特許第6808625号(P6808625)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6808625
(24)【登録日】2020年12月11日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】抗微生物組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/8962 20060101AFI20201221BHJP
   A61K 31/105 20060101ALI20201221BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20201221BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20201221BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20201221BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20201221BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20201221BHJP
   A61K 31/194 20060101ALI20201221BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20201221BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20201221BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   A61K36/8962
   A61K31/105
   A61K31/352
   A61K31/353
   A61K31/7048
   A61K31/19
   A61K31/192
   A61K31/194
   A61P31/04
   A61P31/10
   A61P43/00 121
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-531864(P2017-531864)
(86)(22)【出願日】2015年12月15日
(65)【公表番号】特表2018-501233(P2018-501233A)
(43)【公表日】2018年1月18日
(86)【国際出願番号】GB2015054018
(87)【国際公開番号】WO2016102931
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2018年12月14日
(31)【優先権主張番号】1423115.3
(32)【優先日】2014年12月23日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】518307189
【氏名又は名称】モートラル ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】カール イェルク ミヒャエル グラーツ
(72)【発明者】
【氏名】ガレス ジェイムズ ストリート エバンズ
(72)【発明者】
【氏名】ロバート アラン サンダース
(72)【発明者】
【氏名】リアム ジェイムズ ジョーンズ
【審査官】 春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−506656(JP,A)
【文献】 特表2011−513291(JP,A)
【文献】 特表2011−516411(JP,A)
【文献】 特開平06−227931(JP,A)
【文献】 特開平01−224326(JP,A)
【文献】 特開平06−192116(JP,A)
【文献】 特開昭62−263121(JP,A)
【文献】 Ankri S, Mirelman D,Antimicrobial Properties of Allicin From Garlic,Microbes and Infection,1999年,Vol.1, No.2,p.125-129
【文献】 Yoshida H et al.,Antimicrobial Activity of the Thiosulfinates Isolated From Oil-Macerated Garlic Extract,Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry,1999年,Vol.63, No.3,p.591-594
【文献】 Naganawa R et al.,Inhibition of Microbial Growth by Ajoene, a Sulfur-Containing Compound Derived From Garlic,Applied and Environmental Microbiology,1996年,Vol.62, No.11,p.4238-4242
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00−36/9068
A61K 31/00−31/80
A61K 33/00−33/44
PubMed
医中誌WEB
J−STAGE
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のニンニク抽出物;及び、
少なくとも1種のバイオフラボノイド;
ここで、ニンニク抽出物は、アリシン又はアホエンの1つ又は複数から選択され;
ここで、バイオフラボノイドは、ナリンゲニン、ナリンジン、ケルセチン、ロイフォリン及びアカセチンからなる群の1つ又は複数から選択され;
ここで、ニンニク抽出物対バイオフラボノイドの濃度比は1〜16:16〜1である。
ことを含む、細菌または真菌感染を治療または予防するための抗微生物組成物。
【請求項2】
前記ニンニク抽出物対前記バイオフラボノイドの濃度比は、約1〜4:4〜1である、請求項に記載の抗微生物組成物。
【請求項3】
前記組成物は、少なくとも1種の有機酸をさらに含む、請求項1に記載の抗微生物組成物。
【請求項4】
前記ニンニク抽出物対前記バイオフラボノイド対前記有機酸の濃度比は、約1〜16:1〜16:1〜16である、請求項に記載の抗微生物組成物。
【請求項5】
前記ニンニク抽出物対前記バイオフラボノイド対前記有機酸の濃度比は、約1〜4:1〜4:1〜4である、請求項に記載の抗微生物組成物。
【請求項6】
前記有機酸は、カルボン酸である、請求項1〜のいずれか1項に記載の抗微生物組成物。
【請求項7】
前記有機酸は、乳酸、酪酸、プロピオン酸、吉草酸、カプロン酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、ソルビン酸、安息香酸、カプリル酸、及びリンゴ酸、又はそれらの任意の組み合わせの1つ又は複数から選択される、請求項1〜のいずれか1項に記載の抗微生物組成物。
【請求項8】
医薬的に許容される担体及び/又は賦形剤を更に含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の抗微生物組成物。
【請求項9】
前記組成物は、経口、局所、静脈内、筋肉内、直腸(坐薬)、吸入、注入、経皮、舌下、皮下、又は鼻腔内投与用に製剤化される、請求項1〜のいずれか1項に記載の抗微生物組成物。
【請求項10】
前記細菌感染はグラム陰性細菌の感染である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の抗微生物組成物。
【請求項11】
グラム陰性細菌の感染が、大腸菌(Escherichia coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumonia)、肺炎桿菌(Klebsiella aerogenes)及びクレシエブラ・オキシトカ菌(Klebsiella oxytoca)からなる群から選択される、請求項10に記載の抗微生物組成物。
【請求項12】
前記細菌感染はグラム陽性細菌の感染である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の抗微生物組成物。
【請求項13】
グラム陽性細菌の感染が、連鎖球菌ビリダンス(Streptococcus viridans)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、枯草菌(Bacillus subtilis)、炭疽菌(Bacillus anthracis)及びバチルス・セレウス菌(Bacillus cereus)からなる群から選択される、請求項12に記載の抗微生物組成物。
【請求項14】
真菌感染が、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・パラプシローシス(Candida parapsilosis)及びカンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)からなる群から選択される真菌によって引き起こされる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の抗微生物組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗微生物組成物、並びに、細菌、真菌、又は寄生虫感染を治療又は予防するための前記組成物の使用及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌耐性の世界的な問題は深刻化し、いくつかの生物(例えば、Klebsiella pneumoniae、Escherichia coli、及びStaphylococcus aureus)が複数の異なる抗生物質に対する耐性を発達させる程になっている。疾病予防センター(CDC)によると、2013年には抗生物質耐性微生物による感染が200万件を超え、それらの感染による死者数は23000件を超えたということである。これらの死者数の半分弱(11,000件)はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)によるものであった。2013年において多くの死者数(MRSAによるよりもさらに高い14,000件)の原因となった別の生物は、Clostridum difficileであった。この細菌は、抗生物質に対して非常に耐性であることが証明されている。しかし、C. difficileの耐性は、特殊な株の耐性によるものというよりはむしろその胞子生産能力によるものである(よって、抗生物質耐性感染症による死者数の年間合計には含まれていない)。
【0003】
有効性が改善された抗微生物剤の組み合わせが、現在の臨床産業において非常に求められている。組み合わせ抗生物質療法を用いて、細菌の範囲を広げ、これにより耐性又は多剤耐性の発生を回避し、より良好な臨床転帰をもたらすための試みがなされている。抗微生物活性のメカニズムの理解および可能性のある抗微生物剤の研究が、抗微生物剤の効果的な組み合わせの開発において極めて重要である。
【0004】
増大する抗生物質耐性の問題を考慮して、多種多様な微生物、特に抗生物質耐性微生物に対して有効な新規な抗生物質組成物が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、細菌(bacteria)、真菌(fungi)、及び寄生虫(parasites)を含む広範囲の微生物に対して、抗微生物効果(antimicrobial effect)、好ましくは相乗的な抗微生物効果を提供することができる、ニンニク化合物とバイオフラボノイド及び/又は有機酸との新規な組み合わせを提供する。
【0006】
本発明は、少なくとも1種のニンニク抽出物及び1種又は複数種のバイオフラボノイド及び/又は1種の有機酸、を含む抗微生物組成物(antimicrobial composition)を提供する。組成物は、少なくとも1種のニンニク抽出物及び少なくとも1種のバイオフラボノイド、又は少なくとも1種のニンニク抽出物及び少なくとも1種の有機酸を含んでもよい。また、組成物は、少なくとも1種のニンニク抽出物、少なくとも1種のバイオフラボノイド、及び少なくとも1種の有機酸を含んでもよい。
【0007】
ニンニク抽出物対バイオフラボノイドの濃度比は、約1〜16:16〜1であり得る。例えば、ニンニク抽出物対バイオフラボノイドの濃度比は、約1〜4:4〜1である。同様に、ニンニク抽出物対有機酸の濃度比は、約1〜16:16〜1であり得て、例えば、ニンニク抽出物対有機酸の濃度比は、約1〜4:4〜1である。少なくとも1種のニンニク抽出物、少なくとも1種のバイオフラボノイド、及び少なくとも1種の有機酸を含む組成物では、ニンニク抽出物対バイオフラボノイド対有機酸の濃度比は、約1〜16:1〜16:1〜16であり得る。あるいは、ニンニク抽出物対バイオフラボノイド対有機酸の濃度比は、約1〜4:1〜4:1〜4であり得る。
【0008】
ニンニク抽出物は、粗ニンニク、アリシン及びアホエンの1つ又は複数から選択されてもよく、バイオフラボノイドは、フラボン、フラボノール、フラバノン、フラバノングリコシド、フラバノノール、フラバン、及びアントシアニジンのからなる群の1つ又は複数から選択されてもよい。これらのバイオフラボノイドは、アカセチン、ロイフォリン、ルテオリン、アピゲニン、タンゲレチン、ケルセチン、ケンフェロール、ミリセチン、フィセチン、ガランギン、イソラムネチン、パキポドール、ラムナジン、ヘスペレチン、ナリンゲニン、エリオジクチオール、ホモエリオジクチオール、ナリンジン、ヘスペリジン、ネオヘスペリジン、カテキン、カルダモニン、プロシアニジン、シリビニン、ゲニステイン又はそれらの任意の組み合わせの1つ又は複数であってもよい。本発明で使用する有機酸は乳酸、酪酸、プロピオン酸、吉草酸、カプロン酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、ソルビン酸、安息香酸、カプリル酸、及びリンゴ酸、又はそれらの任意の組み合わせといった、カルボン酸及びスルホン酸の1つ又は複数から選択されてもよい。
【0009】
本発明は、医薬的に許容される担体及び/又は賦形剤を更に含んでもよい抗微生物組成物を提供する。組成物は、経口、局所、静脈内、筋肉内、直腸(坐薬)、吸入、注入、経皮、舌下、皮下、又は鼻腔内投与用に製剤化され得る。
【0010】
抗微生物組成物は、抗細菌組成物、抗真菌組成物、又は抗寄生虫組成物であってもよい。組成物は、必要に応じ、グラム陰性又はグラム陽性細菌の感染といった細菌感染、真菌感染、又は寄生虫感染の治療又は予防に使用してもよい。
【0011】
本発明は、少なくとも1種のニンニク抽出物及び1種又は複数種のバイオフラボノイド及び/又は1種の有機酸を含む抗微生物組成物を投与することを含む、細菌感染を治療又は予防するための方法を提供する。また、本発明は、少なくとも1種のニンニク抽出物及び1種又は複数種のバイオフラボノイド及び/又は1種の有機酸を含む抗微生物組成物を投与することを含む、真菌感染を治療又は予防するための方法を提供する。また、本発明は、少なくとも1種のニンニク抽出物及び1種又は複数種のバイオフラボノイド及び/又は1種の有機酸を含む抗微生物組成物を投与することを含む、寄生虫感染を治療又は予防するための方法を提供する。
【0012】
本発明は、対象における細菌感染を治療又は予防するための医薬の製造における、又は対象における真菌感染を治療又は予防するための医薬の製造における、又は対象における寄生虫感染を治療又は予防するための医薬の製造における、少なくとも1種のニンニク抽出物及び1種又は複数種のバイオフラボノイド及び/又は1種の有機酸を含む抗微生物組成物の使用を開示する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A-C】図1A-Cは、グラム陽性細菌(B. subtilis、 S. aureus、及びS. viridans)(1A)、グラム陰性細菌(E. coli、P. aeruginosa、及びK. pneumonia)(1B)、酵母(C. tropicalis)(1C)のアリシンに対する応答を示す。
図1D-E】図1D-Eは、細菌(B. subtilis、S. aureus、S. viridans、E. coli、P. aeruginosa、及びK. pneumonia)(1D)及び酵母(C. tropicalis)(1E)のアホエンに対する応答を示す。
【0014】
図2A-C】図2A-Cは、ロイフォリン(A)、アカセチン(B)、及びナリンジン(C)の構造を示す。
図2D-G】図2D-Gは、ナリンゲニン(D)、ケルセチン(E)、アリシン(F)、及びアホエン(G)の構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の組成物において設けられるニンニク抽出物とバイオフラボノイド及び/又は1種の有機酸との組み合わせは、病原性微生物に対して驚くべきかつ予想外の相乗効果をもたらすことが見出された。本発明の組成物のこの相乗効果は、組成物の抗微生物活性に基づいて決定された。特に、2つ以上の成分の混合物を含有する組成物の抗微生物活性が、各成分単独の抗微生物活性の合計よりも高い場合、相乗効果であると決定される。
【0016】
理論に拘束されることはないが、各成分の抗微生物活性の様式は、成分を組み合わせたときに観察される抗微生物活性の相乗効果によると考えられる。例えば、アリシンのようなニンニク化合物は、微生物の表面に対する酸化作用を有する。しかしながら、アホエンは、酵素機能に影響することによって細胞内部で作用する。バイオフラボノイドは、細胞膜を通って取り込まれ、細胞内部で作用する。バイオフラボノイドは酵素阻害活性を有することが知られており、エネルギー代謝を阻害し、更に、細胞膜に損傷を与え、巨大分子の阻害をもたらすと仮定されている。
【0017】
一方、有機酸は、細胞膜を通過し細胞内のpHを変化させることができる。例えば、ギ酸は、酵素活性、特に脱炭酸酵素の酵素活性を阻害する。酢酸は酵素活性を阻害し、熱感受性を高める。プロピオン酸は、いくつかのアミノ酸の合成における膜輸送阻害に影響を及ぼす。乳酸は酵素活性を阻害する。また、ソルビン酸及び安息香酸は、酵素活性、アミノ酸摂取、(細胞膜損傷を誘導する)及びRNA及び/又はDNAの合成を阻害する。カプリル酸は、その親油性のために細胞壁と一体化し、これにより細胞漏出を起こす。
【0018】
本発明の組成物の相乗的な抗微生物活性は、病原性微生物の処理の改善を提供することができ、増大する抗生物質耐性の問題と戦う上で重要な役割を果たすことができる。
【0019】
本発明の抗微生物組成物は、細菌、真菌、藻類、原虫、ウイルス及び亜ウイルス剤を含む微生物の殺滅及び/又はその増殖を阻害し得る。組成物は殺菌(microbicidal)又は静菌(microbiostatic)であってもよく、殺菌剤(disinfectants)、消毒剤(antiseptics)、又は抗生物質(antibiotics)であってもよい。本発明の抗微生物組成物は、抗細菌、抗真菌、又は抗寄生虫組成物であってもよい。
【0020】
アリウム・サティバム(Allium sativum)としても知られているニンニクは、タマネギ属の種である。本発明で使用するニンニク抽出物は、粗ニンニク、アリシン、アホエン、又はそれらの組み合わせの1つ又は複数を含む。ニンニク抽出物は、ジアリルジスルフィド(DADS)又はS-アリルシステイン(SAC)であってもよい。粗ニンニクは、例えば、新鮮な又は粉砕された形態であってもよく、ニンニクジュース、パルプ、注入物、切断物、留出物、残留物、圧搾又は搾り粕を包含する。
【0021】
アリシン(2-プロペン-1-スルフィノチオ酸S-2-プロペニル)は、ニンニク及び他のアリウム種に由来する化学反応性の高い硫黄含有化合物である。アリシンは自然の状態のニンニク内には見出されないが、細胞が損傷し、液胞から酵素アリイナーゼ(アリインリアーゼ)が放出され、化合物アリイン((2R)-2-アミノ-3-[(S)-プロプ-2-エニルスルフィニル]プロパン酸)と接触しアリシンに変換することにより生成される。本発明の組成物での使用に適したアリシンは、天然、合成又は半合成の供給源から得ることができる。
【0022】
アホエン((E,Z)-4,5,9-トリチアドデカ-1,6,11-トリエン9-オキシド)は、別の硫黄系化合物であり、2つの異なる異性体(E及びZ)を形成する。アホエンは、本発明において、両方の異性体の混合物として使用してもよく、純粋なE-又はZ-アホエンであってもよい。アホエンは、特定の条件下でアリシンが熱分解されることで誘導される。
【0023】
本発明の組成物は、好ましくは 少なくとも1種のニンニク抽出物及び少なくとも1種のバイオフラボノイド、又は少なくとも1種のニンニク抽出物、及び少なくとも1種の有機酸、あるいは、少なくとも1種のニンニク抽出物、少なくとも1種のバイオフラボノイド、及び少なくとも1種の有機酸を含む。
【0024】
本発明の組成物は、成分の特定の比率を有してもよい。例えば、ニンニク抽出物対バイオフラボノイドの比率は、約1〜16:16〜1、好ましくは 1〜4:1〜4であってもよい。同様に、ニンニク抽出物対有機酸の比率は、約1〜16:16〜1、好ましくは約1〜4:4〜1であってもよい。本発明の一実施形態では、ニンニク抽出物対バイオフラボノイド対有機酸の比率は、約1〜16:1〜16:1〜16、好ましくは、約1〜4:1〜4:1〜4であってもよい。ニンニク抽出物、バイオフラボノイド及び有機酸の組成物の濃度比の一例は、1: 4: 2である。
【0025】
バイオフラボノイド(フラボノイドとしても知られている)は、植物によって産生される天然に存在するポリフェノール化合物である。化学的には、バイオフラボノイドは、2つのフェニル環及び1つの複素環からなる15炭素骨格の構造を有し、その基本構造に基づいて各カテゴリに細分される。本発明における使用に適したバイオフラボノイドとしては、アントキサンチン類、例えば、フラボン、フラボノール、フラバノン(フラバノン-グリコシドを含む)、フラバノノール、フラバン、アントシアニジン、又はそれらの任意の組み合わせが挙げられる。あるいは、バイオフラボノイドは、イソフラボノイド又はネオフラボノイドであり得る。
【0026】
本発明における使用に適したフラボンとしては、アカセチン、ロイフォリン(アピゲニン7-O-ネオヘスペリドシド)、ルテオリン、アピゲニン、及びタンゲレチンが挙げられる。フラボノールとしては、ケルセチン、ケンフェロール、ミリセチン、フィセチン、ガランギン、イソラムネチン、パキポドール、ラムナジン、ピラノフラボノール、及びフラノフラボノールが挙げられる。フラバノンとしては、ヘスペレチン、ナリンゲニン、エリオジクチオール、及びホモエリオジクチオール、並びにフラバノン-グリコシド、例えば、ナリンジン、ヘスペリジン、及びネオヘスペリジンが挙げられる。
【0027】
好ましくは、本発明の組成物は、アカセチン、ロイフォリン、ルテオリン、アピゲニン、タンゲレチン、ケルセチン、ケンフェロール、ミリセチン、フィセチン、ガランギン、イソラムネチン、パキポドール、ラムナジン、ヘスペレチン、ナリンゲニン、エリオジクチオール、ホモエリオジクチオール、ナリンジン、ヘスペリジン、ネオヘスペリジン、カテキン、カルダモニン、プロシアニジン、シリビニン、ゲニステイン、又はそれらの組み合わせの1つ又は複数を含む。
【0028】
本発明の組成物は、アリシンと、フラボン、フラボノール、フラバノン、フラバノノール、フラバン、及びアントシアニジン、又はそれらの組み合わせの1つ又は複数とを含んでもよい。あるいは、本発明の組成物は、アホエンと、フラボン、フラボノール及びフラバノン、フラバノノール、フラバン及びアントシアニジン、又はそれらの組み合わせとを含んでもよい。本発明の実施形態では、組成物は、追加的に、1種又は複数種の有機酸を含んでもよい。
【0029】
有機酸とは、酸性の性質を有する有機化合物であり、カルボン酸及びスルホン酸を含む。本発明の組成物における使用に適した有機酸としては、乳酸、酪酸、プロピオン酸、吉草酸、カプロン酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、ソルビン酸、安息香酸、カプリル酸、及びリンゴ酸、又はそれらの任意の組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない。
【0030】
本発明の組成物は、投与様式及び剤形の性質によって、1種又は複数種の医薬的に許容される担体及び/又は賦形剤、例えば、希釈剤、アジュバント、賦形剤、ビヒクル、充填剤、結合剤、崩壊剤、湿潤剤、乳化剤、懸濁化剤、芳香剤、緩衝剤、分散剤、増粘剤、可溶化剤、潤滑剤及び分散剤を含んでもよい。
【0031】
組成物は、例えば、錠剤、カプセル、糖衣錠、ロゼンジ、顆粒、散剤、ペレット、及びカシェ剤を含む固体製剤の形態;ゲル、ローション、懸濁液、エリキシル、シロップ、懸濁液、スプレー、エマルジョン、及び溶液を含む液体製剤の形態を採り得る。
【0032】
本発明の組成物は、追加の抗菌剤、栄養剤、又は栄養補助食品のような任意の適切な追加成分を含む組成物の形態で投与してもよい。
【0033】
本発明の組成物は、香味剤、着色剤、安定剤、防腐剤、人工甘味料及び天然甘味料などの添加剤を含有することもできる。
【0034】
本発明の組成物は、細菌感染を治療又は予防において使用するためのものであってもよい。細菌感染はグラム陽性細菌の感染又はグラム陰性細菌の感染、又はそれらの組み合わせであってもよい。 グラム陽性細菌 は、例えば、S. viridansといったStreptococci属、S. aureusといったStaphylococci属、並びに、B. subtilis、B. anthracis、及びB. cereusといったBacillus属を含む。
【0035】
グラム陰性細菌は、例えば、E. coli、P. aeruginosaといったPseudomonas属、並びに、K. pneumonia、K. aerogenes、及びK. oxytocaといったKlebsiella属を含む。好ましくは、感染はグラム陰性細菌の感染である。組成物は、グラム陽性細菌の感染も治療又は予防において使用するためものであってもよい。
【0036】
本発明の組成物は、真菌感染を治療又は予防において使用するためのものであってもよい。真菌感染はカンジダ感染、例えばC.albicans、C.parapsilosis、又はC. tropicalis、あるいはそれらの組み合わせによる感染であってもよい。
【0037】
本発明は、本発明の抗微生物組成物をそれを必要とする対象に投与することを含む、細菌、真菌、又は寄生虫感染を治療又は予防する方法も提供する。
【0038】
組成物は、経口、局所、静脈内、筋肉内、直腸(坐薬)、吸入、注入、経皮、舌下、皮下、又は鼻腔内投与用に製剤化してもよい。好ましくは 、組成物は、経口又は局所投与用に製剤化される。
【0039】
本発明の一つの実施形態では、組成物は、経口摂取前に食物又は食品と組み合わせることができる。固体又は液体の形態の調製物を、食物又は食品に混ぜ合わせてもよく、又は対象の食物、食品、又は飼料に塗布してもよい。このような固体形態には、粉末、顆粒、ペレットなどが含まれる。
【0040】
特定の実施形態では、対象は、ヒト、霊長類、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、トリ、げっ歯類(マウス又はラットなど)、ネコ、又はイヌである。好ましくは、対象はヒトである。対象は、雌ウシ、雄ウシ、シカ、ヤギ、ヒツジ、及びブタなどの畜産動物、イヌ、ウマ、及びポニーなどの作業・スポーツ用の動物、イヌ及びネコなどの愛玩動物、ならびにウサギ、ラット、マウス、ハムスター、アレチネズミ、又はモルモット等の実験動物が挙げられる。
【0041】
本発明は、対象における細菌感染を治療又は予防するための医薬の製造における、又は対象における真菌感染を治療又は予防するための医薬の製造における、又は対象における寄生虫感染を治療又は予防するための医薬の製造における、少なくとも1種のニンニク抽出物及び1種又は複数種のバイオフラボノイド及び/又は1種の有機酸を含む抗微生物組成物の使用を開示する。
【0042】
本発明で具体化される抗微生物組成物は、一般的な病原性微生物、特に広範に分布し、ヒト又は哺乳類の体と共生し得るもの、に対する治療又は予防として有用であり得る。これらの微生物には、ヒト又は哺乳動物の上気道、消化管、口腔、皮膚、尿路、又は女性生殖管に存在する病原体が含まれ得る。
【0043】
本開示は、添付の特許請求の範囲に含まれる特徴及び上で説明した特徴を含む。本発明をある程度の詳細をもって好ましい形態で記載したが、好ましい形態の本開示はあくまで例示としてであり、本発明の範囲から逸脱することなくその構成の詳細に種々の変形を加えてもよく、またその構成の部分を組み合わせてもよい。
【0044】
本発明を、添付の図面を参照し特定の実施形態により説明する。
【実施例】
【0045】
以下に、本発明の様々な態様及び実施形態を例示するための実施例を示す。これらの実施例は、本開示の発明を限定するものではなく、本開示の発明は、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0046】
実施例1
ニンニク抽出物とバイオフラボノイドとの相乗効果試験
アリシンとアホエンの抗微生物性効果が、バイオフラボノイドのフラボン(例えばロイフォリン)、フラボノール(例えばケルセチン)、フラバノン(例えばナリンゲニン)、及びフラバノングリコシド(例えばナリンジン)群のポリフェノールによって相乗的に増強され得るかどうかを試験するために相乗的試験を行った。
【0047】
相乗効果の存在は、混合物の阻害結果から化合物と濃度が対応する各化合物の個々の阻害結果を差し引くことによって決定した。結果が0より大きいと、組み合わせがその個々の部分の合計より大きな効果を有するため、相乗効果があるとした。
【0048】
選択されたグラム陽性菌、グラム陰性菌及び酵母に対するバイオフラボノイド(BC)、アリシン(AL)、及びアホエン(AJ)の最小阻害濃度(MIC)を決定するために、Wiegand、Hilpert and Hancock(2008)による96ウェルプレートを用いた改変ブロス希釈アッセイを実施した。
【0049】
実施例2
微生物培養物の調製
試験目的で、1種のグラム陽性種(S. aureus)、3種のグラム陰性種(E. coli、P. aeruginosa、及びK. pneumonia)、並びに酵母(C. tropicalis)を使用した。
【0050】
試験用の微生物はカーディフ大学から得た。試験に用いた培養物は、微生物を純粋なプレート培養から50mlの無菌栄養ブロスへ無菌接種することによって調製した。培養物を攪拌せずに37.0℃で一晩インキュベートした。使用前に、培養物を卓上遠心分離機で3000RPMで15分間遠心分離することで洗浄し、ペレットを滅菌生理食塩水(0.85%NaCl)に再懸濁した。
【0051】
実施例3
化合物の調製
個々のそして組み合わせとしての化合物の活性を測定するために、各化合物の濃度範囲を倍加希釈で使用した。使用した最高濃度は、対象の生物(グラム陽性細菌、グラム陰性細菌、又は酵母)により異なった。試験で使用した最高濃度から、化合物あたり6つの異なる濃度となるように試料を5回に希釈した。化合物はすべて個々に試験し、また、同様にAL:BC、AJ:BC、及びAL:AJ:BCの混合物を含む各濃度のマトリックスにおいても試験した。AL及びAJの希釈勾配は、BCのものに対し逆になるようにした(図1A〜Hに示されるように)。
【0052】
ニンニク化合物の同定は、較正法を用いたHPLC分析によって確認した。バイオフラボノイドはその成分確認用の分析保証書付きでSigma-Aldrichから購入した。
【0053】
アリシン試料は水溶液であったため水を用いて直接希釈した。しかし、アホエンは油状であり、バイオフラボノイドは粉末形態であり、どちらも水溶性ではなかった。希釈前に、80%DMSOを用いてストック溶液を作製することにより、アホエン及びバイオフラボノイドを可溶化した。
【0054】
実施例4
プレートの調製
96ウェルプレートのウェルを以下のように三連で調製した:AL、AJ、及びBCをエッペンドルフチューブ中で必要な最終濃度の10倍濃度に予備希釈した。20μlの各希釈液を1ウェルずつ添加して、ウェルあたり200μlの最終容量にて1:10希釈とした。アリシン:バイオフラボノイド、アホエン:バイオフラボノイド、及びアリシン:アホエン:バイオフラボノイドの混合物の濃度マトリックスを使用し、アリシン及びアホエンの希釈勾配をバイオフラボノイドのものに逆行させた。使用した濃度は、50μg/ml、25μg/ml、12.5μg/ml、6.25μg/ml、3.125μg/ml及び1.5625μg/mlである。
【0055】
130μlの滅菌栄養ブロス(Nutrient Broth No.3(Sigma 70149))を各ウェルに添加した。
【0056】
各微生物の生理食塩水による懸濁液50μlを各ウェルに添加した(陰性対照を除く)。各種の微生物を、個々のアッセイ用(コントロール)の第1のプレート及びマトリックス試験用の第2のプレートの2つのプレートに添加した。プレートを攪拌せずに一晩37.0℃でインキュベートした。
【0057】
実施例5
データ収集と分析
個々のプレートをTecanプレートリーダーを用いて600nmで走査し、吸光度を分析用にカンマ区切りのファイルに記録した。
【0058】
各サンプルの吸光度を対照培養物(処理なし)の増殖(吸光度)と比較してMIC(プレート及びブロスの吸光度を差し引いて、陰性対照に対しブランクになった値の全て)を決定した。3回の実験の平均及び標準偏差を決定し、平均を散布図にプロットして比較した。
【0059】
ニンニク抽出物の個々の化合物に対する微生物の応答は、図1に示すように用量(濃度)依存的であった。表1に反映されるように、非常に低い濃度でMICに達した。
【0060】
【表1】
【0061】
抗微生物活性の相乗効果は、個々の化合物の相加効果よりも高い抗微生物活性として測定された。
【0062】
表2は、AL、AJ、および選択されたバイオフラボノイド間における1つ又は複数の以上の濃度の組み合わせにつき相乗効果があったか(Yes)又はなかったか(No)を示す。バイオフラボノイドとニンニク抽出物との様々な組み合わせにつき相乗効果を生じた濃度の全リストを表3に示す。相乗効果が奏される場合とは、組み合わせによって奏される阻害効果が2つの個々の化合物の相加的な阻害効果を超えたときであり、ここで各組み合わせにつきこの効果は濃度依存的であるときである。
【0063】
【表2】
【0064】
表3は、4つの個々のバイオフラボノイド(ナリンゲニン、ナリンジン、ケルセチン及びロイフォリン)と組み合わせた、各濃度のアリシン及びアホエンのそれぞれについての相乗効果の測定値を示す。表3では、アリシン又はアホエン+バイオフラノイドの順で結果を示す。
【0065】
【表3】
【0066】
相乗効果は、アリシンについての20の試験パラメーターならびにアホエンについての20の試験パラメーターで見られる。試験した生物、特にグラム陰性菌を選択した場合、ニンニクとバイオフラボノイドとの間での高い相乗効果率が示される。
【0067】
相乗的な組み合わせのいくつかは、例えば表3に見られるように、他のものよりも濃度依存性が高い。C. tropicalisは、アリシン+ナリンジン及びアリシン+ナリンゲニンの両方について1の濃度でしか相乗効果しか示さなかった。対照的に、E. coliは、アリシンと組み合わせた場合、全てのバイオフラボノイドについて、全ての濃度範囲にわたって相乗効果を示した。
【0068】
この試験の結果は、選択した物質間の相乗効果が、増大する抗生物質耐性の問題に対する解決策として適している可能性があることを示唆している。この試験の結果は、試験したグラム陰性菌に対して相乗効果が特に高いので、かかる脅威に対する解決策を提供するかもしれない。
【0069】
実施例6
ニンニク抽出物、バイオフラボノイド、及び有機酸間の相乗効果試験
ニンニク抽出物、バイオフラボノイド、及び有機酸間の相乗効果を試験するための実験用マトリックスを設定した。選択した例示的な化合物は以下の通りである:
(a) ニンニク抽出物:アリシン(Al)及びアホエン(Aj);
(b) バイオフラボノイド:ケルセチン(Q)及びアカセチン(Ac);並びに、
(c) 有機酸:クエン酸(C)及びリンゴ酸(M)
【0070】
微生物培養物、化合物、プレートの調製は、実施例2〜4に詳述した手順により行った。データを収集し分析した。表4及び5に示す。
【0071】
表4は、実施例2に記載した一連の微生物、すなわち、S. aureus、E. coli、P. aeruginosa、K. pneumonia、C. tropicalisと、追加のグラム陽性細菌株 S. viridansに対する、ニンニク抽出物、バイオフラボノイド、及び有機酸の様々な組み合わせの相乗的な阻害効果の不存在(No)又は存在(Yes)をまとめたものである。表5は、相乗効果を生じた濃度の完全なリストである。表5において、濃度比の結果は、(アリシン又はアホエン)+(リンゴ酸又はクエン酸)+(アカセチン又はケルセチン)の順で示されている。
【0072】
グラム陽性細菌 (S. aureus及びS. viridans)、グラム陰性細菌 (E. coli、P. aeruginosa、及びK. pneumonia)及び酵母(C. tropicalis)を含む試験した生物に関し、3種の活性成分、すなわちニンニク抽出物、バイオフラボノイド、及び有機酸の組み合わせによって示される相乗効果率が高いことが示された。
【0073】
【表4】
【0074】
【表5】
図1A-C】
図1D-E】
図2A-C】
図2D-G】