(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6808901
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】下半身用衣類
(51)【国際特許分類】
A41B 11/00 20060101AFI20201221BHJP
A41B 11/14 20060101ALI20201221BHJP
D04B 1/00 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
A41B11/00 K
A41B11/14 E
D04B1/00 C
D04B1/00 A
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-36738(P2017-36738)
(22)【出願日】2017年2月28日
(65)【公開番号】特開2018-141253(P2018-141253A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2019年11月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 亮太
(72)【発明者】
【氏名】井上 厚人
【審査官】
▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−015361(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2017/0273363(US,A1)
【文献】
中国実用新案第205547386(CN,U)
【文献】
登録実用新案第3062734(JP,U)
【文献】
特開2002−302853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41B 11/00
A41B 11/14
D04B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の編糸および第2の編糸を含んで編成した下半身用衣類であって、
前記第1の編糸で編んだ地組織に対してそれ自体で編目を編成しないインレイ糸として第2の編糸を挿入した第1の編み組織と、
前記第1の編み組織に連続して編成され、前記第1の編糸と前記第2の編糸とが入れ替わり、前記第2の編糸で編んだ地組織に対してそれ自体で編目を編成しないインレイ糸として第1の編糸を挿入した第2の編み組織とを含み、
前記地組織と前記インレイ糸による挿入組織とがランダムに配置され、表面がスエード調である、下半身用衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイツまたはパンティストッキングに代表される下半身用衣類(パンティストッキング型およびレッグ部のみのタイツまたはストッキング、ショートストッキング、靴下、フットカバー、スパッツ等)に関し、特に、従来のループ(ニット)とミスとで柄を編成した場合よりも細かい柄または/および模様(以下において模様を含めて柄と記載する場合がある)を形成することにより表面が細かく起毛されて毛羽立ったようなスエード調のタイツに代表される下半身用衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の生活習慣上、人が靴を履くときに足に装着する衣類としての靴下を多くの人々が使用している。そのような衣類の中で、特に、女性の下半身を覆うタイツおよびストッキングは、外出時における女性の脚部の保護および保温さらには脚線美の向上の観点等から、広く世間に浸透している。
現在市販されているほとんどのタイツおよびストッキングは、ナイロン糸、または、ナイロン糸とポリウレタン糸とで編まれている。使用している糸により、「交編」および「ゾッキ」の2種類に大別される。
【0003】
交編(交編編み)は、ナイロン糸と、サポート糸(ポリウレタン糸にナイロン糸を巻き付けたカバリング糸)を交互に使用して編成する。ある程度のサポート(弾性)力および透明感の両方を求めるときに好適である。種類が異なる2種類の糸を使用するため(構造上どうしても)横縞模様が表れやすい。
ゾッキ(ゾッキ編み)は、一般的にはサポート糸(ポリウレタン糸にナイロン糸を巻き付けたカバリング糸)だけで編成されているものが多い。良好なフィット性を求めるときに好適である。また、いわゆる伝線(使用中に編み組織の一部に引掛傷ができ糸が切れると生成される編み組織が解編されたはしご状の線)が発生しにくいという特徴を備えたゾッキ編みのストッキングが、最近では増えてきている。
【0004】
このようなタイツまたはストッキングに柄(模様)を編成する場合には、たとえば、特開2012−072537号公報(特許文献1)に開示されるように、ループ(ニット)とミスとを組み合わせて、4×4(4目単位)の模様を規則的なパターンとして表現する。下半身用衣類においては、このようにして、柄(模様)を編成することが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−072537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された一般的な編成方法で柄(模様)を編成できるのは4目単位でしかなく、それ以上の細かい柄(模様)を編成することはできない。したがって、細かく、かつ、ランダムに編目を変化させて編成できないために、表面が細かく起毛されて毛羽立ったようなスエード調を実現することが困難だった。
本発明は、従来技術の上述の問題点に鑑みて開発されたものであり、その目的とするところは、細かく、かつ、ランダムに編目を変化させて編成して、表面が細かく起毛されて毛羽立ったようなスエード調を発現できる、タイツに代表される下半身用衣類を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る下半身用衣類は以下の技術的手段を講じている。
すなわち、本発明に係る下半身用衣類は、第1の編糸および第2の編糸を含んで編成した下半身用衣類であって、前記第1の編糸で編んだ地組織に対してそれ自体で編目を編成しないインレイ糸として第2の編糸を挿入した第1の編み組織と、前記第1の編み組織に
連続して編成され、前記第1の編糸と前記第2の編糸とが入れ替わり、前記第2の編糸で編んだ地組織に対してそれ自体で編目を編成しないインレイ糸として第1の編糸を挿入した第2の編み組織とを含み、前記地組織と前記インレイ糸による挿入組織とがランダムに配置され、表面がスエード調である。ここで、スエード調とは、下半身用衣類の表面(着用したときに肌に当接する肌面とは逆側の面)が、毛羽立ったような風合いであったり、起毛されたような風合いであったり、短繊維で形成されたような風合いであったり、するものである。本発明に係るスエード調には、フェルト調、コーデュロイ調、ベロア調等の、表面が滑らかであるにも関わらずしゃりしゃり感が過度でなく柔らかい風合いを全て含むものである。なお、少なくとも表面がスエード調であればよく、表面に加えて肌面もスエード調であっても構わない。
【0008】
好ましくは、前記インレイ糸は、前記地組織の編目のループに絡ませてかつ前記地組織の編目のつながり部に沿う方向と平行に編み込んでこれらループ間に挿入するタックインにより編成されるように構成することができる。
さらに好ましくは、前記第1の編糸と前記第2の編糸とは異なる糸であるように構成することができる。
【0009】
さらに好ましくは、前記第1の編糸は、ナイロン6糸を含み、前記第2の編糸は、ナイロン66糸を含むように構成することができる。
さらに好ましくは、前記第1の編糸と前記第2の編糸とは同じ糸であるように構成することができる。
さらに好ましくは、前記第1の編糸および前記第2の編糸は、ナイロン6糸を含むように構成することができる。
【0010】
さらに好ましくは、前記下半身用衣類は、タイツ、ストッキングおよびパンティストッキングのいずれかであるように構成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、細かく、かつ、ランダムに編目を変化させて編成できるために、表面が細かく起毛されて毛羽立ったようなスエード調を発現できる、タイツに代表される下半身用衣類を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係るタイツの概略正面図である。
【
図2】
図1のタイツの編み組織を示す図面代用写真である。
【
図4】
図1のタイツの編み組織についての(A)トレース図、(B)構成を模式的に示す図である。
【
図5】
図1のタイツの編み組織を説明するための組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態として、下半身用衣類の一例であるタイツ1を、図面に基づき詳しく説明する。なお、本発明は、スカート等を履いても外部から見えるレッグ部2に好適に適用される。
[構成]
図1に、本実施の形態に係るスエード調タイツ(以下において単にタイツ1と記載する)の概略正面図を示す。このタイツ1は、腹部および臀部を被覆するパンティ部3と、脚を被覆するレッグ部2とを備えるものである。このタイツ1は、筒状に編成された1対の編地を用い、パンティ部3に相当する部分に切れ目を入れて裁断縁どうしをつき合わせて股部4を縫着して一体化することにより製造される。また、足部の爪先部は周知の手段により、袋状に縫着することにより製造される。
【0014】
なお、本発明において、対象をタイツ(特に、スエード調タイツ)としているが、部分的にそのスエード調を備えたスパッツ等を含むこと、および、タイツよりも一般的に薄手のストッキングを含むこと、その他の下半身用衣類を含むことは、技術分野で上述した通りである。
このタイツ1においては、レッグ部2の少なくとも一部にはスエード調の風合いを備え
ることが特徴的である。スエード調の風合いとは、タイツ1の表面(着用したときに肌に当接する肌面とは逆側の面)が、毛羽立ったような風合いであったり、起毛されたような風合いであったり、短繊維で形成されたような風合いであったり、する。なお、少なくとも表面がスエード調であればよく、表面に加えて肌面もスエード調であっても構わない。
【0015】
図2にこのスエード調の風合いを備えるタイツ1の編み組織を示す編地100の図面代用写真を、
図3にこの
図2の拡大図を、それぞれ示す。このスエード調の風合いは、従来技術として説明したループ(ニット)とミスと4目単位でスエード調の風合いを発現させるようにしたものではなく、最小1目単位で編目をランダムに変化させることにより、表面がスエード調の風合いを発現させている。
図2および
図3の編地100に示すように、たとえば、グレー色のタイツ1の場合、後述するように編目を細かく(最小1目単位)変化させることにより白っぽく見える領域と黒っぽく見える領域とがランダムかつ細かく配置されており、これによりスエード調の風合いを発現させている。
【0016】
ここで、
図4(A)に示すタイツ1の編み組織についてのトレース図および
図4(B)に示すそのトレース図を模式的に示した図、ならびに、
図5に示すタイツ1の編み組織を説明するための組織図を参照して、最小1目単位で編目をランダムに変化させる点について、詳しく説明する。なお、
図5に示す組織図と
図4に示す図とは、最小1目単位で編目をランダムに変化させる点を説明するためのものであって、一致するものではない。
【0017】
図4に示すように、このタイツ1は、第1の編み組織により編成された第1の領域Bおよび第2の編み組織により編成された第2の領域Wが、ともに第1の編糸10および第2の編糸20を含んで編成されている。より詳しくは、第1の編糸10で編んだ地組織(
図4に示すようにたとえばプレーン編の地組織であって後述する
図5に示すプレーン(○))に対してそれ自体で編目を編成しないインレイ糸(後述する
図5に示すインレイ(流し込み:△×△×))として第2の編糸20を挿入した第1の編み組織により編成された第1の領域Bと、第1の領域Bに連続して編成され、第1の編糸10と第2の編糸20とが入れ替わり、第2の編糸20で編んだ地組織(
図4に示すようにたとえばプレーン編の地組織であって後述する
図5に示すプレーン(○))に対してそれ自体で編目を編成しないインレイ糸(後述する
図5に示すインレイ(流し込み:△×△×))として第1の編糸10を挿入した第2の編み組織により編成された第2の領域Wとを含む。
【0018】
これを編糸の入れ替わりに着目すると、第1の領域Bから連続して編成された第2の領域Wへ、
図4に示す矢示Y方向に沿った編糸の変化は、第1の編糸10が、第1の領域Bにおいてプレーン編みのループを編成するループ糸から第2の領域Wにおいてインレイ糸となり、第2の編糸20が、第1の領域Bにおいてインレイ糸から第2の領域Wにおいてプレーン編みのループを編成するループ糸となり、第1の領域Bと第2の領域Wとで、編糸が入れ替わることになる。なお、矢示X方向に沿った場合は上述した入れ替わりが逆になる。また、説明の都合のために矢示方向を限定したものであって、編み立て方向を限定するものではない。
【0019】
このような特徴を備えたタイツ1において、インレイについては、詳しくは、以下のようにして編成される。
図4に示すように、第1の領域Bにおけるインレイ糸である第2の編糸20、および、第2の領域Wにおけるインレイ糸である第1の編糸10は、地組織の編目のループに絡ませてかつ地組織の編目のつながり部に沿う方向と平行に(後述するタック目とミス目とを交互に編成して)編み込んでこれらループ間に挿入するタックイン(クロスインレイ:以下単にインレイと記載する場合がある)により編成される。
【0020】
さらに詳しくは、このタイツ1のスエード調の風合いは、
図5の組織図に示すように、プレーン目(○印)、タック目(△印)およびミス目(×印)のうちの、インレイ(流し込み:△×△×)とプレーン(○)とを細かくランダムに変化させた編み組織によって(規則的なパターンで編成した編み組織ではなく)、表面が毛羽立った(起毛された)ようなスエード調を発現している。なお、
図4における第2の編糸20のプレーン目20Pが
図5の○印で示すプレーン目プレーン目に、
図4における第2の編糸20のタック目20Tが
図5の△印で示すタック目に、
図4における第2の編糸20のミス目20Mが
図5の×印で示すミス目に、それぞれ対応する。
【0021】
ここで、これらの第1の編糸10と第2の編糸20としては特に限定されるものではないが、タイツ1の伸縮性を発現させるために、シングルカバリング糸(SCY:Single Covered Yarn)のみのゾッキタイプで編成することが考えられる。そして、第1の編糸10と第2の編糸20とは、異なる糸であっても構わないし、同じ糸であっても構わない。異なる糸の場合には第1の編糸10は(SCYの捲糸として)ナイロン6糸を含み第2の編糸20は(SCYの捲糸として)ナイロン66糸を含むように構成することができ、同じ糸の場合には第1の編糸10および第2の編糸20は(SCYの捲糸として)ナイロン6糸を含むように構成することができる。
なお、SCYに代えてダブルカバリング糸(DCY:Double Covered Yarn)、ウーリーナイロン糸であっても構わない。
【0022】
[製造方法]
以下において、本実施の形態に係るタイツ1の製造方法を、編糸を具体的に示して説明する。なお、
図4は模式的に編地を表したものであって図示された第1の編糸10および第2の編糸20の太さ等は、実際のもの(一例として挙げる以下の糸構成)とは異なる場合がある。以下においては、タイツ1にスエード調の風合いを発現させるものとして第1の編糸10および第2の編糸20に好適に選択されるSCYを以下に示す。
・SCY(捲糸:ナイロン6)
芯糸:ポリウレタン弾性糸(22デシテックス/2フィラメント)
捲糸:ナイロン6糸(44デシテックス/36フィラメント)
・SCY(捲糸:ナイロン66)
芯糸:ポリウレタン弾性糸(22デシテックス/2フィラメント)
捲糸:ナイロン66糸(44デシテックス/34フィラメント)
【0023】
なお、芯糸として用いられるポリウレタン弾性糸については、15〜45デシテックス/1〜3フィラメントであっても構わず、捲糸として用いられるナイロン6またはナイロン66については、10〜80デシテックス/5〜100フィラメントであっても構わず、さらに、カバリング糸のカバリング状態については、ポリウレタン弾性糸のドラフト率が2.5〜4倍、かつ、ナイロン糸の(単位長さあたりの)撚り数が500〜2500T/mである。
【0024】
このような編糸を採用して編み上げた筒状に編成された1対の編地のパンティ部3に相当する部分に切れ目を入れて裁断縁どうしをつき合わせて股部4を縫着して一体化することにより製造されたタイツ1を必要に応じて染色して、表面が細かく起毛されて毛羽立ったようなスエード調を発現できる、
図1に示すタイツ1が得られた。
【0025】
[作用効果]
本実施の形態に係るタイツ1(スエード調タイツ1)の作用効果について以下に説明する。
(A)このタイツ1においては、第1の編糸10が、第1の領域Bにおいてプレーン編みのループを編成するループ糸から第2の領域Wにおいてインレイ糸となり、第2の編糸20が、第1の領域Bにおいてインレイ糸から第2の領域Wにおいてプレーン編みのループを編成するループ糸となり、第1の領域Bと第2の領域Wとで、編糸が入れ替わることになる。このため、第1の領域Bにおいては、ループを編成する第1の編糸10によりプレーン(○)が形成され(第2の編糸20はインレイ(流し込み:△×))、第2の領域Wにおいては、ループを編成する第2の編糸20によりプレーン(○)が形成され(第1の編糸10はインレイ(流し込み:△×))、一目単位で編目を変化させて編成することができる。
【0026】
(B)上述した(A)の変化をランダムかつ細かく配置することにより、スエード調の風合いを発現させることができる。
(C)上述したように、プレーンとインレイとを、ランダムかつ細かく入れ替えて第1の領域Bおよび第2の領域Wを連続して編成して最小1目単位で編成するので、従来のループ(ニット)とミスとで柄を編成した場合よりも表面が滑らかな、タイツを実現することができる。特に、表面が滑らかであるのでゴワゴワ感がなく、表面が滑らかであるにも
関わらずしゃりしゃり感が過度でなく、長繊維で編成しているにも関わらず、短繊維(たとえば綿糸)で編成したような、タイツに好ましい質感(脚部の保護および保温さらには脚線美の向上の観点等で好ましい質感)を発現することができる。
【0027】
以上のようにして、本実施の形態に係るタイツによると、細かく、かつ、ランダムに編目を変化させて編成できるために、表面が細かく起毛されて毛羽立ったようなスエード調を発現することができる。
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、下半身用衣類に好適であり、細かく、かつ、ランダムに編目を変化させて編成できるために、表面が細かく起毛されて毛羽立ったようなスエード調のタイツ等の下半身用衣類に特に好適である。
【符号の説明】
【0029】
1 タイツ
2 レッグ部
3 パンティ部
4 股部
W 第1の領域(第1の編み組織)
B 第2の領域(第2の編み組織)
10 第1の編糸
20 第2の編糸
100 編地