(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6808659
(24)【登録日】2020年12月11日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】火炎溶射熱分解を用いて金属酸化物粉末を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20201221BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
C01B33/18 Z
B01J19/00 N
B01J19/00 301D
【請求項の数】8
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-568077(P2017-568077)
(86)(22)【出願日】2016年6月28日
(65)【公表番号】特表2018-526309(P2018-526309A)
(43)【公表日】2018年9月13日
(86)【国際出願番号】EP2016064929
(87)【国際公開番号】WO2017001366
(87)【国際公開日】20170105
【審査請求日】2019年5月13日
(31)【優先権主張番号】15174259.0
(32)【優先日】2015年6月29日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】スティパン カトゥシッチ
(72)【発明者】
【氏名】ペーター クレス
(72)【発明者】
【氏名】ハラルト アルフ
(72)【発明者】
【氏名】トビアス レンガー
(72)【発明者】
【氏名】アーミン ヴィーガント
【審査官】
若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】
特表2013−521208(JP,A)
【文献】
特開平11−049502(JP,A)
【文献】
特開2006−213591(JP,A)
【文献】
特開2002−060214(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0226362(US,A1)
【文献】
MADLER, L. et al.,Controlled synthesis of nanostructured particles by flame spray pyrolysis,J. Aerosol Sci. ,英国,Elsevier Science Ltd. ,2002年 1月 1日,Vol. 33,pp. 369-389
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 10/00−12/02
14/00−19/32
C01B 13/00−13/36
33/00−33/193
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
火炎溶射熱分解を用いた、0.05質量%未満の炭素含有率を有する金属酸化物粉末の製造方法において、
金属化合物を含むエアロゾルを反応器中で火炎内に導入し、かつここで反応させ、かつ得られた前記金属酸化物粉末をガス状の物質から分離し、ここで、
a) 酸素を含むガス(1)を、燃料ガスと共に点火することにより火炎を形成させ、
b) 1つ以上のノズルを用いて、金属化合物を含む溶液と噴霧ガスとを一緒に噴霧することにより前記エアロゾルを得て、かつ
c) 噴霧面積の反応器横断面積に対する比率が、少なくとも0.2であり、
前記金属化合物の金属成分は、Al、Co、Cr、Cu、Fe、Hf、In、Li、Mn、Mo、Nb、Ni、Si、Sn、Ta、Ti、V、Y、Zn、およびZrからなる群から選択され、
前記金属化合物は、前記金属成分の他に炭素を含むことを特徴とする、金属酸化物粉末の製造方法。
【請求項2】
前記エアロゾルの噴霧形状は、70〜130°の散乱範囲を有する円錐形であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
噴霧された前記エアロゾルの平均液滴サイズは、10〜150μmであることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記金属化合物を含む溶液と前記噴霧ガスとを前記ノズル内の混合室内へ流入させ、かつ前記混合室内に配置された組込部材が、前記噴霧ガスの作用下で前記溶液を個々の液滴に分割し、かつ前記エアロゾルを前記混合室から穿孔を介して前記反応器中へ導入することにより、前記エアロゾルを製造することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
反応器壁部の1つ以上の箇所を介して、前記火炎を取り囲む酸素を含むガス(2)を前記反応器中へ導入することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
酸素を含むガス(2)/酸素を含むガス(1)=0.1〜2であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記金属化合物は、シラン、ポリシロキサン、環状ポリシロキサン、シラザン、およびこれらの任意の混合物からなる群から選択されるケイ素含有化合物であることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
ケイ素含有化合物を含むエアロゾルを反応器中で火炎内に導入し、かつここで反応させ、かつ得られたケイ酸粉末を、ガス状の物質から分離する、火炎溶射熱分解を用いた、少なくとも50m2/gのBET表面積および0.05質量%未満の炭素含有率を有するケイ酸粉末の製造方法において、
a) 酸素を含むガス(1)を、燃料ガスと共に点火することにより火炎を形成させ、
b) 前記ケイ素含有化合物を、シラン、ポリシロキサン、環状ポリシロキサン、シラザン、およびこれらの任意の混合物からなる群から選択し、
c) 1つ以上のノズルを用いて、前記ケイ素含有化合物を含む溶液と噴霧ガスとを一緒に噴霧することにより前記エアロゾルを得て、かつ噴霧面積の反応器横断面積に対する比率が、少なくとも0.2であり、かつ
d) 付加的に、酸素を含むガス(2)を反応器中に導入し、ここで、酸素を含むガス(2)/酸素を含むガス(1)の比率=0.1〜2であり、
前記ケイ素含有化合物は、さらに炭素を含むことを特徴とする、ケイ酸粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火炎溶射熱分解を用いて金属酸化物粉末を製造する方法に関する。
【0002】
Chemical Engineering Science, Vol. 53, No. 24, pp. 4105-4112, 1998には、火炎拡散反応器中でシロキサンを酸素/窒素混合物および燃料ガスと反応させることによりシリカ粒子を製造することが記載されている。
【0003】
独国特許出願公開第10139320号明細書(DE-A-10139320)には、10nm〜10μmの粒子サイズおよび3〜300m
2/gの比表面積を有する球状のシリカ粒子を製造することが開示されている。この場合、非ハロゲン化シロキサンを火炎内で反応させる。断熱火炎温度は、この場合、1600〜5600℃である。シロキサンの燃焼は、シロキサンを液状の形でバーナー内に供給し、かつこの液体をノズルを用いて噴霧することにより実施される。シロキサンの噴霧は、噴霧媒体、例えば空気または蒸気の使用下で行われる。最大液滴直径は、100μm以下である。
【0004】
欧州特許出願公開第1688394号明細書(EP-A-1688394)には、反応室内で700℃を越える反応温度でエアロゾルを酸素と反応させることにより、少なくとも20m
2/gのBET表面積を有する金属酸化物粉末の製造方法が開示されている。このエアロゾルは、多流体ノズルを用いて出発材料の噴射により得られる。液滴直径D
30を、30〜100μmとすることが特に重要である。さらに、100μmよりも大きいエアロゾル液滴の数は10%に制限されている。
【0005】
米国特許出願公開2004/156773号明細書(US2004156773)には、熱分解金属酸化物粒子の製造方法が開示されていて、この方法は、工程:揮発可能な非ハロゲン化金属酸化物前駆体からなる液状の出発材料の流を準備すること、燃料ガスからなる流を準備すること、および液状の出発材料を燃焼させること;燃焼ガスの流れ内に液状の金属酸化物前駆体を噴射することを含む。
【0006】
国際公開第2010/069675号(WO2010/069675)には、低い表面積の熱分解二酸化ケイ素粉末が開示されている。この粉末は、少なくとも1種の液状のシロキサンを酸素含有ガスを用いて噴射することにより得られたエアロゾルを火炎内に導入することにより製造される。この場合、使用された酸素/完全な酸化のための酸素必要量の比率、酸素/燃料ガスの比率、および冷却プロセスに関する付加的条件が重要である。噴射の際に形成される液滴が100μmより大きいことは好ましくない。
【0007】
Powder Technology 246 (2013) 419-433およびChemical Engineering Research and Design 92 (2014) 2470-2478には、ノズル形状の効果、液滴分布、および液滴蒸発を、火炎溶射熱分解の他のプロセスパラメータとの関連で、モデルに基づき調査している。
【0008】
火炎溶射熱分解は、金属酸化物を製造するための確立された方法であるにもかかわらず、プロセスパラメータの相互作用が後の製品の特性をどのように決定するのかについての理解は、手掛かりしか解明されていない。例えば、出発物質、ことに炭素含有の出発物質を、高いスループットと同時に完全に反応させることは、特別な挑戦である。
【0009】
したがって、本発明の課題は、これらの問題を克服する、火炎溶射熱分解を用いて金属酸化物を製造する代替法を提供することであった。
【0010】
本発明の主題は、金属化合物を含むエアロゾルを反応器中で火炎内に導入し、かつここで反応させ、かつ得られた金属酸化物粉末をガス状の物質から分離する、火炎溶射熱分解を用いて金属酸化物粉末を製造する方法であり、ここで、
a) 酸素を含むガス(1)を、燃料ガスと共に点火することにより火炎を形成させ、
b) 1つ以上のノズルを用いて、金属化合物と噴霧ガスとを一緒に噴霧することによりエアロゾルを得て、かつ
c) 噴霧面積の反応器横断面積に対する比率が、少なくとも0.2、好ましくは0.2〜0.8、特に好ましくは0.3〜0.7である。
【0011】
噴霧面積とは、この場合、ノズル出口から30cm下でエアロゾルが占める面積であると解釈される。火炎内でのエアロゾルの反応に好ましい影響を及ぼす極めて微細な噴霧および大きな面積被覆率は、この噴霧面積の反応器横断面積に対する本発明による比率に基づく。
【0012】
エアロゾルの噴霧形状は、好ましくは、70〜130°の散乱範囲を有する円錐形である。この噴霧されたエアロゾルの平均液滴サイズは、好ましくは10〜150μmである。
【0013】
特別な実施形態は、金属化合物を含む溶液と噴霧ガスとをノズル内の混合室内へ流入させ、かつこの混合室内に配置された組込部材が噴霧ガスの作用下で溶液を個々の液滴に分割し、かつエアロゾルを混合室から穿孔を介して反応器中へ導入することにより、エアロゾルを製造することを予定する。
【0014】
本発明による方法の場合に、酸素を含むガス(1)を使用する。これは、燃料ガスと一緒に、火炎の点火のために必要である。さらに、酸素を含むガス(2)を反応器中へ導入することができる。酸素を含むガス(1)および(2)は、一般に空気である。酸素を含むガス(1)は、一次空気といわれ、酸素を含むガス(2)は、二次空気といわれる。好ましくは、酸素を含むガス(2)の量は、酸素を含むガス(2)/酸素を含むガス(1)の比率=0.1〜2であるように調整される。特に好ましいのは0.2〜1の範囲である。酸素を含むガス(1)+(2)の量は、燃料ガスと金属化合物とが完全に反応することができるように算定される。燃料ガスとして、好ましくは水素を使用する。
【0015】
噴霧ガスとして、本発明による方法の場合に、空気、酸素が富化された空気、および/または窒素のような不活性ガスを使用することができる。一般に、空気を噴霧ガスとして使用する。噴霧ガス量については、本発明による方法によると、金属化合物のスループット/噴霧ガス量の比率が、好ましくは0.1〜10kg/Nm
3、特に好ましくは0.25〜5kg/Nm
3であることが重要である。
【0016】
金属化合物は、それ自体、液状の形でまたは溶液の形で使用することができる。溶媒として、水および有機溶媒が挙げられる。
【0017】
金属化合物の金属成分は、好ましくは、Al、Co、Cr、Cu、Fe、Hf、In、Li、Mn、Mo、Nb、Ni、Si、Sn、Ta、Ti、V、Y、Zn、およびZrからなる群から選択される。本発明の範囲内で、特に好ましいSiは、金属と見なすべきである。
【0018】
原則的に、金属化合物の性質は、この金属化合物が反応条件下で金属酸化物を形成しながら加水分解可能であるかまたは酸化可能である限り、他に制限はない。例えば、塩化物、硝酸塩、または有機金属化合物を使用することができる。同様に、溶液は、1つの金属の多様な金属化合物、または異なる金属成分を有する複数の金属化合物を含むことも可能である。後者の場合に、混合金属酸化物が形成される。
【0019】
本発明による方法は、特に、金属成分の他に炭素も含む金属化合物の使用に適している。この方法は、炭素貧有の金属酸化物の製造を可能にする。炭素貧有とは、金属酸化物の炭素含有率が、0.1質量%未満、好ましくは0.05質量%未満であることを意味すべきである。
【0020】
ことに、金属化合物は、シラン、ポリシロキサン、環状ポリシロキサン、シラザンおよびこれらの任意の混合物からなる群から選択されるケイ素含有化合物であることができる。詳細には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジエチルプロピルエトキシシラン、シリコーン油、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサンおよびヘキサメチルジシラザンが挙げられる。
【0021】
本発明の特別な実施形態は、ケイ素含有化合物を含むエアロゾルを反応器中で火炎内に導入し、かつここで反応させ、かつ得られたケイ酸粉末を、ガス状の物質から分離する、火炎溶射熱分解を用いた少なくとも50m
2/g、好ましくは70〜300m
2/gのBET表面積、および0.1質量%未満、好ましくは0.01〜0.05質量%の炭素含有率を有するケイ酸粉末の製造を予定し、
この際、
a) 酸素を含むガス(1)を、燃料ガスと共に点火することにより火炎を形成させ、
b) ケイ素含有化合物を、シラン、ポリシロキサン、環状ポリシロキサン、シラザン、およびこれらの任意の混合物からなる群から選択し、
c) 1つ以上のノズルを用いて、ケイ素含有化合物を含む溶液と噴霧ガスとを一緒に噴霧することによりエアロゾルを得て、かつ噴霧面積の反応器横断面積に対する比率が、少なくとも0.2、好ましくは0.2〜0.8、特に好ましくは0.3〜0.7であり、かつ
d) 付加的に、酸素を含むガス(2)を反応器中に導入し、ここで、酸素を含むガス(2)/酸素を含むガス(1)の比率=0.1〜2である。
【0022】
実施例
実施例1:
D4 1.0kg/hおよび噴霧空気4.0kg/hから、内部混合型の二流体ノズル、Schlick社のモデル0/60-0/64を用いてエアロゾルを製造し、このエアロゾルを反応器中で火炎内へ噴霧する。0.88dm
2の噴霧面積が生じる。噴霧面積/反応器横断面積の比率は0.5である。反応器中で、水素(2Nm
3/h)と一次空気(20Nm
3/h)からなる爆鳴気火炎を燃焼させ、この火炎内でエアロゾルを反応させる。付加的に、二次空気(5Nm
3/h)を反応器中へ導入する。冷却後に、フィルターでガス状の物質からケイ酸を分離する。反応器中での反応混合物の平均滞留時間は、1.67秒である。火炎の0.5m下の温度は642℃である。ケイ酸は、202m
2/gのBET表面積および0.04質量%の炭素含有率を有する。
【0023】
実施例2〜8を同様に実施する。使用量は、表内に記載されている。
【0024】
噴霧面積/反応器横断面積の比率は、この場合0.35〜0.62に変更する。得られたケイ酸は、85〜293m
2/gのBET表面積を有し、この場合、0.01〜0.04質量%を有する炭素含有率は、一貫して極めて低い。
【0025】
比較例V1〜V4も、実施例1と同様に実施するが、ここでは外部混合型の二流体ノズル、Schlick社のモデル02-09を使用する。明らかに小さな噴霧面積および相応して噴霧面積/反応器横断面積の明らかに小さな比率が生じる。得られたケイ酸は、16〜70m
2/gのBET表面積を有し、この場合、0.13〜0.16質量%を有する炭素含有率は明らかに高められている。
【0026】
表:使用材料および反応条件;物質特性
【表1】