特許第6809135号(P6809135)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6809135コーティング用組成物、コート層付セパレータ、コート層付集電板及び燃料電池
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  • 特許6809135-コーティング用組成物、コート層付セパレータ、コート層付集電板及び燃料電池 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809135
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】コーティング用組成物、コート層付セパレータ、コート層付集電板及び燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0228 20160101AFI20201221BHJP
   H01B 1/24 20060101ALI20201221BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20201221BHJP
【FI】
   H01M8/0228
   H01B1/24 A
   !H01M8/10 101
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-211459(P2016-211459)
(22)【出願日】2016年10月28日
(65)【公開番号】特開2018-73603(P2018-73603A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】深川 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】出口 直幹
(72)【発明者】
【氏名】諸石 順幸
【審査官】 渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−117819(JP,A)
【文献】 特開2015−220162(JP,A)
【文献】 特開2011−076806(JP,A)
【文献】 特開2001−181519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/0228
H01B 1/24
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料(A)と、けん化度が50〜90mol%であるポリビニルアルコール樹脂、アセタール化度が60〜80mol%であるポリビニルアセタール樹脂およびブチラール化度が50〜90mol%であるポリビニルブチラール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つの分散樹脂(B)と、ポリフッ化ビニリデンおよび/またはポリテトラフルオロエチレンからなるバインダー(C)と、を含んでなる燃料電池用コート層付きセパレータまたは集電板に使用するための導電性コーティング用組成物。
【請求項2】
炭素材料(A)、分散樹脂(B)、バインダー(C)の固形分の合計100質量%中、炭素材料(A)の含有量が、25〜65質量%、分散樹脂(B)の含有量が、0.5〜10質量%である請求項1記載の導電性コーティング用組成物。
【請求項3】
分散樹脂(B)は、けん化度が70〜90mol%であるポリビニルアルコール樹脂および/またはブチラール化度が60〜80mol%あるポリビニルブチラール樹脂である請求項1または2記載の導電性コーティング用組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の導電性コーティング用組成物から形成されたコート層を有する燃料電池用集電板。
【請求項5】
請求項1〜3いずれか記載の導電性コーティング用組成物から形成されたコート層を有する燃料電池用金属セパレータ。
【請求項6】
請求項4記載の燃料電池用集電板、または請求項5記載の燃料電池用金属セパレータ、を具備してなる燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング用組成物、それを使用するコート層付セパレータ、コート層付集電板及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電気化学システムを用いて化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換できるシステムであり、高効率であるため次世代エネルギーとして期待されている。特に、固体高分子型燃料電池は作動温度が低く、高効率である点から自動車用、定置用、小型モバイル用に活発に開発が進められている。
【0003】
燃料電池の基本的な単位構成(単セル)は、固体高分子電解質膜を挟んで、対面するようにアノード触媒層とカソード触媒層が設けられており、該触媒層の表面にガス拡散性を有する導電性支持体、セパレータが順次積層されたものが一般的である。実際に燃料電池デバイスとして使用される際には、必要な電力に応じて単セルを複数スタックさせて使用されることも多く、通常、電流の取出しにはデバイスの両端に集電板を設けることが多い。
【0004】
一般的なセパレータは、セパレータ表面が凸凹状をしており、燃料(水素、メタノール等)や酸素の供給経路を有する。燃料極に対向するセパレータでは燃料を流通させ、空気極に対向するセパレータでは酸化剤ガスを流通させる。従って、セパレータは燃料電池の使用環境雰囲気において、しばしば耐食性に問題を抱えることが多い。また、セパレータ表面から導電性支持体を通して触媒層へ燃料や酸素が供給されることで発電反応が起こるため、発生した電力を取り出すためにはセパレータへ高い導電性が求められる。セパレータは、還元性の水素ガス、空気等の酸化剤ガス、冷却水などの冷却媒体、その他反応副生成物(蟻酸、水蒸気等)に曝され、さらに通電による電気化学反応の作用も受けるため、これらに対する耐食性も重要な特性である。その他、水などの反応生成物の除去、燃料の外部漏出防止等の役割も大きい。一方、セパレータと導電性支持体や集電板との接触抵抗低減や、単セルの複数スタック時にはセパレータ間の接触抵抗低減も求められる。従って、セパレータは耐腐食性を有しながらも、優れた導電性を示すことが課題である。
【0005】
セパレータはカーボン系と金属系に大別できる。カーボン系セパレータは緻密カーボングラファイト等のカーボン系材料がある。カーボン系材料は耐食性に優れているが、機械的耐性に乏しいため薄型化が難しい。また、プレス加工が困難であり、切削加工により流路やマニホールドを成形することになる結果、加工コストが高くなり量産性に問題があった。さらに、近年の高い出力が要求される燃料電池に対しては、カーボン系材料だけでは十分な導電性を満足出来ないことが多い。一方、金属系セパレータの材料としては、ステンレス鋼(SUS)、チタン、アルミニウム等が挙げられる。これらの材料は強度、延性に優れていることから、流路やマニホールドを成型するためのプレス加工が容易であり、加工コストが安価で量産性に優れている。さらには板厚の薄い金属を用いることが可能であり、燃料電池スタックの質量や容積を低減できる効果もある。しかしながら、金属系セパレータは燃料電池の使用環境雰囲気において耐酸化性に劣り、導電性支持体との接触抵抗の増加など電池特性へ悪影響を及ぼすという問題があった。
【0006】
上記課題を解決するために、例えば特許文献1には、金属製セパレータの表面に、黒鉛からなる導電性炭素材料を含有する層を形成する手法が開示されている。また、特許文献2には、イオン性樹脂及び導電性粉末からなる塗料を電着法により金属製セパレータの表面に層形成する方法が開示されているが、これらの発明では、導電性材料の分散性が悪く、金属セパレータ表面の酸化抑制効果は不十分であった。
【0007】
一方、特許文献3には、バインダー樹脂からなる被覆層が表面に形成された黒鉛粉末を成形加工し、600℃以上で焼成することにより得られることを特徴とする親水性多孔質炭素材を用いてなるセパレータが開示されている。また、特許文献4には、プラズマイオン注入法によって表面にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜が形成されたセパレータが開示されているが、これらの発明では、量産性に乏しく、大型のセパレータを安価に製造することは困難であった。
【0008】
さらに、金属製セパレータの表面に導電性塗料を塗布して導電性塗膜を形成し、耐食性、耐酸性を改善する発明も開示されている(特許文献5〜8)。特許文献5には、炭素系導電材料と、結着材としてフッ化ビニリデンと六フッ化プロピレンとの共重合体、あるいはスチレン−ブタジエン共重合体、アクリル−スチレン共重合体、アクリル−シリコーン共重合体のエマルションを用いてなるセパレータ用塗料が開示されている。特許文献6には、炭素系導電材料と、結着材として六フッ化プロピレン部位が5〜30%を占めるフッ化ビニリデンと六フッ化プロピレンとの共重合体からなる被覆層を有するセパレータが開示されている。特許文献7には、金属製セパレータの表面に、炭素材料と、バインダーとして酸変性ポリオレフィンを用いてなる水性導電性塗料を塗布乾燥し、層形成する手法が開示されている。また、特許文献8には、二種以上の導電性材料と、4%水溶液としたときの粘度が4〜50mPa・sであるけん化度98mol%以上のポリビニルアルコールと、アクリルバインダーからなるセパレータ用水系導電性ペーストの製造方法が開示されている。これらの発明では、導電性塗料中における炭素材料の分散性が不十分であることが多く、層内部が空疎化するために、基材との密着性も不十分であったり、塗膜の隙間から生じてしまう腐食の課題を完全に解決出来ていなかった。このため、さらなる改善により、密着性、耐腐食性、耐酸化性を備え、導電性が良好で、かつ長期安定性を有する、安価で量産性に優れた燃料電池用セパレータの開発が望まれている。
【0009】
一方、集電板も燃料電池から得られた電流を効率的に取り出すために、導電性の高い金属材料を使用することが一般的である。しかしながら、固体高分子型燃料電池では湿潤雰囲気あるいは酸性雰囲気下に晒されることもあるため、集電板表面の腐食や酸化抑制も求められる。そこで、金属製(ステンレス、銅、アルミなど)の集電板表面に金メッキ処理を行う提案がなされている(特許文献9〜13)。しかしながら、これらの発明では比較的厚めの金メッキ処理を行うため、集電板の量産性に乏しく、安価に製造することは困難であった。また、メッキ処理ではピンホールを生じてしまうため、さらなる改善が求められていた。さらなる導電性や耐久性の改善に向けて、特許文献14ではアルミ基材に貴金属メッキを施し、さらに金メッキ処理を行う提案がなされている。しかしながら、ピンホールの問題を完全に解決することは難しく、燃料電池の普及にあたっては、コストの観点から高価な金メッキ処理を出来るだけ使用しないことが望ましいため、さらなる改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−255823号公報
【特許文献2】特開2004−31166号公報
【特許文献3】特開2005−119923号公報
【特許文献4】特開2009−037977号公報
【特許文献5】国際公開WO2003/044888号
【特許文献6】特開2005−347282号公報
【特許文献7】特開2013−206573号公報
【特許文献8】特開2015−220162号公報
【特許文献9】特開2003−217644号公報
【特許文献10】国際公開WO2003/088395号
【特許文献11】特開2008−78104号公報
【特許文献12】特開2009−152112号公報
【特許文献13】特開2010−287542号公報
【特許文献14】特開2013−105629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、導電性や密着性に優れる燃料電池用コート層付セパレータまたは集電板に使用するコーティング用組成物であり、また、本発明のコーティング用組成物を使用することで長期耐久性を有するコート層付セパレータまたは集電板と、電池特性に優れた燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、燃料電池用のコート層付セパレータまたは集電板に使用する炭素材料(A)と、けん化度が50〜97.5mol%であるポリビニルアルコール樹脂、アセタール化度が60〜80mol%であるポリビニルアセタール樹脂およびブチラール化度が50〜90mol%であるポリビニルブチラール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つの分散樹脂(B)と、ポリフッ化ビニリデンおよび/またはポリテトラフルオロエチレンからなるバインダー(C)を含むコーティング用組成物であり、炭素材料(A)の分散性を損なうことなく、導電性や、セパレータまたは集電板への密着性、さらには燃料電池の電池特性を向上出来たものである。
【0013】
即ち、本発明は、炭素材料(A)と、けん化度が50〜97.5mol%であるポリビニルアルコール樹脂、アセタール化度が60〜80mol%であるポリビニルアセタール樹脂およびブチラール化度が50〜90mol%であるポリビニルブチラール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つの分散樹脂(B)と、ポリフッ化ビニリデンおよび/またはポリテトラフルオロエチレンからなるバインダー(C)と、を含んでなる燃料電池基材用導電性コーティング用組成物に関する。
また、本発明は、炭素材料(A)、分散樹脂(B)、バインダー(C)の固形分の合計100質量%中、炭素材料(A)の含有量が、25〜65質量%、分散樹脂(B)の含有量が、0.5〜10質量%である前記燃料電池基材用導電性コーティング用組成物に関する。
また、本発明は、分散樹脂(B)は、けん化度が70〜90mol%であるポリビニルアルコール樹脂および/またはブチラール化度が60〜80mol%あるポリビニルブチラール樹脂である前記燃料電池基材用導電性コーティング用組成物に関する。
また、本発明は、前記燃料電池基材用導電性コーティング用組成物から形成されたコート層を有する燃料電池用集電板に関する。
また、本発明は、前記燃料電池基材用導電性コーティング用組成物から形成されたコート層を有する燃料電池用金属セパレータに関する。
また、本発明は、前記燃料電池用集電板、または前記燃料電池用金属セパレータ、を具備してなる燃料電池に関する。
【発明の効果】
【0014】
炭素材料(A)と、けん化度が50〜97.5mol%であるポリビニルアルコール樹脂、アセタール化度が60〜80mol%であるポリビニルアセタール樹脂およびブチラール化度が50〜90mol%であるポリビニルブチラール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つの分散樹脂(B)と、ポリフッ化ビニリデンおよび/またはポリテトラフルオロエチレンからなるバインダー(C)とを含むことにより、コーティング用組成物中の炭素材料の分散性を損ねることなく、セパレータや集電板等の燃料電池用基材への密着性に優れるコート層を形成でき、燃料電池が使用される環境下においても良好な発電特性を有する燃料電池を提供できる。さらには、炭素材料(A)と、けん化度が50〜97.5mol%であるポリビニルアルコール樹脂、アセタール化度が60〜80mol%であるポリビニルアセタール樹脂およびブチラール化度が50〜90mol%であるポリビニルブチラール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つの分散樹脂(B)と、ポリフッ化ビニリデンおよび/またはポリテトラフルオロエチレンからなるバインダー(C)とを特定の比率で含むコーティング用組成物を使用することにより、良好な発電特性を有する燃料電池を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<燃料電池基材用導電性コーティング用組成物>
ここで、本発明で用いられるコート層を形成する燃料電池基材用導電性コーティング用組成物について説明する。燃料電池基材用導電性コーティング用組成物(以下、コーティング用組成物と略記する)は、燃料電池用コート層付セパレータまたは集電板に使用するコーティング用組成物であり、炭素材料(A)とけん化度が50〜97.5mol%であるポリビニルアルコール樹脂、アセタール化度が60〜80mol%であるポリビニルアセタール樹脂およびブチラール化度が50〜90mol%であるポリビニルブチラール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つの分散樹脂(B)と、ポリフッ化ビニリデンおよび/またはポリテトラフルオロエチレンからなるバインダー(C)とを含有する。
【0016】
コーティング用組成物の総固形分に占める炭素材料(A)の割合は、25質量%以上、65質量%以下であり、好ましくは30質量%以上、60質量%以下である。上記の範囲であればコート層の導電性及び塗膜密着性が良好に保たれる。また、コーティング用組成物の総固形分に占めるけん化度が50〜97.5mol%であるポリビニルアルコール樹脂、アセタール化度が60〜80mol%であるポリビニルアセタール樹脂およびブチラール化度が50〜90mol%であるポリビニルブチラール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つの分散樹脂(B)の割合は、0.5質量%以上、10質量%以下であり、好ましくは1質量%以上、8質量%以下である。上記の範囲であればコート層の導電性及び塗膜密着性が良好に保たれる。さらに、コーティング用組成物の総固形分に占めるポリフッ化ビニリデンおよび/またはポリテトラフルオロエチレンからなるバインダー(C)の割合は、25質量%以上、75質量%以下であり、好ましくは30質量%以上、60質量%以下である。上記の範囲であれば炭素材料(A)の分散性が良好となり、また、塗膜密着性も良好に保たれる。上記特定の比率で、炭素材料(A)と、けん化度が50〜97.5mol%であるポリビニルアルコール樹脂、アセタール化度が60〜80mol%であるポリビニルアセタール樹脂およびブチラール化度が50〜90mol%であるポリビニルブチラール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つの分散樹脂(B)と、ポリフッ化ビニリデンおよび/またはポリテトラフルオロエチレンからなるバインダー(C)と、を併用することが良好なコート層を形成する上では大変重要である。
【0017】
まず、導電性の炭素材料(A)について説明する。
【0018】
本発明における炭素材料(A)としては、導電性を有する炭素材料であれば特に限定されるものではないが、グラファイト、カーボンブラック、導電性炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー)、フラーレン等を単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。導電性、入手の容易さ、およびコスト面から、カーボンブラックの使用が好ましい。
【0019】
カーボンブラックとしては、気体もしくは液体の原料を反応炉中で連続的に熱分解し製造するファーネスブラック、特にエチレン重油を原料としたケッチェンブラック、原料ガスを燃焼させて、その炎をチャンネル鋼底面にあて急冷し析出させたチャンネルブラック、ガスを原料とし燃焼と熱分解を周期的に繰り返すことにより得られるサーマルブラック、特にアセチレンガスを原料とするアセチレンブラックなどの各種のものを単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。また、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、中空カーボン等も使用できる。
【0020】
カーボンブラックの酸化処理は、カーボンブラックを空気中で高温処理したり、硝酸や二酸化窒素、オゾン等で二次的に処理したりすることより、例えばフェノール基、キノン基、カルボキシル基、カルボニル基の様な酸素含有極性官能基をカーボン表面に直接導入(共有結合)する処理であり、カーボンブラックの分散性を向上させるために一般的に行われている。しかしながら、官能基の導入量が多くなる程カーボンブラックの導電性が低下することが一般的であるため、酸化処理をしていないカーボンブラックの使用が好ましい。
【0021】
用いるカーボンブラックの比表面積は、窒素の吸着量から求められる比表面積(BET)で、20m2/g以上、1500m2/g以下、好ましくは50m2/g以上、1500m2/g以下、更に好ましくは100m2/g以上、1500m2/g以下のものを使用することが望ましい。上記の範囲であれば、カーボンブラック粒子どうしの接触が良好となり、導電性も良好に保たれる。
【0022】
また、用いるカーボンブラックの粒径は、一次粒子径で0.005〜1μmが好ましく、特に、0.01〜0.2μmが好ましい。ただし、ここでいう一次粒子径とは、電子顕微鏡などで測定された粒子径を平均したものである。
【0023】
炭素材料(A)のコーティング用組成物中の分散粒径は、0.03μm以上、5μm以下に微細化することが望ましい。上記の範囲であれば、コート層塗膜の材料分布のバラつき、抵抗分布のバラつきがなく、良好な塗膜が得られる。
ここでいう分散粒径とは、体積粒度分布において、粒子径の細かいものからその粒子の体積割合を積算していったときに、50%となるところの粒子径(D50)であり、一般的な粒度分布計、例えば、動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)等で測定される。
【0024】
市販のカーボンブラックとしては、例えば、トーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500等(東海カーボン社製、ファーネスブラック)、プリンテックスL等(デグサ社製、ファーネスブラック)、Raven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA等、Conductex SC ULTRA、Conductex 975 ULTRA等、PUERBLACK100、115、205等(コロンビヤン社製、ファーネスブラック)、#2350、#2400B、#2600B、#3050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B等(三菱化学社製、ファーネスブラック)、MONARCH1400、1300、900、VulcanXC−72R、BlackPearls2000等(キャボット社製、ファーネスブラック)、Ensaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、SuperP−Li(TIMCAL社製)、ケッチェンブラックEC−300J、EC−600JD(アクゾ社製)、デンカブラック、デンカブラックHS−100、FX−35(デンカ社製、アセチレンブラック)等、グラファイトとしては、例えば人造黒鉛や燐片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛などの天然黒鉛が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0025】
導電性炭素繊維としては石油由来の原料から焼成して得られるものが良いが、植物由来の原料からも焼成して得られるものも用いることができる。例えば石油由来の原料で製造される昭和電工社製のVGCFなどを挙げることができる。
【0026】
次に、ポリビニルアルコール樹脂のけん化度が50〜97.5mol%である分散樹脂(B)について説明する。
【0027】
本発明には、分散剤としてポリビニルアルコール樹脂のけん化度が50〜97.5mol%である分散樹脂を用いる。一般に、ポリビニルアルコール樹脂は、酢酸ビニルを重合させて得られたポリ酢酸ビニル樹脂をけん化して得られる。けん化の合成条件を制御することにより、ポリビニルアルコール樹脂はアセチル基と水酸基の割合を変更することが可能であり、その比率はけん化度として表される。なお、本発明におけるけん化度とは、業界公知のけん化度の定義と同一であり、けん化によりビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のmol数が占める割合(mol%)を示す。特に、ポリ酢酸ビニル樹脂を原料として用いた場合、ポリビニルアルコール樹脂中に含まれるビニルアルコール骨格に由来した水酸基数を、酢酸ビニル骨格に由来したアセチル基数とビニルアルコール骨格に由来した水酸基数の和で除した値を意味する。
【0028】
本発明で使用されるポリビニルアルコール樹脂のけん化度は50〜97.5mol%であるが、好ましくは70〜90mol%、さらに好ましくは70〜85mol%である。けん化を調整することで、炭素材料(A)やポリフッ化ビニリデンまたはポリテトラフルオロエチレンの少なくとも1つからなるバインダー(C)との親和性が高まるため、分散性が良好となり、また、塗膜密着性も良好に保たれる。
【0029】
次に、分散樹脂(B)のアセタール化度が60〜80mol%であるポリビニルアセタール樹脂、およびブチラール化度が50〜90mol%であるポリビニルブチラール樹脂について説明する。
【0030】
一般に、ポリビニルアセタール樹脂およびポリビニルブチラール樹脂は、ポリビニルアルコール樹脂にアルデヒド(アセトアルデヒドまたはブチルアルデヒド)を反応させて得られる。
アセタール化またはブチラール化の反応条件を制御することにより、ポリビニルアセタール樹脂およびポリビニルブチラール樹脂のアセタール化度またはブチラール化度の割合を変更することが可能である。なお、本発明におけるアセタール化度およびブチラール化度とは、業界公知の定義と同一であり、アセタール化またはブチラール化によりアセタール基およびブチラール基に変換され得る構造単位と反応残基である水酸基単位やアセチル基単位との合計モル数に対して当該アセタール基またはブチラール基単位のmol数が占める割合(mol%)を示す。
【0031】
本発明で使用されるポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は60〜80mol%であるが、好ましくは70〜80mol%である。また、本発明で使用されるポリビニルブチラール樹脂のブチラール化度は50〜90mol%であるが、好ましくは60〜90mol%、さらに好ましくは60〜80mol%である。アセタール化度またはブチラール化度を調整することで、炭素材料(A)やポリフッ化ビニリデンまたはポリテトラフルオロエチレンの少なくとも1つからなるバインダー(C)との親和性が高まるため、分散性が良好となり、また、塗膜密着性も良好に保たれる。
【0032】
本発明で使用するポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂およびポリビニルブチラール樹脂は、従来公知の合成法により合成されたものであり、各種の市販品、合成品を単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができるが、これらに限定されるものではない。また、従来公地の分散剤を併用してもよい。
【0033】
分散樹脂の分子量は、重量平均分子量が1000〜500,000であり、好ましくは2000〜150,000、さらに好ましくは5000〜50,000である。
【0034】
市販のポリビニルアルコール樹脂としては、例えば、クラレポバール(クラレ社製)や、ゴーセノール(日本合成化学工業社製)、デンカポバール(デンカ社製)、J−ポバール(日本酢ビ・ポバール社製)などが挙げられ、種々のグレードを市場より入手することが出来る。また、市販のポリビニルアセタール樹脂およびポリビニルブチラール樹脂としては、エスレック(積水化学工業社製)、モビタール(クラレ社製)、ビニレック(JNC社製)などが挙げられ、種々のグレードを市場より入手することが出来る。
具体的には、ポバールPVA403、PVA−624、PVA−706、PVA102、PVA203、PVA505、PVAHC、L−8、PVA−CST、L−9−78、LL−02、C−506、KL−05、KL−506や、エスレックBL−1、エスレックBL−1H、エスレックBL−2、エスレックBL−2H、エスレックBL−5、エスレックBL−10、エスレックBL−S、エスレックBX−L、エスレックBM−1、エスレックBM−S、エスレックBH−3、エスレックBX−1、エスレックKS−1、エスレックKS−10、エスレックKS−3や、モビタールB16H、モビタールB60HH、モビタール30T、モビタール30HH、モビタール60Tや、ビニレックK、ビニレックL、ビニレックH、ビニレックE、等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
次に、ポリフッ化ビニリデン樹脂またはポリテトラフルオロエチレン樹脂の少なくとも1つからなるバインダー(C)について説明する。
【0036】
本発明でいうポリフッ化ビニリデンは、一部極性官能基を導入したものや、HFP(ヘキサフルオロプロピレン)部位が導入された共重合体を含み、例えば、以下の具体的な例示で示したものが含まれる。
【0037】
市販のポリフッ化ビニリデンとしては、例えば、KFポリマー(クレハ社製)や、KYNAR(登録商標)およびKYNAR FLEX(登録商標)(ARKEMA社製)、ソレフ(登録商標)(SOLVAY社製)などが挙げられ、種々のグレードを市場より入手することが出来る。また、市販のポリテトラフルオロエチレンとしては、例えば、Fluon(登録商標)(旭硝子社製)や、テフロン(登録商標)(三井・デュポン フロロケミカル社製)などが挙げられ、種々のグレードを市場より入手することが出来る。
具体的には、ポリフッ化ビニリデンとしては、KFポリマーW#1100、W#1300、W#1700、W#7200、W#7300、KYNAR(登録商標)711、761、HSV900、ソレフ(登録商標)1015,9007や、一部極性官能基を導入したW#9100、W#9300や、HFP(ヘキサフルオロプロピレン)部位が導入された共重合体であるKYNAR FLEX(登録商標)、2851−00、2851−00、2800−00、2800−20、2801−00、2821−00、2750−01、2751−00、2500−20、2501−00、3120−50等が挙げられる。また、ポリテトラフルオロエチレンとしては、Fluon(登録商標)CD123E、CD145E、AD911E、AD916Eや、テフロン(登録商標)6−J、62−J、6C−J、30−J、31−JRが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、2種類以上併せて使用してもよい。
【0038】
さらに、本発明のコーティング用組成物には、必要に応じて従来公知の溶媒を使用することが出来る。具体的には、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類等が挙げられ、水やN−メチルピロリドンを使用することが好ましい。また、2種以上の溶媒を併用して使用してもよい。
【0039】
また、溶媒を用いた場合のコーティング用組成物の適正粘度は、コーティング用組成物の塗工方法によるが、一般には、10mPa・s以上、30,000mPa・s以下とするのが好ましい。
このようなコーティング用組成物は、種々の方法で得ることができる。
炭素材料(A)とけん化度が50〜97.5mol%であるポリビニルアルコール樹脂、アセタール化度が60〜80mol%であるポリビニルアセタール樹脂およびブチラール化度が50〜90mol%であるポリビニルブチラール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つの分散樹脂(B)とポリフッ化ビニリデン樹脂および/またはポリテトラフルオロエチレン樹脂からなるバインダー(C)と溶媒とを含有する、コーティング用組成物の場合を例にとって説明する。
例えば、
(X−1) 炭素材料(A)と分散樹脂(B)と溶媒とを含有する炭素材料の水性分散体を得、該分散体にバインダー(C)とを加え、コーティング用組成物を得ることができる。
(X−2) 炭素材料(A)と分散樹脂(B)とバインダー(C)と溶媒と含有する炭素材料の分散体を得、コーティング用組成物を得ることができる。
(X−3) 分散樹脂(B)とバインダー(C)と溶媒とを含有する溶液を得、さらに炭素材料(A)を加え、コーティング用組成物を得ることができる。
【0040】
さらに、コーティング用組成物には、成膜助剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、pH調整剤、粘性調整剤などを必要に応じて配合できる。
【0041】
(分散機・混合機)
本発明のコーティング用組成物を得る際に用いられる装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機、混合機が使用できる。
【0042】
例えば、ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類;エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社「フィルミックス」等のホモジナイザー類;ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、若しくはコボールミル等のメディア型分散機;湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS−5」、若しくは奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機;または、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、分散機としては、分散機からの金属混入防止処理を施したものを用いることが好ましい。
【0043】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルがセラミック製又は樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーター及びベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズ、または、ジルコニアビーズ、若しくはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。また、ロールミルを使用する場合についても、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用しても良いし、複数種の装置を組み合わせて使用しても良い。また、強い衝撃で粒子が割れたり、潰れたりしやすい場合は、メディア型分散機よりは、ロールミルやホモジナイザー等のメディアレス分散機が好ましい。
【0044】
<燃料電池用基材>
本発明の燃料電池用基材は、燃料電池セルやスタックに使用される金属基材などへ使用できる。具体的には、セパレータや集電板が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0045】
<コート層付セパレータ>
本発明のコート層付セパレータは、セパレータと、前記のコーティング用組成物から形成されたコート層を具備する。
【0046】
(セパレータ)
燃料電池用のセパレータは、その形状が、通常、シート状もしくは板状であり、その片面もしくは両面に凹凸状の溝が形成されている。燃料電池用のセパレータの該溝部は、後述する燃料電池用電極膜接合体の導電性支持体と密着することで、該溝部をガス流路として、燃料ガス(水素)や酸化剤ガス(酸素)等の反応ガスの供給を行う。通常、溝の深さは0.05〜2.0mmであり、溝の幅やリブ幅も同様である。セパレータの厚さとしては、燃料電池の大きさや用途に応じて特に制限されるものではないが、通常0.1〜3.0mm程度である。
【0047】
燃料電池用セパレータの材質としては、特に限定されないが、炭素、アルミニウム、チタン、ステンレス、鉄、鋼、銅、亜鉛、スズ、マグネシウム、マンガン、シリコン、ニッケル、鉛、ビスマス、リチウム、バナジウム、モリブデン、ジルコニウム、パラジウム、及びこれらの合金を使用することができる。また、該材質表面には必要応じて表面処理、プライマーなどを施すことができる。
【0048】
燃料電池用セパレータのガス流路形状としては、燃料電池セルのガス供給口からガス排出口までを一本の蛇行状流路で繋いだサーペンタイン流路が一般的であるが、これに限定するものではない。
【0049】
(セパレータへのコーティング用組成物の塗工方法)
セパレータ上にコーティング用組成物を塗工する方法としては、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。
具体的には、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等が挙げる事ができる。
乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機などが使用できるが、特にこれらに限定されるものではない。
又、塗布後に平版プレスやカレンダーロール等による圧延処理を行っても良い。
【0050】
<コート層付集電板>
本発明のコート層付集電板は、集電板と、前記のコーティング用組成物から形成されたコート層を具備する。
【0051】
(集電板)
燃料電池用の集電板は、その形状が、通常、シート状もしくは板状であるが、燃料電池の大きさや用途に応じて特に制限されるものではない。集電板の材質としては、特に限定されないが、炭素、アルミニウム、チタン、ステンレス、鉄、鋼、銅、亜鉛、スズ、マグネシウム、マンガン、シリコン、ニッケル、鉛、ビスマス、リチウム、バナジウム、モリブデン、ジルコニウム、パラジウム、及びこれらの合金を使用することができる。また、耐酸化性などの耐久性を向上させるために、表面に金やロジウムなどの貴金属メッキ、あるいはダイヤモンドライクカーボン(DLC)などを表面処理したものも使用することが出来る。
【0052】
(集電板へのコーティング用組成物の塗工方法)
集電板上にコーティング用組成物を塗工する方法としては、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。
具体的には、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等が挙げる事ができる。
乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機などが使用できるが、特にこれらに限定されるものではない。
又、塗布後に平版プレスやカレンダーロール等による圧延処理を行っても良い。
【0053】
<燃料電池>
燃料電池は使用する電解質により、いくつかのタイプに分類することができるが、本発明の燃料電池としては、固体高分子形燃料電池がより好ましく、前記のコート層付セパレータ、およびコート層付集電板も好適に使用することができる。
【0054】
(固体高分子形燃料電池)
固体高分子形燃料電池は、固体高分子電解質5を挟むように、対向配置された集電板1、セパレータ2、ガス拡散層3、アノード触媒層(燃料極)4、カソード触媒層(空気極)6、ガス拡散層7、及びセパレータ8、集電板9とから構成される(図1)。
上記セパレータ2、8は、燃料ガス(水素)や酸化剤ガス(酸素)等の反応ガスの供給、排出を行う。そして、アノード及びカソード触媒層4、6に、ガス拡散層3、7を通じてそれぞれ均一に反応ガスが供給されると、両電極に備えられた触媒と固体高分子電解質5との境界において、気相(反応ガス)、液相(固体高分子電解質膜)、固相(両電極が持つ触媒)の三相界面が形成される。そして、電気化学反応を生じさせることで直流電流が発生し、集電板1、9を通して外部へ電流を取り出すことが出来る。
【0055】
上記電気化学反応において、
カソード側:O+4H+4e→2H2
アノード側:H→2H+2e
の反応が起こり、アノード側で生成されたHイオン(プロトン)は固体高分子電解質5中をカソード側に向かって移動し、e(電子)は外部の負荷を通ってカソード側に移動する。
【0056】
一方、カソード側では酸化剤ガス中に含まれる酸素と、アノード側から移動してきたHイオン及びeとが反応して水が生成される。この結果、上述の燃料電池は、水素と酸素とから直流電力を発生し、水を生成することになる。
【0057】
(燃料電池用触媒材料)
燃料電池用触媒材料は、公知もしくは市販のものを使用することができる。例えば、触媒粒子が、触媒担持体としての炭素粒子、酸化物粒子、あるいは窒化物粒子上に担持してなるものが挙げられる。
【0058】
触媒粒子としては、例えば、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム又はこれらの合金等が挙げられる。
触媒担持体としては、例えば、下記のものが挙げられる。
炭素粒子としては、炭素材料(A)と同様のものが挙げられる。
酸化物粒子としては、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ等が挙げられる。
窒化物粒子としては、例えば、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化ニオブ、窒化タンタル、窒化クロム、窒化バナジウム等が挙げられる。
これら触媒担持体は、要求性能に合わせて最適な材料を選択することができる。
【0059】
触媒粒子の触媒担持体上への担持率は特に限定されない。触媒粒子として白金、触媒担持体として炭素粒子を用いた場合は、触媒粒子100質量%に対して、通常1〜70質量%程度までの担持が可能である。
【0060】
市販の燃料電池用触媒材料としては、例えば、
TEC10E50E、TEC10E70TPM、TEC10V30E、TEC10V50E、TEC66E50等の白金担持炭素粒子;
TEC66E50、TEC62E58等の白金−ルテニウム合金担持炭素粒子;
をいずれも田中貴金属工業社より購入することができるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
(燃料電池用バインダー)
燃料電池用のバインダーとしては、プロトン伝導性ポリマーが好ましい。プロトン伝導性ポリマーとしては、親水性官能基を有するバインダーを指し、プロトン伝導度として100%RH、25℃で10−3Scm−1以上を示すものが好ましい。
ここで、親水性官能基としては、スルホ基、カルボキシ基、リン酸基等の酸性官能基、水酸基、アミノ基等の塩基性官能基が挙げられるが、プロトン解離性の観点から、スルホ基、カルボキシ基、リン酸基、及び水酸基がより好ましい。
プロトン伝導性を示すポリマーとしては、スルホ基を導入した、オレフィン系樹脂(ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸等)、ポリイミド系樹脂、フェノール樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリベンズイミダゾール系樹脂、及びポリスチレン系樹脂、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合体のスルホン酸ドープ品、パーフルオロスルホン酸系樹脂等のスルホン酸を有する樹脂;
ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース等のカルボン酸を有する樹脂;
ポリビニルアルコール等の水酸基を有する樹脂;
ポリアリルアミン、ポリジアリルアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウム塩、イミダゾール部分で酸と塩形成したポリベンズイミダゾール系樹脂等のアミノ基を有する樹脂;
ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルイミダゾール等の、その他の親水性官能基を有する樹脂が挙げられる。特に、パーフルオロスルホン酸系樹脂は、電気陰性度の高いフッ素原子を導入する事で化学的に非常に安定し、スルホ基の解離度が高く、高いプロトン導電性が実現できる。このようなプロトン伝導性ポリマーの具体例としては、デュポン社製の「Nafion」等が挙げられる。通常、プロトン伝導性ポリマーは、ポリマーを5〜30質量%程度含むアルコール水溶液として使用される。アルコールとしては、例えば、メタノール、プロパノール、エタノールジエチルエーテル等が使用される。
【0062】
(溶剤)
燃料電池用触媒インキ組成物に使用される溶剤としては、水を使用することが好ましいが、必要に応じて、例えば、集電板への塗工性向上のために、水と相溶する有機溶剤を使用しても良い。
水と相溶する有機溶剤としては、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類等が挙げられ、水と相溶する範囲で使用しても良い。
【0063】
(燃料電池用触媒インキ組成物)
燃料電池用触媒インキ組成物は、燃料電池用触媒層を形成するための組成物であって、燃料電池用触媒材料、燃料電池用バインダー及び溶剤を含む組成物である。
触媒インキ組成物中に含まれる触媒材料、およびプロトン伝導性ポリマー、溶剤の種類および割合は、限定されるものではなく、広い範囲内で適宜選択することができる。好ましい範囲としては例えば、触媒材料を100質量部に対して、プロトン伝導性ポリマーが10〜300質量部、好ましくは20〜250質量部である。
【0064】
触媒インキ組成物の調製方法も特に限定されるものではない。調製は、各成分を同時に分散しても良いし、予め、触媒材料を溶剤中で分散後、プロトン伝導性ポリマー成分を添加してもよく、使用する触媒材料、プロトン伝導性ポリマーや、溶剤種により最適化することができる。
【0065】
(燃料電池用電極膜接合体)
燃料電池用電極膜接合体とは、プロトン伝導性の固体高分子電解質膜の片面もしくは両面に、燃料電池用触媒層が密着して形成され、さらに、その片面もしくは両面に、ガス拡散性の導電性支持体が密着して具備したものである。
【0066】
燃料電池用電極膜接合体の製造方法としては、固体高分子電解質膜の片面もしくは両面に、転写基材上に予め形成された燃料電池用触媒層を転写後、導電性支持体を熱圧着することで燃料電池用電極膜接合体を作製する方法が挙げられる。また、固体高分子電解質膜の片面もしくは両面に、導電性支持体上に予め形成された燃料電池用触媒層を、熱圧着することで燃料電池用電極膜接合体を作製してもよい。
【0067】
(固体高分子電解質膜)
固体高分子電解質膜としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂等が挙げられる。電気陰性度の高いフッ素原子を導入する事で化学的に非常に安定し、スルホ基の解離度が高く、高いイオン導電性が実現できる。具体例としてはデュポン社製の「Nafion」、旭硝子社製の「Flemion」、旭化成社製の「Aciplex」、ゴア(Gore)社製の「GoreSelect」等が挙げられる。電解質膜の膜厚としては、通常20〜250μm程度、好ましくは10〜80μm程度である。
【0068】
燃料電池用撥水層は、導電性支持体上に形成された微多孔質の層である。この層は、撥水層やMPL(micro porous layer、マイクロポーラスレイヤー)とも呼ばれ、触媒層へのガス供給の均一化や、導電性の向上に加え、カソード側で発電時に発生する水の排水性を向上させる等の役割を持つ。また、燃料電池の構成上、導電性支持体と触媒層の間に位置するため、触媒層の一部として取り扱われる場合もある。
【0069】
撥水層あるいはMPLは、例えば、炭素材料と、撥水性材料を含むインキ組成物をカーボンペーパ基材上に塗工後、300℃程度で焼成することにより形成できる。
【0070】
(転写基材)
転写基材は触媒インキ組成物を塗布することで燃料電池用触媒層を形成し、転写基材上にある触媒層をナフィオンなどの固体高分子電解質膜に転写するためのフィルム基材である。転写基材としては、安価で入手が容易な高分子フィルムが好ましく、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート等がより好ましい。具体例としてはテフロン(登録商標)シート等が挙げられる。転写基材の厚さは、取り扱い性及び経済性の観点から、通常6〜100μm程度、好ましくは10〜50μm程度、より好ましくは15〜30μm程度とするのがよい。
【0071】
(導電性支持体)
導電性支持体は、アノード又はカソードを構成する各種の導電性支持体を使用できるが、固体高分子形燃料電池に代表される多くの燃料電池では、カソード側では空気中の酸素を取り入れ、アノード側では水素を取り込めるように、気体が通過および拡散できるような多孔質または繊維状の支持体であることが好ましい。更に電子の出し入れが必要なため導電性を有する材料を用いらなければならない。好ましくは炭素素材からなるカーボンペーパや、カーボンフェルト、カーボンクロスなどがよい。具体例としては東レ社製の「TGP−H−090」等が挙げられる。これら導電性支持体は、燃料電池ではガス拡散層あるいはGDLとも呼ばれる。
【実施例】
【0072】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。尚、実施例および比較例における「部」は「質量部」を、「%」とは「質量%」を表す。以下では、「燃料電池基材用導電性コーティング組成物」を「コーティング用組成物」、「燃料電池用金属セパレータ」を「コート層付セパレータ」、「燃料電池用集電板」を「コート層付集電板」と記す。
【0073】
<コーティング用組成物>
(実施例A−1)
炭素材料としてアセチレンブラック(A−1:デンカブラック粒状品、デンカ社製)23.2部、分散樹脂(B)であるポリビニルアルコール:けん化度96mol%(PVA−624、分子量110,000、クラレ社製)を7部、バインダーであるポリフッ化ビニリデン(C−1:W#9300、クレハ社製)を76部、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、キシダ化学社製)500部をミキサーに入れて混合し、更にサンドミルに入れて分散を行い、コーティング用組成物(1)を得た。得られた分散体の分散度をグラインドゲージによる判定(JISK5600−2−5に準ず)より求めた。評価結果を表1に示す。表中の数字は粗大粒子の大きさを示し、数値が小さいほど分散性に優れ、均一で良好な状態であることを示している。
【0074】
(実施例A−2〜実施例A−19、比較例A−1〜A−7)
表1に示す組成比に変更した以外は、コーティング用組成物(1)と同様の方法により、それぞれ実施例及び比較例のコーティング用組成物(2)〜(26)を得た。
ただし、本明細書において、実施例A-1、A-8、A-10のコーティング用組成物、それを用いたセパレータおよび集電体は参考例である。
【0075】
実施例で使用した材料を下記に示す。
NMP:N−メチル−2−ピロリドン(キシダ化学社製)
〈炭素材料(A)〉
A−1:デンカブラック粒状品(デンカ社製)
A−2:ミツビシカーボン#3050B(三菱化学社製)
A−3:炭素繊維VGCF−H(昭和電工社製)
〈分散樹脂(B)〉
B−1:PVA−403(ポリビニルアルコール、けん化度79mol%、分子量16,000、クラレ社製)
B−2:PVA−624(ポリビニルアルコール、けん化度96mol%、分子量110,000、クラレ社製)
B−3:L−8(ポリビニルアルコール、けん化度69.5%、分子量45,000、クラレ社製)
B−4:LL−02(ポリビニルアルコール、けん化度50mol%、分子量65,000、日本合成化学工業社)
B−5:KL−05(ポリビニルアルコール、けん化度82mol%、分子量51,000、日本合成化学工業社)
B−6:エスレックKS−1(ポリビニルアセタール、アセタール化度74mol%、水酸基25mol%、アセチル基1mol%、分子量27,000、積水化学工業社製)
B−7:エスレックBH−3(ポリビニルブチラール、ブチラール化度65mol%、水酸基34mol%、アセチル基1mol%、分子量110,000、積水化学工業社製)
B−8:LM−10HD(ポリビニルアルコール、けん化度39mol%、分子量35,000、クラレ社製)
B−9:PVA−117H(ポリビニルアルコール、けん化度99.5mol%、分子量75,000、クラレ社製)
B−10:BX−L(ポリビニルアセタール、アセタール化度61mol%、水酸基37mol%、アセチル基2mol%、積水化学工業社製)
B−11:モビタールB60HH(ポリビニルブチラール10%エタノール溶液、ブチラール化度84mol%、クラレ社製)
B−12:PVA203(ポリビニルアルコール、けん化度88mol%、分子量16,000、クラレ社製)
B−13:PVA505(ポリビニルアルコール、けん化度73mol%、分子量27,000、クラレ社製)
B−14:エスレックBL−5(ポリビニルブチラール、ブチラール化度77mol%、水酸基21mol%、アセチル基1mol%、分子量32,000、積水化学工業社製)
〈バインダー(C)〉
C−1:W#9300(ポリフッ化ビニリデン、クレハ社製)
C−2:W#7300(ポリフッ化ビニリデン、クレハ社製)
C−3:30−J(ポリテトラフルオロエチレン、固形分60%水分散液、三井・デュポンフロロケミカル社製)
C−4:フッ化ビニリデン(VDF)と六フッ化プロピレン(HFP)との共重合体(VDF:85質量%、HFP:15質量%)
C−5:スチレン−ブタジエン共重合体TRD2001(固形分48%水分散液、JSR社製)
C−6:アクリル系エマルション(アクリロニトリル:20質量%、2−エチルヘキシルアクリレート:80質量%の共重合体、固形分40%水分散液)
C−7:KYNAR FLEX2800−20(フッ化ビニリデン(VDF)と六フッ化プロピレン(HFP)との共重合体、ARKEMA社製)
【0076】
表1に示すように、本発明のコーティング用組成物(1)〜(19)は、炭素材料の分散性に優れ、均一なコーティング用組成物であることが明らかとなった。
【0077】
【表1】

【0078】
<コート層付セパレータの作製>
[実施例B−1:コート層付セパレータ(1)]
容器中にコーティング用組成物(1)を加え、その中にセパレータを一定時間浸漬して引き上げた後、120℃で1時間乾燥し、コート層付セパレータ(1)を得た。コート層の厚みは13μmであった。得られたコート層付セパレータのコート層の密着性を後述の方法にて評価した。評価結果を表2の実施例B−1に示す。使用したセパレータは、SUS304を材質とする大きさ8cm角の基材の中心に、5cm角の範囲でサーペンタイン型の一本流路(流路幅1.0mm、リブ幅1.0mm、流路深さ0.6mm)が片面に形成されたものを使用した。
【0079】
[実施例B−2〜B−21、比較例B−1〜8:コート層付セパレータ(2)〜(29)]
表2に記載の構成に変更した以外は、コート層付セパレータ(1)と同様の方法により、それぞれコート層付セパレータ(2)〜(29)を得た。密着性の評価結果を表2の実施例B−2〜B−21及び比較例B−1〜B−8に示す。
【0080】
(コート層付セパレータの耐酸密着性評価)
上記で作製したコート層付セパレータ(1)〜(29)を90℃、pH=2の硫酸水溶液中で72時間浸漬後、イオン交換水で十分に洗浄し、100℃、1時間で乾燥した。
その後、ナイフを用いてコート層表面からセパレータに達する深さまでの切込みを2mm間隔で縦横それぞれ6本の碁盤目の切込みを入れた。この切り込みに粘着テープを貼り付けて直ちに引き剥がし、コート層の脱落の程度を目視にて判定した。評価基準を下記に示す。
【0081】
○:「剥離なし。特に優れている。」
○△:「わずかに剥離。問題なし。」
△:「半分程度剥離。実用上問題あり。使用を避けるほうが好ましい。」
×:「ほとんどの部分で剥離。使用不可。」
【0082】
【表2】

【0083】
表2に示すように、本発明のコート層付セパレータ(1)〜(21)は、酸性水溶液への浸漬後も密着性に優れることが明らかであった。燃料電池用のセパレータは、水蒸気を含むガスの流路であり、特に、固体高分子形燃料電池では、高温、酸性条件下での使用が想定されるため、該条件でコート層が維持できていることは非常に重要である。
【0084】
(燃料電池用触媒インキ組成物の作製)
触媒材料として白金触媒担持カーボン4質量部(田中貴金属社製、白金量46%、TEC10E50E)、溶剤として2−プロパノール56質量部、およびイオン交換水20質量部をディスパーにて攪拌混合することで触媒ペースト組成物(固形分濃度4質量%)を調製した後、プロトン伝導性ポリマーとして20質量%ナフィオン(Nafion)分散溶液(デュポン社製、CStypeDE2020)20質量部を添加し、ディスパーにて攪拌混合することで燃料電池用触媒インキ組成物(固形分濃度8質量%、触媒インキ組成物100質量%としたときの触媒材料とプロトン伝導性ポリマーの合計した割合)を作製した。
【0085】
(燃料電池用電極膜接合体の作製)
上述の燃料電池用触媒インキ組成物を、白金触媒の目付け量が0.1mg/cm2になるようにテフロン(登録商標)フィルム上に塗布し、加熱真空乾燥することにより、燃料電池用触媒層が形成されたテフロン(登録商標)フィルムを得た。
続いて、燃料電池用触媒層が形成されたテフロン(登録商標)フィルムから5cm角の打ち抜き片を2枚作製し、8cm角の固体高分子電解質膜(Nafion NR−212、デュポン社製、膜厚51μm)の中心に両面から密着して、150℃、5MPaの条件で狭持した後、テフロン(登録商標)フィルムを剥離することで、固体高分子電解質膜上へ触媒層を転写形成した。更に、触媒層の表面へ、5cm角の炭素繊維からなるカーボンペーパ基材(SGL24−BCH、SGLカーボン社製)を密着することで、電極面積が5cm角の燃料電池用電極膜接合体を作製した。
【0086】
<燃料電池用評価セルの作製>
[実施例C−1]
上述の燃料電池用電極膜接合体の電極部を、ガスケットを用いて取り囲み、次いでコート層付セパレータ(1)のガス流路部が電極面積と重なるように両面から挟み込んだ。最後に、集電板2枚を両側に装着して燃料電池用評価セル(1)を作製した。
【0087】
[実施例C−2〜C−21、比較例C−1〜C−8]
コート層付セパレータ(2)〜(29)を使用した以外は、実施例C−1と同様にして燃料電池用評価セル(2)〜(29)を作製した。
[比較例C−9]
コーティング用組成物によるコーティングを実施していないセパレータ(SUS304)を使用した以外は、実施例C−1と同様にして燃料電池用評価セル(30)を作製した。
【0088】
(燃料電池の特性評価:抵抗値変化率)
得られた燃料電池用評価セルを用いて、セル温度を80℃とし、カソード側から温度60℃、相対湿度42%で加湿した空気を流量800mL/minで供給し、アノード側から温度77℃、相対湿度88%で加湿した水素ガスを流量550mL/min供給し、電流密度500mA/cmで3時間保持した後の抵抗値と、72時間保持後の抵抗値を記録し、それら抵抗値の変化率(72時間後の抵抗値/3時間後の抵抗値の比の百分率)を算出した(値が小さいほど良好)。評価基準を下記に示す。測定はすべてAutoPEMシリーズ「PEFC評価システム」(東陽テクニカ社製)を用いて実施した。評価結果を表3に示す。
【0089】
◎:「変化率が102%以下。特に優れている。」
○:「変化率が102%より高く、110%以下。良好。」
○△:「変化率が110%より高く、120%以下。問題なし。」
△:「変化率が120%より高く、150%以下。問題はあり。」
×:「変化率が150%以上。実用上問題あり、使用不可。」
【0090】
【表3】

【0091】
表3に示すように、本発明のコート層付セパレータを用いた燃料電池は、抵抗値変化率が優れていることが分かった。本発明のコート層付セパレータを用いた燃料電池の場合、コート層を形成しなかった比較例C−9の評価結果と比較して、抵抗値変化率が良好となっていることが分かる。これは、コート層なしでは、燃料電池の作動条件である高温、高湿、酸性条件下でセパレータ表面に酸化被膜が形成され、導電性が極端に悪化したためである。また、比較例C−1、C−2、C−6、C−7のように、分散樹脂を使用しない場合、コーティング用組成物の分散性が不十分なため、コート層の内部構造が疎になり、セパレータ表面を保護することが出来なくなったためと考えられる。さらに、比較例C−4、C−5、C−8のように、分散剤を使用した場合においても、十分な分散性が得られないと、セパレータ表面を十分に保護することが出来ずに、比較例C−1と同様に酸化被膜形成による導電性の悪化につながったと考えられる。
一方、比較例C−3の評価結果と比較すると、本発明のコーティング用組成物は炭素材料の分散性に優れているために緻密なコーティング層を形成出来きるだけでなく、特定の炭素材料(A)と分散樹脂(B)とバインダー(C)から構成されているため、強固なバリア性を発現できたものとも考察している。また、コート層の密着性と抵抗値変化率に完全な相関がないことから、コート層を構成する炭素材料(A)と分散樹脂(B)とバインダー(C)の比率が特定の範囲である場合に、セパレータの劣化を好適に抑制出来るため、燃料電池デバイス全体を通した導電状態が良好となったと考えられる。
【0092】
<コート層付集電板の作製、および集電板の耐酸化性評価>
[実施例D−1:コート層付集電体(1)]
容器中にコーティング用組成物(1)を加え、その中に集電板(材質:SUS(SUS304))、大きさ:80mm×100mm×厚み2mm)を一定時間浸漬して引き上げた後、120℃で1時間乾燥させて溶媒を完全に除去し、コート層付集電板(1)を得た。コート層の平均厚みは12μmであった。次に得られたコート層付集電板の耐酸化性を評価するため、コート層付集電板(1)を80℃、pH=2の硫酸水溶液中で72時間浸漬後、イオン交換水で十分に洗浄し、100℃1時間で乾燥して耐酸化性評価用コート層付集電板(1’)を得た。次に、後述の耐酸化性評価方法に基づき、耐酸化性評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0093】
[実施例D−2〜D−21:コート層付集電板(2)〜(21)、比較例D−1〜D−8:コート層付集電板(22)〜(29)]
表4に記載の集電板に使用するコーティング用組成物、あるいは材質の異なる集電板に変更した以外は、実施例D−1と同様の方法により、それぞれコート層付集電板(2)〜(29)を得た。また、耐酸化性評価は実施例D−1と同様にして行った。
【0094】
[比較例D−9]
表4に記載の集電板を使用して、耐酸化性評価を実施例D−1と同様にして行った。
【0095】
(集電板の耐酸化性評価方法)
集電板の酸化は、燃料電池作動時の湿潤雰囲気あるいは酸性雰囲気下に晒されることにより発生するため、促進試験として集電板の酸性水溶液中における耐久性を確認することで評価を行うことが出来る。従って、耐酸化性評価は、集電板の硫酸水溶液への浸漬前後の変化について、集電板の表面状態の目視確認と集電板の抵抗変化率の確認により判定した。評価基準を下記に示し、耐酸性の評価結果を表4に示す。
【0096】
(集電板の表面状態)
集電板の表面状態を目視確認して判定した。
○:「変化なし(良好)」
○△:「一部腐食が見られる(使用可能)」
△:「半分程度腐食が見られる(不良)」
×:「ほとんどの部分で腐食が見られる(極めて不良)」
【0097】
(集電板の抵抗変化率)
集電板表面の抵抗をロレスタGP(三菱化学アナリテック社製)を用いて4端子法で測定(JIS−K7194)して判定した。
◎:「抵抗変化率が200%以下(極めて良好)」
○:「抵抗変化率が300%以下(良好)」
○△:「抵抗変化率が300%より高く、600%以下(使用可能)」
△:「抵抗変化率が600%より高く、1000%以下(不良で使用不可)」
×:「抵抗変化率が1000%以上で、実用上問題あり(極めて不良)」
【0098】
【表4】

【0099】
表4に示すように、コート層付集電板(1)〜(21)は、酸性水溶液への浸漬後も耐腐食性が良好で、耐酸化性や導電性に優れることが明らかであった。燃料電池用(特に固体高分子形燃料電池)の集電体は、高温、湿潤、酸性雰囲気条件下での使用が想定されるため、該条件でコート層が維持できていることは非常に重要である。そのため、耐酸化性評価が良好であるコート層付集電板を使用することで、燃料電池の出力特性を長期間良好に維持することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0100】
図1図1は、燃料電池の構造の模式図である。
【符号の説明】
【0101】
1 集電板
2 セパレータ
3 ガス拡散層
4 アノード電極触媒(燃料極)
5 固体高分子電解質
6 カソード電極触媒(空気極)
7 ガス拡散層
8 セパレータ
9 集電板

図1