特許第6808994号(P6808994)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6808994
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】路面勾配推定装置及び路面勾配推定方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 40/076 20120101AFI20201221BHJP
   F16H 59/08 20060101ALI20201221BHJP
   F16H 59/66 20060101ALI20201221BHJP
   F16H 59/36 20060101ALI20201221BHJP
   F16H 59/48 20060101ALI20201221BHJP
   G01C 9/00 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   B60W40/076
   F16H59/08
   F16H59/66
   F16H59/36
   F16H59/48
   G01C9/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-122250(P2016-122250)
(22)【出願日】2016年6月21日
(65)【公開番号】特開2017-226263(P2017-226263A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2019年5月29日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】矢作 修一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 佑輔
【審査官】 増子 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−127155(JP,A)
【文献】 特開2007−126057(JP,A)
【文献】 特開2013−189040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 − 10/30
B60W 30/00 − 60/00
F16H 59/00 − 61/12
F16H 61/16 − 61/24
F16H 61/66 − 61/70
F16H 63/40 − 63/50
G01C 1/00 − 1/14
G01C 5/00 − 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車速を取得する車速取得手段と、
その車両の前後方向の加速度を取得する加速度取得手段と、
前記速度取得手段により取得した車速が入力されて、前記車速が予め設定された閾値を超えた場合に前記車速を出力し、前記車速が前記閾値以下の場合に前記車速を出力しない出力手段と、
前記出力手段により出力された前記車速及び前記加速度取得手段により取得した加速度が入力されて、それらの車速及び加速度に基づいてその車両が走行している路面勾配を推定した推定値を出力する推定手段と、を備え、
前記出力手段は、前記車速が前記閾値を超えたときに前記車速を出力することで前記推定手段により推定された前記推定値を路面勾配として出力し、前記車速が前記閾値以下のときに前記車速を出力しないことで前記推定手段の推定を禁止して前記車両が発進する前に前記推定手段により推定された発進前推定値を路面勾配として出力する機能を有することを特徴とする路面勾配推定装置。
【請求項2】
前記閾値は前記車両が坂路を登坂する方向に発進しようとしているときに生じる降坂する方向へのずり落ちの速度よりも大きい値に設定される請求項に記載の路面勾配推定装置。
【請求項3】
前記出力手段に、前記発進前推定値と、前記車両に搭載された変速機を操作するシフトレバーのレバーポジションとが入力されて、
前記出力手段は、前記発進前推定値が正で、前記レバーポジションが駐車ポジション、後進ポジション、および、ニュートラルポジション以外のポジションの場合、または、前記発進推定値が負で、前記レバーポジションが後進ポジションの場合に、運転者の操作指令が坂路を登坂する方向に前記車両を発進させる指令と判定して、前記車速と前記閾値との比較を行い、それ以外の場合に前記推定手段により推定した前記推定値を路面勾配として出力する構成にした請求項1または2に記載の路面勾配推定装置。
【請求項4】
車両の車速及びその車両の前後方向の加速度を取得し、取得したそれらの車速及び加速度に基づいてその車両が走行している路面勾配の推定値を推定する路面勾配推定方法において、
取得した前記車速が予め設定した閾値を超えたか否かを判定し、
取得した前記車速が前記閾値を超えたと判定した場合に、前記閾値を超えたと判定したその車速と取得した前記加速度に基づいて推定した前記推定値を路面勾配とし、
取得した前記車速が前記閾値以下と判定した場合に、前記閾値以下と判定したその車速と取得した前記加速度に基づいた前記推定値の推定を禁止して、前記車両が発進する前に推定した発進前推定値を路面勾配とすることを特徴とする路面勾配推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路面勾配推定装置及び路面勾配推定方法に関し、より詳細には、路面勾配を高精度に推定する路面勾配推定装置及び路面勾配推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
勾配センサにより路面勾配を逐次、検出する装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置は、車両発進後から所定時間が経過するまでは、車両発進直前に勾配センサで検出しておいた路面勾配を保持することで、車両の発進時に生じる車両の揺れによる勾配センサの出力値への影響を回避して路面勾配の検出値の誤差を少なくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−127155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の装置においては、車両発進直前の誤差の少ない路面勾配の値を利用する期間は車両の発進時のみであり、車両が発進した直後は勾配センサにより検出した検出値を用いている。それ故、運転者の操作指令により車両が坂路を登坂する方向に発進しようとした直後に、その操作指令に反して車両が降坂する方向にずり落ちた場合に、発進直後の勾配センサからの検出値に大きな誤差が生じることになる。
【0005】
本発明は、上記のことを鑑みてなされたものであり、その目的は、車両の発進時の推定誤差を低減して、路面勾配を高精度に推定する路面勾配推定装置及び路面勾配推定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
記の目的を達成する本発明の路面勾配推定装置は、車両の車速を取得する車速取得手段と、その車両の前後方向の加速度を取得する加速度取得手段と、前記速度取得手段により取得した車速が入力されて、前記車速が予め設定された閾値を超えた場合に前記車速を出力し、前記車速が前記閾値以下の場合に前記車速を出力しない出力手段と、前記出力手段により出力された前記車速及び前記加速度取得手段により取得した加速度が入力されて、それらの車速及び加速度に基づいてその車両が走行している路面勾配を推定した推定値を出力する推定手段と、を備え、前記出力手段は、前記車速が前記閾値を超えたときに前記車速を出力することで前記推定手段により出力された前記推定値を路面勾配として出力し、前記車速が前記閾値以下のときに前記車速を出力しないことで前記推定手段の推定を禁止して前記車両が発進する前に前記推定手段により推定された発進前推定値を路面勾配として出力する機能を有することを特徴とするものである。
【0007】
上記の目的を達成するための本発明の路面勾配推定方法は、車両の車速及びその車両の前後方向の加速度を取得し、取得したそれらの車速及び加速度に基づいてその車両が走行している路面勾配の推定値を推定する路面勾配推定方法において、取得した前記車速が予め設定した閾値を超えたか否かを判定し、取得した前記車速が前記閾値を超えたと判定した場合に、前記閾値を超えたと判定したその車速と取得した前記加速度に基づいて推定した前記推定値を路面勾配とし、取得した前記車速が前記閾値以下と判定した場合に、前記閾値以下と判定したその車速と取得した前記加速度に基づいた前記推定値の推定を禁止して、前記車両が発進する前に推定した発進前推定値を路面勾配とすることを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、車両が発進して、発進時の操作指令に応じた方向に進むまでの間は、車両が発進する前に推定した発進前推定値を路面勾配として出力するので、路面勾配の推定値の誤差が少なくなるまでは、発進前推定値により路面勾配として一定値を保持できる
。これにより、車両の発進時の振動やずり落ちの影響を回避して、車両の発進時の推定誤差の低減には有利になり、路面勾配を高精度に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の路面勾配推定装置の第一実施形態を例示する説明図である。
図2図1の制御装置を例示するブロック図である。
図3図2の路面勾配演算部を例示するブロック図である。
図4】本発明の路面勾配推定方法の第一実施形態を例示するフロー図である。
図5】本発明の路面勾配推定装置の第二実施形態の路面勾配演算部を例示するブロック図である。
図6】本発明の路面勾配推定方法の第二実施形態を例示するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の路面勾配推定装置及び路面勾配推定方法の実施形態について説明する。以下では、登坂路の路面勾配を正とし、降坂路の路面勾配を負とする。
【0011】
図1図3に例示する第一実施形態の路面勾配推定装置30は、車両10に搭載されて、その車両10が走行している路面勾配を推定する装置である。
【0012】
図1に例示するように、路面勾配推定装置30が搭載される車両10は、シャーシ11の前方側に運転室(キャブ)12が配置され、シャーシ11の後方側にボディ13が配置されている。
【0013】
シャーシ11には、エンジン14、クラッチ15、変速機16、プロペラシャフト17、ディファレンシャルギア18が設置されている。エンジン14の回転動力は、クラッチ15を介して変速機16に伝達される。変速機16で変速された回転動力は、プロペラシャフト17を通じてディファレンシャルギア18に伝達され、後輪である一対の駆動輪19にそれぞれ駆動力として分配される。
【0014】
制御装置20は、エンジン14、クラッチ15、変速機16、及び各種センサに一点鎖線で示す信号線を介して電気的に接続されている。各種センサとして、運転室12には、アクセルペダル21の踏み込み量からアクセル開度を検出するアクセル開度センサ22、シフトレバー23のポジションを検出するポジションセンサ24が設置されている。シャーシ11には、エンジン14の図示しないクランクシャフトの回転数を検出するエンジン回転数センサ25、車速センサ26、及び、加速度センサ27が設置されている。
【0015】
制御装置20は、各種情報処理を行うCPU、その各種情報処理を行うために用いられるプログラムや情報処理結果を読み書き可能な内部記憶装置、及び各種インターフェースなどから構成されるハードウェアである。
【0016】
図2に例示するように、制御装置20は、エンジン14、クラッチ15、及び変速機16を制御する制御部28と、車両10の車重を演算する車重演算部29と、車両10が走行している路面勾配を演算する路面勾配演算部31とを各機能要素として有している。この実施形態で、各機能要素は、プログラムとして内部記憶装置に記憶されているが、各機能要素が個別のハードウェアで構成されてもよい。
【0017】
本発明の路面勾配推定装置30は、路面勾配演算部31、ポジションセンサ24、車速センサ26、及び加速度センサ27から構成されており、それらのセンサの検出値が入力され、各検出値に基づいて演算した結果を路面勾配の出力値θxとして出力する。路面勾配演算部31は、それらのセンサを利用して、車速取得手段、加速度取得手段、推定手段
、及び出力手段として機能する。
【0018】
ポジションセンサ24は、出力手段の一部として機能する装置であり、車両10の運転者によって操作されるシフトレバー23の位置を電気的に検出することによって運転者が要求するシフトポジションを検出する。シフトポジションとしては、駐車ポジション(Pポジション)、後進ポジション(Rポジション)、ニュートラルポジション(Nポジション)、前進ポジション(Dレンジ)などが例示できる。ポジションセンサ24としては、変速機がAMTで構成されている場合に、制御部28で制御された変速機16の変速段をシフトポジションとして読み取る機能を有したものを用いてもよい。
【0019】
車速センサ26は、車速取得手段として機能する装置であり、この実施形態では、プロペラシャフト17の回転速度に比例したパルス信号を読み取り、制御装置20の車速演算処理により車速vxとして取得するセンサである。車速センサ26が回転速度に比例したパルス信号に基づいて車速vxを取得することから、取得された車速vxは、負ではなくゼロ以上の値になる。車速センサ26としては、変速機16の図示しないアウトプットシャフト、駆動輪19、従動輪などの回転速度から車速vxを取得するセンサを用いてもよい。なお、駆動輪19、従動輪などの回転速度から車速vxを取得するセンサを用いる場合には、左右一対の車輪のそれぞれの回転速度を取得して、その平均値を車速vxとするとよい。車輪の回転速度から車速vxを取得する車速センサ26は、発進時や加速時のプロペラシャフト17の回転速度変動に影響されないため、プロペラシャフト17の回転速度変動が大きい場合に用いるとよい。
【0020】
加速度センサ27は、加速度取得手段として機能する装置であり、この実施形態では、車両10の前後方向での速度変化に伴う加速度成分と車両10の姿勢変化に伴う重力加速度成分とによって動作して、それらを合成した路面に平行な加速度成分、すなわち車両10の前後方向の加速度Gxを取得するセンサである。加速度センサ27としては、機械的変位測定方式、光学的方式、半導体方式などが例示できる。
【0021】
図3に例示するように、この実施形態で、路面勾配演算部31は、各機能要素として、推定部32、及び出力部33を有している。路面勾配演算部31の各機能要素は、プログラムとして内部記憶装置に記憶されているが、各機能要素が個別のハードウェアで構成されてもよい。
【0022】
推定部32は、推定手段として機能しており、車速センサ26により取得した車速vx及び加速度センサ27により取得した加速度Gxが入力され、車両10が走行している路面勾配の推定値θxを出力する機能要素である。推定部32は、微分ブロック32a、加算ブロック32b、除算ブロック32c、及び逆正弦関数ブロック32dを有している。道路勾配が小さいと考えられる場合、sinθ≒θとなることから、逆正弦関数ブロック32dは用いなくてもよい。
【0023】
出力部33は、出力手段として機能しており、推定部32から出力された推定値θxが入力されて、サンプリング周期ごとに路面勾配として推定値θx又はこの推定値θxを推定する前に推定された値である発進前推定値θ(x−1)を制御部28や車重演算部29に出力する機能要素である。
【0024】
出力部33は、車両10が発進時の運転者の操作指令に応じた方向に進むまでの間は、発進前推定値θ(x−1)を出力する機能要素である。具体的に、出力部33は、所定の条件が成立した場合は、車速センサ26が取得した車速vxが入力されて、車両10が発進してその車速vxがゼロから予め設定した閾値vaになるまでの間は、発進前推定値θ(x−1)を出力する。一方で、出力部33は、条件が不成立の場合は、推定値θxを出
力する。
【0025】
閾値vaは、車両10が運転者のアクセルペダル21やシフトレバー23などによる操作指令に応じた方向に発進していることを特定できる値に設定されている。例えば、閾値vaとしては、車両10が登坂路で発進する場合に、シフトレバー23が前進ポジションに操作されて、車両10が登坂路を登坂する方向に確実に前進していることを特定できる値が例示できる。また、閾値vaとしては、車両10が降坂路で発進する場合に、シフトレバー23が後進ポジションに操作されて、車両10が降坂路を登坂する方向に確実に後進していることを特定できる値が例示できる。
【0026】
この実施形態で、出力部33は、推定値θx、発進前推定値θ(x−1)、車速vx、及びレバーポジションPxが入力されており、スイッチブロック33a、イフブロック33b、及びディレイブロック33cを有している。
【0027】
スイッチブロック33aは、推定値θx、発進前推定値θ(x−1)、及び二値信号が入力されて、二値信号が「0」の時は、推定値θxを出力する一方で、二値信号が「1」の時は、発進前推定値θ(x−1)を出力する。
【0028】
イフブロック33bは、発進前推定値θ(x−1)とレバーポジションPxとが入力されて、条件に基づいて、スイッチブロック33aに二値信号である「0」と「1」とのどちらか一方を出力する。イフブロック32bは、条件として車両10が坂路を登坂する方向に発進するか否かを判定している。
【0029】
次に、本発明の路面勾配推定方法について、図4のフロー図を参照しながら、路面勾配演算部31の各機能として説明する。以下の路面勾配推定方法は、車両10の制御装置20が通電すると開始されて、一定周期(サンプリング時間)ごとに繰り返し行われてリアルタイムに路面勾配を推定する。そして、制御装置20が停電すると終了する。
【0030】
スタートすると、車速センサ26は車速vxを、加速度センサ27は加速度Gxをそれぞれ取得する(S110)。次いで、路面勾配演算部31は、推定部32の機能により、車両10が走行している路面勾配の推定値θxを推定する(S120)。具体的に、推定部32では、微分ブロック32aにより入力された車速vxを時間微分した微分値vx’を出力する。次いで、加算ブロック32bにより加速度Gxから微分値vx’を減算した値を車両10の前後方向に掛かる重力加速度成分(Gx−vx’)として出力する。次いで、除算ブロック32cにより車両10の前後方向に掛かる重力加速度成分(Gx−vx’)を重力加速度gで除算した値を出力する。次いで、逆正弦関数ブロック32dにより、入力された値に逆正弦関数(sin−1)を用いて推定値θxを推定する。道路勾配が小さい場合は、sinθ≒θとなることから、逆正弦関数を用いなくてもよい。
【0031】
次いで、路面勾配演算部31は、出力部33の機能により、条件が成立したか否かを判定する(S130)。このステップで、路面勾配演算部31は、運転者の操作指令が坂路を登坂する方向に車両10を発進させる指令の場合に条件が成立したと判定し、それ以外の場合に不成立と判定する。具体的に、出力部33では、イフブロック33bにより、発進前推定値θ(x−1)が正で、レバーポジションPxが駐車ポジション、後進ポジション、及びニュートラルポジション以外のポジションの場合に、運転者の操作指令が登坂路を登坂する方向に車両10を発進させる指令と判定する。また、発進前推定値θ(x−1)が負で、レバーポジションPxが後進ポジションの場合に、運転者の操作指令が降坂路を登坂する方向に車両10を発進させる指令と判定する。そして、条件が成立したと判定した場合は、アクションブロックであるチェックブロック33dによる判定に進む。一方、条件が不成立と判定した場合に、アクションブロックである入力ブロック33eにより、スイッチブロック33aに二値信号として「0」を出力する。
【0032】
次いで、路面勾配演算部31は、出力部33の機能により、車速vxが閾値va以下か否かを判定する(S140)。具体的に、出力部33では、チェックブロック33dにより、車速vxが閾値va以下と判定すると、スイッチブロック33aに二値信号として「1」を出力する。一方、車速vxが閾値vaを超えたと判定すると、スイッチブロック33aに二値信号として「0」を出力する。
【0033】
次いで、条件が成立し、且つ車速vxが閾値va以下と判定した場合に、二値信号として「1」が入力されて、スイッチブロック33aが切り替わると、路面勾配演算部31は、出力部33の機能により、発進前推定値θ(x−1)を出力する(S150)。一方、条件が不成立、又は車速vxが閾値vaを超えたと判定した場合に、二値信号として「0」が入力されて、スイッチブロック33aが切り替わると、路面勾配演算部31は、出力部33の機能により、推定値θxを出力する(S160)。そして、スタートへリターンする。
【0034】
以上の路面勾配推定方法を車両10が坂路で停車してから発進する場合に行うと、車両10が発進時の運転者の操作指令に応じた方向に進むまでの間は、路面勾配を出力値θxに保持する。つまり、路面勾配を、車両10が発進する前に推定された発進前推定値θ(x−1)に保持することになる。
【0035】
このように、車両10が発進して、発進時に運転者の操作指令に応じた方向に進むまでの間は、車両10が発進する前に推定した発進前推定値θ(x−1)を出力するので、路面勾配の推定値θxの誤差が少なくなるまでは、発進前推定値θ(x−1)により路面勾配として一定値を保持できる。これにより、車両10の発進時の振動による影響や坂路でのずり落ちの影響を排除して、車両10の発進時の路面勾配の推定誤差の低減には有利になり、路面勾配を高精度に推定することができる。
【0036】
一方、車両10が発進時に運転者の操作指令に応じた方向に進んだ後は、サンプリング周期ごとに推定部32が推定した推定値θxを逐次、出力するので、車両10の発進後における路面勾配の推定誤差の低減には有利になる。
【0037】
また、発進時に運転者の操作指令に応じた方向に進むまでの間は、発進前推定値θ(x−1)を保持するので、路面勾配を推定する際にノイズを除去するローパスフィルタを用いる従来技術に比して、フィルタ処理により出力遅延が無く、路面勾配の推定の応答性を確保することができる。これにより、リアルタイムでの路面勾配の推定には有利になり、車両10の発進時の路面勾配の推定精度を向上できる。
【0038】
この実施形態では、出力部33が車速vxと閾値vaとを比較するので、車両が発進してその車速vxがゼロから閾値vaになるまでの間は、つまり、車両10が運転者の操作指令に応じた方向に発進したことが確実になるまで、発進前推定値θ(x−1)を保持することができる。
【0039】
車速センサ26では上述したとおり回転速度のパルスで車速vxを取得するので、方向までは取得することができない。例えば、車両10が登坂路で発進したときに、その登坂路を降坂する方向にずり落ちても、車速センサ26は、そのずり落ちた車速を検出してしまう。そこで、車速vxと閾値vaとを比較して、車速センサ26では取得できない車両10の発進方向を判定する。これにより、車両10が運転者の操作指令に応じた方向に反して動いたときは、そのときに発進する前の推定された発進前推定値θ(x−1)を利用することで、路面勾配の推定誤差を低減できる。
【0040】
したがって、閾値vaは、坂路を登坂する方向に発進しようとしているときに生じる降坂する方向へのずり落ちの速度よりも大きくすることが好ましい。車両10のずり落ち速度は、車両10の車重に比例することから、車重が重くなるほど閾値vaを大きくするとよい。
【0041】
このように、この実施形態では、車速vxと閾値vaとを比較したが、出力部33としては、車両10が発進時の運転者の操作指令に応じた方向に進んだか否かを判定できればよい。例えば、車両10の進んだ距離を取得する装置を備えて、その距離に基づいて、車両10が発進時の運転者の操作指令に応じた方向に所定の距離を進んだか否かを判定してもよい。また、車両10が発進してからの時間を取得する装置を備えて、その時間に基づいて、車両10が発進時の運転者の操作指令に応じた方向に所定の時間以上進んだか否かを判定してもよい。
【0042】
この実施形態では、出力部33により発進前推定値θ(x−1)の正負とレバーポジションPxに基づいて、発進時の運転者の操作指令を判定するので、坂路における車両10のずり落ちの路面勾配の出力値θxへの影響を確実に排除することができる。これにより、路面勾配の推定精度を向上できる。
【0043】
このように、この実施形態では、発進前推定値θ(x−1)の正負とレバーポジションPxに基づいて判定したが、出力部33としては、発進時の運転者の操作指令が坂路を登坂する方向に前記車両を発進させる指令か否かを判定できればよい。例えば、車両10の坂路におけるずり落ちを回避する坂道発進補助装置を利用して、その装置が作動したか否かで判定してもよい。
【0044】
図5及び図6に例示するように、第二実施形態の路面勾配推定装置30の路面勾配演算部31は、第一実施形態と出力部33の機能が異なっている。
【0045】
第二実施形態の出力部33は、イフブロック33fを有しており、発進前推定値θ(x−1)と車速vxとが入力されて、推定部32に車速vxを出力する、あるいは出力部33に発進前推定値θ(x−1)を出力する機能要素である。イフブロック33fは、車速vxと予め設定した閾値vaとを比較しており、車速vxが閾値vaを超えた時は、その車速vxを推定部32に出力する一方で、車速vxがゼロから閾値になるまでの間は、発進前推定値θ(x−1)を出力する。つまり、この実施形態で、出力部33は、車両が発進して車速センサ26により取得した車速vxがゼロから閾値vaになるまでの間は、推定部32による推定値θxの推定を禁止する機能要素である。
【0046】
この実施形態では、車両10が運転者の操作指令に応じた方向に発進したことが確実になるまで、路面勾配の推定を禁止するので、発進前推定値θ(x−1)により路面勾配として一定値を保持できる。これにより、車両10の発進時の振動による影響や坂路におけるずり落ちの影響を排除して、車両10の発進時の推定誤差の低減には有利になる。また、車両10が運転者の操作指令に応じた方向に発進したことが確実になるまで、路面勾配の推定を禁止するので、路面勾配の推定の応答性をより確保することができる。
【0047】
この実施形態では、路面勾配演算部31が、イフブロック33bを有していないが、第一実施形態のように、イフブロック33bを有してもよい。この場合は、条件が成立し、且つ車速vxが閾値va以下と判定した場合に、推定部32での路面勾配の推定を禁止する一方で、条件が不成立、又は車速vxが閾値vaを超えたと判定した場合に、推定部32での推定を許可する。
【0048】
既述した実施形態では、車両10がトラックなどの大型車両を例に説明したが、本発明の路面勾配推定装置30は、バス、普通車両、牽引車(トラクタ)にも適用でき、車両10の種類には限定されない。
【0049】
既述した実施形態では、路面勾配推定装置30が、路面勾配演算部31、車速センサ26、及び加速度センサ27から構成された例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、路面勾配推定装置30が車速取得手段、加速度取得手段、推定手段、及び出力手段として機能する一つのセンサと、保持手段として機能するハードウェアとから構成されていてもよい。
【0050】
既述した実施形態では、路面勾配推定装置30が、フィルタ処理によりノイズを除去するフィルタ部を有していない構成を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、入力されたその値に対して可変自在の時定数を有するローパスフィルタでフィルタ処理を施して出力するフィルタ部を有してもよい。フィルタ部は、車速センサ26と推定部32との間、加速度センサ27と推定部32との間、推定部32の微分ブロック32aと加算ブロック32bとの間、推定部32と出力部33との間のいずれかに配置するとよい。また、フィルタ部のローパスフィルタの時定数を、車両10の姿勢変化の要因に関する数値に基づいて、可変するとよい。
【符号の説明】
【0051】
10 車両
26 車速センサ
27 加速度センサ
30 路面勾配推定装置
31 路面勾配演算部
32 推定部
33 出力部
θx 推定値
θ(x−1) 発進前推定値
vx 車速
Gx 加速度
図1
図2
図3
図4
図5
図6