(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
土石流等の土砂災害防止を目的とする砂防堰堤においては、その施工場所が渓流の奥地や山頂付近等である場合、又は公園敷地内や景観保護を理由に工事用道路が設置出来ない場合には、材料や重機の搬入が非常に困難となる。又、土石流が発生する危険性の高い地域においても、作業員の安全性確保の観点から問題となっていた。
【0003】
そこで、上述したような地域における砂防堰堤の施工においては、無人化施工が実施されている。無人化施工は、バックホウ、クレーン又はヘリコプター等の重機を遠隔操作することによって砂防堰堤を施工するものであり、作業員を施工場所から離れた安全な場所に配置することが出来る。
【0004】
そして、無人化施工に対応した種々の型枠ブロックが提案されている(例えば、特許文献1)。このような型枠ブロックを使用した、砂防堰堤の無人化施工方法について説明する。
【0005】
図18は従来の砂防堰堤の無人化施工方法の手順を示す概略断面図である。
【0006】
まず(1)を参照して、図示しない遠隔操作されたクレーンによって、その基底部に上下に貫通する縦孔102aが形成された型枠ブロック101a、101bを、各々が対向するように基礎コンクリート104上に設置する。
【0007】
次に(2)を参照して、設置された型枠ブロック101a、101bの縦孔102aにコンクリート106を充填し、硬化させる。すると、コンクリート106によって型枠ブロック101a、101bの各々が基礎コンクリート104に固定される。その後、型枠ブロック101a、101bの間の基礎コンクリート104上に、コンクリート107を型枠ブロック101a、101bの上端まで充填し、硬化させる。これにより、コンクリート107、106は連続性を保てる。
【0008】
次に(3)を参照して、型枠ブロック101a、101bの各々の上方に、各々と同一形状の型枠ブロック101c、101dの各々を、これらの外面が整列するように設置する。そして、型枠ブロック101a、101bと同様に、型枠ブロック101c、101dの各々の縦孔102bにコンクリートを充填して、型枠ブロック101c、101dの各々とコンクリート107とを連結する。その後、型枠ブロック101c、101dの間のコンクリート107上にコンクリートをこれらの上端まで充填し、硬化させる。
【0009】
次に(4)を参照して、(3)で示した手順を繰り返して型枠ブロック101を積み上げていくと、砂防堰堤100が無人化施工により構築される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のような従来の砂防堰堤の施工方法では、砂防堰堤の施工後において問題が生じる。
【0012】
無人化施工により構築された砂防堰堤は、型枠ブロックとコンクリートとによって構成されている。そして、無人化施工が採用される施工場所は、基本的には劣悪な位置環境であるため、特に砂防堰堤の天端面においては摩耗や損傷が激しく、頻繁に補修及び補強が必要であった。しかしながら、砂防堰堤の位置環境の条件から、補修及び補強においても無人化での工事が必要であり、補修及び補強は困難なものであった。
【0013】
そこで、耐摩耗性及び耐衝撃性を向上させ、補修及び補強の頻度を減少させるべく、砂防堰堤の天端面等を弾性体等の保護部材で覆う方法がある。しかしながら、このような保護部材は、一般的にはボルト等によって固定部材に固定する構造であるため、無人化での施工が不可能であった。
【0014】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、砂防堰堤の天端面の耐摩耗性及び耐衝撃性を向上させると共に、無人化施工に対応することの出来る砂防堰堤の補強構造体の施工方
法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するために、請求項1記載の発明は、砂防堰堤の補強構造体の施工方法であって、砂防堰堤の天端面の周囲を囲う堰状体を設置する工程と、堰状体に囲まれた天端面にコンクリートを
、堰状体の頂部まで、打設する工程と、底部に差し筋が下方に取り付けられた保護部材を、コンクリートが硬化する前にコンクリート上に
、堰状体の間に打設されているコンクリートの上方を覆うように敷設する工程とを備え、堰状体は、コンクリートブロックと、コンクリートブロックの外面の少なくとも上部に埋め込まれた第1弾性部材とを含み、第1弾性部材は第1弾性体と、第1弾性体に埋設された第1鋼板とからなり、保護部材は、鋼製部材と、鋼製部材の上面にボルトを介して取り付けられ、第2弾性体と、第2弾性体に埋設された第2鋼板とを含む第2弾性部材と
、鋼製部材の外方側下面に設置され、保護部材の設置時の堰状体に対するガイド機能を有するガイド部材とからなり、差し筋は、ボルトの少なくとも一部の下端に接続され、保護部材が敷設された状態において、第1弾性部材と第2弾性部材との各々の外面は整列
し、ガイド部材は、内側下方に向かって延びる棒状に形成され、ガイド部材の下端は差し筋の下端より下方に位置しており、保護部材の設置時、堰状体の上部に接触すると保護部材を内側に向かって誘導するものである。
【0016】
このように構成すると、上方からの作業で保護部材がコンクリートを介して砂防堰堤に一体化する。又、コンクリートの打設が安定すると共に、保護部材の上面から堰状体の上方にかけて第1弾性体及び第2弾性体によって覆われる。
又、このように構成すると、保護部材の降下時の設置が容易となる。
【0019】
請求項
2記載の発明は、砂防堰堤の補強構造体の施工方法であって、砂防堰堤の天端面の周囲を囲う堰状体を設置する工程と、堰状体に囲まれた天端面にコンクリートを
、堰状体の頂部まで、打設する工程と、底部に差し筋が下方に取り付けられた保護部材を、コンクリートが硬化する前にコンクリート上に
、堰状体の間に打設されているコンクリートの上方を覆うように敷設する工程とを備え、堰状体は、
砂防堰堤の天端面に接するように配置された、水流方向と直交する方向に延びる第1部材と第1部材の上面に交差するように配置された、水流方向に延びる第2部材とを有する第1鋼製部材と、
棒状に形成され、第1鋼製部材
の水流方向の両端部に接続され、設置時に天端面の上流側及び下流側の側面に接する形状の一対の天端ガイド部材と、第1鋼製部材に取り付けられ、その側面を囲う第1弾性部材とを含み、第1弾性部材は第1弾性体と、第1弾性体に埋設された第1鋼板とからなり、保護部材は、第2鋼製部材と、第2鋼製部材の上面にボルトを介して取り付けられ、第2弾性体と、第2弾性体に埋設された第2鋼板とを含む第2弾性部材とからなり、差し筋は、ボルトの少なくとも一部の下端に接続され、
堰状体の設置時、堰状体を上方から降下させる際、一対の天端ガイド部材によって、水流方向における堰状体の動きが規制され、保護部材が敷設された状態において、第1弾性部材と第2弾性部材との各々の外面は整列するものである。
【0020】
このように構成すると、上方からの作業で保護部材がコンクリートを介して砂防堰堤に一体化する。又、堰状体の設置が容易になると共に、保護部材の上面から堰状体の側面にかけて第1弾性体及び第2弾性体によって覆われる。
【0021】
請求項
3記載の発明は、請求項
2記載の発明の構成において、
保護部材は、更に、第2鋼製部材の外方側下面に
設置され、保護部材の設置時の堰状体に対するガイド機能を有するガイド部材
を有し、ガイド部材は、内側下方に向かって延びる棒状に形成され、ガイド部材の下端は差し筋の下端より下方に位置
しており、保護部材の設置時、堰状体の上部に接触すると保護部材を内側に向かって誘導するものである。
【0022】
このように構成すると、保護部材の降下時の設置が容易となる。
【0023】
請求項
4記載の発明は、請求項
2又は請求項
3記載の発明の構成において、
第1部材は、その一方端部が上方に向かって折り曲げられたガイド部が形成されており、第1部材の一方端部側に隣接する第1鋼製部材が堰状体として降下される時、その第2部材が第1部材
のガイド部に
沿うように設置位置が
誘導されるものである。
【0024】
このように構成すると、第1鋼製部材の降下に伴い、第2部材の設置位置が規制される。
【発明の効果】
【0033】
以上説明したように、請求項1記載の発明は、上方からの作業で保護部材がコンクリートを介して砂防堰堤に一体化するため、施工の安全性及び信頼性が向上する。又、コンクリートの打設が安定するため、施工品質が安定する。又、保護部材の上面から堰状体の上方にかけて第1弾性体及び第2弾性体によって覆われるため、耐摩耗性が向上する。
更に、保護部材の降下時の設置が容易となるため、施工効率が向上する。
【0035】
請求項
2記載の発明は、上方からの作業で保護部材がコンクリートを介して砂防堰堤に一体化するため、施工の安全性及び信頼性が向上する。又、堰状体の設置が容易になるため、施工品質が向上する。又、保護部材の上面から堰状体の側面にかけて第1弾性体及び第2弾性体によって覆われるため、耐摩耗性が向上する。
【0036】
請求項
3記載の発明は、請求項
2記載の発明の効果に加えて、保護部材の降下時の設置が容易となるため、施工効率が向上する。
【0037】
請求項
4記載の発明は、請求項
2又は請求項
3記載の発明の効果に加えて、第1鋼製部材の降下に伴い、第2部材の設置位置が規制されるため、第1鋼製部材の設置が容易となる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
図1はこの発明の第1の実施の形態による補強構造体を備えた砂防堰堤の平面図であり、
図2は
図1で示したII−IIラインの拡大断面図であり、
図3は
図2で示したIII−IIIラインの断面図である。
【0044】
これらの図を参照して、補強構造体2は、砂防堰堤5の天端面37の周囲を囲うように積み上げられた、堰状体である複数のコンクリートブロック30a、30bと、コンクリートブロック30a、30bに囲まれた砂防堰堤5の天端面37上に設置されたコンクリート91と、コンクリート91に水流方向(
図1の左右方向)と直交する方向(
図1の上下方向)に整列して設置された複数の保護部材7とから構成されている。尚、コンクリートブロック30a、30bは、例えば、砂防堰堤5の天端面37をはつり加工した後、コンクリート層を形成した面上に設置する等して、砂防堰堤5の天端面37に固定されている。
【0045】
保護部材7は、その下方部分がコンクリート91内に埋設された鋼製部材10と、鋼製部材10の上面に取り付けられた複数の第2弾性部材52とから構成されている。
【0046】
鋼製部材10は、各々の上面が整列するように格子状に配置されると共に、コンクリート91内に埋設された、水流方向又は水流方向に直交する方向に延びる鋼材よりなる、複数のL型部材11a、11bと、L型部材11a、11bの上面を覆うように配置され、L型部材11a、11bの各々にボルト又は溶接等で固定された、鋼材よりなる矩形状の接続板12とから構成されている。
【0047】
第2弾性部材52は、各々がボルト93を介して鋼製部材10の接続板12に取り付けられている。尚、ボルト93の一部の下端には、コンクリート91内に埋設された差し筋94が接続されている。又、第2弾性部材52には複数の空気穴27が、その各々が接続板12を貫通するように形成されている。第2弾性部材52、ボルト93及び差し筋94の詳細な構造については後述する。
【0048】
次に、第2弾性部材52、ボルト93及び差し筋94の詳細な構造について説明する。
【0049】
図4は
図2で示したX部分の拡大図である。
【0050】
図を参照して、第2弾性部材52は、天然ゴム(NR)及びスチレンブタジエンゴム(SBR)の合成ゴムよりなる弾性体21と、弾性体21に埋設された鋼板22とから構成されている。尚、鋼板22の厚さは、砂防堰堤の施工箇所における設計外力に応じた強度以上となるように設定されている。
【0051】
このように、鋼板22の全面が弾性体21に覆われているため、鋼板22が外面に露出することが無い。従って、鋼板22に対する防塵効果及び錆び止め効果が向上する。そのため、鋼板22の厚さは摩耗しろ及び錆びしろを考慮した厚さにする必要が無いので、コスト的に有利となる。
【0052】
更に、第2弾性部材52の外面に弾性体21が配置されるため、巨礫等の衝突による衝撃が弾性体21によって緩和される。尚、この外面に位置する弾性体21は、その厚さを種々に変更することで、砂防堰堤の施工箇所の条件に対応した耐衝撃性を付加することが出来る。
【0053】
又、第2弾性部材52は、ボルト93によってワッシャー95を介して接続板12の下面に溶接されたナット96に連結されている。尚、ボルト93の頭部は円筒状のゴム97によって覆われており、ゴム97の上面は弾性体21と同一平面上に位置している。従って、ボルト93への直接的な衝撃が加わる虞が無いため、ボルト93の耐久性が向上する。又、ゴム97は円筒状のため、第2弾性部材52の弾性体21との隙間99を最小限にすることが出来る。従って、この隙間99に不用意に砂等が溜まる虞が低減するので、第2弾性部材52等の損傷時におけるボルト93の取外し等が容易となる。尚、ボルト93を締め付ける際には、六角レンチ等を中央部に挿入してボルト93を回転させれば良い。
【0054】
又、ボルト93の下端には差し筋94が溶接によって接続されており、差し筋94はコンクリート91内に埋設されている。即ち、保護部材7が差し筋94を介してコンクリート91に一体化している。従って、保護部材7の取付状態が安定する。
【0055】
又、
図1〜
図3を参照して、保護部材7は、設置時における保護部材7のコンクリートブロック30a、30bの水流方向のガイド機能を有する、一対の第1ガイド部材41a、41bを備えている。更に、設置時における保護部材7のコンクリートブロック30a、30bの水流方向と直交する方向のガイド機能を有する、一対の第2ガイド部材42a、42bを備えている。第1ガイド部材41a、41b及び第2ガイド部材42a、42bは、各々が内側下方に向かって延びる棒状に形成されており、鋼製部材10のL型部材11a、11bに溶接等によって接続されている。更に、第1ガイド部材41a、41b及び第2ガイド部材42a、42bの各々の下端は、差し筋94の下端より下方に位置するように形成されている。第1ガイド部材41a、41b及び第2ガイド部材42a、42bによるガイド機能については後述する。
【0056】
コンクリートブロック30aは、断面状態がL字形状に形成されており、その側面及び上面に埋め込まれてボルトで取り付けられた保護部材7の第2弾性部材52と同一構造の第1弾性部材51a、51bを備えている。又、コンクリートブロック30aの内面には、保護部材7の鋼製部材10を設置するためのL型部材よりなる設置部31aがボルトによって取り付けられている。尚、コンクリートブロック30bにおいても同一構造である。
【0057】
そして、保護部材7の設置状態、即ち、保護部材7の鋼製部材10がコンクリートブロック30a、30bの設置部31a、31b上に設置された状態においては、第1弾性部材51a、51bの各々と第2弾性部材52との外面が整列するように設定されている。
【0058】
次に、このような保護部材7及び堰状体を有する補強構造体の施工方法について説明する。
【0059】
図5は
図1で示した補強構造体における水流方向の第1施工手順を示した概略断面図であり、
図6は
図1で示した補強構造体における水流方向の第2施工手順を示した概略断面図であり、
図7は
図1で示した補強構造体における水流方向の第3施工手順を示した概略断面図である。
【0060】
まず
図5の(a)を参照して、砂防堰堤5の天端面37の周囲を囲うように複数のコンクリートブロック30a、30bを設置して固定する。
【0061】
次に
図5の(b)を参照して、設置されたコンクリートブロック30a、30bに囲まれた天端面37上に高流動のコンクリート91を、コンクリートブロック30a、30bの設置部31a、31bの上面まで上方から打設する。そして、コンクリートブロック30a、30bの頂部まで、高流動のコンクリート91を充填する。
【0062】
このように、この実施の形態による補強構造体2の施工方法においては、コンクリートブロック30a、30bにその周囲を囲まれた天端面37上に高流動のコンクリート91を打設するため、コンクリート91の施工品質が安定する。
【0063】
次に
図6の(c)を参照して、打設されたコンクリート91が硬化する前に、鋼製部材10及び第2弾性部材52よりなる保護部材7を図示しないヘリコプター等で上方から降下させる。この時、図においては保護部材7の水流方向における位置は下流側(図の左側)にずれた状態となっている。
【0064】
次に
図6の(d)を参照して、
図6の(c)の状態から、そのまま保護部材7を降下させると、保護部材7の第1ガイド部材41とコンクリートブロック30aの上部とが接触する。上述した通り、第1ガイド部材41は内側下方に向かって延びるように形成されているため、保護部材7が図の矢印で示すように第1ガイド部材41に沿って上流側(図の右側)に誘導されながら降下する。
【0065】
次に
図7の(e)を参照して、
図6の(d)の状態から、更に保護部材7を降下させると、保護部材7が第1ガイド部材41のガイド機能に沿って更に上流側に誘導されながら降下する。
【0066】
次に
図7の(f)を参照して、
図7の(e)の状態から、更に保護部材7を降下させると、保護部材7の鋼製部材10がコンクリートブロック30a、30bの設置部31a、31b上に設置される。そして、コンクリート91が硬化すると、
図1で示した補強構造体2が完成する。
【0067】
このように、この実施の形態による補強構造体2の施工方法においては、図示しないヘリコプター等での上方からの作業で保護部材7がコンクリート91を介して砂防堰堤5に一体化する。従って、補強構造体2の施工における安全性及び信頼性が向上するため、無人化施工に適した施工方法となる。
【0068】
又、第1ガイド部材41によって、水流方向における保護部材7の降下時の設置が容易となるため、補強構造体2の施工効率が向上する。
【0069】
又、上述した通り、保護部材7の設置状態においては、保護部材7の第2弾性部材52とコンクリートブロック30a、30bの第1弾性部材51a、51bの各々との外面が整列する。従って、保護部材7の上面からコンクリートブロック30a、30bの上面及び側面にかけて第1弾性部材51a、51b及び第2弾性部材52によって覆われる。そのため、補強構造体2の耐摩耗性及び耐衝撃性が向上する。
【0070】
又、上述した通り、第1ガイド部材41の下端は差し筋94の下端より下方に位置するように形成されているため、保護部材7の降下時において第1ガイド部材41による規制が始まる段階では、不用意に差し筋94がコンクリートブロック30a、30b及びコンクリート91に接触する虞が無い。即ち、差し筋94は、常に所定の位置に近い位置まで誘導された後、コンクリート91に埋設されるため、埋設後の差し筋94の移動が減少する。そのため、コンクリート91の品質が安定する。
【0071】
一方、水流方向と直行する方向においては、
図3で示した第2ガイド部材42a、42bの各々が、コンクリートブロック30a、30bの設置部31a、31bの各々に接触することによって、第1ガイド部材41a、41bと同様のガイド機能が発揮される。
【0072】
尚、第1の実施の形態による補強構造体においては、堰状体であるコンクリートブロックは、保護部材の設置と相違して、その設置位置が安定しないという問題がある。そして、保護部材はコンクリートブロックを基準としてその設置位置が決定されるため、コンクリートブロックの設置位置にずれが生じると、補強構造体全体の設置位置にずれが生じることになる。このような問題を解決する補強構造体について説明する。
【0073】
図8はこの発明の第2の実施の形態による補強構造体を備えた砂防堰堤の平面図であって、第1の実施の形態の
図1に対応するものであり、
図9は
図8で示したIX−IXラインの拡大断面図であり、
図10は
図9で示したX−Xラインの断面図である。
【0074】
これらの図を参照して、補強構造体3は、堰状体である、砂防堰堤5の天端面37上に設置された第1鋼製部材61aと、第1鋼製部材61aに接続された複数の一対の天端ガイド部材68a、68bと、第1鋼製部材61aの側面の各々を囲うように第1鋼製部材61aに取り付けられた第1弾性部材51a、51bとを備えている。更に、この堰状体に囲まれた天端面37上に設置されたコンクリート91と、コンクリート91に設置された保護部材8とを備えている。尚、補強構造体3は、
図1で示した第1の実施の形態による補強構造体と同じく、例えば、砂防堰堤5の天端面37をはつり加工した後、コンクリート層を形成した面上に設置する等して、砂防堰堤5の天端面37に固定されている。又、砂防堰堤5の天端面37には複数の補強筋19が設置されており、補強筋19の上部はコンクリート91に埋設されている。
【0075】
保護部材8は、第1の実施の形態による保護部材の鋼製部材と同一形状の第2鋼製部材15を備えており、その他の構造も、
図1で示した第1の実施の形態による保護部材と同一である。即ち、第1の実施の形態による保護部材と同様の効果を発揮する。
【0076】
第1鋼製部材61aは、四角筒状の鋼材よりなる部材で格子状に形成されており、砂防堰堤5の天端面37に接するように配置された、水流方向と直交する方向に延びる第1部材63aと、第1部材63aの上面に交差するように配置された、水流方向に延びる第2部材64aとを有している。尚、第1部材63aは、その一方端部が上方に向かって折り曲げられたガイド部65aが形成されている。更に、第1鋼製部材61aに隣接する同一形状の第1鋼製部材61bは、第1部材63bのガイド部65bが、第1鋼製部材61aの第2部材64aよりガイド部65a側(
図10の右側)に位置するように設置されている。このような、隣接する第1鋼製部材61a、61bの第1部材63a、63b及び第2部材64a、64bによる効果については後述する。
【0077】
天端ガイド部材68a、68bは棒状に形成されており、第1鋼製部材61aの水流方向の両端部に接続されている。そして、設置状態においては、各々が砂防堰堤5の天端面37の上流側及び下流側に接するように形成されている。
【0078】
第1弾性部材51a、51bは、第1鋼製部材61aの側面及び両端部の上面を囲むように配置され、各々がボルトによって第1鋼製部材61aに取り付けられている。尚、第1弾性部材51a、51bの構造は、
図1で示した第1の実施の形態による第1弾性部材と同一である。そして、保護部材8の設置状態においては、保護部材8の第2弾性部材52と第1弾性部材51a、51bの各々との外面が整列する。
【0079】
更に、第1鋼製部材61a、天端ガイド部材68a、68b及び第1弾性部材51a、51bよりなる堰状体は、図示しないシール手段によって砂防堰堤5の天端面37の両側端部上にシール状態で設置されている。
【0080】
そして、保護部材8は、天端面37上に設置された堰状体の第1鋼製部材61a、61b上に、二点鎖線で示した位置から降下させて設置する。この実施の形態による補強構造体3の施工方法においては、保護部材8の第1ガイド部材41a、41b及び図示しない第2ガイド部材42a、42bによって、
図5〜
図7で示した第1の実施の形態による補強構造体の施工方法と同様の効果を発揮する。
【0081】
次に、このような補強構造体3の堰状体の施工方法について説明する。
【0082】
図11は
図8で示した補強構造体における堰状体の水流方向の第1施工手順を示した概略断面図であり、
図12は
図8で示した補強構造体における堰状体の水流方向の第2施工手順を示した概略断面図である。
【0083】
まず
図11の(a)を参照して、砂防堰堤5の天端面37上に、第1鋼製部材61、天端ガイド部材68a、68b及び第1弾性部材51a、51bよりなる堰状体35を、上方から降下させる。この時、堰状体35の水流方向における位置は下流側(図の左側)にずれている。又、砂防堰堤5の天端面37は、その表面をはつり加工し、はつり面にコンクリート層を形成した後、上述した堰状体35を設置する。
【0084】
次に
図11の(b)を参照して、堰状体35の天端ガイド部材68a、68bが砂防堰堤5の天端面37に近づいた時、天端ガイド部材68aが天端面37の側面に接するように、堰状体35を図の矢印で示すように移動させる。
【0085】
次に
図12の(c)を参照して、堰状体35の天端ガイド部材68aが砂防堰堤5の天端面37の下流側の側面に略接する位置に移動させた後、堰状体35を再度降下させる。上述した通り、天端ガイド部材68a、68bは、設置状態において天端面37の側面と接するように形成されている。従って、天端ガイド部材68aが天端面37の下流側の側面に接すると、自動的に天端ガイド部材68bが天端面37の上流側の側面近くに位置することになる。尚、天端ガイド部材68aの長さを、天端ガイド部材68bの長さよりも長く形成しても良い。これにより、堰状体35の天端ガイド部材68aが砂防堰堤5の天端面37の下流側の側面に接する位置に移動させやすくなるため、堰状体35の位置決めがしやすくなる。
【0086】
次に
図12の(d)を参照して、堰状体35をそのまま降下させると、天端ガイド部材68a、68bによって左右の動きが規制され、堰状体35の第1鋼製部材61が天端面37上に配置されると共に、天端ガイド部材68a、68bが天端面37の上流側及び下流側の側面に接する。即ち、天端ガイド部材68a、68bのガイド機能によって、堰状体35を砂防堰堤5の天端面37に対して水流方向において容易に所定の位置に設置することが出来る。
【0087】
そして、
図12の(d)の状態から、堰状体35で囲まれた天端面37上に上方から高流動のコンクリートを打設し、
図5〜
図7で示した第1の実施の形態による補強構造体の施工方法と同様に保護部材8を設置する。すると、
図8で示した補強構造体3が完成する。この時、上述した通り、堰状体35は砂防堰堤5の天端面37にシール状態で設置されているため、打設された高流動のコンクリートが外方へ流出する虞が無い。
【0088】
又、砂防堰堤5の天端面37には、図示しない補強筋が設置されているため、天端面37上の高流動のコンクリートが硬化すると、砂防堰堤5とこのコンクリートとが一体化される。即ち、砂防堰堤5と補強構造体3とが一体化される。
【0089】
次に、水流方向と直交する方向に対する、即ち、隣接する堰状体に対する施工方法について説明する。
【0090】
図13は
図8で示した補強構造体における堰状体の水流方向と直交する方向の第1施工手順を示した概略断面図であり、
図14は
図8で示した補強構造体における堰状体の水流方向と直交する方向の第2施工手順を示した概略断面図である。
【0091】
まず
図13の(a)を参照して、砂防堰堤5の天端面37上に、第1鋼製部材61a、天端ガイド部材68a、68b(図示せず)及び第1弾性体51a、51b(図示せず)よりなる堰状体35aを上方から降下させる手順は、
図11の(a)と同様である。
【0092】
次に
図13の(b)を参照して、隣接する既設の堰状体35bの第1鋼製部材61bの第1部材63bのガイド部65bが、堰状体35aの第2部材64aの内方側の部分と接するように、堰状体35aを降下させる。上述した通り、堰状体35aの第1鋼製部材61aの第1部材63aのガイド部65aの反対側の端部は、第2部材64aより内側に位置するように形成されている。従って、堰状体35bの第1部材63bのガイド部65bは堰状体35aの第2部材64aに接することが出来る。そして、このような状態の堰状体35aの第2部材64aは、降下と共に図の矢印で示すように堰状体35bの第1部材63bのガイド部65bに沿うように、堰状体35b側へと誘導される。
【0093】
次に
図14の(c)を参照して、
図13の(b)の状態から、更に堰状体35aを降下させると、上述したように堰状体35aの第2部材64aが堰状体35bの第1部材63bのガイド部65bに沿って誘導され続ける。即ち、堰状体35aが堰状体35bに更に近付くように誘導される。
【0094】
次に
図14の(d)を参照して、
図14の(c)の状態から、更に堰状体35aを降下させると、堰状体35aと堰状体35bとが接触した状態の所定の位置となる。
【0095】
このような補強構造体3の施工方法においては、堰状体35aの第1鋼製部材61aの降下に伴い、第2部材64aの設置位置が規制される。そのため、隣接する堰状体35bに対する堰状体35aの設置が容易となる。
【0096】
又、
図11〜
図14で説明した通り、この実施の形態による補強構造体3の施工方法においては、図示しないヘリコプター等での上方からの作業で保護部材8がコンクリート91を介して砂防堰堤5に一体化する。従って、補強構造体3の施工における安全性及び信頼性が向上するため、無人化施工に適した施工方法となる。
【0097】
図15はこの発明の第3の実施の形態による補強構造体を備えた砂防堰堤の断面図であって、第2の実施の形態の
図9に相当する図であり、
図16は
図15で示したXVI−XXVIラインの断面図である。
【0098】
これらの図を参照して、補強構造体4は、砂防堰堤5の天端面37に設置されたプレキャストよりなる第1コンクリートブロック71と、第1コンクリートブロック71の上面に設置された保護部材9とから構成されている。尚、第1コンクリートブロック71は、
図8で示した第2の実施の形態による補強構造体と同様に、例えば、砂防堰堤5の天端面37をはつり加工した後、コンクリート層を形成した面上に設置する等して、砂防堰堤5の天端面37に固定されている。
【0099】
保護部材9は、第1コンクリートブロック71の上面に設置されたプレキャストよりなる第2コンクリートブロック72と、第2コンクリートブロック72の上面及び側面を被覆するように、第2コンクリートブロック72に複数のボルト93によって取り付けられた弾性部材20とから構成されている。尚、弾性部材20及びボルト93は、
図1で示した第1の実施の形態による第2弾性部材及びボルトと略同一であり、第2コンクリートブロック72形成の型枠に設置した状態でコンクリートを打設して第2コンクリートブロック72と一体化している。
【0100】
又、第1コンクリートブロック71には、その上面に下方方向に向かう四角錐台形状の凹部76a、76bが形成されている。更に、第2コンクリートブロック72には、その下面に第1コンクリートブロック71の凹部76a、76bに嵌合するように対応した四角錐台形状の凸部77a、77bが形成されている。
【0101】
このように、第2コンクリートブロック72は、第1コンクリートブロック71の凹部76a、76bに、その凸部77a、77bが嵌合して設置されているため、第2コンクリートブロック72の設置状態が安定する。そのため、砂防堰堤5の天端面37の補強状態の信頼性が向上する。
【0102】
又、第1コンクリートブロック71の凹部76a、76b及び第2コンクリートブロック72の凸部77a、77bが四角錐台形状に形成されているため、仮にこれらの凹凸部が一対であっても、第2コンクリートブロック72が垂直方向を軸として回転する虞が無い。そのため、第2コンクリートブロック72の設置状態が更に安定する。
【0103】
次に、このような補強構造体4の施工方法について説明する。
【0104】
図17は
図15で示した補強構造体における水流方向と直交する方向の施工方法を示した概略断面図である。
【0105】
まず(a)を参照して、図示しない砂防堰堤の天端面上に、その上面に四角錐台形状の凹部76が形成された第1コンクリートブロック71を設置して固定する。そして、設置された第1コンクリートブロック71の上方から、その下面に四角錐台形状の凸部77が形成された第2コンクリートブロック72と、第2コンクリートブロック72の上面を被覆する弾性部材20とが一体化された保護部材9を降下させる。この時、第2コンクリートブロック72は、第1コンクリートブロック71に対する水流方向の位置が上流側(図の右側)にずれている。
【0106】
次に(b)を参照して、(a)の状態から更に第2コンクリートブロック72を降下させると、第2コンクリートブロック72の凸部77と第1コンクリートブロック71の凹部76とが当接する。すると、凹部76及び凸部77は四角錐台形状に形成されているため、図の矢印で示すように凸部77が凹部76の内面に沿って、これらが嵌合するように第1コンクリートブロック71が下流側(図の左側)に誘導される。
【0107】
次に(c)を参照して、(b)の状態から更に第2コンクリートブロック72を降下させると、第2コンクリートブロック72の凸部77が第1コンクリートブロック71の凹部76に嵌合する。すると、
図15で示した補強構造体4が完成する。
【0108】
尚、水流方向における第1コンクリートブロック71に対する、第2コンクリートブロック72及び弾性体20よりなる保護部材9の施工方法も、上述した水流方向と直交する方向における施工方法と同様である。即ち、保護部材9の降下時の横方向のズレは、第1コンクリートブロック71の凹部76及び第2コンクリートブロック72の凸部77で規制される。そのため、保護部材9の設置が容易になると共に、その設置状態も安定する。
【0109】
又、上述した通り、第2コンクリートブロック72の凸部77は四角錐台形状に形成されているため、凸部77の構成角が鈍角となる。そのため、保護部材9の設置時における凸部77と第1コンクリートブロック71との衝突による、これらの損傷が軽減する。
【0110】
尚、上記の各実施の形態では、弾性部材は弾性体と弾性体に埋設された鋼板とで構成されているが、例えば、弾性体のみ又は鋼板のみ等、砂防ダムの天端面を保護する機能を発揮出来るものであれば、他の素材で構成されていても良い。
【0111】
又、上記の各実施の形態では、弾性部材の弾性体は天然ゴム(NR)及びスチレンブタジエンゴム(SBR)よりなる合成ゴムで形成されているが、合成ゴムは、例えばクロロプレンゴム(CR)やエチレンプロピレンゴム(EPT)等が含有されているものであっても良い。
【0112】
更に、上記の各実施の形態では、補強構造体は特定部材よりなる堰状体を備えているが、堰状体は砂防ダムの天端面の周囲を覆うと共に、堰状体に囲まれた天端面にコンクリートを打設できるものであれば、他の部材であっても良い。
【0113】
更に、上記の第1及び第2の実施の形態では、差し筋はボルトの下端に接続されているが、保護部材に対して下方に取り付けられているものであれば良い。
【0114】
更に、上記の第1及び第2の実施の形態では、保護部材の鋼製部材は特定形状に形成されているが、その上面にボルトを介して弾性部材が取り付けられるものであれば、他の形状であっても良い。
【0115】
更に、上記の第1及び第2の実施の形態では、保護部材は2方向を規制する特定形状のガイド部材を備えているが、保護部材の設置時に堰状体に対してガイド機能を有するものであれば、他の形状であっても良い。又は、保護部材のガイド部材は無くても良く、1方向のみ規制するものでも良い。
【0116】
更に、上記の第2の実施の形態では、第1鋼製部材は第1部材と第2部材とによって隣接する第1鋼製部材に対する設置位置が規制されているが、第1部材と第2部材とは無くても良く、その場合、隣接する第1鋼製部材に対する設置位置が規制されるものでなくても良い。
【0117】
更に、上記の第3の実施の形態では、第1コンクリートブロックの凹部及び第2コンクリートブロックの凸部は四角錐台形状に形成されているが、第1コンクリートブロックの凹部は上面が下方方向に向かって先細りの形状であれば、他の形状であっても良く、第2コンクリートブロックの凸部は該凹部に嵌合すれば、他の形状であっても良い。
【0118】
更に、上記の第3の実施の形態では、第1コンクリートブロックの凹部及び第2コンクリートブロックの凸部はそれぞれ2個形成されているが、これらは2個以上形成されていても良い。又は、1個のみ形成されていても良い。
【0119】
更に、上記の第3の実施の形態では、第1コンクリートブロックに凹部が形成され、第2コンクリートブロックに凸部が形成されているが、凹部と凸部とが逆に形成されていても良い。
【0120】
更に、上記の第3の実施の形態では、第2コンクリートブロックと弾性部材とが一体化されているが、弾性部材は第2コンクリートブロックに対して脱着可能に構成されていても良い。その場合、弾性部材の損傷等による弾性部材のみの交換が容易となる。
【0121】
更に、上記の各実施の形態では、砂防堰堤の補強構造体の施工方法は、無人化施工によるものであったが、有人施工によって行われても良い。