特許第6808799号(P6808799)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6808799
(24)【登録日】2020年12月11日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】てん輪及び時計用調速装置
(51)【国際特許分類】
   G04B 17/06 20060101AFI20201221BHJP
   G04B 17/22 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   G04B17/06 A
   G04B17/22
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-181168(P2019-181168)
(22)【出願日】2019年10月1日
(62)【分割の表示】特願2016-109910(P2016-109910)の分割
【原出願日】2016年6月1日
(65)【公開番号】特開2020-16661(P2020-16661A)
(43)【公開日】2020年1月30日
【審査請求日】2019年10月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 智夫
(72)【発明者】
【氏名】仁井田 優作
【審査官】 清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−215235(JP,A)
【文献】 特開2004−301641(JP,A)
【文献】 特表2007−533973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
てん真と、前記てん真から前記てん真の外側に延びたアーム部と、前記アーム部に支持されて前記てん真を中心とした周方向に沿って円弧状に延びるリム部とを備え、
前記リム部に支持されると共に、前記てん真を中心とした半径方向に沿って延びる錘部を有し、
前記錘部は、縦横に配向した強化繊維を用いた繊維強化プラスチックで形成されると共に、前記錘部を前記強化繊維の繊維方向に沿わない角度で配置する
ことを特徴とするてん輪。
【請求項2】
前記錘部を、前記繊維強化プラスチックの縦横に配向した強化繊維の角度の中間の角度で配置する
ことを特徴とする請求項に記載のてん輪。
【請求項3】
前記アーム部と、前記リム部と、前記錘部とが、縦横に配向した強化繊維を用いた繊維強化プラスチックによって一体成形される
ことを特徴とする請求項1又は請求項に記載のてん輪。
【請求項4】
ひげぜんまいと、請求項1から請求項のいずれか一項に記載のてん輪と、を備えた
ことを特徴とする時計用調速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計に用いられるてん輪及び時計用調速装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
機械式時計は、正確な歩度(時計の遅れ、進みの度合い)を得るために、調速装置(てんぷ)の振動周期の精度を精密に調整する必要がある。この調速装置は、てん輪とひげぜんまいとを有しており、振動周期は、下記式(1)によって示される。

ここで、T:てんぷの振動周期
I:てん輪の慣性モーメント
K:ひげぜんまいのばね定数 である。
すなわち、調速装置の振動周期は、てん輪の回転中心周りの慣性モーメントと、ひげぜんまいのばね定数とに依存して変化する。
【0003】
ここで、てん輪には、一般的に温度上昇よって膨張する材料が用いられる。このため、温度上昇時にてん輪が拡径し、慣性モーメントを増加させてしまう。また、ひげぜんまいには、一般的に温度上昇によってヤング率が低下する材料が用いられる。このため、温度上昇時には、ひげぜんまいのばね定数を低下させてしまう。
これにより、温度上昇すると、てん輪の慣性モーメントが増加し、ひげぜんまいのばね定数が低下するため、調速装置の振動周期は、一般的に低温で短くなり、高温で長くなるという温度特性になっている。
【0004】
これに対し、熱影響による変形(膨張)を抑制するため、強化繊維を含有した複合材料(以下、「繊維強化プラスチック」という)によっててん輪を形成した調速装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−533973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、繊維強化プラスチックは、強化繊維を含有しない合成樹脂よりも一般的に熱膨張率が低いことが分かっている。そのため、てん輪を繊維強化プラスチックによって形成することで、温度上昇時のてん輪の膨張を抑制することが可能となる。
しかしながら、繊維強化プラスチックによっててん輪を形成した場合であっても、単に繊維強化プラスチックを用いただけでは、温度上昇によって生じるてん輪の膨張状態を把握することは難しい。そのため、温度上昇時のてん輪の慣性モーメントを適切に制御することができなかった。
【0007】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、温度変化に伴うてん輪の慣性モーメントの変化を適切に制御し、温度変化による歩度の精度低下を抑制することができるてん輪及び時計用調速装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、てん真と、前記てん真から前記てん真の外側に延びたアーム部と、前記アーム部に支持されて前記てん真を中心とした周方向に沿って円弧状に延びるリム部とを備え、前記リム部に支持されると共に、前記てん真を中心とした半径方向に沿って延びる錘部を有し、前記錘部は、縦横に配向した強化繊維を用いた繊維強化プラスチックで形成されると共に、前記錘部を前記強化繊維の繊維方向に沿わない角度で配置する。

【発明の効果】
【0009】
よって、本発明のてん輪では、温度変化に伴うてん輪の慣性モーメントの変化を適切に制御し、温度変化による歩度の精度低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1の時計用調速装置の構成を示す側面図である。
図2】実施例1の時計用調速装置のてん輪を示す平面図である。
図3】実施例1のてん輪の常温状態における平面図である。
図4】実施例1のてん輪の高温状態における平面図である。
図5】実施例1の時計用調速装置のてん輪の変形例を示す平面図である。
図6】実施例1の時計用調速装置のてん輪のさらに変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のてん輪及び時計用調速装置を実施するための形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【0012】
(実施例1)
[てん輪及び時計用調速装置の構成]
図1は、実施例1の時計用調速装置を示す斜視図である。図2は、実施例1のてん輪を示す平面図である。以下、図1及び図2に基づき、実施例1のてん輪及び時計用調速装置の構成を説明する。
【0013】
実施例1の時計用調速装置(てんぷ)10は、携帯用時計(例えば腕時計)に内蔵され、図1に示すように、ひげぜんまい1と、てん輪2と、を備えている。
【0014】
ひげぜんまい1は、例えば一平面内で渦巻き状に巻かれた平ひげであって、内側の端部がてん輪2のてん真3に接合され、外側の端部が携帯用時計のムーブメントのてんぷ受け(不図示)に固定されている。
【0015】
てん輪2は、図2に示すように、てん真3と、アーム部4と、リム部5と、錘部6と、を有している。
【0016】
てん真3は、てん輪2の中心に位置する軸部材であり、軸の上下が携帯用時計のムーブメントの地板とてんぷ受け(いずれも不図示)とに回転自在に支持されている。
【0017】
アーム部4は、中心Cにてん真3が嵌め合わされる貫通孔4aが形成されると共に、この貫通孔4aからてん真3を中心とした半径方向(放射方向)に延びる一対のアーム4b,4cを有している。一対のアーム4b,4cは、貫通孔4aを挟んで互いに反対方向へと延在され、貫通孔4aからそれぞれの先端4d,4eまでの長さが等しく形成されている。なお、アーム部4の中心Cは、てん真3の回転中心に一致している。
【0018】
リム部5は、てん真3を中心とした周方向に沿って円弧状に延び、周方向に切れ目のない円環形状を呈している。このリム部5は、アーム4bの先端4dと、アーム4cの先端4eとがそれぞれ結合し、支持されている。
ここで、アーム部4とリム部5とが結合した状態で、アーム部4の中心Cは、リム部5の中心に一致し、アーム部4は、中心Cからリム部5の直径方向に延びている。つまり、アーム部4の延在方向(軸方向)Aは、リム部5の直径方向と一致している。
【0019】
錘部6は、柱形状を呈しており、この錘部6の延在方向(軸方向)Bの一端6aがリム部5と一体になっており、てん真3を中心とした半径方向(放射方向)に沿って、リム部5の内側に延びている。ここで、錘部6は、てん真3を挟んで対象となる位置に一対設けられ、いずれも延在方向Bが、アーム部4の延在方向Aに対して直交する方向(垂直な方向)に設定されている。
また、この錘部6は、一端6a以外は、リム部5に接触していない。そのため、この錘部6は、温度の変化に応じた熱膨張、熱収縮する場合、リム部5と一体にされた一端6aを基準として、リム部5の半径方向の内側に、拘束されずに伸縮する。
【0020】
そして、この実施例1では、アーム部4と、リム部5と、錘部6とが、繊維強化プラスチックによって一体成形されている。
ここで、「繊維強化プラスチック」とは、強化繊維に方向性を持たせたまま(長繊維の状態)で作製した織物に、主原料の合成樹脂を含浸させて形成されたプリプレグシートを積層し、合成樹脂の強度を高めたプラスチック複合材料である。繊維に方向性があるため、繊維の配向によって熱膨張率や強度に異方性が出る。つまり、この繊維強化プラスチックは、繊維の方向に沿った方向(平行な方向)には熱膨張率が低く、繊維の方向に直交する方向(垂直な方向)には熱膨張率が高い。そして、この実施例1では、強化繊維が一方向に配向されたユニダイレクショナル材(UD材)を用いている。
また、「一体成形」とは、二次接着や機械的接合を用いないで、部材の接合と同時に製品を一体で成形することであり、アーム部4と、リム部5と、錘部6とを接合すると同時に、各部を形づくることである。ここでは、プリプレグシートを積層して形成したプレート状の繊維強化プラスチックを型によって打ち抜くことで、てん輪2を形成する。
【0021】
なお、繊維強化プラスチックに用いる強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維等を用いることができる。また、繊維強化プラスチックの主原料である合成樹脂としては、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を用いてもよいし、ポリアミド樹脂、メチルメタアクリレートなどの熱可塑性樹脂を用いてもよい。
【0022】
そして、この実施例1では、図2に示すように、繊維強化プラスチックが有する強化繊維Sの配向方向を、アーム部4の延在方向A(アーム部4の軸方向)に対して平行な方向(延在方向Aに沿う方向)に設定している。また、実施例1では、アーム部4の延在方向Aに対して錘部6の延在方向Bが直交しているため、強化繊維Sの配向方向は、錘部6の延在方向B(錘部6の軸方向)に対して垂直な方向に設定される。
【0023】
[てん輪及び時計用調速装置の作用]
図3は、実施例1のてん輪の常温状態における平面図を示し、図4は、実施例1のてん輪の高温状態における平面図を示す。以下、図3及び図4に基づき、実施例1のてん輪及び時計用調速装置の作用を説明する。
【0024】
実施例1のてん輪2は、図3に示すように、常温状態(温度変化に応じた変形前)では、リム部5が中心Cを中心とした直径寸法がR1のほぼ真円状態であり、また、錘部6単体の重心6bは、中心Cから半径方向の距離L1の位置にある。ここで、「常温」とは、20度±5度程度の温度範囲を指す。
【0025】
実施例1のてん輪2は、熱膨張係数が正となる温度特性(温度上昇によって膨張する性質)を備えている。一方、このてん輪2を形成する繊維強化プラスチックは、強化繊維Sの配向方向に沿った方向の熱膨張率が最も低く、強化繊維Sの配向方向からのずれが大きくなるにしたがって熱膨張率が高くなり、強化繊維Sの配向方向に垂直な方向の熱膨張率が最も高くなっている。
【0026】
すなわち、てん輪2の温度が常温から上昇したとき、図4に示すように、アーム部4は、延在方向Aに沿った熱膨張率が低いため、ほとんど膨張(伸長)しない。
【0027】
一方、リム部5は、中心Cを中心とした半径方向の外側に向かって膨張(拡径)するが、アーム部4の先端4d,4eが結合した部分及びその近傍部分(破線αで示す部分)では、半径方向と強化繊維Sの配向方向とのずれが小さい。しかも、アーム部4がほとんど膨張(伸長)しない。このため、リム部5のうち、アーム部4が結合した部分及びその近傍部分(破線αで示す部分)は、熱膨張率が比較的低い上、アーム部4によって膨張が拘束されて、ほとんど膨張(拡径)しない。これにより、リム部5のアーム部4の延在方向Aに沿った方向の直径寸法R2は、常温状態の直径寸法R1とほぼ同じになる。
これに対し、このリム部5のうち、錘部6が一体に形成された部分及びその近傍部分(破線βで示す部分)では、半径方向と強化繊維Sの配向方向とのずれが大きい。このため、リム部5のうち、錘部6が一体に形成された部分及びその近傍部分(破線βで示す部分)は、熱膨張率が比較的高いので、中心Cを中心とした半径方向に沿って外側に膨張(拡径)する。これにより、リム部5の錘部6の延在方向Bに沿った方向の直径寸法R3は、常温状態の直径寸法R1よりも長くなる。
この結果、リム部5は、常温から温度が上昇すると、アーム部4の延在方向Aを短軸方向とし、錘部6の延在方向Bを長軸方向とする楕円形状に熱膨張する。
【0028】
そして、錘部6は、延在方向Bに沿った熱膨張率が高く、延在方向Bに沿って大きく膨張(伸長)する。このとき、一端6aがリム部5に一体になっているため、錘部6は、この一端6aを基準としてリム部5の内側(中心Cに向かう側)に拘束されることなく伸長する。これにより、錘部6の単体の重心6bはリム部5の内側へと変位する。
なお、この実施例1では、リム部5が錘部6の延在方向Bを長軸方向とする楕円形状に熱膨張するため、中心Cから錘部6の重心6bまでの半径方向の距離L2は、常温状態での距離L1とほぼ同じである。
【0029】
このように、実施例1のてん輪2では、常温から温度が上昇したときのてん輪2の膨張状態を把握することができる。そして、このてん輪2の膨張を把握した上で、てん輪2の変形状態を任意に規定することで、温度上昇に伴っててん輪2が変形することによる慣性モーメントの変化を適切に制御することができる。
【0030】
そして、時計用調速装置では、一般的に、温度の上昇に伴ってひげぜんまいのヤング率が低下するため、ばね定数が低下する。このひげぜんまいのばね定数の低下は、上述の式(1)から明らかなように、時計用調速装置の振動周期を長くするように作用する。
しかしながら、実施例1のてん輪2では、上述のように、てん輪2の変形状態を任意に規定することで、温度上昇に伴う慣性モーメントの変化を適切に制御することができる。一方、ひげぜんまいのヤング率(ばね定数)の低下は、実験等により予め把握可能である。そのため、実施例1の時計用調速装置10では、温度上昇時のひげぜんまいのばね定数の低下に基づいて、てん輪2の慣性モーメントの変化を適切に制御することで、時計用調速装置10の振動周期の変化を制御することができ、温度変化による歩度の精度の低下を抑制することができる。
【0031】
また、この実施例1では、リム部5に支持されると共に、てん真3を中心とした半径方向に沿って延びる錘部6を有している。そのため、リム部5が錘部6の延在方向Bを長軸方向とする楕円形状に膨張(拡径)する一方、錘部6は重心6bが中心C側へ移動するように膨張(伸長)する。なお、アーム部4は、温度上昇時にほとんど膨張しないので、てん輪2の全体の重心位置の移動への影響はほとんどない。そのため、リム部5の膨張による重心移動と、錘部6の膨張による重心移動とによって、てん輪2の全体の重心位置の変動を抑制することができる。
【0032】
そして、このように常温から温度が上昇したとき、てん輪2の全体の重心位置の変動が抑制されるため、てん輪2が、正の熱膨張係数(温度上昇によって膨張する性質)を備えているものの、温度上昇時に、てん輪2の慣性モーメントが大きくなることが抑えられ、てん輪2が時計用調速装置10の振動周期を長くするように作用しない。このため、実施例1では、温度の上昇に伴ってひげぜんまい1のばね定数が低下した場合であっても、てん輪2において上述のように重心位置の移動が抑制されて、慣性モーメントの変化(増加)を抑制することができる。これにより、一般的な時計用調速装置と比べて、温度上昇時に時計用調速装置10の振動周期が長くなることを抑制することができる。
【0033】
しかも、この実施例1では、錘部6は、繊維強化プラスチックによって形成されると共に、この錘部6の延在方向Bが、アーム部4の延在方向A及び強化繊維Sの配向方向に対して垂直な方向(直交する方向)に設定されている。
【0034】
そのため、この錘部6は、最も変形(膨張)する位置に形成されることになり、リム部5の膨張による重心位置の変化を効率的に抑制し、さらに、この錘部6の長さを適切に設定することで、温度上昇時のてん輪2の慣性モーメントを低減することも可能となる。
この結果、時計用調速装置10の振動周期の変化を抑えることができ、温度変化による歩度の精度の低下をさらに抑制することができる。
【0035】
そして、この実施例1では、てん輪2を構成するアーム部4、リム部5、錘部6が、繊維強化プラスチックによって一体成形されている。そのため、これらの各部を組み立てる工程が必要なく、製作工程の簡略化を図ることができる。また、組み立てによって形成する場合と比べて、各部の位置精度を向上することができ、温度特性を安定したものとすることができる。
【0036】
(変形例)
実施例1のてん輪2では、アーム部4の延在方向A及び強化繊維Sの配向方向に対して直交する方向に延在した一対の錘部6を有している。しかしながら、これに限らず、例えば図5に示すてん輪2Aのように、アーム部4と、リム部5とから構成され、錘部を有していないてん輪であってもよい。
この場合であっても、強化繊維Sの配向方向をアーム部4の延在方向Aに対して平行な方向に設定することで、てん輪2の熱膨張の状態を把握することができ、てん輪2の温度上昇時の慣性モーメントの変化を適切に制御することができる。
【0037】
また、実施例1のてん輪2では、一対のアーム4b,4cの延在方向Aがリム部5の直径方向と一致している。しかしながら、これに限らない。アーム部4は、てん真3が嵌合する貫通孔4aと、てん真3からこのてん真3の外側に延びたアーム部を有していればよく、また、少なくともアーム部4を繊維強化プラスチックによって形成すると共に、強化繊維Sの配向方向をアーム部4の延在方向Aに対して平行な方向に設定すればよい。
そのため、例えば、アーム部を三つ以上のアームで構成し、リム部とは別部材によって形成すると共に、三つ以上のアームをてん真3を中心とする放射方向に等角度間隔をあけて延在してもよい。このとき、強化繊維Sの配向方向を、各アームの延在方向に平行な方向に設定することで、アーム部の熱膨張の状態を把握することができる。
【0038】
そして、上述の実施例1では、錘部6が長さ方向に一様な形状であるが、一様な形状に限らず、リム部5の内側に向かうにしたがって幅が広くなったり、厚さが厚くなったりして重量が大きくなる形状を採用することもできる。このように、リム部5の内側に向かうにしたがって重量が大きくなる形状の錘部によれば、温度の上昇により、重心位置がリム部5の内側に移動する量を、一様な幅、厚さの錘部による重心位置の移動する量よりも大きくすることができる。
【0039】
さらに、実施例1では、てん輪2を形成する繊維強化プラスチックが、強化繊維が一方向に配向されたユニダイレクショナル材(UD材)である例を示したが、これに限らない。強化繊維を縦横に織ることで、強化繊維を縦横の二方向に配向したクロス材であってもよい。この場合であっても、縦横に配向した強化繊維のうちのいずれか一方の繊維方向を、アーム部の延在方向に対して平行な方向に設定することで、アーム部の熱膨張率を抑制し、てん輪の変形状態を把握することができる。そして、温度上昇時のてん輪の慣性モーメントの変化を制御することができる。
【0040】
なお、縦横に配向した強化繊維Sを用いた繊維強化プラスチックを用いててん輪2を形成する際に錘部6を設ける場合は、錘部6をアーム部5と直交する角度又はいずれの繊維方向にも沿わない角度で配置することにより、錘部6の温度による変形量を適宜設定することが可能となる。例えば図6に示すように、錘部6を縦横の強化繊維Sの角度の中間の角度となるように配置することにより、いずれかの繊維方向に沿った角度で錘部6を形成した場合より、錘部6の温度による変形量を大きくすることができる。当然、強化繊維の方向に沿った角度の錘部6と強化繊維の方向に沿わない角度の錘部6とを組合わせた構成としてもよい。
【0041】
以上説明した例は、温度が上昇する場合であるが、温度が下降する場合は温度が上昇する場合とは反対に、てん輪2では、リム部5がアーム部4の延在方向Aを長軸とし、錘部6の延在方向Bを短軸とする楕円形状に変形する。一方、錘部6は、リム部5と一体になった一端6aを基準として延在方向Bに沿って縮小する。なお、アーム部4については、ほとんど変形しない。
このように、温度が下降する場合であっても、てん輪の変形状態を把握することができ、温度下降時のてん輪の慣性モーメントの変化を適切に制御することができる。
【符号の説明】
【0042】
10 時計の調速装置
1 ひげぜんまい
2 てん輪
3 てん真
4 アーム部
4a 貫通孔
4b,4c アーム
5 リム部
6 錘部
図1
図2
図3
図4
図5
図6