【実施例】
【0072】
次に、具体的な製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0073】
[製造例1:環状カーボネート含有化合物(I−A)の合成]
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、エポキシ当量192のビスフェノールAジグリシジルエーテル(商品名:jER828、ジャパンエポキシレジン社製)100部と、触媒としてヨウ化ナトリウム(和光純薬社製)20部と、反応溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン100部とを仕込んだ。次いで、撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて10時間反応を行った。そして、反応終了後の溶液に、イソプロパノール1400部を加え、反応物を白色の沈殿として析出させ、濾別した。得られた沈殿物をトルエンにて再結晶を行い、白色の粉末52部を得た(収率42%)。
【0074】
上記で得られた粉末を、FT−IR(堀場製作所社製、商品名:FT−720、以下の製造例でも同様の装置を使用して測定)にて赤外分光分析したところ、910cm
-1付近の原材料のエポキシ基由来の吸収は消失しており、1800cm
-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル由来の吸収が確認された。また、HPLC〔日本分光社製、LC−2000(商品名)、カラム:FinepakSIL C18−T5、移動相:アセトニトリル+水〕による高速液体クロマトグラフィー分析の結果、原材料のピークは消失し、高極性側に新たなピークが出現し、その純度は98%であった。また、DSC測定(示差走査熱量測定)の結果、融点は178℃であり、融点範囲は±5℃であった。
【0075】
以上のことから、この粉末は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により環状カーボネート基が導入された下記式で表わされる構造の化合物であると確認された。これをI−Aと略称した。I−Aの化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、20.5%であった(計算値)。
【0076】
[製造例2:環状カーボネート含有化合物(I−B)の合成]
エポキシ化合物として、エポキシ当量115のハイドロキノンジグリシジルエーテル(商品名:デナコールEX203、ナガセケムテックス社製)を用いた以外は、前記した製造例1と同様の方法で、下記式(I−B)で表わされる構造の環状カーボネート化合物を合成した(収率55%)。得られたI−Bは、白色の結晶であり、融点は141℃であった。FT−IR分析の結果は、I−Aと同様に910cm
-1付近の原材料のエポキシ基由来の吸収は消失しており、1800cm
-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル由来の吸収が確認された。HPLC分析による純度は97%であった。I−Bの化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、28.4%であった(計算値)。
【0077】
【0078】
<実施例で使用するカチオン性基含有ヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体の製造>
[実施例用の分散体製造例1]
(転相乳化前のヒドロキシポリウレタン樹脂の合成)
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、製造例1で得た化合物I−Aを100部、ジエチレントリアミン(東京化成工業社製)12.0部、へキサメチレンジアミン(東京化成工業社製)を13.6部、さらに反応溶媒としてテトラヒドロフラン(以下、THFと略記)188部を加え、60℃の温度で撹拌しながら24時間の反応を行い、中間体としての構造中に2級アミノ基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂を得た。反応後の樹脂溶液をFT−IRにて分析したところ、1800cm
-1付近に観察されていた環状カーボネートのカルボニル基由来の吸収が完全に消失しており、新たに1760cm
-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。得られた樹脂溶液を用いて測定した樹脂のアミン価は、樹脂分100%の換算値として52.1mgKOH/gであった。
【0079】
次いで、この樹脂溶液に、カチオン化剤として、カチオマスターG(商品名、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、四日市工業社製、固形分70%水溶液)25.3部を加え、60℃で反応を行い、FT−IRにてカチオン化剤のエポキシ基由来の910cm
-1のピークが消失したことを確認してカチオン化反応を終了し、転相乳化前のカチオン性基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。
【0080】
得られた樹脂の物性を確認するために、上記の樹脂溶液を、乾燥時の膜厚が50μmになるように、バーコーターにて離型紙に塗布し、70℃オーブンで溶剤を乾燥させた後、離型紙を剥がして、樹脂製の樹脂フィルムを得た。得られた樹脂フィルムについて、外観、機械強度(破断強度及び破断伸度)を後述する方法で評価した。また、樹脂について、後述する方法で、分子量(GPCで測定)、カチオン性基の濃度及び水酸基価を測定した。その際、水酸基価についてはカチオン化後の測定が困難なことより、カチオン化前のアミノ基含有ヒドロキシポリウレタンの水酸基価を測定し、カチオン化反応が100%行われたものとして計算した。その結果を表1に示した。また、このカチオン性基含有ヒドロキシポリウレタン樹脂の樹脂骨格中に締める二酸化炭素の質量%は14.3%(計算値)である。
【0081】
(水分散体の製造)
次に、上記で得られた樹脂溶液100部を、撹拌翼を備え加熱と減圧が可能な反応容器に移し、イオン交換水100部を徐々に添加し、転相乳化を行った。次に、反応容器を50℃に加温、減圧し、THFを留去することにより、水中にヒドロキシポリウレタン樹脂が分散してなる水分散体を得た。得られた水分散体は、固形分が28%となるように調整し、外観上均一な水分散体であった。水分散体中のポリマー分散粒子の粒度分布は、d50=0.025μm(=25nm)であった。粒度分布は、UPA−EX150(商品名、日機装社製)を用いて測定した。他の例でも同様である。
【0082】
[実施例用の分散体製造例2]
(転相乳化前のヒドロキシポリウレタン樹脂の合成)
分散体製造例1で用いたのと同様の反応容器内に、製造例2で得た化合物I−Bを100部、メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)を21.9部、ジエチレントリアミンを16.6部、反応溶媒としてTHFを208部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間の反応を行い、中間体としての構造中に2級アミノ基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂を得た。反応後の樹脂溶液について行ったFT−IRによる反応経過確認の結果は、分散体製造例1の場合と同様であった。得られた樹脂溶液を用いて測定した樹脂のアミン価は、樹脂分100%の換算値として65.2mgKOH/gであった。次いで、カチオン化剤としてカチオマスターGを34.9部加え、60℃で反応を行い、転相乳化前のカチオン性基含有ヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。得られた樹脂を分散体製造例1で行ったと同様に分析し、結果を表1に示した。このカチオン性基含有ヒドロキシポリウレタン樹脂の樹脂骨格中に締める二酸化炭素の質量%は、17.4%(計算値)である。
【0083】
(水分散体の製造)
次いで、分散体製造例1と同様の方法で、水406部を添加し転相乳化を行った後にTHFを留去することで、ヒドロキシポリウレタン水分散体を得た。水分散体中のポリマー分散粒子の粒度分布は、d50=0.020μm(=20nm)であった。
【0084】
[実施例用の分散体製造例3]
(転相乳化前のヒドロキシポリウレタン樹脂の合成)
分散体製造例1で用いたのと同様の反応容器内に、製造例1で得た化合物I−Aを100部、ヘキサメチレンジアミンを13.6部、イミノビスプロピルアミン(東京化成工業社製)を15.3部、反応溶媒としてTHFを193部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間の反応を行い、中間体としての構造中に2級アミノ基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂を得た。反応後の樹脂溶液についてのFT−IRによる反応経過確認の結果は、分散体製造例1と同様であった。得られた樹脂溶液を用いて測定した樹脂のアミン価は、樹脂分100%の換算値として50.8mgKOH/gであった。次いで、カチオン化剤としてカチオマスターGを25.3部加え、60℃で反応を行い、転相乳化前のカチオン性基含有ヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。得られた樹脂を分散体製造例1で行ったと同様に分析し、結果を表1に示した。このカチオン性基含有ヒドロキシポリウレタン樹脂の樹脂骨格中に締める二酸化炭素の質量%は14.0%(計算値)である。
【0085】
(水分散体の製造)
次いで、分散体製造例1と同様の方法で、水365部を添加し転相乳化を行った後にTHFを留去することで、ヒドロキシポリウレタン水分散体を得た。水分散体中のポリマー分散粒子の粒度分布はd50=0.022μm(=22nm)であった。
【0086】
[比較例用の分散体製造例a]
分散体製造例1で用いたのと同様の反応容器内に、製造例1で得た化合物I−Aを100部、へキサメチレンジアミンを13.6部、ジエチレントリアミンを12.0部、反応溶媒としてTHFを188部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間の反応を行い、中間体としての構造中に2級アミノ基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂を得た。反応後の樹脂溶液についてのFT−IRによる反応経過確認の結果は、分散体製造例1と同様であった。得られた樹脂溶液を用いて測定した樹脂のアミン価は樹脂分100%の換算値として52.1mgKOH/gであった。
【0087】
次いで、この樹脂溶液に無水フタル酸(東京化成工業社製)16.3部を加え、室温で反応を行い、FT−IRにて酸無水物カルボニル由来の1800cm
-1のピークが消失したことを確認して反応を終了した。この反応溶液に、反応触媒としてトリエチルアミンを16.9部加え、転相乳化前の、構造中にカルボキシル基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。そして、樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観及び機械強度と、樹脂の、分子量(GPC)、カチオン性基濃度及び水酸基価を測定した。結果を表1に示した。このカチオン性基含有ヒドロキシポリウレタン樹脂の樹脂骨格中に締める二酸化炭素の質量%は14.5%(計算値)である。
【0088】
次に、反応容器内にイオン交換水347部を添加し、転相乳化を行った。次いで、反応容器を50℃に加温、減圧し、THFを留去することにより、水中にヒドロキシポリウレタン樹脂が分散してなる水分散体を得た。得られた水分散体は、固形分が28%となるように調整した。得られた水分散体は、外観上均一な水分散体であった。また、水分散体中のポリマー分散粒子の粒度分布は、d50=0.020μm(=20nm)であった。
【0089】
(評価方法)
実施例用の分散体製造例1〜3及び比較例用の分散体製造例aでそれぞれ得た各樹脂、及び各水分散体で作製した各フィルムについて、以下の方法及び基準で評価した。各樹脂についての二酸化炭素含有量は、以下のようにして算出した。評価結果を表1にまとめて示した。
【0090】
[二酸化炭素含有量]
二酸化炭素含有量は、各分散体製造例で得たヒドロキシポリウレタン樹脂の化学構造中における、原料の二酸化炭素由来のセグメントの質量%を算出して求めた。具体的には、ヒドロキシポリウレタン樹脂の合成反応に使用した、化合物I−A、I−Bを合成する際に使用したモノマーに対して含まれる二酸化炭素の理論量から算出した計算値で示した。例えば、分散体製造例1の場合には、使用した化合物I−Aの二酸化炭素由来の成分量は20.5%であり、これよりポリウレタン中の二酸化炭素濃度の算出値は、下記の通りになる。
(100部×20.5%)/143.3全量=14.3質量%
【0091】
[分子量]
本発明では、樹脂の分子量を、DMFを移動相としたGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により測定した。具体的には、東ソー社製のGPC−8220(商品名)で、カラムとして、Super AW2500+AW3000+AW4000+AW5000を使用して測定した。測定結果を、ポリスチレン換算値として重量平均分子量を表した。
【0092】
[水酸基価]
カチオン化前のアミノ基含有ヒドロキシポリウレタン樹脂の水酸基価をJIS K−1557に準拠した滴定法により測定した実測値を基に、カチオン化反応が100%行われたものとして、使用したカチオン化剤の重量、及び、カチオン化剤とアミノ基の反応により水酸基が1基発生するものとして計算した計算値を水酸基価とした。
【0093】
[カチオン性基濃度]
反応に使用したカチオン化剤の量からカチオン性基1基辺りの分子量を算出し、カチオン性基の濃度とした。単位はg/molである。
例えば、分散体製造例1の場合、使用したカチオン化剤の有効成分量は17.7gであり、カチオン化剤の分子量は151.6であることから、下記のように算出される。
143.3全量(g)÷(17.7÷151.6)=1228g/mol
【0094】
[フィルム外観]
作製したそれぞれの樹脂フィルムについて、全光線透過率及びヘイズを測定し、以下の基準で評価した。全光線透過率及びヘイズは、JIS K−7105に準拠して、いずれもヘイズメーターのHZ−1(商品名、スガ試験機社製)を用いて測定した。ここで、ヘイズメーターで測定される全ての光量が全光線透過率であり、全光線透過率に対する拡散透過光の割合がヘイズである。
〔評価基準〕
○:全光線透過率90%以上で、且つ、ヘイズ0.5%以下
×:○に該当しないもの
【0095】
[機械強度]
作製した各樹脂フィルムの機械強度として、破断点強度及び破断点伸度を測定した。具体的には、JIS K−6251に準拠して、オートグラフのAGS−J(商品名、島津製作所社製)を使用し、室温(25℃)で測定した。
【0096】
【0097】
<水分散体組成物及びフィルムの製造>
[実施例1]
分散体製造例1で得た固形分28%の水分散体100部に2N塩酸を加え、リトマス試験紙を使用してpH=4に調整したヒドロキシポリウレタン水分散体とし、これを(A)成分として用いた。別の容器に、(B)成分として、平均粒子径0.5μm、鱗片状のシリカ微粒子の分散液であるサンラブリーHN−050(商品名、AGCエスアイテック社製、固形分15%)を56部計り取り、pH4に調整された(A)成分のヒドロキシポリウレタン水分散体を撹拌しながら徐々に加え、均一化した。次いで、(C)成分としてTi乳酸キレートであるオルガチックスTC−310(商品名、マツモトファインケミカル社製、固形分44%)を3部加え、さらに、これに増粘剤として、ゴーセネックスK434(日本合成株式会社製、PVA、事前に水に溶解し濃度30%に調整、以下の例も同様)を10部加え、ホモミキサーにて撹拌均一化して水分散体組成物を作製した。
【0098】
上記で得た水分散体組成物を基材に塗布して、下記のようにしてガスバリア性フィルムを作製した。具体的には、まず、基材に、厚み25μmのPETフィルムであるルミラーS10(商品名、東レ社製、酸素透過率実測値:61mL20μm/m
2・day・atm)を用い、そのコロナ処理面上に、乾燥時の膜厚が10μmになるように塗布し、100℃にて3分の乾燥を行った。その後、50℃のオーブン中で48時間のエージングを行い、基材上に被膜層を形成して複層フィルムを得た。得られた複層フィルムを用い、形成した被膜層の外観(塗膜外観)、耐水性及びガスバリア性を評価した。それぞれの測定方法については後述する。結果を表2に示した。なお、各成分の配合比率は、A成分(樹脂分)を100部として、固形分換算で表2中に示した。
【0099】
[実施例2]
(A)成分として、実施例1で使用したと同じ固形分28%の水分散体100部をpH=4に調整したものを用い、(B)成分として、平均粒子径1.5μm、鱗片状のシリカ微粒子の分散液であるサンラブリーHN−150(商品名、AGCエスアイテック社製、固形分16%)を53部使用し、(C)成分として、Ti乳酸キレートであるTC−310を3部、増粘剤として前記したゴーセネックスK434(30%)10部を使用し、実施例1と同様の操作により水分散体組成物を得た。得られた水分散体組成物を使用し、実施例1と同様の基材及び操作により複層フィルムを得た。そして、実施例1で行ったと同様に、形成した被膜層の外観(塗膜外観)、耐水性及びガスバリア性を評価し、結果を表2に示した。その他の実施例及び比較例で得た複層フィルムについても同様の評価を行い、結果を表2にまとめて示した。
【0100】
[実施例3]
(A)成分として、実施例1で使用したと同じ固形分28%の水分散体100部をpH=4に調整したものを用い、(B)成分として、平均粒子径0.04−0.05μm、球状のシリカ微粒子の分散液であるスノーテックスST−AK−L(商品名、日産化学社製、固形分20%)を42部使用し、(C)成分として、Ti乳酸キレートであるTC−310を3部、増粘剤として前記したゴーセネックスK434(30%)を10部使用し、実施例1と同様の操作により水分散体組成物を得た。得られた組成物を使用し、実施例1と同様の基材及び操作により複層フィルムを得た。
【0101】
[実施例4]
(A)成分として、実施例1で使用したと同じ水分散体100部をpH=4に調整したものを用い、(B)成分として、平均粒子径0.04−0.05μm、球状のシリカ微粒子の分散液であるスノーテックスST−AK−L(商品名、日産化学社製、固形分20%)を140部使用し、(C)成分として、Ti乳酸キレートであるTC−310を10部、増粘剤として前記したゴーセネックスK434(30%)を10部使用し、実施例1と同様の操作により水分散体組成物を得た。得られた組成物を使用し、実施例1と同様の基材及び操作により複層フィルムを得た。
【0102】
[実施例5]
(A)成分として、製造例2で得られた固形分28%の水分散体100部を、実施例1と同様にpH=4に調整したものを用い、(B)成分として、実施例1で使用したと同様のサンラブリーHN−050を75部、(C)成分として、実施例5で用いたと同様の塩化ジルコニル化合物であるオルガチックスZC−126(商品名、マツモトファインケミケル社製、固形分30%)を5部用い、増粘剤として前記したゴーセネックスK434(30%)を10部使用し、実施例1と同様の操作により水分散体組成物を得た。得られた組成物を使用し、実施例1と同様の基材及び操作により複層フィルムを得た。
【0103】
[実施例6]
(A)成分として、製造例3で得られた固形分28%の水分散体100部を、実施例1と同様にpH=4に調整したものを用い、(B)成分のシリカ微粒子として、実施例2で用いたと同様のサンラブリーHN−150を30部用い、(C)成分として、実施例5で用いたと同様の塩化ジルコニル化合物であるオルガチックスZC−126を5部用い、増粘剤として前記したゴーセネックスK434(30%)10部を使用し、実施例1と同様の操作により水分散体組成物を得た。得られた組成物を使用し、実施例1と同様の基材及び操作により複層フィルムを得た。
【0104】
[比較例1]
実施例1で(A)成分として用いた分散体製造例1で得た固形分28%の水分散体をそのまま使用し、実施例で使用した(B)成分及び(C)成分の、シリカ成分及び金属キレート成分を添加せず、増粘剤として前記したゴーセネックスK434(30%)10部のみを使用し、水分散体組成物を得た。得られた組成物を使用し、実施例1と同様の基材及び操作により比較例の複層フィルムを得た。
【0105】
[比較例2]
(C)成分として用いたTi乳酸キレートであるオルガチックスTC−310の使用量を0.5部に減らした以外は、実施例1と同様の材料及び操作で水分散体組成物を得た。得られた組成物を使用し、実施例1と同様の基材及び操作により比較例の複層フィルムを得た。
【0106】
[比較例3]
実施例1で(C)成分として用いたTi乳酸キレートであるオルガチックスTC−310の替わりに、水分散性ポリイソシアネートであるデュラネートWB40−100(商品名、旭化成社製、NCO%=16.6)を2部使用した外は、実施例1と同様の材料及び操作で水分散体組成物を得た。得られた組成物を使用し、実施例1と同様の基材及び操作により複層フィルムを得た。
【0107】
[比較例4]
分散体比較製造例aで得た固形分28%の水分散体100部に2N塩酸を加え、リトマス試験紙を使用しpH=4に調整しようとしたところ、樹脂が凝集し、沈殿したことから操作を中止し、pH調整していない水分散体をそのまま使用した。別の容器に、実施例1で(B)成分として用いた、シリカ微粒子の分散液であるサンラブリーHN−050を56部計り取り、pH調整していない分散体製造例a得られたヒドロキシポリウレタン水分散体を撹拌しながら徐々に加えた。しかし、シリカを添加し始めると直ぐにシリカがショック凝集し、全体がゲル状になったことから添加操作を中止した。コーティングができない状態であったのでフィルムは作成していない。
【0108】
(評価)
実施例1〜6及び比較例1〜4の各水分散体組成物の特性、及び、各水分散体組成物を用いて作製した各フィルムの評価は、以下の方法及び基準で行った。そして、実施例の結果を表2に示し、比較例の結果を表3にまとめて示した。
【0109】
[保存安定性]
実施例及び比較例の各水分散体組成物を、密閉したポリ容器に入れ、25℃の恒温槽で保存した。そして、それぞれ、1日、7日、30日後の状態を目視で観察し、それぞれ、以下の基準で評価した。評価結果を表2及び表3にまとめて示した。
〔評価基準〕
○:粒子の沈降は無く、粘度増加は起こらない
△:粒子が沈降しているが、撹拌により簡単に再分散する。粘度増加は起こらない
×:粘度が増加或いはゲル化している
【0110】
[塗膜外観]
実施例及び比較例で作製した各複層フィルムについて、形成した被膜層の外観(塗膜外観)を目視にて観察し、以下の基準で評価した。評価結果を表2及び表3にまとめて示した。
〔評価基準〕
○:透明均一で光沢のある塗膜表面である
△:塗膜表面の光沢が無く、濁っている
×:集物による凹凸がある
【0111】
[耐水性]
実施例及び比較例で作製した各複層フィルムについて、フィルムを水に浸漬し、室温で24時間後の塗膜表面状態を目視で観察し、以下の規準で評価した。評価結果を表2及び表3にまとめて示した。
〔評価基準〕
○:変化は見られない
△:塗膜の一部が白化している
×:塗膜が膨潤している
【0112】
[密着性]
実施例及び比較例で作製した各複層フィルムについて、塗膜表面の一部にセロハンテープを圧着し、ゆっくりと手で引き剥がし、塗膜の剥がれ具合を観察し、以下の基準で評価した。評価結果を表2及び表3にまとめて示した。
〔評価基準〕
○:塗膜の剥がれが無し
△:塗膜の一部が剥離した
×:塗膜が完全に剥離した
【0113】
[ガスバリア性]
実施例及び比較例で作製した各複層フィルムについて、JIS K−7126に準拠して酸素の透過度を測定し、これをガスバリア性の評価値とした。すなわち、この値が低いほどガスバリア性に優れると判断できる。具体的には、酸素透過率測定装置OX−TRAN 2/21ML(商品名、MOCON社製)を使用して、温度23℃で、湿度65%とした恒温恒湿条件下にて、酸素透過度(酸素透過率)を測定した。測定値は複層フィルムとしての値であり、単位はmL/m
2・day・atmである。なお、該フィルムにおける実施例或いは比較例の塗料を塗布して得られた被膜層(塗膜)の厚みは、精密厚み測定器(尾崎製作所社製)を使用して実測し、10μmであることを確認している。評価結果を表2及び表3にまとめて示した。
【0114】
【0115】
【0116】
表2に示したように、本発明の実施例の水分散体組成物はシリカの分散度が高く、保存安定性に優れていた。特に、実施例1、2、5及び6で(B)成分として用いたシリカ微粒子のサンラブリー(商品名)は、鱗片状で、凝集、沈降が起こり易いものであるが、これらの実施例の水分散体組成物も安定な状態であることが確認された。本発明者らは、優れた保存安定性が実現できた理由を、実施例の水分散体組成物を構成する(A)成分であるヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中にある水酸基と、併存する(B)成分のシリカ微粒子のシリカ表面のシラノール基との親和力が寄与したものと考えている。
【0117】
また、本発明の実施例の水分散体組成物を使用して被膜層(塗膜)を形成した際の、乾燥時の塗膜外観も良好であり、透明な被膜が得られた。水酸基の一部を金属キレート化合物により架橋することにより耐水性も有している。
【0118】
さらに、本発明の水分散体組成物を構成するヒドロキシポリウレタン樹脂は、ガスバリア性に優れた樹脂であり、優れたガスバリア性を示す被膜層(塗膜)の形成が可能になるが、表3に示した比較例の水分散体組成物の結果から、従来技術である比較例と比べてより高いガスバリア性が実現できることが確認された。より具体的には、本発明で規定した(B)成分のシリカ微粒子の添加、及び、本発明で規定した範囲の量で併存させた(C)成分の金属キレート化合物による架橋により、得られた被膜はさらに高いガスバリア性を有したものとなる。すなわち、(C)成分の金属キレート化合物による架橋は、架橋間の距離が短くなることから樹脂の結晶構造を阻害せず、比較例3で用いたイソシアネートのような有機架橋剤による架橋に比べてガスバリア性の向上に特に効果を有していることが確認された。