【文献】
FURUKAWA, Hiroyasu,JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY,2014年,136,4369-4381
【文献】
CAIDAU, Amandine,ADVANCED MATERIALS,2015年,1-6,doi: 10.1002/adma.201502418
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0025】
<アルミニウム有機構造体>
先ず、本発明のアルミニウム有機構造体について説明する。本発明のアルミニウム有機構造体は、Al
3+と、このAl
3+に配位している、下記式(1):
【0027】
〔式中、Rはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、ヒドロキシル基又はアルコキシ基を表す。〕
で表されるイソフタル酸及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸に由来する第一の配位子及び下記式(2):
【0029】
〔式中、Xは、窒素原子、硫黄原子又は酸素原子を表し、nは2又は3である。〕
で表される少なくとも1種の複素環式ジカルボン酸に由来する第二の配位子とからなるものである。前記式(1)で表される芳香族ジカルボン酸に由来する第一の配位子と前記式(2)で表される複素環式ジカルボン酸に由来する第二の配位子とを併用してAl
3+に配位させることによって、高い水蒸気最大吸着量を有し、かつ、より低い相対圧力域で高い水蒸気吸着性能を有するアルミニウム有機金属構造体を得ることができる。
【0030】
(アルミニウムイオン)
本発明のアルミニウム有機構造体において、アルミニウムイオンAl
3+は、6個の酸素原子と配位結合しており、八面体構造を形成している。また、本発明のアルミニウム有機構造体においては、このようなアルミニウムイオンAl
3+に後述する第一及び第二の配位子が配位することによって、Al
3+、COO
−、OH
−からなる一次元鎖が形成される。第一及び第二の配位子が、巨視的には、この一次元鎖を架橋し、三次元構造体(Al−BDC構造を基本骨格とする構造体)を形成している。
【0031】
(配位子)
本発明のアルミニウム有機構造体においては、前記式(1)で表されるイソフタル酸及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸に由来する第一の配位子と前記式(2)で表される少なくとも1種の複素環式ジカルボン酸に由来する第二の配位子とがアルミニウムイオンAl
3+に配位している。具体的には、本発明のアルミニウム有機構造体においては、第一の配位子中の2個のCOO
−基のうちの一方のCOO
−基中の2個の酸素原子が1個の八面体構造中の隣接する2個のアルミニウムイオンAl
3+にそれぞれ配位しており、他方のCOO
−基中の2個の酸素原子が異なる八面体構造中の隣接する2個のアルミニウムイオンAl
3+にそれぞれ配位している。また、第二の配位子中の2個のCOO
−基のうちの一方のCOO
−基中の2個の酸素原子が1個の八面体構造中の隣接する2個のアルミニウムイオンAl
3+にそれぞれ配位しており、他方のCOO
−基中の2個の酸素原子が異なる八面体構造中の隣接する2個のアルミニウムイオンAl
3+にそれぞれ配位している。その結果、本発明のアルミニウム有機構造体においては、複数の八面体構造が前記第一の配位子と前記第二の配位子によって結合(架橋)された三次元構造が形成される。
【0032】
前記式(1)において、Rはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基(好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜3)、ヒドロキシル基又はアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜3)を表す。このような前記式(1)で表される芳香族ジカルボン酸は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、前記式(1)で表される芳香族ジカルボン酸のうち、高い水蒸気吸着性能が得られるという観点から、前記式(1)中の全てのRが水素原子であるもの、すなわち、イソフタル酸(1,3−ベンゼンジカルボン酸(BDC))が好ましい。
【0033】
前記式(2)において、Xは窒素原子、硫黄原子又は酸素原子を表し、nは2又は3である。このような前記式(2)で表される複素環式ジカルボン酸としては、ピリジンジカルボン酸(前記式(2)中のXが窒素原子であり、nが3であるもの。例えば、2,4−ピリジンジカルボン酸、2,6−ピリジンジカルボン酸、3,5−ピリジンジカルボン酸)、チオフェンジカルボン酸(前記式(2)中のXが硫黄原子であり、nが2であるもの。例えば、2,5−チオフェンジカルボン酸、3,4−チオフェンジカルボン酸);フランジカルボン酸(前記式(2)中のXが酸素原子であり、nが2であるもの。例えば、2,5−フランジカルボン酸、3,4−フランジカルボン酸)等が挙げられる。このような前記式(2)で表される複素環式ジカルボン酸は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの複素環式ジカルボン酸の中でも、イソフタル酸及びその誘導体と基本骨格が類似しており、構造安定性に優れたアルミニウム有機構造体が得られるという観点から、ピリジンジカルボン酸が好ましく、対称性の観点から、3,5−ピリジンジカルボン酸がより好ましい。
【0034】
本発明のアルミニウム有機構造体において、前記第一の配位子と前記第二の配位子とのモル比としては、第一の配位子:第二の配位子=99〜20:1〜80が好ましく、97〜40:3〜60がより好ましい。前記第二の配位子の割合が前記下限未満になる(すなわち、前記第一の配位子の割合が前記上限を超える)と、低圧側における水蒸気吸着量が少なくなる傾向にあり、他方、前記第二の配位子の割合が前記上限を超える(すなわち、前記第一の配位子の割合が前記下限未満になる)と、水蒸気最大吸着量が低下する傾向にある。また、前記範囲内においては、前記第二の配位子の割合が多くなる(すなわち、前記第一の配位子の割合が少なくなる)につれて、より低圧側で高い水蒸気吸着性能を得ることが可能となる。
【0035】
<アルミニウム有機構造体の製造方法>
次に、本発明のアルミニウム有機構造体の製造方法について説明する。本発明のアルミニウム有機構造体の製造方法は、アルミニウム化合物に、下記式(1):
【0037】
〔式中、Rはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、ヒドロキシル基又はアルコキシ基を表す。〕
で表されるイソフタル酸及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸及び下記式(2):
【0039】
〔式中、Xは、窒素原子、硫黄原子又は酸素原子を表し、nは2又は3である。〕
で表される少なくとも1種の複素環式ジカルボン酸を混合し、得られた混合物に加熱処理を施す方法である。
【0040】
(アルミニウム化合物)
本発明に用いられるアルミニウム化合物としてはアルミニウム原子を含有するものであれば特に制限はないが、有機溶媒への溶解性が高いという観点から、アルミニウム塩(例えば、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム)が好ましく、目的とするアルミニウム有機構造体が高収率で得られるという観点から、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウムがより好ましく、硫酸アルミニウムが特に好ましい。また、これらのアルミニウム化合物は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0041】
(芳香族ジカルボン酸)
本発明に用いられる芳香族ジカルボン酸は、前述のとおり、前記式(1)で表されるイソフタル酸(BDC)及びその誘導体からなる群から選択されるものであり、これらの芳香族ジカルボン酸は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0042】
(複素環式ジカルボン酸)
本発明に用いられる複素環式ジカルボン酸は、前述のとおり、前記式(2)で表されるものであり、例えば、ピリジンジカルボン酸、チオフェンジカルボン酸、フランジカルボン酸等が挙げられる。
【0043】
(製造方法)
本発明のアルミニウム有機構造体の製造方法においては、先ず、前記アルミニウム化合物に前記芳香族ジカルボン酸及び前記複素環式ジカルボン酸を混合する。このとき、前記芳香族ジカルボン酸及び前記複素環式ジカルボン酸の割合は、これらの合計量100mol%に対して、それぞれ99〜20mol%及び1〜80mol%とすることが好ましく、それぞれお97〜40mol%及び3〜60mol%とすることがより好ましい。前記複素環式ジカルボン酸の割合が前記下限未満になる(すなわち、前記芳香族ジカルボン酸の割合が前記上限を超える)と、前記第二の配位子の割合が少なく(すなわち、前記第一の配位子の割合が多く)、低圧側における水蒸気吸着量が少ないアルミニウム有機構造体が得られる傾向にあり、他方、前記複素環式ジカルボン酸の割合が前記上限を超える(すなわち、前記芳香族ジカルボン酸の割合が前記下限未満になる)と、前記第二の配位子の割合が多く(すなわち、前記第一の配位子の割合が少なく)、水蒸気最大吸着量が少ないアルミニウム有機構造体が得られる傾向にある。また、前記範囲内においては、前記複素環式ジカルボン酸の割合を多くする(すなわち、前記芳香族ジカルボン酸の割合を少なくする)と、前記第二の配位子の割合が多くなり(すなわち、前記第一の配位子の割合が少なくなり)、より低圧側で高い水蒸気吸着性能を有するアルミニウム有機構造体を得ることが可能となる。したがって、本発明のアルミニウム有機構造体の製造方法においては、前記芳香族ジカルボン酸及び前記複素環式ジカルボン酸の割合を調整することによって、水蒸気吸着性能の圧力域を制御することができる。
【0044】
次に、このようにして得られた混合物に加熱処理を施し、必要に応じて洗浄処理及び乾燥処理を施すことによって、前記本発明のアルミニウム有機構造体を得ることができる。前記加熱処理における温度としては、90〜150℃が好ましい。加熱温度が90℃未満になると、製造に要する時間が長くなる(5日を超過する)傾向にあり、他方、前記上限を超えると、有機溶媒を使用した場合に還流設備が必要となり、製造コストが高くなる傾向にある。また、アルミニウム有機構造体を比較的短時間(5時間以内)かつ高収率で製造できるという観点から、110〜145℃がより好ましく、120〜135℃が特に好ましい。さらに、加熱処理時に撹拌することによって、目的とするアルミニウム有機構造体を量産することができる。
【0045】
また、本発明のアルミニウム有機構造体の製造方法における前記加熱処理は、有機溶媒中で実施してもよい。ここで使用される有機溶媒としては、前記アルミニウム化合物、前記芳香族ジカルボン酸及び前記複素環式ジカルボン酸を溶解できるものであれば特に制限はなく、N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’−ジエチルホルムアミド(DEF)等の極性溶媒が好ましく、目的とするアルミニウム有機構造体が低コストかつ高収率で得られるという観点から、N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)がより好ましい。また、このような有機溶媒は、水との混合溶媒として使用してもよいが、目的とするアルミニウム有機構造体が高収率で得られるという観点から、単独で使用することが好ましい。
【0046】
<吸着材料及びその製造方法>
本発明のアルミニウム有機構造体は多孔質であり、そのまま吸着材料として使用することも可能であるが、前記アルミニウム有機構造体の細孔内には、製造時に使用した有機溶媒や未反応の前記芳香族ジカルボン酸及び前記複素環式ジカルボン酸が残存し、結晶構造の欠陥が生じている場合がある。このため、本発明のアルミニウム有機構造体には、このアルミニウム有機構造体に対する貧溶媒中で加熱処理を施すことが好ましい。これにより、細孔内の有機溶媒や未反応の前記芳香族ジカルボン酸及び前記複素環式ジカルボン酸が除去されるとともに、アルミニウム有機構造体中の結晶構造の欠陥が減少し、本発明のアルミニウム有機構造体からなる吸着特性に優れた吸着材料を得ることができる。
【0047】
前記貧溶媒としては、前記本発明のアルミニウム有機構造体が溶解しにくい溶媒(難溶性溶媒)、好ましくは溶解しない溶媒(不溶性溶媒)であれば特に制限はないが、例えば、水、アセトニトリル、ヘキサン、エタノールが挙げられる。これらの貧溶媒は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの貧溶媒のうち、前記本発明のアルミニウム有機構造体が、水蒸気を可逆的に脱吸着することができ、かつ、耐水性に優れており、さらに、安全性と作業性の観点から、水が好ましい。
【0048】
このような貧溶媒中での加熱温度としては、30〜80℃が好ましく、50〜80℃がより好ましい。加熱温度が前記下限未満になると、結晶構造の欠陥が減少せず、吸着材料の吸着特性が向上しにくい傾向にあり、他方、加熱温度が前記上限を超えると、加水分解の可能性があり、結晶が崩壊する場合がある。
【0049】
このような本発明の吸着材料は、低い相対圧力域における水蒸気吸着性能に優れている。例えば、吸着式ヒートポンプの低温化を目的とした場合における水蒸気吸脱着に好適な相対圧力域であるP/P
0=0.08〜0.17における水蒸気取出可能量が0.05g/g以上となる傾向にある。また、このような相対圧力域P/P
0=0.08〜0.17における水蒸気取出可能量としては0.10g/g以上がより好ましく、0.15g/g以上が特に好ましい。これにより、吸着材料の量を低減することができ、本発明の吸着材料は、例えば、吸着式ヒートポンプの吸着材料として車載する場合に有利である。なお、前記水蒸気取出可能量は水蒸気吸着等温線の吸着枝から算出されるものである。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
硫酸アルミニウム18水和物400mg(0.6mmol)とイソフタル酸(1,3−ベンゼンジカルボン酸(BDC))190mg(1.14mmol)と3,5−ピリジンジカルボン酸(PyDC)10mg(0.06mmol)とN,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)2mlとをスクリュー管入れ、大気中、90℃で5日間加熱した。得られた白色沈殿物をろ過により回収し、アルミニウム有機構造体(Al−MOF−B95P5)を得た。なお、「B95P5」はイソフタル酸(BDC):3,5−ピリジンジカルボン酸(PyDC)=95:5(モル比)を意味する(以下、同様)。
【0052】
このアルミニウム有機構造体(Al−MOF−B95P5)をイオン交換水50mlに分散させ、70℃で一晩撹拌して細孔内のDMFを除去し、ろ過により回収して室温で乾燥させ、アルミニウム有機構造体(Al−MOF−B95P5)からなる吸着材料198.9mgを得た。
【0053】
(実施例2)
イソフタル酸(BDC)の量を180mg(1.08mmol)に、3,5−ピリジンジカルボン酸(PyDC)の量を20mg(0.12mmol)に変更した以外は実施例1と同様にして、アルミニウム有機構造体(Al−MOF−B90P10)からなる吸着材料205.6mgを得た。
【0054】
(実施例3)
イソフタル酸(BDC)の量を170mg(1.02mmol)に、3,5−ピリジンジカルボン酸(PyDC)の量を30mg(0.18mmol)に変更した以外は実施例1と同様にして、アルミニウム有機構造体(Al−MOF−B85P15)からなる吸着材料202.6mgを得た。
【0055】
(実施例4)
イソフタル酸(BDC)の量を160mg(0.96mmol)に、3,5−ピリジンジカルボン酸(PyDC)の量を40mg(0.24mmol)に変更した以外は実施例1と同様にして、アルミニウム有機構造体(Al−MOF−B80P20)からなる吸着材料191.7mgを得た。
【0056】
(実施例5)
イソフタル酸(BDC)の量を150mg(0.90mmol)に、3,5−ピリジンジカルボン酸(PyDC)の量を50mg(0.30mmol)に変更した以外は実施例1と同様にして、アルミニウム有機構造体(Al−MOF−B75P25)からなる吸着材料209.1mgを得た。
【0057】
(実施例6)
イソフタル酸(BDC)の量を100mg(0.60mmol)に、3,5−ピリジンジカルボン酸(PyDC)の量を100mg(0.60mmol)に変更した以外は実施例1と同様にして、アルミニウム有機構造体(Al−MOF−B50P50)からなる吸着材料191.1mgを得た。
【0058】
(比較例1)
イソフタル酸(BDC)の量を200mg(1.20mmol)に変更し、3,5−ピリジンジカルボン酸(PyDC)を使用しなかった以外は実施例1と同様にして、アルミニウム有機構造体(Al−MOF−B100P0)からなる吸着材料198.1mgを得た。
【0059】
(比較例2)
3,5−ピリジンジカルボン酸(PyDC)の量を200mg(1.20mmol)に変更し、イソフタル酸(BDC)を使用しなかった以外は実施例1と同様にして、アルミニウム有機構造体(Al−MOF−B0P100)からなる吸着材料128.8mgを得た。
【0060】
<粉末X線回折測定>
得られた各アルミニウム有機構造体粉末(吸着材料)の粉末X線回折(PXRD)パターンを、粉末X線回折装置(Rigaku社製「RINT−TTR」)を用い、CuKα線をX線源として室温で測定した。
図1には、実施例5〜6及び比較例1〜2で得られたアルミニウム有機構造体のPXRDパターンを示す。
図1に示した結果から明らかなように、Al
3+にBDC由来の配位子とPyDC由来の配位子とが配位している本発明のアルミニウム有機構造体(実施例5〜6)のPXRDパターンは、BDC由来の配位子のみが配位している比較例1で得られたアルミニウム有機構造体(H.Reinschら、H.Reinschら、Chem.Mater.、2013年、第25巻、17〜26ページに記載のアルミニウム有機構造体CAU−10−Hに相当するもの)のPXRDパターンと良好に一致したことから、本発明のアルミニウム有機構造体は、
図2に示すような前記CAU−10−Hが有する結晶構造(Al−BDC構造)を基本骨格として有するものであることが確認された。一方、PyDC由来の配位子のみが配位しているアルミニウム有機構造体(比較例2)は、PXRDパターンにピークが観測されないことから、規則性を持たず、アモルファス構造であると考えられ、Al−BDC構造が形成されていないと考えられる。
【0061】
<X線光電子分光分析>
得られた各アルミニウム有機構造体粉末(吸着材料)のX線光電子分光(XPS)スペクトルを、X線光電子分光分析装置(ULVAC−PHI社製「Quantera SXM」)を用い、AlKαをX線源として室温で測定した。得られたXPSスペクトルのPyDCに起因する炭素と窒素のピークとBDCに起因する炭素と窒素のピークの面積比を装置の感度係数で補正してアルミニウム有機構造体粉末中のN/C比を求めた。その結果を表1に示す。なお、表1には、PyDCとBDCの仕込比から求めたN/C比の理論値も示した。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示した結果に基づいて、N/C比の実測値をPyDCの仕込率に対してプロットした。その結果を
図3に示す。なお、
図3には、N/C比の理論値とPyDCの仕込率との関係も示した。
図3に示した結果から明らかなように、N/C比の実測値は、PyDCの仕込率との関係において、N/C比の理論値と良好に一致していることが確認された。
【0064】
<比表面積及び細孔容積の測定>
得られた各アルミニウム有機構造体粉末(吸着材料)の窒素吸着等温線を、比表面積・細孔分布測定装置(Quantachrome社製「AUTOSORB−1」)を用い、−196℃で測定した。なお、各アルミニウム有機構造体粉末には前処理として150℃で2時間の真空乾燥を施した。
図4には、各アルミニウム有機構造体粉末の窒素吸着等温線を示す。得られた窒素吸着等温線から、各アルミニウム有機構造体粉末のBET比表面積及びミクロ細孔容積を求めた。その結果を表2に示す。なお、ミクロ細孔容積は相対圧P/P
0=0.4における窒素吸着量に基づいて算出した。
【0065】
【表2】
【0066】
表2に示した結果から明らかなように、Al
3+にBDC由来の配位子とPyDC由来の配位子とが配位している本発明のアルミニウム有機構造体(実施例1〜6)は、BDC由来の配位子のみが配位している比較例1で得られたアルミニウム有機構造体(H.Reinschら、H.Reinschら、Chem.Mater.、2013年、第25巻、17〜26ページに記載のアルミニウム有機構造体CAU−10−Hに相当するもの)と同等以上のBET比表面積及びミクロ細孔容積を有していたことから、前記CAU−10−Hと同様の多孔構造を有していることが確認された。一方、PyDC由来の配位子のみが配位しているアルミニウム有機構造体(比較例2)は、BET比表面積及びミクロ細孔容積が非常に小さく、前記CAU−10−Hと同様の多孔構造は形成されていないと考えられる。
【0067】
<水蒸気吸着量測定>
得られた各アルミニウム有機構造体粉末(吸着材料)の水蒸気吸着等温線を、自動水蒸気吸着量測定装置(日本ベル株式会社製「BELSORP−18」)を用い、25℃で測定した。なお、各アルミニウム有機構造体粉末には前処理として室温で2時間の真空乾燥を施した。
図5A及び
図5Bには、各アルミニウム有機構造体粉末の水蒸気吸着等温線を示す。なお、
図5Bは
図5Aを拡大したものである。
図5A及び
図5Bに示した結果から明らかなように、Al
3+にBDC由来の配位子とPyDC由来の配位子とが配位している本発明のアルミニウム有機構造体(実施例1〜2及び5〜6)の水蒸気吸着等温線は、BDC由来の配位子のみが配位しているアルミニウム有機構造体(比較例1)に比べて、低圧側にシフトした。この結果から、全ての配位子がBDC由来の配位子で構成されているアルミニウム有機構造体の一部の配位子をPyDC由来の配位子で置換することによって、水蒸気吸着等温線が低圧側にシフトすることがわかった。また、PyDC由来の配位子の割合が多くなるにつれて、水蒸気吸着等温線はより低圧側にシフトする傾向にあることがわかった。なお、水蒸気吸着等温線の低圧側へのシフトは、ピリジン環の親水性効果によって、アルミニウム有機構造体において水との親和性が向上したことによるものと考えられる。一方、全ての配位子がPyDC由来の配位子で構成されているアルミニウム有機構造体(比較例2)は、本発明の製造方法を用いた場合、BDC由来の配位子とPyDC由来の配位子とが配位している本発明のアルミニウム有機構造体(実施例1〜2及び5〜6)に比べて、水蒸気最大吸着量が低下することがわかった。
【0068】
以上の結果から、本発明のアルミニウム有機構造体(吸着材料)においては、前記式(1)で表される芳香族ジカルボン酸由来の第一の配位子と前記式(2)で表される複素環式ジカルボン酸由来の第二の配位子の比率を調整することによって、高い水蒸気吸着性能を維持しながら、水蒸気吸着性能の圧力域を制御できることがわかった。
【0069】
また、吸着式ヒートポンプの低温化を目的とした場合における水蒸気吸脱着に好適な相対圧力域は0.08〜0.17である。そこで、
図5Bに示した結果に基づいて、相対圧力域0.08〜0.17における水蒸気取出可能量を求めた。その結果を表3に示す。
【0070】
【表3】
【0071】
表3に示した結果から明らかなように、Al
3+にBDC由来の配位子とPyDC由来の配位子とが配位している本発明のアルミニウム有機構造体(実施例1〜2及び5〜6)は、BDC由来の配位子のみが配位しているアルミニウム有機構造体(比較例1)及びPyDC由来の配位子のみが配位しているアルミニウム有機構造体(比較例2)に比べて、相対圧力域0.08〜0.17における水蒸気取出可能量が多く、特に、BDC由来の配位子とPyDC由来の配位子が1:1のモル比で配位している本発明のアルミニウム有機構造体(実施例6)は、BDC由来の配位子のみが配位しているアルミニウム有機構造体(比較例1)及びPyDC由来の配位子のみが配位しているアルミニウム有機構造体(比較例2)に比べて、相対圧力域0.08〜0.17における水蒸気取出可能量が約10倍になることがわかった。