特許第6808312号(P6808312)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6808312-電動圧縮機 図000002
  • 特許6808312-電動圧縮機 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6808312
(24)【登録日】2020年12月11日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 23/02 20060101AFI20201221BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20201221BHJP
   F04C 23/00 20060101ALI20201221BHJP
   F04B 39/00 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   F04C23/02 J
   F04C29/00 U
   F04C23/00 F
   F04C29/00 T
   F04B39/00 106D
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-211950(P2015-211950)
(22)【出願日】2015年10月28日
(65)【公開番号】特開2017-82684(P2017-82684A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年7月31日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】小川 真
(72)【発明者】
【氏名】三浦 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 創
(72)【発明者】
【氏名】江崎 郁男
(72)【発明者】
【氏名】宇野 将成
(72)【発明者】
【氏名】島谷 紘史
(72)【発明者】
【氏名】水野 尚夫
(72)【発明者】
【氏名】笹川 千賀子
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 隆史
(72)【発明者】
【氏名】室井 優一
【審査官】 冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−168976(JP,A)
【文献】 特開2004−239099(JP,A)
【文献】 特開2001−349284(JP,A)
【文献】 特開昭61−118579(JP,A)
【文献】 特開2005−248843(JP,A)
【文献】 特開2005−201195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 23/02
F04B 39/00
F04C 23/00
F04C 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子および回転子からなる電動モータと、
前記電動モータの前記回転子と結合された回転駆動軸と、
前記回転駆動軸の少なくとも一端部側に、該回転駆動軸を支持する軸受部材を含んで構成され、該回転駆動軸を介して駆動される圧縮機構部と、
前記電動モータの前記回転子の少なくとも前記圧縮機構部側の端面もしくは両端面に設けられる回転慣性体としてのウェイト部材と、を備え、
前記回転子の前記圧縮機構部側の端面に設けられる前記ウェイト部材は、前記圧縮機構部を構成する前記軸受部材のボス部の外周にオーバーハングされ、その外端面が平面状とされたリング形状のウェイト部材とされ、
前記ウェイト部材は、厚さ方向に並ぶ円環状の磁性体と円環状の非磁性体とを有し、前記回転子の端面側が前記非磁性体とされ、その外端面側が前記磁性体とされていることを特徴する電動圧縮機。
【請求項2】
前記回転子の両端面に設けられる前記ウェイト部材は、それぞれ外端面が平面状とされたリング形状のウェイト部材とされていることを特徴する請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項3】
前記ウェイト部材は、その外端面の複数箇所に設けられている座刳り部でリベットまたはボルト・ナットにより前記回転子に対して一体に結合され、前記リベットのカシメ部または前記ボルト・ナットの頭部が前記座刳り部内に収納可能とされていることを特徴とする請求項1または2に記載の電動圧縮機。
【請求項4】
前記ウェイト部材は、所定の偏心方向位置に穴部を設けた非対称形状とされ、回転慣性体兼バランスウェイトとされていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の電動圧縮機。
【請求項5】
前記ウェイト部材の前記非磁性体部分は、前記回転子の軸方向厚さHに対し、少なくとも5%を超える厚さ寸法tとされていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の電動圧縮機。
【請求項6】
前記ウェイト部材の重量は、前記回転子の全重量の少なくとも10%を超える重さとされていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータにより、回転駆動軸を介して圧縮機構部を駆動する電動圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷凍機や空調機等に適用される電動圧縮機においては、電動モータとして回転子に永久磁石を埋め込んだ磁石モータが用いられている。この磁石を希土類磁石として磁力を高めることにより、同一出力を得る場合、回転子の軸方向厚さ寸法を小さくし、電動モータひいては電動圧縮機を軽量化、小型化できることが知られている。しかし、希土類磁石を用いた場合、回転子自体の重量が軽くなり、回転時の慣性力が小さくなることから、圧縮行程時のガス圧縮トルクの変動に伴うモータ回転子の角速度変動が大きくなり、それが電動圧縮機の効率低下や振動、騒音の増加の要因となる。
【0003】
そこで、モータ回転子の角速度変動を低減し、電動圧縮機の性能向上、振動、騒音の低減を図るべく、特許文献1,2等に示されるように、モータ回転子の少なくとも一端面もしくは両端面に回転慣性体としての質量体(ウェイト部材)を設け、その慣性力でモータ回転子の角速度変動を抑制するようにしたものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−248843号公報
【特許文献2】特開2007−146736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、モータ回転子に結合された回転駆動軸の少なくとも一端部には、軸受部材を介して圧縮機構部が設けられており、回転子にウェイト部材を設けると、その重さや圧縮機構部と電動モータ間の距離に比例する大きさの振れ回りが発生し、回転系のバランスに悪影響を及ぼす場合がある。また、ウェイト部材の形状や固定構造により、例えば回転系のバランスを取るバランスウェイトと兼用化するため、外周面や外端面の一部に突出部を設けたり、ウェイト部材を固定するリベットのカシメ部を突出させた構成としたりすると、その突出部が電動圧縮機内の潤滑油や冷媒ガスを撹拌し、動力ロスや油上がりを促進する要因となったりすることから、ウェイト部材の形状や固定構造に対して工夫を施す必要があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、回転子に回転慣性体としてのウェイト部材を設け、回転子の角速度変動を低減して電動圧縮機の性能向上、騒音、振動の低減を図るとともに、そのウェイト部材による振れ回りや、潤滑油、冷媒ガスの撹拌による油上がりを抑制し得る電動圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するために、本発明の電動圧縮機は、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかる電動圧縮機は、固定子および回転子からなる電動モータと、前記電動モータの回転子と結合された回転駆動軸と、前記回転駆動軸の少なくとも一端部側に、該回転駆動軸を支持する軸受部材を含んで構成され、該回転駆動軸を介して駆動される圧縮機構部と、前記電動モータの前記回転子の少なくとも前記圧縮機構部側の端面もしくは両端面に設けられる回転慣性体としてのウェイト部材と、を備え、前記回転子の前記圧縮機構部側の端面に設けられる前記ウェイト部材は、前記圧縮機構部を構成する前記軸受部材のボス部の外周にオーバーハングされ、その外端面が平面状とされたリング形状のウェイト部材とされていることを特徴する。
【0008】
本発明によれば、回転子の少なくとも圧縮機構部側の端面に設けられる回転慣性体としてのウェイト部材を、圧縮機構部を構成する軸受部材のボス部の外周にオーバーハングさせて設け、その外端面を平面状としたリング形状のウェイト部材としているため、回転慣性体としてのウェイト部材で慣性力を大きくすることにより、圧縮行程時のガス圧縮トルクの変動に伴うモータ回転子の角速度変動を低減し、電動圧縮機の性能向上、騒音、振動の低減を図ることができることはもちろんのこと、ウェイト部材を極力圧縮機構部側に接近させて設置することより、ウェイト部材による振れ回りを抑制することができるとともに、ウェイト部材の回転によって電動圧縮機内の潤滑油が撹拌され、潤滑油が巻上げられることによる油上がりを低減することができる。従って、電動圧縮機をより一層高効率化し、性能の向上および低振動化、低騒音化を図ることができる。また、油上がり量の低減により潤滑に対する信頼性の向上、冷凍サイクル側での熱交換性能の向上を図ることができる。
【0009】
さらに、本発明の電動圧縮機は、上記の電動圧縮機において、前記回転子の両端面に設けられる前記ウェイト部材は、それぞれ外端面が平面状とされたリング形状のウェイト部材とされていることを特徴する。
【0010】
本発明によれば、回転子の両端面に設けられるウェイト部材が、それぞれ外端面が平面状とされたリング形状のウェイト部材とされているため、回転するウェイト部材の外周面や外端面が電動圧縮機内の潤滑油や冷媒ガスと接することによる撹拌を抑制し、その撹拌による動力ロスや、潤滑油の巻上げおよびその油と冷媒ガスとの接触、混合の促進による油上がりを低減することができる。従って、電動圧縮機の一層の高効率化、油上がりの低減による潤滑に対する信頼性の向上、冷凍サイクル側での熱交換性能の向上を図ることができる。
【0011】
さらに、本発明の電動圧縮機は、上述のいずれかの電動圧縮機において、前記ウェイト部材は、その外端面の複数箇所に設けられている座刳り部でリベットまたはボルト・ナットにより前記回転子に対して一体に結合され、前記リベットのカシメ部または前記ボルト・ナットの頭部が前記座刳り部内に収納可能とされていることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、ウェイト部材が、その外端面の複数箇所に設けられている座刳り部でリベットまたはボルト・ナットにより回転子に対して一体に結合され、リベットのカシメ部またはボルト・ナットの頭部が座刳り部内に収納可能とされているため、回転子に対してウェイト部材を座刳り部でリベットまたはボルト・ナットにより一体に結合し、そのカシメ部またはボルト・ナットの頭部を座刳り部内に収納することにより、カシメ部またはボルト・ナットの頭部がウェイト部材の外端面から外側に突出しないようにすることができる。従って、リベットのカシメ部またはボルト・ナットの頭部による潤滑油や冷媒ガスの撹拌を防止し、油上がりを一層低減することができる。
【0013】
さらに、本発明の電動圧縮機は、上述のいずれかの電動圧縮機において、前記ウェイト部材は、所定の偏心方向位置に穴部を設けた非対称形状とされ、回転慣性体兼バランスウェイトとされていることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、ウェイト部材が、所定の偏心方向位置に穴部を設けた非対称形状とされ、回転慣性体兼バランスウェイトとされているため、回転慣性体であるウェイト部材の所定の偏心方向位置に穴部を設け、穴部側の重さを軽くすることによって、ウェイト部材を回転慣性体のみならず、回転系のバランスを取るバランスウェイトとしても機能させることができる。従って、一のウェイト部材に突出部等を設けることなく、穴部を設けるだけで、回転慣性体およびバランスウェイトとしての2つの機能を持たせることができ、各々の効果や上述の効果を享受しながら、構成の簡素化、低コスト化を図ることができる。
【0015】
さらに、本発明の電動圧縮機は、上述のいずれかの電動圧縮機において、前記ウェイト部材は、前記回転子の端面側の一部が非磁性体、その外端面側の一部が磁性体とされていることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、ウェイト部材の回転子の端面側の一部が非磁性体、その外端面側の一部が磁性体とされているため、回転子端面からの磁束漏れを非磁性体部分によって防止しながら、ウェイト部材の一部を磁性体である鉄系等の低コスト材とすることができる。つまり、通常この種ウェイト部材としては、磁束漏れを防止すべく、高比重金属材である黄銅材(真鍮)やステンレス材等の非磁性体を用いていたが、回転子の端面側の一部を黄銅材やステンレス材、高マンガン鋼等の非磁性体とし、外端面側の一部を磁性体とすることにより、回転子端面からの磁束漏れを防止しつつ、ウェイト部材の一部を安価な鋳鉄等の鉄系材とすることができる。従って、ウェイト部材としての機能を満たすと同時に、低コスト化を図ることができる。
【0017】
さらに、本発明の電動圧縮機は、上記の電動圧縮機において、前記ウェイト部材の前記非磁性体部分は、前記回転子の軸方向厚さHに対し、少なくとも5%を超える厚さ寸法tとされていることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、ウェイト部材の非磁性体部分が、回転子の軸方向厚さHに対し、少なくとも5%を超える厚さ寸法tとされているため、ウェイト部材の非磁性体部分を回転子の軸方向厚さHの5%以上の厚さ寸法tとすることにより、外端面側の一部を安価な鋳鉄等の磁性体としながら、十分磁束漏れを防止することができる。従って、ウェイト部材としての機能を満たすと同時に、低コスト化を図ることができる。
【0019】
さらに、本発明の電動圧縮機は、上述のいずれかの電動圧縮機において、前記ウェイト部材の重量は、前記回転子の全重量の少なくとも10%を超える重さとされていることを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、ウェイト部材の重量が、回転子の全重量の少なくとも10%を超える重さとされているため、回転子の重量と、回転子の全重量の少なくとも10%を超える重さとしたウェイト部材の重量との合計重量により、ガス圧縮トルクの変動に伴うモータ回転子の角速度変動を低減するのに必要な重量を確保して所要の慣性力を得ることで、回転子の角速度変動を低減することができる。従って、回転子の角速度変動による効率の低下や振動、騒音を解消し、電動圧縮機における性能の向上、振動、騒音の低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、回転慣性体としてのウェイト部材で慣性力を大きくすることにより、圧縮行程時のガス圧縮トルクの変動に伴うモータ回転子の角速度変動を低減し、電動圧縮機の性能向上、騒音、振動の低減を図ることができることはもちろんのこと、ウェイト部材を極力圧縮機構部側に接近させて設置することより、ウェイト部材による振れ回りを抑制することができるとともに、ウェイト部材の回転によって電動圧縮機内の潤滑油が撹拌され、潤滑油が巻上げられることによる油上がりを低減することができるため、電動圧縮機をより一層高効率化し、性能の向上および低振動化、低騒音化を図ることができる。また、油上がり量の低減により潤滑に対する信頼性の向上、冷凍サイクル側での熱交換性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る電動圧縮機の縦断面図である。
図2】上記電動圧縮機に組込まれる電動モータの回転子を端面側から見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の一実施形態について、図1および図2を参照して説明する。
図1には、本発明の一実施形態に係る電動圧縮機の縦断面図が示され、図2には、その電動モータの回転子を端面側から見た平面図が示されている。
本実施形態の電動圧縮機1は、密閉ハウジング2内に、電動モータ3と、2気筒ロータリ式の圧縮機構部4が内蔵された2気筒ロータリ式の電動圧縮機1とされているが、本発明は、このような2気筒ロータリ式の電動圧縮機1に限定されるものでないことはもちろんである。
【0024】
密閉ハウジング2内の上方部位には、固定子5および回転子6からなる電動モータ3が固定設置されている。固定子5は、内周側に複数のティース部を打ち抜き成形した環状の磁性鋼板を多数枚積層し、そのティース部に絶縁ボビン7を介してアルミ巻線等の固定子巻線8を集中巻きしたものであり、一方、回転子6は、複数の磁石挿入孔を打ち抜き成形した環状の磁性鋼板を多数枚積層し、その磁石挿入孔にフェライト磁石、希土類であるネオジム磁石、ディスプロシウム磁石等の永久磁力(図示省略)を挿入することにより、リベットあるいはボルト・ナット等で円筒状に一体に結合され、固定子5の内周部にエアギャップを介して装着されるものである。
【0025】
上記電動モータ3は、固定子5が密閉ハウジング2内に焼嵌めされることによって密閉ハウジング2内に固定設置されており、その下方部位に、2気筒ロータリ式の圧縮機構部4が固定設置されている。電動モータ3の回転子6には、回転駆動軸9が一体に結合されており、その回転駆動軸9の他端部分に圧縮機構部4が連結されることにより、圧縮機構部4が駆動される構成とされている。回転駆動軸9の下方部分には、上下に所定の間隔をおいて2箇所に偏心軸部9A,9Bが180度位相をずらして対向配設されている。
【0026】
圧縮機構部4は、上下一対の上部軸受部材10および下部軸受部材11と、その上部軸受部材10および下部軸受部材11間にセパレータプレート12を挟んで設けられる上下一対のシリンダ本体13A,13Bと、シリンダ本体13A,13Bに形成され、上下が上部軸受部材10、下部軸受部材11およびセパレータプレート12で密閉されたシリンダ室14A,14Bと、シリンダ室14A,14B内において、回転駆動軸9の偏心軸部9A,9Bに回動自在に嵌合され、シリンダ室14A,14Bの内周面を回動するロータ15A,15Bと、シリンダ本体13A,13Bに設けられた半径方向の溝内に摺動自在に嵌装され、シリンダ室14A,14B内を吸入側と吐出側とに仕切るベーンおよびそのベーン押えバネ(いずれも図示省略)等々を備えたものである。
【0027】
なお、上部軸受部材10および下部軸受部材11は、上部軸受部材10がメイン軸受、下部軸受部材11がサブ軸受として回転駆動軸9を回転自在に支持するとともに、その下面および上面でシリンダ本体13A,13Bに形成されているシリンダ室14A,14Bの一端面を密閉する構成とされている。かかる2気筒ロータリ式の圧縮機構部4は、広く知られている公知のものである。
【0028】
圧縮機構部4は、シリンダ本体13A,13B、セパレータプレート12、上部軸受部材10および下部軸受部材11を、図1に示すように、セパレータプレート12を挟んでその両面側にシリンダ本体13A,13B、更にシリンダ本体13A,13Bの上下両端面に上部軸受部材10および下部軸受部材11を積み重ねてボルト等により一体に結合した状態とし、上部軸受部材10を密閉ハウジング2に対して複数箇所で溶接(栓溶接)することによって、密閉ハウジング2内に固定設置されている。なお、上部軸受部材10に代えて、シリンダ本体13A,13Bのいずれかを密閉ハウジング2内に固定設置するようにしてもよい。
【0029】
圧縮機構部4の上下一対のシリンダ室14A,14Bには、密閉ハウジング2の外周にブラケット18により一体に組み付け設置されているアキュームレータ19を介して、冷凍サイクルを循環した低圧の冷媒ガスが、吸入配管20A,20Bおよびシリンダ本体13A,13Bに設けられている吸入ポート16A,16Bを経て吸入されるようになっている。また、シリンダ室14A,14Bに吸込まれた低圧の冷媒ガスは、電動モータ3により回転駆動軸9の偏心軸部9A,9Bを介して、ロータ15A,15Bがシリンダ室14A,14B内を回動することにより、所定の圧力に圧縮され、吐出弁(図示省略)を介して吐出チャンバー17A,17B内に吐出される。
【0030】
この吐出チャンバー17A,17B内に吐出された高圧の冷媒ガスは、吐出チャンバー17A,17Bから密閉ハウジング2内に吐き出され、固定子5の外周面と密閉ハウジング2の内周面との間に形成されている冷媒流路21等を経て、電動モータ3の上部空間22内に導かれ、そこから吐出配管23を介して冷凍サイクル側へと循環されるようになっている。なお、密閉ハウジング2内の底部は、油溜りとされており、圧縮機構部4の摺動部分を潤滑するため、所要量の潤滑油が充填されている。
【0031】
上記の如く構成された電動圧縮機1の電動モータ3には、その円筒状回転子6の少なくとも圧縮機構部4側の下端面もしくは上下両端面に回転系のバランスを取るバランスウェイトの機能と、圧縮行程時のガス圧縮トルクの変動に伴う回転子6の角速度変動を低減する回転慣性体としての機能を併せ持つウェイト部材25が設けられている。なお、本実施形態では、回転子6の上下両端面にウェイト部材25を設けたものが示されているが、圧縮機構部4側の下端面のみにウェイト部材25を設けたものとしてもよい。
【0032】
各ウェイト部材25は、外周が回転子6の外径と略同径の円形形状で、両端面が平面状とされたリング形状の質量体とされている。また、回転子6の下端面に設けられるウェイト部材25は、リング形状の内周部位に上部軸受部材10のボス部10Aの上端部が挿入され、該ボス部10Aの外周にオーバーハングして設置されており、電動モータ3と圧縮機構部4とを接近させて設置し、両者間の距離を可及的に詰められるようにしている。
【0033】
上記ウェイト部材25の外端面側には、図2に示されるように、円周上に等間隔で4箇所に所定深さを有する座刳り部26が設けられている。この座刳り部26は、ウェイト部材25を回転子6の両端面にリベット27またはボルト・ナット(図示省略)を介して一体的に固定設置する際、リベット27のカシメ部またはボルト・ナットの頭部が平面状の外端面より外側に突出しないようにするためのものである。
【0034】
また、ウェイト部材25は、該ウェイト部材25を回転子6の角速度変動を低減する回転慣性体として機能させるべく、その重量を回転子6の全重量の少なくとも10%を超える重さとしており、回転子6の重量と、回転子6の全重量の少なくとも10%を超える重さとしたウェイト部材25の重量との合計重量により、ガス圧縮トルクの変動に伴う回転子6の角速度変動を低減するのに必要な重量を確保して所要の慣性力を得ることで、回転子6の角速度変動を低減できるようにしている。
【0035】
さらに、ウェイト部材25は、回転子6の下端面側に設けられるウェイト部材25に対して、回転駆動軸9の偏心軸部9Aと180度対向する方向の偏心位置に2個の打ち抜き穴部28を設ける一方、回転子6の上端面側に設けられるウェイト部材25に対して、回転駆動軸9の偏心軸部9Aと同方向の偏心位置に2個の打ち抜き穴部28を設けることによって、ウェイト部材25を非対称形状とし、穴部28側を軽くすることにより回転系のバランスを取るバランスウェイトとしての機能を併せ持つウェイト部材25としている。
【0036】
また、ウェイト部材25は、厚さ方向に2層の異なる金属材料により構成されたものとされている。つまり、回転子6の両端面と接する端面側の一部が非磁性体25A、外端面側の一部が磁性体25Bとされている。非磁性体25Aとしては、回転子6の端面からの磁束漏れを防止すべく、高比重金属材である黄銅材(真鍮)、ステンレス材、高マンガン鋼等を使用することができ、磁性体25Bとしては、安価な鋳鉄等の鉄系材料を使用することができる。これによって、比較的高価な非磁性体25Aである黄銅材(真鍮)やステンレス材、高マンガン鋼等の使用量を極力減らしつつ、磁束漏れを防止し、所要の重量を確保し得るウェイト部材25を構成している。
【0037】
この場合、磁束漏れを防止する非磁性体25Aの厚さtは、上記高比重金属材料とした場合、回転子6の軸方向厚さ寸法Hに対して、少なくとも5%を超える程度の厚さ寸法tとされる。因みに、この種電動モータ3の回転子6の軸方向厚さ寸法Hは、80〜100mm程度であり、非磁性体25Aの厚さtは、4〜5mm程度とされることになる。
【0038】
以上に説明の構成により、本実施形態によると、以下の作用効果を奏する。
上記した電動圧縮機1において、電動モータ3の固定子巻線8にインバータを介して所要周波数の電流を印加することにより回転子6が回転駆動され、その回転子6に結合されている回転駆動軸9を介して2気筒ロータリ式圧縮機構部4の各ロータ15A,15Bが回動される。これによって、吸入配管20A,20Bおよび吸入ポート16A,16Bを経てシリンダ室14A,14B内に吸込まれた低圧冷媒ガスが圧縮され、吐出チャンバー17A,17Bを介して密閉ハウジング2内に吐き出される。この高圧冷媒ガスは、冷媒流路21等を経て電動モータ3の上部空間22に導かれ、そこから吐出配管23を介して冷凍サイクルへと循環される。
【0039】
この間、回転駆動軸9の回転により発生する回転系のアンバランスモーメントは、電動モータ3の回転子6の両端面に設けられているウェイト部材25がカウンタウェイトとして機能し、静アンバランス量あるいは動アンバランス量を取ることにより、回転系のアンバランス量を低減し、それに起因する振動、騒音を低減することができる。従って、電動圧縮機1における回転系のバランスを取り、電動圧縮機1を低振動化および低騒音化することができる。
【0040】
一方、回転子6の軽量化、小型化等によって回転子自体の重量が軽くなり、回転時の慣性力が小さくなることから、圧縮行程時のガス圧縮トルクの変動に伴う回転子の角速度変動が大きくなる傾向にあり、それが電動圧縮機の効率低下や振動、騒音の増加の要因となっているが、回転子6の少なくとも一端面もしくは両端面に回転慣性体として機能するウェイト部材25を設けることにより、その慣性力で回転子6の角速度変動を抑制し、効率の低下や振動、騒音の増加を抑制することができる。これによって、電動圧縮機1を高効率化し、性能の向上、低振動化、低騒音化を図ることができる。
【0041】
特に、回転子6の少なくとも圧縮機構部4側の端面に設けられる回転慣性体としてのウェイト部材25を、圧縮機構部4を構成する上部軸受部材10のボス部10Aの外周にオーバーハングさせて設け、その外端面を平面状としたリング形状のウェイト部材25としている。このため、回転慣性体としてのウェイト部材25で慣性力を大きくすることによって、圧縮行程時のガス圧縮トルクの変動に伴う回転子6の角速度変動を低減し、電動圧縮機1の性能向上、騒音、振動の低減を図ることができることはもちろんのこと、ウェイト部材25を極力圧縮機構部4側に接近させて設置することより、ウェイト部材25による振れ回りを抑制することができるとともに、ウェイト部材25の回転によって電動圧縮機1内の潤滑油が撹拌され、潤滑油が巻上げられることによる油上がりを低減することができる。
【0042】
従って、電動圧縮機1をより一層高効率化し、性能の向上および低振動化、低騒音化を図ることができると同時に、油上がり量の低減により潤滑に対する信頼性の向上、冷凍サイクル側での熱交換性能の向上を図ることができる。
【0043】
また、本実施形態においては、回転子6の両端面にウェイト部材25が設けられ、各々のウェイト部材25の外端面が平面状とされたリング形状のウェイト部材25とされているため、回転するウェイト部材25の外周面や外端面が電動圧縮機1内の潤滑油や冷媒ガスと接することによる撹拌を抑制し、その撹拌による動力ロスや、潤滑油の巻上げおよびその油と冷媒ガスとの接触、混合の促進による油上がり等を低減することができる。これによって、電動圧縮機1の一層の高効率化、油上がりの低減による潤滑に対する信頼性の向上、冷凍サイクル側での熱交換性能の向上を図ることができる。
【0044】
さらに、上記ウェイト部材25は、その外端面の複数箇所に設けられている座刳り部26でリベット27またはボルト・ナットにより回転子6に対して一体に結合され、リベット27のカシメ部またはボルト・ナットの頭部が座刳り部26に収納可能な構成とされている。このため、回転子6に対してウェイト部材25を座刳り部26でリベット27またはボルト・ナットにより一体に結合し、そのカシメ部またはボルト・ナットの頭部を座刳り部26内に収納することにより、カシメ部またはボルト・ナットの頭部がウェイト部材25の外端面から外側に突出しないようにすることができる。従って、リベット27のカシメ部またはボルト・ナットの頭部による潤滑油や冷媒ガスの撹拌を防止し、油上がりを一層低減することができる。
【0045】
また、本実施形態では、ウェイト部材25を所定の偏心方向位置に穴部28を設けた非対称形状とし、回転慣性体に対しバランスウェイトを兼用化させた構成としている。このため、回転慣性体であるウェイト部材25の所定の偏心方向位置に穴部28を設け、穴部28側の重さを軽くすることにより、ウェイト部材25を回転慣性体のみならず、回転系のバランスを取るバランスウェイトとしても機能させることができる。これにより、一のウェイト部材25に対し突出部等を設けることなく、穴部28を設けるだけで、回転慣性体およびバランスウェイトとしての2つの機能を持たせることができ、各々の効果や上述の効果を享受しながら、構成の簡素化、低コスト化を図ることができる。
【0046】
また、上記ウェイト部材25は、回転子6の端面側の一部が非磁性体25A、その外端面側の一部が磁性体25Bとされている。これにより、回転子6の端面からの磁束漏れを非磁性体25A部分によって防止しながら、ウェイト部材25の一部を磁性体25Bである鉄系等の低コスト材とすることができる。
【0047】
つまり、通常この種のウェイト部材25としては、磁束漏れを防止すべく、高比重金属材である黄銅材(真鍮)やステンレス材等の非磁性体を用いていたが、回転子6の端面側の一部を黄銅材やステンレス材、高マンガン鋼等の非磁性体25Aとし、外端面側の一部を磁性体25Bとすることにより、回転子6の端面からの磁束漏れを防止しつつ、ウェイト部材25の一部を安価な鋳鉄等の鉄系材とすることができるため、ウェイト部材25としての機能を満たすと同時に、低コスト化を図ることができる。
【0048】
この際、ウェイト部材25の非磁性体部分25Aを、回転子6の軸方向厚さHに対し、少なくとも5%を超える厚さ寸法tとしている。このように、ウェイト部材25の非磁性体部分25Aを回転子6の軸方向厚さHの5%以上の厚さ寸法tとすることにより、外端面側の一部を安価な鋳鉄等の磁性体25Bとしながら、十分磁束漏れを防止することができる。従って、ウェイト部材25としての機能を満たすと同時に、低コスト化を図ることができる。
【0049】
さらに、本実施形態においては、ウェイト部材25の重量を、回転子6の全重量の少なくとも10%を超える重さとしている。このため、回転子6の重量と、回転子6の全重量の少なくとも10%を超える重さとしたウェイト部材25の重量との合計重量により、ガス圧縮トルクの変動に伴う回転子6の角速度変動を低減するのに必要な重量を確保して所要の慣性力を得ることで、回転子6の角速度変動を低減することができる。従って、回転子6の角速度変動による効率の低下や振動、騒音を解消し、電動圧縮機1における性能の向上、振動、騒音の低減を図ることができる。
【0050】
なお、本発明は、上記実施形態にかかる発明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。例えば、上記実施形態では、2気筒ロータリ式の電動圧縮機1に適用した例について説明したが、単気筒のロータリ式電動圧縮機あるいはスクロール式電動圧縮機、電動モータ3が密閉ハウジング2内の下方部、圧縮機構部4が密閉ハウジング2内の上方部に設置された形式の各種電動圧縮機、更には電動モータ3を挟んで、上下に2組の圧縮機構部4が設置された形式の電動圧縮機等にも同様に適用できることはもちろんである。
【0051】
また、本発明に係る電動圧縮機1は、R407C、R410A、R32、R1234yf等々の冷媒を用いた冷凍サイクル用の圧縮機に適用できるだけではなく、それらの冷媒に対して適用性を有する冷凍機油を潤滑油としている圧縮機にも同様に適用できることは云うまでもない。
【符号の説明】
【0052】
1 電動圧縮機
3 電動モータ
4 圧縮機構部
5 固定子
6 回転子
9 回転駆動軸
10 上部軸受部材
10A ボス部
11 下部軸受部材
25 ウェイト部材
25A 非磁性体
25B 磁性体
26 座刳り部
27 リベット
28 穴部
図1
図2