸方向Aに対して傾斜する角度が比較的大きい第一高角度傾斜部55bと、第一低角度傾斜部55aと第一高角度傾斜部55bとが互いに連接する山折り角部55cと、を有する。また、第二バックアップリング54が、軸方向Aのタンク室11側から反対側にかけて内径が徐々に小さくなる斜面部56を有するように形成されていると共に、その斜面部56が、軸方向Aに対して傾斜する角度が比較的小さい第二低角度傾斜部56aと、軸方向Aに対して傾斜する角度が比較的大きい第二高角度傾斜部56bと、第二低角度傾斜部56aと第二高角度傾斜部56bとが互いに連接する谷折り角部56cと、を有する。
【0057】
しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
図8に示す如く、第一バックアップリング53が、軸方向Aのタンク室11側から反対側にかけて内径が徐々に大きくなる斜面部55を有するように形成されていると共に、第二バックアップリング54が、軸方向Aのタンク室11側から反対側にかけて外径が徐々に大きくなる斜面部56を有するように形成されていてもよい。
【0058】
また、
図9に示す如く、第一バックアップリング53が溝47の内部において第二バックアップリング54よりも軸方向Aのタンク室11側とは反対側かつ径方向外側に配置されていてもよい。この場合、第一バックアップリング53は、軸方向Aのタンク室11側から反対側にかけて内径が徐々に小さくなる斜面部55を有するように形成されている。また、第二バックアップリング54は、軸方向Aのタンク室11側から反対側にかけて外径が徐々に小さくなる斜面部56を有するように形成されている。
【0059】
また、
図10に示す如く、第一バックアップリング53が溝47の内部において第二バックアップリング54よりも軸方向Aのタンク室11側とは反対側かつ径方向内側に配置されていてもよい。この場合、第一バックアップリング53は、軸方向Aのタンク室11側から反対側にかけて外径が徐々に大きくなる斜面部55を有するように形成されている。また、第二バックアップリング54は、軸方向Aのタンク室11側から反対側にかけて内径が徐々に大きくなる斜面部56を有するように形成されている。
【0060】
また、上記の実施形態においては、開口孔21に口金40が嵌入されるライナである内周壁20が、軸方向端部で折り返されることなく軸方向Aに直線状に延びるように円筒状に形成されており、シール部材50が、その内周壁20の内周面と口金40の嵌入部42の外周面との径方向に空いた隙間を塞ぐものとしている。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、
図11及び
図12に示す如く、内周壁20が軸方向端部で折り返されるように形成されており、シール部材50が、その内周壁20の折り返された折返部22の内周面と口金40の嵌入部42の外周面との径方向に空いた隙間を塞ぐものに適用することとしてもよい。
【0061】
また、上記の実施形態においては、口金40が容器本体10のライナである内周壁20の開口孔21に嵌入される高圧タンク1が、内周壁20の内周面と口金40の外周面との径方向に空いた隙間を塞ぐシール部材50を備えるものとしている。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
図12に示す如く、口金40に設けられた開口孔である連通孔44にバルブ80が螺合により取り付けられる高圧タンク1が、口金40の内周面とバルブ80の外周面との径方向に空いた隙間を塞ぐシール部材50を備えるものとし、そのシール部材50のシール性に適用することとしてもよい。
【0062】
また、上記の実施形態においては、第一バックアップリング53が山折り角部55cで軸方向Aに対する傾斜角度が変化する斜面部55を有すると共に、第二バックアップリング54が谷折り角部56cで軸方向Aに対する傾斜角度が変化する斜面部56を有する。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。第一バックアップリング53は、山折り角部55cで軸方向Aに対する傾斜角度が変化する斜面部55を有する必要はなく、その第一バックアップリング53の形状は、Oリング51からの押圧による第一バックアップリング53と第二バックアップリング54との当接が、第二バックアップリング54の第二低角度傾斜部56aと第一バックアップリング53との間で行われた後に、第二バックアップリング54の第二高角度傾斜部56bと第一バックアップリング53との間で行われものとすれば、例えば断面円弧状などの何れの形状であってもよい。
【0063】
更に、上記の実施形態においては、第二バックアップリング54とは別体で構成された第一バックアップリング53が樹脂製である場合、その第一バックアップリング53がOリング51に押圧された際にその弾性変形によって第二バックアップリング54との間に隙間が形成され、その隙間にOリング51が挟まるおそれがある。そこで、第一バックアップリング53は、弾性変形が生じても第二バックアップリング54との間に隙間が形成され難いように、二色成形などで構成されて、部分的に剛性が下げられたものであってもよい。
【0064】
尚、本発明は、上述した実施形態や変形形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能である。