(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部と、該一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された補強層と、前記トレッド部における前記カーカス層および前記補強層の外周側に配置されたトレッドゴム層とを備え、前記トレッド部の外表面にタイヤ周方向に延びる主溝と該主溝によって区画された陸部とが形成された空気入りタイヤにおいて、
前記主溝の底面から前記補強層の外周面までの距離が5mm以下であり、前記トレッドゴム層を構成するゴム組成物と異なるゴム組成物で構成された溝下ゴム層が少なくとも前記主溝の底面を覆うように設けられ、該溝下ゴム層は1本の前記主溝に隣接する一対の前記陸部の踏面における端点をそれぞれ通過して各端点から前記補強層に向かって下ろした垂線よりも前記主溝の外側に向かって傾斜して前記補強層と成す角度が95°である一対の仮想線の間の領域内のみに存在し、前記溝下ゴム層を構成するゴム組成物はジエン系ゴムと充填剤と老化防止剤とを含み、前記充填剤は前記ジエン系ゴム100重量部に対して90重量部以下配合され、前記老化防止剤は芳香族アミン化合物であり、前記溝下ゴム層を構成するゴム組成物の弾性率が16MPa以下であり、前記トレッドゴム層を構成するゴム組成物の弾性率が前記溝下ゴム層を構成するゴム組成物の弾性率の1.5倍以上5.0倍以下であることを特徴とする空気入りタイヤ。
前記トレッドゴム層が前記トレッド部の表面に露出するキャップトレッドゴム層とその内周側に積層されたアンダートレッドゴム層とで構成され、前記キャップトレッドゴム層を構成するゴム組成物と前記アンダートレッドゴム層を構成するゴム組成物とがそれぞれ前記溝下ゴム層を構成するゴム組成物と異なることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、転がり抵抗の低減のために溝下ゲージを薄くした場合であっても、グルーブクラックの発生を防止することができ、且つ、操縦安定性を良好に維持することができる空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部と、該一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された補強層と、前記トレッド部における前記カーカス層および前記補強層の外周側に配置されたトレッドゴム層とを備え、前記トレッド部の外表面にタイヤ周方向に延びる主溝と該主溝によって区画された陸部とが形成された空気入りタイヤにおいて、前記主溝の底面から前記補強層の外周面までの距離が5mm以下であり、前記トレッドゴム層を構成するゴム組成物と異なるゴム組成物で構成された溝下ゴム層が少なくとも前記主溝の底面を覆うように設けられ、該溝下ゴム層は1本の前記主溝に隣接する一対の前記陸部の踏面における端点をそれぞれ通過して各端点から前記補強層に向かって下ろした垂線よりも前記主溝の外側に向かって傾斜して前記補強層と成す角度が95°である一対の仮想線の間の領域内
のみに存在し、前記溝下ゴム層を構成するゴム組成物はジエン系ゴムと充填剤と老化防止剤とを含み、前記充填剤は前記ジエン系ゴム100重量部に対して90重量部以下配合され、前記老化防止剤は芳香族アミン化合物であり、前記溝下ゴム層を構成するゴム組成物の弾性率が16MPa以下であり、前記トレッドゴム層を構成するゴム組成物の弾性率が前記溝下ゴム層を構成するゴム組成物の弾性率の
1.5倍以上5.0倍以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の空気入りタイヤでは、主溝の底面から補強層の外周面までの距離を5mm以下に薄くして転がり抵抗を低減する一方で、上記のような特性を有し、柔軟で歪みに対して柔軟に対応可能なゴム組成物からなる溝下ゴム層を設けているので、グルーブクラックの発生を抑制することができる。このとき、溝下ゴム層は上述の領域
のみに限定的に配置されているので、トレッド部全体の剛性(特に陸部の剛性)を低下させることがなく、操縦安定性については良好に維持することができる。尚、本発明において、弾性率とは、JIS K6394に準拠して、粘弾性スペクトロメーター(東洋精機製作所製)を用い、周波数20Hz、初期歪み10%、動歪み±2%、温度20℃の条件にて測定された貯蔵弾性率(E’)を意味する。
【0008】
本発明においては、ジエン系ゴムが少なくともブタジエン構造を含むジエン系ゴムであることが好ましい。特に、ジエン系ゴムが少なくともポリブタジエンを含むことが好ましい。このように溝下ゴム層を構成するゴム組成物のゴム成分を疲労性と発熱性に優れたものに限定することで、溝下ゴム層の対疲労性が良好になり、転がり抵抗の低減と、グルーブクラックの発生防止と、操縦安定性の維持とをバランスよく両立するには有利になる。
【0009】
本発明においては、充填剤としてCTAB吸着比表面積が130m
2/g以下であるカーボンブラックを含むことが好ましい。このように充填剤の種類を限定することで、溝下ゴム層の発熱性と弾性率のバランスが良好になり、グルーブクラックの発生防止と、発熱性および操縦安定性の維持とをバランスよく両立するには有利になる。尚、本発明において、充填剤のCTAB吸着比表面積は、JIS K6217−3に準拠して測定するものとする。
【0010】
本発明においては、溝下ゴム層を構成するゴム組成物の弾性率が1.0MPa〜15.0MPaであることが好ましい。このような物性の溝下ゴム層を用いることで、操縦安定性を損なわずにグルーブクラックの発生を防止するには有利になる。
【0011】
本発明においては、老化防止剤の配合量がジエン系ゴム100重量部に対して1重量部〜5重量部であることが好ましい。このように老化防止剤の配合量を限定することで、溝下ゴム層の弾性率を損なわずに疲労性を向上し、グルーブクラックの発生防止と操縦安定性をバランスよく両立するには有利になる。
【0012】
本発明においては、トレッドゴム層がトレッド部の表面に露出するキャップトレッドゴム層とその内周側に積層されたアンダートレッドゴム層とで構成され、キャップトレッドゴム層を構成するゴム組成物とアンダートレッドゴム層を構成するゴム組成物とがそれぞれ溝下ゴム層を構成するゴム組成物と異なることが好ましい。これにより溝下ゴム層はキャップトレッドゴム層との弾性率比を最適化により操縦安定性を損なわずに、耐グルーブクラック性を重視したゴム組成物とし、キャップトレッド層は操縦安定性を重視したゴム組成物、アンダーとレッドゴム層は発熱性を重視したゴム組成物とすることが可能となり、タイヤ全体のバランスを最適化することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1に示すように、本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。尚、
図1において、CLはタイヤ赤道を示す。
【0016】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りに車両内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。
【0017】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側にはベルト層7a(
図1の例では2層のベルト層7a)が埋設されている。各ベルト層7aは、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7aにおいて、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。更に、ベルト層7aの外周側にはベルト補強層7b(
図1の例では2層のベルト補強層7b)が設けられている。ベルト補強層7bは、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルト補強層7bにおいて、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°〜5°に設定されている。尚、本発明では、これらベルト層7aおよびベルト補強層7bを「補強層7」と総称する。本発明において、ベルト層7aは必須の要素であるが、ベルト補強層7bは任意の要素であるので、図示のようにベルト層7aおよびベルト補強層7bが設けられる場合の他に、補強層7としてベルト層7aのみが設けられることもあり得る。
【0018】
トレッド部1の外表面には、タイヤ周方向に延びる主溝8(
図1では4本の主溝8)が設けられ、この主溝8によって陸部9(
図1では5列の陸部9)が区画されている。陸部9は、タイヤ全周に亘って連続して延在するリブまたはタイヤ幅方向に延びるラグ溝(不図示)によって区画されたブロックのいずれであってもよい。このとき、主溝8の底面から補強層7の外周面までの距離G(以下、溝下ゲージGという)は5mm以下に設定されている。尚、溝下ゲージGは、補強層7としてベルト層7aのみが設けられた場合には、主溝8の底面からベルト層7aの外周面までの距離であり、ベルト層7aおよびベルト補強層7bが設けられた場合には、主溝8の底面からベルト補強層7bの外周面までの距離である。また、補強層7(ベルト層7a、ベルト補強層7b)の外周面とは、補強層7を構成する補強コード(ベルト層7aの場合はベルトコード、ベルト補強層7bの場合は有機繊維コード)を被覆するコートゴムのタイヤ径方向外側の面である。
【0019】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側にはトレッドゴム層10が配され、サイドウォール部2におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはサイドゴム層20が配され、ビード部3におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはリムクッションゴム層30が配されている。トレッドゴム層10は、物性の異なる2種類のゴム層(キャップトレッドゴム層11、アンダートレッドゴム層12)をタイヤ径方向に積層した構造であってもよい。
【0020】
本発明は、このような一般的な空気入りタイヤにおいて、後述のように主溝8の溝下に溝下ゴム層40を設けたものである。そのため、溝下ゴム層40を除く空気入りタイヤの基本的な断面構造は上述の構造に限定されるものではない。従って、例えば、サイドウォール部2におけるカーカス層4のタイヤ幅方向内側に断面三日月状のサイド補強層が設けられた所謂ランフラットタイヤに対しても本発明の溝下ゴム層40を適用することができる。
【0021】
本発明では、
図2に示すように、主溝8の溝下に溝下ゴム層40が設けられる。つまり、トレッド部1は、トレッド部1の大部分を占めるトレッドゴム層10と、主溝8の溝下に局所的に設けられたトレッドゴム層10とで構成されることになる。溝下ゴム層40は、少なくとも主溝8の底面を覆うように設けられる。また、
図3において斜線で示した領域、即ち、1本の主溝8に隣接する一対の陸部9の踏面における端点Pをそれぞれ通過して各端点Pから補強層7に向かって下ろした垂線(図中の点線)よりも主溝8の外側に向かって傾斜して補強層7と成す角度θが95°である一対の仮想線Lの間の領域の中に存在している。図示の例では、溝下ゴム層40は主溝8の底面から補強層7まで達しており、トレッドゴム層10をタイヤ幅方向に分断している。
【0022】
溝下ゴム層40は、トレッドゴム層10を構成するゴム組成物とは異なるゴム組成物で構成される。具体的には、ジエン系ゴムと充填剤と老化防止剤とを含み、充填剤がジエン系ゴム100重量部に対して90重量部以下配合されており、老化防止剤が芳香族第2級アミン等の芳香族アミン化合物であるゴム組成物で構成される。また、溝下ゴム層40を構成するゴム組成物は弾性率E1が16MPa以下である。そして、溝下ゴム層40を構成するゴム組成物の弾性率をE1とし、トレッドゴム層10を構成するゴム組成物の弾性率をE2としたとき、これら弾性率の比E2/E1が5.0以下に設定されている。
【0023】
このような特性のゴム組成物からなる溝下ゴム層40は、トレッドゴム層10に比べて柔らかく歪みに対して柔軟に追従できるので、溝下ゴム層40が上述の位置に存在することでグルーブクラックの発生を抑制することができる。特に、溝下ゲージGが転がり抵抗を低減するために5mm以下に薄く設定されて、グルーブクラックが生じ易い傾向があっても、上記のように溝下ゴム層40が設けられていることで、グルーブクラックを防止することができる。このとき、溝下ゴム層40は上述の領域に限定的に設けられているので、トレッド部1全体の剛性(特に陸部9の剛性)を低下させることがなく、操縦安定性については良好に維持することができる。
【0024】
溝下ゴム層40が上述の範囲よりも外側に設けられていると、溝下ゴム層40がトレッド部1に占める割合が大きくなり、トレッド部1の剛性が低下し、操縦安定性を良好に維持することが難しくなる。尚、溝下ゴム層40は、上述の領域(
図3の斜線部)の全体に設ける必要は無く、
図2に示すように、少なくとも主溝8の底面の平坦な部分の下部に存在していればよい。図示の例では、溝下ゴム層40がトレッドゴム層10を分断しているが、
図4に示すように溝下ゴム層40が補強層7まで到達せずに、トレッドゴム層10が補強層7側でタイヤ幅方向に連続していてもよい。また、上記のようにトレッドゴム層10がキャップトレッドゴム層11とアンダートレッドゴム層12とで構成される場合には、溝下ゴム層40は、
図5に示すように補強層7まで到達してキャップトレッドゴム層11およびアンダートレッドゴム層12の両者を分断してもよく、
図6に示すように補強層7まで到達せずにアンダートレッドゴム層12まで到達してキャップトレッドゴム層11のみを分断してもよい。或いは、
図7に示すように溝下ゴム層40が補強層7まで到達しない状態で、溝下ゴム層40と補強層7の間にキャップトレッドゴム層11およびアンダートレッドゴム層12の両者が残存していてもよい。
【0025】
溝下ゴム層40が、
図3の斜線部の全体に設けられる場合、仮想線Lは溝下ゴム層40とトレッドゴム層10との境界と一致する。従って、上述の条件は、溝下ゴム層40とトレッドゴム層10との境界が、陸部9の踏面における端点Pを通り、この境界と補強層7とが成すトレッドゴム層10側の角度θが95°以下であると言い換えることができる。この見方をした場合、溝下ゴム層40とトレッドゴム層10との境界の角度θが95°を超えると、溝下ゴム層40が上述の範囲(
図3の斜線部)よりも外側に拡大することになるため、上記のように操縦安定性を良好に維持することが難しくなる。
【0026】
溝下ゴム層40の弾性率E1が16MPaよりも大きいと、溝下ゴム層40が充分に柔
軟にならず、グルーブクラックの発生を適切に抑制することができない。溝下ゴム層40
の弾性率E1は好ましくは1.0MPa〜15.0MPaであるとよい。溝下ゴム層40
とトレッドゴム層10の弾性率の比E
2/E
1が5.0よりも大きいと、溝下ゴム層40
とトレッドゴム層10との物性のバランスが悪く、グルーブクラックの防止と操縦安定性
の維持とをバランスよく両立することが難しくなる。溝下ゴム層40とトレッドゴム層1
0の弾性率の比E
2/E
1は好ましくは4.5〜1.5であるとよい。
【0027】
トレッドゴム層10を構成するゴム組成物としては、一般的な空気入りタイヤにおいてトレッドゴム層10として通常用いられるゴム組成物(弾性率E2が例えば4MPa〜20MPa)を用いることができる。上述のように、トレッドゴム層10はキャップトレッドゴム層とアンダートレッドゴム層とで構成されることがあるが、その場合は、溝下ゴム層40は、キャップトレッドゴム層およびアンダートレッドゴム層の両者と異なるゴム組成物で構成される。キャップトレッドゴム層を構成するゴム組成物の弾性率をE2cとし、アンダートレッドゴム層を構成するゴム組成物の弾性率をE2uとすると、E2c/E1およびE2u/E1がそれぞれ5.0以下になる。
【0028】
溝下ゴム層40を構成するゴム組成物において、ゴム成分は上記のようにジエン系ゴムを含む。このジエン系ゴムとしては、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、分子末端が変性された変性ブタジエンゴム、変性スチレンブタジエンゴム、等のタイヤ用ゴム組成物に通常用いられるゴムを使用することができる。上述のジエン系ゴムのなかでも、ブタジエン構造を含むもの(例えば、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、分子末端が変性された変性ブタジエンゴム、変性スチレンブタジエンゴム)、そのなかでもポリブタジエン構造を有するもの(ブタジエンゴム)を好適に用いることができる。尚、ブタジエンゴムは変性剤により変性されていてもよく、重合時に使用される触媒については限定されず、ニッケル、チタン、クロム、ネオジオム、リチウム等の触媒によって製造されたブタジエンゴムを用いてよい。これらジエン系ゴムは、単独または任意のブレンドとして使用することができる。このようなゴム成分を用いることで、溝下ゴム層40の疲労性と発熱性が良好になり、転がり抵抗の低減と、グルーブクラックの防止と、操縦安定性の維持とをバランスよく両立するには有利になる。
【0029】
溝下ゴム層40を構成するゴム組成物は、上記のように充填剤を必ず含むが、充填剤の配合量がジエン系ゴム100重量部に対して90重量部を超えると、溝下ゴム層40として充分な柔軟性が得られずグルーブクラックの発生を抑制する効果が充分に得られなくなるだけでなく、発熱性も大きく悪化する。充填剤の配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対して好ましくは85重量部〜40重量部にするとよい。充填剤としては、タイヤ用ゴム組成物に通常用いられるカーボンブラック、シリカとしては、沈降シリカなどの湿式法又は乾式法で製造されたものを使うことができ、また市販品としては、Ultrasil 7000GR(Evonik社製)、Ultrasil 9100GR(Evonik社製)、Zeosil 1165MP(Solvay社製)、Zeosil Premium 200MP(Solvay社製)、Zeosil 115GR(Solvay社製)、Ultrasil 5000GR(Evonik社製)、またはUltrasil VN3GR(Evonik社製)などを使うことができる。特に、本発明では、充填剤としてCTAB吸着比表面積が好ましくは130m
2/g以下、より好ましくは129m
2/g〜30m
2/gであるカーボンブラックを含むとよい。このようなカーボンブラックを含むことで、溝下ゴム層40の物性が良好になり、転がり抵抗の低減と、グルーブクラックの防止と、操縦安定性の維持とをバランスよく両立するには有利になる。
【0030】
溝下ゴム層40を構成するゴム組成物は、上記のように老化防止剤として芳香族第2級アミン等の芳香族アミン化合物を必ず含み、より好ましくはN‐(1,3‐ジメチルブチル)‐N’‐フェニル‐p‐フェニレンジアミンが好ましい。老化防止剤の配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対して例えば1重量部〜5重量部であるとよい。このように老化防止剤が配合されることで、溝下ゴム層40の耐老化性が良好になり、グルーブクラックの防止と、操縦安定性の維持とをバランスよく両立するには有利になる。
【0031】
溝下ゴム層40を構成するゴム組成物には、上記以外の他の配合剤を添加することができる。他の配合剤としては、上述のカーボンブラック以外の充填剤、加硫または架橋剤、加硫促進剤、液状ポリマー、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂など、一般的に空気入りタイヤに使用される各種配合剤を例示することができる。これら配合剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量にすることができる。
【実施例】
【0032】
まず、表1に示す配合からなる10種類のタイヤ用ゴム組成物(ゴム1〜10)調整した。これらゴム組成物の調製に当たり、それぞれ硫黄及び加硫促進剤を除く成分を秤量し、1.8Lの密閉型ミキサーで160℃、5分間混練した後、そのマスターバッチを放出した。このマスターバッチをオープンロールで混練し、硫黄及び加硫促進剤を加え、混合することで、各ゴム組成物を得た。尚、表1には、JIS K6394に準拠して、粘弾性スペクトロメーター(東洋精機製作所製)を用い、周波数20Hz、初期歪み10%、動歪み±2%、温度20℃の条件にて測定した各ゴム組成物の弾性率を併せて示した。
【0033】
【表1】
【0034】
表1において使用した原材料の種類を下記に示す。
・SBR:スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製 Nipol 1502
・BR:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製 Nipol BR 1220
・NR:天然ゴム、STR20
・CB1:カーボンブラック、CABOT社製 VULCAN 10H(CTAB吸着比表面積:129m
2/g)
・CB2:カーボンブラック、CABOT社製 VULCAN M(CTAB吸着比表面積95m
2/g)
・シリカ:Evonik社製 Ultrasil VN3GR
・カップリング剤:Evonik社製 Si69
・オイル:昭和シェル石油社製 エキストラクト4号S
・ステアリン酸:日油社製 ビーズステアリン酸
・亜鉛華:正同化学工業社製 酸化亜鉛3種
・老化防止剤:NICOL LIMITED社製 PILFLEX 13
・硫黄:鶴見化学工業社製 金華印油入 微粉硫黄
・加硫促進剤:FLEXSYS社製 SANTOCURE CBS
【0035】
次いで、上述のタイヤ用ゴム組成物(ゴム1〜10)を用いて、タイヤサイズが245/50R18であり、
図1に示す基本構造を有し、溝下ゴム層を構成するゴム組成物の種類(溝下ゴムの種類)、トレッドゴム層を構成するゴム組成物の種類(トレッドゴムの種類)、溝下ゴム層を構成するゴム組成物の弾性率E1とトレッドゴム層を構成するゴム組成物の弾性率E2との比E2/E1、溝下ゲージ、溝下ゴム層とトレッドゴム層との境界の角度θを表2のように設定した比較例1〜7、実施例1〜5の12種類の空気入りタイヤを作製した
(尚、実施例1〜5のうち、比E2/E1が1.5〜4.5の範囲から外れる実施例1〜2,4〜5はそれぞれ参考例である)。
【0036】
尚、表2の「溝下ゴムの種類」の欄には、溝下ゴム層を構成するゴム組成物の弾性率を併せて示した。比較例1および比較例2は、トレッド部全体が単一のゴム組成物で構成された例であるが、表1では、溝下ゴム層とトレッドゴム層とが同じゴム組成物で構成されたものとして数値等を示したが、角度θについては、溝下ゴム層とトレッドゴム層との境界を判別できないため空欄にした。
【0037】
これら12種類の空気入りタイヤについて、下記の評価方法により、耐グルーブクラック性、操縦安定性、発熱性を評価し、その結果を表2に併せて示した。
【0038】
耐グルーブクラック性
各試験タイヤをリムサイズ18×8JJのホイールに組み付けて、空気圧50kPaを充填し、温度50℃の条件で100ppmhのオゾンを照射する容器内に1日放置した後、主溝の底面のクラック発生状況を目視で確認し、比較例1の結果を2点(基準)とする5段階で評価した。
【0039】
操縦安定性
各試験タイヤ(245/50R18)をリム18×8JJのホイールに組み付けて、空気圧を230kPaとして排気量2.5Lクラスの試験車両に装着し、乾燥路面からなる周回コースにて、テストドライバーによる官能評価を行った。評価結果は、比較例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど操縦安定性に優れることを意味する。尚、この指数値が「97」以上であれば、従来レベルを維持して充分に良好な操縦安定性を維持したことを意味する。
【0040】
発熱性
各試験タイヤにおいて溝下ゴム層に用いられたゴム組成物を、所定の金型中で160℃で30分間プレス加硫して試験片を作製し、この試験片の60℃におけるtanδを、粘弾性スペクトロメーター(東洋精機製作所社製)を用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hz、雰囲気温度60℃の条件で測定した。評価結果は、比較例1の測定値の逆数を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど60℃におけるtanδが小さく、低発熱性であることを意味する。
【0041】
【表2】
【0042】
表2から明らかなように、実施例1〜5はいずれも、比較例1に対して、操縦安定性および発熱性を維持または低減しながら、耐グルーブクラック性を向上した。一方、比較例2は、溝下ゲージが大きいため耐グルーブクラック性製には優れるが、操縦安定性および発熱性が悪化した。比較例3は、角度θが大きく、トレッド部において溝下ゴム層が占める割合が大きいため操縦安定性が悪化した。比較例4は、溝下ゴム層として弾性率が著しく大きいゴム(ゴム3)を用いたため、耐グルーブクラック性を向上することができず、また、発熱性も悪化した。比較例5は、弾性率の比E2/E1が過大であり、溝下ゴム層の弾性率が低く、トレッドゴム層の弾性率が高いため、操縦安定性バランスが悪化し、操縦安定性が悪化した。比較例6は、溝下ゴム層として充填剤(カーボンブラック)の配合量が過大であるゴム組成物(ゴム6)を用いたため、発熱性が悪化した。比較例7は、溝下ゴム層として老化防止剤を含まないゴム組成物(ゴム7)を用いたため、耐グルーブクラック性が悪化した。