(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1部材は、前記弾性体の表面に配置され、前記鍵がレスト位置のときの初期位置から前記第2部材が移動するときに、当該第2部材によって乗り越えられる段差部を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の鍵盤装置。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態における鍵盤装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下に示す実施形態は本発明の実施形態の一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。なお、本実施形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号(数字の後にA、B等を付しただけの符号)を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、図面の寸法比率(各構成間の比率、縦横高さ方向の比率等)は説明の都合上実際の比率とは異なったり、構成の一部が図面から省略されたりする場合がある。
【0024】
<第1実施形態>
[鍵盤装置の構成]
図1は、第1実施形態における鍵盤装置の構成を示す図である。鍵盤装置1は、この例では、電子ピアノなどユーザ(演奏者)の押鍵に応じて発音する電子鍵盤楽器である。なお、鍵盤装置1は、外部の音源装置を制御するための制御データ(例えば、MIDI)を、押鍵に応じて出力する鍵盤型のコントローラであってもよい。この場合には、鍵盤装置1は、音源装置を備えていなくてもよい。
【0025】
鍵盤装置1は、鍵盤アセンブリ10を備える。鍵盤アセンブリ10は、白鍵100wおよび黒鍵100bを含む。複数の白鍵100wと黒鍵100bとが並んで配列されている。鍵100の数は、N個であり、この例では88個である。この配列された方向をスケール方向という。白鍵100wおよび黒鍵100bを特に区別せずに説明できる場合には、鍵100という場合がある。以下の説明においても、符号の最後に「w」を付した場合には、白鍵に対応する構成であることを意味している。また、符号の最後に「b」を付した場合には、黒鍵に対応する構成であることを意味している。
【0026】
鍵盤アセンブリ10の一部は、筐体90の内部に存在している。鍵盤装置1を上方から見た場合において、鍵盤アセンブリ10のうち筐体90に覆われている部分を非外観部NVといい、筐体90から露出してユーザから視認できる部分を外観部PVという。すなわち、外観部PVは、鍵100の一部であって、ユーザによって演奏操作が可能な領域を示す。以下、鍵100のうち外観部PVによって露出されている部分を鍵本体部という場合がある。
【0027】
筐体90内部には、音源装置70およびスピーカ80が配置されている。音源装置70は、鍵100の押下に伴って音波形信号を生成する。スピーカ80は、音源装置70において生成された音波形信号を外部の空間に出力する。なお、鍵盤装置1は、音量をコントロールするためのスライダ、音色を切り替えるためのスイッチ、様々な情報を表示するディスプレイなどが備えられていてもよい。
【0028】
なお、本明細書における説明において、上、下、左、右、手前および奥などの方向は、演奏するときの演奏者から鍵盤装置1を見た場合の方向を示している。そのため、例えば、非外観部NVは、外観部PVよりも奥側に位置している、と表現することができる。また、鍵前端側(鍵前方側)、鍵後端側(鍵後方側)のように、鍵100を基準として方向を示す場合もある。この場合、鍵前端側は鍵100に対して演奏者から見た手前側を示す。鍵後端側は鍵100に対して演奏者から見た奥側を示す。この定義によれば、黒鍵100bのうち、黒鍵100bの鍵本体部の前端から後端までが、白鍵100wよりも上方に突出した部分である、と表現することができる。
【0029】
図2は、第1実施形態における音源装置の構成を示すブロック図である。音源装置70は、信号変換部710、音源部730および出力部750を備える。センサ300は、各鍵100に対応して設けられ、鍵の操作を検出し、検出した内容に応じた信号を出力する。この例では、センサ300は、3段階の押鍵量に応じて信号を出力する。この信号の間隔に応じて押鍵速度が検出可能である。
【0030】
信号変換部710は、センサ300(88の鍵100に対応したセンサ300−1、300−2、・・・、300−88)の出力信号を取得し、各鍵100における操作状態に応じた操作信号を生成して出力する。この例では、操作信号はMIDI形式の信号である。そのため、押鍵操作に応じて、信号変換部710はノートオンを出力する。このとき、88個の鍵100のいずれが操作されたかを示すキーナンバ、および押鍵速度に対応するベロシティについてもノートオンに対応付けて出力される。一方、離鍵操作に応じて、信号変換部710はキーナンバとノートオフとを対応付けて出力する。信号変換部710には、ペダル等の他の操作に応じた信号が入力され、操作信号に反映されてもよい。
【0031】
音源部730は、信号変換部710から出力された操作信号に基づいて、音波形信号を生成する。出力部750は、音源部730によって生成された音波形信号を出力する。この音波形信号は、例えば、スピーカ80または音波形信号出力端子などに出力される。
【0032】
[鍵盤アセンブリの構成]
図3は、第1実施形態における筐体内部の構成を側面から見た場合の説明図である。
図3に示すように、筐体90の内部において、鍵盤アセンブリ10およびスピーカ80が配置されている。すなわち、筐体90は、少なくとも、鍵盤アセンブリ10の一部(接続部180およびフレーム500)およびスピーカ80を覆っている。スピーカ80は、鍵盤アセンブリ10の奥側に配置されている。このスピーカ80は、押鍵に応じた音を筐体90の上方および下方に向けて出力するように配置されている。下方に出力される音は、筐体90の下面側から外部に進む。一方、上方に出力される音は筐体90の内部から鍵盤アセンブリ10の内部の空間を通過して、外観部PVにおける鍵100の隣接間の隙間または鍵100と筐体90との隙間から外部に進む。なお、鍵盤アセンブリ10の内部の空間、すなわち鍵100(鍵本体部)の下方側の空間に到達する、スピーカ80からの音の経路は、経路SRとして例示されている。
【0033】
鍵盤アセンブリ10の構成について、
図3を用いて説明する。鍵盤アセンブリ10は、上述した鍵100の他にも、接続部180、ハンマアセンブリ200およびフレーム500を含む。鍵盤アセンブリ10は、ほとんどの構成が射出成形などによって製造された樹脂製の構造体である。フレーム500は、筐体90に固定されている。接続部180は、フレーム500に対して回動可能に鍵100を接続する。接続部180は、板状可撓性部材181、鍵側支持部183および棒状可撓性部材185を備える。板状可撓性部材181は、鍵100の後端から延在している。鍵側支持部183は、板状可撓性部材181の後端から延在している。棒状可撓性部材185が、鍵側支持部183およびフレーム500のフレーム側支持部585によって支持されている。すなわち、鍵100とフレーム500との間に、棒状可撓性部材185が配置されている。棒状可撓性部材185が曲がることによって、鍵100がフレーム500に対して回動することができる。棒状可撓性部材185は、鍵側支持部183とフレーム側支持部585とに対して、着脱可能に構成されている。なお、棒状可撓性部材185は、鍵側支持部183とフレーム側支持部585と一体となって、または接着等により、着脱できない構成であってもよい。
【0034】
鍵100は、前端鍵ガイド151および側面鍵ガイド153を備える。前端鍵ガイド151は、フレーム500の前端フレームガイド511を覆った状態で摺動可能に接触している。前端鍵ガイド151は、その上部と下部のスケール方向の両側において、前端フレームガイド511と接触している。側面鍵ガイド153は、スケール方向の両側において側面フレームガイド513と摺動可能に接触している。この例では、側面鍵ガイド153は、鍵100の側面のうち非外観部NVに対応する領域に配置され、接続部180(板状可撓性部材181)よりも鍵前端側に存在するが、外観部PVに対応する領域に配置されてもよい。
【0035】
また、鍵100は、外観部PVの下方において鍵側負荷部120が接続されている。鍵側負荷部120は、鍵100が回動するときに、ハンマアセンブリ200を回動させるように、ハンマアセンブリ200に接続される。
【0036】
ハンマアセンブリ200は、鍵100の下方側の空間に配置され、フレーム500に対して回動可能に取り付けられている。ハンマアセンブリ200は、錘部230およびハンマ本体部250を備える。ハンマ本体部250には、フレーム500の回動軸520の軸受となる軸支持部220が配置されている。軸支持部220とフレーム500の回動軸520とは少なくとも3点で摺動可能に接触する。
【0037】
ハンマ側負荷部210は、ハンマ本体部250の前端部に接続されている。ハンマ側負荷部210は、鍵側負荷部120の内部において概ね前後方向に摺動可能に接触する部分(後述する移動部材211;
図4参照)を備える。この接触部分にはグリース等の潤滑剤が配置されていてもよい。ハンマ側負荷部210および鍵側負荷部120(以下の説明において、これらをまとめて「負荷発生部」という場合がある)とは、互いに摺動することで押鍵時の負荷の一部を発生する。負荷発生部は、この例では外観部PV(鍵本体部の後端よりも前方)における鍵100の下方に位置する。負荷発生部の詳細の構造については後述する。
【0038】
錘部230は、金属製の錘を含み、ハンマ本体部250の後端部(回動軸よりも奥側)に接続されている。通常時(押鍵していないとき)には、錘部230が下側ストッパ410に載置された状態になる。これによって、鍵100はレスト位置で安定する。押鍵されると、錘部230が上方に移動し、上側ストッパ430に衝突する。これによって鍵100の最大押鍵量となるエンド位置が規定される。この錘部230によっても、押鍵に対して負荷を与える。下側ストッパ410および上側ストッパ430は、緩衝材等(不織布、弾性体等)で形成されている。
【0039】
負荷発生部の下方において、フレーム500にセンサ300が取り付けられている。押鍵によりハンマ側負荷部210の下面側でセンサ300が押しつぶされると、センサ300は検出信号を出力する。センサ300は、上述したように、各鍵100に対応して設けられている。
【0040】
[負荷発生部の概要]
図4は、第1実施形態における負荷発生部(鍵側負荷部およびハンマ側負荷部)の説明図である。ハンマ側負荷部210は、移動部材211(第2部材)、リブ部213およびセンサ駆動部215(板状部材)を備える。これらの各構成はいずれも、ハンマ本体部250とも接続されている。移動部材211は、この例では略円柱形状であり、その軸がスケール方向に延びている。リブ部213は、移動部材211の下方に接続されたリブであって、この例では、その表面の法線方向がスケール方向に沿っている。センサ駆動部215は、リブ部213の下方に接続され、スケール方向に対して垂直な方向の法線の表面を有する板状部材である。すなわち、センサ駆動部215とリブ部213とは垂直の関係にある。ここで、リブ部213は、押鍵によって移動する方向を面内に含む。そのため、押鍵時の移動方向に対して、移動部材211およびセンサ駆動部215の強度を補強する効果を有する。ここでは、移動部材211に対しては、リブ部213およびセンサ駆動部215が補強材として機能する。センサ駆動部215に対しては、移動部材211およびリブ部213が補強材として機能する。これによって、単にリブを設けるよりも、互いに補強し合って全体として強固にすることもできる。
【0041】
鍵側負荷部120は、摺動面形成部121を含む。この例では、摺動面形成部121は、内部に移動部材211が移動可能な空間SPを形成する。空間SPの上方において摺動面FSが形成され、空間SPの下方においてガイド面GSが形成される。少なくとも摺動面FSが形成される領域は、ゴム等の弾性体で形成されている。すなわち、この弾性体が露出されている。この例では、摺動面形成部121の全体が弾性体で形成されている。この弾性体は粘弾性を有すること、すなわち粘弾性体であることが望ましい。摺動面形成部121は、弾性体であるため、より変形しにくい材料、例えば剛性の高い樹脂などの剛性体に囲まれている。これによって摺動面形成部121の外面の形状が維持されるように支持されている。この外面は、摺動面形成部121における摺動面FSの反対側の面を含む。なお、摺動面FSから外面側の剛性体に至るまでの間は、徐々に剛性が高くなるように変化してもよい。また、この間においては、摺動面FSよりも弾性変形がしやすい部材(剛性の低い部材)が含まれないことが望ましい。
【0042】
図4においては、鍵100がレスト位置にある場合の移動部材211の位置を示している。押鍵されると、移動部材211は、摺動面FSと接触しつつ、空間SPを矢印D1の方向(以下、進行方向D1という場合がある)に移動する。すなわち、移動部材211は摺動面FSと摺動する。移動部材211が摺動面FSに接触しながら移動することから、摺動面FSは間欠摺動側、移動部材211は連続摺動側という場合がある。移動部材211もわずかに回転して接触面が移動することから、厳密には連続摺動ではないが、ほぼ連続摺動であるといえる。いずれにしても、押鍵に伴って摺動面FSと移動部材211とが摺動する範囲において、摺動面FSのうち移動部材211によって接触可能な全範囲は、移動部材211のうち摺動面FSによって接触可能な全範囲よりも大きな面積となる。
【0043】
このとき、負荷発生部全体としては、押鍵に伴い下方に移動し、センサ駆動部215がセンサ300を押しつぶす。この例では、摺動面FSのうち、鍵100がレスト位置からエンド位置に回動することによって移動部材211が移動する範囲に、段差部1231が配置されている。すなわち、段差部1231は、初期位置(鍵100がレスト位置にあるときの移動部材211の位置)から移動する移動部材211によって乗り越えられる。また、ガイド面GSのうち段差部1231に対向する部分には、凹部1233が形成されている。凹部1233の存在により、移動部材211が段差部1231を乗り越えて移動しやすくなる。続いて、摺動面形成部121の構成について詳述する。
【0044】
[摺動面形成部の構成]
図5は、第1実施形態における摺動面形成部の構造を説明する図である。
図5(A)は、上述した
図4において説明した摺動面形成部121をより詳細に説明する図であって、その内部の構造を破線で示している。
図5(B)は、摺動面形成部121を後方(鍵後端側)から見た場合の図である。
図5(C)は、摺動面形成部121を上面側から見た場合の図である。
図5(D)は、摺動面形成部121を下面側からみた見た場合の図である。
図5(E)は、摺動面形成部121を前方(鍵前端側)から見た場合の図である。なお、移動部材211およびリブ部213が存在する領域を二点鎖線で示している。
【0045】
摺動面形成部121は、上部材1211(第1部材)、下部材1213(第3部材)および側部材1215を備える。上部材1211と下部材1213とは側部材1215を介して接続されている。上述した空間SPは、上部材1211、下部材1213および側部材1215によって囲まれている空間を示している。上部材1211の空間SP側の面は摺動面FSである。摺動面FSには、上述したように段差部1231が配置されている。下部材1213の空間SP側の面はガイド面GSである。ガイド面GSには、上述したように凹部1233が配置されている。ガイド面GSは、移動部材211が上部材1211(摺動面FS)から所定距離以上に離れないように、移動部材211をガイドする。
【0046】
下部材1213には、スリット125が配置されている。スリット125は、移動部材211とともに移動するリブ部213を通過させる。
図5においては省略しているが、
図4に示したように、リブ部213には、移動部材211とは反対側においてセンサ駆動部215が接続されている。したがって、下部材1213は、移動部材211とセンサ駆動部215との間に挟まれる位置関係となる。
【0047】
下部材1213のガイド面GSは、スリット125に近づくほど、摺動面FSに近づくように傾斜している。すなわち、下部材1213は、スリット125に沿って線状に突出する部分(以下、突出部Pという)を備えている。このような突出部Pによれば、移動部材211が摺動面FSに接触するときの面積より、ガイド面GSに接触するときの面積が小さくなる。この例では、移動部材211は、摺動面FSに接触しているときにはガイド面GSから離れ、ガイド面GSに接触しているときには摺動面FSから離れている。なお、移動部材211は、移動範囲の少なくとも一部において、摺動面FSとガイド面GSとの双方に接触して摺動するようになっていてもよい。また、この例では、スリット125の両側に突出部Pが設けられていたが、いずれか一方側に設けられていてもよい。
【0048】
押鍵のときには、摺動面FSから移動部材211に対して力が加えられる。移動部材211に伝達された力は、錘部230を上方に移動させるようにハンマアセンブリ200を回動させる。このとき、移動部材211は摺動面FSに押しつけられる。一方、離鍵のときには、錘部230が落下することによりハンマアセンブリ200が回動し、その結果、移動部材211から摺動面FSに対して力が加えられる。ここで、移動部材211は、摺動面FSを形成する弾性体と比べて弾性変形しにくい部材(例えば、剛性の高い樹脂等)で形成されている。そのため、摺動面FSは、移動部材211が押しつけられることで弾性変形する。この結果、移動部材211は、押しつけられる力に応じて移動に対する様々な抵抗力を受ける。この抵抗力について、
図6および
図7を用いて説明する。
【0049】
図6は、第1実施形態における弾性体の弾性変形(強打時)を説明する図である。
図7は、第1実施形態における弾性体の弾性変形(弱打時)を説明する図である。押鍵により、移動部材211が進行方向D1に移動する。このとき、移動部材211は、上部材1211の摺動面FSに押しつけられるため、弾性体で形成された上部材1211は、弾性変形によって摺動面FSが凹むように変形する。
【0050】
移動部材211の表面のうち進行方向D1側(以下、移動部材211の前方側という場合がある)の点C1においては、上部材1211との摩擦力Ff1のほか、上部材1211から押し返される反発力Fr1が進行方向D1に対する抵抗力となる。また、移動部材211の表面のうち、進行方向D1とは反対側(以下、移動部材211の後方側という場合がある)の点C2においては、押鍵が弱いとき(弱打時)では上部材1211と接触する(
図7)一方、押鍵が強いとき(強打時)では上部材1211と接触しない(
図6)。
【0051】
上部材1211は、移動部材211によって弾性変形し、移動部材211が通過した後は形状が復元することになる。強打時には、復元するよりも早く移動部材211が移動していく。そのため、移動部材211の後方側において、移動部材211と上部材1211とが接触しない領域が増加する。上部材1211の粘性の大きいほど、移動部材211の速さが同じでも接触しない領域が増加する。
【0052】
なお、弱打時と強打時との違い、すなわち押鍵力の強さの違いは弾性変形の大きさに影響を与える。一方、移動部材211と上部材1211とが接触しない領域の大きさについては弱打時と強打時との違いは、詳細には移動部材211の移動速度が直接的な要因となる。すなわち、押鍵の力が弱くてもすでに押鍵速度が速くなっている状態であれば、移動部材211と上部材1211とが接触しない領域が増加することになる。例えば、手を振り下ろしながら押鍵するときには、押鍵の最初に大きな力が加わるものの、すぐに力が少なくなって弾性変形の量は少なくなり、移動部材211が等速運動に近づく。一方、移動部材211の移動速度は速いままであるため、上部材1211の粘性の影響により移動部材211の後方側からの力を受けにくく、前方側からの反発力Fr1の影響を大きく受けて、押鍵に対する抵抗力が得られる。
【0053】
移動部材211の後方側において上部材1211と接触する場合には、移動部材211は、摩擦力Ff2のほか、反発力Fr2を受ける。摩擦力Ff2については、進行方向D1に対する抵抗力となる。一方、反発力Fr2は、進行方向D1に対しては推進力となる。また、弱打時であるほど、上部材1211の弾性変形の量が少ないため、反発力Fr1の大きさも少なく、全体としては移動部材211と上部材1211との接触面積も少なくなり摩擦力の大きさも低下する。このように、
図6の状況と
図7の状況とでは、摩擦力の違いだけでなく、反発力による影響も異なる。したがって、これらの構成によれば、押鍵の強さおよび速さによって、移動部材211が進行方向D1に対して受ける抵抗力を複雑に変化させることができる。移動部材211が受けた抵抗力は、押鍵に対して与える抵抗力ともなる。これによって、アコースティックピアノにおける押鍵の強さおよび速さに応じた、押鍵への抵抗力の変化を再現することができる。また、上部材1211において、加速度(押鍵力)の影響を大きく受ける弾性および速度(押鍵速度)の影響を大きく受ける粘性を調整した材質を用いることにより、押鍵への抵抗力を様々に設計することもできる。
【0054】
なお、押鍵の強さによっては、鍵100がエンド位置に達したときに、移動部材211が摺動面FSにバウンドしてガイド面GSに衝突する場合がある。このとき、ガイド面GSの突出部Pが移動部材211によって押しつぶされるように弾性変形してもよい。突出部Pの存在によって、移動部材211とガイド面GSとの接触面積は、移動部材211と摺動面FSとの接触面積よりも小さい。接触面積が小さいために摺動面FSよりもガイド面GSの方が、同じ力が加わっても弾性変形しやすく、移動部材211がガイド面GSに衝突したとしても、移動部材211が摺動面FSに衝突するときよりは、衝突音の発生が抑えられる。
【0055】
[鍵盤アセンブリの動作]
図8は、第1実施形態における鍵(白鍵)を押下したときの鍵アセンブリの動作を説明する図である。
図8(A)は、鍵100がレスト位置(押鍵していない状態)にある場合の図である。
図8(B)は、鍵100がエンド位置(最後まで押鍵した状態)にある場合の図である。鍵100が押下されると、棒状可撓性部材185が回動中心となって曲がる。このとき、棒状可撓性部材185は、鍵の前方(手前方向)への曲げ変形が生じているが、側面鍵ガイド153による前後方向の移動の規制によって、鍵100は前方に移動するのではなくピッチ方向に回動するようになる。そして、鍵側負荷部120がハンマ側負荷部210を押し下げることで、ハンマアセンブリ200が回動軸520を中心に回動する。なお、
図8の説明において、鍵側負荷部120における摺動面形成部121の各構成については、
図4、5が参照される。
【0056】
このとき、錘部230が上方に移動するため、錘部230の重さが鍵100をレスト位置に戻す方向(上方)に移動させるように力を与える。また、負荷発生部(鍵側負荷部120およびハンマ側負荷部210)において、移動部材211は、摺動面FSと接触しつつ移動するときに上部材1211を弾性変形させることによって、押鍵の方法に応じた様々な抵抗力を受けることになる。この抵抗力と錘部230の重さは、押鍵に対する負荷として現れる。また、移動部材211が段差部1231を乗り越えることで、クリック感が鍵100に伝達される。
【0057】
錘部230が上側ストッパ430に衝突することによって、ハンマアセンブリ200の回動が止まり、鍵100がエンド位置に達する。また、センサ300がハンマ駆動部215によって押しつぶされると、センサ300は、押しつぶされた量(押鍵量)に応じた複数の段階で、検出信号を出力する。
【0058】
一方、離鍵すると、錘部230が下方に移動することによって、ハンマアセンブリ200が回動する。ハンマアセンブリ200の回動に伴い、負荷発生部を介して鍵100が上方に回動する。錘部230が下側ストッパ410に接触することで、ハンマアセンブリ200の回動が止まり、鍵100がレスト位置に戻る。このとき、移動部材211は、初期位置に戻る。
【0059】
<第2実施形態>
第2実施形態における摺動面形成部は、摺動面FSにおいて弾性変形のしやすさが異なる複数の領域を備える上部材1211Aを含む。この例では、第1実施形態における上部材1211に対して、一部の領域に他の領域よりも弾性変形しやすい領域(以下、弱弾性領域という)を備えた上部材1211Aについて説明する。
【0060】
図9は、第2実施形態における弱弾性領域を説明する図である。
図10は、第2実施形態における弱弾性領域を移動部材側から見た場合の図である。なお、
図9においては、初期位置における移動部材211を二点鎖線で示している。上部材1211Aは、段差部1231よりも初期位置側において、初期位置に対応する摺動面FSを構成する弾性体よりも弾性変形しやすい弱弾性領域1211sを備えている。
【0061】
図10に示すように、弱弾性領域1211sには、摺動面FSに溝部1211g1、1211g2、1211g3が形成されている。この溝部1211g1、1211g2、1211g3の存在によって、移動部材211と摺動面FSとの接触面積が少なくなる。少なくなった接触部分において、移動部材211からの力を受け止めることになり、その結果、弱弾性領域1211sは、同じ力が加えられても他の領域よりも弾性変形しやすくなっている。なお、弱弾性領域1211sは、他の領域よりも弾性変形しやすい材料で形成されていてもよい。この場合には、弱弾性領域1211sに溝部1211g1、1211g2、1211g3がなくてもよい。
【0062】
このように、段差部1231よりも初期位置側において弱弾性領域1211sを設けると、鍵100が強打されるほど、弱弾性領域1211sが大きく弾性変形する。その結果、移動部材211は、段差部1231に到達するときに、段差部1231の傾斜に沿った方向に移動する成分が多くなる。そのため、移動部材211と段差部1231とが衝突するときの衝撃が少なくなり、クリック感が減少する。アコースティックピアノにおいて鍵100を強打するとクリック感が少なくなるという減少を再現することができる。
【0063】
<第3実施形態>
第3実施形態における摺動面形成部は、第2実施形態の構成に追加して、さらに段差部1231の少なくとも一部において、弱弾性領域を備えていた上部材1211Bを含む。
【0064】
図11は、第3実施形態における弱弾性領域を説明する図である。
図11においては、初期位置における移動部材211を二点鎖線で示している。上部材1211Bは、第2実施形態における弱弾性領域1211sに加えて、さらに段差部1231において弱弾性領域1213sを備えている。弱弾性領域1213sは、段差部1231における頂点を含む。弱弾性領域1213sの実現方法は、弱弾性領域1211sと同様である。
【0065】
このように、段差部1231において、弱弾性領域1231sを設けると、鍵100が強打されるほど、弱弾性領域1231sが大きく弾性変形する。その結果、移動部材211が段差部1231を乗り越えるときに押しつぶされて、移動部材211と段差部1231とが衝突するときの衝撃が少なくなり、クリック感が減少する。アコースティックピアノにおいて鍵100を強打するとクリック感が少なくなるという減少を再現することができる。なお、第3実施形態において、弱弾性領域1211sが存在せず、弱弾性領域1213sのみを備える構成であってもよい。
【0066】
<第4実施形態>
第4実施形態における摺動面形成部は、段差部1231以外においても摺動面FSに湾曲した面を備えた上部材1211Cを含む。
【0067】
図12は、第4実施形態における摺動面の表面形状を説明する図である。
図12においては、初期位置における移動部材211を二点鎖線で示している。上部材1211Cは、摺動面FSにおいて湾曲面Rh1、Rh2を含む。湾曲面Rh1は、段差部1231よりも初期位置側に配置され、移動部材211の移動方向に対して湾曲した面である。一方、湾曲面Rh2は、段差部1231に対して初期位置とは反対側に配置され、移動部材211の移動方向に対して湾曲した面である。
【0068】
移動部材211が押鍵に伴って初期位置から移動するときには、湾曲面Rh1、Rh2の湾曲の程度に応じて、移動部材211の移動に対する抵抗力に変化が生じる。この例では、湾曲面Rh1、Rh2は、凹曲面を形成している。そのため、押鍵に伴う移動部材211の移動に対して、徐々に抵抗力が増加する。すなわち、演奏者は、鍵100を押下するほど、鍵100の移動に対する負荷が大きくなる(重くなる)ように感じる。このとき、湾曲面Rh1は、段差部1231によるクリック感を生じる前の押鍵範囲の負荷に対して影響を与える。一方、湾曲面Rh2は、段差部1231によるクリック感を生じた後の押鍵範囲の負荷に対して影響を与える。
【0069】
なお、湾曲面Rh1、Rh2の少なくとも一方が、凸曲面を形成してもよい。この場合には、押鍵に伴う移動部材211の移動に対して、徐々に抵抗力が減少する。すなわち、演奏者は、鍵100を押下するほど、鍵100の移動に対する負荷が小さくなる(軽くなる)ように感じる。また、所望の負荷の変化を実現するために、湾曲面は、凹曲面と凸曲面とを組み合わせて形成されてもよい。湾曲面Rh1、Rh2のいずれかが存在しなくてもよい。いずれにしても、再現すべきアコースティックピアノの特性に合わせた負荷変化を実現するために、湾曲面の形状を設定すればよい。
【0070】
<第5実施形態>
第5実施形態における摺動面形成部は、段差部1231の初期位置側の面が曲面で形成されている上部材1211Dを含む。
【0071】
図13は、第5実施形態における段差部の形状を説明する図である。
図13においては、初期位置における移動部材211を二点鎖線で示している。法線がスケール方向を向く面で切った移動部材211の断面形状には、少なくとも摺動面FSと接触する領域に、円弧となる凸曲面を含む。この円弧は曲率半径R1を有する。この例では、移動部材211の断面形状は、半径R1の円形状である。
【0072】
段差部1231の立ち上がり部分Rc(初期位置側)の面は、法線がスケール方向を向く面で切った断面形状に、円弧となる凹曲面を含む。この円弧は、曲率半径R2を備える。
図13では、半径R2の円を破線で示している。なお、立ち上がり部分Rcの面が全て同一の曲率半径R2を有する円弧を含んでいる場合に限らず、複数の曲率半径を含んでいてもよい。この場合には、以下の説明において曲率半径R2は、最も小さい曲率半径を示す。
【0073】
押鍵が強い場合(強打)、移動部材211による摺動面FSの弾性変形が大きくなるため、段差部1231の弾性変形も大きくなる。その結果、移動部材211が乗り越える段差が小さくなり、クリック感が少なくなる。一方、押鍵が弱い場合(弱打)、移動部材211が段差部1231を乗り越えるときには、立ち上がり部分Rcの形状によって、クリック感への影響が異なる。すなわち、曲率半径R1と曲率半径R2との相対関係が、特に弱打時のクリック感に影響を及ぼす。
【0074】
図14は、第5実施形態における立ち上がり部分の曲率半径に応じたクリック感の違いを説明する図である。まず、曲率半径R1が曲率半径R2より大きい場合(R1>R2)、弱打時には移動部材211は、立ち上がり部分Rcに接触した直後の状態では、曲率半径の関係によって、立ち上がり部分Rcの途中の部分と移動部材211とが接触する。そのため、移動部材211は、急激に移動方向を変更することとなるため、段差部1231に対して衝突した状態となる。衝突によって生じる衝撃がクリック感に影響を与える。
【0075】
押鍵力が強くなってくると、移動部材211がより摺動面FSに押しつけられて、立ち上がり部分Rcの弾性変形が大きくなる。その結果、立ち上がり部分Rcの曲率半径R2が移動部材211の曲率半径R1に近い状態に変形することになる。この変形が大きくなり曲率半径R2と曲率半径R1とが同じ状態、すなわち、立ち上がり部分Rcが、移動部材211の形状に沿った形状になっている状態が、押鍵力がPW1の点である。押鍵力がPW1に至るまでは、クリック感の変化はほとんど無い。一方、押鍵力がさらに強くなると、段差部1231の弾性変形が大きくなり、移動部材211が容易に段差部1231を乗り越えられるようになる。その結果、押鍵力が強くなるほど、クリック感が少なくなる。
【0076】
曲率半径R1と曲率半径R2とが同じである場合(R1=R2)、押鍵力が小さく、摺動面FSの弾性変形が非常に小さくても、移動部材211と立ち上がり部分Rcとの関係においては、上述したPW1と同じ現象が生じている。したがって、R1=R2の場合には、R1>R2においてクリック感がほぼ一定となる範囲がない状態とほぼ同等である。すなわち、押鍵力が強くなるほど、段差部1231の弾性変形が大きくなり、移動部材211が段差部1231を容易に乗り越えられるようになる。その結果、押鍵力がさらに強くなるほど、クリック感が少なくなる。
【0077】
曲率半径R1が曲率半径R2より小さい場合(R1<R2)、弱打時においても、移動部材211は立ち上がり部分Rcに沿って移動可能であるため、急激な移動方向の変更を生じない。その結果、段差部1231の乗り越えによるクリック感も小さい。押鍵力が強くなるほど、段差部1231の弾性変形が大きくなり、移動部材211が段差部1231を容易に乗り越えられるようになる。その結果、押鍵力がさらに強くなるほど、クリック感が少なくなる。
【0078】
このように、曲率半径R1が曲率半径R2より大きい(R1>R2)であれば、押鍵力が弱い一定の範囲において略一定のクリック感を有し、その範囲を超えて押鍵力が強くなるとクリック感が少なくなる。一方、曲率半径R1が曲率半径R2以下(R1=R2、R1<R2)であれば、弱打の段階から略一定のクリック感を有することなく、押鍵力が強くなるほどクリック感が少なくなる。いずれを選択するかは、押鍵に対する抵抗力の設計に応じて決定すればよい。
【0079】
<第6実施形態>
第6実施形態は、鍵100と鍵側負荷部120とが間接的に接続されている構成である。
【0080】
図15は、第6実施形態における鍵盤アセンブリの鍵とハンマとの接続関係を模式的に説明する図である。
図15においては、鍵、錘および負荷発生部の関係を模式的に表している。
図15(A)は鍵100Eがレスト位置(押鍵前)にあるときの図である。
図15(B)は、鍵100Eがエンド位置(押鍵後)にあるときの図である。
【0081】
鍵100Eは、CF1を中心に回動する。CF1は、上述の実施形態によれば、例えば、棒状可撓性部材185に対応する。鍵側負荷部120Eと鍵100Eとは、構造体1201Eを介して接続されている。構造体1201Eは、CF3を中心に回動する。構造体1201Eの一端は、鍵100Eとリンク機構CK1を介して回転可能に接続されている。構造体1201Eの他端は、鍵側負荷部120Eと接続されている。ハンマ本体部250Eは、CF2を中心に回動する。CF2は、上述の実施形態によれば、回動軸520に対応する。錘部230Eは、CF2とハンマ側負荷部210Eとの間に配置されている。
【0082】
これによって、押鍵すると鍵側負荷部120Eがハンマ側負荷部210Eの内部で移動しながら、錘部230Eを上側ストッパ430Eに衝突するまで上昇させる。すなわち、
図15(A)に示す状態から
図15(B)に示す状態まで変化する。一方、離鍵すると錘部230Eは下降して下側ストッパ410Eに衝突するまで、鍵100Eを押し上げる。すなわち、
図15(B)に示す状態から
図15(A)に示す状態まで変化する。このように、鍵からハンマアセンブリまでの力の伝達経路に、負荷発生部が存在する構成であれば、鍵およびハンマアセンブリの少なくとも一方が負荷発生部に直接的に接続されていても、間接的に接続されていてもよく、様々な構成が取り得る。
【0083】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は以下のように、様々な態様で実施可能である。
【0084】
(1)上述した実施形態においては、移動部材211にはリブ部213を介してセンサ駆動部215が接続されていたが、リブ部213が存在しなくてもよい。この場合には、移動部材211およびセンサ駆動部215はハンマ本体部250に接続されていればよい。また、この場合には、下部材1213にスリット125が形成されていなくてもよい。
【0085】
(2)上述した実施形態においては、摺動面形成部121の全体が弾性体で形成されていたが、一部のみが弾性体で形成されていてもよい。この場合には、摺動面FSが形成されている領域全体において弾性体が配置されればよい。すなわち、鍵100の可動範囲内の全てにおいて、移動部材211が接触可能な摺動面FSの範囲が、少なくとも弾性体で形成されていればよい。
【0086】
(3)上述した実施形態においては、鍵100に摺動面FSを含む鍵側負荷部120が接続され、ハンマアセンブリ200に移動部材211を含むハンマ側負荷部210が接続されているが、この関係は逆であってもよい。逆の関係にすると具体的には、ハンマ側負荷部210において摺動面FSを形成し、鍵側負荷部120において移動部材211を備えることになる。すなわち、移動部材211および摺動面FSは、いずれか一方が鍵100に接続され、他方がハンマアセンブリ200に接続されていればよい。
【0087】
(4)下部材1213(ガイド面GS)は、一部の領域または全てが存在しなくてもよい。一部の領域を残す場合には、移動部材211がガイド面GSに衝突しやすい領域にガイド面GSを残すようにすればよい。例えば、鍵100をエンド位置まで押下した直後では、ハンマアセンブリ200が慣性力で回転を続け、移動部材211が摺動面FSから離れやすくなる。また、鍵100がレスト位置に戻った直後では、ハンマアセンブリ200が慣性力で回転を続けた結果、移動部材211が摺動面FSに衝突して跳ね返る場合がある。これらの状況において、ガイド面GSに移動部材211が接触しやすくなる。すなわち、ガイド面GSは、少なくとも移動部材211の移動範囲の両端部において配置されていることが望ましい。
【0088】
(5)上述した実施形態において、下部材1213には突出部Pが配置されていたが、突出部Pが配置されていなくてもよい。この場合には、ガイド面GSは摺動面FSと平行な面であってもよい。
【0089】
(6)摺動面FSにおいて、段差部1231が存在しなくてもよい。この場合にはクリック感を別の方法を用いて発生させることが望ましい。少なくとも負荷発生部においては、クリック感を発生させなくてもよい。クリック感を生じさせなくても、負荷発生部において摺動面FSの弾性変形を用いて押鍵に対する抵抗力を与えることは可能である。