特許第6809253号(P6809253)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809253
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02D 23/00 20060101AFI20201221BHJP
   F02D 13/04 20060101ALI20201221BHJP
   F02D 9/06 20060101ALI20201221BHJP
   F01L 13/06 20060101ALI20201221BHJP
   F02B 37/24 20060101ALI20201221BHJP
   F02B 37/12 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   F02D23/00 P
   F02D13/04 A
   F02D9/06 C
   F02D9/06 H
   F01L13/06 Z
   F02D23/00 J
   F02D23/00 K
   F02B37/24
   F02B37/12 302C
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-11484(P2017-11484)
(22)【出願日】2017年1月25日
(65)【公開番号】特開2018-119472(P2018-119472A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2019年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100163061
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】新田 淳一郎
【審査官】 菅野 京一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平7−77075(JP,A)
【文献】 特開2013−217231(JP,A)
【文献】 特開2000−274264(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0144097(US,A1)
【文献】 実開昭60−36507(JP,U)
【文献】 中国特許出願公開第106285966(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 23/00
F02B 37/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路に介設されたタービンの上流に可動ベーンを有するターボチャージャーと、気筒から前記排気通路に連通する排気口を開閉する排気弁を有する圧縮解放ブレーキ装置と、制御装置とを備えたエンジンにおいて、
前記タービンの下流側の前記排気通路に排気スロットルを設けるとともに、
前記エンジンの回転数を測定する回転数センサと、該エンジンの過給圧を測定する第1圧力センサ又は前記排ガスの圧力を測定する第2圧力センサとを設置し、
前記第1圧力センサを設置した場合に、前記制御装置は、前記圧縮解放ブレーキ装置の作動要求があったときは、該第1圧力センサの測定値が、エンジン回転数と最大過給圧と最大筒内圧との関係を示す予め設定された第1マップデータに基づき決定される目標過給圧になるように、
又は、前記第2圧力センサを設置した場合に、前記制御装置は、前記圧縮解放ブレーキ装置の作動要求があったときは、該第2圧力センサの測定値が、エンジン回転数と最大排気圧と最大筒内圧との関係を示す第2マップデータに基づき決定される目標排気圧になるように、
前記回転数センサの測定値が低中速域にある場合は、前記可動ベーンの開度のみを制御する一方で、該回転数センサの測定値が中高速域にある場合は、該可動ベーンの開度及び前記排気スロットルの開度を制御するように構成されていることを特徴とするエンジン。
【請求項2】
前記制御装置が、前記回転数センサの測定値が中高速域にある場合に、前記可動ベーンの開度及び排気スロットルの開度を制御するときは、
前記制御装置は、前記排気スロットルの開度を、エンジン回転数から予め定まる目標開度に設定した後に、前記可動ベーンの開度を制御するように構成されている請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記制御装置が、前記回転数センサの測定値が中高速域にある場合に、前記可動ベーンの開度及び排気スロットルの開度を制御するときは、
前記制御装置は、前記可動ベーンの開度を全開に設定した後に、前記排気スロットルの開度を制御するように構成されている請求項1に記載のエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンに関し、更に詳しくは、圧縮解放機構及びエンジン冷却系への負担を回避しつつ、圧縮解放ブレーキの制動力を向上したエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ターボチャージャーやスーパーチャージャーなどの過給器を採用することにより、ベースとなるエンジンと同等の動力性能を確保しつつ、エンジンを小排気量化して燃費の改善を図るダウンサイジングが注目されている。しかし、ダウンサイジングには、排気量を削減しているため、エンジンブレーキの能力が低下してしまうという欠点がある。
【0003】
このエンジンブレーキの能力低下の補完手段として、補助ブレーキである圧縮解放ブレーキを用いることが考えられる。圧縮解放ブレーキは、圧縮行程中の上死点付近で排気弁を開いてシリンダ内の高圧空気を排出すると共に、シリンダ内の圧力が低い状態で膨張行程を行わせる事で、吸収トルクを発生させて制動力を得るものである。この圧縮解放ブレーキの制動力は、過給圧の増加により圧縮行程における筒内圧力を高めて、膨張行程中の吸収仕事量を増やすことにより向上することが可能である。
【0004】
しかし、過給圧の増加は、圧縮解放時の筒内圧の最大値(以下、「最大筒内圧」という。)の増加をもたらすので、動弁装置等からなる圧縮解放機構の強度の観点からは限界がある。そのため、圧縮解放ブレーキの作動時には、過給圧を十分なレベルまで低下させて、最大筒内圧を上限値未満にすることが必要である。なお、ここでいう最大筒内圧とは、排気弁の開放直前における筒内圧に相当するものである。
【0005】
一方で、排ガス規制強化と燃費改善の市場要求に対して、エンジンには高過給システムの採用が必須となっている。一般的な排気ターボ型の高過給システムは、高膨張比特性を有しているため、圧縮解放ブレーキの作動時に、特に高エンジン回転数域において過給圧を十分なレベルまで低下させることが困難となり、最大筒内圧の上昇を招いてしまう。
【0006】
このような問題を解決するために、圧縮解放ブレーキの作動時にEGR弁を開くことで、排ガスを吸気側に還流して過給圧を低下させることが行われている(例えば、特許文献1を参照)。しかしながら、EGR弁を開くとエンジンの排気圧力が低下してしまうため、ポンピングロスが減少して吸収仕事量が低下してしまうことになる。また、高温の排ガスがEGRクーラーを通過するため、エンジンの冷却系の負担が大きくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2004−527686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、圧縮解放機構及びエンジン冷却系への負担を回避しつつ、圧縮解放ブレーキの制動力を向上することができるエンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成する本発明のエンジンは、排気通路に介設されたタービンの上流に可動ベーンを有するターボチャージャーと、気筒から前記排気通路に連通する排気口を開閉する排気弁を有する圧縮解放ブレーキ装置と、制御装置とを備えたエンジンにおいて、前
記タービンの下流側の前記排気通路に排気スロットルを設けるとともに、前記エンジンの回転数を測定する回転数センサと、該エンジンの過給圧を測定する第1圧力センサ又は前記排ガスの圧力を測定する第2圧力センサとを設置し、前記第1圧力センサを設置した場合に、前記制御装置は、前記圧縮解放ブレーキ装置の作動要求があったときは、該第1圧力センサの測定値が、エンジン回転数と最大過給圧と最大筒内圧との関係を示す予め設定された第1マップデータに基づき決定される目標過給圧になるように、又は、前記第2圧力センサを設置した場合に、前記制御装置は、前記圧縮解放ブレーキ装置の作動要求があったときは、該第2圧力センサの測定値が、エンジン回転数と最大排気圧と最大筒内圧との関係を示す第2マップデータに基づき決定される目標排気圧になるように、前記回転数センサの測定値が低中速域にある場合は、前記可動ベーンの開度のみを制御する一方で、該回転数センサの測定値が中高速域にある場合は、該可動ベーンの開度及び前記排気スロットルの開度を制御するように構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のエンジンによれば、圧縮解放ブレーキの作動時に、エンジン回転数が中高速域にあるときは排気スロットルを用いることで、筒内圧の増加を上限値未満に抑制しつつ過給圧を最大にするようにしたので、圧縮解放機構への負担を回避しつつ、圧縮解放ブレーキの制動力を向上することができる。また、EGR弁を開放する必要がないので、エンジン冷却系への負担を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施形態からなるエンジンの構成図である。
図2】本発明の第2の実施形態からなるエンジンの構成図である。
図3】本発明のエンジン及び従来のエンジンにおける過給圧を比較したグラフである。
図4】本発明のエンジン及び従来のエンジンにおける最大筒内圧を比較したグラフである。
図5】本発明のエンジン及び従来のエンジンにおける冷却水吸収熱量を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1の実施形態からなるエンジンを示す。なお、図中における矢印は、流体の流れる方向を示している。
【0013】
このエンジン1Aは、車両に搭載されたディーゼルエンジンである。エンジン1Aにおいては、吸気通路2へ吸入された空気Aは、吸入空気3となって図示しないエアクリーナーを通過してから高過給の可変容量型ターボチャージャー4(VGSターボチャージャー)のコンプレッサー5により圧縮され、インタークーラー6で冷却された後にインテークマニホールド7を経てエンジン本体8に供給される。
【0014】
エンジン本体8に供給された吸入空気3は、クランクシャフト9に連結するピストン10とシリンダ11とからなる気筒12内で噴射燃料と混合・燃焼して熱エネルギーを発生させた後に、排気弁13が設置された排気口14を通じてエキゾーストマニホールド15から排ガス16となって排気通路17へ排気される。その排ガス16の一部は、排気通路17から分岐してインタークーラー6の上流側或いは下流側何れかで吸気通路2に接続するEGR通路18にEGRガス19となって分流する。EGR通路18には、EGRガス19を冷却する水冷式のEGRクーラー20と、EGRガス19の流量を調整するEGR弁21とが、排気通路17側から順に配置されている。
【0015】
一方で、EGR通路18に分流しなかった排ガス16は、VGSターボチャージャー4
のタービン22の手前に設置された可動ベーン23を通過してタービン22を回転駆動させた後に、図示しない排ガス処理装置を経て排出ガスGとして大気中へ放出される。このVGSターボチャージャー4の可動ベーン23の開度は、エンジン1Aの運転状態に応じて、ECUなどの制御装置24により制御される。
【0016】
エンジン本体8は、冷却水25が循環するエンジン冷却回路26により冷却される。この冷却水25の一部は、水冷式のEGRクーラー20におけるEGRガス19の冷却に用いられる。
【0017】
また、エンジン1Aには、圧縮解放ブレーキ装置27が装備されている。制御装置24は、ドライバーによる圧縮解放ブレーキ装置27の作動要求があったときは、動弁装置(図示せず)を通じて、ピストン10が圧縮行程の上死点付近に達したときに排気弁13を開放する制御を行う。
【0018】
そして、VGSターボチャージャー4のタービン22の直後の排気通路17には、排ガス16の流量を調整可能な排気スロットル28が設けられている。また、エンジン1Aのエンジン回転数を測定する回転数センサ29が、クランクシャフト9に取り付けられている。更に、インテークマニホールド7には、エンジン1Aの過給圧を測定する第1圧力センサ30が設置されている。これらの排気スロットル28、回転数センサ29及び第1圧力センサ30は、信号線(一点鎖線で示す)を通じて制御装置24に接続している。
【0019】
このようなエンジン1Aにおける制御装置24の機能を以下に説明する。
【0020】
制御装置24は、ドライバーによる圧縮解放ブレーキ装置27の作動要求の有無を判定し、作動要求があったときは、回転数センサ29の測定値R及び第1圧力センサ30の測定値Kをそれぞれ入力する。
【0021】
次に、制御装置24は、測定値Rが低中速域又は中高速域のいずれかに属するかを判定する。ここで、低中速域及び中高速域とは、エンジン回転数が定格回転速度に対して、それぞれ30〜70%及び70〜100%の大きさとなる領域を指す。
【0022】
そして、制御装置24は、測定値Rが低中速域にある場合は、第1圧力センサ30の測定値Kが、エンジン回転数と最大過給圧と最大筒内圧との関係を示す予め設定された第1マップデータに基づき決定される目標過給圧になるように、VGSターボチャージャー4の可動ベーン23の開度のみを制御する。このとき、可動ベーン23の開度と測定値Kとは、負の相関関係になる。
【0023】
その一方で、制御装置24は、測定値Rが中高速域にある場合は、測定値Kが第1マップデータに基づき決定される目標過給圧になるように、可動ベーン23の開度及び排気スロットル28の開度を制御する。その制御内容は、特に限定するものではないが、以下に示す2つの手法が例示される。
(a)排気スロットル28の開度を、エンジン回転数から予め定まる目標開度に設定した後に、可動ベーン23の開度を徐々に大きくする。
(b)可動ベーン23の開度を全開にした後に、排気スロットル30の開度を徐々に小さくする。
【0024】
なお、目標過給圧とは、最大筒内圧が圧縮解放機構に影響を及ぼすおそれのある上限値未満となる範囲における過給圧の最大値であり、測定値Rと第1マップデータとから決定される。
【0025】
図2は、本発明の第2の実施形態からなるエンジンを示す。なお、図1と同じ箇所には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0026】
このエンジン1Bでは、第1圧力センサ30の代わりに、排ガス16の圧力(排気圧)を測定する第2圧力センサ31がエキゾーストマニホールド15に設置されている。
【0027】
このエンジン1Bにおける制御装置24の機能を以下に説明する。
【0028】
制御装置24は、ドライバーによる圧縮解放ブレーキ装置27の作動要求の有無を判定し、作動要求があったときは、回転数センサ29の測定値R及び第2圧力センサ31の測定値Hをそれぞれ入力する。
【0029】
そして、制御装置24は、測定値Rが低中速域にある場合は、第2圧力センサ31の測定値Hが、エンジン回転数と最大排気圧と最大筒内圧との関係を示す予め設定された第2マップデータに基づき決定される目標排気圧になるように、VGSターボチャージャー4の可動ベーン23の開度のみを制御する。このとき、可動ベーン23の開度と測定値Hとは、負の相関関係となる。
【0030】
その一方で、制御装置24は、測定値Rが中高速域にある場合は、測定値Hが第2マップデータに基づき決定される目標排気圧になるように、可動ベーン23の開度及び排気スロットル28の開度を制御する。この制御内容については、エンジン1Aの場合と同じく2つの手法が例示される。
【0031】
このように測定値H(排気圧)を低下させることで、エンジン1Bの過給圧が低下する。
【0032】
なお、目標排気圧とは、最大筒内圧が圧縮解放機構に影響を及ぼすおそれのある上限値未満となる範囲における排気圧の最大値であり、測定値Rと第2マップデータとから決定される。
【0033】
以上のように、圧縮解放ブレーキの作動時に、特に過給圧を十分なレベルまで低下させることが困難となるエンジン回転数の中高速域において、排気スロットル28を用いてタービン22の出口圧を調整することで、筒内圧の増加を上限値未満に抑制しつつ過給圧を最大にするようにしたので、圧縮解放機構への負担を回避しつつ、圧縮解放ブレーキの制動力を向上することができるのである。また、EGR弁21を開放する必要がないので、エンジン冷却回路26への負担を回避することができる。
【実施例】
【0034】
本発明のエンジン1A(実施例)と、EGR弁の開度を制御する従来のエンジン(従来例)とにおいて、特定のエンジン回転数で圧縮解放ブレーキを作動した場合の、過給圧を比較した結果を図3に、最大筒内圧を比較した結果を図4に、冷却水25の吸収熱量を比較した結果を図5に、それぞれ示す。
【0035】
これらの結果から、実施例のエンジン1Aは、特にエンジン回転数が中高速域にあるときは、従来例のエンジンよりも過給圧を十分なレベルまで低下させて、最大筒内圧の増加を抑制できるとともに、冷却水25の吸収熱量が低下することが分かる。
【符号の説明】
【0036】
1A、1B エンジン
4 VGSターボチャージャー
8 エンジン本体
10 ピストン
12 気筒
13 排気弁
14 排気口
16 排ガス
17 排気通路
21 EGR弁
22 タービン
23 可動ベーン
24 制御装置
25 冷却水
27 圧縮解放ブレーキ装置
28 排気スロットル
29 回転数センサ
30 第1圧力センサ
31 第2圧力センサ
図1
図2
図3
図4
図5