(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両用変速機のハウジングが正面側にネジ止め固定される治具に対して、その治具の背面側から、前記ネジ止め固定に使用したネジ部品を弛め、前記変速機を前記治具から取り外す変速機の取り外し方法であって、
前記治具には、その正面部からその背面部にかけて、前記ネジ部品を螺合させるネジ孔が貫通して形成され、
前記ネジ部品の先端には、工具係合孔が形成され、
前記ハウジングがネジ止め固定された前記治具は、第1の搬送コンベヤ上に載置され、
前記方法は、
前記治具の背面側から前記工具係合孔に工具を挿入する挿入工程と、
前記工具を前記ネジ部品の弛め方向に回転させる回転工程と、
前記挿入工程の前に前記治具を、前記挿入工程及び前記回転工程が行われる作業位置に、前記第1の搬送コンベヤによって移動させる移動工程と、
前記回転工程の後に、前記治具から取り外された前記変速機を、前記作業位置から正面側に延びるように配置された第2の搬送コンベヤ上に支持させる支持工程と、を備えた
ことを特徴とする変速機の取り外し方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、治具の正面側からネジ部品を弛める際には、作業する位置によって、変速機のハウジングが妨げとなる場合がある。そのため、治具の正面側では、1つの作業位置で、ネジ止め固定に使用した全てのネジ部品を弛めることができない場合がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ネジ部品を弛める際に変速機のハウジングが妨げとなるのを防止し、容易に変速機を治具から取り外すことができる変速機の取り外し方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る変速機の取り外し方法は、車両用変速機のハウジングが正面側にネジ止め固定される治具に対して、その治具の背面側から、前記ネジ止め固定に使用したネジ部品を弛め、前記変速機を前記治具から取り外す変速機の取り外し方法であって、前記治具には、その正面部からその背面部にかけて、前記ネジ部品を螺合させるネジ孔が貫通して形成され、前記ネジ部品の先端には、工具係合孔が形成され、前記方法は、前記治具の背面側から前記工具係合孔に工具を挿入する挿入工程と、前記工具を前記ネジ部品の弛め方向に回転させる回転工程と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
また、前記ハウジングの開口部の周囲に設けられたフランジ部に、そのフランジ部の全周に亘って複数の挿通孔が形成され、前記ネジ部品及び前記ネジ孔は、前記各挿通孔に対応して其々複数設けられ、前記ネジ部品は、前記ハウジングの正面側から前記挿通孔に挿通されると共に、前記ネジ孔に螺合されている。
【0008】
また、前記挿入工程及び前記回転工程は、前記治具よりも背面側の位置に配置されたロボットにより行われる。
【0009】
また、前記ハウジングがネジ止め固定された前記治具は、第1の搬送コンベヤ上に載置され、前記方法は、前記挿入工程の前に前記治具を、前記挿入工程及び前記回転工程が行われる作業位置に、前記第1の搬送コンベヤによって移動させる移動工程を更に備える。
【0010】
また、前記回転工程の後に、前記治具から取り外された前記変速機を、前記作業位置から正面側に延びるように配置された第2の搬送コンベヤ上に支持させる支持工程を更に備える。
【0011】
また、前記支持工程は、前記第2の搬送コンベヤ上に載置された支持台により、取り外された前記変速機を支持する工程を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る変速機の取り外し方法によれば、ネジ部品を弛める際に変速機のハウジングが妨げとなるのを防止し、容易に変速機を治具から取り外すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施形態に係る変速機の取り外し方法を説明する。なお、図中に示す前後左右方向は、説明の便宜上定められたものに過ぎないものとする。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る変速機1の取り外し方法を実現する取り外し装置の全体構成を示す概略斜視図である。
図1中、破線部分Pは、後述する挿入工程及び回転工程が行われる作業位置を示す。
図2は、本実施形態における治具2の背面図であり、
図3は、
図1のIII−III断面図であり、治具2の縦断面図である。また、
図4は、
図2の破線部分Aの拡大図であり、
図5は、
図3の破線部分Bの拡大図である。
【0016】
先ず、
図1を参照して、車両用変速機1のハウジング10が治具2の正面側にボルト止め固定された構成を説明する。なお、本実施形態におけるボルト止め固定は、特許請求の範囲に記載のネジ止め固定に相当し、ボルト3は、特許請求の範囲に記載のネジ部品に相当する。
【0017】
変速機1のハウジング10は、前後方向に長く配置され、前部に変速機1のクラッチ機構(不図示)を収容し、後部に変速機1のギヤ機構(不図示)を収容する。また、ハウジング10は、前端部に円形状の開口部11を有しており、開口部11の周囲には、フランジ部12が設けられる。
【0018】
図2及び
図3に示すように、フランジ部12には、その全周に亘って複数(本実施形態では12個)の挿通孔13が形成される。フランジ部12及び挿通孔13は、本来は、図示しない車両の内燃機関にハウジング10をボルト止め固定するために用いられるが、本実施形態では、治具2にハウジング10をボルト止め固定するために用いられる。
【0019】
治具2には、その正面部2aからその背面部2bにかけて、ボルト3を螺合させるネジ孔20が貫通して形成されている。ネジ孔20は、フランジ部12の挿通孔13に対応して複数(本実施形態では12個)設けられる。
【0020】
具体的には、治具2は、変速機1の組み立てや検査等に用いられるものであり、鉛直方向に起立して配置される。治具2は、板状に形成されると共に、中央部に円形状の開口部21を有する。また、治具2は、水平方向に横置された板状の保持部材22の後端部上面に固定され、鉛直方向に起立した状態が保持されるようになっている。なお、治具2は、正面部2aが後方に向くように配置されており、正面部2aには、ハウジング10のフランジ部12が当接される。
【0021】
ボルト3は、六角頭付きボルトであり、フランジ部12の挿通孔13に対応して複数(本実施形態では12個)設けられる。ボルト3は、ハウジング10の正面側から挿通孔13に挿通されると共に、ネジ孔20に螺合されている。即ち、ボルト3を後方から前方に向かってネジ孔20に締め込むことで、ハウジング10が治具2の正面側にボルト止め固定され、変速機1が治具2に取り付けられる。また、詳細は後述するが、
図1に示すように、ハウジング10がボルト止め固定された治具2は、第1の搬送コンベヤ6上に載置される。
【0022】
次に、治具2から変速機1を取り外す方法(以下、単に「取り外し方法」と称する)を説明する。
【0023】
本実施形態に係る取り外し方法は、ハウジング10が正面側にボルト止め固定される治具2に対して、治具2の背面側から、ボルト止め固定に使用したボルト3を弛め、変速機1を治具2から取り外す。
【0024】
ここで、
図4及び
図5に示すように、ボルト3の先端には、工具係合孔としての六角孔30が形成されている。六角孔30は、ボルト3の先端面(即ち、ボルト3における頭部と反対側の端面)の軸中心位置に形成される。
【0025】
取り外し方法は、治具2の背面側から六角孔30に、工具としての六角レンチ4を挿入する挿入工程と、六角レンチ4をボルト3の弛め方向に回転させる回転工程と、を備える。
【0026】
挿入工程及び回転工程は、
図1に示すように、治具2よりも背面側の位置に配置されたロボット5により行われる。ロボット5は、多関節(本実施形態では、3関節)型のアームロボットからなり、前方から後方に向かってアーム50が延びるように配置される。ロボット5のアーム50の先端部には、ソケット51に固定された六角レンチ4が設けられる。また、図示しないが、ロボット5は、電子制御装置としてのコントローラに電気的に接続されており、コントローラにより、挿入工程及び回転工程を自動で行うように制御される。
【0027】
他方、取り外し方法は、挿入工程の前に治具2を、挿入工程及び回転工程が行われる作業位置Pに、第1の搬送コンベヤ6によって移動させる移動工程を備える。また、取り外し方法は、回転工程の後に、治具2から取り外された変速機1を、作業位置Pから正面側に延びるように配置された第2の搬送コンベヤ7上に支持させる支持工程を備える。更に、支持工程は、第2の搬送コンベヤ7上に載置された支持台8により、取り外された変速機1を支持する工程を含む。
【0028】
第1の搬送コンベヤ6は、ローラコンベヤからなり、ロボット5の後方の位置にて、左側から右側に向かって直線状に延びるように配置される。また、第1の搬送コンベヤ6は、保持部材22を介して治具2を載置している。更に、第1の搬送コンベヤ6は、コントローラに電気的に接続されており、コントローラにより、移動工程を自動で行うように制御される。
【0029】
第2の搬送コンベヤ7は、ローラコンベヤからなり、第1の搬送コンベヤ6と直交する方向に配置される。また、第2の搬送コンベヤ7は、支持台8を介して、治具2から取り外された変速機1を載置する。更に、第2の搬送コンベヤ7は、コントローラに電気的に接続されており、コントローラにより、支持工程を自動で行うように制御される。
【0030】
なお、上記の第1の搬送コンベヤ6及び第2の搬送コンベヤ7の種類は任意であり、例えば、ベルトコンベア等であっても良い。
【0031】
次に、取り外し方法を作業手順に沿ってより詳細に説明する。なお、ハウジング10は、既に治具2にボルト止め固定され、第1の搬送コンベヤ6上に載置されているものとする。
【0032】
先ず、移動工程として、コントローラは、第1の搬送コンベヤ6を制御して、治具2を左側から右側に向かって移動させ、作業位置Pで停止させる。このとき、ハウジング10は、第1の搬送コンベヤ6における作業位置Pから、後方に向かって突出するように配置される。
【0033】
続いて、コントローラは、第2の搬送コンベヤ7を制御して、支持台8を後方から前方に向かって移動させて、支持台8をハウジング10の下方に潜り込ませる。即ち、支持台8は、変速機1が治具2から取り外される前に、予めハウジング10の下部に当接させておき、治具2から取り外された変速機1を即座に且つ同一高さで支持できるように準備される。
【0034】
次に、挿入工程として、コントローラは、ロボット5を制御して、予め設定された1つ目のボルト3の六角孔30と同軸になる位置に六角レンチ4を配置させ、六角レンチ4を後方に移動させる。これにより、六角孔30に六角レンチ4が挿入されて係合される。
【0035】
続いて、回転工程として、コントローラは、ロボット5を制御して、六角レンチ4をボルト3の弛め方向に回転させて、ネジ孔20に対してボルト3を後退移動させる。この回転動作は、ボルト3がネジ孔20から後方に抜け出る位置に達するまで行われる。これにより、1つ目のボルト3が、対応するネジ孔20から抜かれた状態となる。
【0036】
そして、コントローラは、ロボット5を制御して、六角レンチ4を前方に移動させて、六角レンチ4を六角孔30から抜き出すと共にネジ孔20からも抜き出す。
【0037】
また、コントローラは、ロボット5を制御して、予め設定された順番で、全てのボルト3に対して、上記の挿入工程及び回転工程を繰り返す。これにより、ボルト3が、螺合されたネジ孔20から1つずつ抜かれてゆき、最終的に、ボルト3が全てのネジ孔20から抜かれる。その結果、ボルト止め固定が解除されて、変速機1が治具2から取り外された状態となる。
【0038】
そして、支持工程として、治具2から取り外された変速機1は、予めハウジング10の下部に当接させておいた支持台8によって、同一高さを保ったまま、即座に支持されて、第2の搬送コンベヤ7上に支持される。
【0039】
その後、コントローラは、第2の搬送コンベヤ7を制御して、支持台8を前方から後方に向かって移動させる。これにより、支持台8に支持された変速機1が支持台8と共に退避、搬送される。また、コントローラは、第1の搬送コンベヤ6を制御して、変速機1が取り外された治具2を、作業位置Pから右側に向かって移動させる。
【0040】
以上、本実施形態によれば、ハウジング10が正面側にボルト止め固定される治具2に対して、治具2の背面側から全てのボルト3を弛め、変速機1を治具2から取り外すことができる。
【0041】
また、上記の各工程は、コントローラにより制御されたロボット5及び搬送コンベヤ6,7により自動化されるため、作業者の負担を軽減できるだけでなく、作業の精度を向上させることが可能となる。
【0042】
ここで、比較例として、仮に、本実施形態のように治具2の背面側からボルト3を弛めるのではなく、治具2の正面側からボルト3を弛める場合を想定する。
【0043】
図6は、この比較例における取り外し方法を説明するための概略斜視図である。この比較例では、治具2よりも正面側の位置で、且つ、ハウジング10よりも左右の位置に、ロボット5L’及びロボット5R’が配置される。また、ボルト止め固定に使用するボルト3’は、その先端に六角孔30を有しないものとする。その他の部分は、本実施形態と同じなので、同一の構成要素については同一の符号を用い、それらの詳細な説明は省略する。
【0044】
ロボット5L’及び5R’は、多関節(3関節)型のアームロボットからなり、其々のアームの先端部には、ボルト3’の頭部に係合可能なソケット9が設けられる。
【0045】
そして、各ソケット9を治具2の正面側からボルト3’の頭部に係合させて、ボルト3’の弛め方向に回転させることで、ボルト3’をネジ孔(不図示)から後方に抜き出して、ボルト止め固定を解除し、変速機1を治具2から取り外す。
【0046】
しかしながら、この比較例では、例えば、ハウジング10の左側のロボット5L’により、右側のロボット5R’に近い側のフランジ部12に位置するボルト3’を弛めようとすると、左側のロボット5L’のアームがハウジング10に妨げられる。また同様に、右側のロボット5R’により、左側のロボット5L’に近い側のフランジ部12に位置するボルト3’を弛めようとすると、右側のロボット5R’のアームがハウジング10に妨げられる。即ち、ロボット5L’及び5R’は、其々、ハウジング10の反対側に位置するボルト3’を弛めることができないため、ロボット5L’及び5R’のいずれか一方のみで全てのボルト3’を弛めることができない。よって、ハウジング10の左右の位置に、少なくともロボットを2つ配置しなければならない。
【0047】
これに対して、本実施形態では、
図1〜
図3に示すように、治具2の背面側の位置に配置された1つのロボット5により、治具2の背面側から六角孔30に六角レンチ4を挿入して、ボルト3を弛めるため、ロボット5のアーム50がハウジング10に妨げられることはない。そのため、比較例のように、ハウジング10の左右の位置に2つのロボットを配置する必要がなく、治具2の背面側の位置に配置された1つのロボット5だけで、変速機1を治具2から取り外すことができる。
【0048】
よって、本実施形態によれば、ボルト3を弛める際にハウジング10が妨げとなるのを防止し、容易に変速機1を治具2から取り外すことができる。
【0049】
また、本実施形態によれば、比較例と比べて、ロボットの数を減らすことができるため、製造コストを抑えることが可能となる。
【0050】
また特に、本実施形態の取り外し方法においては、治具2の正面部2aからその背面部2bにかけて、ネジ孔20が貫通して形成されており、ボルト3の先端に六角孔30が形成されている。そのため、治具2の背面側から、全てのボルト3の六角孔30に対して最短距離でアクセスできるため、簡単且つ効率的に挿入工程及び回転工程を行うことができる。
【0051】
更に、支持工程においては、支持台8は、ボルト止め固定が解除される前から、予めハウジング10の下部に当接されており、変速機1を一定高さで支持可能な位置に配置される。そのため、上記の通り、ボルト止め固定が解除された時点から、即座に且つ同一高さで変速機1を支持することができるので、ボルト3がネジ孔20から抜き出されたときに、変速機1が支持台8上面に落下するのを防止することができる。
【0052】
加えて、このように支持台8を、ボルト止め固定の解除前後で変速機1が一定高さにキープされるように配置しておくことで、ボルト3を次々と弛める最中に、まだ締め付けられているボルトに対し、ハウジング10の重さによりボルト3に掛かる負荷を抑制することができる。そのため、最後の一本のボルト3がネジ孔20から抜き出されるまで、簡単にボルト3を弛めることができる。
【0053】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0054】
例えば、図示しないが、工具としての六角レンチ4は、他の形状の回転工具、例えば、四角レンチであっても良い。また、工具係合孔としての六角孔30は、他の形状の係合孔、例えば、四角孔であっても良い。
【0055】
また、図示しないが、上述の実施形態は、以下のように変形することができる。なお、下記の説明において、上述の基本実施形態と同一の構成要素については詳細な説明は省略する。
【0056】
(第1変形例)
上記の各工程の少なくとも1つは、手作業で行われても良い。例えば、挿入工程及び回転工程の少なくとも一方を、ロボットを用いることなく、作業者により手作業で行っても良い。
【0057】
この場合、作業者は、六角レンチを把持して、治具の背面側から六角孔に六角レンチを挿入し、六角レンチを回転させてボルトを弛める。
【0058】
ここで、比較例として、仮に、作業者が治具の正面側からボルトを弛める場合を想定する。この場合、ハウジングの左右どちらか一方のみの作業位置でこれらの工程を行うと、ハウジングが妨げとなり、全てのボルトを弛めることが困難となる。そのため、作業者は、例えば、ハウジングの左側に位置するボルトを弛めた後で、ハウジングの右側に回り込んで、右側に位置するボルトを弛める必要がある。
【0059】
これに対して、この第1変形例であれば、このような作業者の移動を伴うことなく、治具の背面側の位置のみで、容易にボルトを弛めることができる。
【0060】
他方、移動工程及び支持工程の少なくとも一方を、コントローラで自動制御することなく、作業者により手作業で行っても良い。
【0061】
(第2変形例)
上記の実施形態では、第1の搬送コンベヤ6上で、ハウジング10がボルト止め固定された治具2の背面部2bが、完全に前方に向くように配置されている。但し、この治具2は、例えば、治具2の背面部2bが左斜め前方に向くように配置されても良い。
【0062】
また、第2の搬送コンベヤ7及び支持台8も、この治具2及び変速機1の向きに合わせて、上下方向軸回りに若干傾斜して配置されても良い。