特許第6808664号(P6808664)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6808664ヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物、これを用いたガスバリア性コーティング剤及びガスバリア性フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6808664
(24)【登録日】2020年12月11日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】ヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物、これを用いたガスバリア性コーティング剤及びガスバリア性フィルム
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20201221BHJP
   C08G 18/32 20060101ALI20201221BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20201221BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20201221BHJP
   C08G 18/00 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   C09D175/04
   C08G18/32 025
   C08G18/32 018
   C09D7/61
   C09D7/63
   C08G18/00 C
【請求項の数】9
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2018-11907(P2018-11907)
(22)【出願日】2018年1月26日
(65)【公開番号】特開2019-127574(P2019-127574A)
(43)【公開日】2019年8月1日
【審査請求日】2019年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】木村 千也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 賢一
(72)【発明者】
【氏名】武藤 多昭
(72)【発明者】
【氏名】谷川 昌志
(72)【発明者】
【氏名】淺井 暁子
【審査官】 藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−194029(JP,A)
【文献】 特開2016−000809(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/042744(WO,A1)
【文献】 特開2007−197683(JP,A)
【文献】 特開2016−204592(JP,A)
【文献】 特開2017−145278(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/013624(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/143889(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/034024(WO,A1)
【文献】 特開2016−20466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00− 10/00
101/00−201/10
C08G 18/00− 18/87
71/00− 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスバリア性コーティング用の水分散体組成物であって、
(A)成分として、構造中に少なくともカチオン性基と水酸基とを有する、カチオン性基濃度が500g/mol〜2000g/molの範囲であるカチオン性基含有のヒドロキシポリウレタン樹脂と、(B)成分として、シリカ微粒子と、(C)成分として、金属キレート化合物と、を含有してなり、
前記(A)成分100質量部に対し、前記(B)成分が1〜120質量部で含有されており、且つ、前記(A)成分と前記(B)成分との合計の含有量が10〜50質量%であり、
前記(C)成分の含有量が、前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分との全固形分100質量%に対して、1〜10質量%であることを特徴とするヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物。
【請求項2】
前記(A)成分のカチオン性基含有のヒドロキシポリウレタン樹脂が、その構造中に、下記一般式(1)で示される、水を加えて転相乳化させるための下記一般式(11)で表されるカチオン性基を含む化学構造からなる繰り返し単位を有してなるものである請求項1に記載のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物。
[上記一般式(1)中のXは、ないか、或いは、モノマー単位由来の脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素又は芳香族炭化水素からなる化学構造を示し、該構造中に、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及びエステル結合を含んでいてもよく、エーテル結合を介してY及び/又はYと結合する構造であってもよい。−Y−は、下記式(2)〜(5)のいずれか1つの化学構造を示し、また、−Y−は、下記式(2)、(6)〜(10)のいずれか1つの化学構造を示し、式(4)、(5)、(7)〜(10)中のRは、水素原子かCHを示す。−Z−は、下記一般式(11)で示されるカチオン性基を含む化学構造を示す。式中の*は、結合手であることを示す記号である。]
[上記一般式(11)中、Rは脂肪族炭化水素であり、該構造中には酸素原子を含んでもよい。R、R、Rは、それぞれ独立して、その構造中にエーテル結合を含んでもよい炭素数1〜10のアルキレン基である。nは、0〜3の整数である。]
【請求項3】
さらに、前記(A)成分のヒドロキシポリウレタン樹脂を構成する繰り返し単位に、前記一般式(1)で示されるカチオン性基を含む化学構造を有する繰り返し単位の部分とは別の構造の繰り返し単位が混在しており、該別の構造の繰り返し単位が、前記一般式(1)中の−Z−が、前記一般式(11)で示されるカチオン性基を含む化学構造に替えて、その構造中に、酸素原子、窒素原子を含んでいてもよい、炭素数1〜100の炭化水素又は炭素数6〜100の芳香族炭化水素である化学構造を有するものである請求項2に記載のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物。
【請求項4】
前記(A)成分のヒドロキシポリウレタン樹脂は、その重量平均分子量が10000〜100000の範囲であり、且つ、その水酸基価が150mgKOH/g〜300mgKOH/gの範囲である請求項1〜のいずれか1項に記載のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物。
【請求項5】
前記(A)成分のヒドロキシポリウレタン樹脂は、少なくともその一部に二酸化炭素を原料として用いて合成された五員環環状カーボネート構造を有する、少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物と、少なくとも2つのアミノ基を有する化合物の重付加反応により得られたものであり、全質量のうちの1〜20質量%を、前記二酸化炭素由来の−O−CO−結合が占める請求項1〜4のいずれか1項に記載のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物。
【請求項6】
前記(B)成分のシリカ微粒子が、球状又は鱗片状の微粒子であり、その粒子径が0.001μm〜5μmである請求項1〜5のいずれか1項に記載のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物。
【請求項7】
前記(C)成分の金属キレート化合物が、チタン乳酸キレート又は塩化ジルコニル化合物である請求項1〜6のいずれか1項に記載のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物を含有してなることを特徴とするガスバリア性コーティング剤。
【請求項9】
基材と、該基材の少なくとも一方に、厚みが0.1〜100μmの被膜層が積層されてなり、該被膜層が、請求項1〜7のいずれか1項に記載のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物を用いて形成されてなる、酸素透過率が、23℃、65%の恒温恒湿度下において、50mL/m・day・atm以下のものであることを特徴とするガスバリア性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、コーティング剤用のバインダー樹脂として利用できる新規なヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物の技術に関する。詳しくは、水分散塗料などの材料とした場合、被膜の機能性の観点でも、従来の溶剤系の塗料で形成した被膜とも遜色のない被膜が形成できる、耐熱性塗料、ガスバリア性塗料としての性能を示すヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物に関する。さらに、本発明は、構成するヒドロキシポリウレタン樹脂の化学構造中に二酸化炭素を組み込むことが可能であることから、高度な環境対応製品の提供を可能にできる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂は、強度、柔軟性、耐摩耗性、耐油性に優れた樹脂であり、塗料や接着剤用の樹脂として広く使用されている。近年、新規なポリウレタン系の樹脂として化学構造中にウレタン結合と水酸基を併せ持つヒドロキシポリウレタン樹脂が開発され、その工業的な応用が期待されている(特許文献1参照)。既存のポリウレタン樹脂が、イソシアネート化合物とポリオールとを原料として得られるのに対し、ヒドロキシポリウレタン樹脂は、エポキシ化合物、二酸化炭素及びアミン化合物を原料に用い、これらの原料の組み合わせにより製造される点で大きく異なる。原料として使用された二酸化炭素は、ヒドロキシポリウレタン樹脂の化学構造中に−CO−O−結合として組み込まれることから、温室効果ガスである二酸化炭素の有効利用の観点からも注目されるべき樹脂材料である。
【0003】
ヒドロキシポリウレタン樹脂は、既存のポリウレタン樹脂と同様に機械強度に優れた樹脂として使用できるが、さらに、既存のポリウレタン樹脂の構造中にはない水酸基に由来した機能性を生かした応用が検討されている。例えば、水酸基の架橋反応を利用した耐熱性塗料としての応用(特許文献2参照)や、水酸基由来のガスバリア性を利用したガスバリア性フィルムへの応用が検討されている(特許文献3参照)。
【0004】
これらの従来技術にもあるように、ヒドロキシポリウレタン樹脂の応用用途として、塗料、コーティング分野が有望である。しかし、これまでに開発されているヒドロキシポリウレタン樹脂は、ウレタン結合と共に水酸基を有する化学構造をもつため、有機溶剤に対する溶解性が低く、各用途で使用される基材や加工装置に応じて異なることも多く、多様な溶剤組成への対応が困難である点が応用上の問題となっている。これに対し、ヒドロキシポリウレタン樹脂を水分散体とすることで、この問題を解消すると同時に、近年、溶剤系塗料からの置き換えが進んでいる水系の塗料として応用することが検討され、提案されている(特許文献4参照)。
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、この技術は、水分散体を得るためにヒドロキシポリウレタン樹脂の水酸基をハーフエステル法によりカルボキシル基化したものであることから、ハーフエステル部分の加水分解に起因して、水分散体の保存安定性が悪い点で課題が残っており、問題を完全に解決したものではなかった。また、ヒドロキシポリウレタン樹脂の水酸基を反応に利用し、水酸基の量を減少させる方法は、耐水性の向上に寄与するといった利点を有する反面、水酸基の機能性を利用する用途においては欠点を伴うものとなる。
【0006】
別の手法として、原料にカルボン酸を含有するアミン化合物を使用し、カルボキシル基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂を得る方法が考案されている(特許文献5参照)。しかしながら、本発明者らの検討によれば、この方法は、合成反応系内でカルボキシル基とアミノ基がイオン結合を形成してしまうため、環状カーボネートとの反応が進行しにくく、また、DMF(ジメチルホルムアミド)などの高沸点溶剤中での反応が必要であり、高分子量化も困難であるといった欠点がある。さらに、使用した高沸点溶剤は、転相乳化後に減圧留去ができないという問題もあり、水分散体(エマルジョン)の製造方法としては完全なものではなかった。
【0007】
これら問題を解決する手法として、本発明者らは、既に、2級アミノ基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂を合成し、主鎖中のアミノ基をカルボキシル基化する方法を提案している(特許文献6参照)。この手法により得られる水分散体は、保存安定性に優れ、ガスバリア性に優れた被膜が得られるといった利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第3072613号明細書
【特許文献2】特開2011−102005号公報
【特許文献3】特開2012−172144号公報
【特許文献4】特開2007−297544号公報
【特許文献5】特開平6−25409号公報
【特許文献6】特開2016−194029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記したようなこれまでに開発されたヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体は、いずれも、ヒドロキシポリウレタン樹脂の化学構造中にアニオン性基を含有させる手法のものであり、アニオン性基を有する樹脂の水分散体の欠点は、酸性条件下で分散状態が不安定になることである。特に、塗料として使用する際には、ベースとなるヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体に各種フィラーや架橋剤を添加することで、より高性能の被膜を得ることができる。しかし、酸性を有する添加剤との組み合わせや、酸性条件下での分散性に優れたフィラーとの併用ができないという欠点があり、実用化技術として確立させるためには、さらなる開発が望まれる。
【0010】
従って、本発明の目的は、従来技術の課題を克服し、カチオン化されたヒドロキシポリウレタン樹脂と、酸性条件下で良好に分散する添加剤、具体的には、シリカ微粒子などのフィラーとの組み合わせも可能にし、上記の組み合わせで実用化をした場合に、水分散体組成物の安定性と、ガスバリア性が良好な被膜形成能を実現できる水分散体組成物を提供すること、及び、該水分散体組成物を使用し、ガスバリア性に優れたフィルム等の製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題は、下記の本発明によって達成される、すなわち、本発明は、
[1]ガスバリア性コーティング用の水分散体組成物であって、
(A)成分として、少なくともカチオン性基と水酸基とを有するカチオン性基含有のヒドロキシポリウレタン樹脂と、(B)成分として、シリカ微粒子と、(C)成分として、金属キレート化合物と、を含有してなり、前記(A)成分100質量部に対し、前記(B)成分が1〜120質量部で含有されており、且つ、前記(A)成分と前記(B)成分との合計の含有量が10〜50質量%であり、前記(C)成分の含有量が、前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分との全固形分100質量%に対して、1〜10質量%であることを特徴とするヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物を提供する。
【0012】
上記したヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物の好ましい実施形態としては、下記の構成のものが挙げられる。
[2]前記(A)成分のカチオン性基含有のヒドロキシポリウレタン樹脂が、その構造中に、下記一般式(1)で示される、水を加えて転相乳化させるための下記一般式(11)で表されるカチオン性基を含む化学構造からなる繰り返し単位を有してなるものである[1]に記載のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物。
【0013】
[上記一般式(1)中のXは、ないか、或いは、モノマー単位由来の脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素又は芳香族炭化水素からなる化学構造を示し、該構造中に、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及びエステル結合を含んでいてもよく、エーテル結合を介してY1及び/又はY2と結合する構造であってもよい。−Y1−は、下記式(2)〜(5)のいずれか1つの化学構造を示し、また、−Y2−は、下記式(2)、(6)〜(10)のいずれか1つの化学構造を示し、式(4)、(5)、(7)〜(10)中のRは、水素原子かCH3を示す。−Z−は、下記一般式(11)で示されるカチオン性基を含む化学構造を示す。式中の*は、結合手であることを示す記号である。]
【0014】
[上記一般式(11)中、R4は脂肪族炭化水素であり、該構造中には酸素原子を含んでもよい。R1、R2、R3は、それぞれ独立して、その構造中にエーテル結合を含んでもよい炭素数1〜10のアルキレン基である。nは、0〜3の整数である。]
なお、上記で規定した粒子径は、測定した粒度分布から計算により得られたメジアン径(=d50値)である。
【0015】
[3]さらに、前記(A)成分のヒドロキシポリウレタン樹脂を構成する繰り返し単位に、前記一般式(1)で示されるカチオン性基を含む化学構造を有する繰り返し単位の部分とは別の構造の繰り返し単位が混在しており、該別の構造の繰り返し単位が、前記一般式(1)中の−Z−が、前記一般式(11)で示されるカチオン性基を含む化学構造に替えて、その構造中に、酸素原子、窒素原子を含んでいてもよい、炭素数1〜100の炭化水素又は炭素数6〜100の芳香族炭化水素である化学構造を有するものである[2]に記載のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物。
【0016】
[4]前記(A)成分のヒドロキシポリウレタン樹脂は、その重量平均分子量が10000〜100000の範囲であり、且つ、その構造中のカチオン性基の濃度が500g/mol〜2000g/molの範囲であり、且つ、その水酸基価が150mgKOH/g〜300mgKOH/gの範囲である[2]又は[3]に記載のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物。
【0017】
[5]前記(A)成分のヒドロキシポリウレタン樹脂は、少なくともその一部に二酸化炭素を原料として用いて合成された五員環環状カーボネート構造を有する、少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物と、少なくとも2つのアミノ基を有する化合物の重付加反応により得られたものであり、全質量のうちの1〜20質量%を、前記二酸化炭素由来の−O−CO−結合が占める[1]〜[4]のいずれかに記載のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物。
【0018】
[6]前記(B)成分のシリカ微粒子が、球状又は鱗片状の微粒子であり、その粒子径が0.001μm〜5μmである[1]〜[5]のいずれかに記載のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物。
【0019】
[7]前記(C)成分の金属キレート化合物が、チタン乳酸キレート又は塩化ジルコニル化合物である[1]〜[6]のいずれかに記載のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物。
【0020】
本発明は、別の実施の形態として、
[8]前記[1]〜[7]のいずれかのヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物を含有してなることを特徴とするガスバリア性コーティング剤を提供する。
【0021】
本発明は、別の実施の形態として、
[9]基材と、該基材の少なくとも一方に、厚みが0.1〜100μmの被膜層が積層されてなり、該被膜層が、前記[1]〜[7]のいずれかのヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物を用いて形成されてなる、酸素透過率が、23℃、65%の恒温恒湿度下において、50mL/m2・day・atm以下のものであることを特徴とするガスバリア性フィルムを提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、カチオン性基含有のヒドロキシポリウレタン樹脂と、酸性条件下で良好に分散するシリカ微粒子などの添加剤とを組み合わせて水分散体組成物にした場合において、安定性と、形成した被膜層が良好なガスバリア性を有するものになるガスバリア性コーティング用のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物が提供される。本発明によって提供されるヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物は、従来技術で提供されるヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物と比較し、安定性に優れ、長期間の保存が可能である。また、本発明の水分散体組成物から得られる塗膜(被膜層)のガスバリア性能は、従来のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物で得た塗膜と比較し、より優れたものになる。また、本発明を構成するヒドロキシポリウレタン樹脂は、二酸化炭素を原材料(形成材料)として使用して製造することが可能な樹脂であり、水系材料であることによる環境負荷の低減に加えて、更なる環境負荷の低減にも貢献することができるので、高度な環境対応製品の提供が可能になることでも有用である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、発明を実施するための好ましい形態を挙げて本発明を詳細に説明する。本発明はガスバリア性コーティング用の水分散体組成物に関し、(A)成分として、構造中に、カチオン性基と水酸基とを有するカチオン性基含有のヒドロキシポリウレタン樹脂(以下、「カチオン性ヒドロキシポリウレタン樹脂」と呼ぶ場合がある。)と、(B)成分として、シリカ微粒子と、(C)成分として、金属キレート化合物とを含有してなる。そして、前記(A)成分100質量部に対して、前記(B)成分が1〜120質量部の範囲で含有されており、且つ、前記(A)成分と前記(B)成分との合計の含有量が10〜50質量%で、さらに、前記(C)成分の含有量が、前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分との全固形分100質量%に対して、1〜10質量%であることを特徴とする。
【0024】
<(A)成分>
本発明を構成する(A)成分のカチオン性ヒドロキシポリウレタン樹脂は、その構造中に、カチオン性基と水酸基とを有するものであればよいが、下記の構成を有するものであることがより好ましい。すなわち、カチオン性ヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中に、下記一般式(1)で示される、水を加えて転相乳化させるための下記一般式(11)で表されるカチオン性基(以下、単に「カチオン性基」と呼ぶ場合がある。)を含む化学構造からなる繰り返し単位を有してなるものであることが好ましい。本発明者らの検討によれば、上記したような構造的な特徴を有するカチオン性ヒドロキシポリウレタン樹脂を用いることで、従来、酸性条件下で分散状態が不安定となる点がより確実に解決され、高性能の被膜を得るために各種フィラーや架橋剤を添加させた場合にも、水中に、ヒドロキシポリウレタン樹脂や上記の添加剤がより安定に分散されたヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物とすることができる。以下、本発明を構成する(A)成分として有用な、上記構造を有するカチオン性ヒドロキシポリウレタン樹脂について説明する。
【0025】
[上記一般式(1)中のXは、ないか、或いは、モノマー単位由来の脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素又は芳香族炭化水素からなる化学構造を示し、該構造中に、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及びエステル結合を含んでいてもよく、エーテル結合を介してY1及び/又はY2と結合する構造であってもよい。−Y1−は、下記式(2)〜(5)のいずれか1つの化学構造を示し、また、−Y2−は、下記式(2)、(6)〜(10)のいずれか1つの化学構造を示し、式(4)、(5)、(7)〜(10)中のRは、水素原子かCH3を示す。−Z−は、下記一般式(11)で示されるカチオン性基を含む化学構造を示す。式中の*は、結合手であることを示す記号である。]
【0026】
【0027】
[上記一般式(11)中、R4は脂肪族炭化水素であり、該構造中には酸素原子を含んでもよい。R1、R2、R3は、それぞれ独立して、その構造中にエーテル結合を含んでもよい炭素数1〜10のアルキレン基である。nは、0〜3の整数である。]
【0028】
上記した本発明を構成する(A)成分として有用なカチオン性ヒドロキシポリウレタン樹脂は、その構造中に、前記一般式(1)で示される繰り返し単位を有する。この場合、樹脂の全部が、この繰り返し単位で構成されていてもよいし、これに限定されず、ヒドロキシポリウレタン樹脂を構成する繰り返し単位に、上記した一般式(1)で示される繰り返し単位とは別の構造の繰り返し単位が混在している構成のものであってもよい。例えば、前記一般式(1)で示される繰り返し単位の−Z−部分が異なる化学構造のもの、具体的には、前記一般式(11)で示されるカチオン性基を含む化学構造に替えて、−Z−部分が、その構造中に、酸素原子、窒素原子を含んでいてもよい、炭素数1〜100の炭化水素又は炭素数6〜100の芳香族炭化水素である化学構造のものが挙げられる。
【0029】
本発明に有用な上記カチオン性ヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中に有する上記一般式(1)で示される繰り返し単位の構造は、樹脂中のすべての繰り返し単位が同一の構造であってもよいが、前記一般式(1)で示される構造に該当するものが複数種類混在したものであってもよい。具体的には、例えば、ヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中に有する繰り返し単位が、一般式(1)中のY1とY2がいずれも式(2)の化学構造のものであってもよいし、このようなものと、例えば、一般式(1)中のY1が式(3)で、Y2が式(6)の化学構造のものとが混在したヒドロキシポリウレタン樹脂であってもよい。
【0030】
次に、本発明を構成する(A)成分として好適に用いられるカチオン性ヒドロキシポリウレタン樹脂を含んでなる水分散体の製造方法について説明する。一般的なポリマーエマルジョンの製造方法としては、界面活性剤を乳化剤として使用する強制乳化型と、ポリマー鎖中に親水性基を導入しポリマー鎖自らに乳化粒子を形成させる自己乳化型がある。本発明を構成する(A)成分として有用な水分散体は、上記した自己乳化型に属するものである。前記一般式(11)の構造に示されているように、樹脂の構造中に、乳化に必要な親水性基としてカチオン性基である4級アンモニウム構造を導入したことで、自己乳化を可能にすると共に、(B)成分として酸性条件下で良好に分散するシリカ微粒子とを組み合わせ、且つ、架橋剤として機能する金属キレートを(C)成分として含有させた構成の組成物の分散性を向上させたものである。このため、前記一般式(1)で示される繰り返し単位の−Z−部分が異なる、具体的には、該−Z−が炭化水素又は芳香族炭化水素である化学構造のものを混在させる程度は、樹脂全体で、そのカチオン性基濃度が500g/mol〜2000g/molの範囲内となるようにすることが好ましい。
【0031】
前記一般式(1)で示される構造のヒドロキシポリウレタン樹脂は、以下の工程により製造できる。1分子中に少なくとも2つの五員環環状カーボネート(以下、単に環状カーボネート或いは環状カーボネート化合物と略す場合がある)を有する化合物と、1分子中に少なくとも2つのアミノ基を有する化合物の重付加反応より得られる。
【0032】
ヒドロキシポリウレタン樹脂の高分子鎖を形成する環状カーボネートとアミンとの反応においては、環状カーボネートの開裂は2種類であり、以下のモデル反応が示す2種類の構造が発生することが知られている。
【0033】
上記ヒドロキシポリウレタン樹脂の製造に使用する上記環状カーボネートとしては、エポキシ化合物と二酸化炭素との反応によって得られたものであることが好ましい。具体的には、例えば、原材料であるエポキシ化合物を、触媒の存在下で、0℃〜160℃の温度にて、大気圧〜1MPa程度に加圧した二酸化炭素雰囲気下で4〜24時間反応させることで、二酸化炭素を、エステル部位に固定化した環状カーボネート化合物を得ることができる。
【0034】
【0035】
上記のようにして二酸化炭素を原料として合成した環状カーボネート化合物を、重付加反応に使用することで、得られるポリウレタン樹脂は、その構造中に二酸化炭素が固定化された−O−CO−結合を有したものとなる。二酸化炭素由来の−O−CO−結合(二酸化炭素の固定化量)のポリウレタン樹脂中における含有量は、二酸化炭素を原材料として有効利用する立場からはできるだけ多くなる方がよい。例えば、上記した合成方法によって得られるヒドロキシポリウレタン樹脂には、その構造中に二酸化炭素を1〜20質量%の範囲で含有させることができる。
【0036】
エポキシ化合物と二酸化炭素との上記反応に使用される触媒としては、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムなどの塩類や、4級アンモニウム塩が好ましいものとして挙げられる。その使用量は、エポキシ化合物100質量部当たり1〜50質量部、好ましくは1〜20質量部である。また、これら触媒となる塩類の溶解性を向上させるためにトリフェニルホスフィンなどを併用してもよい。
【0037】
上記したエポキシ化合物と二酸化炭素との反応は、有機溶剤の存在下で行うこともできる。有機溶剤としては、前述の触媒を溶解するものであればいずれのものも使用可能である。具体的には、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤などが、好ましいものとして挙げられる。
【0038】
本発明の水分散体組成物を構成する(A)成分として好適なヒドロキシポリウレタン樹脂を製造する場合に使用可能な環状カーボネート化合物の構造には特に制限がなく、1分子中に2つ以上の環状カーボネート構造を有するものであれば使用可能である。例えば、ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を持つものや、脂肪族系や脂環式系のいずれも環状カーボネートも使用可能である。以下に使用可能な化合物について、構造式を挙げて例示する。なお、以下に列挙した構造式中にあるRは、水素原子又はCH3のいずれかである。
【0039】
ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を持つものとしては、以下の化合物が例示される。
【0040】
脂肪族系や脂環式系の環状カーボネートとしては、以下の化合物が例示される。
【0041】
本発明を構成する(A)成分として好適なヒドロキシポリウレタン樹脂の合成には、上記に列挙したような、少なくともその一部に二酸化炭素を原料として用いて合成されてなる五員環環状カーボネート構造を有する、少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物と、少なくとも2つのアミノ基を有するアミノ化合物との重付加反応によって製造された前駆体を中間体として使用することが好ましい。この際に使用される好ましいアミノ化合物としては、下記一般式(12)で示される、その分子内に、少なくとも2つの1級アミノ基と、少なくとも1つの2級アミノ基のどちらも有する化合物が挙げられる。下記一般式(12)で示されるアミノ化合物は、従来公知の多官能アミンを併用することができる。
【0042】
[一般式(12)中のR1、R2、R3は、それぞれ独立して、その化学構造中にエーテル結合を含んでもよい炭素数1〜10のアルキレン基である。nは0〜3の整数である。]
【0043】
上記一般式(12)で示される化合物としては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イミノビスプロピルアミン、テトラエチレンペンタミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,3−プロピレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,4−ブチレンジアミンなどが挙げられ、これら化合物の1種又は2種類以上を使用することが可能である。
【0044】
上記アミン化合物と併用できる多官能アミン化合物としては、従来公知のいずれのものも使用できる。好ましいものとしては、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノへキサン(別名:ヘキサメチレンジアミン)、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン及び1,12−ジアミノドデカンなどの鎖状脂肪族ポリアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,6−シクロヘキサンジアミン、ピペラジン及び2,5−ジアミノピリジンなどの環状脂肪族ポリアミン、キシリレンジアミン(別名:メタキシレンジアミン)などの芳香環を持つ脂肪族ポリアミン、メタフェニレンジアミン及びジアミノジフェニルメタンなどの芳香族ポリアミンが挙げられる。
【0045】
前記した一般式(12)で示されるアミノ化合物の構造中の2級アミノ基は、環状カーボネートとの反応が起こらず、主鎖中に2級アミノ基を主鎖に含んだヒドロキシポリウレタン樹脂の合成ができることは、既に「J.Polym.Sci.,Part A:Polym.Chem.2005,43,5899−5905」に報告されている。本発明においても、反応形態は、上記文献に記載されている通りであるので、2級アミノ基を含むヒドロキシポリウレタン樹脂を次反応の中間体として利用することとなる。ここで、環状カーボネート化合物と一般式(12)で示される化合物を含むアミン化合物との反応条件は、例えば、両者を混合し、40〜200℃の温度で4〜24時間反応させればよく、このようにすることで、中間体としての2級アミノ基を含むヒドロキシポリウレタン樹脂を得ることができる。
【0046】
上記反応は、無溶剤で行うことも可能であるが、本発明においては次工程の反応及び乳化工程を考慮して、親水性溶剤中で行うことが好ましい。この際に使用し得る親水性溶剤の好ましいものを例示すると、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル及びジエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。上記に列挙した溶剤の中でも、特に好ましい溶剤としては、転相乳化後の蒸発留去が容易な沸点を有するものであるテトラヒドロフラン(THF)が挙げられる。
【0047】
本発明を構成する(A)成分として好適なヒドロキシポリウレタン樹脂の製造は、上記したように、特に触媒を使用せずに製造を行うことができる。また、反応を促進させる目的で、下記に挙げるような触媒の存在下で行うことも可能である。例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、トリエチレンジアミン(DABCO)、ピリジン及びヒドロキシピリジンなどの塩基性触媒、テトラブチル錫及びジブチル錫ジラウリレートなどのルイス酸触媒などが使用できる。これらの触媒の好ましい使用量としては、反応に使用するカーボネート化合物とアミン化合物の総量(100質量部)に対して、0.01〜10質量部の範囲内で使用する。
【0048】
次に、本発明を構成する(A)成分として好適な上記したヒドロキシポリウレタン樹脂へのカチオン性基導入反応について説明する。例えば、前記した方法で得られた、中間体としての2級アミノ基を主鎖に含むヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中の2級アミノ基と、カチオン性基とエポキシ基の両方を有する化合物(以下、「カチオン化剤」と略す)と、の反応によってヒドロキシポリウレタン樹脂にカチオン性基を導入することができる。
【0049】
より具体的には、中間体のヒドロキシポリウレタン樹脂の有する2級アミノ基と、カチオン化剤の有するエポキシ基とを反応させることで、ヒドロキシポリウレタン樹脂にカチオン性基を導入することができる。この2級アミノ基とエポキシ基との反応は、室温でも進行させることが可能であるが、製造時間を短縮するためには、2級アミノ基を主鎖に含むヒドロキシポリウレタン樹脂の重合反応に続けて、同様の反応温度下で反応を行うことが好ましい。例えば、テトラヒドロフランを使用した場合であれば、ヒドロキシポリウレタン樹脂の合成温度である40℃〜60℃程度の温度で、重合反応に続けて行うことが好ましい。
【0050】
上記の反応に使用可能なカチオン化剤は、カチオン性基とエポキシ基の両方を有する化合物であれば特に限定されるものでなく、例えば、ジアルキルアミンとエピクロロヒドリンとの縮合物をメチルクロライドにて4級化することで得ることができる。
【0051】
一般的に使用されるカチオン化剤として市販されているものもあり、それらを使用することが簡易である。例えば、下記構造式で示されるグリシジルトリメチルアンモニウムクロリドが挙げられる。
【0052】
【0053】
本発明者らの検討によれば、上記したヒドロキシポリウレタン樹脂の重合反応で使用する、環状カーボネート化合物の種類やアミン化合物の種類及び2級アミンを含むアミンの使用比率、カチオン化剤の種類を適宜に変化させることによって、得られるヒドロキシポリウレタン樹脂中のカチオン性基の量を制御することができる。
【0054】
また、本発明者らの検討によれば、カチオン性基量と乳化粒子径は、カチオン性基量が多くなるほど乳化粒子径は小さくなる傾向があった。逆に、カチオン性基量が少なくなると乳化粒子径が大きくなり、ある程度の大きさからは、乳化状態が不安定となることがわかった。このような理由から、本発明で使用する水中に分散した状態のヒドロキシポリウレタン樹脂の乳化粒子の粒子径は、d50が0.001μm〜0.1μm(1nm〜100nm)の範囲内であることが好ましい。その用途にもよるが、より好ましくは0.005μm〜0.05μmの範囲内になるように調整されたものであるとよい。本発明で規定した、ヒドロキシポリウレタン樹脂の粒子径は、測定した粒度分布から計算により得られたメジアン径(=d50値)である。後述するように、実施例では、水分散体中におけるポリマー分散粒子の粒度分布を、動的光散乱式ナノトラック粒度分析計であるMicrotrac UPA EX−150(商品名、日機装社製)で測定した粒度分布から得たd50の値で示した。
【0055】
また、乳化粒子の安定度は、樹脂の分子量にも影響を受けるため、樹脂粒子の重量平均分子量が10000〜100000の範囲内の樹脂であることが好ましく、より好ましくは、20000〜70000である。
【0056】
また、本発明を構成する(A)成分として好適なヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中に導入させるカチオン性基の導入量は、少なすぎると十分な転相乳化ができず、多すぎると形成した被膜の耐水性に悪影響を及ぼすため、カチオン性基濃度が500g/mol〜2000g/molの範囲内のものであることが好ましい。さらには、650〜1300g/molの範囲内となるようにすることが、より好ましい。なお、「カチオン性基濃度」とは、反応に使用したカチオン化剤の量からカチオン性基1基辺りの分子量を算出したものである。
【0057】
また、本発明を構成する(A)成分として好適なヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中における水酸基量は、被膜の優れたガスバリア性の実現と、良好なフィルムとしての機能の実現の両立を考慮すると、水酸基価が150mgKOH/g〜300mgKOH/gの範囲であることが好ましい。
【0058】
先に説明したような、水中でイオン性基となるカチオン性基を含有するヒドロキシポリウレタン樹脂は、その溶剤溶液に水を徐々に添加することで転相乳化させることができ、容易に、本発明を構成する(A)成分として好適なヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体である、O/W型のエマルジョンを得ることができる。転相させる際に添加する水の使用量は、ヒドロキシポリウレタンの樹脂の化学構造、樹脂の合成の際に使用した溶剤の種類、樹脂濃度、粘度、といったファクターに依存するが、概ね、転相前の樹脂100部に対して、50部〜200部程度である。転相を行う際に使用する装置は、合成反応に使用する装置と同様の装置でよいが、連続式の乳化機や分散機を使用することもできる。通常、転相工程は、特に加熱する必要はなく、転相前の樹脂溶液に対する水の溶解性を低くするために、例えば、10℃〜30℃程度の低い温度で行うことが効率的で好ましい。
【0059】
さらに、転相乳化して作製したO/W型エマルジョンを減圧条件下で加熱することで、ヒドロキシポリウレタン樹脂の製造に使用した溶剤を揮発させれば、本発明を構成する(A)成分として好適なヒドロキシポリウレタン樹脂のみが水中に分散してなる態様の水分散体を得ることができる。上記で溶剤を揮発させる際の加熱条件及び減圧条件は、揮発させる溶剤の沸点によって異なるが、水が先に蒸発しないことが好ましい条件であり、概ね、300Torr〜50Torr、20℃〜70℃の範囲で調整する。なお、本発明の水分散体組成物は、水中に、(A)成分であるヒドロキシポリウレタン樹脂と、後述する(B)成分のシリカ微粒子と、(C)成分のキレート化合物とを分散させてなるものであるが、最終的な組成物の溶媒が必ずしも水単独である必要はなく、転相前の溶剤が残存していても使用可能であり、用途に合わせて調節すればよい。
【0060】
本発明を構成する(A)成分として好適なヒドロキシポリウレタン樹脂は、例えば、上記したような方法で得られる、水中に、上記した特有の構造を有するヒドロキシポリウレタン樹脂が0.001μm〜0.1μmの粒子径にて分散した水分散体を用いることが好ましい。(A)成分として上記水分散体を用いることにより、後述する(B)成分としてのシリカ微粒子の分散液と、(C)成分としてのキレート化合物の溶液を混合するだけで、容易に、本発明のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物を得ることができる。(A)成分として樹脂の水分散体を用いる場合、水中に分散されたヒドロキシポリウレタン樹脂の含有量は、用途によっても異なり特に限定されないが、水分散体中の固形分で、例えば、10〜50質量%程度であることが好ましい。
【0061】
本発明のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物は、上記した(A)成分の樹脂を必須としてなり、さらに、少なくとも、(B)成分として、シリカ微粒子、(C)成分として、金属キレート化合物の3成分を必須成分として含有してなる。以下、これらの成分について説明する。
【0062】
<(B)成分>
本発明を構成する(B)成分であるシリカ微粒子は特に限定されたものではないが、その平均粒子径が0.001μm〜5μm、好ましくは0.001μm〜1μm程度の微粒子であることが好ましい。また、表面処理がされたものであってもよい。
【0063】
シリカは、ガラスと同じ化学構造を有する無機材料であり、有機材料のようにガスを透過しない性質を有するため、シリカ微粒子の添加量を増やすことでガスバリア性を向上させることが可能となる。しかし、本発明者らの検討によれば、添加量が多すぎた場合は、形成した塗膜の強度が低下したり、塗膜の基材への密着性が低下することがある。このため、(B)成分の添加量は、(A)成分100質量部(固形分)に対して、(B)成分を1〜120質量部の範囲内で含有させることを要する。好ましい範囲は、10〜100質量部である。シリカ微粒子の形状は、特に限定されず、球状又は鱗片状のものをいずれも使用することができる。本発明者らの検討によれば、球状のシリカ微粒子よりも、アスペクト比の高い鱗片状のシリカ微粒子を用いた方が、少ない添加量で、より高いガスバリア性を付与させることができるので、好ましい。
【0064】
<(C)成分>
本発明を構成する(C)成分である金属キレート化合物は、形成した被覆層の耐水性を向上させる成分として機能する。本発明の水分散体組成物を構成する必須成分である前記(A)成分のカチオン性基含有のヒドロキシポリウレタン樹脂は、カチオン性基の親水性のため、耐水性に劣るという欠点がある。併用する(C)成分の金属キレート化合物は、この点を補い、形成される被膜の耐水性を向上させる成分として機能する。ここで、ヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中の水酸基の架橋には、イソシアネート系の架橋剤を使用することも可能であり、この場合も形成した被膜の耐水性を向上させることができる。しかし、本発明者らの検討によれば、金属キレート化合物を用いることで、被膜の耐水性を向上させる機能に加え、驚くべきことに、よりガスバリア性に優れた被膜の形成が可能になり、この点でも有用であることを見出した。本発明者らは、上記効果が得られた理由について、(C)成分の金属キレート化合物と、(A)成分中の水酸基の硬化(架橋)反応は、架橋点間の距離が短く、且つ、高密度の架橋が行なえるため、架橋することで、ヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中の水酸基量が減少するにも関わらず、一定の湿度下においてガスバリア性を向上させることが実現できたものと考えている。
【0065】
本発明を構成する(C)成分の金属キレート化合物は、使用形態上は水溶性であることが好ましく、且つ、併用する(A)成分のヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中にあるカチオン性基のカウンターイオンと反応が起こらない化合物でキレート化されたもの、がより好ましい。本発明の水分散体組成物の主成分であるヒドロキシポリウレタン樹脂がカチオン性基を有することから、配位子としてはアニオン性物質を持つものが塗料の安定性上は好ましい。特に好ましい具体的な化合物として、チタン乳酸キレート(チタンの乳酸キレート)や塩化ジルコニル化合物(塩化ジルコニウムのアミノカルボン酸キレート)が挙げられる。本発明の水分散体組成物中における上記(C)成分の含有量は、前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分との全固形分100質量%に対して、1〜10質量%であることを要す。より好ましくは、3〜8質量%である。(C)成分の金属キレート化合物は、併用する水酸基を架橋するものであるが、添加量が1質量%未満と、少ないと被膜の耐水性が劣るものになる。一方、添加量が多すぎると、(A)成分中の水酸基の量が少なくなりすぎ、ガスバリア性が低下する。
【0066】
また、本発明を構成する(C)成分として、上記に例示したような金属キレート化合物を添加させてなる本発明の水分散体組成物は、その架橋反応を抑制し、保存安定性をより向上させるため、組成物を弱酸性にすることが好ましい。これに対し、本発明で必須とする(A)成分のカチオン性基含有のヒドロキシポリウレタン樹脂は、従来のアニオン型の樹脂と異なり、酸性条件下でも安定であるため、塩酸、リン酸、乳酸などの酸を加えて、pHを酸性に調整することができる。
【0067】
<その他の添加剤>
本発明の水分散体組成物は、加工時(使用時)の必要特性に合わせて、各種レオロジー調整剤を添加した構成とすることもできる。また、本発明の水分散体組成物は、必要に応じて、各種添加剤を加えてもよく、例えば、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤などを適宜に添加することもできる。
【0068】
<ガスバリア性フィルム>
以上の特性を有する本発明のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物を含むことで、ガスバリア性により優れた塗膜(被膜層)の形成が可能な、本発明のガスバリア性コーティング剤を提供することができる。
【0069】
本発明のガスバリア性フィルムは、基材と、該基材の少なくとも一方に、厚みが0.1〜100μmの被膜層が積層されてなり、該被膜層が、本発明のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物を用いて形成されてなり、その酸素透過率が、23℃、65%の恒温恒湿度下において、50mL/m2・day・atm以下のものであることを特徴とする。本発明のガスバリア性フィルムは、上記した本発明のガスバリア性コーティング剤を用い、下記のような方法で容易に得られる。
【0070】
本発明の水分散体組成物を含有してなる塗膜(被膜層)を得る方法としては、本発明のガスバリア性コーティング剤を基材となるフィルムに、例えば、グラビアコーター、ナイフコーター、リバースコーター、バーコーター、スプレーコーター、スリットコーターなどによって塗布し、水及び残存している溶剤を揮発させることが挙げられる。このようにすることで、基材と、該基材の少なくとも一方に、本発明の水分散体組成物によって形成したヒドロキシポリウレタン被膜層とを有してなる本発明のガスバリア性フィルムを得ることができる。
【0071】
上記で基材として使用するフィルム材料は、特に限定されるものではなく、従来から包装材料として使用される高分子材料は全て使用可能である。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル系樹脂、ナイロン6やナイロン66などのポリアミド系樹脂、その他ポリイミド等とこれらの樹脂の共重合体等が挙げられる。また、これらの高分子材料には、必要に応じて、例えば、公知の帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤等の添加剤を適宜に含ませることができる。
【実施例】
【0072】
次に、具体的な製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0073】
[製造例1:環状カーボネート含有化合物(I−A)の合成]
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、エポキシ当量192のビスフェノールAジグリシジルエーテル(商品名:jER828、ジャパンエポキシレジン社製)100部と、触媒としてヨウ化ナトリウム(和光純薬社製)20部と、反応溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン100部とを仕込んだ。次いで、撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて10時間反応を行った。そして、反応終了後の溶液に、イソプロパノール1400部を加え、反応物を白色の沈殿として析出させ、濾別した。得られた沈殿物をトルエンにて再結晶を行い、白色の粉末52部を得た(収率42%)。
【0074】
上記で得られた粉末を、FT−IR(堀場製作所社製、商品名:FT−720、以下の製造例でも同様の装置を使用して測定)にて赤外分光分析したところ、910cm-1付近の原材料のエポキシ基由来の吸収は消失しており、1800cm-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル由来の吸収が確認された。また、HPLC〔日本分光社製、LC−2000(商品名)、カラム:FinepakSIL C18−T5、移動相:アセトニトリル+水〕による高速液体クロマトグラフィー分析の結果、原材料のピークは消失し、高極性側に新たなピークが出現し、その純度は98%であった。また、DSC測定(示差走査熱量測定)の結果、融点は178℃であり、融点範囲は±5℃であった。
【0075】
以上のことから、この粉末は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により環状カーボネート基が導入された下記式で表わされる構造の化合物であると確認された。これをI−Aと略称した。I−Aの化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、20.5%であった(計算値)。
【0076】
[製造例2:環状カーボネート含有化合物(I−B)の合成]
エポキシ化合物として、エポキシ当量115のハイドロキノンジグリシジルエーテル(商品名:デナコールEX203、ナガセケムテックス社製)を用いた以外は、前記した製造例1と同様の方法で、下記式(I−B)で表わされる構造の環状カーボネート化合物を合成した(収率55%)。得られたI−Bは、白色の結晶であり、融点は141℃であった。FT−IR分析の結果は、I−Aと同様に910cm-1付近の原材料のエポキシ基由来の吸収は消失しており、1800cm-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル由来の吸収が確認された。HPLC分析による純度は97%であった。I−Bの化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、28.4%であった(計算値)。
【0077】
【0078】
<実施例で使用するカチオン性基含有ヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体の製造>
[実施例用の分散体製造例1]
(転相乳化前のヒドロキシポリウレタン樹脂の合成)
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、製造例1で得た化合物I−Aを100部、ジエチレントリアミン(東京化成工業社製)12.0部、へキサメチレンジアミン(東京化成工業社製)を13.6部、さらに反応溶媒としてテトラヒドロフラン(以下、THFと略記)188部を加え、60℃の温度で撹拌しながら24時間の反応を行い、中間体としての構造中に2級アミノ基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂を得た。反応後の樹脂溶液をFT−IRにて分析したところ、1800cm-1付近に観察されていた環状カーボネートのカルボニル基由来の吸収が完全に消失しており、新たに1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。得られた樹脂溶液を用いて測定した樹脂のアミン価は、樹脂分100%の換算値として52.1mgKOH/gであった。
【0079】
次いで、この樹脂溶液に、カチオン化剤として、カチオマスターG(商品名、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、四日市工業社製、固形分70%水溶液)25.3部を加え、60℃で反応を行い、FT−IRにてカチオン化剤のエポキシ基由来の910cm-1のピークが消失したことを確認してカチオン化反応を終了し、転相乳化前のカチオン性基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。
【0080】
得られた樹脂の物性を確認するために、上記の樹脂溶液を、乾燥時の膜厚が50μmになるように、バーコーターにて離型紙に塗布し、70℃オーブンで溶剤を乾燥させた後、離型紙を剥がして、樹脂製の樹脂フィルムを得た。得られた樹脂フィルムについて、外観、機械強度(破断強度及び破断伸度)を後述する方法で評価した。また、樹脂について、後述する方法で、分子量(GPCで測定)、カチオン性基の濃度及び水酸基価を測定した。その際、水酸基価についてはカチオン化後の測定が困難なことより、カチオン化前のアミノ基含有ヒドロキシポリウレタンの水酸基価を測定し、カチオン化反応が100%行われたものとして計算した。その結果を表1に示した。また、このカチオン性基含有ヒドロキシポリウレタン樹脂の樹脂骨格中に締める二酸化炭素の質量%は14.3%(計算値)である。
【0081】
(水分散体の製造)
次に、上記で得られた樹脂溶液100部を、撹拌翼を備え加熱と減圧が可能な反応容器に移し、イオン交換水100部を徐々に添加し、転相乳化を行った。次に、反応容器を50℃に加温、減圧し、THFを留去することにより、水中にヒドロキシポリウレタン樹脂が分散してなる水分散体を得た。得られた水分散体は、固形分が28%となるように調整し、外観上均一な水分散体であった。水分散体中のポリマー分散粒子の粒度分布は、d50=0.025μm(=25nm)であった。粒度分布は、UPA−EX150(商品名、日機装社製)を用いて測定した。他の例でも同様である。
【0082】
[実施例用の分散体製造例2]
(転相乳化前のヒドロキシポリウレタン樹脂の合成)
分散体製造例1で用いたのと同様の反応容器内に、製造例2で得た化合物I−Bを100部、メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)を21.9部、ジエチレントリアミンを16.6部、反応溶媒としてTHFを208部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間の反応を行い、中間体としての構造中に2級アミノ基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂を得た。反応後の樹脂溶液について行ったFT−IRによる反応経過確認の結果は、分散体製造例1の場合と同様であった。得られた樹脂溶液を用いて測定した樹脂のアミン価は、樹脂分100%の換算値として65.2mgKOH/gであった。次いで、カチオン化剤としてカチオマスターGを34.9部加え、60℃で反応を行い、転相乳化前のカチオン性基含有ヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。得られた樹脂を分散体製造例1で行ったと同様に分析し、結果を表1に示した。このカチオン性基含有ヒドロキシポリウレタン樹脂の樹脂骨格中に締める二酸化炭素の質量%は、17.4%(計算値)である。
【0083】
(水分散体の製造)
次いで、分散体製造例1と同様の方法で、水406部を添加し転相乳化を行った後にTHFを留去することで、ヒドロキシポリウレタン水分散体を得た。水分散体中のポリマー分散粒子の粒度分布は、d50=0.020μm(=20nm)であった。
【0084】
[実施例用の分散体製造例3]
(転相乳化前のヒドロキシポリウレタン樹脂の合成)
分散体製造例1で用いたのと同様の反応容器内に、製造例1で得た化合物I−Aを100部、ヘキサメチレンジアミンを13.6部、イミノビスプロピルアミン(東京化成工業社製)を15.3部、反応溶媒としてTHFを193部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間の反応を行い、中間体としての構造中に2級アミノ基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂を得た。反応後の樹脂溶液についてのFT−IRによる反応経過確認の結果は、分散体製造例1と同様であった。得られた樹脂溶液を用いて測定した樹脂のアミン価は、樹脂分100%の換算値として50.8mgKOH/gであった。次いで、カチオン化剤としてカチオマスターGを25.3部加え、60℃で反応を行い、転相乳化前のカチオン性基含有ヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。得られた樹脂を分散体製造例1で行ったと同様に分析し、結果を表1に示した。このカチオン性基含有ヒドロキシポリウレタン樹脂の樹脂骨格中に締める二酸化炭素の質量%は14.0%(計算値)である。
【0085】
(水分散体の製造)
次いで、分散体製造例1と同様の方法で、水365部を添加し転相乳化を行った後にTHFを留去することで、ヒドロキシポリウレタン水分散体を得た。水分散体中のポリマー分散粒子の粒度分布はd50=0.022μm(=22nm)であった。
【0086】
[比較例用の分散体製造例a]
分散体製造例1で用いたのと同様の反応容器内に、製造例1で得た化合物I−Aを100部、へキサメチレンジアミンを13.6部、ジエチレントリアミンを12.0部、反応溶媒としてTHFを188部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間の反応を行い、中間体としての構造中に2級アミノ基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂を得た。反応後の樹脂溶液についてのFT−IRによる反応経過確認の結果は、分散体製造例1と同様であった。得られた樹脂溶液を用いて測定した樹脂のアミン価は樹脂分100%の換算値として52.1mgKOH/gであった。
【0087】
次いで、この樹脂溶液に無水フタル酸(東京化成工業社製)16.3部を加え、室温で反応を行い、FT−IRにて酸無水物カルボニル由来の1800cm-1のピークが消失したことを確認して反応を終了した。この反応溶液に、反応触媒としてトリエチルアミンを16.9部加え、転相乳化前の、構造中にカルボキシル基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。そして、樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観及び機械強度と、樹脂の、分子量(GPC)、カチオン性基濃度及び水酸基価を測定した。結果を表1に示した。このカチオン性基含有ヒドロキシポリウレタン樹脂の樹脂骨格中に締める二酸化炭素の質量%は14.5%(計算値)である。
【0088】
次に、反応容器内にイオン交換水347部を添加し、転相乳化を行った。次いで、反応容器を50℃に加温、減圧し、THFを留去することにより、水中にヒドロキシポリウレタン樹脂が分散してなる水分散体を得た。得られた水分散体は、固形分が28%となるように調整した。得られた水分散体は、外観上均一な水分散体であった。また、水分散体中のポリマー分散粒子の粒度分布は、d50=0.020μm(=20nm)であった。
【0089】
(評価方法)
実施例用の分散体製造例1〜3及び比較例用の分散体製造例aでそれぞれ得た各樹脂、及び各水分散体で作製した各フィルムについて、以下の方法及び基準で評価した。各樹脂についての二酸化炭素含有量は、以下のようにして算出した。評価結果を表1にまとめて示した。
【0090】
[二酸化炭素含有量]
二酸化炭素含有量は、各分散体製造例で得たヒドロキシポリウレタン樹脂の化学構造中における、原料の二酸化炭素由来のセグメントの質量%を算出して求めた。具体的には、ヒドロキシポリウレタン樹脂の合成反応に使用した、化合物I−A、I−Bを合成する際に使用したモノマーに対して含まれる二酸化炭素の理論量から算出した計算値で示した。例えば、分散体製造例1の場合には、使用した化合物I−Aの二酸化炭素由来の成分量は20.5%であり、これよりポリウレタン中の二酸化炭素濃度の算出値は、下記の通りになる。
(100部×20.5%)/143.3全量=14.3質量%
【0091】
[分子量]
本発明では、樹脂の分子量を、DMFを移動相としたGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により測定した。具体的には、東ソー社製のGPC−8220(商品名)で、カラムとして、Super AW2500+AW3000+AW4000+AW5000を使用して測定した。測定結果を、ポリスチレン換算値として重量平均分子量を表した。
【0092】
[水酸基価]
カチオン化前のアミノ基含有ヒドロキシポリウレタン樹脂の水酸基価をJIS K−1557に準拠した滴定法により測定した実測値を基に、カチオン化反応が100%行われたものとして、使用したカチオン化剤の重量、及び、カチオン化剤とアミノ基の反応により水酸基が1基発生するものとして計算した計算値を水酸基価とした。
【0093】
[カチオン性基濃度]
反応に使用したカチオン化剤の量からカチオン性基1基辺りの分子量を算出し、カチオン性基の濃度とした。単位はg/molである。
例えば、分散体製造例1の場合、使用したカチオン化剤の有効成分量は17.7gであり、カチオン化剤の分子量は151.6であることから、下記のように算出される。
143.3全量(g)÷(17.7÷151.6)=1228g/mol
【0094】
[フィルム外観]
作製したそれぞれの樹脂フィルムについて、全光線透過率及びヘイズを測定し、以下の基準で評価した。全光線透過率及びヘイズは、JIS K−7105に準拠して、いずれもヘイズメーターのHZ−1(商品名、スガ試験機社製)を用いて測定した。ここで、ヘイズメーターで測定される全ての光量が全光線透過率であり、全光線透過率に対する拡散透過光の割合がヘイズである。
〔評価基準〕
○:全光線透過率90%以上で、且つ、ヘイズ0.5%以下
×:○に該当しないもの
【0095】
[機械強度]
作製した各樹脂フィルムの機械強度として、破断点強度及び破断点伸度を測定した。具体的には、JIS K−6251に準拠して、オートグラフのAGS−J(商品名、島津製作所社製)を使用し、室温(25℃)で測定した。
【0096】
【0097】
<水分散体組成物及びフィルムの製造>
[実施例1]
分散体製造例1で得た固形分28%の水分散体100部に2N塩酸を加え、リトマス試験紙を使用してpH=4に調整したヒドロキシポリウレタン水分散体とし、これを(A)成分として用いた。別の容器に、(B)成分として、平均粒子径0.5μm、鱗片状のシリカ微粒子の分散液であるサンラブリーHN−050(商品名、AGCエスアイテック社製、固形分15%)を56部計り取り、pH4に調整された(A)成分のヒドロキシポリウレタン水分散体を撹拌しながら徐々に加え、均一化した。次いで、(C)成分としてTi乳酸キレートであるオルガチックスTC−310(商品名、マツモトファインケミカル社製、固形分44%)を3部加え、さらに、これに増粘剤として、ゴーセネックスK434(日本合成株式会社製、PVA、事前に水に溶解し濃度30%に調整、以下の例も同様)を10部加え、ホモミキサーにて撹拌均一化して水分散体組成物を作製した。
【0098】
上記で得た水分散体組成物を基材に塗布して、下記のようにしてガスバリア性フィルムを作製した。具体的には、まず、基材に、厚み25μmのPETフィルムであるルミラーS10(商品名、東レ社製、酸素透過率実測値:61mL20μm/m2・day・atm)を用い、そのコロナ処理面上に、乾燥時の膜厚が10μmになるように塗布し、100℃にて3分の乾燥を行った。その後、50℃のオーブン中で48時間のエージングを行い、基材上に被膜層を形成して複層フィルムを得た。得られた複層フィルムを用い、形成した被膜層の外観(塗膜外観)、耐水性及びガスバリア性を評価した。それぞれの測定方法については後述する。結果を表2に示した。なお、各成分の配合比率は、A成分(樹脂分)を100部として、固形分換算で表2中に示した。
【0099】
[実施例2]
(A)成分として、実施例1で使用したと同じ固形分28%の水分散体100部をpH=4に調整したものを用い、(B)成分として、平均粒子径1.5μm、鱗片状のシリカ微粒子の分散液であるサンラブリーHN−150(商品名、AGCエスアイテック社製、固形分16%)を53部使用し、(C)成分として、Ti乳酸キレートであるTC−310を3部、増粘剤として前記したゴーセネックスK434(30%)10部を使用し、実施例1と同様の操作により水分散体組成物を得た。得られた水分散体組成物を使用し、実施例1と同様の基材及び操作により複層フィルムを得た。そして、実施例1で行ったと同様に、形成した被膜層の外観(塗膜外観)、耐水性及びガスバリア性を評価し、結果を表2に示した。その他の実施例及び比較例で得た複層フィルムについても同様の評価を行い、結果を表2にまとめて示した。
【0100】
[実施例3]
(A)成分として、実施例1で使用したと同じ固形分28%の水分散体100部をpH=4に調整したものを用い、(B)成分として、平均粒子径0.04−0.05μm、球状のシリカ微粒子の分散液であるスノーテックスST−AK−L(商品名、日産化学社製、固形分20%)を42部使用し、(C)成分として、Ti乳酸キレートであるTC−310を3部、増粘剤として前記したゴーセネックスK434(30%)を10部使用し、実施例1と同様の操作により水分散体組成物を得た。得られた組成物を使用し、実施例1と同様の基材及び操作により複層フィルムを得た。
【0101】
[実施例4]
(A)成分として、実施例1で使用したと同じ水分散体100部をpH=4に調整したものを用い、(B)成分として、平均粒子径0.04−0.05μm、球状のシリカ微粒子の分散液であるスノーテックスST−AK−L(商品名、日産化学社製、固形分20%)を140部使用し、(C)成分として、Ti乳酸キレートであるTC−310を10部、増粘剤として前記したゴーセネックスK434(30%)を10部使用し、実施例1と同様の操作により水分散体組成物を得た。得られた組成物を使用し、実施例1と同様の基材及び操作により複層フィルムを得た。
【0102】
[実施例5]
(A)成分として、製造例2で得られた固形分28%の水分散体100部を、実施例1と同様にpH=4に調整したものを用い、(B)成分として、実施例1で使用したと同様のサンラブリーHN−050を75部、(C)成分として、実施例5で用いたと同様の塩化ジルコニル化合物であるオルガチックスZC−126(商品名、マツモトファインケミケル社製、固形分30%)を5部用い、増粘剤として前記したゴーセネックスK434(30%)を10部使用し、実施例1と同様の操作により水分散体組成物を得た。得られた組成物を使用し、実施例1と同様の基材及び操作により複層フィルムを得た。
【0103】
[実施例6]
(A)成分として、製造例3で得られた固形分28%の水分散体100部を、実施例1と同様にpH=4に調整したものを用い、(B)成分のシリカ微粒子として、実施例2で用いたと同様のサンラブリーHN−150を30部用い、(C)成分として、実施例5で用いたと同様の塩化ジルコニル化合物であるオルガチックスZC−126を5部用い、増粘剤として前記したゴーセネックスK434(30%)10部を使用し、実施例1と同様の操作により水分散体組成物を得た。得られた組成物を使用し、実施例1と同様の基材及び操作により複層フィルムを得た。
【0104】
[比較例1]
実施例1で(A)成分として用いた分散体製造例1で得た固形分28%の水分散体をそのまま使用し、実施例で使用した(B)成分及び(C)成分の、シリカ成分及び金属キレート成分を添加せず、増粘剤として前記したゴーセネックスK434(30%)10部のみを使用し、水分散体組成物を得た。得られた組成物を使用し、実施例1と同様の基材及び操作により比較例の複層フィルムを得た。
【0105】
[比較例2]
(C)成分として用いたTi乳酸キレートであるオルガチックスTC−310の使用量を0.5部に減らした以外は、実施例1と同様の材料及び操作で水分散体組成物を得た。得られた組成物を使用し、実施例1と同様の基材及び操作により比較例の複層フィルムを得た。
【0106】
[比較例3]
実施例1で(C)成分として用いたTi乳酸キレートであるオルガチックスTC−310の替わりに、水分散性ポリイソシアネートであるデュラネートWB40−100(商品名、旭化成社製、NCO%=16.6)を2部使用した外は、実施例1と同様の材料及び操作で水分散体組成物を得た。得られた組成物を使用し、実施例1と同様の基材及び操作により複層フィルムを得た。
【0107】
[比較例4]
分散体比較製造例aで得た固形分28%の水分散体100部に2N塩酸を加え、リトマス試験紙を使用しpH=4に調整しようとしたところ、樹脂が凝集し、沈殿したことから操作を中止し、pH調整していない水分散体をそのまま使用した。別の容器に、実施例1で(B)成分として用いた、シリカ微粒子の分散液であるサンラブリーHN−050を56部計り取り、pH調整していない分散体製造例a得られたヒドロキシポリウレタン水分散体を撹拌しながら徐々に加えた。しかし、シリカを添加し始めると直ぐにシリカがショック凝集し、全体がゲル状になったことから添加操作を中止した。コーティングができない状態であったのでフィルムは作成していない。
【0108】
(評価)
実施例1〜6及び比較例1〜4の各水分散体組成物の特性、及び、各水分散体組成物を用いて作製した各フィルムの評価は、以下の方法及び基準で行った。そして、実施例の結果を表2に示し、比較例の結果を表3にまとめて示した。
【0109】
[保存安定性]
実施例及び比較例の各水分散体組成物を、密閉したポリ容器に入れ、25℃の恒温槽で保存した。そして、それぞれ、1日、7日、30日後の状態を目視で観察し、それぞれ、以下の基準で評価した。評価結果を表2及び表3にまとめて示した。
〔評価基準〕
○:粒子の沈降は無く、粘度増加は起こらない
△:粒子が沈降しているが、撹拌により簡単に再分散する。粘度増加は起こらない
×:粘度が増加或いはゲル化している
【0110】
[塗膜外観]
実施例及び比較例で作製した各複層フィルムについて、形成した被膜層の外観(塗膜外観)を目視にて観察し、以下の基準で評価した。評価結果を表2及び表3にまとめて示した。
〔評価基準〕
○:透明均一で光沢のある塗膜表面である
△:塗膜表面の光沢が無く、濁っている
×:集物による凹凸がある
【0111】
[耐水性]
実施例及び比較例で作製した各複層フィルムについて、フィルムを水に浸漬し、室温で24時間後の塗膜表面状態を目視で観察し、以下の規準で評価した。評価結果を表2及び表3にまとめて示した。
〔評価基準〕
○:変化は見られない
△:塗膜の一部が白化している
×:塗膜が膨潤している
【0112】
[密着性]
実施例及び比較例で作製した各複層フィルムについて、塗膜表面の一部にセロハンテープを圧着し、ゆっくりと手で引き剥がし、塗膜の剥がれ具合を観察し、以下の基準で評価した。評価結果を表2及び表3にまとめて示した。
〔評価基準〕
○:塗膜の剥がれが無し
△:塗膜の一部が剥離した
×:塗膜が完全に剥離した
【0113】
[ガスバリア性]
実施例及び比較例で作製した各複層フィルムについて、JIS K−7126に準拠して酸素の透過度を測定し、これをガスバリア性の評価値とした。すなわち、この値が低いほどガスバリア性に優れると判断できる。具体的には、酸素透過率測定装置OX−TRAN 2/21ML(商品名、MOCON社製)を使用して、温度23℃で、湿度65%とした恒温恒湿条件下にて、酸素透過度(酸素透過率)を測定した。測定値は複層フィルムとしての値であり、単位はmL/m2・day・atmである。なお、該フィルムにおける実施例或いは比較例の塗料を塗布して得られた被膜層(塗膜)の厚みは、精密厚み測定器(尾崎製作所社製)を使用して実測し、10μmであることを確認している。評価結果を表2及び表3にまとめて示した。
【0114】
【0115】
【0116】
表2に示したように、本発明の実施例の水分散体組成物はシリカの分散度が高く、保存安定性に優れていた。特に、実施例1、2、5及び6で(B)成分として用いたシリカ微粒子のサンラブリー(商品名)は、鱗片状で、凝集、沈降が起こり易いものであるが、これらの実施例の水分散体組成物も安定な状態であることが確認された。本発明者らは、優れた保存安定性が実現できた理由を、実施例の水分散体組成物を構成する(A)成分であるヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中にある水酸基と、併存する(B)成分のシリカ微粒子のシリカ表面のシラノール基との親和力が寄与したものと考えている。
【0117】
また、本発明の実施例の水分散体組成物を使用して被膜層(塗膜)を形成した際の、乾燥時の塗膜外観も良好であり、透明な被膜が得られた。水酸基の一部を金属キレート化合物により架橋することにより耐水性も有している。
【0118】
さらに、本発明の水分散体組成物を構成するヒドロキシポリウレタン樹脂は、ガスバリア性に優れた樹脂であり、優れたガスバリア性を示す被膜層(塗膜)の形成が可能になるが、表3に示した比較例の水分散体組成物の結果から、従来技術である比較例と比べてより高いガスバリア性が実現できることが確認された。より具体的には、本発明で規定した(B)成分のシリカ微粒子の添加、及び、本発明で規定した範囲の量で併存させた(C)成分の金属キレート化合物による架橋により、得られた被膜はさらに高いガスバリア性を有したものとなる。すなわち、(C)成分の金属キレート化合物による架橋は、架橋間の距離が短くなることから樹脂の結晶構造を阻害せず、比較例3で用いたイソシアネートのような有機架橋剤による架橋に比べてガスバリア性の向上に特に効果を有していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明によれば、工業的に要求される長期間の保存が可能で、且つ、ガスバリア性に優れたヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体組成物を提供することができる。安定な水分散体状態を得るために、水を加えて転相乳化する前のヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中にカチオン性基を導入したが、構造中に水酸基も同時に存在していることで、従来のヒドロキシポリウレタン樹脂で形成した被膜と同様の機械強度を有しており、従来の想定用途への応用が期待できる。さらに、本発明を特徴づけるヒドロキシポリウレタン樹脂は、その原料に二酸化炭素を使用することができるものであるので、地球環境保護の面からも期待される技術である。