特許第6809224号(P6809224)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809224
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】布帛
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/16 20060101AFI20201221BHJP
   D04B 1/28 20060101ALI20201221BHJP
   D03D 15/33 20210101ALI20201221BHJP
   D03D 15/20 20210101ALI20201221BHJP
   A41D 19/00 20060101ALI20201221BHJP
   D01F 8/14 20060101ALN20201221BHJP
   A41D 19/015 20060101ALN20201221BHJP
【FI】
   D04B1/16
   D04B1/28
   D03D15/00 F
   D03D15/00 H
   A41D19/00 A
   !D01F8/14 C
   !A41D19/015 210Z
【請求項の数】5
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-548339(P2016-548339)
(86)(22)【出願日】2016年5月26日
(86)【国際出願番号】JP2016065564
(87)【国際公開番号】WO2016190384
(87)【国際公開日】20161201
【審査請求日】2019年5月8日
(31)【優先権主張番号】特願2015-107214(P2015-107214)
(32)【優先日】2015年5月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】境 賢一
(72)【発明者】
【氏名】松村 一也
(72)【発明者】
【氏名】梶山 宏史
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−210986(JP,A)
【文献】 特開2010−024570(JP,A)
【文献】 特開2009−024278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D19/00−19/04
D01F8/00−8/18
D03D1/00−27/18
D04B1/00−39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維径100〜1000nmのフィラメント糸Aおよび単繊維径が10μm以上のフィラメント糸Bを含む布帛であって、
前記フィラメント糸Aの前記布帛の第一の面における露出面積を、前記第一の面に露出している全繊維の前記第一の面における露出面積で除した値が、0.50以上0.90以下であり、
前記フィラメント糸Aの前記布帛の第二の面における露出面積を、前記第二の面に露出している全繊維の前記第二の面における露出面積で除した値が、0.10以上0.40以下であり、
湿潤状態における前記第一の面の静摩擦係数を、湿潤状態における前記第二の面の静摩擦係数で除した値が、1.2以上2.5以下であり、かつ、湿潤状態における前記第一の面の静摩擦係数が0.7以上である布帛。
【請求項2】
湿潤状態における30%伸長時の引張応力が、100N/50mm以下である請求項1に記載の布帛。
【請求項3】
前記フィラメント糸Aがポリアミド繊維であり、単繊維径が100〜300nmである請求項1または2に記載の布帛。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の布帛を有する手袋であって、前記布帛の厚みが0.2〜0.9mmである、手袋。
【請求項5】
手術用である請求項4に記載の手袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛に関し、特に手袋に好適な布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、繊細な肌触りやソフト感を追求して単繊維径が1マイクロメートル未満となるナノファイバーを用いた布帛が提案されている。ナノファイバーは、単繊維径がナノオーダーであるため、ナノファイバーを用いた布帛の表面積は、単繊維径の大きい繊維を用いた布帛の表面積と比較して飛躍的に大きくなる。その結果、単繊維径の大きい繊維を用いた布帛では得られなかった高い静摩擦係数を発現できる。特許文献1には、ナノファイバーを含み、高い表面静摩擦係数を示す織編地が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−24278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている織編地は、その織編地とその表面が触れる被接触物との密着性を高めるため、その被接触物との接触表面にはナノファイバーが多量に露出する構成となっている。以下布帛の表面が触れる物を被接触物という。
【0005】
また、特許文献1には、両方の面においてナノファイバーのみが露出している織編地(以下「布帛I」という)、および一方の面においてナノファイバーのみが露出しており他方の面においてナノファイバー以外の繊維のみが露出している織編地(以下「布帛II」という)のみが開示されている。ここで、布帛Iの場合、布帛の第一の面に露出しているナノファイバーの第一の面における露出面積を、布帛の第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値(以下「第一の面のナノファイバーの露出割合」という)は1となり、布帛の第二の面に露出しているナノファイバーの第二の面における露出面積を、布帛の第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値(以下「第二の面のナノファイバーの露出割合」という)は1となる。また、布帛IIの場合、第一の面のナノファイバーの露出割合は1となり、第二の面のナノファイバーの露出割合は0となる。すなわち、特許文献1に記載された布帛は、少なくとも一方の面においてナノファイバーが過剰に露出しているため、ナノファイバーが過剰に露出した布帛の面の静摩擦係数が過度に大きくなる。このことにより、この布帛の製造工程において、布帛にシワやアタリが発生し、布帛の表面品位が悪化するとの課題がある。
【0006】
そこで、上記の課題に鑑み本発明では、手指と被接触物との間を介在する物品(例えば手袋)とにした際に、その物品を介した被接触物の把持性能を向上させることができ、また、表面品位に優れた布帛を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために、本発明の布帛は次のようなものである。
【0008】
(1)単繊維径100〜1000nmのフィラメント糸Aおよび単繊維径が10μm以上のフィラメント糸Bを含む布帛であって、前記フィラメント糸Aの前記布帛の第一の面における露出面積を、前記第一の面に露出している全繊維の前記第一の面における露出面積で除した値が、0.50以上0.90以下である布帛。
【0009】
さらに以下の好ましい態様がある。
(2)前記フィラメント糸Aの前記布帛の第二の面における露出面積を、前記第二の面に露出している全繊維の前記第二の面における露出面積で除した値が、0.10以上0.40以下である(1)に記載の布帛、
(3)湿潤状態における前記第一の面の静摩擦係数を、湿潤状態における前記第二の面の静摩擦係数で除した値が、1.2以上2.5以下であり、かつ、湿潤状態における前記第一の面の静摩擦係数が0.7以上である(2)に記載の布帛、
(4)湿潤状態における30%伸長時の引張応力が、100N/50mm以下である(1)〜(3)のいずれかに記載の布帛、
(5)前記フィラメント糸Aがポリアミド繊維であり、単繊維径が100〜300nmである(1)〜(4)のいずれかに記載の布帛、
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載の布帛を有する手袋であって、前記布帛の厚みが0.2〜0.9mmである、手袋。
(7)手術用である(6)記載の手袋。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、手袋にした際に、その手袋を介した被接触物の把持性能を向上させることができ、また、その手袋の着脱を容易とすることができる布帛を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実態の形態について詳細に説明する。
【0012】
本発明の布帛は、単繊維径100〜1000nmのフィラメント糸Aおよび単繊維径が10μm以上のフィラメント糸Bからなり、また、フィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値が、0.50以上0.90以下となるものである。
【0013】
本発明の布帛は、上記のフィラメント糸Aおよび上記のフィラメント糸Bのみからなるものであってもよいし、本発明の効果を阻害しない範囲において、上記のフィラメント糸Aおよび上記のフィラメント糸B以外のものを含んでいてもよい。
【0014】
本発明に用いるフィラメント糸Aについて説明する。フィラメント糸Aの単繊維径は、100〜1000nmである。フィラメント糸Aの単繊維径が100nm以上であることで、フィラメント糸Aの繊維強度低下による耐摩耗性の低下を抑制することができる。また、フィラメント糸Aの単繊維径が1000nm以下とすることで、布帛の被接触物との接触面における静摩擦係数を高いものとすることができる。さらに、フィラメント糸Aの単繊維径を500nm以下とすることで布帛の乾燥状態における静摩擦係数と、布帛の水による湿潤状態での静摩擦係数との差を小さいものとすることができる。なお、一般的な布帛では、湿潤状態の布帛と被接触物との静摩擦係数は、乾燥時の布帛のときの静摩擦係数と比較して低いものとなる傾向がある。しかし、本発明の布帛では、湿潤状態の布帛と被接触物との静摩擦係数が、乾燥状態の布帛での静摩擦係数とが近い値となる。その理由は定かではないが、布帛を構成する繊維の繊維径が小さいと、それらの繊維間に発生する空隙も小さいものとなる。布帛に存在する空隙が小さいと、布帛が毛細管現象により水を吸い上げる力が大きくなり、その反作用で布帛自身が被接触物に吸い寄せられる力が大きくなるためであると推測する。上記の観点から、フィラメント糸Aの単繊維径の上の方の値は、500nm以下であることがより好ましい。さらに300nm以下が好ましい。上記の観点から、フィラメント糸Aの単繊維径の下の方の値は、200nm以上であることがより好ましい。
【0015】
本発明の布帛に用いるフィラメント糸Aを得るための方法としては、例えば、以下のような分配プレート型複合口金を利用した複合繊維の製造方法を採用することができる。かかる複合繊維としては、国際公開第2012/173116号に開示された複合繊維の製造方法による海島型複合繊維が好ましく用いられる。
【0016】
本発明の布帛に用いるフィラメント糸Aを形成するポリマーの種類としては、特に限定されないが、熱可塑性ポリマーであることが好ましい。上記のポリマーは、2種以上のモノマーが共重合されたものであっても良いし、2種以上のポリマーがフレンドされたものであっても良い。また、安定剤などの添加物を含有していても良い。入手の容易性の向上のため、上記のポリマーとしては、ナイロン6などのポリアミドやポリエチレンテレフタレートがより好ましい。フィラメント糸Aを得るための工程が、易溶解性の海成分をアルカリ溶液で除去する工程を有する場合には、ポリアミドはアルカリ溶液に対して難溶解性を示し、その取扱が容易であるため、上記のポリマーはポリアミドであることがさらに好ましい。その場合には、フィラメント糸Aはポリアミド繊維となる。さらに、上記のポリマーを、ポリアミドとすることで、脂質を含む液体で布帛が湿潤状態となった場合であっても、その布帛の被接触物との接触面の静摩擦係数は、上記のポリマーがポリエチレンテレフタレートなどの疎水性繊維がフィラメント糸Aである場合に比べ、より高くなる。
【0017】
本発明の布帛に用いるフィラメント糸Aの繊維形態は特に限定されないが、長繊維のマルチフィラメント糸であることが好ましい。フィラメント糸Aがマルチフィラメント糸である場合、フィラメント糸Aを構成する単糸の断面形状は特に限定されず、丸、三角、六角、Y型、扁平、中空などの断面形状でよい。
【0018】
フィラメント糸Aがマルチフィラメント糸である場合、フィラメント数は特に限定されないが、ナノファイバーから由来する布帛の風合いを得る上で500本以上が好ましい。ここで、フィラメント糸Aのフィラメント数は、それを布帛とする際に合糸したものも含む。より好ましくは下の方の値が10,000本以上であり、上の方の値は100,000本以下である。
【0019】
また、フィラメント糸Aがマルチフィラメント糸である場合、フィラメント糸Aの総繊度は、10〜400dtexであることが好ましい。10dtex以上とすることで、布帛の引張強力および引裂強力等の力学的強度をより優れたものとすることができ、布帛を縫製や成型する際に布帛が破れるのを抑制することができる。また、フィラメント糸Aの総繊度を400dtex以下とすることで布帛の伸度低下の抑制や、布帛のセット性の向上が得られる。
【0020】
また、脱海処理を想定した場合には、フィラメント糸Aを島成分として含む海島複合繊維に対しアルカリ減量処理を施すことでフィラメント糸Aを得る。そして、上記の海島複合繊維の海成分には、溶融成型可能で、他の成分よりも液体に対し高い溶解性を示すポリマーの中から選択することができる。海成分としては、水系の溶媒あるいは熱水などに高い溶解性を示す共重合ポリエステル、ポリ乳酸、ポリビニールアルコールなどが好ましい。特に、ポリエチレングリコール、ナトリウムスルホイソフタル酸が単独あるいは組み合わされて共重合したポリエステルやポリ乳酸を用いることが、紡糸性および低濃度の水系溶媒に簡単に溶解させることができるため好ましい。また、脱海性および発生する極細繊維の開繊性という観点では、ナトリウムスルホイソフタル酸が単独で共重合されたポリエステルが特に好ましい。海成分が、ナトリウムスルホイソフタル酸などが共重合された共重合ポリエステルやポリ乳酸等の場合には、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液を用いることができる。
【0021】
次に、本発明に用いるフィラメント糸Bについて説明する。フィラメント糸Bの単繊維径は、10μm以上である。フィラメント糸Bの単繊維径が10μm以上であることで、形態安定性や風合いを向上させることができる。上記の観点から、フィラメント糸Bの単繊維径は15μm以上であることが好ましい。また、フィラメント糸Bの単繊維径の上の方の値は特に限定されないが、20μm以下であることが好ましい。フィラメント糸Bの単繊維径が20μm以下であることで、布帛の柔軟性をより優れたものとすることができる。
【0022】
フィラメント糸Bを得るための方法としては、溶融紡糸法を採用することができる。具体的には、加熱筒内でポリマーの融点以上に加熱して溶融させたポリマーを、紡糸口金から押し出し、押し出された糸条を冷却し、延伸し、その後切断し、またはそのまま巻き取り、フィラメント糸Bを得ることができる。
【0023】
フィラメント糸Bを形成するポリマーの種類としては、特に限定されないが、熱可塑性ポリマーであることが好ましい。上記のポリマーには、他の成分が共重合されていても良い。また、安定剤などの添加物を含有していても良い。入手の容易性や生産時の取り扱い性の向上のため、ポリアミドやポリエステルが好ましい。さらに好ましくは、ナイロン6またはポリエチレンテレフタレートである。
【0024】
フィラメント糸Bの繊維形態は特に限定されないが、長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。なお、フィラメント糸Bが長繊維である場合、そのフィラメント糸Bに仮撚り加工や、ポリウレタン弾性繊維とのカバーリングがなされていてもよい。仮撚加工の方法としては、ピン、フリクション、ニップベルト、エアー加撚等いずれの方法でもよい。加熱ヒーターは、接触式、非接触式いずれでもよい。フィラメント糸Bの断面形状は特に限定されず、丸、三角、六角、Y、扁平、中空、などの断面形状でよい。
【0025】
フィラメント糸Bがマルチフィラメント糸である場合、フィラメント数は特に限定されないが、布帛に適度な剛性を得る上で5本以上が好ましい。上記観点から、より好ましくは下の方の値が10本以上であり、上の方の値は70本以下である。
【0026】
また、フィラメント糸Bがマルチフィラメント糸である場合、フィラメント糸Bの総繊度(単繊維繊度とフィラメント数との積)としては、10〜200dtexの範囲内であることが好ましい。10dtex以上とすることで、布帛の引張強力および引裂強力等の力学的強度をより優れたものとすることができ、布帛を縫製や成型する際に布帛が破れるのを抑制することができる。また、フィラメント糸Bの総繊度を200dtex以下とすることで布帛の伸度低下の抑制や、布帛のセット性の向上が得られる。
【0027】
次に、本発明の布帛について説明する。
【0028】
本発明の布帛の形態としては、織物、編物または不織布を採用することができる。織物の種類は、平織、綾織、朱子織といった3原組織、3原組織をもとにした変化組織、絡み組織、パイル組織または紋織のいずれの織組織も適用することができ、また、これらを組み合わせることもできる。編物の種類は、経編地であってもよいし緯編地であってもよい。経編地の組織としては、トリコット編、ラッセル編、ジャガード編等が例示され、緯編地の組織としては平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編等が例示され、また、これらを組み合わせることもでき、組み合わせたものとしては、スムース編や鹿の子編等が例示される。なお、製編は、丸編機、横編機、トリコット編機、ラッシェル編機等、通常の編機を用いて通常の方法により製編することができる。層数も特に限定されず単層でもよいし2層以上の多層構造を有する編物でもよい。不織布としては、ニードルパンチ法やスパンレース法が例示される。被接触物とのフィット性を向上させることができるため、編物であることが好ましい。生産性を向上させることができるため、さらに好ましくは、丸編地である。
【0029】
なお、本発明の布帛は、布帛が編物である場合、フィラメント糸Aとフィラメント糸Bとが交編されていてもよく、布帛が織物である場合、フィラメント糸Aとフィラメント糸Bとが交織されていてもよく、布帛が不織布である場合、フィラメント糸Aとフィラメント糸Bとが混繊されていてもよい。また、フィラメント糸Aとフィラメント糸Bからなる混繊糸で、編物、織物を構成していてもよい。
【0030】
本発明の布帛に含まれるフィラメント糸Aが難溶解性の島成分と易溶解性の海成分からなる複合繊維に由来するものである場合、その複合繊維をナノファイバー化させる方法としては、特に限定されるものではないが、脱海処理として、その複合繊維を布帛の形態とした後に、それをアルカリ水溶液に浸漬させればよい。この時、アルカリ水溶液を50℃以上に加熱すると、易溶解性の海成分の加水分解の進行を早めることができるため、好ましい。上記観点から、より好ましくは、アルカリ水溶液の温度は80℃以上である。アルカリ水溶液として水酸化ナトリウム水溶液を利用する場合は、水酸化ナトリウムの濃度は0.5〜5%であることが好ましい。また、液流染色機などを利用し、処理すれば、一度に大量に処理をすることができ、浴比も自由に設定できるため、生産性も向上するという工業的な理由から好ましい。なお、上記の脱海処理を液流染色機を用いて行う場合は、脱海処理前の布帛(以下、「布帛前駆体」という。)は、丸編地のような筒状形態であることが好ましい。その場合には、布帛前駆体の布帛の第一の面となる面を筒状形態の内側とし、布帛前駆体の布帛の第二の面となる面を筒状形態の外側となるように上記の液流染色機にセットするのが好ましい。その場合、染色機管には布帛前駆体の布帛の第二の面となる面が接することとなる。このように布帛前駆体を液流染色機にセットすることで、脱海処理後、フィラメント糸Aを多く有する第一の面が、その高い静摩擦係数により染色機管に吸着するのを抑制することができ、工程通過性がより向上する。
【0031】
本発明の布帛は、前記アルカリ水溶液による脱海処理の前、後または前後に染色加工を施してもよい。カレンダー加工やエンボス加工を施してもよく、さらに、起毛加工、撥水加工、さらには、消臭剤、制電剤、抗菌剤などの機能を後加工で付与してもよい。特に、起毛加工は布帛の乾燥時の静摩擦係数を向上させることができる。起毛させる方法としては、特に限定されるものではないが、針布起毛、サンドペーパーによるエメリー起毛等を挙げることができる。
【0032】
本発明の布帛の仕上げセット時の温度は、フィラメント糸Aおよびフィラメント糸Bのポリマーがナイロン6である場合、150℃以下であることが好ましい。150℃を超えると、布帛の熱垂れによる工程通過性の低下となる。上記観点から、さらに好ましくは130℃以下である。なお、下の方の値は100℃以上である。
【0033】
本発明の布帛では、その第一の面におけるフィラメント糸Aの露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値(以下第一の値という)が、0.50以上0.90以下である。ここで、第一の値が0.50以上であることで、静摩擦係数を向上させることができる。上記の観点から、第一の値は0.60以上であることが好ましい。一方で、第一の値が0.90以下であることで、製造工程時のシワやアタリの発生による布帛の第一の面の表面品位の悪化を抑制することができる。上記の観点から、第一の値は0.80以下であることが好ましい。また、本発明の布帛を手袋とする場合に、布帛の第一の面が手袋の外側(物体把持側)となるようにすることで表面品位に優れた手袋を得ることができる。
【0034】
また、本発明の布帛では、その第二の面におけるフィラメント糸Aの露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値(以下第二の値という)が、0.10以上0.40以下であることが好ましい。ここで、第二の値が0.10以上であることで、静摩擦係数を向上させることができる。さらに好ましくは、上記の観点から、第二の値は0.20以上である。一方で、第二の値が0.40以下であることで、布帛の工程通過性の低下を抑制することができるとともに、その布帛を手袋にした際に、その手袋は着脱が容易なものとなる。さらに好ましくは、上記の観点から、第二の値は0.30以下である。
【0035】
ここで、第一の値が0.50以上0.90以下であり、かつ、第二の値が0.10以上0.40以下である本発明の布帛の態様は、第一の面の静摩擦係数が大きく、布帛の第一の面の静摩擦係数と布帛の第二の面の静摩擦係数とに適切な差が生じるものとなる。そのような布帛は、一方の面の静摩擦係数が大きく、一方の面と他方の面とで静摩擦係数に適切な差があることが求められる製品に好適に用いることができる布帛をとなる。また、一方の面の静摩擦係数が大きく、一方の面と他方の面とで静摩擦係数に適切な差があることが求められる製品の一例としては、上記のとおり手袋を挙げることができる。手袋は、用途によっては、手袋の着用者が掴んだ被接触物が、手袋の外側の面と被接触物の手袋との接触面との間で発生する滑りにより、落下しやすくなる。それを抑制するために、手袋の外側の面には大きな静摩擦係数が求められる、一方で、手袋の内側の面については、手袋の内側の面が手袋の外側の面と同程度の静摩擦係数を有する場合には、その手袋は、着脱が困難なものとなる。よって、手袋の内側の面の静摩擦係数は、手袋の外側の静摩擦係数と比べてある程度低いことが必要となる。一方で、手袋の内側の面の静摩擦係数が小さすぎると、手袋の着用者の手と手袋の内側の面との間で滑りが発生し、手袋を介した被接触物の把持が困難となる。よって、手袋の内側の面の静摩擦係数もある程度大きいことが必要となる。すなわち、上記のことから、手袋には、手袋の外側の面の大きな静摩擦係数と、手袋の外側の面の静摩擦係数と手袋の内側の面の静摩擦係数に適切な差があることが求められるといえる。
【0036】
また、布帛の第一の面および第二の面の両方の面の静摩擦係数が高いと、その製造工程において湿潤状態の布帛が送り出しのガイドロールやアルカリ減量の際に用いられる釜管内へ吸着することによって、その製造が困難となる。そこで、本発明の布帛を、布帛の第一の面の静摩擦係数が大きく、布帛の第一の面の静摩擦係数と布帛の第二の面の静摩擦係数とに適切な差があるものとし、その製造工程において、その布帛の第二の面が上記のガイドロールや釜管内に接触する側とすることで、布帛の上記のガイドロールや釜管内への吸着が抑制され、その工程通過性の低下を抑制することができる。
【0037】
また、第一の値が0.50以上0.90以下であり、かつ、第二の値が0.10以上0.40以下である本発明の布帛の一形態例は、特許文献1に記載された布帛が有する課題を解決するものである。ここで、特許文献1に記載された布帛が有する課題とは以下のものである。上記のとおり、特許文献1には布帛Iおよび布帛IIが記載されている。また、布帛Iは、第一の面のナノファイバーの露出割合は1.00であり、第二の面のナノファイバーの露出割合は1.00である。また、布帛IIは、第一の面のナノファイバーの露出割合は1.00であり、第二の面のナノファイバーの露出割合は0である。
【0038】
ここで、例えば、布帛Iを手袋に加工した際には、手と接触する面に第一の面または第二の面が配置されることとなる。そして、布帛Iは、第一の面のナノファイバーの露出割合、第二の面のナノファイバーの露出割合ともに1.00である。よって、その手袋を着脱する際に手とその手袋との静摩擦係数が大きく、その手袋を着脱しにくいという課題がある。
【0039】
また、布帛Iは、その両方の面においてナノファイバーのみが露出している。そして、このことにより、両方の面の静摩擦係数が高くなり、その製造工程における湿潤状態の布帛Iが送り出しのガイドロールやアルカリ減量の際に用いられる釜管内へ吸着することによって加工が困難となる課題がある。
【0040】
また、例えば、布帛IIを手袋に加工し、布帛IIの第二の面が手と接触する面に配置される場合、被接触物と接する手袋の面にはナノファイバーのみが露出している。この手袋を用いて、被接触物を掴んだ際に、被接触物とその手袋との静摩擦係数は大きく、掴んだ被接触物が滑り落ちるのは抑制される。一方で、手と手袋との静摩擦係数は小さくなるため、手とその手袋との間で滑りが発生し、手袋を介した被接触物の把持が困難となる課題がある。 本発明の布帛は、目付が50〜350g/mの範囲であることが好ましい。布帛の目付を50g/m以上とすることで、その形態安定性が向上し、使用時の取り扱い性が良くなる。また、布帛の目付を350g/m以下とすることで、その伸度が向上し製造工程における熱セット時の皺の発生を抑制することができる。下の方の値については、60g/m以上がより好ましく、70g/m以上であることがさらに好ましい。上の方の値については、300g/m以下であることがより好ましく、250g/m以下であることがさらに好ましい。
【0041】
本発明の布帛は、厚みが0.2〜3.0mmの範囲であることが好ましい。布帛の厚みを上記の範囲とすることで、布帛の被接触物との接触面の静摩擦係数を高いものとすることができ、かつ、布帛の乾燥状態における静摩擦係数と湿潤状態における静摩擦係数の差をより小さいものとすることができる。その理由は定かではないが、布帛の厚みが上記の範囲内となることで、布帛と被接触物との摩擦時に布帛にせん断変形が起き、上記の静摩擦係数が増大するためと考えられる。なお、布帛の厚みを0.2mm以上とすることで、布帛の強力低下や製造工程時において生じる破れを抑制することができる。一方、布帛の厚みを3.0mm以下とすることで、布帛の一方の面に被接触物を接触させた状態で、布帛の他方の面から布帛に圧力をかけた場合に、布帛の他方の面から被接触物に圧力が伝わりやすくなり、布帛の被接触物との接触面の静摩擦係数がより大きなものとなる。また、厚みが3.0mm以下の布帛を手袋など、布帛を介して被接触物に触れる用途に用いる場合には、手袋などの着用者が被接触物の触感を得やすくなる。上記の観点から、布帛の厚みの下の方の値については、0.3mm以上がより好ましく、その上の方の値については0.9mm以下がより好ましい。さらに好ましくは、上の方の値は0.7mm以下である。
【0042】
本発明の布帛は、JIS L 1076(2010)に規定された方法で評価するピリング性において、3級以上であることが好ましい。フィラメント糸Aを用い、その単繊維径を調整することで、布帛の耐磨耗性が向上し、ピリング性を3級以上とすることができる。布帛のピリング性は、より好ましくは4級以上である。
【0043】
本発明の布帛は、湿潤状態における前記第一の面の静摩擦係数を、湿潤状態における前記第二の面の静摩擦係数で除した値が、1.2以上2.5以下であり、かつ、湿潤状態における前記第一の面の静摩擦係数が0.7以上であることが好ましい。ここで、本願における静摩擦係数とは、実施例の項で述べるようにJIS P 8147(2010) (8.傾斜法)に規定された方法を基に、被接触物をシリコンプレート(擬似皮膚)、荷重を29g/cmとして測定したものをいう。静摩擦係数は、物体がすべり始める瞬間の物体重量と加えた力との比であり、数値が大きくなるほどすべりにくくなる。布帛にフィラメント糸Aを用い、フィラメント糸Aの単繊維径、第一の面におけるフィラメント糸Aの露出面積の割合、第二の面におけるフィラメント糸Aの露出面積の割合および布帛の厚みなどを適切な範囲に調整することで、上記の静摩擦係数の比率および値の範囲内を満足する布帛を得ることができる。また、本発明の布帛は、静摩擦係数について等方性であることが好ましい。
【0044】
湿潤状態における前記第一の面の静摩擦係数を、湿潤状態における前記第二の面の静摩擦係数で除した値を、1.2以上とすることで、湿潤状態における第一の面の静摩擦係数が大きく、湿潤状態における布帛の第一の面と第二の面の静摩擦係数に適切な差が生じる布帛を得ることができる。上記の観点から、その下の値は、より好ましくは1.3以上である。さらに好ましくは、1.5以上である。一方で、湿潤状態における前記第二の面の静摩擦係数で除した値を、2.5以下とすることで、その布帛を手袋にし、その手袋が湿潤状態の場合に、手袋の着用者の手と内側の面との間で滑りが発生し手袋を介した被接触物の把持が困難となることを抑制することができる。上記の観点から、その上の方の値は、より好ましくは2.3以下である。
【0045】
また、湿潤状態における前記第一の面の静摩擦係数を、0.7以上とすることで、湿潤状態における第一の面のすべり抵抗が高い布帛を得ることができる。上記の観点から、その下の方の値は、より好ましくは1.0以上である。また、その上の方の値については、特に限定はされないが、静摩擦係数が高すぎると逆に皮膚などの被接触物を損傷させてしまうおそれがあるため、2.5以下であることが好ましい。さらに好ましくは、2.0以下である。
【0046】
また、本発明の布帛は、その第一の面の静摩擦係数が、布帛が乾燥状態で、0.8以上であり、かつ、湿潤状態の布帛の第一の面の静摩擦係数を、乾燥状態の布帛の第一の面の静摩擦係数で除した値が0.9以上であることが好ましい。本発明では、布帛にフィラメント糸Aを用い、フィラメント糸Aの単繊維径、第一の面におけるフィラメント糸Aの露出割合および布帛の厚みなどを適切な範囲に調整することで、上記の静摩擦係数の範囲内を満足する布帛を得ることができる。
【0047】
乾燥状態の布帛の第一の面の静摩擦係数を0.8以上とすることで、その第一の面のすべり抵抗が高い布帛を得ることができる。その下の方の値は、より好ましくは0.9以上である。また、その上の方の値については、特に限定はされないが、静摩擦係数が高すぎると逆に皮膚などの被接触物を損傷させてしまうおそれがあるため2.5以下であることが好ましい。さらに好ましくは、2.0以下である。
【0048】
また、湿潤状態の布帛の静摩擦係数を乾燥状態の布帛の静摩擦係数で除した値を0.9以上とすることで、着用者が布帛を介して被接触物を把持する際に、布帛が乾燥状態である場合と、布帛が湿潤状態である場合とで着用者が被接触物を同じ力や感覚で把持することができるとともに、布帛が湿潤状態であってもすべり抵抗の高い布帛を得ることができる。
【0049】
なお、本願でいう布帛の乾燥状態とは、試験片を測定前に標準状態である20±2℃、65±2%RH雰囲気下で24時間以上静置しておくことで達成される。また、布帛の湿潤状態とは、乾燥状態の布帛100質量部に対し、500質量部の水を、乾燥状態の布帛に添加し、添加した水が布帛全体に行き渡ってから30秒後の状態をいう。湿潤状態の布帛の静摩擦係数を乾燥状態の布帛の静摩擦係数で除した値は、好ましくは1.0以上である。
【0050】
また、本発明の布帛は、乾燥時における引張強力のタテ方向とヨコ方向のどちらか低い方の値が50N/50mm以上であり、かつ、湿潤時における引張強力のタテ方向とヨコ方向のどちらか低い方の値が50N/50mm以上であることが好ましく、それらの値は共に100N/mm以上であることがより好ましい。乾燥時における引張強力のタテ方向とヨコ方向のどちらか低い方の値が50N/50mm以上であり、かつ、湿潤時における引張強力のタテ方向とヨコ方向のどちらか低い方の値が50N/50mm以上とすることで、工程通過性をより向上させることができる。ここで、布帛が編地の場合、タテ方向とは、製造工程における巻き取り時のロール流れ方向に平行な方向をいい、編地のヨコ方向とは上記の編地のタテ方向に垂直な方向をいう。また、布帛が織物の場合、タテ方向とは、経糸方向をいい、ヨコ方向とは、緯糸方向をいう。
【0051】
また、本発明の布帛の乾燥状態における30%伸長時の引張応力は、100N/50mm以下であることが好ましい。布帛の乾燥状態における30%伸長時の引張応力を100N/50mm以下とすることで、伸縮性に優れた布帛を得ることができる。上記の観点から、80N/50mm以下であることがより好ましく、50N/50mm以下であることがさらに好ましい。また、本発明の布帛の湿潤状態における30%伸長時の引張応力が、100N/50mm以下であることが好ましい。布帛の湿潤状態における30%伸長時の引張応力を100N/50mm以下とすることで、伸縮性に優れた布帛を得ることができる。上記の観点から、80N/50mm以下であることがより好ましく、50N/50mm以下であることがさらに好ましい。
【0052】
また、本発明の布帛の保水率は、500%以下であることが好ましい。布帛の保水率を500%以下とすることで、湿潤状態の布帛の重量が重くなることによる、その布帛を用いた作業性の悪化を抑制することができる。上記の観点から、450%以下であることがより好ましく、400%以下であることがさらに好ましい。
【0053】
本発明の布帛は、湿潤状態において乾燥状態と同様の使用感が求められる用途に好適である。具体的には、医療現場における手術手袋が挙げられる。現行の医療用ラテックス製手袋は、手術時に血液や薬液などによって濡れると非常に滑りやすくなり、臓器等を扱う場面においては使いづらいものである。ラテックス製手袋の外側の一部または全部を本発明の布帛で覆えば、上記のような課題は解決される。また雨天時や発汗時での使用が想定されるゴルフ用手袋、野球用グローブ、アウトドアグローブといった各種手袋、また、カーシート、椅子やソファーのインテリア表皮材、介護シーツ、サポーターなどにおいても、その外表面の一部または全部を本発明の布帛で覆うことで、上記と同様の効果が得られる。さらに、本発明の布帛は、第一の面と第二の面とで、静摩擦係数に適度な差があるため、上記のとおりその特徴が望まれる手袋などに好適にもちいるこがができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、実施例中の性能は次の方法で測定した。
【0055】
[測定方法]
(1)ポリマーの溶融粘度
チップ状のポリマーを真空乾燥機によって、水分率200ppm以下とし、東洋精機製キャピログラフ1Bによって、歪速度を段階的に変更して、溶融粘度を測定した。本測定方法において、キャピラリーは直径1.0mm×長さ10mmのものを使用した。また、ロードセル荷重は1tに設定し、測定温度は測定対象のポリマーを用いた紡糸における紡糸温度と同じ温度に設定し、せん断速度は1216s−1に設定し溶融粘度を測定した。なお、加熱炉にポリマーのサンプルの投入を開始してから測定の開始までの時間を5分とし、窒素雰囲気下で測定を行った。
【0056】
(2)フィラメント糸の単繊維径
布帛の表面を日本電子製の金属蒸着装置(商品名:JEC−3000FCオートファインコーター)を用いて金属蒸着し、その試料を日立製の超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡(商品名:SU8010)に装着し、5ヶ所写真撮影した。この画像から無作為に選定した50本のフィラメント糸から単繊維径を測定しその平均値を求めた。
【0057】
(3)布帛の目付
JIS L 1096(2010)(8.4.2)に規定された方法により、布帛の単位面(1m)積当たりの質量を求めた。
【0058】
(4)布帛の厚み
JIS L 1096(2010)(8.5.1)に規定された方法により、厚さ測定器(TECLOCK製)を用いて布帛の厚さを求めた。
【0059】
(5)布帛の片面におけるフィラメント糸Aの露出面積および全繊維の露出面積
光学電子顕微鏡(キーエンス社製、VHX−2000)を用いて、100倍の倍率(低倍率レンズ VH−25)、カメラ設定における照明ランプのスライドで明るさを256段階の最大の設定とし、布帛の一方の面を撮影した。ここで、撮影は、布帛の一方の面から撮影部位を無作為に選定し行った。ここで布帛の端部の少なくとも一部が撮影画像に含まれないようにした。次に、得られた撮影画像に画像処理分析を施すことで、布帛の一方の面における全繊維の露出面積(以下、総面積Iとする)および、布帛の一方の面におけるフィラメント糸A以外の繊維の露出面積(以下、総面積IIとする)を算出し、総面積Iから総面積IIを減ずることで布帛の一方の面におけるフィラメント糸Aの露出面積(以下、総面積IIIとする)を得た。ここで、総面積IIは、光学顕微鏡(キーエンス社製、VHX−2000)に搭載された自動面積計測を用い、抽出方法を「輝度」、抽出パラメーターを「明るい」、しきい値を「25」、ノイズ除去を「弱」に設定し、上記の設定で検出された領域の総和を算出することで得た。次に、総面積IIは、光学顕微鏡(キーエンス社製、VHX−2000)に搭載された自動面積計測を用い、抽出方法を「輝度」、抽出パラメーターを「明るい」、しきい値を「73」、ノイズ除去を「弱」に設定し、上記の設定で検出された領域の総和を算出することで得た。
【0060】
例えば、フィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を布帛の第一の面に露出している全繊維の布帛の第一の面における露出面積で除した値は、布帛の第一の面における総面積IIIを布帛の第一の面における総面積Iで除することで得られる。
【0061】
(6)静摩擦係数
JIS P 8147 8.傾斜法(2010)に規定された方法を基に、被接触物をシリコンプレート(ビューラックス社製バイオスキンプレート#2)として布帛の静摩擦係数を求めた。具体的には、傾斜板を持つ滑り傾斜角測定装置を使用して測定した。傾斜板の傾斜角をゼロに合わせ、被接触物となるシリコンプレートを固定し、布帛を貼り付けた平面圧子をシリコンプレートが布帛と接触するように置き、傾斜板の傾斜角度を上げていき、平面圧子が布帛と一体となってすべり出したときの傾斜角θを測定した。得られた傾斜角θから下式により静摩擦係数μを算出した。
μ=tanθ 。
【0062】
なお、荷重は、29g/cmとなるように調整した。ここでこの29g/cmの荷重は、被接触物を把持するというグリップ性評価を想定した圧力である。)また、伸縮性のある布帛によっては、布帛とシリコンプレートとの間の摩擦力よりも布帛と平面圧子との間の摩擦力の方が小さい場合、布帛の伸びによって平面圧子が伸長分すべることがある。この時点ではすべり出したとは判断せず、上述のとおり平面圧子と布帛が一体となってすべり出したときの傾斜角を測定した。無作為に特定した試験片の一つの方向について、布帛の静摩擦係数の測定を5回行い、その平均値を布帛の静摩擦係数として求めた。なお、本発明でいう布帛の乾燥状態とは、試験片を測定前に標準状態である20±2℃、65±2%RH雰囲気下で24時間以上静置しておくことで達成される。また、布帛の湿潤状態とは、布帛全体を含浸させるのに十分量の水が貯留された水槽に乾燥状態の布帛を含浸させ、含浸開始から30秒後に上記の水槽から布帛を引き上げることで達成される。
【0063】
(7)布帛の保水率
JIS L 1906(2000)に準じた方法により測定した。布帛から10cm×10cmの布帛の試験片を3枚採取し、その布帛の試験片の標準状態での質量をミリグラム単位まで測定した。室温で試験片を水道水中に15分間浸漬し、ピンセットで試験片を水中から取り出して1分間水をしたたり落とした後、その質量をミリグラム単位まで測定した。次の式によって保水率を算出し、さらにその平均値を求めた。
m=(m−m)/m×100
ここに、m:保水率(%)
:試験片の標準状態での質量(mg)
:試験片を湿潤し、水をしたたり落としたあとの質量(mg)
なお、標準状態とは、布帛の試験片を20±2℃、65±2%RH雰囲気下で24時間以上静置した後の状態をさす。
【0064】
(8)ピリング性
JIS L 1076(2010)に規定された方法により、布帛のピリング性を測定した。
【0065】
(9)工程通過性
液流染色機を用いたアルカリ減量加工およびピンテンター機を用いた仕上がりセット加工における布帛の工程通過性に関し、下記の基準により評価した。
A: 染色機管内への布帛の吸着による染色機管の布帛詰まり、ピンテンター機のガイドロールへの布帛の巻きつきによる布帛の破れ、布帛の蛇行およびピン外れのいずれも発生しない。
B: 染色機管内への布帛の吸着による染色機管の布帛詰まり、ピンテンター機のガイドロールへの布帛の巻きつきによる布帛の破れ、布帛の蛇行およびピン外れのいずれか1つ以上が発生する。
【0066】
(10)布帛の引張強力
JIS L 1096 8.14(2010)に規定された方法により、乾燥状態における布帛のタテ方向およびヨコ方向の引張強力(N/50mm)および湿潤状態における布帛のタテ方向およびヨコ方向の引張強力(N/50mm)を測定した。乾燥状態の引張強力として、長さ30cm×幅5cmの布帛(タテ方向、ヨコ方向)を引張試験機につかみ間隔100mmで取付け、150mm/minの速度で布帛が切断するまで荷重を加え、最大荷重時の強さを測定した。ここで乾燥状態とは、試験片を測定前に標準状態である20±2℃、65±2%RH雰囲気下で24時間以上静置しておくことで達成される。また湿潤状態の引張強力として、上記乾燥状態の長さ30cm×幅5cmの布帛(タテ方向、ヨコ方向)を20℃の水中に1時間浸漬し、取り出してから速やかに引張試験機に取り付け、乾燥状態と同様に測定した。測定は3回行い、その平均値を求めた。
【0067】
(11)布帛の湿潤時の30%伸長時の引張応力
長さ30cm×幅5cmの布帛の試験片を20℃の水中に1時間浸漬し、取り出してから速やかに、引張試験機につかみ間隔100mmで取付け、150mm/minの速度で30%伸長時の応力値(N/50mm)を求めた。測定は3回行い、その平均値を求めた。
【0068】
(12)手袋の着脱テスト
得られた布帛を用いて、第一の面を外側(物体把持側)、第二の面を内側(手袋の着用者の手側)となるように手袋を得て、使用したときの手袋の着脱テストに関し、下記の基準により評価した。
A:乾燥状態および湿潤状態において、手袋は着脱しやすいものである。
B:乾燥状態または湿潤状態において、手袋は着脱しにくいものである。
【0069】
(13)手袋の把持性テスト(I)
得られた布帛を用いて、第一の面を外側(物体把持側)、第二の面を内側(手袋の着用者の手側)となるように手袋を得て、使用したときの手袋の把持性テストに関し、下記の基準により評価した。
A:湿潤状態において、把持性に優れているものである。
B:湿潤状態において、把持性に劣るものである。
【0070】
(14)手袋の把持性テスト(II)
得られた布帛を用いて、第一の面を外側(物体把持側)、第二の面を内側(手袋の着用者の手側)となるように手袋を得て、手術時の使用を想定した把持性テストを評価した。具体的には、ラテックス製手袋を着用し、その上から本発明の布帛より得られた手袋を着用し、グリセリン33%に調製した溶液(脂質を含む溶液)で表面を湿らせた市販のこんにゃくを掴んで把持性を評価するテストを実施し、10人の被験者に対して下記の基準により手袋の把持性を評価した。そして、各人の評価の合計点により総合評価した。
【0071】
<個別評価基準>
3点:グリップ性が非常に優れて、指先の感覚がわかり易く作業しやすい。
2点:グリップ性が良好であり、指先の感覚がわかり易く作業しやすい。
1点:グリップ性に劣る、または、指先の感覚がわかり難く作業しにくい。
【0072】
<合計評価基準>
A(良好):25〜30点
B(可):17〜25点
C(劣る):10〜16点。
【0073】
(15)手袋の表面品位
得られた布帛を用いて、第一の面を外側(物体把持側)、第二の面を内側(手袋の着用者の手側)となるように手袋を得て、手袋の外側の表面を観察し、下記の基準により評価した。
A:手袋の外側の表面にシワもアタリも観察されず、手袋の表面品位に極めて優れる。
B:手袋の外側の表面にシワおよびアタリのいずれか一方しか観察されず、手袋の表面品位に優れる。
C:手袋の外側の表面にシワおよびアタリの両方が観察され、手袋の表面品位に劣る。
【0074】
(実施例1)
島成分としてナイロン6(溶融粘度:190Pa・sec)、海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸8.0モル%共重合したPET(溶融粘度:95Pa・s)を用いて、複合口金が組み込まれた紡糸パックに流入させ、吐出孔から複合ポリマー流を吐出した。なお、吐出プレート直上の分配プレートには、1つの吐出孔当たり島成分用に2000個の分配孔が穿設された分配プレート、15個の吐出孔が穿設された吐出プレートを用いることで、トータル島数30,000個の口金とした。海成分/島成分の質量比を30/70とし、紡糸温度260℃、紡糸速度1500m/minで巻き取り、150dtex−15フィラメント(総吐出量40g/min)の未延伸繊維を採取した。巻き取った未延伸繊維を70℃と130℃に加熱したローラー間で3.0倍延伸を行った。得られた海島複合繊維は、89dtex−15フィラメントで、強度2.9cN/dtex、伸度31%であった。また、フィラメント糸Bとして、総繊度78dtex−24フィラメントのナイロン6、引張強度4.1cN/dtex、伸度42%のマルチフィラメントを用いた。
【0075】
上記得られた海島複合繊維とフィラメント糸Bを交編率52:48の割合で交編させて、28ゲージ、釜径838.2mm(33インチ)のダブル丸編機にて、編組織をダブルピケとし、アルカリ減量処理後のフィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値が0.8、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値が0.2となるよう編成して丸編地を得た。
【0076】
この丸編地に対して、液流染色機を用いてアルカリ減量処理を行った。具体的には以下のとおりである。
丸編地を丸編地の第一の面が筒編状の内側、第二の面が染色機管内に接触する側として、液流染色機中に投入した。
丸編地に対して、95℃の1%水酸化ナトリウム水溶液で30分処理して、脱海し、海島複合繊維中のポリ乳酸の99.9%以上を加水分解により除去した。
【0077】
その後、かかる丸編地を乾燥機で100℃、2分乾燥させた。乾燥後、かかる丸編地を筒編状から切開し、仕上がりセットとして乾燥機で丸編地の第二面が送り出しガイドロールに接触するように通して130℃、1分乾燥し、ナイロン6のナノファイバー(フィラメント糸A)と、ナイロン6のマルチフィラメント(フィラメント糸B)から構成される丸編地布帛を得た。得られた丸編地布帛は、第一の面および第二の面ともにコース30個/25.4mm、ウェール25個/25.4mmであった。
【0078】
得られた布帛を評価した。結果を表1に示す。フィラメント糸Aの単繊維径は480nm、フィラメント糸Bの単繊維径は19μmであった。フィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値(第一の値)が0.78、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値(第二の値)が0.22であった。なお、工程通過性はAであった。また、手袋の着脱テストはAであり、手袋の把持性テスト(I)はAであり、手袋の把持性テスト(II)はBであった。手袋の表面品位はAであった。
【0079】
(実施例2)
海/島成分の質量比を50/50に、総吐出量を20g/minに変更した以外は、実施例1と同様にして布帛を得た。
【0080】
得られた布帛を評価した。結果を表1に示す。フィラメント糸Aの単繊維径は290nm、フィラメント糸Bの単繊維径は19μmであった。フィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値(第一の値)が0.78、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値(第二の値)が0.22であった。なお、工程通過性はAであった。また、手袋の着脱テストはAであり、手袋の把持性テスト(I)はAであり、手袋の把持性テスト(II)はAであった。手袋の表面品位はAであった。
【0081】
(実施例3)
海/島成分の質量比を70/30に、総吐出量を10g/minに変更した以外は、実施例1と同様にして布帛を得た。
【0082】
得られた布帛を評価した。結果を表1に示す。フィラメント糸Aの単繊維径は150nm、フィラメント糸Bの単繊維径は19μmであった。フィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値(第一の値)が0.78、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値(第二の値)が0.22であった。なお、工程通過性はAであった。また、手袋の着脱テストはAであり、手袋の把持性テスト(I)はAであり、手袋の把持性テスト(II)はAであった。手袋の表面品位はAであった。
【0083】
(実施例4)
吐出プレート直上の分配プレートにおいて、1つの吐出孔当たり島成分用に500個の分配孔が穿設された分配プレートとしトータル島数7500個/口金に、海/島成分の質量比を20/80に、総吐出量を35g/minに変更した以外は、実施例1と同様にして布帛を得た。
【0084】
得られた布帛を評価した。結果を表1に示す。フィラメント糸Aの単繊維径は960nm、フィラメント糸Bの単繊維径は19μmであった。フィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値(第一の値)が0.78、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値(第二の値)が0.22であった。なお、工程通過性はAであった。また、手袋の着脱テストはAであり、手袋の把持性テスト(I)はAであり、手術時の使用を想定した手袋の把持性テスト(II)はBであった。手袋の表面品位はAであった。
【0085】
(実施例5)
島成分としてポリエチレンテレフタレート(溶融粘度:160Pa・sec)に変更した以外は、実施例1と同様にして布帛を得た。
【0086】
得られた布帛を評価した。結果を表1に示す。フィラメント糸Aの単繊維径は480nm、フィラメント糸Bの単繊維径は19μmであった。フィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値(第一の値)が0.78、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値(第二の値)が0.22であった。なお、工程通過性はAであった。また、手袋の着脱テストはAであり、手袋の把持性テスト(I)はAであり、手袋の把持性テスト(II)はBであった。手袋の表面品位はAであった。
【0087】
(実施例6)
編成において、アルカリ減量処理後のフィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値が0.5、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値が0.2となるよう編成して丸編地を得た以外は、実施例1と同様にして布帛を得た。
【0088】
得られた布帛を評価した。結果を表2に示す。フィラメント糸Aの単繊維径は480nm、フィラメント糸Bの単繊維径は19μmであった。フィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値(第一の値)が0.52、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値(第二の値)が0.21であった。なお、工程通過性はAであった。また、手袋の着脱テストはAであり、手袋の把持性テスト(I)はAであり、手袋の把持性テスト(II)はBであった。手袋の表面品位はAであった。
【0089】
(実施例7)
編成において、アルカリ減量処理後のフィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値が0.9、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値が0.2となるよう編成して丸編地を得た以外は、実施例1と同様にして布帛を得た。
【0090】
得られた布帛を評価した。結果を表2に示す。フィラメント糸Aの単繊維径は480nm、フィラメント糸Bの単繊維径は19μmであった。フィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値(第一の値)が0.90、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値(第二の値)が0.20であった。なお、工程通過性はAであった。また、手袋の着脱テストはAであり、手袋の把持性テスト(I)はAであり、手袋の把持性テスト(II)はBであった。手袋の表面品位はBであった。
【0091】
(実施例8)
編成において、アルカリ減量処理後のフィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値が0.8、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値が0.1となるよう編成して丸編地を得た以外は、実施例1と同様にして布帛を得た。
【0092】
得られた布帛を評価した。結果を表2に示す。フィラメント糸Aの単繊維径は480nm、フィラメント糸Bの単繊維径は19μmであった。フィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値(第一の値)が0.80、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値(第二の値)が0.10であった。なお、工程通過性はAであった。また、手袋の着脱テストはAであり、手袋の把持性テスト(I)はAであり、手袋の把持性テスト(II)はBであった。手袋の表面品位はAであった。
【0093】
(実施例9)
編成において、アルカリ減量処理後のフィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値が0.8、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値が0.4となるよう編成して丸編地を得た以外は、実施例1と同様にして布帛を得た。
【0094】
得られた布帛を評価した。結果を表2に示す。フィラメント糸Aの単繊維径は480nm、フィラメント糸Bの単繊維径は19μmであった。フィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値(第一の値)が0.80、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値(第二の値)が0.40であった。なお、工程通過性は○であった。また、手袋の着脱テストはAであり、手袋の把持性テスト(I)はAであり、手袋の把持性テスト(II)はBであった。手袋の表面品位はAであった。
【0095】
(実施例10)
総繊度33dtex−26フィラメントのナイロン6マルチフィラメントをフィラメント糸Bとして用いた以外は、実施例1と同様にして布帛を得た。
【0096】
得られた布帛を評価した。結果を表2に示す。フィラメント糸Aの単繊維径は480nm、フィラメント糸Bの単繊維径は12μmであった。フィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値(第一の値)が0.78、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値(第二の値)が0.22であった。なお、工程通過性はAであった。また、手袋の着脱テストはAであり、手袋の把持性テスト(I)はAであり、手袋の把持性テスト(II)はBであった。手袋の表面品位はAであった。
【0097】
(実施例11)
編成において、アルカリ減量処理後のフィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値が0.7、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値が0.3となるよう編成して丸編地を得た以外は、実施例2と同様にして布帛を得た。
【0098】
得られた布帛を評価した。結果を表3に示す。フィラメント糸Aの単繊維径は290nm、フィラメント糸Bの単繊維径は19μmであった。フィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値(第一の値)が0.70、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値(第二の値)が0.30であった。なお、工程通過性はAであった。また、手袋の着脱テストはAであり、手袋の把持性テスト(I)はAであり、手袋の把持性テスト(II)はAであった。手袋の表面品位はAであった。
【0099】
(実施例12)
編成において、アルカリ減量処理後のフィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値(第一の値)が0.5、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値(第二の値)が0.5となるよう編成して丸編地を得た以外は、実施例2と同様にして布帛を得た。
【0100】
得られた布帛を評価した。結果を表3に示す。フィラメント糸Aの単繊維径は290nm、フィラメント糸Bの単繊維径は19μmであった。フィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値(第一の値)が0.50、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値(第二の値)が0.50あった。なお、工程通過性はBであった。また、手袋の着脱テストはBであり、手袋の把持性テスト(I)はAであり、手袋の把持性テスト(II)はAであった。手袋の表面品位はAであった。
【0101】
(実施例13)
島成分としてポリエチレンテレフタレート(溶融粘度:160Pa・sec)に変更した以外は、実施例2と同様にして布帛を得た。
【0102】
得られた布帛を評価した。結果を表3に示す。フィラメント糸Aの単繊維径は290nm、フィラメント糸Bの単繊維径は19μmであった。フィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値(第一の値)が0.80、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値(第二の値)が0.20であった。なお、工程通過性はAであった。また、手袋の着脱テストはAであり、手袋の把持性テスト(I)はAであり、手袋の把持性テスト(II)はBであった。手袋の表面品位はAであった。
【0103】
(実施例14)
フィラメント糸Aおよびフィラメント糸Bをそれぞれ3本合糸にして編成したこと以外は、実施例2と同様にして布帛を得た。
【0104】
得られた布帛を評価した。結果を表3に示す。フィラメント糸Aの単繊維径は290nm、フィラメント糸Bの単繊維径は19μmであった。フィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値(第一の値)が0.80、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値(第二の値)が0.20であった。なお、工程通過性はAであった。また、手袋の着脱テストはAであり、手袋の把持性テスト(I)はBであり、手袋の把持性テスト(II)はCであった。手袋の表面品位はAであった。
【0105】
(比較例1)
島成分をポリエチレンテレフタレート(溶融粘度:160Pa・sec)とし、吐出プレート直上の分配プレートにおいて1つの吐出孔当たり島成分用に1000個の分配孔が穿設された分配プレートとしトータル島数15000個/口金とし、編成において、アルカリ減量処理後のフィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値が1.0、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値が1.0となるよう編成して丸編地を得た以外は、実施例1と同様にして布帛を得た。
【0106】
得られた布帛を評価した。結果を表4に示す。フィラメント糸Aの単繊維径は680nm、フィラメント糸Bの単繊維径は31μmであった。フィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値(第一の値)が1.00、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値(第二の値)が1.00であった。なお、工程通過性はアルカリ減量釜内への布帛の吸着が起き、Bであった。
【0107】
また、手袋の着脱テストはBであり、手袋の把持性テスト(I)はAであり、手袋の把持性テスト(II)はBであった。手袋の表面品位はCであった。
【0108】
(比較例2)
編成において、アルカリ減量処理後のフィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値が0.4、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値が0.2となるよう編成して丸編地を得た以外は、実施例1と同様にして布帛を得た。
【0109】
得られた布帛を評価した。結果を表4に示す。フィラメント糸Aの単繊維径は480nm、フィラメント糸Bの単繊維径は19μmであった。フィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値(第一の値)が0.40、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値(第二の値)が0.20であった。なお、工程通過性はAであった。
【0110】
また、手袋の着脱テストはAであり、手袋の把持性テスト(I)はBであり、手袋の把持性テストはC(II)であった。手袋の表面品位はAであった。
【0111】
(実施例15)
編成において、アルカリ減量処理後のフィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値が0.8、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値が0.5となるよう編成して丸編地を得た以外は、実施例1と同様にして布帛を得た。
【0112】
得られた布帛を評価した。結果を表4に示す。フィラメント糸Aの単繊維径は480nm、フィラメント糸Bの単繊維径は19μmであった。フィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値(第一の値)が0.80、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値(第二の値)が0.50であった。なお、工程通過性はアルカリ減量釜内への布帛の吸着が起き、Bであった。
【0113】
また、手袋の着脱テストはBであり、手袋の把持性テスト(I)はAであり、手袋の把持性テスト(II)はBであった。手袋の表面品位はAであった。
【0114】
(比較例3)
島成分としてポリエチレンテレフタレート(PET、溶融粘度:160Pa・sec)、海成分として5−スルホイソフタル酸ナトリウム5モル%共重合した変性ポリエステルからなり、海/島成分の複合比を20/80とし、トータル66dtex−9フィラメント、島成分本数が70本、海成分溶出後の島単糸繊度0.08dtexの海島複合繊維を得た以外は、実施例1と同様にして布帛を得た。
【0115】
得られた布帛を評価した。結果を表4に示す。海島複合繊維より得られたフィラメント糸の単繊維径は2000nm、フィラメント糸Bの単繊維径は19μmであった。フィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値(第一の値)が0、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値(第二の値)が0であった。なお、工程通過性はAであった。
【0116】
また、手袋の着脱テストはAであり、手袋の把持性テスト(I)はBであり、手袋の把持性テスト(II)はCであった。手袋の表面品位はAであった。
【0117】
(比較例4)
吐出プレート直上の分配プレートにおいて、1つの吐出孔当たり島成分用に500個の分配孔が穿設された分配プレートとしトータル島数7500個/口金に、海/島成分の複合比を10/90に、総吐出量を40g/minに変更し、フィラメント糸Bを用いずに、フィラメント糸Aのみで布帛を構成した以外は、実施例1と同様にして布帛を得た。
【0118】
得られた布帛を評価した。結果を表4に示す。フィラメント糸Aの単繊維径は1000nm、フィラメント糸Aの布帛の第一の面における露出面積を、第一の面に露出している全繊維の第一の面における露出面積で除した値(第一の値)が1.00、フィラメント糸Aの布帛の第二の面における露出面積を、第二の面に露出している全繊維の第二の面における露出面積で除した値(第二の値)が1.00であった。なお、工程通過性はアルカリ減量釜内への布帛の吸着が起き、Bであった。
【0119】
また、手袋の着脱テストは、乾燥状態および湿潤状態においてグリップ性に優れていたが、その手袋は着脱しにくいものであり、Bであり、手袋の把持性テスト(I)はAであり、手袋の把持性テスト(II)はBであった。手袋の表面品位はCであった。
【0120】
【表1】
【0121】
【表2】
【0122】
【表3】
【0123】
【表4】