(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6808867
(24)【登録日】2020年12月11日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】電着バンドソー
(51)【国際特許分類】
B23D 61/18 20060101AFI20201221BHJP
B23D 61/12 20060101ALI20201221BHJP
B28D 5/04 20060101ALN20201221BHJP
B28D 1/08 20060101ALN20201221BHJP
【FI】
B23D61/18
B23D61/12 B
!B28D5/04 Z
!B28D1/08
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2020-57469(P2020-57469)
(22)【出願日】2020年3月27日
【審査請求日】2020年3月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(72)【発明者】
【氏名】南里 陽
【審査官】
小川 真
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−044018(JP,A)
【文献】
特開2002−018639(JP,A)
【文献】
特開2014−198356(JP,A)
【文献】
特開2014−151395(JP,A)
【文献】
特開2017−196695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23D 61/18
B23D 61/12
B28D 1/08
B28D 5/04
B24D 11/06
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の平板状エンドレスバンドで形成された台金と、
前記台金の一方の側縁部に、前記台金の長手方向に沿って所定間隔ごとに電着された複数の砥粒層と、を備え、
前記台金の厚み方向における前記砥粒層の厚みが前記台金の他方の側縁部から離れるにつれて増大し、
且つ、前記砥粒層の先端面の正面視形状が楕円形状、長円形状、紡錘形状若しくは角丸四辺形状であり、
前記砥粒層の先端面における前記台金の長手方向の中央部を含む領域の形状が、前記台金から離れる方向に凸をなす凸曲面状である電着バンドソー。
【請求項2】
前記台金の一方の側縁部から前記砥粒層の先端面までの距離が前記砥粒層に含まれる砥粒の粒径の2倍を超え、4倍以下である請求項1記載の電着バンドソー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンインゴット、カーボン、セラミックス、ガラス、磁性体などの切断加工に使用されるセグメントタイプの電着バンドソーに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンインゴットやカーボンなどを切断する際に使用されるセグメントタイプの電着バンドソーについては、切れ味の向上、切断加工中の直進性の向上並びに寿命の延長などを目的として、従来、様々な構造、機能を有するものが提案されているが、本発明に関連するものとして、特許文献1に記載された「電着バンドソー」、特許文献2に記載された「バンドソー」並びに特許文献3に記載された「電着バンドソー」などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−18639号公報
【特許文献2】実開昭62−15425号公報
【特許文献3】特許第4397193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された「電着バンドソー」、特許文献2に記載された「バンドソー」並びに特許文献3に記載された「電着バンドソー」はそれぞれ優れた機能(性能)を有しているが、シリコンインゴットやカーボンなどを切断加工する産業分野では、近年においても、切れ味の向上、切断加工中の直進性の向上並びにコバカケの低減に対する要求が高いので、これらの要求を充足する電着バンドソーが要請されている。なお、前記コバカケとは、電着バンドソーによる切断対象物の切断作業において、切断対象物の切断終わり部分に発生する「欠け」をいう。
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、切れ味が良好で、切断加工中の直進性に優れ、コバカケも少ない電着バンドソーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明に係る電着バンドソーは、
金属製の平板状エンドレスバンドで形成された台金と、
前記台金の一方の側縁部に、前記台金の長手方向に沿って所定間隔ごとに電着された複数の砥粒層と、を備え、
前記台金の厚み方向における前記砥粒層の厚みが前記台金の他方の側縁部から離れるにつれて増大し、
且つ、前記砥粒層の先端面の正面視形状が楕円形状、長円形状、紡錘形状若しくは角丸四辺形状であ
り、
前記砥粒層の先端面における前記台金の長手方向の中央部を含む領域の形状が、前記台金から離れる方向に凸をなす凸曲面状であることを特徴とする。
【0007】
前記電着バンドソーにおいては、前記砥粒層の先端面における前記台金の長手方向の中央部を含む領域の形状が、
前記台金から離れる方向に凸をなす凸曲面
状であ
る。
【0008】
前記電着バンドソーにおいては、前記台金の一方の側縁部から前記砥粒層の先端面までの距離が、前記砥粒層に含まれる砥粒の粒径の2倍を超え、4倍以下であることが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、切れ味が良好で、切断加工中の直進性に優れ、コバカケも少ない電着バンドソーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態である電着バンドソーの一部を示す部分斜視図である。
【
図2】
図1中の矢線A方向から見た電着バンドソーの部分正面図である。
【
図3】
図1中の矢線B方向から見た電着バンドソーの部分側面図である。
【
図4】
図3中のC−C線における一部省略断面図である。
【
図6】従来の電着バンドソーの一部を示す正面図である。
【
図7】
図6中の矢線D方向から見た電着バンドソーの部分側面図である。
【
図8】電着バンドソーの切断加工試験において使用した切断加工装置の概略を示す一部省略斜視図である。
【
図9】切断加工試験に供した電着バンドソーの仕様を示す図表である。
【
図10】切断加工試験に使用した切断加工装置の仕様並びに切断加工試験条件を示す図表である。
【
図11】切断加工試験における変位量の測定結果を示す図表である。
【
図12】切断加工試験におけるコバカケの個数の測定結果を示す図表である。
【
図13】その他の実施形態である電着バンドソーの一部を示す正面図である。
【
図14】
図13中の矢線E方向から見た電着バンドソーの部分側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、
図1〜
図12に基づいて、本発明の実施形態である電着バンドソー100,200について説明する。
【0012】
初めに、
図1〜
図5に基づいて、電着バンドソー100について説明する。
図1に示すように、電着バンドソー100は、金属製の平板状エンドレスバンドで形成された台金1と、台金1の一方の側縁部2に台金1の長手方向Lに沿って所定間隔ごとに電着された複数の砥粒層10と、を備えている。
図4に示すように、台金1の厚み方向Tにおける砥粒層10の厚み10tが台金1の他方の側縁部3から離れるにつれて増大した形状(バックテーパ形状)をなしている。
【0013】
また、
図2に示すように、砥粒層10の先端面11の正面視形状が楕円形状(台金1の長手方向Lの中央部分の厚み10tが最も厚く、長手方向Lの両端部分に向かってそれぞれ厚み10tが連続的に減少した形状)をなしている。
【0014】
さらに、
図3に示すように、電着バンドソー100においては、砥粒層10の先端面11における台金1の長手方向Lの中央部分を含む領域の形状が凸曲面状(
図1の矢線B方向から見ると台金1から離れる方向に凸をなす円弧形状)をなしている。即ち、砥粒層10において、台金1の側縁部2から砥粒層10の先端面11までの距離Hは、砥粒層10の台金1の長手方向Lの中央部分が最も大であり、砥粒層10の台金1の長手方向Lの両端部に向かうにつれて、それぞれ連続的に減少している。
【0015】
一方、
図5に示すように、電着バンドソー100においては、台金1の一方の側縁部2から砥粒層10の先端面11(ボンド13の表面から突出した砥粒12の先端)までの距離Hが、砥粒層10に含まれる砥粒12の粒径の2倍を超え、4倍以下となっている。なお、砥粒12の粒径とは「JISB4130 ふるいによる分級」に基づいて測定して得られた平均粒径である。
【0016】
次に、
図6〜
図12に基づいて、
図1に示す電着バンドソー100並びに従来の電着バンドソー50の切断性能を比較するための切断加工試験の試験内容並びに試験結果などについて説明する。
【0017】
先ず、
図6,
図7に基づいて、電着バンドソー100の性能比較対象である従来の電着バンドソー50について説明する。
図6に示すように、従来の電着バンドソー50においては、砥粒層51の先端面52の正面視形状が鼓形状(台金1の長手方向Lの中央部分の厚み51tが最も薄く、長手方向Lの両端部分に向かってそれぞれ厚み51tが連続的に増大した形状)をなしている。
【0018】
また、
図7に示すように、電着バンドソー50においては、砥粒層51の先端面52における台金1の長手方向Lの中央部分を含む領域の形状が凹曲面状をなしている。即ち、台金1の側縁部2から砥粒層51の先端面52までの距離Hは、砥粒層51の台金1の長手方向Lの中央部分が最も小であり、砥粒層10の台金1の長手方向Lの両端部に向かうにつれて、それぞれ連続的に増大した形状をなしている。
【0019】
次に、
図8に基づいて、電着バンドソー100,50の切断加工試験において使用した切断加工装置30について説明する。切断加工装置30においては、一対のプーリ31,32に架け渡された状態で回転する電着バンドソー100(並びに従来の電着バンドソー50)により、直径200mmのシリコンインゴットSiを切断加工し、切断加工中の電着バンドソーの刃先の変位量を渦電流センサ33で測定し、消費電力を消費電力計(図示せず)で測定した。
【0020】
図9は切断加工試験に供した電着バンドソー100,50の寸法、スペック及び電着パターンを示している。なお、
図9中の最下欄の電着パターンの欄に記載された「直径φ」並びに「ピッチP」はそれぞれ
図1中に示す「φ」並びに「P」を意味している。
【0021】
図10は、
図8に示す切断加工装置30の内容並びに切断加工試験の条件などを示している。電着バンドソー100並びに従来の電着バンドソー50について
図8に示すような条件で切断加工試験を行い、試験結果の比較、検討を行った。
【0022】
図11は、電着バンドソー100,50により、直径200mmのシリコンインゴットSiを切断加工し、切断加工中の電着バンドソー100,50の刃先の変位量を渦電流センサ33で測定した結果を示している。電着バンドソー100は、カット開始からカット数が20枚に至るまで、変位量が小さい状態が安定に維持されているのに対し、電着バンドソー50は、カット開始後、カット数が5枚に達する前に変位量が過大となり、試験中止となった。
【0023】
図11に示すように、電着バンドソー100は、従来の電着バンドソー50に比べ、切断加工中の刃先の変位量が小さいので、切断加工中の直進性が良好であり、切れ味も良いことが分かる。その理由については、
図2に示すように、電着バンドソー100の砥粒層10の先端面11の形状が、台金1の長手方向Lの中央部分の厚みに対し、両端部分の厚みが小さいので、ワーク切断加工時の抵抗が小さくなり、
図4に示す砥粒層10のバックテーパ形状本来の直進性を発揮するためではないかと推測される。
【0024】
図12は、切断加工試験においてカットされたシリコンウェハ1枚当たりに発生した0.75mm以上のコバカケの個数の測定結果を示している。
図12に示すように、従来の電着バンドソー50で切断した場合はシリコンウェハ1枚当たり10個程度のコバカケが発生しているのに対し、電着バンドソー100で切断した場合はシリコンウェハ1枚当たり6個程度のコバカケしか発生していないのが分かる。
【0025】
その理由については、前述した
図2に示すように、電着バンドソー100の砥粒層10の先端面11の形状が、台金1の長手方向Lの中央部分の厚みに対し、両端部分の厚みが小さいので、ワーク切断加工時の抵抗が小さくなり、
図4に示す砥粒層10のバックテーパ形状本来の直進性を発揮するとともに、ワークへの負荷が低減するためではないかと推測される。
【0026】
また、電着バンドソー100においては、
図5に示すように、台金1の一方の側縁部2から砥粒層10の先端面11までの距離Hが、砥粒層10に含まれる砥粒12の粒径の2倍を超え、4倍以下となっている。このため、直進性を長時間に亘って維持することができ、寿命向上にも有効である。
【0027】
次に、
図13,
図14に基づいて、その他の実施形態である電着バンドソー200について説明する。
図13に示すように、電着バンドソー200は、金属製の平板状エンドレスバンドで形成された台金1と、台金1の一方の側縁部2に台金1の長手方向Lに沿って所定間隔ごとに電着された複数の砥粒層20と、を備えている。
図15に示すように、台金1の厚み方向Tにおける砥粒層20の厚み20tが台金1の他方の側縁部3から離れるにつれて増大した形状(バックテーパ形状)をなしている。
【0028】
また、
図13に示すように、砥粒層20の先端面21の正面視形状が角丸四辺形状(台金1の長手方向Lの両端部を除き、砥粒層20の厚み20tが台金1の長手方向Lに沿って同等である形状)をなしている。
【0029】
さらに、
図14に示すように、電着バンドソー200においては、砥粒層20の先端面21における台金1の長手方向Lの中央部分を含む領域の形状が平面形状(砥粒層20の台金1の長手方向Lの両端部を除き、台金1の側縁部2と平行な形状)をなしている。即ち、砥粒層20においては、台金1の側縁部2から砥粒層20の先端面21までの距離Hは、砥粒層10の台金1の長手方向Lに沿って一定である。
【0030】
図13に示すように、電着バンドソー200の砥粒層20の厚み20tが台金1の長手方向Lに沿って同等であり、
図15に示すように、砥粒層20はバックテーパ形状をなしている。従って、電着バンドソー100と同様、ワーク切断加工時の抵抗が小さく、直進性に優れ、切れ味も良好である。また、ワーク切断加工時の抵抗が小さくなることで、
図15に示す砥粒層20のバックテーパ形状本来の直進性が発揮され、ワークへの負荷が低減するため、コバカケの発生も低減することができる。
【0031】
また、図示していないが、電着バンドソー200においては、台金1の一方の側縁部2から砥粒層20の先端面21までの距離Hが、砥粒層20に含まれる砥粒の粒径の2倍を超え、4倍以下となっている。このため、直進性を長時間に亘って維持することができ、寿命向上にも有効である。
【0032】
なお、
図1〜
図15に基づいて説明した電着バンドソー100,200は、本発明に係る電着バンドソーの例示するものであり、本発明に係る電着バンドソーは前述した電着バンドソー100,200に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明に係る電着バンドソーは、シリコンインゴット、カーボン、セラミックス、ガラス、磁性体などの高脆材料の切断加工を行う様々な産業分野において広く利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 台金
2,3 側縁部
10,20 砥粒層
10t,20t 厚み
11,21 先端面
12 砥粒
13 ボンド
30 切断加工装置
31,32 プーリ
100,200 電着バンドソー
H 距離
L 長手方向
P ピッチ
Si シリコンインゴット
T 厚み方向
φ 直径
【要約】
【課題】切れ味が良好で、切断加工中の直進性に優れ、寿命向上も図ることができる電着バンドソーを提供する。
【解決手段】電着バンドソー100は、金属製の平板状エンドレスバンドで形成された台金1と、台金1の一方の側縁部2に台金1の長手方向Lに沿って所定間隔ごとに電着された複数の砥粒層10と、を備え、台金1の厚み方向Tにおける砥粒層10の厚み10tが台金1の他方の側縁部から離れるにつれて増大し、且つ、砥粒層10の先端面11の正面視形状が楕円形状(台金1の長手方向Lの中央部分の厚み10tが最も厚く、長手方向Lの両端部分に向かってそれぞれ厚みが滑らかに減少した形状)をなし、砥粒層10の先端面11における台金1の長手方向Lの中央部分を含む領域の形状が凸曲面状(台金1から離れる方向に凸をなす円弧形状)をなしている。
【選択図】
図2