(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6808573
(24)【登録日】2020年12月11日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】イオン性液体を精製する方法
(51)【国際特許分類】
C07D 233/58 20060101AFI20201221BHJP
【FI】
C07D233/58
【請求項の数】10
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-83411(P2017-83411)
(22)【出願日】2017年4月20日
(65)【公開番号】特開2017-222634(P2017-222634A)
(43)【公開日】2017年12月21日
【審査請求日】2019年12月20日
(31)【優先権主張番号】10 2016 210 481.0
(32)【優先日】2016年6月14日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マティアス バールマン
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ ツェーナッカー
(72)【発明者】
【氏名】マークス リュトケハウス
(72)【発明者】
【氏名】ベンヤミン ヴィリー
(72)【発明者】
【氏名】ヴェアナー エッシャー
(72)【発明者】
【氏名】王 新明
(72)【発明者】
【氏名】ロルフ シュナイダー
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ヒラー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ミュンツナー
【審査官】
奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2004/016631(WO,A1)
【文献】
中国特許出願公開第104892520(CN,A)
【文献】
特開2016−117723(JP,A)
【文献】
特表2010−536571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 233/58
CA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造Q+A-のイオン性液体を精製する方法であって、ここでQ+は、1,3−ジアルキルイミダゾリウムイオンであり、A-は、ジアルキルホスフェートイオン、アルキル硫酸イオン、アルキルスルホン酸イオン、アルキルカルボン酸イオン、塩化物イオン、硫酸水素イオン、リン酸二水素イオン、モノアルキルリン酸水素イオン、硝酸イオンから成る群から選択される方法において、
前記構造Q+A-のイオン性液体を、99℃以下の温度を有する水蒸気によるストリッピングにかけることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記構造Q+A-のイオン性液体において、Q+が、1,3−ジアルキルイミダゾリウムイオンであり、ここでアルキル基はそれぞれ独立してC1〜C10アルキル基であり、A-が、ジアルキルホスフェートイオン、ここでアルキル基はそれぞれ独立してC1〜C10アルキル基である、アルキル硫酸イオン、ここでアルキル基はC1〜C10アルキル基である、アルキルスルホン酸イオン、ここでアルキル基はC1〜C10アルキル基である、アルキルカルボン酸イオン、ここでアルキル基はC1〜C10アルキル基である、塩化物イオン、硫酸水素イオン、リン酸二水素イオン、モノアルキルリン酸水素イオン、ここでアルキル基はC1〜C10アルキル基である、及び硝酸イオンから成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記構造Q+A-のイオン性液体において、Q+が、1,3−ジアルキルイミダゾリウムイオンであり、ここでアルキル基はそれぞれ独立してC1〜C10アルキル基であり、A-が、ジアルキルホスフェートイオン、ここでアルキル基はそれぞれ独立してC1〜C10アルキル基である、アルキル硫酸イオン、ここでアルキル基はC1〜C10アルキル基である、アルキルスルホン酸イオン、ここでアルキル基はC1〜C10アルキル基である、アルキルカルボン酸イオン、ここでアルキル基はC1〜C10アルキル基である、リン酸二水素イオン、モノアルキルリン酸水素イオン、ここでアルキル基はC1〜C10アルキル基である、から成る群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記構造Q+A-のイオン性液体において、Q+が、1,3−ジアルキルイミダゾリウムイオンであり、ここでアルキル基はそれぞれ独立して、C1〜C10アルキル基であり、A-が、ジアルキルホスフェートイオンであり、ここでアルキル基はそれぞれ独立して、C1〜C10アルキル基である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
Q+が、1,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン、又は1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
Q+が、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
A-が、ジエチルホスフェートイオンである、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記水蒸気が、10℃〜90℃の範囲の温度を有することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記構造Q+A-のイオン性液体が、使用する水蒸気の温度よりも高い温度を有することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記イオン性液体を少なくとも部分的に、充填材料床に、又は規則充填物に通過させることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストリッピングによってジアルキルイミダゾリウムイオンを含有するイオン性液体を精製する方法であって、水蒸気が特定の温度で使用される方法に関する。本発明による方法は、イオン性液体の分解が、プロセスの手順の間に最小化されることを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
建築物又は乗用車の換気及び温度調整のための空調システムでは、空気は一般的に冷却するだけではなく、除湿もしなければならない。冷却すべき空気はしばしば、所望の温度に冷却すると露点を下回るほど、湿度が高いからである。このため慣用の空調システムにおいては、空気の除湿が、電力消費の大部分を占める。
【0003】
建築物用空調システムの電力消費を低減するための1つの選択肢が、乾燥媒体を用いた水の吸着若しくは吸収による、及び水が再度脱着する温度に加熱することによって、水が負荷された乾燥媒体を再生することによる、空気の除湿である。固体吸着剤での吸収と比べて、液状吸収媒体における吸収の利点は、空気の除湿をより単純な設備で、またより少ない乾燥媒体で行えること、及び水が負荷された乾燥媒体の再生を、太陽熱によって比較的容易に行えることである。
【0004】
このために液状吸収媒体として市販の空調システムで用いられる臭化リチウム、塩化リチウム、又は塩化カルシウムの水溶液には、空調システムでよく用いられる建築構造の金属材料に対して腐蝕性であるという欠点があり、このため高価な特別の建築構造材料を使用する必要がある。これらの解決法はさらに、吸収媒体から晶出する塩によって生じる問題を引き起こすことがある。
【0005】
Y. Luoらは、Appl. Thermal Eng. 31 (2011) 2772〜2777で、空気除湿のための臭化リチウム水溶液に代えて、イオン性液体の1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートを用いることを提案している。
【0006】
Y. Luoらは、Solar Energy 86 (2012) 2718〜2724で、イオン性液体の1,3−ジメチルイミダゾリウムアセテートを、空気除湿のための1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートの代替物として提案している。
【0007】
米国特許出願公開第2011/0247494号明細書(US 2011/0247494 A1)は段落[0145]で、トリメチルアンモニウムアセテート、又は1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートを、塩化リチウム水溶液の代わりに、液状乾燥剤として用いることを提案している。
【0008】
中国特許出願公開第102335545号明細書(CN 102335545 A)は、空気除湿のための吸収媒体として、イオン性液体の水溶液を記載している。このイオン性液体は、以下のアニオンを含有することができる:[BF
4]
-、[CF
3SO
3]
-、[CH
3COO]
-、[CF
3COO]
-、[C
3F
7COO]
-、[(CF
3SO
2)
2N]
-、[(CH
3)
2PO
4]
-、[C
4F
9SO
3]
-、[(C
2F
5SO
2)N]
-、及び[(CF
3SO
2)
3C]
-。
【0009】
市販で得られるイオン性液体は一般的に、臭いの強い物質又は健康に害を与える物質につながる不純物を含有し、これらの物質は、イオン性液体を用いて空気を除湿する際に、除湿された空気に入り込む。塩基性アニオン、例えば炭酸イオンを含有するイオン性液体から水を脱着するに際して、臭いの強い分解生成物が形成され、この生成物は、空気の除湿のためにイオン性液体を引き続き用いる場合、除湿された空気に入り込む。
【0010】
ジアルキルイミダゾリウムイオンを含有するイオン性液体を慣用の精製法によって精製する場合には、これらのイオン性液体の少なくとも部分的な分解が起こるという問題も観察された。このことは、精製工程後に得られるイオン性液体中に、悪臭を放つ分解生成物が発生することによって、明らかである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2011/0247494号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開第102335545号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Y. Luoら、Appl. Thermal Eng. 31 (2011) 2772〜2777
【非特許文献2】Y. Luoら、Solar Energy 86 (2012) 2718〜2724
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
よって本発明の課題は、上記問題が最小化された、理想的には上記問題が生じない、イオン性液体の精製法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は本願発明により特許請求の範囲に記載されているとおりの新規のイオン性液体を精製する方法により解決できることが判明した。
【0015】
よって本発明は、構造Q
+A
-のイオン性液体を精製する方法に関し、ここでQ
+は、1,3−ジアルキルイミダゾリウムイオンであり、A
-は、ジアルキルホスフェートイオン、アルキル硫酸イオン、アルキルスルホン酸イオン、アルキルカルボン酸イオン、塩化物イオン、硫酸水素イオン、リン酸二水素イオン、モノアルキルリン酸水素イオン、硝酸イオンから成る群から選択され、
前記構造Q
+A
-のイオン性液体を、99℃以下の温度を有する水蒸気によるストリッピングにかけることを特徴とする。
【0016】
本発明の好ましい実施形態において、構造Q
+A
-のイオン性液体において、Q
+は、1,3−ジアルキルイミダゾリウムイオンであり、ここでアルキル基はそれぞれ独立して、C
1〜C
10アルキル基であり、A
-は、ジアルキルホスフェートイオン、ここでアルキル基はそれぞれ独立してC
1〜C
10アルキル基である、アルキル硫酸イオン、ここでアルキル基はC
1〜C
10アルキル基である、アルキルスルホン酸イオン、ここでアルキル基はC
1〜C
10アルキル基である、アルキルカルボン酸イオン、ここでアルキル基はC
1〜C
10アルキル基である、塩化物イオン、硫酸水素イオン、リン酸二水素イオン、モノアルキルリン酸水素イオン、ここでアルキル基はC
1〜C
10アルキル基である、及び硝酸イオンから成る群から選択される。
【0017】
C
1〜C
10アルキル基は、非分枝状であるか、又は分枝状であり、好ましくは非分枝状若しくは分枝状のC
1〜C
8アルキル基、より好ましくは非分枝状若しくは分枝状のC
1〜C
6アルキル基、さらにより好ましくは非分枝状若しくは分枝状のC
1〜C
4アルキル基であり、これらのアルキル基は好ましくは、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチルから成る群から選択され、さらにより好ましくは、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチルから成る群から選択され、特により好ましくは、メチル、及びエチルから成る群から選択される。
【0018】
本発明のより好ましい実施形態では、構造Q
+A
-のイオン性液体において、Q
+は、1,3−ジアルキルイミダゾリウムイオンであり、ここでアルキル基はそれぞれ独立してC
1〜C
10アルキル基であり、A
-は、ジアルキルホスフェートイオン、ここでアルキル基はそれぞれ独立してC
1〜C
10アルキル基である、アルキル硫酸イオン、ここでアルキル基はC
1〜C
10アルキル基である、アルキルスルホン酸イオン、ここでアルキル基はC
1〜C
10アルキル基である、アルキルカルボン酸イオン、ここでアルキル基はC
1〜C
10アルキル基である、リン酸二水素イオン、モノアルキルリン酸水素イオン、ここでアルキル基はC
1〜C
10アルキル基である、から成る群から選択される。
【0019】
本発明のさらに好ましい実施形態では、構造Q
+A
-のイオン性液体において、Q
+は、1,3−ジアルキルイミダゾリウムイオンであり、ここでアルキル基はそれぞれ独立して、C
1〜C
10アルキル基であり、A
-は、ジアルキルホスフェートイオン、ここでアルキル基はそれぞれ独立してC
1〜C
10アルキル基である、アルキル硫酸イオン、ここでアルキル基はC
1〜C
10アルキル基である、アルキルスルホン酸イオン、ここでアルキル基はC
1〜C
10アルキル基である、アルキルカルボン酸イオン、ここでアルキル基はC
1〜C
10アルキル基である、から成る群から選択される。
【0020】
本発明のさらにより好ましい実施形態では、構造Q
+A
-のイオン性液体において、Q
+が1,3−ジアルキルイミダゾリウムイオンであり、ここでアルキル基はそれぞれ独立してC
1〜C
10アルキル基であり、A
-はジアルキルホスフェートイオンであり、ここでアルキル基はそれぞれ独立してC
1〜C
10アルキル基である。この場合にさらにより好ましくは、Q
+は1,3−ジアルキルイミダゾリウムイオンであり、ここでアルキル基はそれぞれ独立して非分枝状又は分枝状のC
1〜C
6アルキル基であり、A
-はジアルキルホスフェートイオンであり、ここでアルキル基はそれぞれ独立して非分枝状又は分枝状のC
1〜C
6アルキル基である。この場合に特により好ましくは、Q
+は1,3−ジアルキルイミダゾリウムイオンであり、ここでアルキル基はそれぞれ独立して非分枝状又は分枝状のC
1〜C
4アルキル基であり、A
-はジアルキルホスフェートイオンであり、ここでアルキル基はそれぞれ独立して非分枝状又は分枝状のC
1〜C
4アルキル基である。この場合にさらに特により好ましくは、Q
+は1,3−ジアルキルイミダゾリウムイオンであり、ここでアルキル基はそれぞれ独立してメチル又はエチルであり、A
-はジアルキルホスフェートイオンであり、ここでアルキル基はそれぞれ独立してメチル又はエチルである。この場合に特により好ましくは、Q
+は1,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン、又は1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、好ましくは1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンであり、A
-はジエチルホスフェートイオンである。
【0021】
本発明による方法では、構造Q
+A
-のイオン性液体を、99℃以下の温度を有する水蒸気によるストリッピングにかける。意外なことにこの方法によって、イオン性液体の穏やかな精製が可能になり、特に臭い形成物質(従来の方法で精製すると、イオン性液体の分解により生じる)の問題が回避される。
【0022】
「ストリッピング」とは、当業者に公知の物理的な分離法であり、液体を精製するための従来技術において多くの分野で使用されている(例えばM. Kriebel: "Absorption, 2. Design of Systems and Equipment", Ullmanns Encyclopedia of Industrial Chemistry, Electronic Release, chap. 3, Wiley VCH, Weinheim 2008年10月に記載)。この場合、気相(本発明の場合には、99℃以下の温度を有する水蒸気)を向流で、精製すべき相と接触させる。本発明によればこの接触は特に、塔内で行う。
【0023】
ここで、水蒸気は99℃以下の温度、特に10℃〜90℃の範囲の温度、好ましくは1℃〜70℃の範囲の温度、より好ましくは10℃〜60℃の範囲の温度、より好ましくは20℃〜50℃の範囲の温度、さらにより好ましくは23℃〜34℃の範囲の温度を有する。
【0024】
水蒸気の温度は、当業者に慣用の手法により、塔内で適切な負圧を調整することによって調整できる。
【0025】
この場合、本発明による方法では、構造Q
+A
-のイオン性液体は特に、使用する水蒸気の温度よりも高い温度を有する。この手段によって、イオン性液体の特に効率的な精製が可能になることが具体的に示されている。使用するイオン性液体の温度は、好ましくは使用する水蒸気の温度を少なくとも1℃上回り、より好ましくは少なくとも5℃、さらにより好ましくは少なくとも10℃、なおより好ましくは少なくとも30℃、さらに特により好ましくは少なくとも56℃、上回る。
【0026】
イオン性液体の精製は、イオン性液体の表面積を増大させることによって改善できる。この目的のために好ましくは、本発明による方法におけるイオン性液体を少なくとも部分的に、充填材料床に、又は規則充填物に通過させる。この目的には、蒸留のため、また吸着法のため当業者に公知のあらゆる充填材料及び規則充填物が適している。或いは、脱着を流下薄膜式装置で行うことができる。適切な流下薄膜式装置は、蒸留のために従来技術から公知の流下薄膜式蒸発器である。
【実施例】
【0027】
以下の実験は、本発明を説明するためのものであり、本発明がこれに制限されることはない。
【0028】
実施例
比較例C1〜C4:薄膜式蒸発器における、イオン性液体の1−エチル−3−メチルイミダゾリイウムジエチルホスフェート(EMIM DEP)の精製
EMIM DEPと水との混合物を幾つか、薄膜式蒸発器で精製した。EMIM DEPは、国際公開第2004/016631号(WO 2004/016631 A1)に記載の反応により、N−メチルイミダゾールとトリエチルホスフェートとを反応させることによって得た。
【0029】
薄膜式蒸発器(TFEと略す)は、直径が50mm、長さが650mmであり、これにより蒸発器全体の表面積は、約0.1m
2であった。蒸発器のワイパーバスケットは、PTFEから構成されるブロックワイパーを備えており、これは磁気結合を介してモーターにより稼動させた。蒸発器のジャケットは、サーモスタット、及び熱移動媒体としてジベンジルトルエン(「Marlotherm」)を用いて加熱した。
【0030】
4つの精製経路を実施したのだが、それぞれの場合において、それぞれの場合に関して以下で特定した水含分を有するEMIM DEPの水溶液を使用した。この目的のため、撹拌しながら、まず水をEMIM DEPに添加し、規定の水含分を調整した。
【0031】
様々な経路におけるこの溶液の水含分は、以下の通りであった:
例C1:5質量%、例C2:10質量%、例C3:15質量%、例C4:20質量%。水の割合を示す質量%は、フィードとしてTFEに供給したEMIM DEP水溶液全体を基準とする。
【0032】
TFEによる比較試験で水溶液を使用することによって、水蒸気の一定割合が常に、精製すべきイオン性液体を通過する本発明によるストリッピング実験の結果との、より良好な比較可能性が保証される。
【0033】
TFEにおける使用の前に、調査するEMIM DEPの水性混合物を、24℃の温度に調整した。それからこのフィードを、貯蔵容器から歯付ホイールポンプを介して、蒸発器に約2.00〜2.29kg/hで運んだ。TFEジャケットは、150℃の温度を有していた。ここで、水、また臭い形成成分の大部分がイオン性液体から蒸発し、これを凝縮して、5℃の温度を有する留出物容器に集めた。
【0034】
蒸発器内で形成された蒸気流は、外部コンデンサによって凝縮し、こうして生じる留出物は、貯蔵容器に集めた。蒸発していないフィードの一部は、蒸発器の基底部で、さらなる貯蔵容器に流した。システム全体は、真空ポンプ(Vacubrand社製)により40mbarの負圧で稼動させた。
【0035】
実験の後、TFE中に残っているイオン性液体を、N−メチルイミダゾール含分について評価した。
【0036】
不純物のN−メチルイミダゾールは、調査したEMIM DEPの合成からの反応体の残留含分によるものであり、またTFE中でのEMIM DEPの分解によるものである。N−メチルイミダゾールは、TFEにおける精製工程の間、EMIM DEPから継続的に除去するが、反応の間、EMIM DEPの分解により継続的に「補充」される。よってN−メチルイミダゾールの残留含分により、精製工程の間にEMIM DEPが分解する度合いに関する情報が得られる。
【0037】
N−メチルイミダゾール分析のために、出発材料について、また各実験設定からの試料についても、ヘッドスペース式GC−MS分析を行った。
【0038】
この目的のために、試料0.1gを70℃で20分、試料採取器内でインキュベートし、気相の分解を、ガスクロマトグラフィー、及びマススペクトル分析によって分析した。ガスクロマトグラフィー(GC)のためには、Hewlett Packard社製の器具(HP 6890)を使用した(試料採取器:Turbomatrix 40、Perkin Elmer社製)。マススペクトル分析のためには、Hewlett Packard社製の器具(HP 5973)を使用した。
【0039】
例C1〜C4を実施した後、EMIM DEP中で測定されたN−メチルイミダゾール含分は、フィード中のN−メチルイミダゾール含分(これを100%に設定)を基準として、以下の通りであった:
C1:12%、C2:30%、C3:36%、C4:40%。
【0040】
よって、精製されたEMIM DEPの気相において、高い割合のN−メチルイミダゾールが、なおも検出可能であった。このことは、精製の間のTFEにおけるEMIM DEPの分解を示している。
【0041】
本発明による例I1〜I6:ストリッピングによるEMIM DEPの精製
ストリッピング実験のため、ガラス製カラム(内径50mm)を使用したのだが、このカラムには、Montz社の繊維製規則充填物(A3-500型)が合計で2m備えられていた。このカラムは、それぞれ長さが1mの2つのセグメントから構成されていた。これら2つのセグメントには、電気補償式加熱器が備えられていた。EMIM DEP(国際公開第2004/016631号(WO 2004/016631 A1)に記載の反応に従って、N−メチルイミダゾールと、トリエチルホスフェートとの反応によって得られる)を、カラムの塔頂に供給し、この際にEMIM DEPからのフィードは、約90℃の温度に予熱した。フィードを経てカラムへと、ストリッピング蒸気が、ストリッピングされる成分により凝縮され、その後カラムから蒸気ドームを経て通過する箇所に、2つのコンデンサが位置していた。
【0042】
ストリッピングに必要な水蒸気は、カラムの底部領域において、流下薄膜式蒸発器で発生させた。ここでは、秤量ポンプによって水を蒸発器内に給送し、そこで完全に蒸発させ、それからカラム内を通過させた。ストリッピング蒸気の温度は、34℃であった。水蒸気フィードは、約0.75kg/hの質量流量でカラムに供給した。カラムの基底部にはいわゆる蒸気ドームが、上部から流下する液体が集められ、その後にカラムから排出される箇所に位置していた。
【0043】
ストリッピングカラム内にあるイオン性液体を脱臭するために、カラムをまず95℃の温度に加熱し、それから48mbarの稼動圧力に調整した。引き続き、流下薄膜式蒸発器による水の蒸発を稼動させた。これが静かに動き出した後、イオン性液体のEMIM DEPの予熱供給を、カラムの塔頂部で開始した。各設定において稼動している間、コンデンサで発生した、水及び臭い形成成分から成る留出物を、留出物容器へと排出した。脱臭されたイオン性液体を、カラムの基底部で排出し、そのようにしながら冷却した。
【0044】
I1〜I6を6回行ったのだが、イオン性液体の、ストリッピング蒸気に対する異なる質量流量比を得るために、一定量のストリッピング蒸気で、イオン性液体のフィード量だけを変えた。
【0045】
イオン性液体のフィード量は、様々な実験I1〜I6でそれぞれ以下の通りであった:
I1:1.3kg/h、I2:2.8kg/h、I3:3.6kg/h、I4:4.8kg/h、I5:5.5kg/h、I6:7.6kg/h。
【0046】
実験の間、カラムの底部で排出されたイオン性液体を、規則的にサンプリングした。実験設定は、安定状態の稼動条件を確立するために、それぞれの場合において6時間、稼動させた。
【0047】
カラムの基底部(底部)で排出されたイオン性液体を、その水含分について分析した。水を分析するために、Mettler社製の滴定器(Mettler Toledo DL-38)を用いてカール・フィッシャー法を使用した。精製したイオン性液体のEMIM DEPの水含分は、全ての稼動I1〜I6において5.0〜6.2%であった。ストリッピングカラムでの各実験I1〜I6の試料について、N−メチルイミダゾール含分を評価可能にするため、ヘッドスペース式GC−MS分析を行った(手順、及び装置の詳細は、C1〜C4参照)。分析結果により、N−メチルイミダゾール成分は、各実験設定からの気相ではもはや検出できない、すなわち、TFEによって得られる値を遙かに下回ることが判明した。
【0048】
従って、ジアルキルイミダゾリウムイオンを有するイオン性液体の精製は、本発明による方法によって可能であることが、実験から明らかであり、この際、このイオン性液体の分解又は逆反応は、抑制できる。このことは、典型的なN−メチルイミダゾール分解生成物が、ストリッピング手段により精製されたEMIM DEPの気相において消失することに基づき、紛れもなく明らかである。
【0049】
この結果は、完全に意想外であった。