(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池用電解質シート用のグリーンシートの製造方法、固体酸化物形燃料電池用の電解質シートの製造方法、及び、固体酸化物形燃料電池の製造方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
固体酸化物形燃料電池用の電解質シートの製造方法であって、前記固体酸化物形燃料電池は、前記電解質シートと、前記電解質シートの第1の主面上に配置された燃料極層と、前記電解質シートの第2の主面上に配置された空気極層とを含むものであり、
前記製造方法は、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法により得られたグリーンシートを準備する工程と、
前記グリーンシートを所定の温度で焼成することによって前記電解質シートを得る工程と、
を含む、固体酸化物形燃料電池用の電解質シートの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおり、ESCの製造に用いられる電解質シート用のグリーンシートの製造には、通常、原料スラリーを塗工する際にドクターブレード法が用いられる。しかし、ドクターブレード法による塗工は、塗工膜の厚さを所定の厚さに調整する際のスラリーロスが多い。このドクターブレード法におけるスラリーロスについて、以下に具体的に説明する。
【0007】
ドクターブレード法による塗工では、塗工開始時の塗工膜の膜厚調整は、スラリーダムから原料スラリーを継続して流し、5〜20m程度の長さを有する乾燥ゾーンから出てきたグリーンテープで膜厚を測定するため、その間(塗工開始からグリーンテープが乾燥ゾーンから出てくるまでの間、さらに、乾燥ゾーンから出てきたグリーンテープの膜厚測定が完了するまでの間)に製造されたグリーンテープ分の原料スラリーはロスとなる。さらに、膜厚測定の結果、グリーンテープの膜厚が所定の範囲に入っていない場合は装置の調整等が必要になるため、このような膜厚調整が繰り返し行われれば原料スラリーのロスがさらに増えることになる。また、ドクターブレード法による塗工では、塗工膜が塗工される基材の塗工時の流れ方向を塗工方向、塗工方向に垂直な方向を塗工幅方向と定義した場合、塗工幅方向における塗工膜の両端部に所定の膜厚よりも薄い部分が含まれることが多く、このような両端部の膜厚が膜厚条件を満たさないグリーンテープも使用できずにロスとなっていた。
【0008】
ドクターブレード法による塗工は、上記のようなグリーンテープのロス(そのグリーンテープ分の原料スラリーのロス)が、直行率の低下を引き起こす原因であった。なお、ここでの直行率とは、仕込み原料の質量に対する、得られたグリーンシートの合計質量の割合のことであり、当該グリーンシートは、膜厚が所定の範囲を満たすグリーンテープから打抜き切り出されることによって得られたものである。また、このような直行率の低下は、原料粉末が高価である場合に、製造コストを上昇させる原因ともなっていた。
【0009】
なお、ロスとなったグリーンテープを回収し、回収されたグリーンテープを原料にリサイクルし、そのリサイクル品である原料に再び溶剤を加えて再利用することも実施されている。しかしリサイクル品である原料は、一度グリーンテープに形成されたものであるため、リサイクル品ではない新しい原料と比較して物性等が異なる。そのため、リサイクル品をグリーンテープの原料として用いる場合、原料の物性の違いが製造されるグリーンテープの物性にも影響を及ぼすため、物性コントロールが難しいといった課題が生じる。
【0010】
そこで、本発明は、SOFC用電解質シート用のグリーンシートの製造において、従来の製造方法に対し直行率を向上させることが可能な新規な製造方法を提供することを目的とする。また、本発明はさらに、そのような新規なグリーンシートの製造方法によって得られたグリーンシートを利用した、SOFC用の電解質シートの製造方法及びSOFCの製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、SOFC用電解質シート用のグリーンシートを製造する方法であって、
前記電解質シートを構成する固体電解質材料の原料粉末及び溶剤を含む原料スラリーを、ダイコート法にて基材上に間欠塗工して、所定の形状を有し、かつ厚さが50〜250μmの範囲内であるグリーンシートを得る、
SOFC用電解質シート用のグリーンシートの製造方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、SOFC用の電解質シートの製造方法であって、前記SOFCは、前記電解質シートと、前記電解質シートの第1の主面上に配置された燃料極層と、前記電解質シートの第2の主面上に配置された空気極層とを含むものであり、
前記製造方法は、
上記本発明のSOFC用電解質シート用のグリーンシートの製造方法により得られたグリーンシートを準備する工程と、
前記グリーンシートを所定の温度で焼成することによって前記電解質シートを得る工程と、
を含む、SOFC用の電解質シートの製造方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、
上記本発明のSOFC用の電解質シートの製造方法により得られた電解質シートを準備する工程と、
前記電解質シートの第1の主面上に燃料極層を形成する工程と、
前記電解質シートの第2の主面上に空気極層を形成する工程と、
を含む、SOFCの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のSOFC用電解質シート用のグリーンシートの製造方法によれば、従来の製造方法に対し直行率を向上させることができる。また、本発明のSOFC用の電解質シートの製造方法及びSOFCの製造方法は、そのような直行率向上を実現できる製造方法で得られたグリーンシートを利用しているので、製造コストを低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態1)
本発明のSOFC用電解質シート用のグリーンシートの製造方法の一実施形態について説明する。
【0017】
本実施形態のSOFC用電解質シート用のグリーンシートの製造方法(以下、「グリーンシートの製造方法」と記載する。)では、電解質シートを構成する固体電解質材料の原料粉末と、溶剤とを含む原料スラリーを、ダイコート法にて基材上に間欠塗工して、所定の形状を有し、かつ厚さが50〜250μmの範囲内であるグリーンシートを得る。
【0018】
本実施形態のグリーンシートの製造方法は、原料スラリーの塗工に、従来のドクターブレード法ではなく、ダイコート法による間欠塗工方式を採用している。このような間欠塗工方式を採用することにより、グリーンシートの膜厚調整において、塗工開始時から所定の膜厚を得ることができる。また、間欠塗工方式により形成される塗工膜は、塗工幅方向の全体に渡って(中央部から両端部まで)膜厚を安定して制御することができ、さらに、塗工方向における塗工膜の先端部(塗工開始部)及び末端部(塗工終端部)でも均一した膜厚を実現できる。したがって、本実施形態のグリーンシートの製造方法は、グリーンシートのロスを従来の製造方法よりも低減することができ、その結果、直行率を向上させることができる。ここで、本発明のグリーンシートの製造方法における直行率とは、仕込み原料の質量に対する、得られたSOFC用電解質シート用のグリーンシートの合計質量の割合のことであり、当該SOFC用電解質シート用のグリーンシートは、間欠塗工によって得られたグリーンシートにおいて膜厚が所定の範囲を満たす領域から、所定のサイズで切り出されることによって得られたものである。また、間欠塗工方式における塗工方向とは、塗工膜が塗工される基材の塗工時の流れ方向のことであり、塗工幅方向とは塗工方向に垂直な方向である。
【0019】
なお、従来、SOFCに関しては、間欠塗工方式は予め作製された電解質膜上に触媒インクを塗工する等の、非常に薄い(50μm未満の)厚さの膜を塗工する目的で使用されることはあっても、SOFCのセル強度を担うためにある程度の厚さが要求されるESC用の電解質シートの作製には用いられていなかった。このような事実に対し、本発明者は、鋭意検討の末、間欠塗工方式によって厚さが50〜250μmの範囲内のESCの電解質シート用のグリーンシートを、直行率を向上させつつ製造できることを見出し、本実施形態のグリーンシートの製造方法に到達した。
【0020】
本実施形態のグリーンシートの製造方法では、厚さが50〜250μmの範囲内であるグリーンシートを製造できる。また、本実施形態のグリーンシートの製造方法は、上記の厚さ範囲のうち、例えば100μm以上、あるいは150μm以上のより厚い範囲を有するグリーンシートも、高い直行率を維持しつつ製造できる。
【0021】
以下に、本実施形態のグリーンシートの製造方法についてより詳しく説明する。
【0022】
本実施形態のグリーンシートの製造方法では、まず原料スラリーが準備される。原料スラリーは、製造しようとする電解質シートを構成する固体電解質材料の原料粉末と、溶剤とを混合することによって作製できる。
【0023】
原料粉末としては、SOFC用電解質シートの固体電解質材料(電解質成分)として用いられる公知の材料の中から適宜選択できる。例えば、イットリア、セリア、スカンジア、イッテルビア等で安定化されたジルコニア(ジルコニア系材料);イットリア、サマリア、ガドリニア等でドープされたセリア;ランタンガレート、及びランタンガレートのランタン又はガリウムの一部がストロンチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、コバルト、鉄、ニッケル、銅等で置換されたランタンガレート型ペロブスカイト構造酸化物、等を使用することができる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ジルコニア系材料が望ましい。
【0024】
溶剤の種類は、特には限定されず、SOFC用電解質シート用のグリーンシートを製造する際に用いられる、原料スラリーの溶剤として公知のものを適宜使用できる。例えば、水;エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール、1−ヘキサノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類、等の中から適宜選択した溶剤を、単独で使用してもよいし、2種以上を適宜混合して混合溶剤として使用してもよい。
【0025】
上述のとおり、原料スラリーの塗工を間欠塗工方式にて実施することにより、従来のドクターブレード法を用いる場合よりも、塗工方向における塗工膜の先端部及び末端部の優れた膜厚均一性、並びに、塗工幅方向における塗工膜の優れた膜厚均一性を実現することができる。しかし、膜厚均一性のさらなる向上を目的として、本発明者が鋭意検討を行った結果、溶剤の適切な選択により、膜厚均一性がさらに向上したグリーンシートを製造できることが見出された。具体的には、蒸発速度が遅い溶剤を選択することが適切である。より詳しくは、原料スラリーに含まれる溶剤の蒸発速度指数が206〜350、好ましくは206〜330、より好ましくは206〜310の範囲内となるように溶剤を選択することが好ましい。ここで、「蒸発速度指数」とは、酢酸ブチルの蒸発速度を100とした時の酢酸ブチルに対する溶剤の蒸発速度比である。また、「原料スラリーに含まれる溶剤の蒸発速度指数」とは、溶剤が1つの組成からなる場合は当該1つの組成の蒸発速度指数のことであり、溶剤が複数の組成を含む混合溶剤である場合は当該複数の組成の組成質量比に対する蒸発速度指数の和のことである。
【0026】
また、膜厚均一性のさらなる向上を実現するための別の手段として、本発明者は、原料スラリーの粘度を適切な範囲とすることも見出した。具体的には、原料スラリーの粘度を1500〜2500mPa・sの範囲内に調整することである。原料スラリーの粘度は、溶剤の使用量の調整により調整可能である。
【0027】
以上のように、原料スラリーに用いられる溶剤の種類、及び/又は、原料スラリーの粘度を適切な範囲内に調整することにより、グリーンシートの塗工方向における塗工膜の先端部及び末端部の優れた膜厚均一性、並びに、塗工幅方向における塗工膜の優れた膜厚均一性を実現することができるので、直行率をさらに向上させることができる。
【0028】
原料スラリーは、バインダー成分をさらに含んでいてもよい。バインダーの種類は、特には限定されず、SOFC用電解質シート用のグリーンシートを製造する際に用いられる公知のバインダーを適宜使用できる。例えば、エチレン系共重合体、スチレン系共重合体、アクリレート系及びメタクリレート系共重合体、酢酸ビニル系共重合体、マレイン酸系共重合体、ビニルアセタール系樹脂、ビニルホルマール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ビニルアルコール系樹脂、エチルセルロース等のセルロース類及びワックス類等が例示される。
【0029】
原料スラリーには、必要に応じて、分散剤、可塑剤、潤滑剤、界面活性剤及び/又は消泡剤等が添加されてもよい。例えば分散剤は、セラミック原料粉末の解膠や分散を促進するために添加される。分散剤としては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウム等の高分子電解質;クエン酸、酒石酸等の有機酸;イソブチレン又はスチレンと無水マレイン酸との共重合体及びそのアンモニウム塩あるいはアミン塩;ブタジエンと無水マレイン酸との共重合体及びそのアンモニウム塩、等が例示される。例えば可塑剤は、グリーンシートに柔軟性を付与するために添加される。可塑剤としては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル等のフタル酸エステル類;フタル酸ポリエステル類;プロピレングリコール等のグリコール類;グリコールエーテル類、等が例示される。
【0030】
原料粉末及び溶剤、さらに必要に応じてバインダー等の他の成分を混合して、原料スラリーを作製する。
【0031】
次に、得られた原料スラリーを、ダイコート法による間欠塗工方式により基材上に間欠塗工して、所定の形状を有する塗工膜を形成する。塗工膜の厚さは、例えば150μm〜1mmの範囲内とする。また、塗工膜の形状は、特には限定されず、製造目的の電解質シートの形状等を考慮して適宜選択すればよい。また、基材の種類は、特には限定されず、SOFC用電解質シート用のグリーンシートを作製する際に、原料スラリーの塗工用の基材として用いられる公知の基材を適宜選択して用いることができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の高分子フィルムが、基材として好適に用いられる。
【0032】
本実施形態における原料スラリーの間欠塗工に用いられる装置には、所定の形状及び所定の厚さを有する塗工膜を間欠塗工できる装置であれば制限なく使用できる。例えばロールtoロール方式で一方向に走行する基材上に、塗工ノズルから原料スラリーを間欠的に吐出して、所定の形状及び所定の厚さを有する塗工膜を塗工できる装置等が使用できる。
【0033】
基材上に間欠塗工された塗工膜を乾燥させて、当該塗工膜に含まれる溶剤を揮発除去することにより、所定の形状を有するグリーンシートを得ることができる。このような方法で製造されたグリーンシートは、塗工方向における先端部及び末端部、並びに塗工幅方向の全体に渡って、従来の製造方法で得られるグリーンシートよりも優れた膜厚均一性を有する。また、本実施形態のグリーンシートの製造方法では、上述のとおり直行率が向上するので、グリーンシートの製造に用いられるリサイクル品の原料の割合を低減でき、その結果、グリーンシートの物性のコントロールが容易になる。したがって、本実施形態のグリーンシートの製造方法で製造されるグリーンシートによれば、物性が安定した電解質シートの製造が可能となる。
【0034】
(実施形態2)
本発明のSOFC用の電解質シートの製造方法の一実施形態について説明する。
【0035】
本実施形態の製造方法は、SOFC用の電解質シートを製造する方法である。この電解質シートが用いられるSOFCは、電解質シートと、電解質シートの第1の主面上に配置された燃料極層と、電解質シートの第2の主面上に配置された空気極層とを含む構成を有する。本実施形態の製造方法は、
実施形態1で説明したグリーンシートの製造方法により得られたグリーンシートを準備する工程と、
前記グリーンシートを所定の温度で焼成することによって前記電解質シートを得る工程と、
を含む。
【0036】
本実施形態の電解質シートの製造方法は、実施形態1で説明したグリーンシートの製造方法により得られたグリーンシートを用いることを特徴としている。したがって、グリーンシートを焼成して電解質シートを得る工程には、SOFC用の電解質シートの公知の製造方法において実施されている焼成工程を適宜選択して適用することができる。例えば、電解質シート用のグリーンシートを、棚板上の多孔質セッター上に載置する。棚板上に、多孔質セッターと、上記のように作製された電解質シート用のグリーンシートとを、最下層及び最上層に多孔質セッターが配置されるように交互に積み重ねて、多孔質セッターとグリーンシートとからなる積層体を配置してもよい。例えばこのように配置されたグリーンシートを、用いられている原料に応じて適切な温度条件及び時間条件を選択して、目的とする結晶構造を有する焼結体が得られるように加熱焼成することにより、電解質シートを得ることができる。
【0037】
本実施形態のSOFC用の電解質シートの製造方法は、直行率向上を実現できる実施形態1の製造方法で得られたグリーンシートを利用しているので、製造コストを低減できる。また、実施形態1のグリーンシートの製造方法では直行率が向上するので、グリーンシートの製造に用いられるリサイクル品の原料の割合を低減できる。したがって、実施形態1の製造方法によって得られたグリーンシートは物性が安定しており、その結果、本実施形態のSOFC用の電解質シートの製造方法によれば、物性が安定した電解質シートを製造できる。
【0038】
(実施形態3)
本発明のSOFCの製造方法の一実施形態について説明する。
【0039】
本実施形態のSOFCの製造方法は、
実施形態2で説明した電解質シートの製造方法により得られた電解質シートを準備する工程と、
前記電解質シートの第1の主面上に燃料極層を形成する工程と、
前記電解質シートの第2の主面上に空気極層を形成する工程と、
を含む。
【0040】
本実施形態のSOFCの製造方法は、実施形態2で説明した電解質シートの製造方法により得られた電解質シートを用いることを特徴としている。したがって、電解質シートの第1の主面上に燃料極層を形成する工程、及び、電解質シートの第2の主面上に空気極層を形成する工程には、SOFCの公知の製造方法にて実施されている燃料極層を形成する工程及び空気極層を形成する工程を、それぞれ適宜選択して適用することができる。例えば、燃料極層を形成する工程では、燃料極層を構成する材料の粉体に、バインダー及び溶剤を添加し、さらに必要に応じて分散剤等を添加してスラリーを調製する。このスラリーを、電解質シートの第1の主面上に例えばスクリーン印刷によって所定の厚さで塗布し、その塗膜を乾燥させることによって、燃料極層用グリーン層を形成する。次にこの燃料極層用グリーン層を焼成することによって、燃料極層を形成できる。空気極層を形成する工程では、例えば、空気極層を構成する材料の粉体に、バインダー及び溶剤を添加し、さらに必要に応じて分散剤等を添加してスラリーを調製する。このスラリーを、電解質シートの第2の主面上に例えばスクリーン印刷によって所定の厚さで塗布し、その塗膜を乾燥させることによって、空気極層用グリーン層を形成する。次にこの空気極層用グリーン層を焼成することによって、空気極層を形成できる。燃料極層用グリーン層及び空気極層用グリーン層の焼成温度等の焼成条件は、燃料極層及び空気極層に用いられるそれぞれの材料の種類等に応じて、適宜決定すればよい。燃料極層及び空気極層を構成する材料には、公知のSOFCの燃料極層及び空気極層に用いられる材料を、それぞれ用いることができる。また、燃料極層用のスラリー及び空気極層用のスラリーの作製に用いられるバインダー及び溶媒等の種類には特に制限がなく、SOFCの燃料極層及び空気極層の製造方法で公知となっているバインダー及び溶剤等の中から適宜選択できる。
【0041】
ここで、燃料極層及び空気極層の形成の順序は、特に制限されない。しかし、必要な焼成温度がより低い電極を先に電解質シート上に成膜して、その後焼成してもよいし、或いは、燃料極層と空気極層とを同時に焼成してもよい。また、電解質と空気極との固相反応による高抵抗成分が生成するのを防止するために、電解質シートと空気極層との間にバリア層としての中間層を形成してもよい。この場合は、中間層を形成した面又は形成すべき面とは逆の面上に燃料極層を形成し、中間層の上に空気極層を形成する。ここで、中間層と燃料極層の形成の順序は特に制限されず、また、電解質シートの各面にそれぞれ中間層用のスラリーと燃料極層用のスラリーとを塗布乾燥した後にそれぞれ焼成することによって、中間層と燃料極層とを同時に焼成することによって形成してもよい。中間層の材料、また、中間層を形成するためのスラリーの塗布方法、乾燥条件及び焼成条件などは、公知の方法に準じて実施できる。
【0042】
本実施形態のSOFCの製造方法は、実施形態2で説明した電解質シートを利用しているので、製造コストを低下でき、かつ物性が安定したSOFCを製造できる。
【実施例】
【0043】
以下では、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
<グリーンシートの製造>
グリーンシートの原料粉末(SOFC用電解質シートを構成する固体電解質材料の原料粉末)として、スカンジアセリア安定化ジルコニア未焼結粉末(第一稀元素社製、商品名「10Sc1CeSZ」、比表面積:10.8m
2/g、平均粒子径:0.66μm)を用いた。このスカンジアセリア安定化ジルコニア未焼結粉末100質量部に対し、メタクリレート系共重合体(数平均分子量:100000、ガラス転移温度:−8℃、固形分濃度:50質量%)からなるバインダーを固形分換算で17質量部、可塑剤としてジブチルフタレート3質量部、トルエン/メチルエチルケトン(MEK)(質量比=2/3、蒸発速度指数:302)の混合溶剤50質量部をナイロンポットに投入し、60rpmで20時間粉砕し、スラリーを調製した。このスラリーを減圧脱泡容器へ移し、3.99kPa〜21.3kPa(30Torr〜160Torr)に減圧して濃縮・脱泡し、塗工用の原料スラリーとした。得られた原料スラリーの粘度をB型回転粘度計を用いて測定したところ、2400mPa・sであった。この原料スラリーを、間欠塗工装置(株式会社SCREENファインテックソリューションズ製、「RT−700F」)のタンクに移し、基材としてPETフィルムを用いて、そのPETフィルム上に塗工膜厚が170μm、塗工サイズ190mmx190mmとなるような条件で塗工を実施した。塗工膜を100℃で10分間乾燥させて溶剤を揮発除去し、実施例1のグリーンシートを得た。なお、混合溶剤の蒸発速度指数は、トルエンの蒸発速度指数を200、MEKの蒸発速度指数を370とし、組成質量比2/3を用いて計算して求めた。
【0045】
<電解質シートの製造>
グリーンシートを、連続型打ち抜き機に刃形を取りつけ、150mm角に切断した。150mm角のグリーンシートをアルミナ棚板上に載置し、1450℃で3時間焼成することにより、約120mm角、厚さ約100μmの電解質シートを得た。
【0046】
(実施例2)
<グリーンシートの製造>
実施例1のグリーンシートの製造において、混合溶剤をトルエン/MEK/ブタノール(BuOH)(質量比:6/9/5、蒸発速度指数:240)とし、この原料スラリーを、間欠塗工装置にて塗工膜厚が170μm、塗工サイズが186mmx186mmとなるような条件で塗工した点以外は、実施例1と同様にして実施例2のグリーンシートを製造した。なお、原料スラリーの粘度を実施例1と同様に測定したところ、2420mPa・sであった。また、混合溶剤の蒸発速度指数は、トルエンの蒸発速度指数を200、MEKの蒸発速度指数を370とし、BuOHの蒸発速度指数を47とし、組成質量比6/9/5を用いて計算して求めた。
【0047】
<電解質シートの製造>
実施例2のグリーンシートを用いた以外は、実施例1と同様の方法で電解質シートを製造した。
【0048】
(実施例3)
<グリーンシートの製造>
減圧・濃縮脱泡時間を調整して原料スラリーの粘度を2150mPa・sにし、間欠塗工装置時の塗工サイズが183mmx183mmとなるような条件で塗工した以外は、実施例2と同様にして実施例3のグリーンシートを製造した。また、混合溶剤の蒸発速度指数は、トルエンの蒸発速度指数を200、MEKの蒸発速度指数を370とし、BuOHの蒸発速度指数を47とし、組成質量比6/9/5を用いて計算して求めた。
【0049】
<電解質シートの製造>
実施例3のグリーンシートを用いた以外は、実施例1と同様の方法で電解質シートを製造した。
【0050】
(比較例)
<グリーンシートの製造>
実施例1と同様の方法で得られた塗工用の原料スラリーを、ドクターブレード法によって、基材であるPETフィルム上に連続的に塗工し、塗工幅約220mm、厚さ約170μm、長さ100mのグリーンテープを製造した。その後、連続型打抜き機を使用して、送りピッチ15mmで、このグリーンテープから150mm角のグリーンシートを金型で打抜いた。なお、後述のとおり、このグリーンテープにおいて所定の膜厚範囲に入った領域は、グリーンテープ両端部より30mm内側、塗工先端部から10m内側、且つ塗工末端部から5.3m内側の領域であった。すなわち、グリーンシートの打ち抜きに使用可能であったグリーンテープの領域は、幅150mm、長さ84.7mであり、この領域内から送りピッチ15mmで150mm角のグリーンシートを513枚切り出した。
【0051】
<直行率の測定方法>
実施例1〜3のグリーンシート及び比較例のテープについて、直行率を測定した。直行率は、仕込み原料の質量に対して、所定の膜厚範囲(ここでは150±6μm)を満たし、打抜きにより切り出されたグリーンシートの合計質量の割合で算出された。その結果を表1に示す。実施例1では、所定の膜厚範囲に入った領域は、グリーンシート両端部、先端部及び末端部よりそれぞれ20mm内側の領域であり、直行率は62%であった。実施例2では、所定の膜厚範囲に入った領域は、グリーンシート両端部、先端部及び末端部よりそれぞれ18mm内側の領域であり、直行率は65%であった。実施例3では、所定の膜厚範囲に入った領域は、グリーンシート両端部、先端部及び末端部より16mm内側の領域であり、直行率は67%であった。一方、比較例では、所定の膜厚範囲に入った領域は、グリーンテープ両端部より30mm内側、塗工先端部から10m内側、且つ塗工末端部から5.3m内側の領域であり、この領域からグリーンシートが513枚切り出された。したがって、比較例における直行率は52%であった。
【0052】
<グリーンシートの膜厚分布の評価>
実施例1及び2のグリーンシートについて、塗工方向に沿った膜厚分布及び塗工幅方向に沿った膜厚分布をそれぞれ評価した。膜厚分布はマイクロメーターにて測定した。実施例1のグリーンシートの膜厚分布を
図1A(塗工幅方向)及び
図1B(塗工方向)に示し、実施例2のグリーンシートの膜厚分布を
図2A(塗工幅方向)及び
図2B(塗工方向)に示し、実施例3のグリーンシートの膜厚分布を
図3A(塗工幅方向)及び
図3B(塗工方向)に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示されているように、ドクターブレード法で塗工を実施した比較例では、塗工開始時の膜厚調整でのロスが多く、直行率が低かった。これは、ドクターブレード法では、スラリーダムからスラリーを継続して流し、乾燥後のグリーンテープで厚みを測定するため、その間のグリーンテープがロスとなってしまったからであった。さらに、比較例のグリーンシートは、塗工幅方向における両端部の厚さが所定の厚さよりも薄くなっている部分が多かったことも、直行率が低い理由であった。
【0055】
一方、実施例1〜3では間欠塗工を用いたので、グリーンシートの膜厚調整を、1又は2枚分のグリーンシートを塗工し、その塗工膜を乾燥機に通す間は新たな塗工をストップして行った。したがって、実施例1〜3のグリーンシートの膜厚調整は、原料スラリーを約10cm塗工するだけで厚み測定が可能となり、膜厚調整のために生じるグリーンシートのロスを削減できた。また、塗工幅方向における塗工膜の両端部の膜厚の精度も高かったため(
図1B、
図2B及び
図3B参照)、使用不可となるグリーンシートも少なかった。これらの理由から、表1に示すように、実施例1〜3のグリーンシートの直行率は、比較例の直行率に対して向上した。
【0056】
実施例2では、原料スラリーの作製に実施例1よりも蒸発速度指数が低い(蒸発速度指数が206〜260の範囲内である)混合溶剤を用いた。これにより、
図2A及び2Bを
図1A及び1Bとそれぞれ比較すると明らかなように、実施例2のグリーンシートは、塗工方向における塗工膜の先端部、末端部、及び両端部の厚さが実施例1よりも均一となった。その結果、実施例2では、使用不可となるグリーンシートを実施例1よりもさらに低減でき、その結果より高い直行率が得られた。
【0057】
実施例3では、原料スラリーの粘度は実施例2よりも低かったが、原料スラリーの粘度以外は実施例2の原料スラリーと同じであった。このような実施例3では、原料スラリーの流動性が実施例2よりも高くなったことにより、塗工方向における塗工膜の先端部、末端部、及び両端部の厚さが実施例2よりも均一となった。その結果、実施例3では、使用不可となるグリーンシートを実施例2よりもさらに低減でき、その結果より高い直行率が得られた。