(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
[基本構成]
本発明の実施の形態におけるトルク制御機構100は、
図1(a)〜(c)に示すように、回転体10、ケース12、保持部14(第1保持部14a,第2保持部14b)、弾性体保持部16(第1弾性体保持部16a,第2弾性体保持部16b)、弾性体18(第1弾性体18a,第2弾性体18b)を含んで構成される。トルク制御機構100は、回転体10の回転に伴って回転体10にトルクを与える機構である。
【0017】
図1(a)は、トルク制御機構100の断面側面図を示す。
図1(b)は、トルク制御機構100をA方向からみた正面図を示す。
図1(c)は、トルク制御機構100をB方向からみた背面図を示す。なお、図面が煩雑になるのを防ぐため、
図1(b)では第2弾性体18bを省略し、
図1(c)では第1弾性体18aを省略して図示している。
【0018】
回転体10は、回転軸Mを回転中心として回転する回転体である。回転体10は、
図1(a)に示すように、回転軸Mからはずれた軸を結ぶクランク部10aと当該軸と180°ずれた軸を結ぶクランク部10bとを有するクランク構造を備えている。回転体10は、機械的な強度を有する金属等で形成することができる。
【0019】
ケース12は、回転軸Mを中心とし、回転体10、保持部14、弾性体保持部16及び弾性体18を内部に収納する円筒状の部材である。ケース12は、機械的な強度を有する金属等で形成することができる。
【0020】
弾性体保持部16は、第1弾性体保持部16a及び第2弾性体保持部16bを含んで構成され、弾性体18の一端が固定される部材である。第1弾性体保持部16a及び第2弾性体保持部16bは、回転軸Mを中心とし、ケース12の内径よりも小さな外径を有する円筒状の部材とすることができる。第1弾性体保持部16aの内面には第1弾性体18aの一端が固定される。第2弾性体保持部16bの内面には第2弾性体18bの一端が固定される。第1弾性体保持部16aと第2弾性体保持部16bは、回転軸Mに沿って並べて配置される。第1弾性体保持部16a及び第2弾性体保持部16bは、機械的な強度を有する金属等で形成することができる。
【0021】
保持部14は、第1保持部14a及び第2保持部14bを含んで構成される。第1保持部14aは、第1弾性体保持部16aをケース12に対して回転しないように保持する部材である。第2保持部14bは、第2弾性体保持部16bをケース12に対して回転しないように保持する部材である。ただし、第1保持部14aと第2保持部14bは、第1弾性体保持部16aと第2弾性体保持部16bとが回転軸Mを中心として相対的に回転可能なようにケース12に保持する手段とする。例えば、第1保持部14aは第1弾性体保持部16aをケース12に完全に固定する接着剤等とし、第2保持部14bは第2弾性体保持部16bをケース12に対して相対的に回転可能かつ固定可能なラッチ機構等とすればよい。
【0022】
弾性体18は、第1弾性体18a及び第2弾性体18bを含んで構成される。第1弾性体18a及び第2弾性体18bは、弾性力を発生させる部材であり、特に限定されるものではないが、例えばスプリング、ゴム等とすることができる。第1弾性体18aの一端は第1弾性体保持部16aの内面に固定され、他端は回転体10のクランク部10aに固定される。第2弾性体18bの一端は第2弾性体保持部16bの内面に固定され、他端は回転体10のクランク部10bに固定される。
【0023】
本実施の形態では、第1弾性体18aと第2弾性体18bは同じ弾性特性を有するものとする。ただし、これに限定されるものではなく、トルク制御機構100によって回転体10に与えようとするトルク特性に応じて第1弾性体18a及び第2弾性体18bの弾性特性は適宜設定すればよい。
【0024】
このように、本実施の形態のトルク制御機構100では、第1弾性体保持部16aと第1弾性体18aの組からなる弾性構造、及び、第2弾性体保持部16bと第2弾性体18bの組からなる弾性構造を備える。すなわち、回転体10に対して弾性力を与える2組の弾性構造を備える。
【0025】
トルク制御機構100では、第2保持部14bにより第2弾性体保持部16bをケース12に対して回転可能な状態とし、第2弾性体保持部16bをケース12に対して回転させることができる。第2保持部14bがラッチ機構である場合、ラッチを開放することによって第2弾性体保持部16bがケース12に対して回転可能な状態とすることができる。例えば、
図2(a)〜(c)に示すように、
図1の状態に対して第2弾性体保持部16bを180°回転させた状態にすることができる。
【0026】
図1の状態では、
図3の実線に示すように、第1弾性体18aによって回転体10に弾性力が周期的に与えられる。また、
図3の破線に示すように、第2弾性体18bによって回転体10に弾性力が周期的に与えられる。第1弾性体18aによって回転体10に与えられる弾性力と第2弾性体18bによって回転体10に与えられる弾性力は180°(半周期)だけ位相がずれた状態となる。
【0027】
回転体10が回転した場合、
図4に示すように、第1弾性体18a及び第2弾性体18bのそれぞれから回転体10に対してトルクが与えられる。
図4では、第1弾性体18aによって回転体10に与えられるトルクを細実線で示し、第2弾性体18bによって回転体10に与えられるトルクを細破線で示している。したがって、第1弾性体18aと第2弾性体18bとによって回転体10に与えられる合成トルクは太実線で示されるようになる。
【0028】
これに対して、
図2の状態は、
図5に示すように、第1弾性体18aによって回転体10に与えられる弾性力と第2弾性体18bによって回転体10に与えられる弾性力は位相が揃った状態である。
【0029】
回転体10が回転した場合、
図6に示すように、第1弾性体18a及び第2弾性体18bのそれぞれから回転体10に対してトルクが与えられる。
図4では、第1弾性体18a及び第2弾性体18bによって回転体10に与えられるトルクを細実線で示している。したがって、第1弾性体18aと第2弾性体18bとによって回転体10に与えられる合成トルクは太実線で示されるようになる。
【0030】
このように、本実施の形態におけるトルク制御機構100では、第2弾性体保持部16bと第2弾性体18bとからなる弾性構造から回転体10に与えられるトルクの位相を変化させることで回転体10に与えられる合成トルクを可変とすることができる。
【0031】
すなわち、回転体10の回転に対してトルクが正負に反転するような弾性構造を複数設け、少なくとも1つの弾性構造から回転体10に与えられる位相を可変とすることによって、複雑な方法を用いることなく、回転体10に対するピークトルクやトルク特性を制御することが可能となる。
【0032】
[変形例1]
上記実施の形態では、第1弾性体保持部16aと第1弾性体18aとを含む弾性構造及び第2弾性体保持部16bと第2弾性体18bとを含む弾性構造とを組み合わせた構成としたがこれに限定されるものではない。変形例1におけるトルク制御機構200は、
図7及び
図8に示すように、回転体20、ケース22、保持部24(第1保持部24a,第2保持部24b)、弾性体保持部26(第1弾性体保持部26a,第2弾性体保持部26b)、磁石28(第1磁石28a,第2磁石28b,第3磁石28c)を含んで構成される。なお、
図7は、トルク制御機構200の分解組立図を示す。
図8は、トルク制御機構200の外観斜視図を示す。
【0033】
回転体20は、回転軸Mを回転中心として回転する回転体である。回転体20は、円柱形状のロータ20aとその中心に貫通して固定された軸20bとを備える。ロータ20a及び軸20bは、機械的強度を有する材料、特に磁性体によって構成することが好適である。ロータ20aの外周部には、第1磁石28aが配置される。第1磁石28aは、ロータ20aの径方向に向けて交互に極性が入れ替わるようにロータ20aの周囲に等間隔に配置される。本実施の形態では、4つの第1磁石28aが90°置きに極性が交互に入れ替わるように配置された例を示している。
【0034】
ケース22は、回転軸Mを中心とし、回転体20、保持部24、弾性体保持部26及び磁石28を内部に収納する円筒状の部材である。ケース22は、弾性体保持部26の外径よりも大きな内径を有する略円筒形状の部材とする。ケース22は、機械的な強度を有する金属等で形成することができる。
【0035】
弾性体保持部26は、第1弾性体保持部26a及び第2弾性体保持部26bを含んで構成される。第1弾性体保持部26a及び第2弾性体保持部26bは、第2磁石28b及び第3磁石28cがそれぞれ固定される部材である。第1弾性体保持部26a及び第2弾性体保持部26bは、回転軸Mを中心とし、ケース22の内径よりも小さな外径を有し、ロータ20aの外径より大きい内径を有する円筒状の部材とすることができる。第1弾性体保持部26aと第2弾性体保持部26bは、回転軸Mに沿って並べてケース22内に配置される。第1弾性体保持部26a及び第2弾性体保持部26bは、機械的強度を有する材料、特に磁性体によって構成することが好適である。
【0036】
第1弾性体保持部26aの内周面には第2磁石28bが配置される。第2磁石28bは、第1弾性体保持部26aの径方向に向けて交互に極性が入れ替わるように第1弾性体保持部26aの周囲に等間隔に配置される。本実施の形態では、4つの第2磁石28bが90°置きに極性が交互に入れ替わるように配置された例を示している。第2弾性体保持部26bの内周面には第3磁石28cが配置される。第3磁石28cは、第2弾性体保持部26bの径方向に向けて交互に極性が入れ替わるように第2弾性体保持部26bの周囲に等間隔に配置される。本実施の形態では、4つの第3磁石28cが90°置きに極性が交互に入れ替わるように配置された例を示している。
【0037】
保持部24は、第1保持部24a及び第2保持部24bを含んで構成される。第1保持部24aは、第1弾性体保持部26aをケース22に対して回転しないように保持する部材である。第2保持部24bは、第2弾性体保持部26bをケース22に対して回転しないように保持する部材である。ただし、第1保持部24aと第2保持部24bは、第1弾性体保持部26aと第2弾性体保持部26bとが回転軸Mを中心として相対的に回転可能なようにケース22に保持する手段とする。例えば、第2保持部24bは第2弾性体保持部26bをケース22に完全に固定する接着剤等とし、第1保持部24aは第1弾性体保持部26aをケース22に対して相対的に回転可能かつ固定可能なラッチ機構等とすればよい。
【0038】
本実施の形態では、第2磁石28bと第3磁石28cはそれぞれ同じ磁力を有するものとする。ただし、これに限定されるものではなく、トルク制御機構200によって回転体20に与えようとするトルク特性に応じて第2磁石28bと第3磁石28cの磁力は適宜設定すればよい。
【0039】
このように、本実施の形態のトルク制御機構200では、回転体20の外周に配置された第1磁石28aと第1弾性体保持部26aの内周に配置された第2磁石28bの組からなる弾性構造、及び、回転体20の外周に配置された第1磁石28aと第2弾性体保持部26bの内周に配置された第3磁石28cの組からなる弾性構造を備える。すなわち、回転体20が回転する際に回転体20に対して弾性力を与える2組の弾性構造を備える。
【0040】
トルク制御機構200では、第1保持部24aにより第1弾性体保持部26aをケース22に対して回転可能な状態とし、第1弾性体保持部26aをケース22に対して回転させることができる。第1保持部24aがラッチ機構である場合、ラッチを開放することによって第1弾性体保持部26aがケース22に対して回転可能な状態とすることができる。
【0041】
例えば、
図9(a)及び
図9(b)に示すように、第1弾性体保持部26aに保持された第2磁石28bとロータ20aに保持された第1磁石28aとの位置関係が第2弾性体保持部26bに保持された第3磁石28cとロータ20aに保持された第1磁石28aとの位置関係と逆位相(180°位相差)となるようにすることができる。また、
図10(a)及び
図10(b)に示すように、第1弾性体保持部26aに保持された第2磁石28bとロータ20aに保持された第1磁石28aとの位置関係が第2弾性体保持部26bに保持された第3磁石28cとロータ20aに保持された第1磁石28aとの位置関係と同位相(0位相差)となるようにすることができる。
【0042】
図9の逆位相(180°位相差)の状態では、
図9(c)の細実線に示すように、第1弾性体保持部26aに保持された第2磁石28bとロータ20aに保持された第1磁石28aとの間の磁力によって回転体20にトルクが周期的に与えられる。また、
図9(c)の細破線に示すように、第2弾性体保持部26bに保持された第3磁石28cとロータ20aに保持された第1磁石28aとの間の磁力によって回転体20にトルクが周期的に与えられる。これらのトルクは互いに打ち消し合い、
図9(c)の太実線に示すように、回転体20に与えられるトルクはゼロとなる。
【0043】
これに対して、
図10の同位相(0位相差)の状態では、
図10(c)の細実線に示すように、第1弾性体保持部26aに保持された第2磁石28bとロータ20aに保持された第1磁石28aとの間の磁力によって回転体20にトルクが周期的に与えられる。また、第2弾性体保持部26bに保持された第3磁石28cとロータ20aに保持された第1磁石28aとの間の磁力によって回転体20に与えられるトルクも同位相となる。したがって、
図10(c)の太実線に示すように、回転体20に与えられる合成トルクは第1弾性体保持部26aと第2弾性体保持部26bとから回転体20に与えられるトルクを加算した値となる。
【0044】
このように、本実施の形態におけるトルク制御機構200では、第1弾性体保持部26a及び第2磁石28bからなる弾性構造から回転体20に与えられるトルクの位相を変化させることで回転体20に与えられる合成トルクを可変とすることができる。
【0045】
なお、トルク制御機構200では、位相を180°ずらすことでトルクを完全に打ち消し合うことができる。すなわち、0〜180°の位相範囲におけるトルクをT
0−180とし、180°〜360°の位相範囲におけるトルクをT
180−360とした場合に数式(1)の関係を満たす。
(数1)
T
0−180=−T
180−360 ・・・(1)
【0046】
トルク制御機構200のように、数式(1)を満たす構成とすることによって、より広い範囲でトルクを変化させることができ、トルクを発生させる必要がない場合にはトルクをゼロにするゼロトルク制御が可能となる。
【0047】
[変形例2]
なお、数式(1)を満たす別の構成としては、
図11(a)及び
図11(b)に示すように、カムを用いたトルク制御機構300が挙げられる。トルク制御機構300は、回転体30、ケース32、保持部34(第1保持部34a,第2保持部34b)、弾性体保持部36(第1弾性体保持部36a,第2弾性体保持部36b)、弾性体38(第1弾性体38a,第2弾性体38b)を含んで構成される。
【0048】
回転体30は、軸にカム30a,30bが設けられた構成とされる。回転体30は、機械的強度を有する材料によって構成することが好適である。
【0049】
ケース32は、回転体30、保持部34、弾性体保持部36及び弾性体38を内部に収納する円筒状の部材である。ケース32は、弾性体保持部36の外径よりも大きな内径を有する略円筒形状の部材とする。ケース32は、機械的な強度を有する金属等で形成することができる。
【0050】
弾性体保持部36は、第1弾性体保持部36a及び第2弾性体保持部36bを含んで構成される。第1弾性体保持部36a及び第2弾性体保持部36bは、第1弾性体38a及び第2弾性体38bがそれぞれ固定される部材である。第1弾性体保持部36a及び第2弾性体保持部36bは、ケース22の内径よりも小さな外径を有する円筒状の部材とすることができる。第1弾性体保持部36aと第2弾性体保持部36bは、回転軸に沿って並べてケース32内に配置される。第1弾性体保持部36a及び第2弾性体保持部36bは、機械的強度を有する材料、特に磁性体によって構成することが好適である。
【0051】
保持部34は、第1保持部34a及び第2保持部34bを含んで構成される。第1保持部34aは、第1弾性体保持部36aをケース32に対して回転しないように保持する部材である。第2保持部34bは、第2弾性体保持部36bをケース32に対して回転しないように保持する部材である。ただし、第1保持部34aと第2保持部34bは、第1弾性体保持部36aと第2弾性体保持部36bとが回転軸を中心として相対的に回転可能なようにケース32に保持する手段とする。例えば、第2保持部34bは第2弾性体保持部36bをケース32に完全に固定する接着剤等とし、第1保持部34aは第1弾性体保持部36aをケース32に対して相対的に回転可能かつ固定可能なラッチ機構等とすればよい。
【0052】
弾性体38は、第1弾性体38a及び第2弾性体38bを含んで構成される。第1弾性体38a及び第2弾性体38bは、弾性力を発生させる部材とベアリングを組み合わせた構成とされる。弾性力を発生させる部材は、特に限定されるものではないが、例えばスプリング、ゴム等とすることができる。第1弾性体38aの弾性体の一端は第1弾性体保持部36aの内面に固定され、他端はベアリングに固定される。ベアリングは、回転体30のカム30aの外周面を押してカム30aに弾性力を与えるように配置される。第2弾性体38bの弾性体の一端は第2弾性体保持部36bの内面に固定され、他端はベアリングに固定される。ベアリングは、回転体30のカム30bの外周面を押してカム30bに弾性力を与えるように配置される。
【0053】
トルク制御機構300では、回転体30の外周に配置されたカム30aと第1弾性体保持部36aの内周に配置された第1弾性体38aからなる弾性構造、及び、回転体30の外周に配置されたカム30bと第2弾性体保持部36bの内周に配置された第2弾性体38bの組からなる弾性構造を備える。すなわち、回転体30が回転する際に回転体30に対して弾性力を与える2組の弾性構造を備える。
【0054】
また、第1保持部34aにより第1弾性体保持部36aをケース32に対して回転可能な状態とし、第1弾性体保持部36aをケース32に対して回転させることができる。第1保持部34aがラッチ機構である場合、ラッチを開放することによって第1弾性体保持部36aがケース32に対して回転可能な状態とすることができる。これにより、回転体30のカム30aと第1弾性体38aとの関係を変化させることができ、第1弾性体38aから回転体30に周期的に与えられるトルクの位相を変えることができる。
【0055】
このように、トルク制御機構300でも、第1弾性体保持部36a及び第1弾性体38aからなる弾性構造から回転体30に与えられるトルクの位相を変化させることで回転体30に与えられる合成トルクを可変とすることができる。
【0056】
また、カム30aとカム30bの形状を適宜選択することによって、上記数式(1)を満たすことができる。例えば、
図11(a)及び
図11(b)に示すように、トルクが正弦波のように数式(1)を満たす形状とすればよい。これにより、より広い範囲でトルクを変化させることができ、トルクを発生させる必要がない場合にはトルクをゼロにするゼロトルク制御が可能となる。
【0057】
[ダンパー装置への適用]
上記トルク制御機構100〜300は、回転体に対するトルクを制御するトルク制御機構として機能する。そこで、ケース12,22,32を別の回転軸に接続できる構成とすることによって回転体に対するダンパー装置として機能させることができる。
【0058】
図12は、トルク制御機構100をダンパー装置400に適用した例を示す。ダンパー装置400は、トルク制御機構100のケース12に回転軸Mを回転中心とする回転軸40を接続し、クラッチ44を介して出力軸42を接続した構成を備える。
【0059】
このような構成にすれば、ケース12を介して回転体10とケース12との間の位相に伴った伝達トルクが発生する。したがって、回転軸40と出力軸42とをクラッチ44にて接続することによって、ケース12を介して回転体10の回転を出力軸42へ伝達することができる。
【0060】
このとき、トルク制御機構100をねじりダンパーとして利用することができる。回転体10に対する制振性を高めるときには、トルク制御機構100によって回転体10に与えられる全体のトルクを減少させるように制御し、回転体10から出力するトルクを高めるときには、回転体10に与えられる全体のトルクを増加させる制御を行えばよい。
【0061】
なお、トルク制御機構100に代えて、トルク制御機構200,300を適用しても同様に捩りダンパー装置を構成することができる。
【0062】
一般的な捩りダンパーの場合、ばね剛性が単調増加かつ線形であるので、複数のばねを配置して位相を変化させたとしても回転体に与えられる総トルクは変化しない。これに対して、トルク制御機構100,200,300を適用してダンパー装置を構成した場合、位相を変化させることによって回転体に与えられる総トルクを変えることができる。したがって、制振性能を重視する場合には回転体に与えられる総トルクを減少させるように制御し、回転応答性能を重視する場合には回転体に与えられる総トルクを増加させるように制御すればよい。
【0063】
また、所定の回転角度(位相)にてトルクのピークを有するので、トルクリミッタとして使用することができる。このとき、従来の捩りダンパーのように別体の摩擦クラッチ等を用いる必要がない。
【0064】
[位相調整機構]
上記トルク制御機構及びそれを用いたダンパー装置では、弾性構造から回転体に与えられる弾性力及びトルクの位相を調整する必要がある。以下では、位相調整機構について説明する。
【0065】
上記トルク制御機構では、
図9等に示すように回転体に与えられる総トルクがゼロの状態であったとしても、各弾性構造から回転体に与えられるトルクには周期的な変化が発生している。すなわち、回転体には各弾性構造から与えられる最大トルク及び最少トルクが回転に応じて発生しており、その反力として弾性体や磁石等を保持する弾性体保持部にも最大トルク及び最少トルクが発生している。したがって、回転体の回転中に弾性体保持部を回転しないように保持するためには保持部によって最大トルク以上の保持トルクで固定する必要があると共に、位相を調整するためには保持部による保持トルク以上のトルクで弾性体保持部を駆動する必要がある。
【0066】
図13及び
図14を参照して、本実施の形態における位相調整機構の原理について説明する。なお、以下の説明では、回転の一方向(トルクが正に働く方向)について説明するが、回転の逆方向(トルクが負に働く方向)についてもトルクを作用させる方向を逆にすれば同様である。
【0067】
図13の破線は、トルク制御機構における弾性構造の1つから回転体に与えられるトルクTの時間変化を示す。このように周期的に変化するトルクTが与えられる場合、反力によって弾性体や磁石を保持する弾性体保持部にも同じトルクTが与えられる。したがって、
図13の実線に示すように、保持部によって最大トルクT
max以上の保持トルクT
fを与えることによって、回転体の回転中に弾性体保持部が動くことのないように保持することができる。保持部によって与えられる保持トルクT
fは、例えば摩擦力等とすればよい。
【0068】
一方、回転体に与えられるトルクを変更するためにトルク制御を行う際には、弾性体保持部に駆動トルクT
mを与えることにより弾性体保持部により保持されている弾性体や磁石の位相を調整する必要がある。このとき、
図14の一点破線に示すように駆動トルクT
mを与え、駆動トルクT
mと最大トルクT
maxとの和が保持トルクT
fよりも大きくなる期間Wがあれば弾性体保持部を駆動することができる。
【0069】
すなわち、保持トルクT
fが最大トルクT
maxより大きければ、駆動トルクT
mを与えない状態では弾性体保持部は動くことはない。駆動トルクT
mを与えて、駆動トルクT
mと最大トルクT
maxとの和が保持トルクT
fよりも大きくなる期間Wが生ずるようにすれば、その期間において弾性体保持部は駆動トルクT
mが与えられた方向に駆動される。
【0070】
このとき、保持トルクT
fと最大トルクT
maxとの差が最大トルクT
maxよりも小さくなるようにする、すなわち保持トルクT
fを最大トルクT
maxより大きく2倍未満とすることで、駆動トルクT
mを最大トルクT
maxよりも小さい値とすることができる。
【0071】
例えば、
図15に示すように、トルク制御機構100において駆動トルク付与手段50及び制御部52を含む構成とする。第2保持部14bは、第2弾性体18b及び第2弾性体保持部16bから回転体10に与えられる最大トルクT
maxより大きい保持トルクT
f(例えば摩擦力によるトルク)を与えるものとする。このような構成において、制御部52による制御によって駆動トルク付与手段50から第2弾性体保持部16bに駆動トルクT
mを与える。駆動トルク付与手段50は、例えば、ケース12に固定され、第2弾性体保持部16bに対して回転方向に駆動力を与えるアクチュエータを含むものとすればよい。駆動トルクT
mと最大トルクT
maxとの和が保持トルクT
fよりも大きくなる期間が生じるだけの駆動トルクT
mを与えれば、当該期間において第2弾性体保持部16bが移動させられ、回転体10に与えられるトルクの位相を変更することができる。
【0072】
なお、回転体が回転している状態において駆動トルクT
mを付加し続けることによって駆動トルクT
mと最大トルクT
maxとの和が保持トルクT
fよりも大きくなる期間Wのみ弾性体保持部を駆動することができる。
【0073】
また、
図15に示すように、回転体10に掛かるトルクを計測するためのトルクセンサ54を設け、最大トルクT
maxが発生するタイミングが測定できる場合にはそのタイミングを含む所定の期間のみ駆動トルクT
mを付加するようにしてもよい。最大トルクT
maxが発生するタイミングのみ駆動トルクT
mを付加する構成とすることによって、より少ない消費エネルギーで位相調整を行うことが可能となり、位相角度の制御が容易になる。
【0074】
また、駆動トルクT
mを与える代わりに保持トルクT
fを低減させる手段を設けてもよい。すなわち、
図16に示すように、駆動トルクT
mを与える代わりに、最大トルクT
maxが保持トルクT
fよりも小さくなる期間Wが生ずるようにすれば、その期間において弾性体保持部は駆動される。
【0075】
例えば、
図17に示すように、トルク制御機構200において保持部24aをセレクタブルツーウェイクラッチ56とした構成とする。セレクタブルツーウェイクラッチ56は、ローラ58と保持器60とを含んで構成される。保持器60は、ロータ20aよりも僅かに大きい内径と第1弾性体保持部26aより僅かに小さい外径を有する円筒状の部材である。ローラ58は、球状又は円筒状の部材であり、保持器60に対して回転可能に保持器60によって保持される。ローラ58と保持器60からなるセレクタブルツーウェイクラッチ56は、ロータ20aと第1弾性体保持部26aとの間の間隙に配置される。このとき、ロータ20aの外周には、ローラ58が配置される位置において最大幅がローラ58の外径よりも大きい切り欠き部62が設けられる。
【0076】
図18を参照して、セレクタブルツーウェイクラッチ56の作用について説明する。セレクタブルツーウェイクラッチ56は、選択された方向のみに動力を伝達可能とする作用を発揮する。
図18(b)のように、ローラ58がロータ20aの切り欠き部62の中央部にある状態では、ローラ58の外周はロータ20aの外周及び第1弾性体保持部26aの内周に接触しておらず、ロータ20aの回転によるトルクは第1弾性体保持部26aには伝達されない。
図18(a)のように、セレクタブルツーウェイクラッチ56を左に回転させて、ローラ58をロータ20aの切り欠き部62の左端に配置した状態では、ローラ58の外周はロータ20aの外周及び第1弾性体保持部26aの内周に接触する。このとき、ロータ20aが右方向(時計回転方向)に回転したときにはトルクは第1弾性体保持部26aに伝達され、ロータ20aが左方向(時計逆回転方向)に回転したときにはトルクは第1弾性体保持部26aに伝達されない。
図18(c)のように、セレクタブルツーウェイクラッチ56を右に回転させて、ローラ58をロータ20aの切り欠き部62の右端に配置した状態では、ローラ58の外周はロータ20aの外周及び第1弾性体保持部26aの内周に接触する。このとき、ロータ20aが左方向(時計逆回転方向)に回転したときにはトルクは第1弾性体保持部26aに伝達され、ロータ20aが右方向(時計回転方向)に回転したときにはトルクは第1弾性体保持部26aに伝達されない。このように、セレクタブルツーウェイクラッチ56を用いることによってロータ20aのトルクが第1弾性体保持部26aに伝達する方向を選択することができる。
【0077】
セレクタブルツーウェイクラッチ56により第1弾性体保持部26aの回転方向を選択し、ロータ20aと第1弾性体保持部26aとの間の反力を利用することによってロータ20aに保持されている第1磁石28aと第1弾性体保持部26aに保持されている第2磁石28bとの位相を調整することができる。そして、適切な位相において第1弾性体保持部26aが止まるようにケース22にストッパ64等を設けておくことによって、ロータ20aに対して第1弾性体保持部26aを適切な位相の位置に移動させることができる。また、ストッパ64の代わりに、ケース22と第1弾性体保持部26aとの間に多段階のラッチ機構を設けることによって位相を細かく変更するような構成としてもよい。