(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809040
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】タイヤ加硫装置およびそれを用いた空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/04 20060101AFI20201221BHJP
B29C 35/04 20060101ALI20201221BHJP
B29L 30/00 20060101ALN20201221BHJP
【FI】
B29C33/04
B29C35/04
B29L30:00
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-162902(P2016-162902)
(22)【出願日】2016年8月23日
(65)【公開番号】特開2018-30273(P2018-30273A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2019年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 元
【審査官】
正 知晃
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2016/113853(WO,A1)
【文献】
実開平05−013713(JP,U)
【文献】
特開平04−014413(JP,A)
【文献】
特開2016−043487(JP,A)
【文献】
特開2015−223777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00−33/76
B29C 35/00−35/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤの外表面を成形するモールドと、該空気入りタイヤの内側に挿入される筒状のブラダーと、該ブラダーの両端を把持する一対のクランプを備えて該ブラダーを操作する中心機構と、該ブラダー内に加熱用媒体および加圧用媒体を供給する媒体供給手段と、前記ブラダー内に供給された前記加熱用媒体および前記加圧用媒体を撹拌するための撹拌用媒体を前記ブラダー内に噴射する撹拌手段を備えたタイヤ加硫装置であって、
前記媒体供給手段が前記加熱用媒体および前記加圧用媒体を前記ブラダー内に供給するための供給口と該供給口まで前記加熱用媒体および前記加圧用媒体を導く供給路とを含み、前記撹拌手段が前記撹拌用媒体を前記ブラダー内に噴射するための噴射口と該噴射口まで前記撹拌用媒体を導く流路とを含み、前記供給口と前記噴射口とが別々に設けられ、且つ、前記供給路と前記流路とが別系統であり、前記噴射口から噴射される前記撹拌用媒体の流速が前記供給口から供給される前記加熱媒体および前記加圧媒体の流速よりも大きいことを特徴とするタイヤ加硫装置。
【請求項2】
前記噴射口の開口径が前記供給口の開口径よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のタイヤ加硫装置。
【請求項3】
前記噴射口が前記ブラダーの底部を向いていることを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ加硫装置。
【請求項4】
前記噴射口が前記ブラダーの底部に配置され、且つ、前記流路が前記ブラダーと共に変形可能なホースで構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ加硫装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のタイヤ加硫装置を用いた空気入りタイヤの製造方法であって、前記媒体供給手段によって前記ブラダー内に前記加熱媒体および前記加圧媒体を供給した後、前記ブラダー内の圧力が低下したときに前記撹拌手段によって前記ブラダー内に前記撹拌用媒体を噴射して、前記ブラダー内の前記加熱媒体および前記加圧媒体を撹拌すると共に前記ブラダー内を加圧することを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項6】
空気入りタイヤの外表面を成形するモールドと、該空気入りタイヤの内側に挿入される筒状のブラダーと、該ブラダーの両端を把持する一対のクランプを備えて該ブラダーを操作する中心機構と、該ブラダー内に加熱用媒体および加圧用媒体を供給する媒体供給手段と、前記ブラダー内に供給された前記加熱用媒体および前記加圧用媒体を撹拌するための撹拌用媒体を前記ブラダー内に噴射する撹拌手段を備えたタイヤ加硫装置を用いた空気入りタイヤの製造方法であって、
前記媒体供給手段が前記加熱用媒体および前記加圧用媒体を前記ブラダー内に供給するための供給口と該供給口まで前記加熱用媒体および前記加圧用媒体を導く供給路とを含み、前記撹拌手段が前記撹拌用媒体を前記ブラダー内に噴射するための噴射口と該噴射口まで前記撹拌用媒体を導く流路とを含み、前記供給口と前記噴射口とが別々に設けられ、且つ、前記供給路と前記流路とが別系統であり、
前記媒体供給手段によって前記ブラダー内に前記加熱媒体および前記加圧媒体を供給した後、前記ブラダー内の圧力が低下したときに前記撹拌手段によって前記ブラダー内に前記撹拌用媒体を噴射して、前記ブラダー内の前記加熱媒体および前記加圧媒体を撹拌すると共に前記ブラダー内を加圧することを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ加硫装置およびそれを用いた空気入りタイヤの製造方法に関し、更に詳しくは、ブラダー内の上下温度差を効果的に軽減できるタイヤ加硫装置およびそれを用いた空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、空気入りタイヤを加硫する際には、未加硫タイヤの内側に挿入されたブラダー内に加熱媒体と加圧媒体を供給してブラダーを膨張させて、未加硫タイヤをモールドに向かって押圧する。このとき、加熱媒体としてはスチームが用いられ、加圧媒体としては窒素ガスが用いられる。ところが、スチームと窒素ガスとを用いた場合、窒素ガスの比重がスチームに比して大きいため、膨張したブラダー内では、上方にスチームが圧縮された状態で存在し、その下方に窒素ガスが存在した状態になる。そのため、加硫中のブラダー内では、上側の温度が下側に比して高くなって上下温度差が発生する。このような状況のまま加硫されたタイヤでは、加硫時の上下方向によって加硫程度にばらつきが生じるという問題がある。
【0003】
このような問題を解決するため、様々な加硫方法や加硫装置が提案されている(例えば、特許文献1,2を参照)。特許文献1では、加熱媒体および加圧媒体をブラダー内に供給する供給口と、ブラダー内の加熱媒体および加圧媒体を回収する回収口とを設けて、加硫中に加熱媒体および加圧媒体を循環させて、これら媒体が所定の温度および圧力で維持されるようにし、且つ、これら媒体がブラダー内で撹拌されるようにして、ブラダー内の上下温度差を小さくすることが提案されている。また、特許文献2では、ブラダー内に攪拌羽根を設置し、この撹拌羽根を回転させることにより、ブラダー内のスチームと窒素ガスとを攪拌混合して、ブラダー内の上下温度差を小さくすることが提案されている。
【0004】
しかしながら、前者の提案では加硫中に加熱媒体および加圧媒体が循環し続けるため、エネルギーロスが大きく、また、ブラダー内で加熱媒体および加圧媒体を必ずしも充分に撹拌できないと言う問題があった。また、後者の提案では、ブラダー内に撹拌羽根を新設しなければならず、これに伴って加硫設備が複雑になるという問題があった。そのため、簡潔な構造で、ブラダー内の上下温度差を効果的に軽減するための更なる対策が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015‐223777号公報
【特許文献2】特開2009‐029035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ブラダー内の上下温度差を効果的に軽減できるタイヤ加硫装置およびそれを用いた空気入りタイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明のタイヤ加硫装置は、空気入りタイヤの外表面を成形するモールドと、該空気入りタイヤの内側に挿入される筒状のブラダーと、該ブラダーの両端を把持する一対のクランプを備えて該ブラダーを操作する中心機構と、該ブラダー内に加熱用媒体および加圧用媒体を供給する媒体供給手段と、前記ブラダー内に供給された前記加熱用媒体および前記加圧用媒体を撹拌するための撹拌用媒体を前記ブラダー内に噴射する撹拌手段を備えたタイヤ加硫装置であって、前記媒体供給手段が前記加熱用媒体および前記加圧用媒体を前記ブラダー内に供給するための供給口と該供給口まで前記加熱用媒体および前記加圧用媒体を導く供給路とを含み、前記撹拌手段が前記撹拌用媒体を前記ブラダー内に噴射するための噴射口と該噴射口まで前記撹拌用媒体を導く流路とを含み、前記供給口と前記噴射口とが別々に設けられ、且つ、前記供給路と前記流路とが別系統であ
り、前記噴射口から噴射される前記撹拌用媒体の流速が前記供給口から供給される前記加熱媒体および前記加圧媒体の流速よりも大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、上記のように、ブラダー内に供給された加熱媒体および加圧媒体が撹拌手段によって噴射された撹拌用媒体によって撹拌されるため、ブラダー内の上下温度差を効果的に軽減することができる。このとき、加熱媒体および加圧媒体の撹拌は撹拌用媒体の噴射によって行われるため、撹拌のための複雑な機構を新設する必要はない。更に、撹拌媒体の噴射は、加熱媒体および加圧媒体の供給とは別系統で行われるため、必要なときに必要な量だけ撹拌用媒体を噴射することができ、エネルギーロスを避けながら、効率良くブラダー内の上下温度差を軽減することができる。
【0009】
本発明では、
上述のように、噴射口から噴射される撹拌用媒体の流速は、供給口から供給される加熱媒体および加圧媒体の流速よりも大きい。これに加えて、噴射口の開口径が供給口の開口径よりも小さい仕様にすることもできる
。これにより、ブラダー内の加熱媒体および加圧媒体を効果的に撹拌することができ、ブラダー内の上下温度差を軽減するには有利になる。
【0010】
本発明では、噴射口がブラダーの底部を向いている仕様にすることもできる。或いは、噴射口がブラダーの底部に配置され、且つ、流路がブラダーと共に変形可能なホースで構成された仕様にすることもできる。これら仕様では、相対的に比重が大きいためブラダー底部に沈降した加圧媒体に撹拌用媒体を確実に噴射することができ、ブラダー内の加熱媒体および加圧媒体を撹拌して、ブラダー内の上下温度差を軽減するには有利になる。
【0011】
本発明のタイヤ加硫装置を用いた空気入りタイヤの製造方法では、媒体供給手段によってブラダー内に加熱媒体および加圧媒体を供給した後、ブラダー内の圧力が低下したときに撹拌手段によってブラダー内に撹拌用媒体を噴射して、ブラダー内の加熱媒体および加圧媒体を撹拌すると共にブラダー内を加圧するとよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態からなるタイヤ加硫装置の一例を示す断面図である。
【
図2】本発明に別の実施形態からなるタイヤ加硫装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
図1に示す本発明のタイヤ加硫装置は、空気入りタイヤTの外表面を成形するモールド10と、空気入りタイヤTの内側に挿入される筒状のブラダー20と、ブラダー20を操作する中心機構30と、ブラダー10の内側に加熱媒体と加圧媒体とを供給するための媒体供給手段40と、ブラダー10内に供給された加熱媒体および加圧媒体を撹拌するための撹拌用媒体をブラダー10の内側に噴射するための撹拌手段50とを備えている。尚、
図1では省略しているが、モールド10を外部から加熱するための加熱手段も備える。
【0015】
モールド10は、空気入りタイヤTのビード部を成形するための下側ビードリング11および上側ビードリング12と、空気入りタイヤTのサイドウォール部を成形するための下側サイドプレート13および上側サイドプレート14と、空気入りタイヤTのトレッド部を成形するための複数のセクター15とから構成され、そのモールド10の内側でタイヤTを加硫成形するようになっている。尚、本発明ではモールド10の構造は特に限定されるものではなく、図示のようなセクショナルタイプのモールドのほか、例えば二つ割りタイプのモールドを使用することも可能である。
【0016】
ブラダー20は、加硫装置における下端部が下側ビードリング11と後述の中心機構30に設けられた下側クランプリング31との間に把持され、加硫装置における上端部が後述の中心機構30に設けられた上側クランプリング32aと補助リング32bとの間に把持されている。
図1に示す加硫状態において、ブラダー20は、タイヤTの径方向外側に拡張した状態にあるが、加硫後にタイヤTを加硫装置内から取り出す際には上側クランプリング32b(および補助リング32b)が上方に移動し、それに伴ってブラダー10がタイヤTの内側から抜き取られるようになっている。
【0017】
中心機構30は、前述のように、ブラダー20の両端を把持する一対のクランプとして、ブラダー20の下端部を把持する下側クランプリング31と、上端部を把持する上側クランプリング32aおよび補助リング32bを備える。下側クランプリング31は、モールド10の下側ビードリング11に対して連接するように配置されてシリンダ33に固定されている。シリンダ33は、空気入りタイヤTの中心位置に配置されたセンターポスト33の周囲に配置されており、後述の媒体供給手段40や撹拌用手段50を備える。また、加硫後にブラダー20内から加熱媒体および加圧媒体を排出するための排出路(不図示)や、加熱媒体(スチーム)の凝縮液を排出するための排水路(不図示)を備えることもできる。上側クランプリング32aはセンターポスト34の上部に固定されている。補助リング32bはブラダー20を把持する際に上側クランプリング32aに対して装着されるものであり、モールド10の上側ビードリング12に対して連接するように配置されている。センターポスト34は前述のように空気入りタイヤTの中心位置に配置されているが、鉛直方向に昇降自在に構成されており、この昇降によって前述のタイヤTを取り出す際の上側クランプリング32aの移動が可能になっている。
【0018】
媒体供給手段40は、加熱用媒体および加圧用媒体をブラダー20内に供給するための供給口41と、加熱用媒体および加圧用媒体を供給源(不図示)から供給口41まで導く供給路42とを含む。加熱用媒体としては例えばスチーム、窒素ガス等が用いられ、加圧用媒体としては例えば窒素ガス、燃焼により脱酸素した空気等が用いられる。供給路42の途中には、加熱用媒体および加圧用媒体の流量や流速を調整するためのバルブ等の操作機構を設けてもよい。図示の例では、上述のように、シリンダ33に媒体供給手段40が設けられており、供給口41はシリンダ33の表面において開口し、供給路42はシリンダ33の内部に形成されている。
【0019】
撹拌手段50は、撹拌用媒体をブラダー20内に噴射するための噴射口51と、撹拌用媒体を供給源(不図示)から噴射口51まで導く流路52とを含む。撹拌用媒体としては例えばスチーム、窒素ガス等が用いられる。流路52の途中には、撹拌用媒体の流量や流速を調整するためのバルブ等の操作機構を設けてもよい。図示の例では、上述のように、シリンダ33に撹拌手段50が設けられており、シリンダ33の表面から突き出たノズル33aの先端に噴射口51が配置され、流路52はシリンダ33およびノズル33aの内部に形成されている。尚、図示のようにノズル33aを用いる場合は、効率的な撹拌のためにシリンダの周上に1〜10個程度のノズルを設けることが好ましい。尚、図中の噴射口51から延びる矢印は撹拌媒体の噴射(噴射方向)を示すものである。
【0020】
本発明では、これら媒体供給手段40と撹拌手段50とを別系統とする。具体的には、
図1に示すように、供給口41と噴射口51とを別々に設け、且つ、供給路42と流路552とも重複せずに異なる経路になるように構成する。尚、図には示していないが、前述のバルブ等の操作機構についても、各経路(供給路42、流路52)にそれぞれ設けられるものであり、各媒体の流量や流速を別々に調整可能になっている。尚、上記のように加熱用媒体および撹拌用媒体として使用可能な媒体は共通しているので、共通の媒体(例えばスチーム)を採用して、加熱用媒体および撹拌用媒体を同一の供給源から得るようにしてもよいが、この場合であっても、各媒体をブラダー20内に導くための経路(供給路42、流路52)や各媒体の流量や流速を調整するための操作機構は別系統とすることが必要である。
【0021】
上述の本発明のタイヤ加硫装置では、ブラダー20内に供給された加熱媒体および加圧媒体を撹拌手段50によって噴射された撹拌用媒体によって撹拌することができるため、このタイヤ加硫装置を用いることでブラダー20内の上下温度差を効果的に軽減することができる。このとき、加熱媒体および加圧媒体の撹拌は撹拌用媒体の噴射によって行われるため、撹拌のための複雑な機構を新設する必要はない。更に、撹拌媒体の噴射は、加熱媒体および加圧媒体の供給とは別系統で行われるため、加硫工程における他の吸排気操作の影響は受けずに、必要なときに最小限度の必要な量だけ撹拌用媒体を噴射することができる。従って、エネルギーロスを避けながら、効率良くブラダー20内の上下温度差を軽減することができる。
【0022】
ブラダー20内の加熱用媒体および加圧用媒体を効果的に撹拌するためには、撹拌手段50によって撹拌用媒体を勢いよく噴射することが有効である。そのため、噴射口51の開口径を媒体供給手段40の供給口41の開口径よりも小さくすることが好ましい。また、流路52に設けられたバルブ等の操作機構によって撹拌用媒体の圧力や流量を調節して、噴射口51から噴射される撹拌用媒体の流速を供給口41から供給される加熱媒体および前記加圧媒体の流速よりも大きくすることが好ましい。
【0023】
加硫時のブラダー20内では、加熱用媒体と加圧用媒体との比重の違いから相対的に比重が大きい加圧用媒体(窒素ガス)がブラダー底部に沈降したり、加熱用媒体(スチーム)が液体(水)に相変化したドレンがブラダー底部に沈降する傾向がある。そのため、撹拌用媒体は、このようなブラダー底部に沈降した加圧用媒体やドレンに向けて噴射することが好ましい。即ち、
図1に示すように、噴射口51をブラダー20の底部に向けることが好ましい。或いは、
図2に例示するように、流路52をブラダー20の底部まで延長して噴射口51がブラダー20の底部に配されるようにしてもよい。この場合、流路52が加硫工程におけるブラダー20の変形に追従できるように、流路52を例えばブラダー20と共に変形可能なホース53で構成するとよい。尚、上記のようにブラダー底部に沈降したドレンに向かって撹拌用媒体としてスチームを噴射した場合、ドレンとその周囲の媒体が撹拌されるだけでなく気液接触が促されて、ドレン自体の均熱化や撹拌用媒体(スチーム)からドレンへの熱交換(ドレンの加熱)も促進できるという利点もある。
【0024】
噴射口51をブラダー20の底部に向ける場合、単純にブラダー20の底部に照準を合わせるだけでなく、例えばブラダー20の底部においてブラダー20の周方向に沿ってドレンが旋回するような流れが形成されるように、噴射口51の向きを調整してもよい。例えば、
図1の例のようにノズル33aを用いている場合、このノズル33aをブラダー20の径方向に対して傾斜させて、撹拌用媒体をブラダー20の径方向に対して傾斜した一方向に噴射することができる。
【0025】
前記のように、噴射口51の開口径は、媒体供給手段40の供給口41の開口径よりも小さくすることが好ましいが、特に、各噴射口51の開口面積を供給口41の総面積の例えば3%〜20%にすることが好ましい。このように各噴射口51の開口面積を充分に小さくすることで、撹拌用媒体を勢いよく噴射するには有利になり、効率良くブラダー20内の加熱用媒体および加圧用媒体を撹拌することができる。
【0026】
上述のタイヤ加硫装置を用いて空気入りタイヤを製造する場合、まず、モールド10内に未加硫の空気入りタイヤTを導入し、この空気入りタイヤTの内側にブラダー20を挿入する。そして、媒体供給手段40によってブラダー20の内側に加熱媒体および加圧媒体を導入すると共に、モールド10を加熱することで空気入りタイヤTに対する加硫を実施する。このとき、図示の例では、加熱媒体および加圧媒体は、各媒体の供給源から供給路42を通じて供給口41からブラダー20内に供給されるが、所定量の加熱媒体および加圧媒体が導入された後は、供給口41または供給路42がバルブ等の操作機構によって閉じられて、加熱媒体および加圧媒体の供給は止められる。
【0027】
一方、撹拌手段50の噴射口51または流路52は、加硫を開始した時点では、バルブ等の操作機構によって閉じられているが、加硫中にブラダー20の内圧が低下した場合、撹拌手段50の噴射口51または流路52が開かれて、撹拌手段50によるブラダー20内の撹拌が行われる。即ち、供給源から流路52を通じて供給された撹拌用媒体が噴射口51からブラダー20内に向かって噴射される。この撹拌用媒体の噴射によって、ブラダー20内の加熱媒体および加圧媒体は撹拌され、更に、撹拌用媒体が追加されることでブラダー20内は加圧される。このとき、撹拌用媒体は、ブラダー20の内圧が所望の圧力まで回復するまで連続的に1回噴射してもよく、間欠的に複数回噴射してもよい。この後の工程は通常と同様の方法で行うことができ、モールド10を開型し、空気入りタイヤTの内面からブラダー20を剥離して、空気入りタイヤTを加硫装置内から取り出して加硫工程が終了する。
【0028】
このように上述のタイヤ加硫装置を用いて空気入りタイヤを製造した場合、撹拌用媒体の噴射によってブラダー20内の上下温度差が軽減された状態で加硫を遂行することができるので、製造される空気入りタイヤの品質を高めることができる。また、加硫工程の最初に加熱媒体および加圧媒体を導入した後は、加熱媒体および加圧媒体の供給を止めることができ、加硫中にブラダー20の内圧が低下した場合は、撹拌用媒体の噴射によって対処するため、各媒体の使用量を抑えると共に、エネルギーロスを避けることができる。
【実施例】
【0029】
ブラダー内の媒体を撹拌するための機構を備えない従来のタイヤ加硫装置(従来例1)と、ブラダー内の媒体を撹拌するために加熱媒体および加圧媒体の循環機構を備えたタイヤ加硫装置(比較例1)と、
図1の撹拌手段を備えた本発明のタイヤ加硫装置(実施例1)と、
図2の撹拌手段を備えた本発明のタイヤ加硫装置(実施例2)とのそれぞれによって10回ずつ空気入りタイヤの加硫を行った。各タイヤ加硫装置における加硫時のブラダー内温度(ブラダー底部およびブラダー上部の温度)を測定し、ブラダー内の上下温度差を求め、また、熱媒体の廃棄による熱損失の有無を確認し、これらを表1に併せて示した。
【0030】
【表1】
【0031】
表1から明らかなように、実施例1〜2のタイヤ加硫装置で加硫を行った場合、熱損失を生じることなく、上下温度差を小さくすることができた。一方、比較例1のように加熱媒体および加圧媒体を循環させた場合、各媒体を循環させることによる熱損失が大きく、また、ブラダー内の上下温度差は軽減できるものの、10回の加硫での軽減度合にばらつきが大きく、上下温度差を安定して解消することができなかった。
【符号の説明】
【0032】
10 モールド
11 下側ビードリング
12 上側ビードリング
13 下側サイドプレート
14 上側サイドプレート
15 セクター
20 ブラダー
30 中心機構
31 下側クランプリング
32a 上側クランプリング
32b 補助リング
33 シリンダ
33a ノズル
34 センターポスト
40 媒体供給手段
41 供給口
42 供給路
50 撹拌手段
51 噴射口
52 流路
T 空気入りタイヤ