特許第6809180号(P6809180)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6809180-塗料用組成物および筆記具 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809180
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】塗料用組成物および筆記具
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/16 20140101AFI20201221BHJP
   C09D 101/02 20060101ALI20201221BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20201221BHJP
   B43K 7/00 20060101ALI20201221BHJP
   B43K 8/02 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   C09D11/16
   C09D101/02
   C09D7/40
   B43K7/00
   B43K8/02
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-237868(P2016-237868)
(22)【出願日】2016年12月7日
(65)【公開番号】特開2017-106012(P2017-106012A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2019年9月11日
(31)【優先権主張番号】特願2015-239779(P2015-239779)
(32)【優先日】2015年12月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】韓 金▲丹彡▼
(72)【発明者】
【氏名】伏見 速雄
(72)【発明者】
【氏名】盤指 豪
【審査官】 横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−517599(JP,A)
【文献】 特開2015−067722(JP,A)
【文献】 特開昭58−208359(JP,A)
【文献】 特開平11−209680(JP,A)
【文献】 特開2013−181167(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/185505(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00−201/10
B43K7/00
B43K8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維幅が1000nm以下であり、かつリン酸基またはリン酸基由来の置換基を有する繊維状セルロースと、
着色剤と、
溶剤と、
を含む塗料用組成物。
【請求項2】
pHが3以上12以下である請求項1に記載の塗料用組成物。
【請求項3】
前記繊維状セルロースを0.4質量%となるように水に分散させて得られる懸濁液であって、前記塗料用組成物と同じpHとなるように調整された懸濁液を、25℃の環境下にて16時間以上静置した後、B型粘度計を用いて、25℃にて回転数3rpmで3分間回転させることで測定される前記懸濁液の粘度が、12500mPa・s以上である請求項1又は2に記載の塗料用組成物。
【請求項4】
前記繊維状セルロースを0.2質量%となるように水に分散させて得られる懸濁液であって、前記塗料用組成物と同じpHとなるように調整された懸濁液を、光路長1cmのガラスセルに入れ、JIS K 7136に準拠してヘーズを測定した際の前記懸濁液のヘーズが、11%以下である請求項1〜のいずれか1項に記載の塗料用組成物。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の塗料用組成物を有する筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料用組成物および筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
筆記具などに用いられる塗料については、着色剤の分散性や筆記性の向上などに関して様々な技術が検討されている。このような技術としては、たとえば特許文献1および2に記載のものが挙げられる。
【0003】
特許文献1に記載の技術は、各グルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化変性されてアルデヒド基、ケトン基およびカルボキシル基のいずれかとなったセルロース繊維と、着色剤および隠蔽剤の少なくとも一つと、水と、を含む水性インク組成物に関する。また、特許文献2には、酸化セルロースを0.05〜1.5質量%含有し、Cassonの式で導かれる極限粘度が10mPa・s以下であることを特徴とする筆記具用水性インク組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−181167号公報
【特許文献2】特開2015−067722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
筆記具などに用いられる塗料は、たとえば着色剤と、溶剤と、増粘剤と、を含む。本発明者らは、塗料を構成する増粘剤として、微細繊維状セルロースを利用することを検討した。しかしながら、この場合、塗料中に含まれる塩基性着色剤などの塩に起因して、その経時安定性が低下することが懸念された。このため、上述のような塗料については、その耐塩性等を向上させることが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、リン酸基またはリン酸基由来の置換基を有する繊維状セルロースと、着色剤と、溶剤と、を含む塗料用組成物が提供される。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0007】
[1] リン酸基またはリン酸基由来の置換基を有する繊維状セルロースと、着色剤と、溶剤と、を含む塗料用組成物。
[2] 繊維状セルロースは、繊維幅が1000nm以下である[1]に記載の塗料用組成物。
[3] pHが3以上12以下である[1]または[2]に記載の塗料用組成物。
[4] 繊維状セルロースを0.4質量%となるように水に分散させて得られる懸濁液であって、塗料用組成物と同じpHとなるように調整された懸濁液を、25℃の環境下にて16時間以上静置した後、B型粘度計を用いて、25℃にて回転数3rpmで3分間回転させることで測定される懸濁液の粘度が、12500mPa・s以上である[1]〜[3]のいずれかに記載の塗料用組成物。
[5] 繊維状セルロースを0.2質量%となるように水に分散させて得られる懸濁液であって、塗料用組成物と同じpHとなるように調整された懸濁液を、光路長1cmのガラスセルに入れ、JIS K 7136に準拠してヘーズを測定した際の懸濁液のヘーズが、11%以下である[1]〜[4]のいずれかに記載の塗料用組成物。
[6] [1]〜[5]のいずれかに記載の塗料用組成物を有する筆記具。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、塗料の耐塩性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】繊維原料に対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について更に詳細に説明する。なお、本明細書に記載される材料、方法および数値範囲などの説明は、当該材料、方法および数値範囲などに限定することを意図したものではなく、また、それ以外の材料、方法および数値範囲などの使用を除外するものでもない。
【0011】
本実施形態に係る塗料用組成物は、リン酸基またはリン酸基由来の置換基を有する繊維状セルロースと、着色剤と、溶剤と、を含んでいる。本発明者らは、リン酸基またはリン酸基由来の置換基を有する繊維状セルロースを増粘剤として使用することにより、塗料の耐塩性を向上させることができることを新たに知見し、このような塗料用組成物を実現した。このため、本実施形態によれば、塗料の耐塩性を向上させることが可能となる。そして、本実施形態によれば、優れた安定性、筆記性及び発色性を兼ね備えた塗料用組成物が得られる。
【0012】
以下、本実施形態に係る塗料用組成物について詳述する。
【0013】
本実施形態に係る塗料用組成物は、塗料に用いられる。塗料用組成物は、たとえば他の成分と混合して塗料を構成してもよく、他の成分と混合されることなくそのまま塗料として用いられてもよい。塗料用組成物により構成される塗料の用途は、とくに限定されないが、たとえば筆記具や印刷用インクなどを挙げることができる。塗料用組成物が適用される筆記具としては、塗料が充填されて形成されるものであればとくに限定されないが、たとえばボールペン、マーキングペン、およびサインペン等が挙げられる。
【0014】
塗料用組成物は、上述のとおりリン酸基またはリン酸基由来の置換基(以下、単にリン酸基ということもある)を有するリン酸化セルロース繊維を含んでいる。これにより、塗料の耐塩性を向上させることが可能となる。本実施形態において、塗料用組成物中におけるリン酸化セルロース繊維の含有量は、たとえば0.01質量%以上2.0質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上1.0質量%以下であることがより好ましい。これにより、耐塩性をより効果的に向上させることができる。
【0015】
リン酸化セルロース繊維が有するリン酸基は、リン酸からヒドロキシル基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には−PO32で表される基である。リン酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮重合した基、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの置換基が含まれる。また、本願明細書において、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基は、非イオン性置換基であってもよく、下記式(1)で表されるイオン性置換基であってもよい。
【0016】
【化1】
【0017】
式(1)中、a、b、m及びnはそれぞれ独立に整数を表す(ただし、a=b×mである);αn(n=1〜nの整数)およびα’はそれぞれ独立にR又はORを表す。Rは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、又はこれらの誘導基である;βは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。
【0018】
本実施形態において、リン酸化セルロース繊維のリン酸基又はリン酸基に由来する置換基の含有量は、たとえば0.1mmol/g以上である。リン酸基又はリン酸基に由来する置換基の含有量は0.5mmol/g以上であることが好ましく、0.8mmol/g以上であることがより好ましい。一方で、リン酸化セルロース繊維のリン酸基又はリン酸基に由来する置換基の含有量は、たとえば3.5mmol/g以下とすることができる。これにより、塗料用組成物の耐塩性をより効果的に向上させることが可能となる。
【0019】
リン酸基のセルロース繊維への導入量は、伝導度滴定法により測定することができる。本実施形態においては、たとえば水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定することができる。
【0020】
伝導度滴定では、アルカリを加えていくと、図1に示した曲線を与える。最初は、急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。すなわち、3つの領域が現れる。なお、第2領域と第3領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致することから、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)、または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。
【0021】
本実施形態において、セルロース繊維に対するリン酸基の導入は、繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及び/又はその塩(以下、「化合物A」という。)を反応させることにより行うことができる。この反応は、尿素及び/又はその誘導体(以下、「化合物B」という。)の存在下で行ってもよい。これにより、セルロース繊維のヒドロキシル基に、効率よくリン酸基を導入することができる。
【0022】
なお、リン酸基導入工程は、セルロースにリン酸基を導入する工程を必ず含み、所望により、後述するアルカリ処理工程、余剰の試薬を洗浄する工程などを包含してもよい。
【0023】
繊維原料としては、特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも化学パルプはセルロース比率が大きいため、繊維微細化(解繊)時の微細繊維状セルロースの収率が高く、またパルプ中のセルロースの分解が小さく、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる点で好ましい。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択される。
【0024】
化合物Aを化合物Bの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、繊維原料のスラリーに化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの水溶液を添加する方法、または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が好ましい。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを水溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。繊維原料の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。
【0025】
本実施態様で使用する化合物Aは、リン酸基を有する化合物及び/又はその塩である。
リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸のリチウム塩としては、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、またはポリリン酸リチウムなどが挙げられる。リン酸のナトリウム塩としてはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。リン酸のカリウム塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、またはポリリン酸カリウムなどが挙げられる。リン酸のアンモニウム塩としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0026】
これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、またはリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。リン酸二水素ナトリウム、またはリン酸水素二ナトリウムがより好ましい。
【0027】
また、反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率が高くなることから化合物Aは水溶液として用いることが好ましい。化合物Aの水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3以上pH7以下がさらに好ましい。化合物Aの水溶液のpHは例えば、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整してもよい。化合物Aの水溶液のpHは、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整してもよい。
【0028】
繊維原料に対する化合物Aの添加量は特に限定されないが、化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合、繊維原料に対するリン原子の添加量は0.5質量%以上100質量%以下が好ましく、1質量%以上50質量%以下がより好ましく、2質量%以上30質量%以下が最も好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量が上記範囲内であれば、リン酸化セルロース繊維の収率をより向上させることができる。繊維原料に対するリン原子の添加量が100質量%以下とすることにより、製造コストを抑えることができる。一方、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記下限値以上とすることにより、収率を高めることができる。
【0029】
本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、チオ尿素、ビウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素、テトラメチル尿素、ベンゾレイン尿素、ヒダントインなどが挙げられる。この中でも低コストで扱いやすく、ヒドロキシル基を有する繊維原料と水素結合を作りやすいことから尿素が好ましい。
【0030】
化合物Bは化合物A同様に水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。繊維原料に対する化合物Bの添加量は1質量%以上300質量%以下であることが好ましい。
【0031】
化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0032】
リン酸基導入工程においては加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度は、たとえば50℃以上250℃以下であることが好ましく、100℃以上200℃以下であることがより好ましい。また、加熱には減圧乾燥機、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いてもよい。
【0033】
加熱処理の際、化合物Aを添加した繊維原料スラリーに水が含まれている間において、繊維原料を静置する時間が長くなると、乾燥に伴い水分子と溶存する化合物Aが繊維原料表面に移動する。そのため、繊維原料中の化合物Aの濃度にムラが生じる可能性があり、繊維表面へのリン酸基の導入が均一に進行しない恐れがある。乾燥による繊維原料中の化合物Aの濃度ムラ発生を抑制するためには、ごく薄いシート状の繊維原料を用いるか、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練または/および撹拌しながら加熱乾燥又は減圧乾燥させる方法を採ればよい。
【0034】
加熱処理に用いる加熱装置としては、スラリーが保持する水分及びリン酸基などの繊維の水酸基への付加反応で生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましく、例えば送風方式のオーブン等が好ましい。装置系内の水分を常に排出すれば、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもでき、軸比の高い微細繊維を得ることができる。加熱処理の時間は、加熱温度にも影響されるが繊維原料スラリーから実質的に水分が除かれてから1分間以上300分間以下であることが好ましく、1分間以上200分間以下であることがより好ましいが、特に限定されない。
【0035】
本実施形態においては、リン酸化処理工程の後で、得られたリン酸基導入繊維に対してアルカリ処理を行うことができる。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、リン酸基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されないが、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。アルカリ溶液における溶媒としては水または有機溶媒のいずれであってもよい。溶媒は、極性溶媒(水、またはアルコール等の極性有機溶媒)が好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒がより好ましい。
また、アルカリ溶液のうちでは、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が特に好ましい。
【0036】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は特に限定されないが、5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液への浸漬時間は特に限定されないが、5分間以上30分間以下が好ましく、10分間以上20分間以下がより好ましい。アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は特に限定されないが、リン酸基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0037】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液使用量を減らすために、アルカリ処理工程の前に、リン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄しても構わない。アルカリ処理後には、取り扱い性を向上させるために、解繊処理工程の前に、アルカリ処理済みリン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0038】
塗料用組成物に含まれるリン酸化セルロース繊維は、たとえば繊維幅が1000nm以下である微細繊維を含むことができる。これにより、塗料用組成物における増粘性をより効果的に向上させつつ、耐塩性の向上を図ることが可能となる。本実施形態においては、塗料用組成物中に、繊維幅が1000nm以下である単繊維状のリン酸化セルロース繊維が含まれることが好ましい。リン酸化セルロース繊維の繊維幅は、たとえばTEM(透過型電子顕微鏡)、SEM(走査型電子顕微鏡)、AFM(原子間力顕微鏡)による画像解析により求めることができる。微細繊維の繊維幅の下限値は、たとえば2nmとすることができる。
また、微細繊維の平均繊維幅は、たとえば2nm以上1000nm以下とすることができ、2nm以上100nm以下であることがより好ましい。これにより、増粘性と耐塩性をより効果的に向上させることができる。なお、塗料用組成物に含まれる微細繊維の平均繊維幅は、たとえば塗料用組成物中に含まれる任意の単繊維状の微細繊維を100本選択し、その繊維幅の平均値から算出することができる。
【0039】
また、微細繊維の平均繊維幅の測定は、以下のようにして行ってもよい。
濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の微細繊維の水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
【0040】
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0041】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。微細繊維の平均繊維幅はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
【0042】
上記微細繊維の繊維長は特に限定されないが、0.1μm以上1000μm以下が好ましく、0.1μm以上800μm以下がさらに好ましく、0.1μm以上600μm以下が特に好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維の結晶領域の破壊を抑制できる。なお、微細繊維の繊維長は、たとえばTEM、SEM、AFMによる画像解析により求めることができる。
【0043】
塗料用組成物に含まれるリン酸化セルロース繊維は、繊維幅1000nm以下である微細繊維をリン酸化セルロース繊維全体に対して50質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがとくに好ましい。一方で、リン酸化セルロース繊維に含まれる上記微細繊維の含有量の上限値は、とくに限定されないが、たとえば100質量%とすることができる。これにより、塗料用組成物の増粘性と耐塩性をより効果的に向上させることが可能となる。
【0044】
上記微細繊維は、たとえばリン酸化処理されたセルロース原料を解繊処理することによって得ることができる。解繊処理工程では、通常、解繊処理装置を用いて、繊維を解繊処理して、微細繊維状セルロース含有スラリーを得るが、処理装置、処理方法は、特に限定されない。解繊処理装置としては、高速回転式分散装置、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミルなどを使用できる。あるいは、解繊処理装置としては、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできる。解繊処理装置は、上記に限定されるものではない。好ましい解繊処理方法としては、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミの心配が少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーが挙げられる。
【0045】
解繊処理の際には、繊維原料を水と有機溶媒を単独または組み合わせて希釈してスラリー状にすることが好ましいが、特に限定されない。分散媒としては、水の他に、極性有機溶剤を使用することができる。好ましい極性有機溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、またはt−ブチルアルコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。分散媒は1種であってもよいし、2種以上でもよい。また、分散媒中に繊維原料以外の固形分、例えば水素結合性のある尿素などを含んでも構わない。
【0046】
本実施形態に係る塗料用組成物は、増粘剤として上述のリン酸化セルロース繊維以外に、たとえば増粘性多糖類を含んでいてもよい。繊維状セルロースと、増粘性多糖類と、をともに含むことにより着色剤の分散性をより効果的に向上させることができる。増粘性多糖類としては、たとえばキサンタンガム、カラギーナン、グアーガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、グルコマンナン、カチオン化でんぷん、カチオン化グアーガム、クインスシード、寒天、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテル、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。これらの中でもキサンタンガムを用いる態様を好ましい一例として挙げることができる。また、塗料用組成物は、増粘剤として、メタクリル酸アルキル・アクリル酸コポリマー、ポリアクリル酸類、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ビスアクリルアミドメチルエーテル、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、ポリエチレングリコール、ポリジオキソラン、ポリスチレンスルホン酸、ポリプロピレンオキサイド、カルボキシビニルポリマー、ポリスチレンスルホン酸、およびスチレン−無水マレイン酸重合体などの合成高分子、ならびにモンモリロナイト、スメクタイト、ベントナイト、および微粒シリカなどの無機増粘剤から選択される一種または二種以上を含むことも可能である。
【0047】
塗料用組成物に含まれる着色剤は、一般的にボールペンなどの筆記具に使用されるものであればとくに限定されないが、たとえば顔料、および水溶性染料のうちの少なくとも一種を含むことができる。これらの中でも、発色性を向上させるなどの観点からは水溶性染料が好ましく用いられる。
【0048】
顔料としては、たとえばカーボンブラックおよび金属粉などに例示される無機系顔料、ならびにアゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料などのアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料などの多環式顔料、染料レーキ、ニトロ系顔料、およびニトロソ系顔料などに例示される有機系顔料が挙げられ、これらのうちの一種または二種以上を着色剤として含むことができる。
【0049】
また、本実施形態においては、着色剤として、アクリロニトリル系共重合体などの樹脂粒子を塩基性蛍光染料で染色した顔料を用いることもできる。このような顔料としては、たとえばシンロイヒ株式会社製のシンロイヒカラーSFシリーズ、日本蛍光化学株式会社製のNKWおよびNKPシリーズなどを例示することができる。このような顔料を含む場合においても、本実施形態に係る塗料用組成物によれば、耐塩性を向上させることができるため、塩に起因して経時的に増粘性が低下することを抑制することが可能となる。
【0050】
水溶性染料としては、たとえば直接染料、酸性染料、および塩基性染料のうちの少なくとも一種を含むことができる。これらの中でも、塩基性染料を少なくとも含む態様を好ましい一例として挙げることができる。このような塩基性染料を含む場合においても、本実施形態に係る塗料用組成物によれば、耐塩性を向上させることができるため、塩に起因して経時的に増粘性が低下することを抑制することが可能となる。なお、水溶性染料として酸性染料を用いた場合であっても、塗料用組成物は優れた耐塩性を発揮することができ、染料以外の他の成分から塩が持ち込まれた場合でも塩に起因した粘度低下が抑制される。
【0051】
直接染料としては、たとえばC.I.ダイレクトブラック17、同19、同22、同32、同38、同51、同71、C.I.ダイレクトイエロー4、同26、同44、同50、C.I.ダイレクトレッド1、同4、同23、同31、同37、同39、同75、同80、同81、同83、同225、同226、同227、C.I.ダイレクトブルー1、同15、同71、同86、同106、同119などを用いることができる。酸性染料としては、たとえばC.I.アシッドブラック1、同2、同24、同26、同31、同52、同107、同109、同110、同119、同154、C.I.アシッドエロー7、同17、同19、同23、同25、同29、同38、同42、同49、同61、同72、同78、同110、同127、同135、同141、同142、C.I.アシッドレッド8、同9、同14、同18、同26、同27、同35、同37、同51、同52、同57、同82、同87、同92、同94、同115、同129、同131、同186、同249、同254、同265、同276、C.I.アシッドバイオレット18、同17、C.I.アシッドブルー1、同7、同9、同22、同23、同25、同40、同41、同43、同62、同78、同83、同90、同93、同103、同112、同113、同158、C.I.アシッドグリーン3、同9、同16、同25、同27などを用いることができる。塩基性染料としては、たとえばC.I.ベーシックエロー1、同2、同21、C.I.ベーシックオレンジ2、同14、同32、C.I.ベーシックレッド1、同2、同9、同14、C.I.ベーシックブラウン12、ベーシックブラック2、同8などを用いることができる。
【0052】
着色剤の含有量は、とくに限定されないが、たとえば塗料用組成物全体に対して0.1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。これにより、耐塩性や経時安定性をより効果的に向上させつつ、十分な着色を実現することが可能となる。
【0053】
溶媒としては、たとえば水、エチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロンパンジオール、1,2−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオール、3−メチル1,3−ブタンジオール、2メチルペンタン−2,4−ジオール、3−メチルペンタン−1,3,5トリオール、1,2,3−ヘキサントリオール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセロール、ジグリセロール、トリグリセロール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、チオジエタノール、N−メチル−2−ピリドン、1,3−ジメチル−2−イミダリジノン、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ベンジルアルコール、ジメチルホルムアミド、ジエチルアセトアミド、およびアセトンのうちの一種または二種以上を含むことができる。これらの中でも、少なくとも水を含むことがより好ましく、水と有機溶媒をともに含むことができる。
【0054】
溶媒の含有量は、とくに限定されないが、たとえば塗料用組成物全体に対して10質量%以上90質量%以下であることが好ましく、30質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。これにより、塗料用組成物について、着色剤の分散性、耐塩性、筆記性、経時安定性などのバランスをより効果的に向上させることが可能となる。
【0055】
本実施形態に係る塗料用組成物は、上述した各成分以外に、たとえば分散剤、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤および防菌剤のうちの一種または二種以上を含むことができる。分散剤としては、たとえばスチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、およびスチレンマレイン酸共重合体ならびにこれらの塩を挙げることができる。界面活性剤としては、たとえばオレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウムなどの脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、液体脂肪油硫酸エステル塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類などに例示されるアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類、アセチレンアルコール、アセチレングリコールなどに例示されるノニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩などに例示されるカチオン性界面活性剤、およびアルキルベタイン、アルキルアミンオキサイドなどに例示される両性界面活性剤から選択される一種または二種以上を含むことができる。pH調整剤としては、たとえば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、リン酸カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、アンモニア、尿素、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノールなどが挙げられる。防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類などが挙げられる。防腐剤もしくは防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
【0056】
本実施形態に係る塗料用組成物は、繊維状セルロースと、着色剤と、溶媒と、必要に応じてその他の成分と、を混合することにより得ることができる。混合処理は、とくに限定されないが、たとえば真空ホモミキサー、ディスパー、プロペラミキサー、ニーダー等の各種混練器、ブレンダー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ペブルミル、ビーズミル粉砕機、高圧ホモジナイザーなどを用いることができる。また、繊維状セルロースとして微細繊維を含む場合、繊維状セルロースを解繊して得た微細繊維を上記混合処理により他の成分と混合してもよく、他の成分と混合処理すると同時に繊維状セルロースが解繊されて微細繊維が得られる形態であってもよい。
【0057】
本実施形態に係る塗料用組成物のpHは2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、4以上であることがさらに好ましい。また、本実施形態に係る塗料用組成物のpHは12以下であることが好ましく、11以下であることがより好ましい。塗料用組成物のpHを上記範囲内とすることにより、塗料用組成物中に含まれる繊維状セルロースに由来する増粘効果がより効果的に発揮され、これにより、塗料用組成物の安定性と筆記性が向上する。また、塗料用組成物の発色性を向上させる観点からは、塗料用組成物のpHを、使用する着色剤の推奨使用範囲に設定することが好ましい。
【0058】
本実施形態に係る塗料用組成物に含まれる繊維状セルロースを0.4質量%となるように水に分散させて得られる懸濁液の粘度は、12500mPa・s以上であることが好ましく、13500mPa・s以上であることがより好ましく、16000mPa・s以上であることがさらに好ましい。なお、該懸濁液の粘度の上限値は特に限定されるものではないが、例えば、50000mPa・sとすることができる。
ここで、粘度測定に用いられる懸濁液を調製する際には、繊維状セルロースを0.4質量%となるように水に分散させ、かつ懸濁液のpHが実際に作製される塗料用組成物と同じpHとなるようにする。なお、実際に作製される塗料用組成物が不明である場合は、懸濁液のpHを3以上12以下の任意の濃度に調整する。粘度を測定する前には、このように調製された懸濁液を25℃の環境下にて16時間以上静置する。そして、B型粘度計を用いて、25℃にて回転数3rpmで3分間回転させることで懸濁液の粘度を測定する。粘度測定に用いるB型粘度計としては、例えば、BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVTを例示することができる。
なお、このようにして測定される粘度は、25℃の環境下にて16時間以上静置した後の粘度であるから、経時粘度と呼ぶこともできる。本発明においては、経時粘度が所定値以上である点に特徴があり、これにより塗料用組成物の経時後の安定性が高められる。
【0059】
本実施形態に係る塗料用組成物に含まれる繊維状セルロースを0.2質量%となるように水に分散させて得られる懸濁液のヘーズは、11%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、7%以下であることがさらに好ましく、5%以下であることが特に好ましい。
ここで、ヘーズ測定に用いられる懸濁液を調製する際には、繊維状セルロースを0.2質量%となるように水に分散させ、かつ懸濁液のpHが実際に作製される塗料用組成物と同じpHとなるようにする。なお、実際に作製される塗料用組成物が不明である場合は、懸濁液のpHを3以上12以下の任意の濃度に調整する。ヘーズを測定する際には、このように調製された懸濁液を光路長1cmのガラスセルに入れ、JIS K 7136に準拠して測定する。なお、ヘーズメーターとしては、例えば、村上色彩技術研究所社製、HM−150を用いることができる。ヘーズを測定する際には、光路長1cmのガラスセルにイオン交換水を加えたものをゼロ点とする。
本発明においては、繊維状セルロースの懸濁液のヘーズが所定値以下である点に特徴があり、これにより塗料用組成物の発色性が高められる。繊維状セルロースの懸濁液のヘーズが所定値以下であることは、塗料用組成物のヘーズが所定値以下であることを意味し、これにより、塗料用組成物の濁りが抑制され、着色剤が有する鮮やかさを維持することができる。
【0060】
本実施形態においては、上述の塗料用組成物を有する筆記具を得ることができる。このような筆記具は、たとえば塗料用組成物またはこれを用いて得られる塗料を充填した軸筒などの塗料収容体を備えることができる。
【0061】
なお、本発明にかかる塗料用組成物の構成は、本実施形態に記載のものに限られない。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。
【0063】
[繊維状セルロース1の製造]
尿素100g、リン酸二水素ナトリウム二水和物55.3g、リン酸水素二ナトリウム41.3gを109gの水に溶解させてリン酸化試薬を調製した。
【0064】
乾燥した針葉樹晒クラフトパルプの抄上げシートをカッターミルおよびピンミルで処理し、綿状の繊維にした。この綿状の繊維を絶対乾燥質量で100g取り、リン酸化試薬をスプレーでまんべんなく吹きかけた後、手で練り合わせ、薬液含浸パルプを得た。得られた薬液含浸パルプを140℃に加熱したダンパー付きの送風乾燥機にて、80分間加熱処理し、リン酸化パルプを得た。
【0065】
得られたリン酸化パルプをパルプ質量で100g分取し、10Lのイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。次いで、得られた脱水シートを10Lのイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加し、pHが12〜13のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、10Lのイオン交換水を添加した。攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。得られた脱水シートをFT−IRで赤外線吸収スペクトルを測定した。その結果、1230〜1290cm-1にリン酸基に基づく吸収が観察され、リン酸基の付加が確認された。従って、得られた脱水シート(リン酸オキソ酸導入セルロース)は、セルロースのヒドロキシ基の一部が下記構造式(1)の官能基で置換されたものであった。
このようにして得られたリン酸化セルロースにイオン交換水を添加し、2質量%スラリーを調製した。このスラリーを、解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックス−11S)を用いて、6900回転/分の条件で180分間解繊処理し、繊維状セルロース1の懸濁液を得た。
【0066】
[繊維状セルロース2の製造]
乾燥質量200g相当分の未乾燥の針葉樹晒クラフトパルプとTEMPO2.5gと、臭化ナトリウム25gを水1500mlに分散させた。その後、13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1.0gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が5.0mmolになるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10〜11に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応を終了した。
その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、10Lのイオン交換水を添加した。次に、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。得られた脱水シートをFT−IRで赤外線吸収スペクトルを測定した。その結果、1730cm-1にカルボキシル基に基づく吸収が観察され、カルボキシル基の付加が確認された。この脱水シート(TEMPO酸化セルロース)を用いて、微細繊維状セルロースを製造した。これにより得られたカルボキシル基が付加したTEMPO酸化セルロースにイオン交換水を添加し、2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックス−11S)を用いて、6900回転/分の条件で180分間解繊処理し、繊維状セルロース2の懸濁液を得た。
【0067】
[実施例1]
上記で得られた繊維状セルロース1を0.1質量%と、着色剤として塩基性染料(シンロイヒ社製、SF−3013レッド)20質量%と、水溶性高分子としてキサンタンガムを0.1質量%と、界面活性剤としてオレイン酸ナトリウムを0.5質量%と、分散剤としてスチレンアクリル共重合体を6質量%と、有機溶媒としてプロピレングリコールを15質量%と、残部として水とをホモミキサーを用いて撹拌混合して、塗料用組成物を得た。
【0068】
[比較例1]
繊維状セルロース1の代わりに繊維状セルロース2を使用した点を除いて実施例1と同様にして塗料用組成物を得た。
【0069】
[実施例2]
実施例1において、残部としての水の一部を、濃度1Nの水酸化ナトリウム水溶液とし、塗料用組成物のpHを11に調整した。その他の手順は実施例1と同様にして塗料用組成物を得た。
【0070】
[比較例2]
繊維状セルロース1の代わりに繊維状セルロース2を使用した点を除いて実施例2と同様にして塗料用組成物を得た。
【0071】
[実施例3]
塗料用組成物のpHを12に調整した点を除いて実施例2と同様にして塗料用組成物を得た。
【0072】
[比較例3]
繊維状セルロース1の代わりに繊維状セルロース2を使用した点を除いて実施例3と同様にして塗料用組成物を得た。
【0073】
[実施例4]
実施例1において、残部としての水の一部を、濃度1Nの塩酸とし、塗料用組成物のpHを4に調整した。その他の手順は実施例1と同様にして塗料用組成物を得た。
【0074】
[比較例4]
繊維状セルロース1の代わりに繊維状セルロース2を使用した点を除いて実施例4と同様にして塗料用組成物を得た。
【0075】
[実施例5]
塩基性染料の代わりに酸性染料(東京化成工業社製、C.I.アシッドレッド52)を使用した点を除いて実施例4と同様にして塗料用組成物を得た。
【0076】
[比較例5]
繊維状セルロース1の代わりに繊維状セルロース2を使用した点を除いて実施例5と同様にして塗料用組成物を得た。
【0077】
[実施例6]
塗料用組成物のpHを2に調整した点を除いて実施例5と同様にして塗料用組成物を得た。
【0078】
[比較例6]
繊維状セルロース1の代わりに繊維状セルロース2を使用した点を除いて実施例6と同様にして塗料用組成物を得た。
【0079】
[実施例7]
実施例5において、濃度1Nの塩酸の代わりに濃度1Nの水酸化ナトリウム水溶液を使用し、塗料用組成物のpHを11に調整した。その他の手順は実施例5と同様にして塗料用組成物を得た。
【0080】
[比較例7]
繊維状セルロース1の代わりに繊維状セルロース2を使用した点を除いて実施例7と同様にして塗料用組成物を得た。
【0081】
[測定]
実施例、および比較例で使用した繊維状セルロースの懸濁液について、以下の方法で測定を行った。
【0082】
[繊維状セルロースの懸濁液の粘度]
解繊処理後の繊維状セルロースの懸濁液に、濃度1Nの水酸化ナトリウム水溶液または濃度1Nの塩酸、およびイオン交換水を加え、pHが各実施例、および比較例の塗料用組成物と同様であり、繊維状セルロースの濃度が0.4質量%である懸濁液を調製した。上記懸濁液を調製後、25℃の環境下にて16時間以上静置した後、B型粘度計(No.3ローター)(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて25℃、回転数3rpm(3分)で粘度を測定した。
【0083】
[繊維状セルロースの懸濁液のヘーズ]
解繊処理後の繊維状セルロースの懸濁液に、濃度1Nの水酸化ナトリウム水溶液または濃度1Nの塩酸、およびイオン交換水を加え、pHが各実施例、および比較例の塗料用組成物と同様であり、繊維状セルロースの濃度が0.2質量%である懸濁液を調製した。上記懸濁液を光路長1cmの液体用ガラスセル(藤原製作所製、MG−40、逆光路)に入れ、JIS K 7136に準拠し、ヘーズメーターを用いてヘーズを測定した。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行った。
【0084】
[評価]
実施例、および比較例で得た塗料用組成物について、以下の方法で評価を行った。
【0085】
[塗料の安定性]
実施例、および比較例で調製した塗料用組成物を、45℃で1ヶ月間放置し、その安定性を評価した。評価は、以下の判断基準に従って行った。
○:1ヶ月放置後において、全ての含有成分が均一に混合した状態を維持している。
△:1ヶ月放置後において、含有成分の一部の分離による層が僅かに形成されている。
×:1ヶ月放置後において、含有成分の一部の分離による層が明確に形成され、また沈殿が確認される。
【0086】
[塗料の筆記性]
実施例、および比較例で調製した塗料用組成物を、45℃で1ヶ月間放置した後、市販のインク収容体に充填してボールペンを作製した。次いで、上記ボールペンを使用し、インクジェット紙上に長さ10cmの直線を描画し、目視で筆記性を評価した。評価は、以下の判断基準に従って行った。
○:にじみや濃淡のムラ、ブツ感が無く、均一な直線が描画できる。
△:若干のにじみや濃淡のムラ、ブツ感があるが、直線が描画できる。
×:顕著なにじみや濃淡のムラ、ブツ感があり、直線が描画できない。
【0087】
[塗料の発色性]
実施例、および比較例で調製した塗料用組成物を、市販のインク収容体に充填してボールペンを作製した。次いで、上記ボールペンを使用し、インクジェット紙上に、内側が上記塗料用組成物で塗りつぶされた1辺2cmの正方形を描画し、目視で発色性を評価した。なお、発色性の評価においては、以下の方法で塗料用基準組成物を作製し、評価の基準とした。
【0088】
<塩基性染料を使用した実施例1〜4、および比較例1〜4の塗料用基準組成物の作製>
着色剤として塩基性染料(シンロイヒ社製、SF−3013レッド)20質量%と、水溶性高分子としてキサンタンガムを0.1質量%と、潤滑剤としてオレイン酸ナトリウムを0.5質量%と、分散剤としてスチレンアクリル共重合体を6質量%と、有機溶媒としてプロピレングリコールを15質量%と、残部として水とをホモミキサーを用いて撹拌混合して、実施例1〜4、および比較例1〜4の基準組成物とした。
【0089】
<酸性染料を使用した実施例5〜7、および比較例5〜7の塗料用基準組成物の作製>
着色剤として酸性染料(東京化成工業社製、C.I.アシッドレッド52)20質量%と、水溶性高分子としてキサンタンガムを0.1質量%と、潤滑剤としてオレイン酸ナトリウムを0.5質量%と、分散剤としてスチレンアクリル共重合体を6質量%と、有機溶媒としてプロピレングリコールを15質量%と、残部として水とをホモミキサーを用いて撹拌混合して、実施例5〜7、および比較例5〜7の基準組成物とした。
【0090】
発色性の評価は、以下の判断基準に従って行った。
○:塗料用組成物と、基準組成物の各々を用いて描画した正方形状を比較した際に、色彩に差がない。
△:塗料用組成物と、基準組成物の各々を用いて描画した正方形状を比較した際に、鮮やかさが失われるなど、色彩に若干の差がある。
×:塗料用組成物と、基準組成物の各々を用いて描画した正方形状を比較した際に、鮮やかさが大幅に失われるなど、色彩に顕著な差がある。
【0091】
【表1】
【0092】
実施例1では、1ヶ月放置後においても全ての成分が均一に混合している状態を維持していた。一方で、比較例1では、微量の沈殿が見られた。また、実施例1の塗料用組成物をインク収容体に充填してボールペンを作製した際、当該ボールペンについては、筆記性に優れていることを確認した。
【0093】
また、表1から明らかなように、繊維状セルロースとしてリン酸基を有するセルロースを使用した実施例1では、安定性、筆記性、発色性の全てに優れる塗料用組成物が得られ、この傾向は、pHをアルカリ側に調整した実施例2でも同様であった。pHをさらにアルカリ側に調整した実施例3では、繊維状セルロースの分散液の粘度が低下したことに表れるように、繊維状セルロースに由来する増粘効果が低下し、安定性と筆記性がやや低下したが、実用の範囲内であると考えられた。また、pHを酸側に調整した実施例4では、染料の本来の使用条件とは異なるため、発色性がやや低下したが、実用の範囲内であると考えられた。
【0094】
一方で、繊維状セルロースとしてカルボキシル基を有するセルロースを使用した比較例1〜4では、塩基性染料による凝集に起因し、繊維状セルロースに由来する増粘効果が低下した。結果として、安定性、筆記性が顕著に低下し、実用上の問題が懸念された。さらに、pHを酸側に調整した比較例4では、繊維状セルロースの分散液のヘーズが上昇したことに表れるように、塗料用組成物に濁りが発生し、発色性も低下する結果となった。
【0095】
また、繊維状セルロースとしてリン酸基を有するセルロースを使用し、染料として酸性染料を使用した実施例5でも、安定性、筆記性、発色性の全てに優れる塗料用組成物が得られた。pHをさらに酸側に調整した実施例6では、繊維状セルロースの分散液の粘度が低下したことに表れるように、繊維状セルロースに由来する増粘効果が低下し、安定性と筆記性がやや低下したが、実用の範囲内であると考えられた。また、pHをアルカリ側に調整した実施例7では、染料の本来の使用条件とは異なるため、発色性がやや低下したが、実用の範囲内であると考えられた。
【0096】
一方で、繊維状セルロースとしてカルボキシル基を有するセルロースを使用し、染料として酸性染料を使用した比較例5〜7では、pHが酸側、またはアルカリ側であることに起因し、繊維状セルロースの分散液の粘度が低下したことに表れるように、繊維状セルロースに由来する増粘効果が低下した。結果として、安定性、筆記性が顕著に低下した。さらに、pHを酸側に調整した比較例5、6では、繊維状セルロースの分散液のヘーズが上昇したことに表れるように、塗料用組成物に濁りが発生し、発色性も低下する結果となった。
図1