特許第6808832号(P6808832)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6808832SiOH官能性ポリシロキサンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6808832
(24)【登録日】2020年12月11日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】SiOH官能性ポリシロキサンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/06 20060101AFI20201221BHJP
   C08G 77/16 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   C08G77/06
   C08G77/16
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-524244(P2019-524244)
(86)(22)【出願日】2016年11月10日
(65)【公表番号】特表2019-533752(P2019-533752A)
(43)【公表日】2019年11月21日
(86)【国際出願番号】EP2016077221
(87)【国際公開番号】WO2018086690
(87)【国際公開日】20180517
【審査請求日】2019年7月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】ゲオルク、レッセル
(72)【発明者】
【氏名】マンフレート、マイゼンベルガー
【審査官】 堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−255898(JP,A)
【文献】 特表2016−521804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/00−77/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3.0〜10.0重量%のOH含有率を有する有機ポリシロキサンの連続式製造方法であって、
クロロシラン類およびアルコキシシラン類の合計に対して、少なくとも60重量%のアルコキシシラン類および最大で40重量%のクロロシラン類、水ならびに20℃、1バール(bar)において水1L中1g以下の割合まで可溶な非極性溶媒が、反応混合物に連続的に計量投入され、この反応混合物が連続的に排出され
前記クロロシラン類および前記アルコキシシラン類は、少なくとも1つのC1〜C18炭化水素基がシリコン原子に結合したものである、方法。
【請求項2】
前記アルコキシシラン類、クロロシラン類、水および非極性溶媒が、ループ反応器内の前記反応混合物に連続的に計量投入され、前記反応混合物が前記ループ反応器から連続的に排出される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
5〜35重量%の水相中のHCl濃度を達成する量の水が計量投入される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記非極性溶媒が炭化水素類から選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
25〜45重量%の固形含有率を達成する量の前記非極性溶媒が前記反応混合物に供給され、前記固形含有率が溶媒相中に溶解している生成された有機ポリシロキサンの量である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記溶媒相中に溶解している前記有機ポリシロキサンが、前記水相から連続的に分離される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子量を有するSiOH官能性ポリシロキサンの連続式製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
独国特許出願公開第102013212980号は、とりわけ、クロロシラン類とアルコキシシラン類の合計に対して、95重量%〜60重量%のクロロシラン類および5重量%〜40重量%のアルコキシシラン類を水および非極性溶媒と同時に反応装置に計量投入(metered into)する連続式方法により製造することができるSiOH官能性ポリシロキサン類を記載している。
何年ものこれらのポリシロキサン樹脂を取り扱う技術経験は、高分子量Mw>3000g/モルは、表面に感受性のある被膜塗布に適していないことを示している。この場合、<3000g/モルの分子量を有する加工製品が好ましい。
【0003】
しかしながら、独国特許出願公開第102013212980号の方法では、特にポリメチルシロキサンを含んでなるポリフェニルシロキサン類の製造の場合に、望ましくない高分子量Mw>3000g/モルで問題が生じる。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、3.0〜10.0重量%のOH含有率を有する有機ポリシロキサンの連続式製造方法であって、
クロロシラン類およびアルコキシシラン類の合計に対して、少なくとも60重量%のアルコキシシラン類および最大で40重量%のクロロシラン類、水ならびに20℃、1バール(bar)において水1L中1g以下の割合まで可溶な非極性溶媒が、反応混合物に連続的に計量投入され、この反応混合物が連続的に排出される、
方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0005】
クロロシラン類に対してアルコキシシラン類を増量して使用することにより、連続反応は順調に進み、より均一かつ比較的低分子量、特に分子量Mw<3000g/モルの有機ポリシロキサンを得る。
【0006】
公知の方法と対照的に、3.0〜10.0重量%のOH含有率を有する有機ポリシロキサンを、アルコールを含む水溶性極性溶媒を省いてさえ、本発明による方法により非常に短い滞留時間で製造する。短い滞留時間および比較的少量のアルコキシシラン類のおかげで、アルコールおよびHClからのクロロアルカン類の生成が抑制され、アルコール量が減少する。
このことは、短い滞留時間によるより高いスループットに加えて、CODおよびPOXの低負担のおかげで廃水処理の複雑さを同時に顕著に減らすことができるので、公知の連続式および非連続式方法と比較して重要な費用優位をもたらす。
【0007】
水相および溶媒相を生成し;これらを均密混合する。5〜35重量%の水相中のHCl濃度を達成するような量の水が計量投入されることが好ましい。
【0008】
いずれの場合もクロロシラン類およびアルコキシシラン類の合計に対して、63重量%〜75重量%、特に65重量%〜70重量%のアルコキシシラン類および37重量%〜25重量%、特に35重量%〜30重量%のクロロシラン類を計量投入されることが好ましい。
【0009】
非極性溶媒は、好ましくは、20℃、1バールにおいて水1L中0.5g以下の割合まで可溶である。非極性溶媒の例は、ペンタン、n−ヘキサン、ヘキサン異性体の混合物、ヘプタン、オクタン、ベンジン、石油エーテル、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素である。トルエンおよびキシレンが特に好ましい。
【0010】
計量投入しない極性溶媒は、特に、メタノールおよびエタノールなどのアルコール類;ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)などのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸プロピル、酪酸エチル、イソ酪酸エチルなどのエステル類;二硫化炭素およびニトロベンゼン、またはこれらの溶媒の混合物である。
【0011】
非極性溶媒は、好ましくは、25〜45重量%の固形含有率に達成する量で反応混合物に供給される。固形含有率は、溶媒相中に溶解している生成された有機ポリシロキサンの量である。
【0012】
溶媒相に溶解された有機ポリシロキサンは、好ましくは、水相から連続的に分離される。有機ポリシロキサンは、好ましくは、蒸留により溶媒から取り出される。
【0013】
クロロシラン類、アルコキシシラン類、水および非極性溶媒は、好ましくは、反応混合物中に計量投入され、1分〜30分、好ましくは2分〜15分の非常に短い滞留時間になるように、反応混合物は連続的に排出される。
【0014】
好ましくは、3.0〜10.0重量%のOH含有率を有する有機ポリシロキサンは、一般式I:
SiO4−n (I)、
(式中、
Rは、OH、C〜C18炭化水素基またはC〜Cアルコキシ基であり;
nは、値0、1、2または3であり;および
nは、1.0〜2.0の平均値を有する)
を有する。
【0015】
有機ポリシロキサンのOH含有率は、シリコン原子に直接結合したOH基を表す。前記含有率は、好ましくは、3.0〜8.0重量%である。
【0016】
nは、好ましくは、1.4〜1.8の平均値を有する。
【0017】
3.0〜10.0重量%のOH含有率を有する有機ポリシロキサンは、好ましくは、1500〜3000、特に好ましくは1800〜3000、特に2000〜2900の平均分子量を有する。有機ポリシロキサンは、好ましくは、30℃〜80℃、特に35℃〜75℃のTg(ガラス転移温度)を有する。
【0018】
ハロシラン類は、好ましくは、一般式II:
SiCl4−m (II)、
(式中、
は、C〜C18炭化水素基であり;および
mは、値0、1、2または3である)
を有する。
【0019】
アルコキシシラン類は、好ましくは、一般式III:
SiR4−o (III)、
式中、
は、C〜C18炭化水素基であり;
は、C〜Cアルコキシ基であり;および
oは、値0、1、2または3である)
を有する。
【0020】
〜C18炭化水素基R、RおよびRは、好ましくは、C〜Cアルキル基、特に、メチル、エチルもしくはプロピル基またはフェニル基である。
【0021】
Rの好ましい定義は、RおよびRの好ましい定義と一致する。
【0022】
〜Cアルコキシ基Rは、好ましくは、メトキシおよびエトキシ基から選択される。
【0023】
反応温度は、好ましくは、20℃〜100℃、特に好ましくは40℃〜80℃、特に50℃〜70℃である。
【0024】
反応圧は、好ましくは、0.05MPa(メガパスカル)〜1MPa、特に好ましくは0.08MPa〜0.2MPaである。
【0025】
反応時間は、好ましくは、1分〜5時間、特に好ましくは3分〜3時間、特に5分〜1.5時間である。
【0026】
上式の前述のシンボルは、互いに独立してそれぞれ定義される。全式中、シリコン原子は四価である。
【0027】
関連製品パラメーターの測定方法
分子構成:
核磁気共鳴分光法(用語についてはASTM E386:High resolution nuclear magnetic resonance spectroscopy (NMR): Concepts and symbols(高分解能核磁気共鳴分光法(NMR):概念およびシンボル)参照)により分子構成を決定し、H核および29Si核を測定する。
【0028】
HーNMR測定の説明
溶媒:CDCl、D 99.8重量%
試料濃度:5mmNMRチューブ中、約50mg/1mlのCDCl
TMS添加なしで測定、CDCl中の残留CHClの7.24ppmがスペクトル基準
分光計:Bruker Avance I500またはBruker Avance HD500
プローブヘッド:5mm BBOプローブヘッドまたはSMARTプローブヘッド(Bruker)
測定パラメーター:
パルスプログラム=zg30
TD=64k
NS=64または128(プローブヘッドの感度に依存)
SW=20.6ppm
AQ=3.17s
D1=5s
SFO1=500.13MHz
O1=6.175ppm
処理パラメーター:
SI=32k
WDW=EM
LB=0.3Hz
【0029】
使用される分光計の種類に依存して、測定パラメーターの個々の調節を必要とし得る。
【0030】
29Si−NMR測定の説明
溶媒:C 99.8重量% 緩和試薬として1重量%のCr(acac)を含むD/CCl 1:1 v/v
試料濃度:10mmNMRチューブ中、約2g/1.5mLの溶媒
分光計:Bruker Avance300
プローブヘッド:10mm 1H/13C/15N/29Si ガラスフリーQNPプローブヘッド(Bruker)
測定パラメーター:
パルスプログラム=zgig60
TD=64k
NS=1024(プローブヘッドの感度に依存)
SW=200ppm
AQ=2.75s
D1=4s
SFO1=300.13MHz
O1=−50ppm
処理パラメーター:
SI=64k
WDW=EM
LB=0.3Hz
【0031】
分光計の種類に依存して、測定パラメーターの個々の調節を必要とし得る。
【0032】
分子量分布:
分子量分布を、ポリスチレン標準品および屈折率検出器(RI検出器)を用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPCまたはサイズ排除クロマトグラフィー(SEC))の方法を使用して、重量平均Mwおよび数平均Mnとして決定する。特に断りがない限り、溶出液としてTHFを使用し、DIN55672−1を適用する。多分散性PDは、比Mw/Mnである。
【0033】
有機ポリシロキサンのOH含有率を、ツェレウィチノフ(Zerewitinoff)に従って決定する。
【0034】
以下の実施例では、特に指定しない限り、いずれの場合も、全ての量およびパーセントは重量基準であり、全ての圧は0.10MPa(絶対)および全ての温度は20℃である。
【実施例】
【0035】
実施例1および2を、独国特許出願公開第102013212980号と同様に製造し、実施例3および4を本発明による方法により、各々を、連続式下流側相分離を備える300リットルループ(鋼/エナメル)内で製造した。したがって、全実施例において、得られた粗生成物を蒸留により溶媒から取り出す。
【0036】
独国特許出願公開第102013212980号と同様にした本発明でない例1および2の製造の説明
実施例1
ジメチルジクロロシラン22kg/時、フェニルトリクロロシラン335.2kg/時およびメチルトリエトキシシラン204.8kg/時を、混合セクションにより同時に水1400kg/時およびトルエン900kg/時と一緒にループ中に供給する。次の処理パラメーターを設定する:
滞留時間(分):5〜10
反応温度(℃):60〜65
水相中のHCl濃度:10〜15重量%
固形含有率(=トルエン中に溶解した樹脂):25〜30重量%
【0037】
実施例2
ジメチルジクロロシラン22kg/時、フェニルトリクロロシラン335.2kg/時およびメチルトリエトキシシラン210kg/時を、混合セクションにより同時に水1400kg/時およびトルエン900kg/時と一緒にループ中に供給する。次の処理パラメーターを設定する:
滞留時間(分):5〜10
反応温度(℃):60〜65
水相中のHCl濃度:10〜15重量%
固形含有率(=トルエン中に溶解した樹脂):25〜30重量%
【0038】
分子量を表1に報告している:
【0039】
【表1】
【0040】
本発明による方法による実施例3および4の製造の説明
実施例3
ジメチルジクロロシラン22kg/時、フェニルトリクロロシラン167.6kg/時、フェニルトリエトキシシラン167.6kg/時およびメチルトリエトキシシラン230kg/時を、混合セクションにより同時に水800kg/時およびトルエン850kg/時と一緒にループ中に供給する。
次の処理パラメーターを設定する:
滞留時間(分):5〜10
反応温度(℃):60〜65
水相中のHCl濃度:10〜15重量%
【0041】
実施例4
ジメチルジクロロシラン22kg/時、フェニルトリクロロシラン167.6kg/時、フェニルトリエトキシシラン167.6kg/時およびメチルトリエトキシシラン204.8kg/時を、混合セクションにより同時に水800kg/時およびトルエン850kg/時と一緒にループ中に供給する。
次の処理パラメーターを設定する:
滞留時間(分):5〜10
反応温度(℃):60〜65
水相中のHCl濃度:10〜15重量%
固形含有率(=トルエン中に溶解した樹脂):25〜30重量%
分子量を表2に報告している:
【0042】
【表2】