(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809017
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】タイヤリムずれ防止剤およびタイヤ・ホイール組立体
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20201221BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20201221BHJP
B60C 15/02 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
C09K3/14 540G
B60C1/00 Z
B60C15/02 J
C09K3/14 540F
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-146075(P2016-146075)
(22)【出願日】2016年7月26日
(65)【公開番号】特開2018-16685(P2018-16685A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2019年7月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】北井 宏尚
(72)【発明者】
【氏名】三上 洋史
(72)【発明者】
【氏名】杉原 孝樹
【審査官】
岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−219706(JP,A)
【文献】
特開2010−006274(JP,A)
【文献】
特開2002−178723(JP,A)
【文献】
特開2011−011724(JP,A)
【文献】
特開2015−098035(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
B60C 1/00
B60C 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の条件(1)〜(3)を満たすことを特徴とするタイヤおよびリム間に介在させるためのタイヤリムずれ防止剤。
条件(1):前記タイヤリムずれ防止剤は、ロジン系樹脂を10質量%以上含む。
条件(2):前記タイヤリムずれ防止剤は、前記ロジン系樹脂の溶媒として、テレピン油およびひまし油を90質量%以下の割合で含む。
条件(3):前記テレピン油および前記ひまし油の比率(質量比)が、前者/後者として、70/30〜30/70の範囲にある。
【請求項2】
前記ロジン系樹脂が、マレイン酸で変性されていることを特徴とする請求項1に記載のタイヤリムずれ防止剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のタイヤリムずれ防止剤を、タイヤおよびリム間に介在させてなるタイヤ・ホイール組立体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤおよびリム間に介在させるためのタイヤリムずれ防止剤およびタイヤ・ホイール組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤとリムのずれを防止するために、リムに粘着物質を塗布することは周知である。例えば、特許文献1には、急ブレーキをかけた際や急発進時にタイヤとリム間で発生する滑りを防止することを目的として、タイヤのビード部が嵌るフランジ内側面からビードシート面にかけて粘着剤を塗布して粘着層を設ける技術が提案されている。
また特許文献2には、リム組み作業におけるリム組み性とリム組み後の耐リム滑り性、耐リム外れ性とを両立させることを目的として、空気入りタイヤの少なくとも一方のビード部とホイールのリム部との間を接着剤で接着したタイヤ・ホイール組立体が開示されている。
【0003】
一方、昨今のレース車両は、ハイスピード化により、タイヤおよびリム間のずれ(タイヤリムずれ)が生じやすく、改善が求められている。とくに、フォーミュラタイプのレース車両に用いられる高扁平率のタイヤでは、その性能を十分に発揮するためにはタイヤリムずれの防止が不可欠である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−219706号公報
【特許文献2】特開2002−178723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は、タイヤおよびリム間のずれ(タイヤリムずれ)の防止に極めて有効なタイヤリムずれ防止剤、並びに該タイヤリムずれ防止剤を用い、タイヤリムずれが防止されたタイヤ・ホイール組立体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ロジン系樹脂および特定の溶媒を特定の範囲で含むタイヤリムずれ防止剤が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は以下の通りである。
【0007】
1.以下の条件(1)および(2)を満たすことを特徴とするタイヤおよびリム間に介在させるためのタイヤリムずれ防止剤。条件(1):前記タイヤリムずれ防止剤は、ロジン系樹脂を10質量%以上含む。条件(2):前記タイヤリムずれ防止剤は、前記ロジン系樹脂の溶媒として、テレピン油およびひまし油を90質量%以下の割合で含む。
2.前記テレピン油および前記ひまし油の比率(質量比)が、前者/後者として、70/30〜30/70の範囲にあることを特徴とする前記1に記載のタイヤリムずれ防止剤。
3.前記ロジン系樹脂が、マレイン酸で変性されていることを特徴とする前記1または2に記載のタイヤリムずれ防止剤。
4.前記1〜3のいずれかに記載のタイヤリムずれ防止剤を、タイヤおよびリム間に介在させてなるタイヤ・ホイール組立体。
【発明の効果】
【0008】
本発明のタイヤリムずれ防止剤は、ロジン系樹脂を10質量%以上含み、かつ前記ロジン系樹脂の溶媒として、テレピン油およびひまし油を90質量%以下の割合で含むことを特徴としているので、タイヤリムずれの防止に極めて有効である。また作業性も良好である。
本発明のタイヤ・ホイール組立体は、前記タイヤリムずれ防止剤を、タイヤおよびリム間に介在させてなるものであるので、タイヤリムずれが顕著に抑制され、とくにフォーミュラタイプのレース車両に用いられる高扁平率のタイヤであっても、タイヤリムずれを防止することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0010】
(ロジン系樹脂)
本発明で使用されるロジン系樹脂としては、アビエチン酸、パラストリン酸、ネオアビエチン酸、ピマール酸、イソピマール酸、デヒドロアビエチン酸等の樹脂酸を主成分とするガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンなどが挙げられる。また、これらのロジンを不均化することによって得られる不均化ロジン、二量化又はそれ以上に重合させることで得られる重合ロジン及び水素添加することによって得られる水添ロジンも使用することができる。また本発明の効果が向上するという観点から、ロジン系樹脂は、ロジンを部分的にマレイン酸により変性した変性ロジンが好適である。変性ロジンにおいて、マレイン酸変性率は、例えば1〜10質量%が好ましい。
【0011】
本発明のタイヤリムずれ防止剤において、ロジン系樹脂は10質量%以上配合されることが必要である。ロジン系樹脂が10質量%未満であると、タイヤリムずれの防止効果が発現しにくい。本発明のタイヤリムずれ防止剤において、ロジン系樹脂の配合量は、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは15〜45質量%である。
【0012】
(溶媒)
また本発明のタイヤリムずれ防止剤においては、ロジン系樹脂の溶媒として、テレピン油およびひまし油を配合する。テレピン油は揮発剤として作用し、作業性を高めることができる。また、ひまし油はロジン系樹脂の分散剤として作用し、タイヤリムずれ防止効果をさらに高めることができる。
テレピン油およびひまし油は、タイヤリムずれ防止剤中、90質量%以下の割合で配合され、30〜70質量%の割合で配合されるのが好ましい。
また、本発明のタイヤリムずれ防止剤において、タイヤリムずれ防止効果および作業性を一層高めるという観点から、テレピン油およびひまし油の比率(質量比)は、前者/後者として、70/30〜30/70の範囲にあるのが好ましく、60/40〜40/60の範囲にあるのがさらに好ましい。
なお、本発明のタイヤリムずれ防止剤は必要に応じてその他の溶媒や公知の各種添加剤等を配合することもできる。
【0013】
(タイヤ・ホイール組立体)
本発明のタイヤ・ホイール組立体は、タイヤリムずれ防止剤を、タイヤおよびリム間に介在させてなるものである。
タイヤとしては、とくに制限されず、公知の各種タイヤであることができる。例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)等のジエン系ゴムに、加硫又は架橋剤;加硫又は架橋促進剤;酸化亜鉛、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウムのような各種充填剤;老化防止剤;可塑剤などの各種材料を配合し、加硫することによって製造したものであることができる。
ホイールとしては、とくに制限されず、公知の各種ホイールであることができる。例えば、鉄、ステンレス鋼、アルミニウムまたはその合金、マグネシウムまたはその合金、カーボン等の素材からなるものであることができ、そのサイズも用途に応じて適宜決定される。
【0014】
本発明のタイヤリムずれ防止剤を、タイヤおよびリム間に介在させる方法としては、とくに制限されず、一般的な方法を採用することができる。例えば、必要に応じて脱脂処理、ブラスト処理等を施したホイール表面に、スプレー塗布、刷毛塗り、浸漬処理、滴下処理等の方法によってタイヤリムずれ防止剤を塗布する方法が挙げられる。
その後、タイヤをホイールに組み込み、本発明のタイヤ・ホイール組立体が製造される。なお、リムに接触するタイヤの部材は、通常、リムクッションおよび/またはガムフィニッシングであり、上記のようにその組成は公知のものであることができる。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0016】
(タイヤリムずれ防止剤の調製)
下記表1に示す配合(質量部)において、各種材料を配合し、タイヤリムずれ防止剤を調製した。使用した材料の詳細は以下の通りである。
マレイン酸変性ロジン系樹脂:ハリマ化成社製商品名ハリタックAQ-90A
テレピン油:アトムハウスペイント社製商品名テレピン油
ひまし油:伊藤製油社製商品名精製ひまし油工-1
【0017】
(タイヤ・ホイール組立体の作成)
下記に示すリムクッション用ゴム組成物の組成において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練した後、混練物をミキサー外に放出させて室温冷却させた。その後、同バンバリーミキサーにおいて加硫促進剤および硫黄を加えてさらに混練し、リムクッション用ゴム組成物を得た。次に得られたリムクッション用ゴム組成物を所定の金型中で160℃、20分間プレス加硫し、加硫ゴム試験片を得た。
加硫ゴム試験片を、空気入りタイヤのリムクッションとして装着し、アルミニウム合金製のホイール(サイズ:250/620R13)に装着した。ただし、リムクッションと接触するホイールの箇所には、全周にわたり、前記タイヤリムずれ防止剤を適量塗布した。
【0018】
(リムクッション用ゴム組成物の組成)
天然ゴム:30質量部
スチレン−ブタジエン共重合体ゴム:70質量部
カーボンブラック:70質量部
オイル:10質量部
老化防止剤:5質量部
亜鉛華:3質量部
ステアリン酸:3質量部
加硫促進剤:2質量部
硫黄:3質量部
【0019】
前記のようにして得られたタイヤリムずれ防止剤およびタイヤ・ホイール組立体について、以下の評価を行った。
【0020】
(1)粘度
攪拌による官能評価によって粘度を測定し、以下の評価基準により評価した。
低い:抵抗が非常に小さい。
中:抵抗が中程度である。
高い:抵抗が大きい。
【0021】
(2)揮発性
塗布後2分間放置して、塗布前後の重量測定によって揮発性を測定し、以下の評価基準により評価した。
低い:80%以上が残る。
中:20〜80%が残る。
高い:20%以下しか残らない。
【0022】
(3)リムずれ防止性
実車走行時にマーキングによってリムずれ防止性を測定し、以下の評価基準により評価した。
◎:マーキングのズレ無し。
○:マーキングのズレが5mm以下である。
△:マーキングのズレが5〜10mmである。
×:マーキングのズレが10mm以上である。
【0023】
(4)作業性
塗布時の抵抗による官能評価によって作業性を測定し、以下の評価基準により評価した。
◎:抵抗無し。
○:やや抵抗有り。
△:抵抗有り。
×:抵抗が強く作業困難である。
【0024】
結果を併せて表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
表1の結果から、ロジン系樹脂を10質量%以上含み、かつロジン系樹脂の溶媒として、テレピン油およびひまし油を90質量%以下の割合で含む実施例1〜5のタイヤリムずれ防止剤は、作業性が良好であり、また、該タイヤリムずれ防止剤をタイヤおよびリム間に介在させてなるタイヤ・ホイール組立体は、リムずれ防止性が高いことが示された。これに対し、比較例1では、ひまし油を配合していないので、リムずれ防止性および作業性が共に不十分であった。
なお、実施例1および5は参考例である。