【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)/次世代パワーエレクトロニクス/SiCに関する拠点型共通基盤技術開発/SiC次世代パワーエレクトロニクスの統合的研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記エピタキシャル成長層は、前記第2導電型半導体領域側の部分よりも前記発光層側の部分でキャリアの再結合効率が高いことを特徴とする請求項1または2に記載の炭化珪素半導体装置。
炭化珪素からなる第1導電型の半導体基板の表面に設けられた、炭化珪素からなる第1導電型のエピタキシャル成長層と、前記エピタキシャル成長層の内部に選択的に設けられた第2導電型半導体領域と、の間のpn接合でダイオード構造部が形成された半導体ウエハを用いて製造される炭化珪素半導体装置の評価方法であって、
前記半導体ウエハは、前記エピタキシャル成長層の内部において、前記第2導電型半導体領域と前記半導体基板との間に、前記第2導電型半導体領域と離れて、エレクトロルミネッセンス現象により前記半導体基板、前記エピタキシャル成長層および前記第2導電型半導体領域と異なる所定波長の光を放出する発光層を備え、
前記エピタキシャル成長層は、前記第2導電型半導体領域側の部分よりも前記発光層側の部分が相対的に高不純物濃度であり、
前記ダイオード構造部に順方向バイアスをかけて前記半導体ウエハを観測し、前記半導体ウエハから光が放出された場合に、前記光に前記所定波長の発光スペクトルが含まれるか否かを分析する第1工程と、
前記第1工程の分析結果に基づいて、前記半導体ウエハの良・不良を評価する第2工程と、
を含むことを特徴とする炭化珪素半導体装置の評価方法。
前記エピタキシャル成長層は、前記第2導電型半導体領域側の部分よりも前記発光層側の部分でキャリアの再結合効率が高いことを特徴とする請求項4または5に記載の炭化珪素半導体装置の評価方法。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化珪素(SiC)からなる半導体基板(以下、炭化珪素基板とする)上にエピタキシャル成長層を成長させたエピタキシャル基板には、結晶格子の積層構造の規則性が局所的に乱れることで生じる積層欠陥(Stacking Fault:SF)が多く存在することが公知である。積層欠陥の発生要因として、炭化珪素基板の基底面転位(Basal Plane Dislocation:BPD)の存在や、キャリアの再結合等が挙げられる。
図7,8は、積層欠陥の発生機構について説明する説明図である。
【0003】
具体的には、n
+型炭化珪素基板101の基底面からエピタキシャル成長に伴ってn型エピタキシャル成長層102へと伝搬されn型エピタキシャル成長層102を貫通するように拡張する基底面転位を起点として積層欠陥(不図示)が発生する。また、p
+型領域103から移動する少数キャリアであるホール(正孔)111がn
+型炭化珪素基板101とn型エピタキシャル成長層102との界面104などで電子と再結合112(
図7の×印)する際に生じるエネルギーにより、当該界面104等に存在する積層欠陥が核成長(拡張)113する。
【0004】
基底面転位を起点として発生する積層欠陥は、n
+型炭化珪素基板101とn型エピタキシャル成長層102との界面104に形成した転位変換層105(太線で示す部分)で抑制される。転位変換層105は、エピタキシャル成長に伴ってn
+型炭化珪素基板101からn型エピタキシャル成長層102へと伝搬される基底面転位を、積層欠陥を発生させない貫通刃状転位に高効率で変換する機能を有する。転位変換層105は、例えば窒素(N)濃度1×10
14/cm
3程度の炭化珪素層である。
【0005】
基底面転位を起点として発生する積層欠陥はデバイスの初期不良にかかわるため、炭化珪素エピタキシャル基板(半導体ウエハ)110の、積層欠陥が生じた不良箇所を検出する評価試験が行われる。転位変換層105を形成した炭化珪素エピタキシャル基板110では、光学的な検査装置を用いて転位変換層105による基底面転位の抑制効果が確認される。このため、通電試験を行うことなく、ウエハマップデータ等の画像データに基づいて炭化珪素エピタキシャル基板110の不良個所を判定可能である。
【0006】
一方、キャリア(電子およびホール111)の再結合エネルギーにより核成長する積層欠陥は、n
+型炭化珪素基板101とn型エピタキシャル成長層102との界面104に形成した再結合促進層106となるn
+型エピタキシャル成長層で抑制される(
図8)。p
+型領域103から移動するホール111が再結合促進層106内で再結合114(再結合促進層106内の×印)して消滅し、n
+型炭化珪素基板101とn型エピタキシャル成長層102との界面104に到達しないため、当該界面104に存在する積層欠陥の核成長が抑制される。
【0007】
キャリアの再結合エネルギーにより核成長する積層欠陥はデバイスの寿命にかかわるため、電気的なストレスを印加することによる信頼性試験が行われる。再結合促進層106を形成した炭化珪素エピタキシャル基板120を用いて作製されたデバイスでは、デバイスの寿命を算出するための信頼性試験として通電試験(加速試験)を行い、再結合促進層106内でのキャリアの再結合114によるキャリア消滅効果が確認される。
【0008】
また、積層欠陥を検出する方法として、フォトルミネッセンス(PL:PhotoLuminescence)法により、炭化珪素層上の発光特性をスキャニングして積層欠陥の位置や大きさを検出する方法が提案されている(例えば、下記特許文献1(第0030〜0031段落)参照。)。
【0009】
また、積層欠陥を検出する別の方法として、炭化珪素ウエハにレーザー光を照射し、炭化珪素ウエハから放射された光の強度を観測することで積層欠陥の有無を検出する方法が提案されている(例えば、下記特許文献2(第0013〜0014段落)参照。)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、
図8に示す従来の炭化珪素エピタキシャル基板120(半導体ウエハ)に作製したデバイスに通電試験を行うには、炭化珪素エピタキシャル基板120をダイシングして個片化し、評価用のモジュールを組み立てる工程が必要となる。このため、コストおよび製造時間がかかるという問題がある。
【0012】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、コストおよび製造時間を低減させることができる半導体装置の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、次の特徴を有する。炭化珪素からなる第1導電型の半導体基板の表面に、炭化珪素からなる第1導電型のエピタキシャル成長層が設けられている。前記エピタキシャル成長層の内部に、第2導電型半導体領域が選択的に設けられている。前記エピタキシャル成長層と前記第2導電型半導体領域との間のpn接合で、ダイオード構造部が形成されている。
前記エピタキシャル成長層の内部において、前記第2導電型半導体領域と前記半導体基板
との間に、
前記第2導電型半導体領域と離れて、発光層が設けられている。第1電極は、前記第2導電型半導体領域に接する。第2電極は、前記半導体基板に接する。前記エピタキシャル成長層は、前記第2導電型半導体領域側の部分よりも前記発光層側の部分が相対的に高不純物濃度である。前記発光層は、エレクトロルミネッセンス現象により、前記半導体基板、前記エピタキシャル成長層および前記第2導電型半導体領域と異なる所定波長の光を放出する。
【0014】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、
前記エピタキシャル成長層の内部において前記半導体基板と前記発光層との間に設けられた、前記半導体基板よりも窒素濃度の高い炭化珪素からなる第1導電型半導体層をさらに備えることを特徴とする。
【0015】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記エピタキシャル成長層は、前記第2導電型半導体領域側の部分よりも前記発光層側の部分でキャリアの再結合効率が高いことを特徴とする。
【0016】
また、上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の評価方法は、ダイオード構造部が形成された半導体ウエハを用いて製造される炭化珪素半導体装置の評価方法であって、次の特徴を有する。前記ダイオード構造部は、炭化珪素からなる第1導電型の半導体基板の表面に設けられた、炭化珪素からなる第1導電型のエピタキシャル成長層と、前記エピタキシャル成長層の内部に選択的に設けられた第2導電型半導体領域と、の間のpn接合で形成される。前記半導体ウエハは、
前記エピタキシャル成長層の内部において、前記第2導電型半導体領域と前記半導体基板
との間に、
前記第2導電型半導体領域と離れて、エレクトロルミネッセンス現象により前記半導体基板、前記エピタキシャル成長層および前記第2導電型半導体領域と異なる所定波長の光を放出する発光層を備える。前記エピタキシャル成長層は、前記第2導電型半導体領域側よりも前記発光層側が相対的に高不純物濃度である。まず、前記ダイオード構造部に順方向バイアスをかけて前記半導体ウエハを観測し、前記半導体ウエハから光が放出された場合に、前記光に前記所定波長の発光スペクトルが含まれるか否かを分析する第1工程を行う。前記第1工程の分析結果に基づいて、前記半導体ウエハの良・不良を評価する第2工程を行う。
【0017】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の評価方法は、上述した発明において、前記半導体ウエハは、
前記エピタキシャル成長層の内部において前記半導体基板と前記発光層との間に、前記半導体基板よりも窒素濃度の高い炭化珪素からなる第1導電型半導体層をさらに備えることを特徴とする。
【0018】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の評価方法は、上述した発明において、前記エピタキシャル成長層は、前記第2導電型半導体領域側の部分よりも前記発光層側の部分でキャリアの再結合効率が高いことを特徴とする。
【0019】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の評価方法は、上述した発明において、前記半導体ウエハが第1,2電極を備える。前記第1電極は、前記半導体ウエハの一方の主面に設けられ、前記第2導電型半導体領域に接する。前記第2電極は、前記半導体ウエハの他方の主面に設けられ、前記半導体基板に接する。前記第1電極または前記第2電極には、前記半導体ウエハの一部を露出する開口部が選択的に設けられている。そして、前記第1工程では、前記開口部から前記半導体ウエハを観測することを特徴とする。
【0020】
上述した発明によれば、スペクトル分析により発光層の所定波長の発光スペクトルを検出することで、アノード領域(第2導電型半導体領域)からカソード側へ移動したホールが再結合促進層(エピタキシャル成長層の、発光層側の相対的に高不純物濃度な部分)を通過して半導体基板に達したことを検出することができる。このため、発光層の所定波長の発光スペクトルの有無を確認することで、デバイスの寿命を確認することができ、デバイスの寿命を確認するための通電試験を行うにあたって、半導体ウエハをダイシングする工程や、評価用のモジュールを組み立てる工程が必要なくなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の評価方法によれば、コストおよび製造時間を低減させることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の評価方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0024】
(実施の形態)
実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造について、pin(p−intrinsic−n)ダイオードを例に説明する。
図1は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
図1では、半導体基板には導電型の表記に続けて「基板」と図示し、発光層7を「EL発光層」と図示し、発光層7以外の各エピタキシャル成長層には導電型の表記に続けて「エピ」と図示する(
図2(b)、3(b)、4(b)、5(b),7,8においても同様)。
【0025】
図1に示す実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置は、炭化珪素からなるn
+型半導体基板(n
+型炭化珪素基板)1上にn型エピタキシャル成長層10aを積層したエピタキシャル基板10を用いて作製される。n型エピタキシャル成長層10aは、n
+型炭化珪素基板1側から転位変換層(第1導電型半導体層:太線で示す部分)5、発光層7、再結合促進層6およびn型炭化珪素層2を順に積層した積層構造を有する。n型炭化珪素層2の内部には、例えばイオン注入によりp
+型領域(第2導電型半導体領域)3が形成されている。n
+型炭化珪素基板1はカソード領域である。n型炭化珪素層2は、n型ドリフト層である。p
+型領域3はアノード領域である。
【0026】
転位変換層5は、エピタキシャル成長に伴ってn
+型炭化珪素基板1からn型炭化珪素層2へと伝搬される基底面転位を、積層欠陥を発生させない貫通刃状転位に高効率で変換する機能を有する。転位変換層5は、n
+型炭化珪素基板1よりも窒素(N)濃度が高い、例えば窒素濃度1×10
14/cm
3程度のn
-型炭化珪素層である。再結合促進層6は、p
+型領域3から移動する少数キャリアであるホール(正孔)11と電子との再結合12を促進して少数キャリアを消滅させる機能を有する。再結合促進層6は、n型炭化珪素層2よりも不純物濃度が高く、かつn
+型炭化珪素基板1よりも不純物濃度の低いn
+型炭化珪素層であり、例えばバッファ層として機能する。
【0027】
発光層7は、エレクトロルミネッセンス(EL:ElectroLuminescence)現象により所定の波長の光を放出(発光)するn
++型炭化珪素層である。発光層7は、再結合促進層6の機能を確認するためのチェック層としても機能を有し、エピタキシャル基板10を構成する発光層7以外の層および領域と異なる波長の光を放出するように所定の不純物を導入して形成される。すなわち、発光層7が発光していない場合、n
+型炭化珪素基板1およびn型炭化珪素層2の発光スペクトルが検出される。一方、発光層7が発光している場合、エピタキシャル基板10の発光スペクトルの波長がシフトして、発光層7の発光スペクトルが観測される。
【0028】
例えば、n
+型炭化珪素基板1の発光スペクトルの波長は400nm程度である。アルミニウム(Al)ドープのn型炭化珪素層2に窒素のイオン注入によりp
+型領域3を形成した場合、p
+型領域3の発光スペクトルの波長は484nm程度である。発光層7は、例えば、ボロン(B)および窒素をドープしてエピタキシャル成長させてもよいし、ノンドープのエピタキシャル成長層を形成した後にボロンおよび窒素をイオン注入して形成されてもよい。この場合、発光層7の発光スペクトルの波長は505nm程度である。発光層7の不純物濃度は、n型炭化珪素層2の不純物濃度よりも高く、例えば1×10
18/cm
3以上1×10
19/cm
3以下程度である。発光層7は、第2の再結合促進層および第2のバッファ層としての機能を有していてもよい。発光層7をチェック層としてのみ用いる場合、発光層7の厚さは例えば1μm程度あればよい。
【0029】
次に、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の評価方法について説明する。まず、
図1に示す積層構造のエピタキシャル基板10(半導体ウエハ)を用意する。次に、エピタキシャル基板10内の評価用の半導体素子(TEG:Test Element Group、以下、評価用素子とする)のp
+型領域3およびn
+型炭化珪素基板1にそれぞれ接する図示省略する評価用のアノード電極(第1電極)およびカソード電極(第2電極)を形成する。エピタキシャル基板10内の評価用素子以外の半導体素子は、製品となる半導体素子(以下、製品用素子とする)である。すなわち、製品用素子と評価用素子とは、同じ積層構造のn型エピタキシャル成長層10aを有する。
【0030】
評価用素子は、例えば製品用素子と同時に作製される。評価用素子の評価用電極(評価用のアノード電極またはカソード電極)は、それぞれ、例えば製品用素子のアノード電極(第1電極)またはカソード電極(第2電極)と同時に形成される。評価用素子の評価用電極(評価用のアノード電極またはカソード電極)には、エピタキシャル基板10の一部を所定の平面形状で露出する開口部(以下、窓開け部とする)が形成され、窓開け部から発光層7のEL現象(発光現象)が観測可能となっている。そして、評価用のアノード電極およびカソード電極にそれぞれ製品用素子の設計条件に基づく正電圧および負電圧を印加して、p
+型領域3とn型炭化珪素層2との間のpn接合で形成されるダイオード構造部に順方向バイアスをかける。
【0031】
再結合促進層6が機能している場合、ダイオード構造部への順方向バイアス時に、p
+型領域3からカソード側へ移動した少数キャリアであるホール(正孔)11は、再結合促進層6内で電子(不図示)と再結合12(再結合促進層6内の×印)して消滅する。すなわち、p
+型領域3からカソード側へ移動したホール11はn
+型炭化珪素基板1とn型エピタキシャル成長層10aとの界面4に到達しない。したがって、n
+型炭化珪素基板1の基底面(界面4)に積層欠陥の核13(n
+型炭化珪素基板1内の×印)が存在していたとしても、n
+型炭化珪素基板1の基底面で電子とホール11との再結合が起こらないため、n
+型炭化珪素基板1とn型炭化珪素層2との界面4からの積層欠陥の核成長(拡張)は起きない。
【0032】
一方、再結合促進層6が機能していない場合、ダイオード構造部への順方向バイアス時に、p
+型領域3からカソード側へ移動したホール11は再結合促進層6を通過してn
+型炭化珪素基板1に一定量到達してしまう。このため、p
+型領域3からカソード側へ移動したホール11はn
+型炭化珪素基板1とn型炭化珪素層2との界面4で電子と再結合(不図示)し、n
+型炭化珪素基板1の基底面に存在する積層欠陥の核13が成長してしまう。このとき、発光層7内で電子と再結合14(発光層7内の×印)して消滅するホール11が存在する。このため、ホール11が再結合14する際に生じるエネルギーにより、発光層7が所定の波長で光を放出する。
【0033】
そこで、評価用電極の窓開け部から放出される光を分光器によりスペクトル分析し、所定波長の発光層7の発光スペクトルの有無を観測する。発光層7の発光スペクトルが確認された場合、再結合促進層6が機能していないため、p
+型領域3からカソード側へ移動したホール11が再結合促進層6および発光層7を通過してn
+型炭化珪素基板1に達している虞がある。このため、発光層7の発光スペクトルが確認されたエピタキシャル基板10を、n
+型炭化珪素基板1からn型エピタキシャル成長層10aへの積層欠陥の拡張が生じているまたは生じる虞がある半導体ウエハであると判定する。積層欠陥の拡張は、エピタキシャル基板10の全体または半分など所定範囲にわたって生じる。このため、エピタキシャル基板10の複数個所で発光層7の発光スペクトルの有無を観測することで、エピタキシャル基板10の使用可能範囲を特定し、エピタキシャル基板10の良・不良を評価することができる。
【0034】
(実施例)
次に、発光層7のEL現象について検証した。
図2は、実施例のスペクトル分析結果を示す特性図である。
図3〜5は、比較例1〜3のスペクトル分析結果を示す特性図である。
図2〜5には、(a)にスペクトル分析結果を示し、(b)に試料の断面構造を示す。
図6は、実施例の評価用素子の評価用電極の窓開け部の平面レイアウトを示す平面図である。まず、
図2(b)に示すように、上述した実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置(
図1参照)に相当する断面構造を備えたpinダイオードを作製した(以下、実施例とする)。
【0035】
具体的には、実施例は、n
+型炭化珪素基板1上にn型エピタキシャル層20aとして発光層7、n型炭化珪素層2およびp型炭化珪素層8を順にエピタキシャル成長させたエピタキシャル基板20と、p型炭化珪素層8の内部にイオン注入により形成したp
+型領域3と、を備える。発光層7のEL現象を確認するために、実施例には再結合促進層6が設けられていない。n
+型炭化珪素基板1の厚さt1および不純物濃度は、それぞれ345μmおよび6.4×10
18/cm
3とした。n
+型炭化珪素基板1のシート抵抗は0.021Ωcm
2とした。発光層7は、ボロンおよび窒素ドープのn
++型エピタキシャル層(n
++型炭化珪素層)である。
【0036】
発光層7の厚さt2および不純物濃度は、それぞれ2μmおよび5×10
18/cm
3とした。n型炭化珪素層2の厚さt3および不純物濃度は、それぞれ10μmおよび1.0×10
16/cm
3とした。p型炭化珪素層8の厚さt4および不純物濃度は、それぞれ2μmおよび1.0×10
19/cm
3とした。p
+型領域3の厚さt5および不純物濃度は、それぞれ0.5μmおよび3.0×10
20/cm
3とした。p
+型領域3およびn
+型炭化珪素基板1にそれぞれ接する評価用のアノード電極9およびカソード電極(不図示)を形成し、評価用のアノード電極9に、エピタキシャル成長層20aが露出する窓開け部9aを形成した(
図6)。評価用のアノード電極9の窓開け部9aは、ストライプ状の平面レイアウトに形成した。
【0037】
比較として、
図3(b)に示す比較例1は、実施例のn
+型炭化珪素基板1、発光層7、n型炭化珪素層2およびp型炭化珪素層8を備え、かつp
+型領域3を備えない構成のpinダイオードである。比較例1の評価用のアノード電極9は、p型炭化珪素層8に接する。
図4(b)に示す比較例2は、実施例の発光層7に代えて、再結合促進層6を備えた構成のpinダイオードである。
図5(b)に示す比較例3は、比較例1の発光層7に代えて、再結合促進層6を備えた構成のpinダイオードである。比較例1〜3の評価用アノード電極にも実施例と同様に窓開け部を形成した。そして、これら実施例および比較例1〜3について、それぞれ、アノード電極9に正電圧を印加し、カソード電極に負電圧を印加して順方向バイアスをかけた。
【0038】
図5(a)に示すように、比較例3では、393nm程度の波長の第1発光スペクトル41のみが検出された。この第1発光スペクトル41は、n
+型炭化珪素基板1、n型炭化珪素層2および再結合促進層6の発光スペクトルであると推測される。一方、
図3(a)に示すように、比較例1では、395nm程度の波長の第1発光スペクトル41と、509nm程度の波長の第2発光スペクトル42と、が検出された。
図3(a),5(a)の結果から、第2発光スペクトル42は、発光層7の発光スペクトルであると推測される。
図4(a)に示すように、比較例2では、393nm程度の波長の第1発光スペクトル41と、480nm程度の波長の第3発光スペクトル43と、が検出された。
図4(a),5(a)の結果から、第3発光スペクトル43は、p
+型領域3の発光スペクトルであると推測される。
【0039】
一方、
図2(a)に示すように、実施例においては、アノード−カソード間に流すプローブ電流(
図2(b)にプローブ電流の大きさを矢印31の長さで示す)が小さい状態では、484nm程度の波長の第3発光スペクトル43が検出された。そして、アノード−カソード間に流すプローブ電流(
図2(b)にプローブ電流の大きさを矢印32の長さで示す)を大きくしていくと、393nm程度の波長の第1発光スペクトル41と、505nm程度の波長の第2発光スペクトル42が検出された。したがって、
図2(a)に示す結果から、実施例において、発光層7の第2発光スペクトル42の波長が、n
+型炭化珪素基板1、n型炭化珪素層2および再結合促進層6の第1発光スペクトル41の波長と、p
+型領域3の第3発光スペクトル43の波長と異なることが観測されることが確認された。このように発光層7の第2発光スペクトル42が観測されるのは、上述したようにp
+型領域3からカソード側へ移動したホール11が発光層7に到達し、発光層7内で電子と再結合14するからである(
図1参照)。
【0040】
従来の再結合促進層106のみを形成した炭化珪素エピタキシャル基板120(
図8参照)では、p
+型領域103からカソード側へ移動したホール111が再結合促進層106を通過したとしても検知することができない。このため、n
+型炭化珪素基板101とn型エピタキシャル成長層102との界面104に積層欠陥の核が存在する場合、当該界面104でのホール111と電子との再結合115(n
+型炭化珪素基板101内の×印)により、積層欠陥が核成長116してしまう。それに対して、本発明においては、発光層7の第2発光スペクトル42が観測されることで、p
+型領域3からカソード側へ移動したホール11がn
+型炭化珪素基板1とn型炭化珪素層2との界面4に達して積層欠陥の核13が成長する虞があることを検知することができる(
図1参照)。
【0041】
以上、説明したように、実施の形態によれば、n
+型炭化珪素基板(転位変換層)と再結合促進層との間に、これらの層と異なる波長の発光スペクトルとなる発光層を配置する。これにより、スペクトル分析により発光層の所定波長の発光スペクトルを検出することで、p
+型アノード領域からカソード側へ移動したホールが再結合促進層を通過してn
+型炭化珪素基板に達したことを検出することができる。このため、半導体ウエハに製品用素子と同じダイオード構造部を有する評価用素子を作製し、この評価用素子のスペクトル分析を行って発光層の所定波長の発光スペクトルの有無を確認することで、製品用素子のデバイスの寿命を確認することができる。
【0042】
また、実施の形態によれば、デバイスの寿命を確認するための信頼性試験(通電試験)において、従来のように半導体ウエハをダイシングする工程や、評価用のモジュールを組み立てる工程を行う必要がない。このため、コストおよび製造時間を低減させることができる。また、実施の形態によれば、半導体ウエハの発光層の所定波長の発光スペクトルの有無を確認することで、再結合促進層が機能していない半導体ウエハと、再結合促進層が機能している半導体ウエハとを判別することができる。これにより、再結合促進層が機能している半導体ウエハを用いて製品用素子を作製することができるため、製品用素子のダイオード構造部の順方向特性を改善することができる。
【0043】
以上において本発明は、上述した実施の形態に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、発光層の発光スペクトルの波長が他の層および領域の発光スペクトルの波長と異なっていればよく、発光層にドープまたはイオン注入する不純物はボロンおよび窒素に限らず種々変更可能である。また、本発明は、導電型を反転させても同様に成り立つ。また、上述した実施の形態では、pinダイオードを例に説明しているが、エピタキシャル基板の積層構造でダイオード構造部が形成されていればよく、例えばMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:絶縁ゲート型電界効果トランジスタ)など寄生の内蔵ダイオードが形成される半導体素子にも適用可能である。上述した実施の形態では、評価用素子と製品用素子とを同時に作製する場合を例に説明しているが、上述した実施の形態にかかる半導体装置の評価方法を行うタイミングは、種々変更可能であり、製品用素子を作製する前または後であってもよい。