【実施例】
【0036】
2.材料及び方法
2.1 酵素反応及び標識化
ヒト血清sTF(10mg/mL(Sigma))を、1×Glycobuffer(5mM CaCl
2を含むpH5.5の20mM酢酸ナトリウムバッファー)に溶解した。ヒトsTF溶液を37℃で一晩ノイラミニダーゼ(1×Glycobuffer(Sigma)中1mg/mL)で処理してaTFを生成した。sTF及びaTFの両方を製造業者のプロトコルに従ってNHS−ローダミン(Pierce)で標識化した。全ての未反応ローダミンをPD MiniTrap G−25カラム(GE Heathcare)上のカラムクロマトグラフィによって除去した。
【0037】
ノイラミニダーゼ(Sigma)及びガラクトースオキシダーゼ(Sigma)を含む2段階酵素反応を、ヒトCSF(PrecisionMed)、貯蔵ヒト血清(Innovative Research Inc.)、及び個々のヒト血清試料(BioreclaimationIVT)に対して行った。最初に、CSF及び血清の両方を、1×Glycobufferでそれぞれ2倍と200倍に希釈した。希釈したCSF(10μL)及び希釈した血清(10μL)を各々37℃で1時間ノイラミニダーゼ(1mg/mLを10μL)により処理した後、37℃の100mM、pH 7.2、Trisバッファー(0.5KU/mLを10μL)に溶解したガラクトースオキシダーゼで様々な時間にわたって処理した。
【0038】
2.2 アガロースゲル電気泳動
40mLの1×Tris−ホウ酸塩バッファー(89mM Trisベース及び89mMホウ酸、pH8.0)中に0.4gのアガロース粉末(Sigma)を溶解した後、電子レンジでアガロースを溶かすことによってアガロースゲル(1%)を調製し、その後、溶けたアガロース溶液を成形トレイに注ぎ、室温に冷却することで固体ゲルを形成した。ローディング試料を、ローダミン標識化タンパク質(10μL中20ng〜320ng)を30%グリセロール(2μL)と混合することにより調製した。タンパク質試料をロードした後、ゲルを200Vで15分間電気泳動に供した。
【0039】
2.3 過ヨウ素酸酸化
4℃(氷上)で30分間にわたり1mM NaIO
4を用いて穏やかな過ヨウ素酸酸化を行い、TF中で非還元末端シアル酸残基を酸化した。過ヨウ素酸酸化中に生成された過剰な過ヨウ素酸塩及びホルムアルデヒドをPD Mini Trap G−25カラム(GE Heathcare)によって除去した。G−25カラムを使用する脱塩及びpH7.0のリン酸ナトリウムバッファー100mMによるバッファー交換の後、酸化シアル酸残基を含むTFをSiMAG−ヒドラジドミクロ粒子(Chemicell)で捕捉した。
【0040】
2.4 シアロ−タンパク質のカップリング及び分離
SiMAG−ヒドラジド粒子(10mg/ml)をpH7.0、100mMのリン酸ナトリウムバッファーで2回洗浄した後、該粒子を、酸化シアル酸残基を含むTFとともに20℃で3時間インキュベートした。タンパク質−粒子抱合体を、磁気分離器を使用してペレット化した。上清中に残ったタンパク質をAmicon超遠心分離フィルタ(Ultracel−3K)によって回収し濃縮した。aTFを含む濃縮試料をアガロースゲル電気泳動によるか、又はトランスフェリンELISAキット(Abcam)を使用して分析した。
【0041】
2.5 ELISAアッセイ
トランスフェリンELISAアッセイキット(Abcam)で試験試料中のヒトTFを検出することができた。簡潔には、標準試料又は試験試料をTF特異抗体で予め被覆した96ウェルプレートに添加した後、特異的ビオチン化TF検出抗体を添加し、該プレートを洗浄バッファーで洗浄した。ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ複合体を添加し、結合していない抱合体を洗浄バッファーで洗い流した。TMBがペルオキシダーゼによって触媒され、酸性停止溶液を添加した後に黄変する青色生成物を生成することで、TMBを使用してストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ酵素反応を可視化した。450nmの波長においてマイクロプレートリーダー(SpectraMax M5(Molecular Devices))で黄色の吸光度を直ちに測定した。詳細なELISAプロトコルは、製造業者のガイドライン(Abcam)に従った。
【0042】
3.結果及び考察
ノイラミニダーゼを使用してsTFからaTFを生成した。シアル酸残基の除去後、TFをNHS−ローダミンを使用して標識化した(
図2A)。アガロースゲル電気泳動を使用して、ローダミン標識化aTF及びsTFを分離することができた(
図2B)。結果は、より多くの負に帯電したsTFが陽極近くに移動したことを示した。さらに、ヒト血漿中においてローダミン標識化トランスフェリンを選択的に検出することができた(
図2B)。ローダミン標識化TFに対する検出限界は2μg/mLであり(
図2C)、それは免疫固定(IFE)ゲル電気泳動による検出に類似する[19]。
【0043】
ヒト血清TFが非還元末端シアル酸残基を含む2つのグリカンを有する糖タンパク質(sTF)であり、CSFがsTF及びaTFの両方を含む[7、12]ことから、穏やかな過ヨウ素酸酸化[22]はsTFをヒドラゾンとして捕捉可能とする(
図3A)。したがって、本発明者らは、CSF中におけるaTFの検出を容易にするためsTFを選択的に除去した(
図3A)。sTF中の末端シアル酸残基を、過ヨウ素酸ナトリウムで穏やかに処理することによってそれらのアルデヒド誘導体へと酸化し[22、23]、安定なヒドラゾン結合形態のSiMAG−ヒドラジド(磁性ヒドラジドミクロ粒子)への共有結合カップリングによって酸化sTFを捕捉した。その後、磁気分離器を使用してsTF−ビーズ複合体を容易に除去することができた(
図3B)。実証実験として、本発明者らは、種々の濃度(100μL)のsTF及びaTFを穏やかな過ヨウ素酸酸化(4℃で30分間の1mM NaIO
4)に供し、sTF中の末端シアル酸残基のC−7位に選択的にアルデヒドを導入した。Sephadex G−25カラム上で脱塩することによって未反応の酸化試薬を除去した後、20℃で3時間にわたって200μLのSiMAG−ヒドラジド(10mg/mL)とともにインキュベートすることによってアルデヒド基含有sTFを補捉した。捕捉されたsTFを磁気分離器で除去し、アガロースゲル電気泳動を使用して微量の残留sTFとともにaTFを含む上清をアッセイした(
図3C)。結果は、sTFがSiMAG−ヒドラジドとの共有結合的な捕捉によって選択的に除去され、aTFが上清バッファー中に残ったことを示した。高濃度のsTF(0.8mg/mL)では、その捕捉に必要なSiMAG−ヒドラジドが不十分であったため、約50%のsTFが上清バッファーに残った。本発明者らがSiMAG−ヒドラジドの量を2倍にした(20mg/mL)場合、残った残留sTFは3%未満まで減少した(データは示されていない)。この穏やかな過ヨウ素酸酸化は、30分以内にアルデヒド基をsTFへと迅速かつ選択的に導入し(
図3C)、SiMAG−ヒドラジド磁性ミクロ粒子とのカップリングを3時間で遂行することができ、5時間未満の全体的な前処理時間を要する。これらの結果を励みに、本発明者らは、CSFと血清との混合物からなる試料においてCSF aTFを検出するために開発したプロトコルを適用した。
【0044】
CSF及び血清の両方を含む試料に対する実証実験として、ローダミン標識化(200倍)希釈血清とローダミン標識化(2倍)希釈CSFとの混合物(10μL)を穏やかな過ヨウ素酸酸化に供した。上に記載されるプロトコルに従って血清及びCSFの両方からのsTFの選択的な分離の後、アガロースゲル中の残留sTFを分析した(
図4A)。血清中のsTFのレベルはCSF中のsTFより高く、血清及びCSFの両方に存在するsTFは全て、穏やかな過ヨウ素酸酸化及びSiMAG−ヒドラジドによる捕捉によって成功裡に除去された(
図4Aの下のバンド)。
【0045】
血清及びCSFの両方に存在するタンパク質の複雑な混合物のため、アガロースゲルにおいてaTFバンドを直接検出することができなかった。したがって、CSF及び血清の両方の残留TFを検出するため、ヒトトランスフェリンELISAを行ってTFのみを特異的に捕捉した(
図4B)。CSF中の残留TF(aTF)の量は、血清中の残留TF(捕捉されなかったsTF)よりも明らかに多かった。しかしながら、微量の残留TF(捕捉されなかったsTF)は、シアル酸残基の不完全な酸化又は非効率的な捕捉のいずれかのため血清中に尚も存在した。ELISA(データは示されていない)におけるTFの標準曲線に基づいて、血清中に残留する微量のTFのレベルは、約7ng/mLであり、バッファー対照のそれに類似するものであった。対照的に、CSF中の残留TF(aTF)は、CSF中の初期量のTF(約170ng/mL)の三分の一に相当する約60ng/mLであった。この結果から、CSF中の総TFの約30%のみがaTFであると予想された[7]。本発明者らは、CSF漏れの現実の状況をシミュレートするために、種々の体積比を有する血清とCSFとの混合物を調製した。上のプロトコルによる血清とCSFとの混合物からのsTFの選択的な除去の後、残留TF(主にaTF)をELISAキットによって測定した(
図4C)。結果は、血清とCSFとの混合物に由来する残留TFの量が、血清とCSFとの混合物と同じ希釈液であるバッファー中の種々の量のCSFに由来する残留TFの量に類似していたことを示した。さらに、本発明者らは、複数の血清試料(S1:29歳/アフリカ系男性、S2:41歳/白人男性、S3:61歳/ヒスパニック系女性、S4:21歳/アフリカ系女性)を使用し、CSFと様々な血清との混合物(1:1体積比)を調製し、sTFを選択的に除去した。種々の血清試料とCSFとの混合物に由来する初期TF及び残留TFの両方をELISAキットによって測定した(
図4D)。CSFに由来する残留TF(主にaTF)は血清の種類にかかわらず明らかに検出され、血清に由来する残留TFの量は陰性対照(バッファーのみ)に類似するものであった。
【0046】
本発明者らは、sTFの選択的な除去を通じてCSFと血清を区別することができたが、CSFと血清との混合物を分析する場合、血清sTFの完全な除去がCSF中のaTFの正確な測定に望ましい。したがって、本発明者らは、酵素が非常に高い基質特異性を示すことから、sTF中のアルデヒド基を生成するために2段階酵素(ノイラミニダーゼ及びガラクトースオキシダーゼ)反応を検討した。CSF由来aTF中には非還元末端シアル酸残基もガラクトース残基もないことから[7]、2段階酵素反応は、定量的かつ選択的にガラクトース残基のC−6位においてsTFへアルデヒド基を導入するはずである(
図5A)。希釈された(2倍)CSF及び(200倍)血清の両方の10μLの試料を37℃でノイラミニダーゼ(1mg/mLを10μL)及びガラクトースオキシダーゼ(0.5KU/mLを10μL)に添加した。該試料を種々の長さの時間にわたって2つの酵素に供した後、SiMAG−ヒドラジド(10mg/mLを100μL)を該反応混合物に添加し、20℃で更に3時間インキュベートして酸化sTFを捕捉した。磁気分離器によってミクロ粒子に捕捉された酸化sTFをプルダウンした(pulling down:下方移動させた)後、上清中の残留TFをELISAで判定した(
図5B)。結果は、この処置は24時間を要したが、本発明者らはこの2段階酵素反応において血清sTFを完全に除去することができたことを示した。しかしながら、この2段階プロセスは成功裡に全てsTFを除去することができたものの、この前処理工程は約24時間を要し、長すぎて外科医の早急な臨床決定に適応することができないものだった。結果的に、将来の研究は、2段階酵素前処理に必要な時間を減少させるとともに、過ヨウ素酸塩の前処理の選択性を改善することを目標とする。
【0047】
CSFの迅速で高感度な検出は、患者ケアに関するリアルタイムの重大な決定を下すために極めて重要なものである[24]。例えば、手術後にCSF漏れが起きた場合、CSF漏れを探索し修復するため、患者をすぐに手術室に戻さなければならない場合があり、次に、体位性頭痛、及び髄膜炎を発症するリスクを増加させる汚染された皮膚との接触により起こり得る感染を治療すると考えられる。液体に最初に気づいた時、また液体がCSFを含むかどうか外科医が確信を持てない場合、外科医は、しばしば確認分析を待つだけの場合があり、それが行動を先延ばしして、より不良な患者の予後に結びつく可能性がある。場合によっては、患者は体位性頭痛を典型的に示さないことがあり、CSF液漏れの診断を更に遅延させる可能性がある。したがって、CSF液の存在を検出することができる迅速な試験は、脊椎外科医が早急な臨床決定を行うことを可能とし、患者の転帰を改善させるであろう。
【0048】
β2トランスフェリン(β2TF)の形成は中枢神経系内のノイラミニダーゼ活性によって媒介される[25]。したがって、β2TFは、シアル酸化付加されていないTFグリコフォームであるaTFとして存在する、CSF内にのみあることから、CSF漏れに対して高い選択性を示す潜在的なマーカータンパク質を表すものである。この解剖学的な選択性は、液漏れ試料における血清sTFの迅速で選択的な除去に対する前処理方法の開発を可能にし、それはCSF関連β2TF(aTF)の検出を可能にするであろう。また、迅速な前処理法は、使用が容易で単純なTF検査キットの商業的開発を促進するであろう。
【0049】
参考文献
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【0050】
本発明を、特に、その好ましい実施形態に関連して示し、記載したが、添付の特許請求の範囲により包含される本発明の範囲を逸脱することなく、形態及び詳細における様々な変更を、本発明内でなすことができることが当業者に理解されるであろう。