特許第6808020号(P6808020)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6808020呼吸情報取得装置および呼吸情報取得方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6808020
(24)【登録日】2020年12月10日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】呼吸情報取得装置および呼吸情報取得方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 16/00 20060101AFI20201221BHJP
【FI】
   A61M16/00 305B
   A61M16/00 370Z
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-509169(P2019-509169)
(86)(22)【出願日】2018年3月12日
(86)【国際出願番号】JP2018009378
(87)【国際公開番号】WO2018180392
(87)【国際公開日】20181004
【審査請求日】2019年5月8日
(31)【優先権主張番号】特願2017-71190(P2017-71190)
(32)【優先日】2017年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503369495
【氏名又は名称】帝人ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 瑛介
【審査官】 鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−536081(JP,A)
【文献】 特開2015−85191(JP,A)
【文献】 特表2011−518016(JP,A)
【文献】 特開2001−286566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の吸着筒を切り替えて使用する圧力変動吸着式(PSA式酸素濃縮装置に用いられる呼吸情報取得装置において、
前記PSA式酸素濃縮装置から患者に酸素が供給されている状態の酸素供給経路内の周期的な圧変動である第1圧力と、前記PSA式酸素濃縮装置から患者に酸素が供給されない状態の前記酸素供給経路内の周期的な圧変動である第2圧力と、を計測する呼吸情報取得手段と、
前記第1圧力と前記第2圧力と、の位相を合わせる位相確認手段と、
前記位相を合わせた状態で、前記第1圧力と前記第2圧力と、の差分を算出する差分処理手段と、
を備えた呼吸情報取得装置。
【請求項2】
前記位相確認手段は、前記第1圧力の圧変動の1周期分のデータと前記第2圧力の圧変動の1周期分のデータと、を算出して位相を合わせる手段である、請求項1に記載の呼吸情報取得装置。
【請求項3】
前記位相確認手段は、前記第1圧力と前記第2圧力のピーク圧を検出し、ピーク圧の位相を合わせる手段である、請求項1または2に記載の呼吸情報取得装置。
【請求項4】
前記酸素供給経路内に、前記PSA式酸素濃縮装置から前記患者への酸素供給を許可または遮断する切替弁を備える、請求項1から3のいずれか一項に記載の呼吸情報取得装置。
【請求項5】
前記呼吸情報取得手段は微差圧センサを備え、前記微差圧センサは、前記酸素供給経路内の任意点である一端と、前記任意点における圧力と大気圧との差圧が前記微差圧センサの測定可能範囲を超えないように圧力が印加された他端との両端で差圧を計測する、請求項1から4のいずれか一項に記載の呼吸情報取得装置。
【請求項6】
複数の吸着筒を切り替えて使用する圧力変動吸着式(PSA式酸素濃縮装置から患者に酸素が供給されている状態の酸素供給経路内の周期的な圧変動である第1圧力と、前記PSA式酸素濃縮装置から患者に酸素が供給されない状態の前記酸素供給経路内の周期的
な圧変動である第2圧力と、を計測する呼吸情報取得処理と、
前記第1圧力と前記第2圧力と、の位相を合わせる位相確認処理と、
前記位相を合わせた状態で、前記第1圧力と前記第2圧力と、の差分を算出する差分処理と、
を備えた呼吸情報取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PSA式酸素濃縮装置に用いられる呼吸情報取得装置および呼吸情報取得方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、喘息、閉塞性慢性肺疾患等の呼吸器疾患患者に対するひとつとして酸素療法が行われている。これは、酸素ガスや酸素濃縮ガスを患者に吸入させる療法である。近年では、患者QOL向上を目的に自宅や施設等で酸素吸入をする在宅酸素療法(HOT:Home Oxygen Therapy)が主流になってきており、酸素供給源としては酸素濃縮装置が主に使用されている。
【0003】
酸素濃縮装置とは、空気中に存在する約21%の酸素を濃縮して排出する装置である。酸素濃縮装置の多くは圧力変動吸着式(以下、PSA式:Pressure Swing Adsorption)が一般的に用いられる(以下、PSA式酸素濃縮装置を単純に酸素濃縮装置と記す)。
PSA式酸素濃縮装置では、窒素ガスを選択的に吸着する吸着剤が充填されたシリンダーに空気を取り込み、加減圧を繰り返すことで濃縮酸素ガスを生成する。この仕組みによって、酸素濃縮装置は患者に連続的に高濃度酸素ガスを提供することができる。
【0004】
在宅酸素療法を受ける患者の主疾患は慢性閉塞性肺疾患(以下、COPD:Chronic Obstructive Pulmonary Disease)である。COPDとは気管支の狭窄や肺胞壁の破壊により、咳・痰や労作時呼吸困難の症状を呈する不可逆性疾患である。
【0005】
COPDの症状が悪化すると息切れや呼吸数の増加が見られ、COPDの急性増悪と呼ばれる「安定期の治療の変更あるいは追加が必要な状態」まで症状が悪化することもある。COPDの急性増悪が起こると入院するケースが多く、呼吸不全に陥ることや生命の危機に直面することもある。また、退院できたとしても入院以前より安定期の症状が悪化し、入退院を繰り返すことも珍しくない。
【0006】
ゆえに、COPD急性増悪の入院する程度まで症状が悪化する前に早期治療を施すことが非常に重要であり、在宅酸素療法において患者の呼吸情報は患者の病態を把握するうえで非常に有益な情報元となる。
【0007】
一方、患者は医師が診断した処方流量に従って濃縮酸素ガスの吸入することも非常に重要である。しかし、睡眠時にカニューラがずれたり、作業中にチューブが外れたりすることで正しく酸素吸入できていないことはしばしば起こり、酸素濃縮装置が運転中であっても患者自身がなにかしらの理由で意図的にカニューラを外すこともある。いずれにしても、酸素濃縮装置が運転していても患者が酸素吸入できていない状況は患者の病態悪化を招く危険性がある。
【0008】
従って、酸素濃縮装置運転中に酸素濃縮器内部で患者の呼吸情報を取得できれば、従来の一般的な酸素濃縮装置と比較して使用感が変わらず患者の呼吸情報を取得できるだけなく、酸素濃縮装置と患者が酸素供給チューブで繋がれていることや患者の使用実態を確認できるため、非常に有用な手段である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−190045号公報
【特許文献2】特開2001−286566号公報
【特許文献3】特開平7−96035号公報
【特許文献4】特開2015−85191号公報
【特許文献5】特表2011−518016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
酸素濃縮装置運転中に患者の呼吸情報を取得する方法として、特許文献1、特許文献2に示されているように酸素濃縮装置と患者が装着しているカニューラまでの間に呼吸計測用の微差圧センサを取り付け酸素吸入中の患者呼吸圧を計測する方法がある。しかしながら、本願発明者らが鋭意検討を行った結果、差圧測定系に付加される圧力変動には濃縮酸素ガス生成時の加減圧に伴う圧力変動が含まれることが明らかとなった。酸素濃縮装置は先に述べたようにPSA式動作方法となっており、それに伴い供給酸素流量も変動しているため、酸素供給経路内ではPSAに伴う圧変動が常時発生している。そのため、単純に微差圧センサにて患者呼吸圧を計測する環境では、PSAに伴う圧変動をベースに患者呼吸圧が検出されることになり、患者の呼吸情報を精度よく取得することができない。特にこれは、延長チューブを追加した際や3.0L/分以上流量範囲では、患者呼吸情報の取得が不可能になる。
【0011】
また、特許文献3、特許文献4においては、微差圧センサにて酸素吸入中の患者呼吸圧を計測した後、得られた呼吸圧データをソフト処理して患者呼吸情報を求める方法がある。しかしながら、これらの従来技術においては患者呼吸圧に重畳されているPSAに伴う圧変動を考慮していないため、患者の呼吸情報を精度よく取得することができない。
【0012】
一方、特許文献5においては得られた呼吸圧データを周波解析して呼吸情報を取得する方法が記されている。しかしながら、周波数解析では呼吸成分とPSAに伴う圧変動成分の切り分けが難しく、精度が悪いという欠点がある。
【0013】
以上のことから、酸素濃縮装置運転中に患者の呼吸情報を取得するためには、患者呼吸圧を計測したデータから患者呼吸成分とPSAに伴う圧変動成分とを切り分ける必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、かかるこれまでの酸素濃縮装置運転中に患者の呼吸情報を取得する方法における前述の課題を解決するために鋭意研究した結果、本発明に到達した。
【0015】
すなわち本発明は、複数の吸着筒を切り替えて使用するPSA式酸素濃縮装置に用いられる呼吸情報取得装置において、前記PSA式酸素濃縮装置から患者に酸素が供給されている状態の酸素供給経路内の周期的な圧変動である第1圧力と、前記PSA式酸素濃縮装置から患者に酸素が供給されない状態の前記酸素供給経路内の周期的な圧変動である第2圧力と、を計測する呼吸情報取得手段と、前記第1圧力と前記第2圧力と、の位相を合わせる位相確認手段と、前記位相を合わせた状態で、前記第1圧力と前記第2圧力と、の差分を算出する差分処理手段と、を備えた呼吸情報取得装置である。
【0016】
前記位相確認手段は、前記第1圧力の圧変動の1周期分のデータと前記第2圧力の圧変動の1周期分のデータと、を算出して位相を合わせる手段であってもよい。
前記位相確認手段は、前記第1圧力と前記第2圧力のピーク圧を検出し、ピーク圧の位相を合わせる手段であってもよい。
前記酸素供給経路内に、前記PSA式酸素濃縮装置から前記患者への酸素供給を許可または遮断する切替弁を備えていてもよい。
前記呼吸情報取得手段は微差圧センサを備え、前記酸素供給経路内の任意点と一定圧との両端で差圧を計測してもよい。
【0017】
本発明はまた、複数の吸着筒を切り替えて使用するPSA式酸素濃縮装置から患者に酸素が供給されている状態の酸素供給経路内の周期的な圧変動である第1圧力と、前記PSA式酸素濃縮装置から患者に酸素が供給されない状態の前記酸素供給経路内の周期的な圧変動である第2圧力と、を計測する呼吸情報取得処理と、前記第1圧力と前記第2圧力と、の位相を合わせる位相確認処理と、前記位相を合わせた状態で、前記第1圧力と前記第2圧力と、の差分を算出する差分処理と、を備えた呼吸情報取得方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、酸素濃縮装置運転中に患者呼吸成分とPSAに伴う圧変動成分とを切り分けて患者の呼吸情報を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態1に係る酸素濃縮装置の構成を示す図である。
図2】実施形態1に係る患者の呼吸情報を取得する形態を示す図である。
図3】連続流1LPM・延長チューブを10m追加した条件における、患者呼吸情報を含んだ圧データを示す図である。
図4】連続流1LPM・延長チューブを10m追加した条件における、予め記録しておいたPSA圧データを示す図である。
図5】連続流1LPM・延長チューブを10m追加した条件における、差分処理後の患者呼吸情報を示す図である。
図6】連続流3LPM・延長チューブを10m追加した条件における、患者呼吸情報を含んだ圧データを示す図である。
図7】連続流3LPM・延長チューブを10m追加した条件における、予め記録しておいたPSA圧データを示す図である。
図8】連続流3LPM・延長チューブを10m追加した条件における、差分処理後の患者呼吸情報を示す図である。
図9】実施形態1に係る処理を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
[実施形態1のハードウェア構成]
図1を用いて本実施形態に関わるPSA式酸素濃縮装置の構成を説明する。
【0022】
PSA式酸素濃縮装置1は、PSA式酸素濃縮装置1の外部から空気を取り込んで濃縮酸素ガスを生成する酸素生成部11を備える。
【0023】
酸素装置外部から酸素生成部11に取り込まれた空気はコンプレッサー111で圧縮され、第1切替弁112を介してシリンダー113に送られる。第1切替弁112は、複数のシリンダー113のいずれかとコンプレッサー111を連通することでシリンダー113に圧縮空気を送り込むとともに、その他のシリンダーを大気に開放する。シリンダー113には窒素ガスを選択的に吸着する吸着剤が充填されている。シリンダー113を通過した圧縮空気は窒素ガス濃度が低下し、濃縮酸素ガスとなる。濃縮酸素ガスは第2切替弁114を介して濃縮酸素バッファタンク115に貯蔵される。第2切替弁114は複数のシリンダー113のいずれかと濃縮酸素バッファタンク115とを連通または遮断する。
【0024】
酸素生成部11は、第1切替弁112によりコンプレッサー111と複数のシリンダー113のいずれかを連通させるとともに、第2切替弁114により該コンプレッサー111と連通したシリンダー113と濃縮酸素バッファタンク115を連通させる。したがって、コンプレッサー111と複数のシリンダー113のいずれかと濃縮酸素バッファタンク115が連通され、生成された濃縮酸素ガスが濃縮酸素バッファタンク115に供給される。他方、コンプレッサー111と連通しないシリンダー113は、第2切替弁114により濃縮酸素バッファタンク115からと遮断された状態で、第1切替弁112を介して大気開放される。これにより、シリンダー113内が減圧し、吸着剤に吸着された窒素ガスを酸素濃縮装置外部に放出する。
【0025】
通常、シリンダー113に圧縮空気が送られた後は、第1切替弁112によって該コンプレッサー111と遮断された状態になり大気解放される。反対に、大気解放されていたシリンダー113は、第1切替弁112によって該コンプレッサー111に連結され、酸素圧縮の過程に移行する。このように、第1切替弁112によって複数のシリンダー113が交互に圧縮と大気解放を繰り返すことで、連続的に濃縮酸素ガスを供給することができる。
【0026】
濃縮酸素生成に伴うシリンダー113内部の圧力変化は非常に大きいため、シリンダー113の切り替えに伴って、シリンダー113下流の酸素ガス流路中の圧力には周期的な圧力変動が生じる。濃縮酸素バッファタンク115に貯蔵された濃縮酸素ガスは調圧弁116により該圧力変動が減衰されるように調整される。
【0027】
酸素生成部11で圧力調整された濃縮酸素ガスは、コントロールバルブ121と流量計122から成る酸素流量制御部12で酸素流量が制御され、加湿器101を介して酸素供給口13より酸素濃縮装置外に供給される。なお、酸素流量制御部12においてコントロールバルブ121と流量計122はどちらが流路の上流に備えられていてもよく、また酸素流量制御部12にはその他の構成が含まれていても構わない。酸素濃縮器1は加湿器101を備えない構成とすることも可能である。
【0028】
図2は本発明の実施形態の一例を模式的に示したものであり、患者の呼吸情報を取得する形態の一例である。
【0029】
酸素濃縮装置1で生成された酸素は、延長チューブ2、鼻カニューレ3を経由して患者に供給される。一方、患者は酸素吸入中も常時呼吸をしており、患者の呼吸によって生じる圧変化が鼻カニューラ3や延長チューブ2、酸素濃縮装置1の方へ伝搬される。
【0030】
本実施形態においては、患者の呼吸圧を取得すべく、酸素供給経路内に呼吸情報取得手段4を接続する。図2では、一例として呼吸情報取得手段4が延長チューブに接続される場合を示す。ただし、呼吸情報取得手段4は加湿器101(酸素濃縮装置1が加湿器101を備えない場合は酸素流量制御部12)と鼻カニューレ3の間に接続されていればよい。また呼吸情報取得手段4は酸素濃縮装置1の内部に設置されていてもよく、酸素濃縮装置1とは別体に酸素濃縮装置1の外部に設置されていてもよい。
【0031】
本願発明者らが鋭意検討を行った結果、調圧弁116によって圧力変動を減衰した後であっても、呼吸情報取得手段4に付加される圧力変動には濃縮酸素ガス生成時の加減圧に伴う圧力変動が含まれることが明らかとなった。この濃縮酸素ガス生成時に生じる圧力変動の振幅は呼吸圧力の振幅に比べて大きく、また呼吸圧力の振幅も酸素流路を通ることによる圧損で低下するため、呼吸情報取得手段4で計測される圧力から直接患者の呼吸圧力波形を計測することは困難である。
【0032】
この課題を解決するため本実施形態においては、呼吸情報取得手段4は、オリフィス5と、微差圧センサ6と、制御部7を備える。
【0033】
微差圧センサ6の一端は延長チューブ2に設けられた酸素供給経路内の分岐点に接続されている。すなわち微差圧センサ6の一端には、濃縮酸素ガス生成時の加減圧に伴う圧力変動と患者の呼吸圧力の双方を含む酸素供給経路内の圧力が直接入力されている。微差圧センサ6と酸素供給経路の分岐点の間には大気に連通する大気連通路が設けられており、大気連通路には第3切替弁8が設けられている。第3切替弁8は可変流量弁であり、その流量を調整することで微差圧センサ6に供給される圧力を調整する。
【0034】
微差圧センサ6の他端は、オリフィス5を介して酸素供給経路に接続されている。患者の呼吸圧は通常±10〜100Pa程度であるため、呼吸情報取得手段4にて呼吸圧を取得する為には微差圧センサ6はレンジ±100Pa程度のセンサを用いるのが好ましい。酸素濃縮装置から酸素が供給されている状況では、酸素供給による供給圧が常に生じており、これは1LPMでも300Pa程度存在する。そのため微差圧センサ6の他端を大気解放した状態で、上述のように微差圧センサ6の一端を酸素供給経路に接続すると、微差圧センサ6のレンジをオーバーしてしまう。そのため、オリフィス5経由後の圧を微差圧センサ6の他端に印加することで、患者の呼吸情報を含んだ圧を微差圧センサ6のレンジ範囲内で取得することが好ましい。
【0035】
なお、上述のように微差圧センサ6の他端には微差圧センサ6のレンジをオーバーしない程度の圧力が印加されていればよく、その方法は本実施形態の例に限定されない。
【0036】
微差圧センサ6には制御部7が接続されている。制御部7は入出力インタフェースと第1メモリと第2メモリとCPU(中央演算装置)を備える。制御部7は微差圧センサ6で検出された患者の呼吸情報を含んだ圧を受け取って記録し、後述の処理を実行することで患者の呼吸情報を取得する。なお、第1メモリと第2メモリとは別体のメモリであってもよいし、単一のメモリ上を仮想的に分割したものであってもよい。
【0037】
延長チューブ2の、酸素供給経路の分岐点よりも下流側には、第4切替弁9が設けられている。第4切替弁は遮断弁であり、鼻カニューレ3への酸素供給を許可または遮断する。
【0038】
[実施形態1で行われる処理の原理]
図2に示す構成を用いて鼻カニューラ3から患者呼吸モデルの呼吸圧(呼気圧:30Pa、吸気圧:−50Pa、BPM20回)を印加し、呼吸情報を取得したデータを用いて、本実施形態で行われる処理の原理について説明する。
【0039】
連続流1LPM(litter per minute:リットル/分)、呼吸情報取得手段4の下流側に延長チューブ2を10m接続した時に取得しデータ群を図3図4図5に示す。連続流とは、濃縮酸素ガス供給方式のひとつで、連続的に一定流量の濃縮酸素ガスを供給する方式である。図3は患者の呼吸情報と酸素濃縮装置のPSA圧データとを含んだ圧データを示しており、そのうち計測開始から0〜約15秒の期間は患者呼吸圧を印加せずに酸素濃縮装置のPSA圧のみを計測する時間帯のデータとなっている。
【0040】
図4は予め取得して記憶媒体に記録しておいた酸素濃縮装置のPSA圧データを示している。ここで酸素濃縮装置によるPSA圧とは、上述したPSA式酸素濃縮装置により酸素を生成する際に発生するPSA式酸素濃縮装置の吸着筒周期に伴う周期的な圧変化である。したがって、PSA圧の波形の周期は酸素濃縮装置の吸着筒切替周期と一致している。
【0041】
図4に示すように、PSA圧の振幅は20Pa程度となっている。図3においては、PSA圧に対して患者呼吸圧が重畳されているが、この条件では患者呼吸モデルの呼吸圧よりもPSA圧の方が相対的に大きいため、患者呼吸モデルの呼吸圧はPSA圧にかき消されてしまい観察することができない。そこで本願発明者らは鋭意検討を重ね、患者呼吸モデルの呼吸圧を得るために図3の成分から図4の成分をソフトウェア上で差し引くことによりPSA圧成分のみを除去する方法を考案した。
【0042】
両者の位相が合っている状態で、ソフトウェアにて差分処理をした結果を図5に示す。なお差分処理とは、任意時刻における両データの差を計算する処理である。上述のように、0〜約15秒までの時間は患者呼吸モデルの呼吸圧を印加しておらず、酸素濃縮装置が運転している状態であるため、特徴的な波形は見られない。一方、約15秒以降には振幅約20Paの周期的な圧変動が観測できる。すなわち、患者呼吸モデルの呼吸圧を検出することができている。このように、ソフト差分処理を実施することで、酸素濃縮装置から鼻カニューラと延長チューブ10mを介して酸素を連続的に1LPM吸入している状況下においても患者の呼吸情報が取得可能である。
【0043】
連続流3LPM、呼吸情報取得手段の下流側に延長チューブ10mを接続した時に取得したデータ群を図6図7図8に示す。
【0044】
図6図3と同様に患者の呼吸情報と酸素濃縮装置のPSA圧データとを含んだ圧データを示しており、そのうち計測開始から0〜約10秒の期間は患者呼吸圧を印加せずに酸素濃縮装置のPSA圧のみを計測する時間帯のデータとなっている。
【0045】
図7は予め取得して記憶媒体に記録しておいた酸素濃縮装置のPSA圧データを示している。図7図4と比較して波形の形が変化しているのは、濃縮酸素を生成する際の吸着材にて窒素を吸脱着する駆動サイクルが、生成する酸素供給流量ごとで異なるためである。
【0046】
図3と同様、図6においても、PSA圧に対して患者呼吸モデルの呼吸圧が重畳されているが、該条件でも患者呼吸モデルの呼吸圧よりもPSA圧の方が相対的に大きいため、患者呼吸モデルの呼吸圧はPSA圧にかき消されてしまい観察することができない。図5と同様に、両データの位相を合わせた状態で差分処理した結果を図8に示す。図5と同様に、呼吸圧が印加されている測定開始約10秒以降から周期的にみられている振幅20Pa程度の圧変動が観測できる。すなわち、患者呼吸モデルの呼吸圧を検出することができている。このように、上述した方法によれば、延長チューブを10m追加したり、供給酸素流量を3LPMにしたりした条件においても精度よく患者の呼吸情報を取得できることがわかる。
【0047】
[実施形態1で行われる処理]
ステップS1において、酸素濃縮装置1の電源をONにすると、酸素濃縮装置1は運転を開始し濃縮酸素ガスの供給を開始する。同時に、制御部7は、酸素供給経路内の圧データである差圧センサ6の計測値を受け取って記録を開始する。さらに、制御部7は計測開始(電源ON)からの時間のカウントを開始してステップS2に進む。本実施形態においては、酸素供給経路内の圧から、図4および図7に示したデータに相当する患者呼吸情報を含まないPSA圧データを取得する。具体的には、ステップS2において、ステップS1における酸素供給経路内に係る圧データの計測を開始した後、所定時間が経過したか否かを判断する。所定時間は、少なくともPSA圧周期の1周期分の圧データを取得することが可能な程度の長さで設定される。ここで、患者の呼吸周期は通常3秒程度、長くても6秒程度である。PSA圧周期が6秒以上の場合は、PSA圧の1周期分の測定データには少なくとも1周期分以上の患者呼吸情報が含まれる。一方、PSA圧周期が6秒未満の場合は、PSA圧の1周期分の測定データに1周期分以上の患者呼吸情報が含まれないため、所定時間は6秒以上が好ましい。
【0048】
なお、PSA圧データは電源ONとする毎に計測することなく、予め制御部7のメモリに記録しておいた所定値を用いることも可能である。しかし、酸素濃縮装置1の使用に伴う吸着材の経年劣化が起きた場合、窒素の吸着量は劣化につれて減少する。すると、本来吸着できていたはずの窒素がシリンダー内に気体として存在することになるので、シリンダー内の気体圧が増加して、結果的にPSA圧も高くなっていくと考えられる。したがって例えば酸素濃縮装置の出荷前に設定したPSA圧データの所定値は、経年劣化後の実際のPSA圧データとの間に乖離が生じる。すると後の工程で差分処理をしたときに、PSA圧データの乖離分がノイズとなり、算出される呼吸情報の精度が低下する可能性がある。そのため、PSA圧データは電源ONとする毎に毎回計測することが好ましい。
【0049】
ステップS2において所定時間が経過していないと判断された場合は、ステップS3に進み、第4切替弁9を閉じて第3切替弁8を開放する。このとき、第3切替弁8の開度は、延長チューブ2と鼻カニューレ3を合わせた圧力損失分となる所定開度とすることが好ましい。該所定開度は延長チューブの長さに応じて複数の所定開度のうちから選択するものとすることもできる。第4切替弁9を閉じることにより、微差圧センサ6は患者への酸素供給を遮断される。したがって、酸素供給経路内の圧から、患者呼吸情報を含まないPSA圧データを計測することができる。
【0050】
その後ステップS4において、酸素供給経路内の圧データを制御部7の第1メモリと第2メモリに格納する。なお、切替弁の弁開度が安定した後にデータ取得した方が信頼性のあるデータがとれるため、計測開始から一定時間、例えば0.1秒以上経過してからデータ取得を開始してもよい。制御部7は、酸素供給経路内に係る圧データの計測を開始した後、所定時間が経過するまではステップS3およびステップS4の処理を繰り返す。すなわち、少なくともPSA圧周期の1周期分の圧データを含む期間、患者呼吸情報を含まないPSA圧データを第1メモリと第2メモリに記録する。
【0051】
ステップS2において所定時間が経過されたと判断された場合、処理はステップS5に進み、第3切替弁8を閉じて第4切替弁9を完全に開放する。これにより、患者への酸素供給を開始する。そしてこれ以後は、微差圧センサ6の計測値は患者の呼吸情報を含むこととなる。
その後、ステップS6において酸素供給経路内に係る圧データを第1メモリに格納する。
【0052】
ステップS7において、ステップS8の差分処理に先だって、第1メモリに格納してあるデータと第2メモリに格納してあるデータとの位相を確認し、必要な場合は位相を合わせる位相確認処理を行う。
【0053】
上述の本実施形態で行われる処理の原理の説明においては、図3図4のデータは位相が合った状態であることを前提として説明した。しかし、実際は図3図4のデータはそれぞれ取得したタイミングが異なる場合があり、その場合は二つのデータの位相が異なる。位相が異なっている状態で差分処理をすると、位相がずれていた部分がノイズとなって出力され、最終的に呼吸情報取得時の精度が落ちてしまう。そのため、ソフトウェア上で差分処理をするためには両者の位相が合っていることを確認する必要がある。ここで、二つのデータの位相があっている状態とは、制御部7にて計測した両データの圧ピーク(極大値)を示している時間データ成分が一致している状態である。位相が合っていない場合、位相を合わせる方法としては、両データのPSA圧ピーク値を揃える方法や、両データの圧波形を時間微分して計測圧の時間変化が大きい地点で時間データ成分を揃える方法などがある。
【0054】
本実施形態においては、まず、制御部7は第1メモリに格納してあるデータからPSA圧周期の1周期分ごとにデータを取り出す。具体的には、第1メモリに格納してある圧データのピーク(極大値)と次のピークの時間間隔がPSA圧周期の1周期分に相当するため、第1メモリに格納してあるデータのピークをそれぞれ検出し、ピークと次のピークの時間間隔を求めて、ピークと次のピークの時間間隔ごとでデータを取り出す。なお、上述のように計測開始から一定時間経過したデータの方が信頼性が高いことから、計測開始から一定時間経過するまでのデータは用いないこととしてもよい。これは第2メモリに格納してあるデータについても同様である。一方で、制御部7は第2メモリに格納してあるデータから、同様の方法にてPSA圧周期1周期分のデータであるPSA圧周期データを取り出す。
【0055】
ステップS8において、ステップS7にて位相を合わせたPSA圧周期の1周期分ごとに取り出された第1メモリに格納してあるデータと第2メモリに格納してあるデータから取り出されたPSA圧周期データとの差分処理を行う。これにより、PSA圧周期の1周期分の患者呼吸情報を有するデータが得られる。
【0056】
なお、位相確認処理および差分処理はPSA圧周期の1周期分のデータ長で実行する必要はなく、第1メモリに格納してあるデータからPSA圧周期の所定回数周期分ごとにデータを取り出すとともに、第2メモリに格納してあるデータから取り出されたPSA圧測定データを所定回数周期分つなぎ合わせたデータを作成し、両データを用いて差分処理に用いるPSA圧データを作成することもできる。
【0057】
ステップS9において、ステップS8において取得した患者呼吸情報を有するデータを解析して患者呼吸情報、例えば呼吸の強弱や呼吸頻度を取得する。さらに、各々のPSA圧周期の1周期分の患者呼吸情報を有するデータをつなぎ合わせれば、電源ONからの全期間に関する患者の呼吸情報を有するデータを得ることができ、これを用いて平均的な呼吸の強さや使用時間内における呼吸数を取得することができる。
【0058】
ステップS10において、酸素濃縮装置の電源がOFFか否かを判断する。ステップS10において、酸素濃縮装置の電源がOFFと判断されない場合は、ステップS5に戻り、ステップS6からステップS9の処理を繰り返す。
ステップS10において、酸素濃縮装置の電源がOFFと判断された場合は、該フローチャートを終了する。
【0059】
以上説明したように、本実施形態によれば、酸素濃縮装置運転中に患者呼吸圧を計測したデータから患者呼吸成分とPSAに伴う圧変動成分とを切り分けて患者の呼吸情報を取得することができる。
【符号の説明】
【0060】
1:酸素濃縮装置
11:酸素生成部
12:酸素流量調整部
13:酸素供給口
111:コンプレッサー
112:切替弁
113:シリンダー
114:切替弁
115:濃縮酸素バッファタンク
116:調圧弁
121:コントロールバルブ
122:流量計
101:加湿器
2:延長チューブ
3:鼻カニューレ
4:呼吸情報取得手段
5:オリフィス
6:微差圧センサ
7:制御部
8:第3切替弁
9:第4切替弁
図1
図2
図3
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図5
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図7
図8
図9