特許第6809123号(P6809123)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6809123連続した強化繊維束の開繊方法および強化繊維束の開繊装置、ならびに強化繊維束を用いた繊維強化樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809123
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】連続した強化繊維束の開繊方法および強化繊維束の開繊装置、ならびに強化繊維束を用いた繊維強化樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D02J 1/18 20060101AFI20201221BHJP
【FI】
   D02J1/18 Z
【請求項の数】14
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-205188(P2016-205188)
(22)【出願日】2016年10月19日
(65)【公開番号】特開2017-89083(P2017-89083A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2019年10月16日
(31)【優先権主張番号】特願2015-217261(P2015-217261)
(32)【優先日】2015年11月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】越 政之
(72)【発明者】
【氏名】大目 裕千
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−073978(JP,A)
【文献】 特開2007−009357(JP,A)
【文献】 特表2007−518890(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/137525(WO,A1)
【文献】 特開2013−159876(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/171016(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00 − 13/02
D02G 1/00 − 3/48
D02J 1/00 − 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に供給される強化繊維束を、側面に吸引部が設けられた容器内に導入し、前記吸引部から空気を吸引することにより前記繊維束の周方向に気流を発生させ、該強化繊維束を周方向に開繊させることを特徴とする強化繊維束の開繊方法。
【請求項2】
前記容器内に給糸管と排糸管とが間隔をあけて正対するように設けられ、前記排糸管の内壁と、該排糸管の内部に挿入された形態維持部材との間隙に、開繊後の強化繊維束が送り込まれて排糸する請求項1記載の強化繊維束の開繊方法。
【請求項3】
前記形態維持部材の内部から、前記開繊後の強化繊維束に向かって空気が送風される請求項2に記載の強化繊維束の開繊方法。
【請求項4】
前記強化繊維束を前記容器に導入する前に、該強化繊維束の張力を解除する請求項1〜3のいずれかに記載の強化繊維束の開繊方法。
【請求項5】
前記強化繊維束を前記容器に導入する前に、該強化繊維束を予熱する請求項1〜4のいずれかに記載の強化繊維束の開繊方法。
【請求項6】
前記強化繊維束が炭素繊維である請求項1〜5のいずれかに記載の強化繊維束の開繊方法。
【請求項7】
前記強化繊維束を構成する繊維本数が1,000〜100,000である請求項1〜6のいずれかに記載の強化繊維束の開繊方法。
【請求項8】
強化繊維束を連続的に供給する供給機構と、供給された前記強化繊維束を内部に導入する容器とを備える強化繊維束の開繊装置であって、
前記容器の側面に吸引部が設けられるとともに、前記容器内に給糸管と排糸管が間隔をあけて正対するように設けられ前記繊維束の周方向に気流を発生させて該繊維束を周方向に開繊させるための、前記吸引部から空気を吸引する吸引機構を備えることを特徴とする強化繊維束の開繊装置。
【請求項9】
前記排糸管の内部に、開繊後の前記強化繊維束形態を維持できる形態維持部材が設けられている、請求項8に記載の強化繊維束の開繊装置。
【請求項10】
前記形態維持部材の内部に、前記開繊後の強化繊維束に空気を送風する送風機構を更に備える、請求項9に記載の強化繊維束の開繊装置。
【請求項11】
前記容器の上流側に、前記強化繊維束の張力を解除する解除機構を備える、請求項8〜10のいずれかに記載の強化繊維束の開繊装置。
【請求項12】
前記容器の上流側に、前記強化繊維束を予熱する予熱機構を備える、請求項8〜11のいずれかに記載の強化繊維束の開繊装置。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれかに記載の強化繊維束の開繊方法により開繊された強化繊維束にマトリックス樹脂を供給して繊維強化樹脂を製造する方法であって、該マトリックス樹脂が溶融樹脂もしくは粉末樹脂である繊維強化樹脂の製造方法。
【請求項14】
前記マトリックス樹脂が熱可塑樹脂である請求項13に記載の繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続した強化繊維束の開繊方法および強化繊維束の開繊装置、ならびに強化繊維束を用いた繊維強化樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、連続した強化繊維束にマトリックス樹脂を含浸させてなる繊維強化プラスチックは、比強度、比剛性に優れ、軽量化効果が高い上に、耐熱性、耐薬品性が高いため、航空機、自動車等の輸送機器やスポーツ、電気・電子部品用途へ好ましく用いられている。
【0003】
繊維強化プラスチックはマトリックス樹脂を連続した強化繊維束の束内に十分含浸させて製造される。マトリックス樹脂には熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が使用されるが、強化繊維束への樹脂の含浸には樹脂の粘度が大きく影響し、束ねられた強化繊維間に樹脂を含浸させるのは困難で、特に熱可塑性樹脂は粘度が非常に高いため、熱可塑性樹脂を溶融させた状態で繊維束をその中に通しても繊維束の外周に被覆ができるだけで、繊維間には殆ど含浸しない。
【0004】
そのため、樹脂の含浸を促進させるために、強化繊維束を開繊し、マトリックス樹脂の含浸距離を短くする必要がある。
【0005】
従来、繊維束を開繊する方法としては、丸棒で繊維束を扱いて構成繊維を延し広げる方法、水流や高圧空気流を当てて構成繊維を幅方向へ散ける方法、そして超音波で各繊維を振動させ散けさせる方法等が知られている。しかし、丸棒で繊維束を扱く方法や超音波で繊維を振動させる方法では、繊維に付加される力が強いため毛羽の発生や糸切れが生じやすく、水流を利用した方法では繊維束の乾燥が必要となりコストアップの要因となる。このため、空気流を利用した方法が広く利用されている。
【0006】
空気流を利用した方法としては、特開平2008−255529公報のように加圧ガスを容器内で膨張させて繊維束を開繊する方法が知られている。しかし、このような方法ではサイジング剤などで収束された強化繊維の開繊は難しい。そのため、従来は特開平11−200136公報のように強化繊維束に気流をあて、その反対側を吸引することで繊維束を幅方向に開繊する方法や特開2003−213537公報のように吸引気流を繊維束に交差させる方法が知られている。しかし、繊維束を幅方向に広げる方法は、繊維束の周囲にマトリックス樹脂が被覆することに変わりはなく、特に熱可塑性樹脂のような高粘度のマトリックス樹脂では、マトリックス樹脂の含浸に長い含浸時間や強い外力が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−255529号公報
【特許文献2】特開平11−200136号公報
【特許文献3】特開2003−213537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、これら従来技術の課題に鑑み、毛羽の発生が少なく、マトリックス樹脂の含浸に好適な強化繊維束の開繊方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、主として以下の構成を有する。
[1]連続的に供給される強化繊維束を、側面に吸引部が設けられた容器内に導入し、前記吸引部から空気を吸引することにより前記繊維束の周方向に気流を発生させ、該強化繊維束を周方向に開繊させることを特徴とする強化繊維束の開繊方法。
[2]前記容器内に給糸管と排糸管が間隔をあけて正対するように設けられ、前記排糸管の内部に挿入された形態維持部材に開繊後の繊維束が送り込まれ、前記開繊後の強化繊維束形態を維持させたまま送り出される[1]記載の強化繊維束の開繊方法。
[3]前記形態維持部材の内部から、前記開繊後の強化繊維束に向かって空気が送風される[2]に記載の強化繊維束の開繊方法。
[4]前記強化繊維束を前記容器に導入する前に、該強化繊維束の張力を解除する[1]〜[3]のいずれかに記載の強化繊維束の開繊方法。
[5]前記強化繊維束を前記容器に導入する前に、該強化繊維束を予熱する[1]〜[4]のいずれかに記載の強化繊維束の開繊方法。
[6]前記強化繊維束が炭素繊維である[1]〜[5]のいずれかに記載の強化繊維束の開繊方法。
[7]前記強化繊維束を構成する繊維本数が1,000〜100,000である[1]〜[6]のいずれかに記載の強化繊維束の開繊方法。
[8]強化繊維束を連続的に供給する供給機構と、供給された前記強化繊維束を内部に導入する容器とを備える強化繊維束の開繊装置であって、
前記容器の側面に吸引部が設けられるとともに、前記容器内に給糸管と排糸管が間隔をあけて正対するように設けられ前記繊維束の周方向に気流を発生させて該繊維束を周方向に開繊させるための、前記吸引部から空気を吸引する吸引機構を備えることを特徴とする強化繊維束の開繊装置。
[9]前記排糸管の内部に、開繊後の前記強化繊維束形態を維持できる形態維持部材が設けられている、[8]に記載の強化繊維束の開繊装置。
[10]前記形態維持部材の内部に、前記開繊後の強化繊維束に空気を送風する送風機構を更に備える、[9]に記載の強化繊維束の開繊装置。
[11]前記容器の上流側に、前記強化繊維束の張力を解除する解除機構を備える、[8]〜[10]のいずれかに記載の強化繊維束の開繊装置。
[12]前記容器の上流側に、前記強化繊維束を予熱する予熱機構を備える、[8]〜[11]のいずれかに記載の強化繊維束の開繊装置。
[13][1]〜[7]のいずれかに記載の強化繊維束の開繊方法により開繊された強化繊維束にマトリックス樹脂を供給して繊維強化樹脂を製造する方法であって、該樹脂が溶融樹脂もしくは粉末樹脂である繊維強化樹脂の製造方法。
[14]前記樹脂が熱可塑性樹脂である[13]に記載の繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下に説明するとおり、強化繊維束の円周方向に空気流を生じさせることにより、強化繊維束を円周方向に開繊させることができる。このような強化繊維束の開繊方法は、強化繊維束の毛羽の発生が少なく、強化繊維が円周方向に開繊することから繊維同士の間隔が広がり、マトリックス樹脂の含浸に好適な開繊強化繊維束を安定的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るプロセスの概略斜視図である。
図2】開繊装置の概略断面図である。
図3】形態維持部材12を設置した装置の断面図である。
図4】本発明の開繊繊維束の断面図である。
図5】従来技術で開繊された開繊繊維速の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0013】
図1図2および図3は、本発明の一実施態様に係る開繊方法および開繊装置を示している。図4および図5はそれぞれ、本発明により開繊された開繊繊維束、従来の開繊技術により開繊された開繊繊維束の概略断面図である。
【0014】
先ず、図1および図2を用いて本発明の開繊装置および開繊方法について説明する。
【0015】
強化繊維束20は、加熱機構10で加熱され、張力解除機構11で張力を解除された後、連続的に給糸口2を通って開繊装置1内に給糸される。開繊装置1の容器8内まで延設された給糸管4から出た強化繊維束20は、容器8の側面に設けられた吸引部7から空気を吸引することにより、強化繊維束20の周方向に気流が発生するため、強化繊維束20を周方向に開繊させることができる。開繊された強化繊維束20は、給糸管4とギャップ6を介して、容器8内部に延設して設けられた排糸管5に導入され、排糸口3から開繊繊維束21として排出される。
【0016】
本発明の開繊装置1の内部は、図2に示すように、密閉された容器8内で吸引管7から空気が吸引されることにより、給糸口2及び排糸口3からギャップ6を通じて吸引管7より排出される空気流を生じさせることができる。この空気流は、図2の矢印で示すように、給糸管4と排糸管5の狭い流路からギャップ6にて急激が広がるため、周方向に空気流を生じさせることができる。この空気流により、ギャップ6を通過する強化繊維束20を、周方向に開繊させることができる。
【0017】
ここで、本発明に用いる強化繊維束20について説明する。
【0018】
本発明に用いる強化繊維束20としては、特に限定されないが、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維、PBO繊維、高強力ポリエチレン繊維などの高強度、高弾性率繊維が使用でき、1種または2種以上を併用してもよい。中でも、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が力学特性の向上、成形品の軽量化効果の観点から好ましく、得られる成形品の強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系炭素繊維がさらに好ましい。
【0019】
強化繊維束は、通常、多数本の単繊維を束ねた繊維束を1本または複数本並べて構成される。1本または複数の繊維束を並べたときの繊維束の総フィラメント数(単繊維の本数)は、1,000〜2,000,000本が好ましい。生産性の観点からは、繊維束の総フィラメント数は、1,000〜1,000,000本がより好ましく、1,000〜600,000本がさらに好ましく、1,000〜300,000本が特に好ましい。強化繊維束の総フィラメント数の上限は、分散性や取り扱い性とのバランスも考慮して、生産性と分散性、取り扱い性を良好に保てるようであればよい。
【0020】
1本の強化繊維束は、好ましくは平均直径5〜10μmである強化繊維束の単繊維を1,000〜100,000本束ねて構成される。
【0021】
また、強化繊維束20はサイジング剤を付着することができる。付着するサイジング剤の種類、量により、強化繊維束20の開繊度合い、予熱工程における予熱のしやすさ、張力の解除の容易さが異なる。さらに、サイジング剤が付着されていることにより、集束性、耐屈曲性や耐擦過性を改良し、開繊工程において、毛羽、糸切れの発生を抑制でき、生産性を向上することができる。
【0022】
連続的に給糸される強化繊維束20は、強化繊維束20の状態により前処理が必要な場合には、適当な前処理を施すことが好ましい。特に、サイジング剤により強化繊維束20に柔軟性がない場合は、強化繊維束20をヒーターや熱風ノズルで加熱する加熱機構10を設け、サイジング剤を軟化あるいは除去することが好ましい。
【0023】
また、連続的に給糸される強化繊維束20の張力を低くした状態で、開繊装置1の容器8内に導入することが好ましい。連続した強化繊維束20を開繊装置1に導入する上流側に、張力を解除できる機構11を設けることにより、開繊装置1内で強化繊維束20を開繊しやすくすることができる。なお、図1では、加熱機構10の下流側に張力解除機構11を設ける態様を示しているが、これに限定されるものではなく、いずれか一方のみ設置したり、逆順に配置したり、複数設置することも可能である。
【0024】
連続的に給糸される強化繊維束20を開繊装置1に導入する給糸口2と、開繊装置で開繊された開繊繊維束21を開繊装置1より排糸する排糸口3とは、容器8内における強化繊維束20の走行方向と実質的に同方向に設けることが好ましい。さらに、排糸口3は、給糸口2に対し実質的に一直線上に、対抗する位置に設けられることが更に好ましい。
【0025】
開繊装置1内は、吸引管7から吸入される空気の流れによって容器外よりも圧力が低下した状態になるため、給糸口2や排糸口3からも空気が開繊装置1内に流入しようとする気流が生じる。給糸口2では、更に強化繊維束20の走行に伴う随伴流が開繊装置1内に流入することがある。給糸口2、排糸口3から流入する空気が多いと、吸引管7から吸入された空気の流線に乱れが生じやすく、開繊を阻害する要因となる。このため、給糸口2、排糸口3の開口面積はできる限り小さいほうが好ましい。
【0026】
給糸管4及び排糸管5は、強化繊維の種類、強化繊維の太さ、強化繊維の状態等から、最適寸法や材質を適宜選定することができる。給糸管4の形状は柱状であっても良く、円柱形状であっても良い。さらには給糸口2側から順次円錐状に断面積が大きくなっても良いし、その逆であっても良い。またさらには、給糸口2側もしくは反対側(ギャップ6に連通する開口部)の断面がラッパ状に急激に広がる形状であっても良い。排糸管5も同様の形状とすることができる。
【0027】
ギャップ6の間隔は、強化繊維の種類、強化繊維の太さ、強化繊維の状態等から適宜選定することができる。ただし、間隔が狭すぎる場合は気流の発生が限定され、十分に強化繊維束20が開繊されなくなるおそれがある。逆に間隔が広すぎる場合には、強化繊維束20に気流が作用しなくなり、十分に開繊されないおそれがある。
【0028】
吸引管7を通過する流量は1L/min〜5000L/minが好ましく、5L/min〜2000L/minがより好ましく、10L/min〜1000L/minがさらに好ましい。1L/min以下では強化繊維束が開繊するのに十分な空気流が発生せず、5000L/min以上では毛羽の発生が生じやすく、繊維進行方向に発生する空気流の強い流れのために強化繊維束の安定的な走行を妨げる要因となる。
【0029】
本発明に用いる容器8の形態は特に限定されるものではなく、矩形や柱形が好ましく用いられる吸引管7の本数は特に制限はないものの、強化繊維束20の走行方向に対して交差するように吸引管7を設けて開繊させることから、向かい合わせで対になるように設けることが好ましい。容器8が直方体の場合には、4つの側面全てに吸引管7を取り付けることができる。吸引管7の位置は特に制限されないが、向かい合う一対の吸引管7を結ぶ中心線が、ギャップ6の中心位置と同じ高さの位置になるように設けると、効率よく強化繊維束20の周方向に気流を生じさせることができる。
【0030】
開繊装置1で開繊された強化繊維束20は、開繊された開繊繊維束21となって排糸管5へ送られる。
【0031】
開繊繊維束21は、繊維の種類、繊維の太さ及び繊維の状態により、排糸管5内で収束する可能性がある。このため、図3に示すように、排糸管5内に開繊状態を維持させる形態維持部材12を設置しておくと、ギャップ6で得られた開繊状態を維持することができる。
【0032】
形態維持部材12の形状は特に指定されないが、円周方向に開繊した繊維束の状態を良好に維持するためには円柱状であることが好ましい。また、開繊繊維束との擦過を防ぐために、形態維持部材12の表面への潤滑剤の塗布や形態維持部材12から空気の噴出が効果的である。
【0033】
本発明の方法により開繊された強化繊維束20は開繊状態を維持したままマトリックス樹脂を含浸させることにより、繊維強化樹脂とすることができる。含浸方法としては、例えば、フィルム状のマトリックス樹脂を溶融し、加圧することで強化繊維束にマトリックス樹脂を含浸させるフィルム法、粉末状のマトリックス樹脂を強化繊維束における繊維の隙間に分散させた後、粉末状のマトリックス樹脂を溶融し、加圧することで強化繊維束にマトリックス樹脂を含浸させる粉末法、溶融したマトリックス樹脂中に強化繊維束を浸し、加圧することで強化繊維束にマトリックス樹脂を含浸させる引き抜き法が挙げられる。
【0034】
本発明に使用されるマトリックス樹脂としては熱可塑樹脂もしくは熱硬化樹脂のいずれを用いてもよい。
【0035】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、液晶ポリエステル樹脂等のポリエステルや、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリブチレン樹脂等のポリオレフィンや、スチレン系樹脂の他や、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリメチレンメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリスルホン(PSU)樹脂、変性PSU樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリケトン(PK)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂などのフッ素系樹脂、更にポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリイソプレン系樹脂、フッ素系樹脂等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体、変性体、および2種類以上ブレンドした樹脂などであってもよい。
【0036】
熱硬化樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂などが挙げられる。
【0037】
このうち、樹脂粘度が高く含浸の難しい熱可塑性樹脂であれば、本発明の開繊の効果が高く発現でき好ましい。
【0038】
本発明によって得られた開繊繊維束21は、図4に示すように、円周方向に広く、略均一に開繊されたものである。開繊により強化繊維30同士の間隔が広がることから、マトリックス樹脂31は容易に強化繊維30の繊維間に容易に浸透することができる。一方、本発明を用いない場合には、図5に示すように、強化繊維束20が幅方向に拡がり、繊維中心間までの距離は短くなるものの、強化繊維30同士の間隔は変化しないため、マトリックス樹脂31は開繊繊維束32の周囲のみを被覆する。すなわち、強化繊維30同士の隙間にまで十分に樹脂が含浸せず、開繊繊維束32の内部に未含浸部分が生じるため、繊維強化樹脂として十分な機械特性等が発揮できないものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る開繊繊維束は従来技術では達成できなかった、マトリックス樹脂の含浸に好適な開繊状態を達成できるため、あらゆる繊維強化プラスチックの製造に利用できる。
【符号の説明】
【0040】
1 開繊装置
2 給糸口
3 排糸口
4 給糸管
5 排糸管
6 ギャップ
7 吸引管
8 容器
10 加熱機構
11 張力解除機構
12 形態維持部材
20 強化繊維束
21 開繊繊維束
30 強化繊維
31 マトリックス樹脂
32 開繊繊維束
図1
図2
図3
図4
図5