特許第6808811号(P6808811)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6808811-自動車用冷延鋼板及びその製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6808811
(24)【登録日】2020年12月11日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】自動車用冷延鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20201221BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20201221BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20201221BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   C22C38/00 302A
   C22C38/06
   C22C38/38
   C21D9/46 P
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-503712(P2019-503712)
(86)(22)【出願日】2017年7月25日
(65)【公表番号】特表2019-527771(P2019-527771A)
(43)【公表日】2019年10月3日
(86)【国際出願番号】CN2017094247
(87)【国際公開番号】WO2018019220
(87)【国際公開日】20180201
【審査請求日】2019年1月24日
(31)【優先権主張番号】201610601222.8
(32)【優先日】2016年7月27日
(33)【優先権主張国】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 玉 龍
(72)【発明者】
【氏名】韓 啓 航
(72)【発明者】
【氏名】王 利
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第102912219(CN,A)
【文献】 特開2017−145468(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/102050(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/063467(WO,A1)
【文献】 特表2019−523827(JP,A)
【文献】 特許第6193219(JP,B2)
【文献】 特許第6625530(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 − 38/60
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その化学元素が質量百分率で:
C:0.1%〜0.3%、Si:0.1%〜2.0%、Mn:7.5%〜12%、Al:0.01%〜2.0%であり;残部は鉄および他の不可避不純物であり;
微細組織はオーステナイト+マルテンサイト+フェライト又はオーステナイト+マルテンサイトであることを特徴とする、引張強度が1500MPa超で、引張強度と伸びA50との積が30GPa%超である自動車用冷延
【請求項2】
その化学元素はさらに、Nb:0.01〜0.07%、Ti:0.02〜0.15%、V:0.05〜0.20%、Cr:0.15〜0.50%、Mo:0.10〜0.50%の中の少なくとも一つを含むことを特徴とする、請求項1に記載の引張強度が1500MPa超で、引張強度と伸びA50との積が30GPa%超である自動車用冷延
【請求項3】
その微細組織はオーステナイト+マルテンサイト+フェライトである場合、オーステナイト相の割合は20%〜40%であり、マルテンサイト相の割合は50%〜70%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の引張強度が1500MPa超で、引張強度と伸びA50との積が30GPa%超である自動車用冷延
【請求項4】
その微細組織はオーステナイト+マルテンサイトである場合、オーステナイト相の割合は20%〜50%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の引張強度が1500MPa超で、引張強度と伸びA50との積が30GPa%超である自動車用冷延
【請求項5】
(1)製錬・鋳造;
(2)熱間圧延;
(3)ベル型炉焼鈍:焼鈍温度を600〜700℃にし、焼鈍時間を1〜48hにする;
(4)冷間圧延;
(5)冷間圧延後の一回目の焼鈍:焼鈍温度をAc1とAc3温度の間にし、焼鈍時間を5min超えにする;
(6)冷間圧延後の二回目の焼鈍:焼鈍温度を750〜850℃にし、焼鈍時間を1〜10minにする;
(7)焼戻:焼戻温度を200〜300℃にし、焼戻時間を3min以上にする;
工程を順次に含む、請求項1〜4のいずれかに記載の引張強度が1500MPa超で、引張強度と伸びA50との積が30GPa%超である自動車用冷延の製造方法。
【請求項6】
前記工程(2)において、鋳造ビレットを1100〜1260℃に加熱してから、圧延を制御し、圧延開始温度を950〜1150℃にし、最終圧延温度を750〜900℃にし、巻取り温度を500〜850℃にし、巻取り後に室温に冷却し、全マルテンサイト組織を得ることを特徴とする、請求項5に記載の引張強度が1500MPa超で、引張強度と伸びA50との積が30GPa%超である自動車用冷延の製造方法。
【請求項7】
前記工程(4)において、冷間圧延圧下量を40%以上にすることを特徴とする、請求項5に記載の引張強度が1500MPa超で、引張強度と伸びA50との積が30GPa%超である自動車用冷延の製造方法。
【請求項8】
前記工程(3)と(4)の間には、さらに酸洗工程があることを特徴とする、請求項5に記載の引張強度が1500MPa超で、引張強度と伸びA50との積が30GPa%超である自動車用冷延の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は一種の鋼種及びその製造方法と使用に関し、特に自動車用鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
自動車の「軽量化」により、超高強度鋼板は自動車構造部品によく応用されるようになる。現在で使用量が最も大きい鋼板は、例えば二相鋼、マルテンサイト鋼、変態誘起塑性鋼(TRIP鋼)、複相鋼等であり、それらの強伸度積は最大で約10GPa%程度である。例えば、超高強度マルテンサイト鋼の引張強度は1500MPaレベルである場合、その伸度は約5%程度であり、自動車分野における自動車の安全性能および製造過程中の成形性能に対する二重要求を満たせない。前世紀末、高強伸度積のオーステナイト鋼と双晶誘起塑性鋼(TWIP鋼)は相次いで開発され、それらの引張強度は800〜1000MPaで、伸度は60%も高く、強伸度積は60GPa%レベルにも達しており、2代目の自動車用鋼と言われる。2代目の自動車用鋼は、大量の合金元素が加えられており、コストが高いと共に、その製造性も劣ることから、その汎用化過程には絶大な制限がある。そのため、強伸度積が30GPa%超え、高強度と高伸度を兼ね備え、コストが低い3代目の自動車用鋼は広範に注目されている。
【0003】
公開番号がCN101638749で、公開日が2010年2月3日で、名称が「低コスト高強伸度積自動車用鋼及びその製造方法」である中国特許文献は、一種の低コスト高強伸度積自動車用鋼の製造方法を開示し、製錬、熱間圧延、ベル型炉焼鈍、冷間圧延とベル型炉焼鈍からなるスキームによって、強伸度積が35〜55GPa%の冷間圧延鋼板を得ることに関する。逆オーステナイト変態を実現し、十分なオーステナイト体積分数を得るために、冷間圧延後、ベル型炉を用いて1〜10時間焼鈍する。しかしながら、該技術方案にかかる自動車用鋼の強度は700〜1300MPaであり、1500MPaレベルを満たせない。
【0004】
公開番号がCN102758133Aで、公開日が2012年10月31日で、名称が「1000MPaレベル高強伸度積自動車用鋼及びその製造方法」である中国特許文献は、一種の1000MPaレベル高強伸度積自動車用鋼及びその製造方法を開示し、連続焼鈍の方法によって強伸度積が30GPa%超えの鋼板を生産することに関し、現在の各鋼鉄工場の産業生産ラインに適用される。しかしながら、該技術方案にかかる自動車用鋼のレベルは1000MPaであり、1500MPaレベルを満たせない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
それらのことを鑑みて、高い強度および良好な強伸度積を有し、自動車部品の製造に適用でき、自動車用鋼の需要を満たせる自動車用鋼材は切望されている。それと共に、プロセスが簡単で、適用性が強く、多種の実際の生産ラインに使用できる該自動車用鋼の製造方法も切望されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の内容
本発明の目的の一つは、1500MPaレベルに達することができ、且つその強伸度積が30GPa%以上である1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼を提供することにある。
【0007】
上記発明目的に基づき、本発明は、その化学元素が質量百分率で:
C:0.1%〜0.3%、Si:0.1%〜2.0%、Mn:7.5%〜12%、Al:0.01%〜2.0%であり;残部は鉄および他の不可避不純物であり;
微細組織はオーステナイト+マルテンサイト+フェライト又はオーステナイト+マルテンサイトである、1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼を提供する。
【0008】
本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼の各化学元素の設計原理は以下のようである。
【0009】
炭素:炭素は固溶強化作用を奏すると共に、オーステナイトを安定化する主な元素でもあり、鋼の強度、成形性能および溶接性能に大きな影響を与える。炭素の質量百分率は0.1%未満であると、組織におけるマルテンサイトの強度の低さにより、鋼の強度が低くなると共に、オーステナイトの安定性も劣り、伸度が低くなる;しかし、炭素の質量百分率は0.3%を超えると、鋼の成形と溶接性能を劣化させるため、本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼における炭素の質量百分率は0.1%〜0.3%に制御される。
【0010】
ケイ素:ケイ素は製鋼脱酸に必要な元素であり、ある程度の固溶強化作用を有すると共に、炭化物の析出を抑制する作用も有する。そのため、ケイ素の質量百分率は0.1%未満であると、十分な脱酸効果を得にくい;それと共に、ケイ素はセメンタイトの析出を阻害する作用を有し、逆マルテンサイト変態の発生を促進する。従って、珪素の質量百分率は2.0%を超えると、ケイ素を増加し続けてもその作用は顕著にならない。それらのことを鑑みて、本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼におけるケイ素の質量百分率は0.1%〜2.0%に制御される。
【0011】
マンガン:マンガンはオーステナイト相領域を拡大する元素であり、熱処理されるマンガンの拡散によって、オーステナイト相の割合およびオーステナイトの安定性を向上させることができる。本発明の技術方案において、マンガンは逆マルテンサイト変態のサイズ、分布および安定性を制御する主な元素である。マンガンの質量百分率は7.5%未満であると、室温で十分な含有量のオーステナイトを得にくいが、マンガンの質量百分率は12%を超えると、室温で一部のεマルテンサイトが得られ、鋼の性能に不利な影響を与えてしまう。鋼の強度と靭性を保証するために、本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼におけるマンガンの質量百分率は7.5〜12%に制御される。
【0012】
アルミニウム:アルミニウムは製鋼過程において脱酸作用を有し、溶鋼の純粋度を向上させるために添加される元素である。それと共に、アルミニウムは鋼における窒素を固定化して安定な化合物を形成し、結晶粒を有効に微細化させることもできる。しかも、鋼にアルミニウムを加えることで、セメンタイトの析出を阻害し、逆マルテンサイト変態を促進する作用も有する。アルミニウムの質量百分率は0.01%未満であると、アルミニウムの添加効果は顕著ではない。そのため、本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼におけるアルミニウムの質量百分率は0.01%〜2.0%に制限される。
【0013】
また、自動車用鋼を1500MPaレベルに達すると共に30GPa%以上の強伸度積を有するものにするために、本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼は、微細組織がオーステナイト+マルテンサイト+フェライト又はオーステナイト+マルテンサイトに限定される。
【0014】
さらに、上記技術方案に基づき、本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼において、他の不可避不純物とは、主にリン、硫黄および窒素を指し、それらの不純物元素はP≦0.02%、S≦0.02%、N≦0.02%に制御されてもよい。
【0015】
さらに、本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼において、その化学元素はさらに、Nb:0.01〜0.07%、Ti:0.02〜0.15%、V:0.05〜0.20%、Cr:0.15〜0.50%、Mo:0.10〜0.50%の中の少なくとも一つを含む。
【0016】
合金元素の添加は、本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼の性能をさらに改善するためであり、その設計原理は以下のようである。
【0017】
ニオブ:ニオブは変形オーステナイトの再結晶を有効に遅延させ、オーステナイト結晶粒の成長を阻止し、オーステナイトの再結晶温度を高め、結晶粒を微細化すると共に、強度と伸度を向上させることができる。ニオブの質量百分率は0.01%未満であると、奏すべき効果を奏することができなくなるが、ニオブの質量百分率は0.07%を超えると、生産コストは増加し、且つ鋼性能の改善効果は顕著でなくなる。従って、本発明の技術方案において、ニオブの質量百分率は0.01〜0.07%に制御される。
【0018】
チタン:チタンは微細な複合炭化物を形成し、オーステナイト結晶粒の成長を阻止し、結晶粒を微細化し、且つ析出強化の作用を奏することもできる。伸度と穴拡げ率を低下させることなく、鋼の強度を向上させる。チタンの質量百分率は0.02%未満であると、結晶粒微細化および析出強化の効果がなくなる。しかし、チタンの質量百分率は0.15%を超えると、その含有量をさらに増加しても、鋼改善効果は顕著にならない。それらのことを鑑みて、本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼におけるチタンの質量百分率は0.02〜0.15%に制限される。
【0019】
バナジウム:バナジウムの作用は、炭化物を形成して鋼の強度を向上させることである。バナジウムの質量百分率は0.05%未満であると、析出強化の効果は顕著ではない。しかし、バナジウムの質量百分率は0.20%を超えると、その含有量をさらに増加しても、改善効果は顕著にならない。そのため、本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼におけるバナジウムの質量百分率は0.05〜0.20%に制限される。
【0020】
クロム:クロムは、圧延時のオーステナイト結晶粒の微細化および微細なベイナイトの生成に関与し、鋼の強度を向上させる。クロムの質量百分率は0.15%未満であると、その効果は顕著ではない。しかし、クロムの質量百分率は0.5%を超えると、コストは高騰し、溶接性は顕著に低下する。そのため、本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼におけるクロムの質量百分率は0.15〜0.50%に制限される。
【0021】
モリブデン:モリブデンは、圧延時のオーステナイト結晶粒の微細化および微細なベイナイトの生成に関与し、鋼の強度を向上させる。モリブデンの質量百分率は0.15%未満であると、その効果は顕著ではない。しかし、モリブデンの質量百分率は0.5%を超えると、コストは高騰し、溶接性は顕著に低下する。そのため、本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼におけるモリブデンの質量百分率は0.15〜0.50%に制限される。
【0022】
さらに、本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼において、その微細組織はオーステナイト+マルテンサイト+フェライトである場合、オーステナイト相の割合は20%〜40%であり、マルテンサイト相の割合は50%〜70%である。
【0023】
さらに、本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼において、その微細組織はオーステナイト+マルテンサイトである場合、オーステナイト相の割合は20%〜50%である。
【0024】
さらに、本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼において、その強伸度積は30GPa%以上である。
【0025】
本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼は、引張強度が1500MPaを超えることができ、且つその強伸度積が30GPa%を超えることができるので、該自動車用鋼は現代自動車用鋼の軽量化と高強度に対する需要を満たせる。
【0026】
本発明のもう一つの目的は、
(1)製錬・鋳造;
(2)熱間圧延;
(3)ベル型炉焼鈍:焼鈍温度を600〜700℃にし、焼鈍時間を1〜48hにする;
(4)冷間圧延;
(5)冷間圧延後の一回目の焼鈍:焼鈍温度をAc1とAc3温度の間にし、焼鈍時間を5min超えにする;
(6)冷間圧延後の二回目の焼鈍:焼鈍温度を750〜850℃にし、焼鈍時間を1〜10minにする;
(7)焼戻:焼戻温度を200〜300℃にし、焼戻時間を3min以上にする;
工程を順次に含む、本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼の製造方法を提供することにある。
【0027】
本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼の製造方法において、Mnの質量百分率は7.5〜12%であることから、発明者らはオーステナイト逆変態(ART)焼鈍プロセスによって高い強伸度積を獲得しようとする。ART焼鈍の原理は以下の通りである:鋼板の化学成分設計とプロセスパラメータを制御することで、鋼の熱間圧延と冷間圧延後に全マルテンサイト組織を得て、次の焼鈍過程において(焼鈍温度はAc1とAc3温度の間にある)逆マルテンサイト変態を促進し、一部のオーステナイトを形成させ、炭素とマンガン元素の分配およびオーステナイトにおける富化により、オーステナイトを室温で安定して存在させることができる。ART焼鈍により、室温でオーステナイト組織が得られ、応力の作用で、オーステナイトに応力/歪み誘発マルテンサイト変態が発生し、いわゆる変態誘起塑性(TRIP)が形成され、鋼板の性能は向上する。
【0028】
しかしながら、普通のART焼鈍温度は通常、Ac1温度よりわずかにしか高くなくて、且つ焼鈍後にオーステナイト+フェライトの微細組織が得られ、このような微細組織の鋼強度は1500MPaに達することが全くできず、本技術方案の要求を満たせない。焼鈍温度が上げられると、フェライト+マルテンサイト+オーステナイトの微細組織が得られるが、それらの微細組織におけるオーステナイトの安定性は劣る。応力が小さいと、変態が発生し、TRIP効果が生じできず、鋼板の伸度が劣化し、高い強伸度積が得られない。
【0029】
発明者らは研究により、1500MPa高強伸度積鋼板を獲得するには、微細組織に大量のマルテンサイトを含有させると共に、安定性の高いオーステナイトも多く含有させる必要があることを見出した。該目的に基づき、発明者らは、本願の成分設計に基づく焼鈍プロセスを創造的に提出することで、鋼の微細組織に大量のマルテンサイトを含有させると共に、安定性の高いオーステナイトも多く含有させる。
【0030】
本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼の製造方法の工程(2)において、熱間圧延後の微細組織は、高強度で脆いマルテンサイトであることから、工程(3)のベル型炉焼鈍によって鋼を軟化させてから、初めて工程(4)の冷間圧延を行うことができる。工程(4)の冷間圧延過程において、オーステナイトをマルテンサイトに変態させ、そして工程(5)、工程(6)および工程(7)で鋼における微細組織をさらに調整することで、前記の1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼を獲得する。
【0031】
ただし、工程(3)のベル型炉焼鈍および工程(5)の冷間圧延後の一回目の焼鈍はいずれもART焼鈍であり、焼鈍温度はAc1とAc3温度の間にある。工程(5)の冷間圧延後の一回目の焼鈍は、ART焼鈍により冷間圧延後の鋼板の微細組織をマルテンサイトからオーステナイト+フェライトに変態させ、次のプロセスに備えるためである。
【0032】
特に、本技術方案における工程(6)における冷間圧延後の二回目の焼鈍の焼鈍温度は高い(Ac3温度に近い二相領域内又は単相オーステナイト領域内である)が、焼鈍時間は短い。その目的と原理は以下の通りである:工程(5)の冷間圧延後の一回目の焼鈍後で得られる鋼板は、微細組織がフェライト+オーステナイトであり、且つオーステナイト組織内のMn含有量が高く、安定性に優れる。この場合、鋼板を高い温度まで加熱すると、元々の鋼板内のフェライト組織は新たなオーステナイト相に変態する。この部分の新たに生成したオーステナイト相は、Mn含有量が相対的に低いし、且つMnの拡散速度が遅くて、Mnが短時間の焼鈍過程において十分に拡散できないため、高温下で組織内にMnリッチのオーステナイトとMnプアのオーステナイトとの2種類の成分のオーステナイトが形成される。室温まで冷却されると、Mnプアのオーステナイトはマルテンサイトに変態し、Mnリッチのオーステナイトは安定に存在する。この手段により、大量のマルテンサイトと安定性の高いオーステナイトが得られる。
【0033】
よって、工程(6)の冷間圧延後の二回目の焼鈍の焼鈍温度は二相領域にある場合、焼鈍温度と焼鈍時間を制御することで、マルテンサイト+オーステナイト+少量のフェライトの微細組織が得られる;工程(6)の冷間圧延後の二回目の焼鈍の焼鈍温度は単相オーステナイト領域にある場合、焼鈍温度と焼鈍時間を制御することで、マルテンサイト+オーステナイトの微細組織が得られる。
【0034】
それらのことを鑑みて、本発明にかかる技術方案において、工程(6)の焼鈍温度を750〜850℃に限定し、焼鈍時間を1〜10minに制御する。焼鈍温度は850℃を超える或いは焼鈍時間は10minを超えると、オーステナイトの安定性の劣りに繋がり、室温でのオーステナイト相の割合が低くなることにより、鋼の強伸度積は30GPa%未満になる;しかし、焼鈍温度は750℃未満或いは焼鈍時間は1min未満であると、焼鈍過程においてフェライトからオーステナイトへの変態量の減少に繋がり、室温に冷却された後、まだ大量のフェライトが存在しており、この場合、鋼の伸度と強伸度積は高くなれるが、鋼の強度は1500MPaを満たせない。
【0035】
工程(7)の焼戻の目的は、マルテンサイト形成時に生じる内部応力を除去するためであり、焼戻を行わないと、得られる鋼板は脆くなり、伸度が低くなる。
【0036】
さらに、本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼の製造方法において、前記工程(2)において、鋳造ビレットを1100〜1260℃に加熱してから、圧延を制御し、圧延開始温度を950〜1150℃にし、最終圧延温度を750〜900℃にし、巻取り温度を500〜850℃にし、巻取り後に室温に冷却し、全マルテンサイト組織を得る。
【0037】
さらに、本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼の製造方法において、前記工程(4)において、冷間圧延圧下量を40%以上にする。
【0038】
さらに、本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼の製造方法において、前記工程(3)と(4)の間には、さらに酸洗工程がある。これで熱間圧延過程で生じる酸化スケールを除去する。
【0039】
本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼は、引張強度が1500MPa以上に、強伸度積が30GPa%以上に達することができる。
【0040】
本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼の製造方法にも、上記の利点と有益な効果がある。それ以外に、前記製造方法は、合理的な化学成分の設計および焼鈍プロセスの制御により、プロセスを最適化し、鋼の性能を改善し、これで需要に即した高強度で高強伸度積の自動車用鋼を獲得した上で、製造コストも低減した。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1図1は本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼の製造方法のプロセス曲線の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
具体的な実施形態
以下、図面の説明および具体的な実施例に基づいて、本発明にかかる1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼及びその製造方法をさらに解釈・説明するが、該解釈・説明は本発明の技術方案を不当に制限するものではない。
【0043】
実施例1〜8及び比較例1〜4
前記実施例1〜8の1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼および比較例1〜4の鋼板は、下記工程を用いて製造された:
(1)製錬・鋳造:転炉製錬を採用し、表1に示すように各化学元素の質量百分率を制御した。
【0044】
(2)熱間圧延:鋳造ビレットを1100〜1260℃に加熱してから、圧延を制御し、圧延開始温度を950〜1150℃にし、最終圧延温度を750〜900℃にし、巻取り温度を500〜850℃にし、巻取り後に室温に冷却し、全マルテンサイト組織を得た。
【0045】
(3)ベル型炉焼鈍:焼鈍温度を600〜700℃にし、焼鈍時間を1〜48hにした。
【0046】
(4)冷間圧延:冷間圧延圧下量を40%以上にした。
(5)冷間圧延後の一回目の焼鈍:焼鈍温度をAc1とAc3温度の間にし、焼鈍時間を5min超えにした。
【0047】
(6)冷間圧延後の二回目の焼鈍:焼鈍温度を750〜850℃にし、焼鈍時間を1〜10minにした。なお、本願で限定される冷間圧延後の二回目の焼鈍のプロセスパラメータが本願の実施効果に与える影響を示すために、比較例1〜3で用いられた焼鈍温度は本願で限定される範囲内に入っていない、ただし、比較例1の冷間圧延の二回目の焼鈍温度は720℃であり、比較例2の冷間圧延の二回目の焼鈍時間は15minであり、比較例3の冷間圧延の二回目の焼鈍温度は760℃であった。
【0048】
(7)焼戻:焼戻温度を200〜300℃にし、焼戻時間を3min以上にした。
なお、工程(2)において、熱間圧延鋼板の厚さは8mm以下であった。工程(4)において、冷間圧延鋼板の厚さは2.5mm以下であった。
【0049】
なお、他の実施形態において、工程(1)では電気炉または誘導炉を用いて製錬することもできる。
【0050】
なお、他の実施形態において、前記工程(3)と(4)の間には、さらに酸洗工程があることが好ましい。
【0051】
実施例1〜8および比較例1〜4における各化学元素の質量百分率配合は表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
実施例1〜8および比較例1〜4の製造方法における具体的なプロセスパラメータは表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
なお、表2における成分番号は、各実施例と比較例で表1における相応の成分番号が用いられたことを指す。
【0056】
前記実施例1〜8の1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼および比較例1〜4の鋼板について、サンプリングして各性能を計測し、試験で計測された性能パラメータは表3に示す。
【0057】
表3では、実施例1〜8の1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼および比較例1〜4の鋼板の性能パラメータが示される。強伸度積は、引張強度と伸度の積である。
【0058】
【表3】
【0059】
表3から見れば、本願の各実施例の1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼は、引張強度が>1500Mpaで、強伸度積が>30GPa%であることから、各実施例の自動車用鋼は高い強度と良好な伸び性を有することが分かった。
【0060】
表1と表3の組み合わせから分かるように、比較例4において、マンガンの質量百分率が7.5%未満であり、その強伸度積が30GPa%に達しておらず、伸度が低かった。これは、比較例4において、マンガンの質量百分率が比較的に低いことから、冷間圧延の二回目の焼鈍過程で生じるオーステナイト相の割合と安定性が不十分で、その伸度が低くなり、強伸度積も低くなるためであった。
【0061】
表2と表3の組み合わせから分かるように、比較例1において、冷間圧延の二回目の焼鈍温度が750℃未満であったことから、冷間圧延の二回目の焼鈍過程においてフェライトからオーステナイトへの変態量が減少し、室温に冷却された後、まだ大量のフェライトが存在していた。そのため、比較例1の鋼板は、伸度が30%を超え、強伸度積が30GPa%を超えたが、その引張強度が1500MPa未満であった。
【0062】
さらに表2と表3の組み合わせから分かるように、比較例2における冷間圧延の二回目の焼鈍時間は10minを超え、比較例3における冷間圧延の二回目の焼鈍温度は850℃を超えたことから、オーステナイトの安定性が劣り、室温ではオーステナイト相の割合が低く、比較例2および比較例3の鋼板の強伸度積はいずれも30GPa%未満であった。
【0063】
図1は本発明の実施例1の1500MPaレベル高強伸度積自動車用鋼の製造方法のプロセス曲線の概念図を示す。
【0064】
図1から分かるように、本技術方案にかかる製造プロセスは、熱間圧延1の後に一回の焼鈍、即ちベル型炉焼鈍2を行い、次に冷間圧延3を行い、冷間圧延の後に二回目の焼鈍、即ち冷間圧延後の一回目の焼鈍4を行い、次に三回目の焼鈍、即ち冷間圧延後の二回目の焼鈍5を行い、最後に焼戻6を行う。図1において、横軸は時間を示し、縦軸は温度を示すので、図1の曲線は、温度の経時変化を概念的に示す。図1から分かるように、ベル型炉焼鈍2および冷間圧延後の一回目の焼鈍4では、普通のART焼鈍が採用されるが、冷間圧延後の二回目の焼鈍5では、普通のART焼鈍より高い焼鈍温度および短い焼鈍時間が採用され、それにより本技術方案で得ようとする微細組織、即ち大量のマルテンサイト組織および多くのオーステナイト組織が得られる。
【0065】
以上に挙げられたのは本発明の具体的な実施例だけであり、本発明は勿論以上の実施例に限定されず、数多くの類似の変更もあることを注意すべきである。当業者は本発明に開示された内容から直接に導く若しくは想到する変更は全て本発明の保護の範囲に含まれるべきである。
図1