特許第6808084号(P6808084)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6808084
(24)【登録日】2020年12月10日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】杭抜き方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 9/02 20060101AFI20201221BHJP
【FI】
   E02D9/02
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2020-95431(P2020-95431)
(22)【出願日】2020年6月1日
【審査請求日】2020年6月1日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517127687
【氏名又は名称】藤井 健之
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健之
【審査官】 亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−122197(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3159275(JP,U)
【文献】 特開2010−255300(JP,A)
【文献】 特開2017−227049(JP,A)
【文献】 特開2017−206814(JP,A)
【文献】 特開2015−214795(JP,A)
【文献】 特開2019−015023(JP,A)
【文献】 実開昭58−076640(JP,U)
【文献】 特開昭60−019827(JP,A)
【文献】 特開2012−112149(JP,A)
【文献】 特開平11−172674(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0101874(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 7/00−13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端に掘削刃(1)が環状に配置された円筒状のケーシング(2)をその軸周りに回転させて、前記掘削刃(1)によって地盤(G)に埋設された既設杭(P)の周囲を掘削し、前記地盤(G)と前記既設杭(P)との間の縁が切れた縁切り部(3)を形成した上で前記ケーシング(2)を前記地盤(G)から一旦引き抜く縁切り工程と、
前記ケーシング(2)の下端部に、前記ケーシング(2)の外周面に沿って上下方向に延びる基部(7a)と、巻き付け用ワイヤ(5)を出し入れする開口が形成された、前記基部(7a)に連設された受け部(7b)とを有し、前記基部(7a)の前記ケーシング(2)に臨む面に磁石(8)が設けられており、前記磁石(8)の磁力によって、磁性材料からなる前記ケーシング(2)に対し着脱自在とした保持部材(7)を取り付けた上で、前記受け部(7b)によって前記巻き付け用ワイヤ(5)を下方から支持するように保持させ、その保持状態において、前記ケーシング(2)の下端に取り付けられた結束部材(10)で前記巻き付け用ワイヤ(5)を前記ケーシング(2)の下端に周方向に所定間隔で環状に配置された前記掘削刃(1)に沿うように前記ケーシング(2)に仮止めし、この仮止め後に前記保持部材(7)を前記ケーシング(2)から取り外すワイヤ仮止め工程と、
前記ケーシング(2)の下端に前記既設杭(P)に巻き付ける前記巻き付け用ワイヤ(5)を仮止めした上で、前記ケーシング(2)を前記縁切り部(3)内に再挿入するワイヤ挿入工程と、
前記ケーシング(2)を軸周りに回転させて前記結束部材(10)を切断することによって、仮止めされた前記巻き付け用ワイヤ(5)を前記ケーシング(2)から脱落させ、前記巻き付け用ワイヤ(5)が前記既設杭(P)に巻き付けられた状態とするワイヤ巻き付け工程と、
前記巻き付け用ワイヤ(5)が前記ケーシング(2)から脱落したら、引き抜き用ワイヤ(6)に上向きの張力を与えて、前記引き抜き用ワイヤ(6)に連結された前記巻き付け用ワイヤ(5)を引き締め、前記巻き付け用ワイヤ(5)を既設杭(P)の下端部に巻き付け、前記引き抜き用ワイヤ(6)とともに前記巻き付け用ワイヤ(5)を上向きに引き上げて、前記既設杭(P)を前記地盤(G)から引き抜く引き抜き工程と、
を有する杭抜き方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地盤中の既設杭を引き抜くための杭抜き方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビルやマンション等の建物の建設現場においては、地盤中の硬い層まで杭が埋設され、この杭によって建物が安定的に支持される。そして、建物の建て替え時においては、この建物を支持していた既設杭(地盤に埋設された状態の杭)も併せて撤去される。
【0003】
既設杭を撤去するための一般的な方法として、例えば特許文献1に示す輪投げ工法がある。この輪投げ工法においては、まず、最下端に掘削刃を有する円筒状のケーシング4をその軸周りに回転しながら既設杭Pの周囲に埋め込んだ後にこのケーシング4を一旦引き抜き、地盤と既設杭Pとの間の縁切りが行われる。次に、ケーシング4の最下端にワイヤ9を掛けて再度地中に埋め込んで、ワイヤ9の先端を既設杭Pに引っ掛ける。そして、ワイヤ9の一方端を既設杭Pに引っ掛けたままケーシング4を引き抜き、さらに、ワイヤ9の他端を上方に引っ張って既設杭Pを引き抜く(特許文献1の段落0031〜0037、図3図4等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019−210695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1に係る杭抜き方法によると、ワイヤ9を掛けたケーシング4を再度地中に埋め込む際に、ワイヤ9が緩んでケーシング4の下端から脱落しやすい。このため、既設杭Pの所望の位置にワイヤ9を掛けるのは難しく、作業が比較的容易な既設杭Pの上端近傍にワイヤ9を引っ掛けることが多い(特許文献1の図4(c)参照)。この場合、中折れ、破損、ジョイント不良等が生じた不健全な既設杭Pにおいては、一度の引き抜き作業でこの既設杭Pの全体を撤去することができず、その引き抜き作業を複数回に分けて行う必要があり、その作業が煩雑となるとともにコスト高となる問題がある。
【0006】
そこで、この発明は、地盤中の既設杭を簡便かつ確実に除去することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、この発明においては、
下端に掘削刃が環状に配置された円筒状のケーシングをその軸周りに回転させて、前記掘削刃によって地盤に埋設された既設杭の周囲を掘削し、前記地盤と前記既設杭との間の縁が切れた縁切り部を形成した上で前記ケーシングを前記地盤から一旦引き抜く縁切り工程と、
前記ケーシングの下端に前記既設杭に巻き付ける巻き付け用ワイヤを仮止めした上で、前記ケーシングを前記縁切り部内に再挿入するワイヤ挿入工程と、
前記ケーシングを軸周りに回転させて仮止めされた前記巻き付け用ワイヤを前記ケーシングから脱落させ、前記巻き付け用ワイヤが前記既設杭に巻き付けられた状態とするワイヤ巻き付け工程と、
前記巻き付け用ワイヤを上向きに引き上げて、前記既設杭を前記地盤から引き抜く引き抜き工程と、
を有する杭抜き方法を構成した。
【0008】
このようにすると、仮止めされた巻き付け用ワイヤをケーシングの回転によって脱落させることで、既設杭への巻き付け用ワイヤの巻き付け位置を制御することができる。このため、例えば、既設杭が中折れしている場合は、その中折れしている部分よりも下側の既設杭に巻き付け用ワイヤを巻き付けて引き上げることにより、巻き付け位置よりも上側にある中折れしている部分も同時に引き抜くことができる。このため、一度の引き抜き作業によって、地盤中の既設杭を簡便かつ確実に除去することができる。
【0009】
前記構成においては、
前記ケーシングの下端に取り付けられた結束部材によって、前記巻き付け用ワイヤが仮止めされており、前記ケーシングの軸周りの回転によって前記結束部材が切断されることによって、前記巻き付け用ワイヤが前記ケーシングから脱落する構成とするのが好ましい。
【0010】
このようにすると、結束部材によって巻き付け用ワイヤを安定的に仮止めすることができるため、ワイヤ挿入工程において所望の深さ(既設杭の所望の長さ方向位置)に到達する前に、この巻き付け用ワイヤが不用意に脱落するのを防止することができる。その一方で、ケーシングを軸周りに回転して結束部材を切断することによって、その所望の深さにおいて巻き付け用ワイヤをスムーズに脱落させることができる。
【0011】
結束部材によって巻き付け用ワイヤを仮止めする構成においては、
前記ワイヤ挿入工程の前に、前記ケーシングの下端部に着脱自在の保持部材を取り付けた上で、前記保持部材によって前記巻き付け用ワイヤを保持させ、その保持状態において前記結束部材で前記巻き付け用ワイヤの仮止めを行い、この仮止め後に前記保持部材を前記ケーシングから取り外すワイヤ仮止め工程を有する構成とするのが好ましい。
【0012】
このようにすると、結束部材による仮止めの際に、手で巻き付け用ワイヤを保持しておく必要がないため、その仮止め作業を作業者一人で容易に行うことができ、高い作業効率を確保することができる。
【0013】
ワイヤ仮止め工程を有する構成においては、
前記保持部材に磁石が設けられており、前記磁石の磁力によって、前記保持部材を磁性材料からなる前記ケーシングに対し着脱自在とした構成とするのが好ましい。
【0014】
このようにすると、ケーシングへの保持部材の着脱作業をスムーズに行うことができ、作業効率を一層高めることができる。
【0015】
前記各構成においては、
前記巻き付け用ワイヤが、前記ケーシングの下端に周方向に所定間隔で環状に配置された前記掘削刃に沿うように前記ケーシングに仮止めされている構成とするのが好ましい。
【0016】
このようにすると、ケーシングの下端の掘削刃によって縁切り部内の土砂(泥水)がスムーズにかき分けられ、挿入に伴う圧力が巻き付け用ワイヤに直接作用しにくい。このため、その挿入の際に、環状に束ねた巻き付け用ワイヤが径方向外側に拡径してばらけた状態となるのを防止して、既設杭の所定位置に巻き付け用ワイヤを確実に巻き付けることができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明は、上記のように、ケーシングに仮止めされた巻き付け用ワイヤを、所定の位置でケーシングから脱落させて既設杭に巻き付けるので、中折れ等が生じた不健全な既設杭についても簡便かつ確実に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】この発明に係る杭抜き方法の工程を示す断面図(一部は部分断面図)であって、(a)は既設杭が地盤に埋設された状態、(b)はケーシングで縁切り部を形成した状態、(c)はケーシングを一旦引き抜いた状態、(d)は巻き付け用ワイヤを仮止めしたケーシングを再挿入した状態、(e)は巻き付け用ワイヤをケーシングから脱落させて既設杭に巻き付けた状態、(f)はケーシングを再び引き抜いた状態、(g)は既設杭を引き抜いている状態
図2】ワイヤ仮止め工程の手順を示す断面図であって、(a)はケーシングに保持部材を取り付けて巻き付け用ワイヤを保持した状態、(b)は結束部材によって巻き付け用ワイヤを仮止めした状態、(c)はケーシングから保持部材を取り外した状態
図3図2(c)の状態における要部を示す断面図であって、(a)は掘削刃の直下に巻き付け用ワイヤを配置した状態、(b)は掘削刃のサイドに巻き付け用ワイヤを配置した状態
図4】既設杭の根固め部に巻き付け用ワイヤを巻き付けた状態を示す要部の部分断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明に係る杭抜き方法を図1から図4に基づいて説明する。この杭抜き方法は、図1(a)に示すように、地盤Gに埋設された状態の不要となった既設杭Pを撤去するための方法であって、縁切り工程と、ワイヤ挿入工程と、ワイヤ巻き付け工程と、引き抜き工程と、を主要な構成要素としている。
【0020】
縁切り工程は、図1(b)(c)に示すように、下端に複数の掘削刃1が環状に配置された円筒状のケーシング2を、このケーシング2の上端側に設けたオーガ(図示せず)によってその軸周りに回転させて(図1(b)中のr)、その掘削刃1によって地盤Gに埋設された既設杭Pの周囲を掘削して、地盤Gと既設杭Pとの間の縁が切れた縁切り部3を形成した上でケーシング2を地盤Gから一旦引き抜く工程である。
【0021】
この縁切り工程においては、その掘削部分に、掘削と同時に水あるいは水にベントナイトを混濁させたベントナイト水等の掘削液が注入される。これにより、掘削によって形成された縁切り部3は泥状となり、縁切り工程に続いて行われるワイヤ挿入工程をスムーズに行うことができる。なお、この掘削部分に掘削液を注入せずに、単に掘削刃1で地盤Gを揉むことによって縁切り部3を形成する場合もある。
【0022】
この縁切り工程においては、磁性材料である鋼鉄製のケーシング2が使用される。このケーシング2の下端近傍の外周面には、ケーシング2の径方向外向きに突出する周方向断面が逆L字形の外側突起4が形成されている。この外側突起4を形成することによって、この外側突起4を形成しない場合と比較して、縁切り工程によって既設杭Pの周囲に形成される縁切り部3の径方向幅が拡大するため、ワイヤ挿入工程を一層スムーズに行うことができる。
【0023】
ワイヤ挿入工程は、図1(d)に示すように、ケーシング2の下端に既設杭Pに巻き付ける巻き付け用ワイヤ5を仮止めした上で、このケーシング2を縁切り部3内に再挿入する工程である。このワイヤ挿入工程においては、縁切り工程で使用したケーシング2をそのまま使用することができる。なお、図1(d)(図1(e)も同様)においては、ケーシング2の外周面に形成された外側突起4の図示を省略している。
【0024】
巻き付け用ワイヤ5には、この巻き付け用ワイヤ5が巻き付けられた既設杭Pを地盤Gから引き抜くための引き抜き用ワイヤ6が連結されている。この巻き付け用ワイヤ5及び引き抜き用ワイヤ6として、既設杭Pの引き抜きにおける十分な強度を有する金属製ワイヤが通常用いられる。なお、引き抜き用ワイヤ6と巻き付け用ワイヤ5を1本の連続したワイヤとすることもできる。
【0025】
ここで、ワイヤ挿入工程の前に予め行われる、ケーシング2に巻き付け用ワイヤ5を仮止めするためのワイヤ仮止め工程について説明する。このワイヤ仮止め工程においては、まず、図2(a)に示すように、ケーシング2の下端部に着脱自在の保持部材7を取り付けた上で、この保持部材7によって巻き付け用ワイヤ5を保持させる。
【0026】
保持部材7は、ケーシング2の外周面に沿って上下方向に延びる基部7aと、巻き付け用ワイヤ5を保持するとともに、この巻き付け用ワイヤ5を出し入れする開口が形成された、基部7aの下端に連設された受け部7bとを有している。受け部7bの開口側(外側)の端部は上向きに屈曲している。このため、この受け部7bによって一旦保持した巻き付け用ワイヤ5が、その開口から不用意に脱落するのを防止することができる。
【0027】
基部7aの裏面(ケーシング2に臨む面)には磁石8が設けられており、この磁石8の磁力によって、保持部材7を磁性材料である鋼鉄製のケーシング2に対し着脱自在としている。この保持部材7は、巻き付け用ワイヤ5を保持した際に変形しない程度の剛性を有する金属材料で構成されているが、所定の剛性を有する限りにおいて他の素材を採用することもできる。ケーシング2に取り付けられる保持部材7の個数は特に限定されないが、巻き付け用ワイヤ5を安定的に保持できるよう、ケーシング2の周方向に沿って、所定の角度間隔で4〜8個程度設けるのが好ましい。
【0028】
保持部材7によって巻き付け用ワイヤ5を保持したら、図2(b)に示すように、ケーシング2の下端に形成された貫通孔9に結束部材10が環状となるように通し、この結束部材10によって巻き付け用ワイヤ5が吊り下げられた状態に仮止めする。この結束部材10として、電気コード等を結束するための市販の結束バンドを採用することができる。結束部材10の素材は特に限定されないが、ワイヤ巻き付け工程で容易にこの結束部材10が切断されるよう、例えばポリプロピレンやナイロン等の樹脂製のものを採用するのが好ましい。
【0029】
結束部材10で巻き付け用ワイヤ5を仮止めしたら、図2(c)に示すように、ケーシング2から保持部材7を取り外す。このとき、結束部材10を少し引き締めて、図3(a)に示すように、巻き付け用ワイヤ5が、ケーシング2の下端に周方向に所定間隔で環状に配置された掘削刃1の下端に沿わせたり、図3(b)に示すように、掘削刃1のサイドに沿わせたりするのが好ましい。このようにすると、ケーシング2の下端の掘削刃1によって縁切り部3内の土砂(泥水)がスムーズにかき分けられ、挿入に伴う圧力が巻き付け用ワイヤ5に直接作用しにくい。このため、その挿入の際に、環状に束ねた巻き付け用ワイヤ5が径方向外側に拡径してばらけた状態となるのを防止して、既設杭Pの所定位置にこの巻き付け用ワイヤ5を確実に巻き付けることができる。
【0030】
既設杭Pへの巻き付け用ワイヤ5の巻き数は少なくとも1巻きあればよいが、図2等に示すように複数回巻くことにより、既設杭Pへの巻き付け用ワイヤ5の巻き付け状態を安定させることができる。また、特に巻き数を複数回とする場合、巻回した巻き付け用ワイヤ5がばらけた状態となりやすく、結束部材10による仮止めの際に複数の作業者が必要となることが多い。これに対し、この仮止めの前に巻き付け用ワイヤ5を複数回巻いた状態で保持部材7によって保持しておくと、結束部材10による仮止めの際に手で巻き付け用ワイヤ5を保持しておく必要がないため、その仮止め作業を作業者一人で行うことができ、高い作業効率を確保することができる。
【0031】
ワイヤ巻き付け工程は、図1(e)に示すように、ケーシング2を軸周りに回転させて(図1(e)中のr)仮止めされた巻き付け用ワイヤ5をケーシング2の下端から脱落させ、巻き付け用ワイヤ5が既設杭Pに巻き付けられた状態とする工程である。このケーシング2が軸周りに回転すると、巻き付け用ワイヤ5とこの巻き付け用ワイヤ5を仮止めする結束部材10が互いに擦れ合い、巻き付け用ワイヤ5よりも相対的に強度が小さい結束部材10が切断される。
【0032】
このとき、巻き付け用ワイヤ5に連結された引き抜き用ワイヤ6に対し地上側で張力を与え、ケーシング2に対し巻き付け用ワイヤ5が軸周りに極力供回りしないようにするのが好ましい。このようにすると、ケーシング2に固定された結束部材10と、引き抜き用ワイヤ6からの張力によって回り止めされた巻き付け用ワイヤ5との間の摩擦が増大し、この結束部材10をスムーズに切断させることができる。また、結束部材10の一部分に予め傷を形成しておくことによって、この結束部材10を一層スムーズに切断できる可能性がある。
【0033】
結束部材10が切断されて巻き付け用ワイヤ5がケーシング2の下端から既設杭P側に脱落したら、引き抜き用ワイヤ6に上向きの張力を与えて、この引き抜き用ワイヤ6に連結された巻き付け用ワイヤ5を引き締める。これによって、巻き付け用ワイヤ5が既設杭Pの下端部に強く巻き付けられた状態となる。巻き付け用ワイヤ5の巻き付けが完了したら、図1(f)に示すように、ケーシング2を地上に引き抜く。
【0034】
なお、中折れ等が生じている不健全な既設杭Pを撤去する場合は、ケーシング2を地盤G内に残置しておく方が良い場合もある。このようにすると、引き抜き工程において既設杭Pの破片がばらばらになるのを防止して既設杭Pの全体を確実に除去することができる。
【0035】
引き抜き工程は、図1(g)に示すように、引き抜き用ワイヤ6とともに巻き付け用ワイヤ5を上向きに引き上げて、既設杭Pを地盤Gから引き抜く工程である。なお、ワイヤ巻き付け工程後にケーシング2を地盤G内に残置した場合は、この引き抜き工程において既設杭Pとともにケーシング2を引き抜く。上記の一連の工程が完了したら、既設杭Pを引き抜いた穴Sの中に充填材を充填しつつその穴S内の土砂と混合して埋め戻し作業を行う。
【0036】
既設杭Pの中には、図4に示すように、地盤Gへの支持強度を一層高めるために、既設杭Pの下端に大径の根固め部Bを形成したものがある。この根固め部Bが形成された既設杭Pの撤去に際しては、根固め部Bの外周に沿うように縁切り部3を形成し、根固め部Bに巻き付け用ワイヤ5を巻き付けることにより、図1から図3で説明したのと同じ工程によって、この根固め部Bとともに既設杭Pの引き抜きを行うことができる。
【0037】
上記において説明した杭抜き方法はあくまでも例示であって、地盤G中の既設杭Pを簡便かつ確実に除去する、というこの発明の課題を解決し得る限りにおいて、杭抜き方法の工程の一部を適宜変更することができる。例えば、上記においては既設杭Pの下端部に巻き付け用ワイヤ5を巻き付けた場合について図示したが、中折れ等がない健全な既設杭Pの場合は、この既設杭Pの長さ方向の中間部あるいは上端部に巻き付け用ワイヤ5を巻き付けて引き抜きを行うこともできる。
【符号の説明】
【0038】
1 掘削刃
2 ケーシング
3 縁切り部
4 外側突起
5 巻き付け用ワイヤ
6 引き抜き用ワイヤ
7 保持部材
7a 基部
7b 受け部
8 磁石
9 貫通孔
10 結束部材
G 地盤
P 既設杭
S 穴
B 根固め部
【要約】
【課題】地盤中の既設杭を確実に除去することが可能な杭抜き方法を提供する。
【解決手段】下端に掘削刃1が環状に配置された円筒状のケーシング2をその軸周りに回転させて、掘削刃1によって地盤Gに埋設された既設杭Pの周囲を掘削し、地盤Gと既設杭Pとの間の縁が切れた縁切り部3を形成した上でケーシング2を地盤Gから一旦引き抜く縁切り工程と、ケーシング2の下端に既設杭Pに巻き付ける巻き付け用ワイヤ5を仮止めした上で、ケーシング2を縁切り部3内に再挿入するワイヤ挿入工程と、ケーシング2を軸周りに回転させて仮止めされた巻き付け用ワイヤ5をケーシング2から脱落させ、巻き付け用ワイヤ5が既設杭Pに巻き付けられた状態とするワイヤ巻き付け工程と、巻き付け用ワイヤ5を上向きに引き上げて、既設杭Pを地盤Gから引き抜く引き抜き工程と、を有する構成とする。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4