【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
ビーカー中で、FeCl
3・6H
2O(27.30g、101mmol)をイオン交換水(500ml)に溶解し、Feイオン濃度が0.2mol/Lの金属イオン含有原料水溶液(原料溶液A)を調製した。また、ビーカー中で、イオン交換水で1/2に希釈したエチレンジアミン溶液(11ml)をイオン交換水(500ml)に溶解し、中和剤含有原料水溶液(原料溶液B)を調製した。
【0041】
原料溶液AとBとを、室温(25℃)下、送液ポンプを用いて5.5ml/分でビーカーに供給して混合し、撹拌子を用いたマグネティックスターラー(回転速度:400rpm)で30分間撹拌し、鉄化合物のコロイド溶液を調製した。pHメーターを用いて、得られたコロイド溶液のpHを測定したところ、2.2であった。
【0042】
得られたコロイド溶液200mlをガラス製ビーカーに入れ、マグネティックスターラーを用いて撹拌しながら、10%NH
3水溶液を添加してコロイド溶液のpHを8に調整した。その後、沈殿物をろ過により回収し、水洗、減圧ろ過を行い、さらに45℃で乾燥して鉄化合物粒子を得た。
【0043】
(実施例2)
ビーカー中で、FeCl
3・6H
2O(27.30g、101mmol)とNiCl
2・8H
2O(1.98g、8.40mmol)とをイオン交換水(500ml)に溶解し、Feイオン濃度が0.2mol/Lの金属イオン含有原料水溶液を調製した。原料溶液Aとしてこの金属イオン含有原料水溶液を用いた以外は実施例1と同様にして鉄化合物のコロイド溶液(pH2.3)を調製し、鉄化合物粒子を得た。
【0044】
(実施例3)
鉄化合物のコロイド溶液のpHが3.0となるようにエチレンジアミンの量を変更した以外は実施例1と同様にして鉄化合物のコロイド溶液(pH3.0)を調製し、鉄化合物粒子を得た。
【0045】
(実施例4)
NiCl
2・8H
2Oの代わりにMn(NO
3)
2・6H
2O(1.82g、6.33mmol)を用いた以外は実施例2と同様にして鉄化合物のコロイド溶液(pH2.3)を得た。
【0046】
(実施例5)
エチレンジアミンの代わりにアンモニアを用いた以外は実施例1と同様にして鉄化合物のコロイド溶液(pH2.2)を得た。
【0047】
(実施例6)
エチレンジアミンの代わりに水酸化ナトリウムを用いた以外は実施例1と同様にして鉄化合物のコロイド溶液(pH2.1)を得た。
【0048】
(実施例7)
エチレンジアミンの代わりにモノエタノールアミンを用いた以外は実施例1と同様にして鉄化合物のコロイド溶液(pH2.1)を得た。
【0049】
(比較例1)
鉄化合物のコロイド溶液のpHが6.8となるようにエチレンジアミンの量を変更した以外は実施例1と同様にして鉄化合物のコロイド溶液(pH6.8)を調製した。得られたコロイド溶液は速やかに固液2相に分離したため、そのまま、ろ過して固形分を回収した後、水洗、減圧ろ過を行い、さらに45℃で乾燥して鉄化合物粒子を得た。
【0050】
(比較例2)
Appl.Phys.Lett.、2007年、第90巻、103504頁に記載の方法に従って鉄化合物粒子を調製した。すなわち、精製水(100ml)中にNaNO
3(4.25g、0.05mol)とFeCl
3・6H
2O(2.03g、0.0075mmol)とを添加し、70℃で5時間加熱した。生成した沈殿物を遠心分離により回収した後、100℃で2時間乾燥して鉄化合物粒子を得た。
【0051】
(比較例3)
特開平3−109215号公報に記載の方法において、熟成温度を室温に変更して鉄化合物粒子を調製した。すなわち、FeCl
3・6H
2O水溶液を撹拌しながら、Feイオンに対してクエン酸イオンが0.5mol%となるようにクエン酸三ナトリウム水溶液を添加して、クエン酸イオンが共存する1MのFeCl
3水溶液を得た。このFeCl
3水溶液を室温で5時間熟成して鉄化合物粒子を得た。
【0052】
(比較例4)
熟成温度を50℃に変更した以外は比較例3と同様にして鉄化合物粒子を得た。
【0053】
<鉄化合物粒子の特性評価>
(i)平均粒子径測定
得られたコロイド溶液を1か月間静置した後、微粒子粒度分布測定装置(日機装(株)製「ナノトラックUPA250EX」、レーザー波長:780nm、測定範囲:0.8〜6000nm)を用いて動的光散乱法により粒度分布を測定し、算出した体積平均径(MV)を鉄化合物粒子の平均粒子径とした。その結果を表1に示す。なお、
図1には、実施例1で得られたコロイド溶液(1か月間静置後)の粒度分布を示す。
【0054】
(ii)X線回折測定
実施例1〜3及び比較例1〜4については、得られた鉄化合物粒子をそのまま測定用試料として使用した。一方、実施例4〜7については、得られたコロイド溶液をカーボンペーパー上に滴下して自然乾燥させた後、水及び0.1MのKOH水溶液を用いて洗浄して測定用試料を作製した。これらの測定用試料について、粉末X線回折装置((株)リガク製「Ultima IV」)を用いて、管電圧:40kV、管電流:40mA、X線:CuKα線(波長λ=1.5418Å)の条件でX線回折(XRD)測定を行なった。得られたX線回折パターンにおいて、β−FeOOH結晶相に由来するピークの有無を確認した。その結果を表1に示す。なお、
図2には、実施例1〜3及び比較例1で得られた鉄化合物粒子のX線回折パターンを示す。また、β−FeOOH結晶相の形成は、メスバウアー分光分析(
図3)によっても確認することができる。
【0055】
(iii)形状観察及びサイズ測定
得られたコロイド溶液中の鉄化合物粒子を、透過電子顕微鏡(日本電子(株)製「JEM−2100F」)を用いて観察した。
図4には、実施例1で得られたコロイド溶液中の鉄化合物粒子のDF−STEM像を示す。得られたDF−STEM像において、無作為に抽出した50個以上の鉄化合物一次粒子の形状を観察した。また、これら50個以上の鉄化合物一次粒子の長軸及び短軸の長さを測定して、長軸の平均長さを求め、さらに、長軸と短軸の長さの比(長軸/短軸)を算出して、その平均値(平均軸比)を求めた。それらの結果を表1に示す。
【0056】
(iv)
カーボンペーパー上に、得られたコロイド溶液を滴下して自然乾燥させた後、水及び0.1MのKOH水溶液を用いて洗浄して測定用試料を作製した。この測定用試料を作用極として
図5に示す酸化触媒活性評価装置に装着した(
図5中のS)。対極Cとして白金線、参照極RとしてAg/AgCl、溶液として0.1MのKOH水溶液(pH12.8)を用いて電流電位曲線を求めた。このとき、電流値が安定するまで、掃引を複数回繰り返した。得られた電流電位曲線に基づいて、電流密度が2mA/cm
2の場合の電位(E、単位:V vs.RHE)を求めた。その結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示した結果から明らかなように、Feイオンを用い、pH2.0〜3.0の範囲内で調製したコロイド溶液から得られた鉄化合物粒子(実施例1〜7)は、ドーパントの有無にかかわらず、1か月静置後の平均粒子径が11〜230nmであり、β−FeOOH結晶相を有するものであることがわかった。また、
図4及び表1に示したように、実施例1〜7で得られた鉄化合物粒子は、一次粒子の形状がナノロッド状であった。また、その長軸の平均長さは15〜19nmであり、平均軸比(長軸/短軸)は4.6〜5.4であった。
【0059】
一方、Feイオンを用い、pH6.8となるように調製したコロイド溶液は速やかに固液2相に分離し、得られた鉄化合物粒子(比較例1)は、1か月静置後の平均粒子径が790nmであり、また、β−FeOOH結晶相以外の構造(詳細は不明であるが、Fe
3O
4に近い構造であると推定される)を有するものであった。このことから、コロイド溶液のpHが中性付近では、平均粒子径が600nm以下のβ−FeOOH結晶相を有する鉄化合物粒子を得ることは困難であることがわかった。
【0060】
また、NaNO
3の存在下でFeCl
3を70℃で加熱して得られた鉄化合物粒子(比較例2)は、β−FeOOH結晶相を有し、一次粒子の形状がナノロッド状のものであったが、その長軸の平均長さが200nmであり、平均軸比(長軸/短軸)が13であった。これは、加熱処理によって粒子が大きくなったためと考えられる。
【0061】
さらに、クエン酸イオンの存在下でFeCl
3を50℃以下の温度で熟成させた場合(比較例3〜4)には、アモルファス構造の鉄化合物粒子が得られ、β−FeOOH結晶相は形成しなかった。これらの結果を考慮すると、特開平3−109215号公報に記載の方法では、β−FeOOH結晶相を形成するために、FeCl
3を100℃以上の温度で熟成させる必要があることがわかった。
【0062】
また、表1に示した結果から明らかなように、β−FeOOH結晶相を有し、一次粒子の形状がナノロッド状であり、一次粒子の長軸の平均長さ及び平均軸比が所定の範囲内にある本発明の鉄化合物粒子(実施例1〜7)は、電流密度が2.0mA/cm
2において過電圧が1.60〜1.73V(vs.RHE)であり、Fe
3O
4に近い構造であると推定される鉄化合物粒子(比較例1)、一次粒子の長軸の平均長さ及び平均軸比が大きい鉄化合物粒子(比較例2)、アモルファス構造の鉄化合物粒子(比較例3〜4)に比べて、低い電圧で電流が流れ、優れた電気化学触媒であることがわかった。