(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持する為の転がり軸受装置として、車輪支持用転がり軸受ユニットが使用されている。この様な車輪支持用転がり軸受ユニットの1例として、特許文献1には、
図9に示す様なシール構造を有するものが記載されている。
【0003】
この車輪支持用転がり軸受ユニットは、懸架装置に支持固定された状態で使用時にも回転しない外輪1と、車輪を支持固定した状態で使用時にこの車輪と共に回転するハブ2と、外輪1の内周面に設けられた外輪軌道4とハブ2の外周面に設けられた内輪軌道5との間に転動自在に設けられた複数個の転動体3とを備える。
【0004】
又、外輪1の内周面とハブ2の外周面との間に存在する、複数個の転動体3が設けられた内部空間6の軸方向外端開口部は、シールリング7により塞がれている。これにより、内部空間6に封入された潤滑用のグリースが外部空間に漏洩するのを防止すると共に、外部空間から内部空間6に雨水等の異物が侵入する事を防止している。
【0005】
尚、本明細書の全体で、軸方向に関して「外」とは、自動車への組み付け状態で車体の幅方向外側となる、
図4を除く各図の左側を言い、反対に車体の幅方向中央側となる、
図4を除く各図の右側を、軸方向に関して「内」と言う。
【0006】
シールリング7は、外輪1の軸方向外端部に内嵌固定された円環状の芯金8と、この芯金8の全周に結合固定されたシール材9とを有する。このうちのシール材9は、内部空間6に近い側から、第一シールリップ10、第二シールリップ11、第三シールリップ12の順に配置された、3本のシールリップ10〜12を有する。そして、これら第一〜第三シールリップ10〜12の先端部を、それぞれハブ2の表面に設けられたシール摺接面13に全周に亙り摺接させている。
【0007】
又、第一シールリップ10を、基端部である外径側端部から先端部である内径側端部に向かう程、内部空間6側に向かう方向に傾斜させている。これにより、第一シールリップ10による、グリース漏洩防止機能を高めている。又、第二シールリップ11及び第三シールリップ12を、それぞれ基端部から先端部に向かう程、外部空間側に向かう(内部空間6から遠ざかる)方向に傾斜させている。これにより、第二シールリップ11及び第三シールリップ12による、異物侵入防止機能を高めている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した様な車輪支持用転がり軸受ユニットの場合、ハブ2が回転すると、外輪軌道4及び内輪軌道5と複数個の転動体3との転がり接触部や、第一〜第三シールリップ10〜12とシール摺接面13との摺接部(滑り接触部)等で、摩擦熱が発生する。これにより、軸受温度が上昇し、内部空間6と、第一、第二両シールリップ10、11同士の間に挟まれた第一リップ間空間14と、第二、第三両シールリップ11、12同士の間に挟まれた第二リップ間空間15との、それぞれの圧力が上昇する傾向となる。
【0010】
ここで、第二シールリップ11は、基端部から先端部に向かう程、外部空間側に向かう方向に傾斜している。即ち、第二シールリップ11の姿勢は、第二リップ間空間15(外部空間側)の空気が、第二シールリップ11とシール摺接面13との摺接部を通じて、第一リップ間空間14に侵入しにくい姿勢になっている反面、第一リップ間空間14の空気が、第二シールリップ11とシール摺接面13との摺接部を通じて、第二リップ間空間15(外部空間側)に漏れ出し易い姿勢になっている。
【0011】
又、第三シールリップ12も、基端部から先端部に向かう程、外部空間側に向かう方向に傾斜している。即ち、第三シールリップ12の姿勢は、外部空間側の空気が、第三シールリップ12とシール摺接面13との摺接部を通じて、第二リップ間空間15に侵入しにくい姿勢になっている反面、第二リップ間空間15の空気が、第三シールリップ12とシール摺接面13との摺接部を通じて、外部空間側に漏れ出し易い姿勢になっている。
【0012】
従って、第一、第二両リップ間空間14、15の圧力が上昇する傾向となった場合でも、これら第一、第二両リップ間空間14、15の空気が第二、第三両シールリップ11、12とシール摺接面13との摺接部を通じて外部空間側に漏れ出す事により、第一、第二両リップ間空間14、15の圧力の上昇を抑えられる。
【0013】
これに対して、第一シールリップ10は、基端部から先端部に向かう程、内部空間6側に向かう方向に傾斜している。即ち、第一シールリップ10の姿勢は、第一リップ間空間14(外部空間側)の空気が、第一シールリップ10とシール摺接面13との摺接部を通じて、内部空間6に侵入し易い姿勢になっている反面、内部空間6の空気が、第一シールリップ10とシール摺接面13との摺接部を通じて、第一リップ間空間14(外部空間側)に漏れ出しにくい姿勢になっている。
【0014】
従って、内部空間6の圧力が上昇する傾向になっても、この内部空間6の空気は、第一シールリップ10とシール摺接面13との摺接部を通じて第一リップ間空間14(外部空間側)に効率良く排出されない為、内部空間6の圧力の上昇は、抑えにくい状態となっている。
【0015】
そして、この様に内部空間6の圧力が上昇すると、この内部空間6の圧力によって、第一シールリップ10が、シール摺接面13に押し付けられる(貼り付く)様に弾性変形し、これら第一シールリップ10とシール摺接面13との摺接部に作用する摩擦力が増大すると言った問題が生じる。
【0016】
又、この様に第一シールリップ10とシール摺接面13との摺接部に作用する摩擦力が増大すると、この摺接部で発生する摩擦熱が増大し、この摩擦熱の影響を受け易い、第一リップ間空間14の温度が更に上昇する傾向となる。そして、この状態からハブ2の回転が停止して軸受温度が低下すると、第一リップ間空間14に強い負圧が発生する傾向となる。そして、この強い負圧により、第一、第二両シールリップ10、11がシール摺接面13に貼り付く様に弾性変形して、これら第一、第二両シールリップ10、11とシール摺接面13との摺接部に作用する摩擦力が増大すると言った問題がある。
【0017】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、第一シールリップとシール摺接面との摺接部に作用する摩擦力が、軸受温度の変化に伴って増大する事を抑えられる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の転がり軸受装置は、外径側軌道輪と、内径側軌道輪と、複数個の転動体と、シールリングとを備えている。
このうちの外径側軌道輪は、内周面に外輪軌道を有し、使用時にも回転しない。
又、前記内径側軌道輪は、使用時に回転する。
又、前記複数個の転動体は、前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に転動自在に設けられている。
又、前記シールリングは、前記外径側軌道輪の内周面と前記内径側軌道輪の外周面との間に存在する前記複数個の転動体が設けられた内部空間の軸方向端部開口を塞いでおり、前記外径側軌道輪の軸方向端部に固定された円環状の芯金と、この芯金の全周に固定されたシール材とを有している。
又、前記シール材は、前記内部空間に接する位置に配置されると共に基端部から先端部に向かう程前記内部空間側に向かう方向に伸長(傾斜)した第一シールリップと、この第一シールリップに対して前記内部空間と反対側に隣り合う位置に配置された第二シールリップとを有する。そして、これら第一、第二両シールリップの先端部を、前記内径側軌道輪の表面又はこの内径側軌道輪に固定された摺接環の表面に、それぞれ摺接させている。
又、前記第一シールリップの剛性が円周方向に関して変化している。別な言い方をすれば、前記第一シールリップの剛性が円周方向に関して均一になっていない。
【0019】
又、本発明を実施する場合には、例えば、前記第一シールリップの円周方向1乃至複数箇所に、前記芯金から径方向内方に延出する状態で設けられた舌片が(例えば前記第一シールリップの基端側から侵入する状態で)包埋されている構成
を採用する事ができる。
又、本発明の技術的範囲からは外れるが、前記第一シールリップの円周方向1乃至複数箇所に、円周方向に隣り合う部分に比べて厚さ寸法が大きくなった厚肉部が設けられている構成を採用する事ができる。
【発明の効果】
【0020】
上述の様な構成を有する本発明の転がり軸受装置によれば、第一シールリップとシール摺接面との摺接部に作用する摩擦力が、軸受温度の変化に伴って増大する事を抑えられる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[実施の形態の第1例]
本発明の実施の形態の第1例に就いて、
図1〜4により説明する。
本例の車輪支持用転がり軸受ユニットは、駆動輪用であり、外輪16と、ハブ17と、複数個の転動体18、18と、シールリング19、20とを備える。
【0023】
外輪16は、特許請求の範囲に記載した外径側軌道輪に相当するもので、外周面に静止側フランジ21を、内周面に複列の外輪軌道22a、22bを、それぞれ有している。この様な外輪16は、使用時に、静止側フランジ21を、懸架装置のナックルに結合固定する事により、この懸架装置に支持された状態で回転しない。
【0024】
ハブ17は、特許請求の範囲に記載した内径側軌道輪に相当するもので、ハブ本体23と内輪24とを結合する事により構成されており、外輪16の内径側にこの外輪16と同軸(同心)に配置されている。
【0025】
ハブ本体23の外周面のうち、外輪16の軸方向外端開口から軸方向外方に突出した部分には、車輪(駆動輪)及び制動用回転部材を支持固定する為の円輪状の回転側フランジ25が設けられている。又、ハブ本体23の外周面のうち、外輪16の内周面に設けられた軸方向外側列の外輪軌道22aと対向する部分には、軸方向外側列の内輪軌道26aが設けられている。又、ハブ本体23の外周面のうち、外輪16の内周面に設けられた軸方向内側列の外輪軌道22bと対向する軸方向内端部には、小径段部27が設けられている。又、ハブ本体23の径方向中心部には、駆動軸であるスプライン軸を係合させる為のスプライン孔28が設けられている。
【0026】
内輪24の外周面には、軸方向内側列の内輪軌道26bが設けられている。この様な内輪24は、ハブ本体23の小径段部27に締り嵌めにより外嵌固定された状態で、ハブ本体23の軸方向内端部に形成されたかしめ部29により軸方向内端面を抑え付けられている。
【0027】
転動体18、18は、軸方向外側列の外輪軌道22aと内輪軌道26aとの間部分、及び、軸方向内側列の外輪軌道22bと内輪軌道26bとの間部分に、それぞれ複数個ずつ、保持器30a、30bにより保持された状態で転動自在に設けられている。尚、図示の例では、転動体18、18として玉を使用しているが、重量が嵩む自動車の車輪支持用転がり軸受ユニットの場合には、玉に代えて円すいころを使用する場合もある。
【0028】
シールリング19、20のうち、軸方向外方のシールリング19は、外輪16の内周面とハブ17の外周面との間に存在する、複数個の転動体18、18が設けられた内部空間31の軸方向外端開口を塞いでおり、軸方向内方のシールリング20は、内部空間31の軸方向内端開口を塞いでいる。これにより、内部空間31に封入された潤滑用のグリースが外部空間に漏洩するのを防止すると共に、外部空間から内部空間31に雨水等の異物が侵入する事を防止している。
【0029】
軸方向外方のシールリング19は、芯金32と、シール材33とから構成されている。
【0030】
このうちの芯金32は、鋼板等の金属板に打ち抜き及び曲げ等のプレス加工を施す事により、全体を円環状に構成されており、円筒状の嵌合筒部34と、嵌合筒部34の軸方向外端部から径方向外方に向けて折れ曲がった外向鍔部35と、嵌合筒部34の軸方向内端部から軸方向外側に向けて折り返されると共に径方向内方に向けて折れ曲がった内径支持部36と、この内径支持部36の内周縁の円周方向1乃至複数箇所(例えば、円周方向等間隔となる2〜8箇所)から、それぞれ径方向内方且つ軸方向内方に延出する状態で設けられた、略矩形板状の舌片37とを有している。即ち、舌片37は、基端部である径方向外端部から先端部である径方向内端部に向かう程、軸方向内方に向かう方向に曲線的に傾斜している。そして、このうちの嵌合筒部34を、外輪16の軸方向外端部に締り嵌めで内嵌すると共に、外向鍔部35の軸方向内側面を、外輪16の軸方向外端面に当接させている。これにより、芯金32を、軸方向の位置決めを図った状態で、外輪16の軸方向外端部に支持固定している。
【0031】
シール材33は、ゴムの如きエラストマー等の弾性材製で、芯金32の全周に結合固定されている。この様なシール材33は、3本のシールリップ38〜40と、外径側覆部41と、補助リップ42とを有している。
【0032】
3本のシールリップ38〜40は、内部空間31に近い側から、第一シールリップ38、第二シールリップ39、第三シールリップ40の順に配置されており、それぞれの先端部を、ハブ本体23の表面に設けられたシール摺接面43に全周に亙り摺接させている。より具体的には、このシール摺接面43は、回転側フランジ25の軸方向内側面の径方向内端部に設けられた、径方向に関して軸方向位置が変化しない円輪面部44と、この円輪面部44の径方向内側に隣接して設けられた、径方向内側に向かう程軸方向内側に向かう方向に曲線的に傾斜した、母線形状が凹円弧形の曲面部(隅R部)45と、この曲面部45の軸方向内側に隣接して設けられた、軸方向に関して外径寸法が変化しない円筒面部46とから構成されている。そして、円筒面部46に第一シールリップ38の先端部を、曲面部45に第二シールリップ39の先端部を、円輪面部44に第三シールリップ40の先端部を、それぞれ全周に亙り摺接させている。尚、
図2では、第一〜第三シールリップ38〜40を含むシール材33の形状は、このシール材33の自由状態で示している。
【0033】
又、この状態で、シール材33とシール摺接面43との間には、第一、第二両シールリップ38、39同士の間に挟まれた第一リップ間空間47と、第二、第三両シールリップ39、40同士の間に挟まれた第二リップ間空間48とが形成されている。
【0034】
又、本例の場合には、第一シールリップ38を、基端部である外径側端部から先端部である内径側端部に向かう程、内部空間31側に向かう方向に伸長(傾斜)させている。これにより、第一シールリップ38による、グリース漏洩防止機能を高めている。又、第二シールリップ39及び第三シールリップ40を、それぞれ基端部から先端部に向かう程、外部空間側に向かう(内部空間31から遠ざかる)方向に伸長(傾斜)させている。これにより、第二シールリップ39及び第三シールリップ40による、異物侵入防止機能を高めている。
【0035】
又、本例の場合、第一シールリップ38の基半部のうち、円周方向に関して芯金32を構成する舌片37と同位相となる1乃至複数箇所に、円周方向両側に隣接する部分及び先端側に隣接する部分に比べて厚さ寸法が大きくなった、厚肉部49が設けられている。第一シールリップ38の軸方向内側面(径方向外側面)は、厚肉部49に対応する部分が、周囲の部分に比べて軸方向内側(径方向外側)に膨出している。そして、本例の場合には、この様な厚肉部49に舌片37の先半部が、第一シールリップ38の基端側から侵入する状態で包埋されている。この為、第一シールリップ38の剛性は、厚肉部49が設けられていると共に舌片37が包埋されている円周方向部分で、他の円周方向部分に比べて大きくなっている。
【0036】
外径側覆部41は、芯金32を構成する外向鍔部35の軸方向外側面及び径方向外端面を覆う様に設けられており、外輪16の軸方向外端部外周面よりも径方向外側に突出している。
【0037】
補助リップ42は、外径側覆部41の軸方向外側面の外端寄り部分から軸方向外側に突出する状態で全周に亙り設けられている。又、補助リップ42は、軸方向外側に向かう程、径方向外側に向かう方向に傾斜している。そして、この補助リップ42の先端部を、回転側フランジ25の軸方向内側面の径方向内端寄り部分に設けられた、径方向内側に向かう程軸方向内側に向かう方向に曲線状に傾斜した段部50に対し、微小隙間を介して近接対向させている。これにより、この近接対向させた部分にラビリンスシールを形成している。
【0038】
尚、本例では詳しい図示は省略するが、シールリング19、20のうち、軸方向内方のシールリング20は、単体で、又は、摺接環(スリンガ)と共に組み合わせシールリングを構成した状態で、内部空間31の軸方向内端開口部に組み付けられている。
【0039】
上述の様に構成する本例の車輪支持用転がり軸受ユニットの場合、ハブ17が回転すると、外輪軌道22a、22b及び内輪軌道26a、26bと複数個の転動体18、18との転がり接触部や、第一〜第三シールリップ38〜40とシール摺接面43との摺接部(滑り接触部)等で、摩擦熱が発生する。これにより、軸受温度が上昇し、内部空間31と、第一リップ間空間47と、第二リップ間空間48との、それぞれの圧力が上昇する傾向となる。
【0040】
ここで、第二シールリップ39は、基端部から先端部に向かう程、外部空間側に向かう方向に傾斜している。即ち、第二シールリップ39の姿勢は、第二リップ間空間48(外部空間側)の空気が、第二シールリップ39とシール摺接面43との摺接部を通じて、第一リップ間空間47に侵入しにくい姿勢になっている反面、第一リップ間空間47の空気が、第二シールリップ39とシール摺接面43との摺接部を通じて、第二リップ間空間48(外部空間側)に漏れ出し易い姿勢になっている。
【0041】
又、第三シールリップ40も、基端部から先端部に向かう程、外部空間側に向かう方向に傾斜している。即ち、第三シールリップ40の姿勢は、外部空間側の空気が、第三シールリップ40とシール摺接面43との摺接部を通じて、第二リップ間空間48に侵入しにくい姿勢になっている反面、第二リップ間空間48の空気が、第三シールリップ40とシール摺接面43との摺接部を通じて、外部空間側に漏れ出し易い姿勢になっている。
【0042】
従って、第一、第二両リップ間空間47、48の圧力が上昇する傾向となった場合でも、これら第一、第二両リップ間空間47、48の空気が第二、第三両シールリップ39、40とシール摺接面43との摺接部を通じて外部空間側に漏れ出す事により、第一、第二両リップ間空間47、48の圧力の上昇を抑え易い状態となっている。
【0043】
これに対して、第一シールリップ38は、基端部から先端部に向かう程、内部空間31側に向かう方向に傾斜している。即ち、第一シールリップ38の姿勢は、第一リップ間空間47(外部空間側)の空気が、第一シールリップ38とシール摺接面43との摺接部を通じて内部空間31側に侵入し易い姿勢になっている反面、内部空間31の空気が、第一シールリップ38とシール摺接面43との摺接部を通じて、第一リップ間空間47(外部空間側)に漏れ出しにくい姿勢になっている。
【0044】
しかしながら、本例の場合、ハブ17が回転すると、第一シールリップ38とシール摺接面43との摺接部の面圧が、部分的に低下乃至喪失する。そして、この部分を通じて、内部空間31の空気が、第一リップ間空間47(外部空間側)に漏れ出し易くなる。この点に就いて、
図4を参照しつつ説明する。
【0045】
図4は、第一シールリップ38とシール摺接面43との摺接部を軸方向から見た模式図であり、上半部(A)は、第一シールリップ38に厚肉部49が存在しないと共に舌片37が包埋されていない比較例の構造を、下半部(B)は、第一シールリップ38に厚肉部49が存在すると共に舌片37が包埋されている本例の構造を、それぞれ示している。尚、
図4中、第一シールリップ38の円周方向複数箇所に存在する放射状の二点鎖線は、第一シールリップ38の円周方向の捩れ変形量を分かり易くする為の、仮想的な形状線を表している。
【0046】
ハブ17の回転に伴ってシール摺接面43が回転すると、このシール摺接面43から第一シールリップ38の先端部(径方向内端部)に、回転方向の摩擦力が作用する。
【0047】
この際に、
図4の上半部(A)に示した比較例の構造の場合には、第一シールリップ38に厚肉部49が存在しないと共に舌片37が包埋されていない為、この第一シールリップ38の剛性が円周方向に関して均一になっている。この為、前記回転方向の摩擦力によって第一シールリップ38に生じる円周方向の捩れ変形量は、
図4の(A)の(a)→(b)に示す様に、全体的に均一になる。
【0048】
これに対して、
図4の下半部(B)に示した本例の構造の場合には、第一シールリップ38に厚肉部49が存在すると共に舌片37が包埋されている為、この第一シールリップ38の剛性は、厚肉部49が存在すると共に舌片37が包埋されている円周方向部分で、他の円周方向部分に比べて大きくなっている。この為、前記回転方向の摩擦力によって第一シールリップ38に生じる円周方向の捩れ変形量は、
図4の(B)の(a)→(b)に示す様に、厚肉部49が存在すると共に舌片37が包埋されている円周方向部分で、他の円周方向部分に比べて小さくなるか、又は、実質的にゼロになる。
【0049】
又、これに伴い、第一シールリップ38のうち、厚肉部49及び舌片37に対して回転方向前側に隣接するα部分は、前記摩擦力によって円周方向に引き伸ばされた状態となる。そして、このα部分では、シール摺接面43との摺接部の面圧が、他の部分に比べて高くなる。
【0050】
一方、第一シールリップ38のうち、厚肉部49及び舌片37に対して回転方向後側に隣接するβ部分は、前記摩擦力によって円周方向に押し潰された状態となる。そして、このβ部分では、シール摺接面43との摺接部の面圧が、他の部分に比べて低くなるか又は喪失する(この摺接部に微小隙間が生じる)。
【0051】
この為、本例の場合には、β部分の摺接部に生じる微小隙間を通じて、内部空間31と第一リップ間空間47とが連通した状態となり、内部空間31と第一リップ間空間47(外部空間側)との間を空気が移動可能になる。
【0052】
従って、本例の場合には、内部空間31の圧力が上昇する傾向となった場合でも、第一シールリップ38のβ部分とシール摺接面43との摺接部に生じる微小隙間を通じて、内部空間31の空気が第一リップ間空間47(外部空間側)に漏れ出す事により、内部空間31の圧力の上昇を抑えられる。これにより、この内部空間31の圧力によって、第一シールリップ38が、シール摺接面43に押し付けられる(貼り付く)様に弾性変形する事を抑制し、これら第一シールリップ38とシール摺接面43との摺接部に作用する摩擦力が増大する事を抑えられる。
【0053】
更に、この結果、第一シールリップ38とシール摺接面43との摺接部で発生する摩擦熱が増大する事を抑えられる為、この摩擦熱の影響を受け易い、第一リップ間空間47の温度が更に上昇する事を抑えられる。従って、この状態からハブ17の回転が停止して軸受温度が低下した場合に、第一リップ間空間47に発生する負圧の大きさを抑えられる。この結果、この負圧によって第一、第二両シールリップ38、39がシール摺接面43に貼り付く様に弾性変形する事を抑制でき、これら第一、第二両シールリップ38、39とシール摺接面43との摺接部に作用する摩擦力が増大する事を抑えられる。
【0054】
[実施の形態の第2例]
本発明の実施の形態の第2例に就いて、
図5〜6により説明する。
本例の場合には、内部空間31の軸方向内端開口を塞ぐシールリング20及びその周辺部分の構造を工夫した点が、上述した実施の形態の第1例の場合と異なる。
【0055】
本例の場合、シールリング20は、摺接環(スリンガ)51と組み合わせる事で、組み合わせシールリングを構成している。
【0056】
このうちの摺接環51は、防錆性能を持つ鋼板等の金属板に打ち抜き及び曲げ等のプレス加工を施す事により、断面L字形で全体を円環状に構成されたもので、回転側円筒部52と、この回転側円筒部52の軸方向内端部から径方向外方に折れ曲がる状態で設けられた円輪状の回転側側板部53とを有する。そして、これら回転側円筒部52の外周面及び回転側側板部53の軸方向外側面を、シール摺接面54としている。この様な摺接環51は、回転側円筒部52を、ハブ17を構成する内輪24の軸方向内端部に締り嵌めで外嵌した状態で、このハブ17に支持固定されている。
【0057】
又、シールリング20は、芯金55と、シール材56とから構成されている。
【0058】
このうちの芯金55は、鋼板等の金属板に打ち抜き及び曲げ等のプレス加工を施す事により、断面L字形で全体を円環状に構成されたもので、静止側円筒部57と、この静止側円筒部57の軸方向外端部から径方向内方に折れ曲がる状態で設けられた略円輪状の静止側側板部58と、この静止側側板部58の内周縁の円周方向1乃至複数箇所(例えば、円周方向等間隔となる2〜8箇所)から、それぞれ径方向内方且つ軸方向外方に延出する状態で設けられた、略矩形板状の舌片59とを有している。即ち、舌片59は、基端部である径方向外端部から先端部である径方向内端部に向かう程、軸方向外方に向かう方向に曲線的に傾斜している。この様な芯金55は、静止側円筒部57を外輪16の軸方向内端部に締り嵌めで内嵌した状態で、この外輪16に支持固定されている。
【0059】
シール材56は、ゴムの如きエラストマー等の弾性材製で、芯金55の全周に結合固定されている。この様なシール材56は、3本のシールリップ60〜62を有している。
【0060】
3本のシールリップ60〜62は、内部空間31に近い側から、第一シールリップ60、第二シールリップ61、第三シールリップ62の順に配置されており、それぞれの先端部を、シール摺接面54に全周に亙り摺接させている。より具体的には、このシール摺接面54を構成する回転側円筒部52の外周面に第一、第二両シールリップ60、61の先端部を、同じく回転側側板部53の軸方向外側面に第三シールリップ62の先端部を、それぞれ全周に亙り摺接させている。尚、
図5では、第一〜第三シールリップ60〜62を含むシール材56の形状は、このシール材56の自由状態で示している。
【0061】
又、この状態で、シール材56とシール摺接面54との間には、第一、第二両シールリップ60、61同士の間に挟まれた第一リップ間空間63と、第二、第三両シールリップ61、62同士の間に挟まれた第二リップ間空間64とが形成されている。
【0062】
又、第一シールリップ60を、基端部である外径側端部から先端部である内径側端部に向かう程、内部空間31側に向かう方向に伸長(傾斜)させている。これにより、第一シールリップ60による、グリース漏洩防止機能を高めている。又、第二シールリップ61及び第三シールリップ62を、それぞれ基端部から先端部に向かう程、外部空間側に向かう(内部空間31から遠ざかる)方向に伸長(傾斜)させている。これにより、第二シールリップ61及び第三シールリップ62による、異物侵入防止機能を高めている。
【0063】
又、本例の場合、第一シールリップ60の基半部のうち、円周方向に関して芯金55を構成する舌片59と同位相となる1乃至複数箇所に、円周方向両側に隣接する部分及び先端側に隣接する部分に比べて厚さ寸法が大きくなった、厚肉部65が設けられている。第一シールリップ60の軸方向外側面(径方向外側面)は、厚肉部65に対応する部分が、周囲の部分に比べて軸方向外側(径方向外側)に膨出している。そして、本例の場合には、この様な厚肉部65に舌片59の先半部が、第一シールリップ60の基端側から侵入する状態で包埋されている。この為、第一シールリップ60の剛性は、厚肉部65が設けられていると共に舌片59が包埋されている円周方向部分で、他の円周方向部分に比べて大きくなっている。
【0064】
上述の様な構成を有する本例の車輪支持用転がり軸受ユニットの場合、ハブ17の回転に伴ってシール摺接面54が回転すると、内部空間31の軸方向外端開口を塞ぐシールリング19(
図2〜4参照)の場合と同様の理由により、第一シールリップ60のうち、厚肉部65及び舌片59に対して回転方向後側に隣接する部分(
図4のβ部分に相当する部分)で、シール摺接面54との摺接部の面圧が、他の部分に比べて低くなるか又は喪失する(この摺接部に微小隙間が生じる)。
【0065】
従って、本例の場合には、軸受温度の上昇に伴って、内部空間31の圧力が上昇する傾向となった場合でも、前記微小隙間を通じて、内部空間31の空気が第一リップ間空間63(外部空間側)に漏れ出す事により、内部空間31の圧力の上昇を抑えられる。これにより、この内部空間31の圧力によって、第一シールリップ60が、シール摺接面54に押し付けられる(貼り付く)様に弾性変形する事を抑制し、これら第一シールリップ60とシール摺接面54との摺接部に作用する摩擦力が増大する事を抑えられる。
その他の構成及び作用は、上述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0066】
[
参考例の1例]
本発明
に関連する参考例の1例に就いて、
図7〜8により説明する。
本
参考例の場合には、軸方向外側のシールリング19aの一部の構成が、上述した実施の形態の第1例の場合と異なる。
【0067】
本
参考例の場合、シールリング19aは、芯金32aの径方向内端部に舌片37(
図2〜3参照)を有しておらず、シール材33aを構成する第一シールリップ38aの厚肉部49aには、舌片37が包埋されていない。即ち、本
参考例の場合、この厚肉部49aは、全体がシール材33aを構成する弾性材のみによって構成されている。
【0068】
この様な本
参考例の場合も、第一シールリップ38aの剛性は、厚肉部49aが設けられている円周方向部分で、他の円周方向部分に比べて大きくなっている。尚、本
参考例の場合、この厚肉部49aが設けられた部分の剛性は、この厚肉部49aの厚さ寸法を変える事によって調整する事ができる。従って、本
参考例の場合も、上述した実施の形態の第1例の場合と同様の作用(理由)により、第一シールリップ38aとシール摺接面43との摺接部に作用する摩擦力が、軸受温度の変化に伴って増大する事を抑えられる。
【0069】
又、本
参考例の場合には、芯金32aに舌片37を設けていない為、この舌片37の形成作業が不要になると共に、シール材33aの加硫成形時に舌片37と厚肉部49aとの位相合わせの作業が不要になる為、シールリング19aの製造を容易に行える。
その他の構成及び作用は、上述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0070】
尚、図示は省略するが、本発明
の技術的範囲からは外れるが、上述の
図5〜6に示した実施の形態の第2例の構造の変形例として、舌片59を省略すると共に、厚肉部65の全体がシール材56を構成する弾性材のみによって構成された構造を採用する事もできる。
【0071】
又、本発明を実施する場合で、第一シールリップの円周方向1乃至複数箇所に、芯金に設けられた舌片を包埋する構成を採用する場合、この第一シールリップのうち、この舌片を包埋する部分は、必ずしも厚肉部とする必要はなく、周囲の部分と同じ厚さ寸法になっていても良い。