(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
例えば
図6に示す様に、自動車の車輪は、車輪支持用の転がり軸受ユニット1により、懸架装置に対し回転自在に支持されている。転がり軸受ユニット1は、外輪2の内径側にハブ3を、複数個の転動体4、4を介して回転自在に支持している。外輪2は、懸架装置に支持する為の静止側フランジ5を外周面に有しており、複列の外輪軌道6a、6bを内周面に有している。ハブ3は、ハブ本体7と内輪8とを、ナット9により結合する事により構成されており、外周面に複列の内輪軌道10a、10bを有している。転動体4、4は、内輪軌道10a、10bと外輪軌道6a、6bとの間に、各列毎に複数個ずつ、それぞれ保持器11、11により保持された状態で転動自在に設けられている。
【0003】
ハブ本体7の外周面のうち、外輪2の軸方向外端開口部から軸方向外方に突出した部分には、径方向外方に突出した回転側フランジ12が設けられている。回転側フランジ12には、複数本のスタッド13を利用して、車輪を構成するホイールが取り付けられる。
尚、本明細書及び特許請求の範囲で、軸方向に関して内とは、車両への組み付け状態で車両の幅方向中央側となる側を言い、同じく外とは、車両の幅方向外側となる側を言う。
【0004】
外輪2の軸方向外端部とハブ3の軸方向中間部外周面との間には、密封装置14を装着している。これにより、外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在する内部空間15の軸方向外端開口部を塞いでいる。一方、外輪2の軸方向内端部には、有底円筒状のカバー16を装着して、この外輪2の軸方向内端開口部を塞いでいる。
【0005】
内部空間15の軸方向外端開口部を塞ぐ密封装置14は、回転側フランジ12の軸方向内側面に沿って径方向内方に導かれた異物が、内部空間15に侵入するのを防止する必要上、優れた密封性能が要求される。この様な事情に鑑みて従来から、内部空間の軸方向外端開口部をシールする為の密封装置として、各種構造のものが考えられている。
図7は、特許文献1に記載された密封装置14を示している。
【0006】
密封装置14は、摺接環17と、シールリング18とを備えている。
このうちの摺接環17は、金属板製で、全体が円環状に構成されており、ハブ本体7の外周面のうち、回転側フランジ12の軸方向内側に隣接する部分に外嵌固定されている。シールリング18は、外輪2の軸方向外端部に外嵌固定された芯金19と、この芯金19により補強された、弾性材製で円環状のシール材20とを備えている。シール材20には、それぞれの先端縁を摺接環17の表面に全周に亙り摺接させた、3本のシールリップ21a〜21cが設けられている。
【0007】
上述の様な構成を有する従来構造の密封装置14は、シールリップ21a〜21cの先端縁を摺接させる相手面として、ハブ3の表面ではなく、金属板製の摺接環17の表面を採用している。この為、研削加工に伴い研削筋目が生じ易いハブの表面にシールリップの先端縁を摺接させた場合の様な、シール鳴きやシールリップの貼り付きの問題が生じる事を防止できる。
【0008】
但し、従来構造の場合には、回転側フランジ12の軸方向内側面と摺接環17の軸方向外側面とを直接当接させており、この当接部をシール部材等により覆っていない。この為、回転側フランジ12の軸方向内側面と摺接環17の軸方向外側面との当接部に、泥水等の異物が侵入し、錆びを発生させる可能性がある。又、車輪と共に回転する回転側フランジ12には、路面反力に基づきモーメント(旋回モーメント)力が加わる為、回転側フランジ12の軸方向内側面とハブ本体7の外周面に外嵌固定された摺接環17の軸方向外側面とが相対変位し、互いに擦れ合う可能性がある。この為、回転側フランジ12の軸方向内側面及び摺接環17の軸方向外側面に、フレッチング摩耗が生じる可能性がある。又、この様なフレッチング摩耗は、回転側フランジ12の軸方向内側面又は摺接環17の軸方向外側面に錆びが発生していると、その進行がより一層早くなる。
【0009】
上述の様な事情に鑑みて、例えば特許文献2、3には、摺接環の軸方向外側面の径方向外端部に密封シールを添着固定し、この密封シールを回転側フランジの軸方向内側面に当接させる事で、摺接環の軸方向外側面と回転側フランジの軸方向内側面とを離隔させる或いは当接部を少なくする構造が記載されている。この様な従来構造の場合には、摺接環の軸方向外側面や回転側フランジの軸方向内側面に生じる錆びやフレッチング摩耗の問題を低減できる。但し、長期間に亙る使用に伴い、摺接環に添着固定した密封シールが摩耗する為、やはり錆びやフレッチング摩耗の問題を生じる可能性がある。
【0010】
例えば特許文献4〜6には、内径側半部を省略した如き構成を有する摺接環を、ハブの外周面に外嵌固定するのではなく、回転側フランジの軸方向内側面に係止する構造が記載されている。この様な構造によれば、モーメント力により傾倒する回転側フランジと共に摺接環を変位させられる為、上述した様な錆びやフレッチング摩耗の問題を解消できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
但し、上述した特許文献4〜6に記載された構造の場合、摺接環が回転側フランジの傾き中心である軸受中心から遠い位置に係止される為、摺接環の軸方向に関する変位幅が大きくなる。この為、摺接環の表面に摺接させるシールリップの締め代変化が大きくなり、シール性能が不十分となる可能性がある。又、回転側フランジの軸方向内側に、摺接環を配置する為の空間を確保する必要上、外側列の転動体を軸方向内側に移動し、転動体の列間距離を縮めなければならない為、軸受寿命が短くなる可能性もある。
【0013】
そこで、本発明者は、当初、
図8に示す様な構造を考えた。この先発明に係る未公開の密封装置14aは、摺接環17aの径方向中間部に蛇腹部22を設けている。又、摺接環17aの径方向外端寄り部分に密封シール23を添着固定している。そして、この密封シール23を、回転側フランジ12の軸方向内側面に当接させて、摺接環17aの軸方向外側面と回転側フランジ12の軸方向内側面との間に隙間を設けている。この様な構造によれば、摺接環17aの軸方向外側面や回転側フランジ12の軸方向内側面に、錆びやフレッチング摩耗の問題が生じる事を抑制できる。又、摺接環17aのうち蛇腹部22よりも外径側部分を内径側部分に対して軸方向に変位させられる為、密封シール23の摩耗抑制を図れる。更に、密封シール23を弾性変形させる事で、回転側フランジ12の傾斜角度よりも摺接環17aの外径側部分の傾斜角度を小さく抑えられる為、摺接環17aの外径側部分に摺接するシールリップ21aの締め代変化を小さく抑える事ができ、シール性能を確保できる。
【0014】
但し、摺接環17aには、防錆性能を有する事や、シールリップの先端縁が摺接する摺接部にある程度の硬度が必要である等の各種の要求性能を満足する必要がある。この様な理由から、摺接環17aの素材となる金属板には、難プレス成形材料であるステンレス鋼板が使用される場合が多いが、この様なステンレス鋼板に、上述した蛇腹部22の様な、曲げ変形量が大きく複雑な形状をプレス加工により形成する事は困難である。
【0015】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、シールリップの締め代変化を抑える事ができ、摺接環の製造が容易で、しかも軸受寿命を確保できる、転がり軸受ユニットの構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の転がり軸受ユニットは、外輪と、ハブと、複数個の転動体と、密封装置とを備えている。
このうちの外輪は、例えば略円筒状に構成され、内周面に1乃至複数の外輪軌道を有しており、例えば使用時に懸架装置に支持固定されて回転しない。
前記ハブは、前記外輪の内径側にこの外輪と同心に配置され、外周面のうち前記外輪軌道と対向する部分に内輪軌道を、同じく前記外輪の軸方向外端開口から突出した部分に回転側フランジを、それぞれ有しており、例えば使用時にこの回転側フランジに車輪を結合固定した状態でこの車輪と共に回転する。
前記各転動体は、例えば玉や円すいころであり、前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に転動自在に設けられている。
前記密封装置は、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する内部空間の軸方向外端開口を塞ぐ為のもので、摺接環と、シールリングとを有している。
このうちの摺接環は、全体が円環状に構成されており、前記ハブの外周面のうち、例えば前記回転側フランジの軸方向内側に隣接する部分に外嵌固定され、前記ハブの外周面及び前記回転側フランジの軸方向内側面を覆う。
前記シールリングは、前記外輪の軸方向外端部に支持固定され、前記摺接環の表面にシールリップの先端縁を全周に亙り摺接させる。
更に本発明の場合には、前記摺接環を、前記ハブの外周面に外嵌固定された、例えば金属製で円環状の内径側摺接素子と、例えば金属製で円環状の外径側摺接素子とを、弾性材により接合する事により構成している。
本発明を実施する場合には、前記密封装置に、前記摺接環の軸方向外側面と前記回転側フランジの軸方向内側面との間で弾性的に挟持される密封シールを更に備えさせる事ができる。この場合、前記弾性材の一部に、前記密封シールを設ける事もできるし、これら弾性材と密封シールとをそれぞれ別々に設ける事もできる。
【0017】
本発明
では、前記内径側摺接素子の外径側端部と前記外径側摺接素子の内径側端部との接合態様とし
て、これら内径側摺接素子の外径側端部と外径側摺接素子の内径側端部とを互いに離隔した状態で配置し、これらの間部分に弾性材を介在させる構成を採用
している。
又、接合部に必要な剛性の大きさ(内径側摺接素子に対する外径側摺接素子の相対変位量)に応じて、前記内径側摺接素子の外径側端部と前記外径側摺接素子の内径側端部との近接態様(位置関係、対向関係、端部同士の距離等)や弾性材の種類を変更する事ができる。
本発明の第1態様では、前記弾性材の内部で、前記内径側摺接素子の外径側端部と前記外径側摺接素子の内径側端部とを、互いに離隔した状態で、一方の端部に設けられた円輪状又は円環状の端縁(例えば円筒状部分の軸方向端縁、又は円輪状部分の外周縁若しくは内周縁)と、他方の端部に設けられた円周方向に連続した側面(例えば円輪状部分の側面、円筒状部分の周面である径方向側面、円すい筒状部分の周面である径方向側面)とを対向させ
ている。
又、端縁と側面とを対向させる場合よりも、接合部の剛性を高くしたい場合には、
本発明の第2態様のように、前記弾性材の内部で、前記内径側摺接素子の外径側端部と前記外径側摺接素子の内径側端部とを、互いに離隔した状態で、円周方向に連続した側面同士を対向させる構成を採用する事もできる。
【発明の効果】
【0018】
上述の様な構成を有する本発明の転がり軸受ユニットによれば、シールリップの締め代変化を抑える事ができ、摺接環の製造が容易で、しかも軸受寿命を確保できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[実施の形態の第1例]
本発明の実施の形態の第1例に就いて、
図1〜2を参照しつつ説明する。本例の転がり軸受ユニット1aは、自動車の車輪(従動輪)を懸架装置に対して回転自在に支持する為に利用するもので、外輪2aと、ハブ3aと、複数個の転動体(玉)4a、4aと、密封装置14bと、カバー16aとを備えている。
【0021】
外輪2aは、例えば中炭素鋼等の鉄系合金製で略円筒状に構成されており、内周面に複列の外輪軌道6c、6dを、外周面に静止側フランジ5aを、それぞれ有している。この様な外輪2aは、使用時に、静止側フランジ5aを、図示しない懸架装置のナックルに結合固定する事により、この懸架装置に支持された状態で回転しない。
【0022】
ハブ3aは、ハブ本体7aと内輪8aとを結合する事により構成されており、外輪2aの内径側にこの外輪2aと同心に配置されている。ハブ本体7aは、例えば中炭素鋼等の鉄系合金製で、外周面に例えば高周波焼き入れ処理などの硬化熱処理が施されている。
【0023】
ハブ本体7aの外周面のうち、外輪2aの軸方向外端開口から軸方向外方に突出した部分には、車輪やディスクロータを支持固定する為の円輪状の回転側フランジ12aが設けられている。回転側フランジ12aのうち、径方向内端部(基端部)を、軸方向に関する厚さ寸法(肉厚)が大きい厚肉部24としており、径方向中間部乃至外端部(先端部)を、軸方向に関する厚さ寸法が厚肉部24に比べて小さい薄肉部25としている。これにより、旋回走行等に伴って、車輪から回転側フランジ12aに加わるモーメント(旋回モーメント)に対する強度及び剛性を確保している。又、厚肉部24と薄肉部25とを、回転側フランジ12aの軸方向内側面の内径寄り部分に設けられた段部26により連続させている。
【0024】
ハブ本体7aの外周面のうち、外輪2aの内周面に設けられた外側列の外輪軌道6cと対向する部分には、断面形状が部分円弧状である内輪軌道10cを設けている。又、ハブ本体7aの外周面のうち、内輪軌道10cの軸方向外側に隣接した部分には、円筒面部27を設けている。又、円筒面部27と、回転側フランジ12a(厚肉部24)の軸方向内側面との間には、断面形状が部分円弧形の凹曲面部28を設けている。更に、ハブ本体7aの外周面の軸方向内端部には、小径段部29を設けている。
【0025】
ハブ本体7aと共にハブ3aを構成する内輪8aは、例えばSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼製で、略円環状に構成されており、ズブ焼き入れ等の熱処理が施されている。又、内輪8aの外周面には、断面形状が部分円弧形である内側列の内輪軌道10dが形成されている。この様な内輪8aは、ハブ本体7aの軸方向内端部に設けられた小径段部29に、締り嵌めにより外嵌固定されている。そして、内輪8aは、ハブ本体7aの軸方向内端部を径方向外方に塑性変形する事により形成されたかしめ部30により、軸方向内端面が抑え付けられている。尚、ハブ本体7aの軸方向内端部にかしめ部30を形成する構造に代えて、ハブ本体の軸方向内端部にナットを螺着する構造を採用する事もできる。
【0026】
転動体4a、4aは、外側列の外輪軌道6c及び内輪軌道10cとの間部分、並びに、内側列の外輪軌道6d及び内輪軌道10dとの間部分に、それぞれ保持器11a、11aにより保持された状態で転動自在に配置されている。又、転動体4a、4aには、かしめ部30による押し付け力を利用して、背面組合せ型の接触角と適正な予圧が付与されている。尚、図示の例では、転動体4a、4aとして玉を使用しているが、重量が嵩む自動車の車輪支持用の転がり軸受ユニットの場合には、玉に代えて円すいころを使用する事もできる。
【0027】
外輪2aの内周面とハブ3aの外周面との間に存在する、内部空間(転動体設置空間)15aの軸方向両端開口を、密封装置14b及びカバー16aにより塞いでいる。このうちのカバー16aは、外輪2aの軸方向内端開口部を塞ぐ事により、内部空間15aの軸方向内端開口を塞ぐもので、全体を有底円筒状に構成されており、円筒状の支持筒部31と、支持筒部31の軸方向内端部から径方向内方に折れ曲がった底板部32とを備えている。そして、このうちの支持筒部31を、外輪2aの軸方向内端部に内嵌固定する事で、中実体であるハブ本体7aの軸方向内側面と共に、内部空間15aの軸方向内端開口を塞いでいる。
【0028】
密封装置14bは、内部空間15aの軸方向外端開口を塞ぐもので、摺接環17bと、、密封シール46と、シールリング18aとから構成されている。
このうちの摺接環17bは、全体が円環状に構成されており、それぞれがステンレス鋼板等の耐食性を有する金属板製の内径側摺接素子33及び外径側摺接素子34と、これら内径側摺接素子33と外径側摺接素子34とを接合するゴムや合成樹脂等の弾性材製の弾性材35とを備えている。
【0029】
内径側摺接素子33は、断面略L字形で全体が円環状に構成されており、摺接環17b全体の軸方向及び径方向に関する位置決めを図る部分であり、円筒状の嵌合筒部36と、嵌合筒部36の軸方向外端部から径方向外方に向けて直角に折れ曲がった、円輪状の円板部37とを備えている。そして、このうちの嵌合筒部36を、ハブ本体7aの円筒面部27に締り嵌めで外嵌固定し、径方向に関する位置決めを図っている。本例の場合、嵌合筒部36の外周面及び円板部37の軸方向内側面を、それぞれ後述するシールリップ21f、21eの摺接面とし、円板部37の外径側端部を外径側摺接素子33との接続部としている。
【0030】
外径側摺接素子34は、断面略横U字形で全体が円環状に構成されており、内径側摺接素子33の外径寸法よりも僅かに小さな内径寸法を有している。又、外径側摺接素子34は、後述する弾性材35により内径側摺接素子33と接合された状態で、内径側摺接素子33の軸方向外側且つ径方向外側に配置されている。この様な外径側摺接素子34は、円筒状の内径側筒部38と、内径側筒部38の軸方向外端部から径方向外方に延出する状態で設けられた略円輪状の側板部39と、側板部39の外周縁から軸方向内方に向けて折れ曲がる状態で設けられた、円すい筒状(又は円筒状)の外径側筒部40とを備えている。又、側板部39は、内径側円輪部41と、内径側円輪部41の外周縁から径方向外方に向かう程軸方向外方に向かう方向に傾斜した傾斜板部42と、傾斜板部42の外周縁から径方向外方に延出する状態で設けられた外径側円輪部43とを備えている。又、内径側円輪部41と外径側円輪部43とは軸方向にオフセットした状態で略平行に配置されており、内径側円輪部41の径方向幅寸法は外径側円輪部43の径方向幅寸法よりも十分に大きくなっている。本例の場合、内径側円輪部41の軸方向内側面を、後述するシールリップ21dの摺接面とし、内径側筒部38を内径側摺接素子34との接続部としている。
【0031】
弾性材35は、内径側摺接素子33の外径側端部と外径側摺接素子34の内径側端部とを僅かな相対変位を可能に接合する接合環部44と、内径側円輪部41の軸方向外側面を覆った円輪状の覆い部45と、摺接環17bの軸方向外側面と回転側フランジ12aの軸方向内側面との間に弾性的に挟持される、円環状の密封シール(ガスケット)46とを一体に設けている。
【0032】
接合環部44は、全体が略円筒状で、弾性材35の内径側端部に設けられており、内径側摺接素子33(円板部37)の外径側端部及び外径側摺接素子34の内径側端部(内径側筒部38)の周囲をそれぞれ覆っている。又、内径側摺接素子33と外径側摺接素子34とを接合した状態で、接合環部44の内部では、特許請求の範囲に記載した端縁に相当する内径側筒部38の軸方向内端縁と、特許請求の範囲に記載した側面に相当する円板部37の軸方向外側面の外径側端部とを、全周に亙り軸方向に近接対向させている。これにより、円板部37と内径側筒部38とを軸方向に重畳させている。そして、内径側摺接素子33の外径側端部と外径側摺接素子34の内径側端部との間部分に存在する弾性材35に対し、内径側摺接素子33にあっては、ゴムとの接着性が高い円板部37の軸方向外側面を接合し、外径側摺接素子34にあっては、破断面である事に起因してゴムとの接着性が低い内径側筒部38の軸方向内端縁を接合している。又、本例の場合には、弾性材35を加硫成形する際に、接合環部44の内部に、内径側摺接素子33の外径側部分と外径側摺接素子34の内径側部分とを、弾性材35を介して接着固定する事で、内径側摺接素子33と外径側摺接素子34とが弾性材35(接合環部44)により接合された摺接環17bを得る。
【0033】
密封シール46は、断面三角形で、覆い部45の外径側端部に、軸方向外方に向けて突出する状態で、全周に亙り設けられている。尚、
図2及び後述する
図4には、密封シール46の自由状態に於ける形状を示している。
【0034】
上述の様な構成を有する摺接環17bをハブ本体7aに組み付けた状態では、この摺接環17bは、ハブ本体7aの外周面(円筒面部27、凹曲面部28)及び回転側フランジ12a(厚肉部24、段部26、薄肉部25の内径側端部)の軸方向内側面をそれぞれ覆い、密封シール46が、外径側摺接素子34の内径側円輪部41の軸方向外側面と、回転側フランジ12aの厚肉部24の軸方向内側面との間で、全周に亙り弾性的に挟持される。この状態で、内径側円輪部41の軸方向外側面と厚肉部24の軸方向内側面との間、傾斜板部42の内周面と段部26の外周面との間、及び、外径側円輪部43の軸方向外側面と薄肉部25の軸方向外側面との間には、それぞれ全周に亙り、近接対向する両面同士が接触してフレッチング摩耗を起こす事を防止する為の微小隙間が設けられる。密封シール46は、このうちの内径側円輪部41の軸方向外側面と厚肉部24の軸方向内側面との間に設けられた微小隙間の径方向外端部を塞いでいる。
【0035】
又、摺接環17bがハブ本体7aから軸方向内側に抜け出る事を防止する為に、ハブ本体7aの外周面のうち、円筒面部27の軸方向内端寄り部分(嵌合筒部36を外嵌する部分の軸方向内側に隣接した部分)に、軸方向外側を向いた係止段部47を全周に亙り或いは間欠的に形成している。そして、この係止段部47に、嵌合筒部36の軸方向内端縁を係合させる事で、円筒面部27に対する嵌合筒部36の軸方向内側への抜け止めを図っている。
【0036】
シールリング18aは、芯金19aと、シール材20aとから構成されている。
このうちの芯金19aは、鋼板等の金属板に打ち抜き及び曲げ等のプレス加工を施す事により、断面略横T字形で全体を円環状に構成されており、円筒状の固定筒部48と、固定筒部48の軸方向外端部から径方向外方に向けて折れ曲がった外向鍔部49と、固定筒部48の軸方向内端部から軸方向外側に向けて折り返されると共に径方向内方に向けて折れ曲がった内径支持部50とを備えている。そして、このうちの固定筒部48を、外輪2aの軸方向外端部内周面に締り嵌めで内嵌固定している。
【0037】
シール材20aは、ゴムの如きエラストマー等の弾性材製で、芯金19aの軸方向外側面及び内外両周面を覆う状態で、この芯金19aに加硫接着により結合されている。この様なシール材20aには、摺接環17bの表面に対して摺接する3本の接触式シールリップ21d〜21fと、外径側覆部51と、補助リップ52とを備えている。
【0038】
3本のシールリップ21d〜21fのうち、最も径方向外方に設けられたシールリップ21dの先端縁は、外径側摺接素子34を構成する内径側円輪部41の軸方向内側面に摺接する。又、径方向中間部に設けられたシールリップ21eの先端縁は、内径側摺接素子33を構成する円板部37の軸方向内側面の径方向中間部に摺接する。更に、最も径方向内方に設けられたシールリップ21fの先端縁は、内径側摺接素子33を構成する嵌合筒部36の外周面に摺接する。この様な摺接態様により、内部空間15aの軸方向外端開口部を塞ぎ、泥水等の異物が内部空間15aに侵入するのを防止している。尚、
図2及び後述する
図3〜5には、各シールリップ21d〜21fの自由状態に於ける形状を示している。
【0039】
図示の例では、シールリップ21d、21eを、それぞれ基端縁から先端縁に向かう程、外部空間(内部空間15aと反対側)に向かう方向に傾斜させている。これにより、シールリップ21d、21eによる異物侵入防止機能を高めている。これに対し、シールリップ21fを、基端縁である外径側端縁から先端縁である内径側端縁に向かう程、内部空間15aの軸方向中央側に向かう方向に傾斜させている。これにより、シールリップ21fによるグリース漏洩防止機能を高めている。
【0040】
外径側覆部51は、外向鍔部49の周囲(軸方向両側及び径方向外側)を覆う様に設けられており、シールリング18aを外輪2aに対して取り付けた状態で、この外輪2aの軸方向外端部外周面よりも径方向外側に突出している。又、外径側覆部51の外周面を、外径側摺接素子34を構成する外径側筒部40の内周面に対し、微小隙間を介して近接対向させている。これにより、外径側覆部51の外周面と外径側筒部40の内周面との間に、ラビリンスシールを形成している。
【0041】
補助リップ52は、外径側覆部51の軸方向外側面の径方向中間部に、軸方向外方に突出する状態で全周に亙り設けられている。又、補助リップ52は、軸方向外方(先端側)に向かう程、径方向外方に向かう方向に傾斜しており、その先端縁を、外径側摺接素子34を構成する外径側円輪部43の軸方向内側面に対し、微小隙間を介して近接対向させている。これにより、補助リップ52の先端縁と外径側円輪部43との間に、ラビリンスシールを形成している。
【0042】
以上の様な構成を有する本例の転がり軸受ユニット1aの場合にも、シールリング18aを構成するシールリップ21d〜21fの先端縁を摺接させる相手面として、耐食性を有する金属板製の摺接環17bの表面を採用している。この為、研削加工に伴い研削筋目が生じ易いハブの表面にシールリップの先端縁を摺接させた場合の様な、シール鳴きやシールリップの貼り付きの問題が生じる事を防止できる。又、摺接環17b(外径側摺接素子34の内径側円輪部41)の軸方向外側面に設けた密封シール46を、回転側フランジ12aの軸方向内側面に弾性的に当接させて、これら摺接環17bの軸方向外側面と回転側フランジ12aの軸方向内側面との間に微小隙間を設けている。この為、摺接環17bの軸方向外側面と回転側フランジ12aの軸方向内側面との間部分に、錆びやフレッチング摩耗の問題が生じる事を防止できる。
【0043】
又、密封シール46により、外径側摺接素子34の内径側円輪部41の軸方向外側面と回転側フランジ12aの厚肉部24の軸方向内側面との間の微小隙間を塞ぐ事ができる為、この微小隙間を通じて、内部空間15a内のグリースが外部空間に漏洩する事や、外部空間から内部空間15a内に雨水や泥水等の異物が侵入する事を防止できる。更には、摺接環17bの表面とハブ本体7aの表面との間部分への浸水を防止できる為、これら摺接環17bの材料(ステンレス鋼)とハブ本体7aの材料(炭素鋼)との間の標準電極電位差に起因する電食が発生する事も防止できる。更に、最も径方向外方に設けられたシールリップ21dよりも径方向外側(外部空間側)にラビリンスシールを形成している為、路面から跳ね上げられた泥水等の異物が、シールリップ21dにまで達する量を少なく抑えられる。
【0044】
特に本例の場合には、摺接環17bを、内径側摺接素子33と外径側摺接素子34との二分割構造とし、これら内径側摺接素子33の外径側端部と外径側摺接素子34の内径側端部とを、弾性材35の接合環部44により接合する構成を採用している。この為、内径側摺接素子33をハブ本体7aに外嵌固定した状態で、接合環部44の弾性変形を利用して、外径側摺接素子34を内径側摺接素子33に対し、軸方向に関して僅かに相対変位させる事が可能になると共に揺動変位(首振り運動)させる事が可能になる。従って、路面反力に基づくモーメント力により回転側フランジ12aが傾いた場合に、この回転側フランジ12aにより押圧される密封シール46を介して、外径側摺接素子34を内径側摺接素子33に対して軸方向内側に相対変位及び揺動変位させる(退避させる)事ができる。従って、回転側フランジ12aの軸方向内側面と外径側摺接素子34の軸方向外側面との間で、密封シール46が強く挟持される事を防止でき、この密封シール46の摩耗抑制を図れる。更に、密封シール46を軸方向に弾性変形(圧縮変形)させる事ができる為、回転側フランジ12aの傾斜角度よりも外径側摺接素子34の傾斜角度を小さく抑えられる。従って、外径側摺接素子34の軸方向内側面に先端縁を摺接させたシールリップ21dの締め代変化を小さく抑える事ができ、このシールリップ21dによるシール性能を確保できる。
【0045】
又、上述の様な構成を有する摺接環17bは、ステンレス鋼板にプレス加工を施す事により、前述した先発明に係る構造の様な蛇腹部を有しない断面L字形の内径側摺接素子33と断面略横U字形の外径側摺接素子34とをそれぞれ形成した後、これら内径側摺接素子33の外径側端部と外径側摺接素子34の内径側端部とを、弾性材35の加硫成形時に、弾性材35を介して接着する事で容易に製造できる。更に、本例の場合には、摺接環17bを、ハブ本体7aの外周面に外嵌固定しており、回転側フランジ12aの軸方向内側面に係止する必要がない為、転動体の列間距離を確保する事ができ、軸受寿命を確保できる。
【0046】
尚、本例を実施する場合には、例えば、弾性材35の一部に密封シール46を設ける構造に代えて、例えば、回転側フランジの厚肉部(又は薄肉部)の軸方向内側面に環状凹部を形成し、この環状凹部と内径側円輪部(又は外径側円輪部)の軸方向外側面との間で、密封シールであるOリングを挟持する構造を採用しても良い。又、摺接環の軸方向外側面に設ける密封シールの形状は、転がり軸受ユニットの使用態様等に応じて適宜変更する事ができる。更に、ハブ本体7aの円筒面部27に係止段部47を設ける構造に代えて、円筒面部に係止凹部や係止突起を全周に亙り或いは間欠的に設け、これら係止凹部や係止突起に対して摺接環の軸方向内端部を係止させる構造を採用しても良い。
【0047】
本実施形態の変形例の2例に就いて、
図3を参照しつつ説明する。
実施の形態の第1例では、
図2に示した様に、内径側筒部38の軸方向内端縁と円板部37の軸方向外側面の外径側端部とを軸方向に近接対向させた状態で、接合環部44によって弾性材35を介して接着固定する事により、内径側摺接素子33と外径側摺接素子34とを接合している。そして、内径側筒部38の外周面と円板部37の外周縁とが、ほぼ同じ径方向位置になる様にしている。内径側摺接素子33と外径側摺接素子34との接合部の剛性を、前記実施の形態の第1例と同程度に設定する場合には、例えば
図3の(A)に示した変形例の第1例の様に、接合環部44の内部で、内径側筒部38の内周面の軸方向内端部と円板部37の外周縁とを径方向に近接対向させる(弾性材35を介して径方向に重畳させる)構成を採用しても良い。変形例の第1例の構造では、内径側筒部38の軸方向内端縁と円板部37の軸方向内側面とが、ほぼ同じ軸方向位置になっている。
尚、変形例の第1例の構造では、円板部37の外周縁が、特許請求の範囲に記載した端縁に相当し、内径側筒部38の内周面である径方向内側面が、特許請求の範囲に記載した側面に相当する。
【0048】
実施の形態の第1例及び変形例の第1例の構造に比べて、内径側摺接素子33に対する外径側摺接素子34の相対変位量を大きくしたい場合には、内径側摺接素子33と外径側摺接素子34との接合部の剛性を低くする事が考えられる。接合部の剛性を低くするには、例えば、内径側摺接素子33及び外径側摺接素子34の端縁がプレス加工による破断面であり、弾性材35(接合環部44)との接着力が他の部分に比べて低くなる事を利用できる。この様な観点から剛性を低くする場合、
本発明の技術的範囲からは外れるが、例えば
図3の(B)に示した変形例の第2例の様に、円板部37と内径側筒部38とを軸方向及び径方向の何れにも重畳させず、円板部37の外周縁と内径側筒部38の軸方向内端縁とを互いに近接させる事で、内径側摺接素子33と外径側摺接素子34との間部分に存在する弾性材35に対し、それぞれが破断面である、円板部37の外周縁及び内径側筒部38の軸方向内端縁を接合する構成を採用する事ができる。
この様に、本例の場合には、内径側摺接素子33の外径側端部と外径側摺接素子34の内径側端部との位置関係を調節する事で、弾性材35に対する接着力を変化させたり、内径側摺接素子33の外径側端部と外径側摺接素子34の内径側端部との間部分に存在する弾性材35の厚さを変化させたりして、内径側摺接素子33と外径側摺接素子34との接合部の剛性の大きさを適宜調整する事ができる。
【0049】
[実施の形態の第2例]
本発明の実施の形態の第2例に就いて、
図4を参照しつつ説明する。本例の密封装置14cの場合には、摺接環17cを構成する内径側摺接素子33aと外径側摺接素子34との接合部の剛性を、前記実施の形態の第1例の構造の場合よりも高くしている。
【0050】
この為に、内径側摺接素子33aを、断面略クランク形とし、円筒状の嵌合筒部36と、嵌合筒部36の軸方向外端部から径方向外方に向けて直角に折れ曲がった円板部37と、円板部37の外周縁から軸方向外方に向けて折れ曲がった接合用円筒部53とを備えたものとしている。又、この接合用円筒部53の軸方向寸法を、外径側摺接素子34を構成する内径側筒部38の軸方向寸法とほぼ同じとしている。
【0051】
そして、それぞれが特許請求の範囲に記載した側面に相当する、内径側摺接素子33aを構成する接合用円筒部53の径方向内側面(内周面)と、外径側摺接素子34を構成する内径側筒部38の径方向外側面(外周面)とを、全周に亙り径方向に近接対向させた状態で、これら接合用円筒部53及び内径側筒部38の周囲を、弾性材35aの接合環部44aにより覆っている。又、本例の場合、内径側円輪部41の軸方向内側面と接合用円筒部53の軸方向外端縁とを軸方向に近接対向させると共に、円板部37の軸方向外側面と内径側円筒部38の軸方向内端縁とを軸方向に近接対向させている。つまり、内径側摺接素子33aの外径側端部と外径側摺接素子34の内径側端部とを、径方向及び軸方向に重畳させた状態で、接合環部44aにより接合している。この為、内径側摺接素子33aの外径側端部と外径側摺接素子34の内径側端部との間部分に存在する弾性材35aに対し、内径側摺接素子33a及び外径側摺接素子34の何れも、接着性の高い面(接合用円筒部53の径方向内側面、内径側筒部38の径方向外側面)を接合している。
【0052】
以上の様な構成を有する本例の場合には、内径側摺接素子33aと外径側摺接素子34との接合部の剛性を、実施の形態の第1例の場合に比べて大きくできる。
又、本例を実施する場合には、接合用円筒部53と内径側筒部38とのうちの何れか一方又は両方に、切り欠き又は貫通孔を、円周方向に関して等間隔となる複数の位置に設ける事ができる。この様な構成により、内径側摺接素子33aと外径側摺接素子34との接合部の剛性を調整可能にする事ができると共に、ゴムとの接着性を更に高める事ができる。又、接合環部44aを加硫成形する際に、ゴムの流動性を向上する事もできる。
その他の構成及び作用効果に就いては、前記実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0053】
本実施形態の変形例の2例に就いて、
図5を参照しつつ説明する。
実施の形態の第2例では、
図4に示した様に、内径側摺接素子33aと外径側摺接素子34との接合部の剛性を確保する為に、接合環部44aの内部で、内径側筒部38の径方向外側面と接合用円筒部53の径方向内側面とを径方向に近接対向させている。
但し、接合部に同程度の剛性を持たせる為には、内径側摺接素子の外径側端部と外径側摺接素子の内径側端部との対向方向は、径方向に限らず、摺接環と共に用いるシールリングの構成や、ハブ本体の外周面の形状(例えば凹曲面部28の曲率半径の大きさ)に応じて適宜変更する事ができる。
【0054】
例えば
図5の(A)に示した変形例の第3例の様に、外径側摺接素子34aに、内径側筒部38の軸方向内端縁から径方向内方に向け折れ曲がった接合用円輪部54を設け、接合環部44bの内部で、接合用円輪部54の軸方向内側面と、内径側摺接素子33を構成する円板部37の軸方向外側面とを軸方向に近接対向させる事ができる。
尚、この様な変形例の第3例の構造の場合、円板部37の軸方向外側面及び接合用円輪部54の軸方向内側面が、特許請求の範囲に記載した側面に相当する。
【0055】
或いは、
図5の(B)に示した変形例の第4例の様に、内径側摺接素子33bに、円板部37の外周縁から径方向外方に向かう程軸方向外方に向かう方向に傾斜した接合用円すい筒部55を設けると共に、外径側摺接素子34bを構成する内径側筒部38aを、軸方向内方に向かう程径方向内方に向かう方向に傾斜させ、接合環部44cの内部で、接合用円すい筒部55の径方向内側面(内周面)と内径側筒部38aの径方向外側面(外周面)とを斜めに近接対向させる事もできる。
尚、この様な変形例の第4例の構造の場合、接合用円すい筒部55の径方向内側面及び内径側筒部33aの径方向外側面が、特許請求の範囲に記載した側面に相当する。