(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
環状をなすカッタ本体と、1又は複数の切削インサートとを含み、該切削インサートが、該カッタ本体に設けられた収容部位に配置されて、該カッタ本体の外周面から切れ刃を突出させて固定されてなると共に、該切れ刃の刃先の位置決め調整手段を有するポリゴン加工用工具であって、
前記切削インサートは、棒状をなす基部の少なくとも一端に切れ刃を有するものとされ、 該カッタ本体の前記収容部位は、その内面をガイドとして、該切削インサートを、その基部を介して前記切れ刃の突出方向を前方として前後にスライド可能に形成されており、
該収容部位に配置される該切削インサートは、前記カッタ本体に設けられた第1のネジ穴にねじ込まれる固定用ボルトで固定される構成を有し、
しかも、該切削インサートは、該収容部位に配置された状態において、その端面を除く周囲面の所定部分が押え付けられたときに切削インサート自身を前進させる分力が得られるよう、該所定部分に傾斜状被押え付け面を備えており、該カッタ本体には、それ自身に設けられた第2のネジ穴に位置決め用ボルトがねじ込まれ、そのねじ込み量の加減により、該位置決め用ボルトが前記傾斜状被押え付け面において接触する位置を変化させることで前記刃先の位置を調整可能とした前記位置決め調整手段を備えることを特徴とするポリゴン加工用工具。
前記位置決め用ボルトは頭部付きボルトであり、該頭部付きボルトがねじ込まれ、そのねじ込み量の加減により、その頭部が前記傾斜状被押え付け面において接触する位置を変化させることで前記刃先の位置を調整可能とした前記位置決め調整手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のポリゴン加工用工具。
前記収容部位は、前記カッタ本体の内周面において開口し、該内周面と外周面間において貫通するものとして形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリゴン加工用工具。
前記傾斜状被押え付け面が、前記切削インサートが該収容部位に配置された状態において、該インサートのうち、前記カッタ本体の環状中心側に位置する周囲面の所定部位に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリゴン加工用工具。
前記第2のネジ穴は、前記カッタ本体の正面から、前記位置決め用ボルトのねじ込みができるように設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリゴン加工用工具。
前記カッタ本体に設けられた第1のネジ穴にねじ込まれる固定用ボルトによる前記切削インサートの固定は、切れ刃を構成するすくい面又はその反対側面と同向き面を押え付けることによることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリゴン加工用工具。
【背景技術】
【0002】
ポリゴン加工において、円軸部材等の被削材の外周面を、所望とする多角形に加工する場合には、カッタ本体の外周面(環状外周面)に、通常、その多角形の角数の半分の数(6角形の場合には3、正方形の場合には2)の切削インサート(切れ刃)を等度間隔で配置、固定して構成されるポリゴン加工用工具(以下、加工用工具、又は単に工具ともいう)が用いられる(特許文献1)。この加工においては、旋盤の主軸(スピンドル)に固定された被削材を所定の回転速度(単位時間当たり回転数。rpm)で回転させ、その回転軸と平行配置の別の回転軸(以下、「副軸」という)に取り付けられた加工用工具を、被削材に所定の切り込み量(対辺寸法)が得られる設定で、被削材と同じ回転方向に、被削材の回転速度の2倍の回転速度で回転させながら、被削材に対して相対的に横送り(回転軸が延びる方向(回転軸と平行な軸線方向)への送り)をし、その被削材の外周面を断続切削することで、所望とする多角形が得られる加工であり、一種の旋削加工である。なお、被削材(円軸部材)の対向する外周面を、例えば、2面取り加工をしたい場合には、1つの切削インサート(切れ刃)を取り付けた加工用工具が用いられる。
【0003】
このようなポリゴン加工による多角形加工は、その回転加工法に基づき、多角形の辺をなす部位の高精度の平面は得られないものの、ボルトの頭部のようなスパナかけやドライバのビットといった実用上、高精度でなくとも支障のない軸部材の部分等における多角形加工に広く実用化されており、近時は、自動旋盤(NC自動旋盤、CNC自動旋盤など。以下、旋盤)により、とくにカッタ本体(刃径)を、被削材の径に対し相対的に大径化することなどを含め、加工の高精度化も図られている。一方、このようなポリゴン加工に用いられる加工用工具は、旋盤の副軸に外嵌して取り付けられる円環状などの環状をなすカッタ本体と、これに固定(クランプ)され、被削材における多角形の加工形態(前挽き、後挽き等)に応じた切れ刃を備える切削インサート等から構成される。そして、このような加工用工具は、カッタ本体における正面(加工用工具の相対的な横送りにおける進行方向(切削方向)を向く面(環状面))に、切削インサート(以下、インサートともいう)を固定する凹部等の収容部位を、その本体の外周面に開口させ、そこに固定する切削インサートの固定手段(固定機構)とともに、カッタ本体の外周面から突出させる切れ刃の刃先の位置を調整する機構を備える構成を有しているのが普通である。
【0004】
ここで、その刃先(切れ刃)の位置の調整は、加工用工具が回転するときの刃先が描く外径が加工対象の多角形の対辺寸法の加工精度を左右するため、加工用工具(副軸)の被削材(主軸)に対する縦送り量(切り込み量)の設定と共に、重要である。ポリゴン加工においては、上述したように、例えば、被削材である軸部材の外周面を正6角形に加工する場合においては、通常、3つのインサート(A、B、C)を120度間隔で、カッタ本体に固定し、切れ刃をその外周面から突出させてクランプすることになる。そして、加工したい6角の対辺寸法に合わせ、各切削インサートの刃先が同一位置となるように調整した加工用工具を副軸に取り付け、これを主軸に対して所定量、縦送りし、被削材の回転速度に対し、工具を2倍の回転速度で同方向に回転させ、相対的に工具を横送りすることになる。この場合、その6角を形成する6つの辺の加工は、その外周面回り(6角の外周回り)に、3つのインサート(切れ刃)A、B、Cが、A、B、C、そして、A、B、Cの順で、繰り返し受け持つことになる。結果、対向位置にある、それぞれの対辺関係は、同一の切れ刃(例えば、インサートAとA)による切削となる一方で、対辺関係に無い、他の辺の加工は、相互に異なる切れ刃(インサートBとC)が、それぞれ切削を受け持つ。このため、3つの切削インサートのカッタ本体(副軸)の回転中心から刃先までの寸法(距離)に誤差があると、その誤差が各対辺寸法の加工精度上の誤差となるから、0.1mm単位の加工精度が要求される場合には、各切削インサートの刃先(切れ刃)位置は、0.1mm単位での調整が必要となるなど、要求される精度次第であるが微量(例えば、0.01mm〜0.5mm)単位で、その調整が必要となる。
【0005】
このように、ポリゴン加工においては、その加工に先立ち、その刃先の位置(カッタ本体(副軸)の回転中心からの距離の寸法精度)を如何に小さい誤差で一定のものに、調整、保持できるかが重要となる。 一方、上記した従来の加工用工具においては、切削インサートは、カッタ本体に形成されたポケットに、ロケータを介して配置されており、このロケータをカッタ本体における半径方向にアジャストねじで移動し、その刃先(切れ刃)位置の調整をする構成とされている。そして、切削インサートの固定は、そのような調節後において、すくい面側において、ウエッジを押し込むネジによる固定構造とされている。また、他の公知の工具としては、切削インサートをロケータにネジ止めし、このロケータをカッタ本体のポケットにおいて、アジャストねじで、スライドにより微調整させる構成のものも知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、従来のポリゴン加工用工具においては、その切削インサートの固定を含め、その刃先(切れ刃)位置の調整のための機構、構成として、ロケータやウエッジ等の部材を要するものとなっている。このため、カッタ本体には、それらロケータやウエッジ等の部材の取り付け、収容部位(スペース)が必要となるから、その分、カッタ本体が大きく、大径なものになる。しかも、このようなロケータ等の各部材は、切削インサートの数に応じ、それぞれ必要になるから、数が多い多角形の加工用工具(多刃工具)となるほど、カッタ本体が大径化してしまう。
【0008】
一方、被削材が比較的小径な軸部材のポリゴン加工においては、旋盤も小型のもの(以下、小型旋盤)の使用になるところ、このような小型旋盤では、その副軸に取り付けて回転させる加工用工具の「振りの大きさ」、すなわち使用できる加工用工具の最大外径も大型旋盤におけるそれに比べ小さい。このように、小型旋盤の副軸に取り付けて使用ないし適用できるポリゴン加工用工具の外径(カッタ本体の外径)には、自ずと制約がある。例えば、多くの小型CNC旋盤で使用されるカッタ本体の外径は、φ60mm程度が限界とされている。このような外径のカッタ本体では、副軸への取付穴の存在を考慮すると、半径で20mm程度のスペースしか確保できないから、上記したように、固定にウエッジを要し、ロケータ及びその移動を調整ねじによることで刃先の調整を担わせる機構を適用することは容易でない。とくに、固定する切削インサートの数が複数となるものでは、刃先の位置(刃径)の調整機構を確保しつつ、小径のポリゴン加工用工具となすことは困難である。結果、小径のポリゴン加工用工具で高精度の加工をすることは困難であるといった課題があった。
【0009】
本願発明は、如上の課題に鑑みてなされたもので、切削インサートの刃先の位置決め調整機能を損なうことなく、カッタ本体の小径化及び多刃化の要請に応えることのできるポリゴン加工用工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、環状をなすカッタ本体と、1又は複数の切削インサートとを含み、該切削インサートが、該カッタ本体に設けられた収容部位に配置されて、該カッタ本体の外周面から切れ刃を突出させて固定されてなると共に、該切れ刃の刃先の位置決め調整手段を有するポリゴン加工用工具であって、
前記切削インサートは、棒状をなす基部の少なくとも一端に切れ刃を有するものとされ、 該カッタ本体の前記収容部位は、その内面をガイドとして、該切削インサートを、その基部を介して前記切れ刃の突出方向を前方として前後にスライド可能に形成されており、
該収容部位に配置される該切削インサートは、前記カッタ本体に設けられた第1のネジ穴にねじ込まれる固定用ボルトで固定される構成を有し、
しかも、該切削インサートは、該収容部位に配置された状態において、その端面を除く周囲面の所定部分が押え付けられたときに切削インサート自身を前進させる分力が得られるよう、該所定部分に傾斜状被押え付け面を備えており、該カッタ本体には、それ自身に設けられた第2のネジ穴に位置決め用ボルトがねじ込まれ、そのねじ込み量の加減により、該位置決め用ボルトが前記傾斜状被押え付け面において接触する位置を変化させることで前記刃先の位置を調整可能とした前記位置決め調整手段を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記位置決め用ボルトは頭部付きボルトであり、該頭部付きボルトがねじ込まれ、そのねじ込み量の加減により、その頭部が前記傾斜状被押え付け面において接触する位置を変化させることで前記刃先の位置を調整可能とした前記位置決め調整手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のポリゴン加工用工具である。
請求項3に記載の発明は、前記収容部位は、前記カッタ本体の外周面から内周面に向けて穿孔された空孔であることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載のポリゴン加工用工具である。
請求項4に記載の発明は、前記収容部位は、前記カッタ本体の内周面において開口し、該内周面と外周面間において貫通するものとして形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリゴン加工用工具である。
【0012】
請求項5に記載の発明は、前記傾斜状被押え付け面が、前記切削インサートが該収容部位に配置された状態において、該インサートのうち、前記カッタ本体の環状中心側に位置する周囲面の所定部位に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリゴン加工用工具である。
請求項6に記載の発明は、前記切削インサートは、前記基部の両端に切れ刃を有するものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリゴン加工用工具である。
【0013】
請求項7に記載の発明は、前記第2のネジ穴は、前記カッタ本体の正面から、前記位置決め用ボルトのねじ込みができるように設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリゴン加工用工具である。
請求項8に記載の発明は、前記カッタ本体に設けられた第1のネジ穴にねじ込まれる固定用ボルトによる前記切削インサートの固定は、切れ刃を構成するすくい面又はその反対側面と同向き面を押え付けることによることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリゴン加工用工具である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明では、上記の構成に基づき、インサートの固定、位置決め調整に、固定用ボルト(固定用オネジ部材)と位置決め用ボルト(位置決め用オネジ部材)を用いるだけであり、ロケータ、楔片(ウェッジ)を要していた従来のポリゴン加工用工具に比べ、部品点数が少なく構成されている。このため、カッタ本体に、ロケータ等を収容するスペースを要しないし、インサートの位置決め調整に、位置決め用ボルトのねじ込みにより、インサートに設けられた前記傾斜状被押え付け面を押え付けることによるから、カッタ本体の小径化が図られる。位置決め用ボルトによる前記傾斜状被押え付け面の押え付けは、位置決め用ボルトの先端によるものとしてもよいが、請求項2に記載のように、位置決め用ボルトを頭部付きボルトとし、該頭部付きボルトがねじ込まれ、そのねじ込み量の加減により、その頭部が前記傾斜状被押え付け面において接触する位置を変化させることで刃先の位置を調整可能とした位置決め調整手段を備えることとするのがよい。このような頭部付きボルトは、ねじ軸外径より適度に大きい外径(通常、円形の外径)の頭部を有するボルト(おねじ部材)であり、頭部がさら形状等のさらねじのほか、6角穴付きボルトが例示される。ただし、位置決め用ボルトが頭部の無い全ネジボルト(例えば六角穴付き止めネジ)であれば、前記したように、その先端にて、前記傾斜状被押え付け面を押え付けるようにすればよい。
【0015】
本発明では前記傾斜状被押え付け面をインサートの端面ではなく、周囲面において形成するものとしているから、そこを押え付けるための位置決め用ボルトのねじ込み用の第2のネジ穴は、カッタ本体(環状部)の半径方向においてインサートと縦列配置にならず、その分、カッタ本体の一層の小径化が図られる。すなわち、本発明では、刃先位置の調整に用いられる位置決め用ボルトは、インサートの突出側と反対側(後方)の端面(カッタ本体の環状中心側に位置する端面)において、そのインサートに前進させる分力を付与するような構成でなく、インサートの周囲面においてそのインサートに前進させる分力を付与する構成とされているため、カッタ本体の半径方向における小径化が図られる。結果、刃先の位置(刃径)の調整手段を備えながらも、小径のポリゴン加工用工具となすことができる。なお、インサートにおける基部について、棒状というのは、そのスライド方向において同体勢でスライドさせ得る適度の長さがあればよく、横断面の最大径より短いものも含まれる。
【0016】
本発明のポリゴン加工用工具の使用においては、例えば、旋盤の副軸に取り付けられた状態のカッタ本体において、その固定用ボルトを弛緩(後退)させておき、前記収容部位にインサートを配置し、例えばダイヤルゲージで刃先の位置を確認しながら、刃先を所望とする位置(刃径位置)に調整し、その位置で、位置決め用ボルトが、例えば頭部付きボルトであればその頭部が、前記傾斜状被押え付け面に当接するようにして固定用ボルトをねじ込み、切削インサートを固定すればよいし、位置決め用ボルトが、例えば全ネジボルトであればその先端が前記傾斜状被押え付け面に当接するようにして固定用ボルトをねじ込み、切削インサートを固定すればよい。しかして、このような刃先位置の調整、固定を切削インサートのそれぞれについて行えばよい。
【0017】
なお、前記傾斜状被押え付け面は、位置決め用ボルトで押え付けられることで、切削インサート自身をカッタ本体の外周面から切れ刃の突出方向に前進させ得る分力が得られればよく、摩擦等により、ねじ込みトルク次第では、その前進が得られなくともよい。ねじ込み力によっては、その被押え付け面の傾斜角、収容部とインサートとの摩擦等により前進させ得ないとしても、インサートが後退する位置を調整でき、その位置決めができさえすればよい。なお、傾斜状被押え付け面は、インサートの周囲面(棒状部分の外周面)において、位置決め用ボルト(その頭部や先端)で押え付けられることで、インサートを前進させる分力が得られるよう形成されている後方(カッタ本体の環状中心)を向く傾斜面であればよい。
【0018】
本発明は、ポリゴン加工用工具であるから、そのカッタ本体に設けられる切削インサートの収容部位は、それが複数の場合には、カッタ本体を正面から見ると、その内周面の中心から、通常、等角度間隔(例えば、6角形加工の場合には、120度間隔)の配置で設けられる。そして、その収容部位は、固定される切削インサートが、その切れ刃の突出方向にスライド可能に形成されていればよい。したがって、収容部位は、カッタ本体の正面(環状面)において陥没し、内周面から外周面に向けて延びる凹溝であってもよい。一方、切削インサートの脱落防止や固定の安定性を重視する場合には、その収容部位は、請求項3に記載のように、前記カッタ本体の外周面から内周面に向けて穿孔された空孔とするのがよい。
【0019】
なお、凹溝又は空孔とする場合、その横断面は、配置される切削インサートの横断面(スライド方向に垂直な断面)の形状、大きさに応じ、切削インサートが、その内面をガイドとして切れ刃の突出方向にスライド可能であればよい。インサートの横断面が矩形(横断面が正方形、長方形等の四角の棒状)であれば、それに応じた矩形の凹溝、又は空孔にすればよいし、インサートの横断面が円形であれば、それに応じた横断面の凹溝、又は空孔にすればよい。円形の空孔とすれば、その加工、形成が容易であり、矩形の空孔とすれば、インサートが凹溝内においてその周面回りに回転することを防止できるというメリットが得られる。
【0020】
前記収容部位は、これを凹溝又は空孔とするとしても、カッタ本体の内周面において開口(貫通)するものでなくともよいが、請求項4に記載の発明のように、前記カッタ本体(環状部)の内周面において開口し、該内周面と外周面と間で貫通するものとして形成するのがよい。というのは、このように内周面に貫通させる場合には、その空孔(又は凹溝)の奥(カッタ本体の内周面側)に底(底肉)が無いのであるから、その分、両端面間の長さが同一のインサートを用いる場合には、カッタ本体の半径方向寸法の一層の小径化(小型化)が図られるためである。
【0021】
また、本発明において、前記傾斜状被押え付け面は、位置決め用ボルトの第2のネジ穴へのねじ込みにおいて、それが頭部付きボルトであればその頭部による接触(又は圧接)で、頭部のないボルトであればその先端による接触(又は圧接)で、インサートの後退が止められ(スライド方向の位置決めができ)、或いは、その接触(又は圧接)による押え付けで発生する前進方向の分力による前進が得られればよい。このため、インサートにおいて、前記傾斜状被押え付け面を設ける位置の制限はないが、請求項5に記載の発明のように、前記基部の端又は端寄り部位に形成するのがよい。このようにしておけば、切削インサート自体の形状、構造の小型、単純化、及びそれらに因る低コスト化が図られるためである。同様の理由から、前記傾斜状被押え付け面は、平面とするのがよいが、適度の凸又は凹となす曲面であってもよい。そして、本発明において用いるインサートは、棒状をなす基部の一端に切れ刃を有するものとすることにより、その全長を短くできるから、カッタ本体の小径化の要請に大きく応えられる。ただし、コストの低減のためには、請求項6に記載の発明のように、切れ刃を両端に設けるのがよい。
【0022】
なお、第2のネジ穴は、カッタ本体の背面から位置決め用ボルトのねじ込みができるものとしてもよいが、請求項7に記載の発明のように、カッタ本体の正面から、そのねじ込みができるように設けるのが、ネジ込み作業が容易となり好ましい。また、第1のネジ穴の位置も、固定用ボルトでインサートを押え付けることができさえすればよいので、その位置、穿孔向きの制約はないが、請求項8に記載の発明のように、前記カッタ本体に設けられた第1のネジ穴にねじ込まれる固定用ボルトによるインサートの固定は、切れ刃を構成するすくい面又はその反対側面(底面)と同向き面を押え付けられるように設けるのがよい。本発明において、固定用ボルトは、切削インサートの長さ等の寸法や、切削抵抗等の切削条件に応じ、安定した固定が得られるように、その数(1又は複数)、ネジ径等を設定すればよいが、1本とするのが、カッタ本体の半径方向における省スペース化の観点からは望ましい。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のポリゴン加工用工具を具体化した実施の形態例(第1実施形態例)について、
図1〜
図7を参照しながら詳細に説明する。ただし、本例の加工用工具100は、円環状をなすカッタ本体101と、3つの切削インサート201、そして、この3つのインサートのそれぞれを固定するよう設けられている3つの固定用ボルト301、さらに、インサート201の刃先の位置決め調整用の位置決め用ボルト401から構成されている。本例のポリゴン加工用工具100は、カッタ本体101の正面(
図1参照)102において、同一のインサート201を3個、回転対称(120度)の配置で備える構造のものとされている。このため、カッタ本体101の各部位も、正面視、120度の回転対称の形状を呈している(
図3参照)。そして、主要部品である3つの切削インサート201の他、固定用ボルト301、位置決め用ボルト401も同じものであるから、インサート201の位置決め、固定構造についてはその一箇所に基いて説明する。ただし本例において、位置決め用ボルト401は、頭部付きボルト(以下、頭部付きボルト401)を使用するものとする。
【0025】
カッタ本体101は、所定厚さの円環板から形成されており、本例では、この円環板の中心C1から120度の等角度間隔で、その外周面103から内周面(円環中心C1側の内面)105に向け、インサート201の収容部位として、略半径方向に空孔107が穿孔状に形成されている。そして、この空孔107は、切削インサート201の横断面形状、大きさにあわせ、本例では、横断面が円をベースとして形成されたインサート201を微小隙間で、その外周面103側からスライド状に内挿可能となるように、横断面が円形の空孔(円柱状の空間をなす穴)107とされている。このような空孔107は、カッタ本体101の内周面105に向け貫通していなくともよいが、本例では、同一横断面で開口する貫通穴として形成されている。
【0026】
なお、カッタ本体101の中央(内周面109)は旋盤の副軸(図示せず)に対する取付穴109であり、この取付穴109の正面102側(
図1の紙面手前)の周縁は低位をなし、その取付時のナット締めにおける座面(円形座面)110をなしており、この座面110を包囲する円形の内周面105に上記した空孔107が開口されている。本例において、このようなカッタ本体101は、その取付穴109に背面104側から副軸を内挿、嵌合させ、その副軸の先端においてナット締めすることで副軸に取り付ける設定とされている。なお、本例のカッタ本体101の背面104は平面をなし、正面102は次に述べるように、その外周面103側が120度の等角度間隔で部分的に直角三角形状に切り欠かれ、その切欠き部分112の底面113が平坦面で低位をなしており、この切欠き部分112を除く部分が、その底面113に対し相対的に隆起する厚肉部をなし、空孔107はこの厚肉部において形成されている。
【0027】
そして、本例では、この厚肉部をなし、相対的に薄肉をなす切欠き部分112の底面(平坦面)113から立ち上がる壁面115のうち、そのカッタ本体101の回転方向(
図1中の円弧A1)を向く面に、空孔107の内部に向けて固定用ボルト(本例では六角穴付き止めネジ)301をねじ込ませるため、カッタ本体101を正面102から見たとき、空孔107の軸に略直角の向きに第1のネジ穴121が1か所、貫通、形成されており、ここに所定の固定用ボルト301(止めネジ)がねじ込まれている。すなわち、この第1のネジ穴121は、本例では、空孔107に配置されるインサート201を、その基部(シャンク)203のうち、切れ刃205を構成するすくい面207と同向き面208を、ねじ込まれる固定用ボルト301の先端で押え付けて固定するように形成されている。この第1のネジ穴121は、インサート201の固定ができればよいので、カッタ本体101において設ける位置、向きは、適宜に設定すればよく、したがって、すくい面207と逆向き面(底面)209において基部203を押え付けるように設けてもよい。そして、このような第1のネジ穴121は、本例では、インサート201の長手方向の中間部位の1か所を押えるように設けられているが、インサート201の長さ(端面間の寸法)や要求される固定力に応じ、その長さ方向において、2箇所以上設けてもよい。
【0028】
一方、本例のポリゴン加工用工具100に使用されるインサート201は、
図1、
図4〜
図7等に示したように、横断面円形で棒状をなす基部203(シャンク)のその両端に切れ刃205を有するもの(2コーナタイプ)とされており、その両端の切れ刃205相互間の全長は、これをカッタ本体101の空孔107内に配置、固定したとき、一方の切れ刃205がその外周面103から適量、突出する長さとされている。ただし、各切れ刃205を構成するすくい面207は、基部203において相互に反対側となる面に設けることもできるが、本例では基部203における同向き面に設けられており、したがって、両端の切れ刃205は、前挽き、後挽きの各加工に対応できるように、前切れ刃角、左右の横切れ刃角とも0度とされている。なお、基部203におけるすくい面207と同向き面208は、割円断面でカットされて平面をなし、上述した固定用ボルト301による固定において、その先端(締め付け力)の受圧面とされている。本例では、その固定により、インサート201がその横断面(円)において空孔107内で回転するのが止められる設定とされている。そして、両端のすくい面207はこの平面(同向き面208)より低位をなし、また、このすくい面207の両側は平面でカット(切除)された横逃げ面211をなしており、各切れ刃205とも前逃げ面をなす端面213と、両側の横逃げ面211には適度の逃げ角が付けられている。
【0029】
そして、このインサート201には、これが収容部位である空孔107に配置、固定された状態において、カッタ本体101の中心C1側に位置するインサート201の端面213の近傍における周囲面の所定部分をカッタ本体101の正面102側から押え付けた際に、インサート201が空孔107内をスライドしてその外周面103から突出する方向に押し出される分力が得られるよう、該所定部分に傾斜状被押え付け面225が形成されている。この傾斜状被押え付け面225は、空孔107内に配置、固定された状態にあるインサート201の、カッタ本体101の中心C1側に位置する端面213側ほど、正面102側からの押え込み方向において奥に位置し、次記する頭部付きボルト401の頭部のねじ込みによるその頭部403にて、ここを押え付けることで、その押し出しが得られるよう形成された傾斜面(インサート201の後端向き傾斜面)であればよい。ただし、本例の傾斜状被押え付け面225は、
図7等に示されるように、インサート201の端面213の近傍の底面209における横逃げ面211側において、その押え付けにより、インサート201が、図示上(すくい面207側)と図示右(カッタ本体の外周面103)の双方に傾斜する方向に押される力Fが作用するよう、平面でカット状に形成されている(
図1中の拡大図参照)。これにより、その力Fの2つの分力F1,F2のうちの1つの分力F2にてインサート201が空孔107内においてカッタ本体101の外周面103に押し出されるように設定されている。
【0030】
すなわち、本例の傾斜状被押え付け面225は、カッタ本体101に固定されているインサート201を、正面102側から見たとき、
図1の左側の端面213の近傍において、他方の端面(
図1の右側の端面)から、該端面(
図1の左側の端面)213に近づくほど、カットの幅が広く、しかも、深さが深くなるようカットされている(
図1、
図7等参照)。そして、
図7に示したように、その横断面等(D,E,F)における傾斜角αは、その位置にかかわらず略同じとされ、端面213に近づくほど、底面209におけるカットが大きくなるように形成されている。なお、本例におけるインサート201は両端において同向き面にすくい面207を有する2つの切れ刃205をもつ2コーナタイプのものであるため、その各端面213の近傍に設けられる傾斜状被押え付け面225は、インサート201を底面209から見たとき、回転対称をなすように形成されている(
図7参照)。
【0031】
他方、上記した空孔107にインサート201が配置、固定され、この傾斜状被押え付け面225が位置することになるカッタ本体101の部位(空孔107の奥)の近傍であって、すくい面207と反対側のこの空孔107を避けた箇所には、第2のネジ穴131が、カッタ本体101の正面102から背面104に向けて設けられている。ただし、この第2のネジ穴131は、頭部付きボルト401がカッタ本体101の正面102側からねじ込まれるところである。そして、そのねじ込みによりその頭部403が、空孔107内に配置、固定されるインサート201の上記した傾斜状被押え付け面225に接触して、切削インサート201の切れ刃205の突出量、すなわち、インサート201の空孔107内における前後の位置決めをするため、カッタ本体101の正面102から所定の深さ(カッタ本体101の厚みの中間部位まで)は、その頭部403の外径より大径で穿孔された大径穴部117を有しており、この大径穴部117において空孔107と交差し、両者の空間が連なるものとされている。これにより、第2のネジ穴131は、この大径穴部117の底面119において、その中心からカッタ本体101の背面104に向けて貫通するように形成されている。しかして、本例では頭部付きボルト401のその頭部403がその大径穴部117内に沈み込む沈頭方式で収容され、そのネジ込み加減により、その頭部403が、空孔107内に露出するインサート201における傾斜状被押え付け面225に接触し、又は圧接し、その空孔107内に配置、固定されるインサート201における切れ刃205の突出方向の位置が決められるように形成されている。
【0032】
なお、頭部付きボルト401は、沈頭方式でこの第2のネジ穴131にカッタ本体101の正面102側から適量、ねじ込まれている。この頭部付きボルト401は、通常の六角穴付きボルト(キャップボルト)など、適宜のものを用いることができるが、本例ではトルクス(登録商標)皿頭ボルトを使用している。このため、その頭部403の外周面405とその先端面(テーパ面)407とのなすコーナが、傾斜状被押え付け面225に接触するよう設定されている(
図4〜
図6参照)。本例では、この傾斜状被押え付け面225が、その頭部403で押え付けられることで、切削インサート201自身をカッタ本体101の外周面103から切れ刃205の突出方向に前進させる分力F2が得られる構成とされている。頭部付きボルト401のねじ込みにおいては、ねじ込み力(トルク)や空孔107の内周面105とインサート201との摩擦等にもよるが、その頭部403による傾斜状被押え付け面225の押え付けで、インサート201の前進が得られるよう、その傾斜の角度が設定されるのがよいが、摩擦等により前進が得られないとしても、インサート201の後退が停止されるだけでもよい。
【0033】
かくして、空孔107に挿入配置した各インサート201の一方の切れ刃205をカッタ本体101の外周面103から突出させて、刃先206の位置(カッタ本体101の中心C1から刃先206までの寸法)を調整する際において、切れ刃205の突出量を減少したいときは、固定用ボルト301の締め付けを解除し、そして頭部付きボルト401のねじ込み量を減らすようにそれを後退(螺退)させて、インサート201を空孔107の奥に押し込み、所定位置においてその傾斜状被押え付け面225に頭部403が当接するようにした後、固定用ボルト301を締め付ければよい。逆に、切れ刃205の突出量を増やしたいときは、頭部付きボルト401のねじ込み量が大きくなるように、要すれば、固定用ボルト301を緩め、頭部付きボルト401のねじ込みを増やし(螺進)、所定の突出量となったら、固定用ボルト301を締め付ければよい。このとき、頭部付きボルト401のねじ込みによる分力でインサート201の前進が得られない場合には、インサート201に、カッタ本体101の外周面103から引き出す力を付与しつつ、刃先206の位置を決め、固定用ボルト301を締め付ければよい。なお、第2のネジ穴131はカッタ本体101の背面104からあけられる構造としてもよいが、本例では、カッタ本体101の正面102からあけられているため、固定用ボルト301のねじ込み作業を簡易に行うことができる。
【0034】
このように本例では、インサート201のカッタ本体101の収容部位(空孔107)に対する固定、そして刃先206位置の調整のための機構として、カッタ本体101には2種類のネジ穴(第1のネジ穴121、第2のネジ穴131)を設ける必要がある一方、別部品としては、2種類のボルト(固定用ボルト301、位置決め用ボルト(頭部付きボルト)401)を要するだけであり、従来のポリゴン加工用工具100のように、固定に楔片(ウエッジ)を要したり、位置決めにロケータを要することがない。よって、その分、省スペース化によるカッタ本体101の小径化が図られるから、複数刃を設ける小径のポリゴン加工用工具100においても、刃径(刃先206位置)の調整機構を備えさせることができる。しかも、傾斜状被押え付け面225をインサート201の端面213ではなく、周囲面において形成するものとしているから、そこを押え付けるための頭部付きボルト401のねじ込み用の第2のネジ穴131は、カッタ本体101の半径方向においてインサート201と縦列配置にならないから、カッタ本体101の一層の小径化が図られる。結果、小型旋盤のように、小径のカッタ本体101の使用が要請されるポリゴン加工用工具100においても高精度の多角形加工を実現できる。
【0035】
また、本例では収容部位をカッタ本体101における外周面103から内周面105に向けて穿孔状に形成してなる空孔107としているため、インサート201の安定した固定が得られる。また、本例では、空孔107を横断面円形としたため、インサート201(基部203)の横断面もこれにあわせて円形をベースとしたものとしたが、これらは、いずれも例えば、正方形や長方形などの多角形とすることもできる。このようにすれば、空孔107内におけるインサート201の回転を防止できるため、切れ刃205の向きの調整が簡易となる。
【0036】
そして、本例の加工用工具100では、カッタ本体101における収容部位をなす空孔107をその外周面103から穿孔し、奥(カッタ本体101の内周面105側)において底のある有底の空孔107とせず、内周面105において開口する貫通穴としているため、その底(底肉)を設けていない分、インサート201をカッタ本体101の中心C1側に奥深く挿入、配置できる。これにより、同一全長(端部間長さ)のインサート201を用いる場合、カッタ本体101の外径を一層小さくできる。また、本例では、両端に切れ刃205を有するインサート201を用いているため、工具の低コスト化が図られるが、片方の端にのみ切れ刃205を設けてその全長の短小化を図ることとすれば、カッタ本体101、ひいてはポリゴン加工用工具100のさらなる小径化が図られる。
【0037】
本例において傾斜状被押え付け面225は、切削インサート201自体が収容部位(空孔107)に配置された状態において、インサート201におけるカッタ本体101の環状の中心C1側に位置する端又は端寄り部位に形成されているが、この傾斜状被押え付け面225は、頭部付きボルト401の第2のネジ穴131へのねじ込みにより、インサート201の切れ刃205の位置決め、調整ができればよいので、カッタ本体101に第2のネジ穴131を形成できる位置に対応するものであれば、インサート201の両端間の中間部位に設けてもよい。ただし、このような中間部位に設ける場合には、インサート201の中間部位に括れ、ないし小径部が存在し、応力集中によるインサートの強度低下を招いたり、形状が複雑化するのに対し、本例のように端寄り部位に設ける場合には、かかる問題もなく、傾斜状被押え付け面225自体の形成及びインサート201自体の製造、加工も容易となる。
【0038】
上記例(第1実施形態例)では、刃先206の位置決め調整手段を構成する位置決め用ボルトに頭部付きボルト401を用い、それの第2のネジ穴131へのねじ込みにより、その頭部403がインサート201の傾斜状被押え付け面225に接触(又は圧接)するものとしたが、位置決め用ボルトに、
図8に示した別例のように、頭部の無い例えば六角穴付き止めネジ(ボルト)421を用い、その先端427が傾斜状被押え付け面225に接触するものとしてもよい。すなわち、
図8に示した別例は、
図5におけるネジ穴131に代えて、カッタ本体101の正面102のうち、インサート201の傾斜状被押え付け面225に対応する部位に、背面104に向けて、六角穴付き止めネジ421をねじ込むための第2のネジ穴141を例えば貫通状に設け、この第2のネジ穴141に、六角穴付き止めネジ421をねじ込み、上記例における頭部付きボルト401の頭部403の外周面405とその先端面(テーパ面)407とのなすコーナに代え、その六角穴付き止めネジ421の先端427の一側寄り部位(先端面と外周面との角又は先端寄り部位)が、傾斜状被押え付け面225に接触するものとしてもよい。すなわち、六角穴付き止めネジ(ボルト)421の第2のネジ穴141へのねじ込み量の加減により、その先端427又は先端寄り部位が傾斜状被押え付け面225において接触する位置を変化させることで、刃先206の位置を調整可能としたものである。なお、このようなネジ穴141は、必要なねじ込み量が確保できればよいので、所定深さのネジ穴としてもよい。
【0039】
なお、傾斜状被押え付け面225は、
図9に示したように、上記例における位置決め用ボルトのねじ込み方向とするような場合では、インサート202の横逃げ面211における底面209寄り部位において、端面213に向けて片勾配で低位となる傾斜面としておいてもよい。所定部分が、頭部付きボルト401の頭部403、又は前記したような頭部の無い例えば六角穴付き止めネジ(ボルト)421の先端427又はその近傍で押え付けられることによって切削インサート202自身を前進させる分力が得られものであればよいためである。なお、
図9のインサート202は、次に説明するような基部203の横断面が四角のものにおいて例示している。そして、このような傾斜状被押え付け面225とする場合にも、これをその端面寄り部位に設ける場合とするだけでなく、両端の中間部位に設けることもできる。
【0040】
さて次に、本発明を具体化したポリゴン加工用工具500の別例について、
図10〜
図13に基いて説明する。ただし、上記例(第1実施形態例)におけるカッタ本体101におけるインサート202の収容部位が、その外周面103から内周面105に向けて貫通するように形成された横断面円形の空孔107であり、インサート202がこの空孔107に内挿状態で配置される丸棒をベースとしたものであったのに対し、この別例(以下、本例)では、収容部位が、カッタ本体101の正面102においても開口され、その略半径方向に、横断面矩形の凹溝108で延びるものであり、インサート202がこの凹溝108に内嵌状態で配置される四角の棒材をベースとしたものである点のみが相違するだけである。したがって、以下、この相違点、及びそれに基づく作用、効果を中心として説明し、上記例におけるものと同一部位には同一の符号を付し、適宜、その説明を省略する。
【0041】
図示のように、本例では、収容部位が、カッタ本体101の正面102において開口され、その内周面105と外周面103との間で、自身の両端を開口する横断面(溝幅、深さ)が一定の矩形の凹溝108を呈している。ただし、この凹溝108の溝底108bは、カッタ本体101における旋盤の副軸に対する取付穴109の正面102側のナット締めにおける座面(円形座面)110と同レベルとされている。一方、インサート202は、この凹溝108に微小な隙間で内嵌され得る横断面が四角(長方形)の棒材をベースとされ、両端の切れ刃205を含め基部(シャンク)203とも、横断面が四角をなしている点において相違するが、上記例におけるインサート201と同様、左右両端に切れ刃205を備え、すくい面207は基部203より低位をなし、すくい面207の両側(横切れ刃205)は平面でカット(切除)された横逃げ面211を有している。このようなインサート202は、その凹溝108に内嵌状態で配置された際に、カッタ本体101の内周面105と外周面103との間においてスライドできる。
【0042】
本例では、第1のネジ穴121及び固定用ボルト301のねじ込み構造は、上記例と同様であるが、そのインサート202の形状に基づき、第2のネジ穴131にねじ込まれる位置決め用ボルトである頭部付きボルト401にて押し付けられる傾斜状被押え付け面225も、インサート202の横断面が矩形である点を除けば、同様のものとして形成されている。一方、第2のネジ穴131も上記例におけるものと同様に形成されているが、本例におけるインサート202の収容部位が、カッタ本体101の正面102に開口する凹溝108のため、頭部付きボルト401の頭部403を沈み込ませる大径穴部117は、その凹溝108の溝壁108wを切り込む形で設けられている。これにより、凹溝108に配置したインサート202は、カッタ本体101の正面102において視認できると共に、固定用ボルト301によるインサート202の押えつけ状態、及び頭部付きボルト401の第2のネジ穴131へのねじ込みにおけるその頭部403が傾斜状被押え付け面225を押え付けるのも視認可能となっている。
【0043】
このような本例のポリゴン加工用工具500においては、そのカッタ本体101におけるインサート202の収容部位の構造(凹溝108構造)に基づき、カッタ本体101の正面102からインサート202をその収容部位に配置できるため、その着脱が容易である。そして、インサート202はその配置によって、すくい面207の向きが定まる。さらに、前記したように、そのインサート202、及び固定用ボルト301によるインサート202の押えつけ状態、及び頭部付きボルト401の第2のネジ穴131へのねじ込みにおいて、その頭部403が傾斜状被押え付け面225を押え付けるのも、作業者において視認できるため、刃先206の位置の調整作業の簡易化が図られる。
【0044】
なお、本例、及びインサート202を空孔107に内挿して配置するものとした前記例(
図1)も含め、頭部付きボルト401をねじ込むための第2のネジ穴131の形成箇所を、カッタ本体101の正面102において、傾斜状被押え付け面225が外部からより視認し易いように、大径穴部117よりも大きく、例えば、
図14に示したように切り欠いた切欠き部118としておき、その底面に第2のネジ穴131を形成してもよい。
【0045】
そして、
図10〜
図13に示したカッタ本体101におけるインサート202の収容部位108の構造、すなわち、収容部位108がカッタ本体101の正面102に開口する凹溝構造のものにおいても、位置決め用ボルトには、頭部付きボルト401ではなく、
図8に示したのと同様の頭部の無い例えば六角穴付き止めネジ(ボルト)421を用いることとして、その先端427又はその近傍で傾斜状被押え付け面225を押え付け得るようにしてもよい。すなわち、
図15に示したように、例えば、
図10〜
図13に示したカッタ本体101において設けられていた第2のネジ穴131と同心で、頭部付きボルト401の頭部403を外径(ネジ径)とする六角穴付き止めネジ(ボルト)421をねじ込み可能の第2のネジ穴141を設けておき、ここにその六角穴付き止めネジ(ボルト)421をねじ込み、その先端427の一側寄り部位が、傾斜状被押え付け面225に接触するものとしてもよい。なお、
図15に示したように、その六角穴付き止めネジ(ボルト)421をカッタ本体101における正面102側からねじ込む場合には、そのネジ穴141は、凹溝108の溝壁108wを一部切り込む形となり、周方向において一部ネジが欠けた有端のネジ穴となるため、一部ネジのかかりのないねじ込み状態となる。このため、
図15に示したねじ込み構造では、そのねじ込みに支障が出ない範囲で、ネジ穴141が溝壁108wを切り込むように設定する。なお、このようにインサート202の収容部位108を凹溝構造とし、かつ頭部の無いボルトを用いて位置決め用ボルトとする場合には、カッタ本体101における背面104側から、それをねじ込むことで、インサートの位置決めができるように、インサート202における傾斜状被押え付け面225の向きを凹溝108の溝底108bを向くようにしておくとよい。このようにしておけば第2のネジ穴141は、周方向におけるネジの欠けを無くすことができるためである。
【0046】
本発明のポリゴン加工用工具をなすカッタ本体の形状、構造は、上記例におけるものに限定されるものではなく、固定するインサートの数や、その収容部位の構造、さらに、第1のネジ穴、第2のネジ穴の形成位置、穿孔向き等も含め、適宜に変更して具体化できる。また、インサートも加工形態に応じ、適宜の切れ刃を持つものとして、そして、基部を含むその横断面形状についても種々、変更して具体化できるし、その傾斜状被押え付け面を設ける所定部位、及びその傾斜状態も各種のものとして具体化できる。このように、本発明は上記したものに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において適宜のものに変更して具体化できる。