特許第6809290号(P6809290)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6809290-分割型複合繊維を用いた不織布 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809290
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】分割型複合繊維を用いた不織布
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/147 20120101AFI20201221BHJP
   D01F 8/06 20060101ALI20201221BHJP
   D04H 3/11 20120101ALI20201221BHJP
【FI】
   D04H3/147
   D01F8/06
   D04H3/11
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-34619(P2017-34619)
(22)【出願日】2017年2月27日
(65)【公開番号】特開2018-141246(P2018-141246A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2020年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】五十川貴裕
(72)【発明者】
【氏名】中野洋平
(72)【発明者】
【氏名】小林拓史
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−111536(JP,A)
【文献】 特開2005−256250(JP,A)
【文献】 特開平11−246394(JP,A)
【文献】 特開2007−284839(JP,A)
【文献】 特開2007−154402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00−18/04
D01F 8/00− 8/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上のポリオレフィン系樹脂からなり、各成分が繊維横断面に交互に配列した構造を有する繊維から構成される不織布であり、前記繊維の少なくとも1成分のポリオレフィン系樹脂に炭素数23以上の脂肪酸アミドを含有することを特徴とする不織布。
【請求項2】
2種類以上のポリオレフィン系樹脂が、ポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の不織布。
【請求項3】
請求項1または2に記載の不織布を構成する繊維の少なくとも一部が割繊されてなることを特徴とする不織布。
【請求項4】
炭素数23以上の脂肪酸アミドが脂肪酸ビスアミドであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の不織布。
【請求項5】
炭素数23以上の脂肪酸アミドがエチレンビスステアリン酸アミドであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の不織布。
【請求項6】
炭素数23以上の脂肪酸アミドの添加量が0.01〜5.0重量%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分割型複合繊維およびそれを用いた極細繊維からなる不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
極細繊維からなる不織布は、均一性や柔軟性などに優れており、使い捨てオムツ、衛生用品およびワイピングクロスなどの材料として広く使用されている。
【0003】
極細繊維からなる不織布を得る方法としては、分割型複合繊維で構成された不織布を、加熱処理や物理的処理により分割して極細繊維からなる不織布とする手法が知られている。分割型複合繊維の原料としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン等様々な樹脂の組み合わせが提案されているが、特にポリオレフィン同士の組み合わせはコストと柔軟性に優れている。このうちポリプロピレンとポリエチレンなどのように、互いに相溶なポリオレフィン同士を原料とした分割型複合繊維は、割繊されにくいため、割繊性を改良する方法について様々な提案がなされてきた。
【0004】
例えば、繊維断面に中空部を有する繊維が提案されている(特許文献1参照)。また、用いる樹脂の少なくとも1成分の樹脂成分にメタアクリル酸金属塩などの割繊促進剤を含む分割型複合繊維からなる不織布が提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、中空部を有する繊維や、メタアクリル酸金属塩などの割繊促進剤を含む繊維は紡糸時の紡糸性が不安定になり、十分な紡速が得られないため実用性に乏しいという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4026280号公報
【特許文献2】特許第3961724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の目的は、上記の課題に鑑み、紡糸性と割繊性が共に優れた分割型複合繊維から構成される不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の分割型複合繊維は、2種類以上のポリオレフィン系樹脂からなり、各成分が繊維横断面に交互に配列した構造を有する繊維から構成される不織布であり、前記繊維の少なくとも1成分のポリオレフィン系樹脂に炭素数23以上の脂肪酸アミドを含有することを特徴とする不織布である。
【0008】
本発明の不織布は、2種類以上のポリオレフィン系樹脂が、ポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂からなることが好ましい。
【0009】
本発明の不織布は、上記記載の不織布を構成する繊維の少なくとも一部が割繊されてなることが好ましい。
【0010】
本発明の不織布は炭素数23以上の脂肪酸アミドが脂肪酸ビスアミドであることが好ましい。
【0011】
本発明の不織布は炭素数23以上の脂肪酸アミドがエチレンビスステアリン酸アミドであることが好ましい。
【0012】
本発明の不織布は、素数23以上の脂肪酸アミドの添加量が0.1〜5.0重量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、紡糸性と割繊性が共に優れた2種以上のポリオレフィン系樹脂の分割型複合繊維から構成される不織布が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明における分割型複合繊維の横断面(繊維長さ方向に垂直な断面)を例示した模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の不織布は、2種類以上のポリオレフィン系樹脂からなり、各成分が繊維横断面に交互に配列した構造を有する繊維から構成され、前記繊維の少なくとも1成分のポリオレフィン系樹脂に炭素数23以上の脂肪酸アミドを含有することを特徴とする。
また、前記記載不織布を構成する繊維の少なくとも一部が割繊されてなる不織布である。
【0016】
本発明で使用されるポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテンなどの重合体およびそれらのモノマーと他のα―オレフィンとの共重合体などの樹脂が挙げられる。なかでも、不織布にした場合の肌触りや柔軟性および生産性やコストの観点から、ポリエチレン系樹脂や、ポリプロピレン系樹脂が好ましい。
【0017】
本発明に用いられるポリエチレン系樹脂の融点は、80〜160℃ 、さらには100〜140℃ の範囲にあることが好ましい。融点を80℃以上とすることで実使用に耐え得る耐熱性を有することができる。また融点を160℃以下とすることでポリプロピレン系樹脂と強固に接着できる。
【0018】
本発明に用いられるポリエチレン系樹脂のメルトフローレート(ASTM D−1238 荷重;2160g、温度;190℃)は特に限定はされないが、1〜500g/10分、好ましくは10〜250g/10分、より好ましくは15〜100g/10分の樹脂である。メルトフローレートを1〜500g/10分の範囲とすることにより、安定して紡糸が可能となり、かつ配向結晶化が進み、高い強度の繊維を得ることができる。
本発明に用いられるポリエチレン系樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、通常用いられる酸化防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、帯電防止剤、紡曇剤、ブロッキング防止剤、滑剤、核剤、顔料等の添加物あるいは他の重合体を必要に応じて添加してもよい。
【0019】
本発明に用いられるポリプロピレン系樹脂の融点は、100〜200℃ 、さらには100〜180℃ の範囲にあることが好ましい。融点を100℃以上とすることで共重合成分の比率を抑え、安定した紡糸が可能となる。また融点を200℃以下とすることで口金から吐出された糸条を冷却することが可能となり繊維同士の融着を抑制し安定した紡糸が可能となる。
【0020】
本発明に用いられるポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR;ASTM D−1238 荷重;2160g、温度;230℃)は特に限定はされないが、通常1〜1000g/10分、好ましくは10〜500g/10分、より好ましくは20〜200g/10分の樹脂である。メルトフローレートを1〜1000g/10分の範囲とすることにより、安定して紡糸が可能となり、かつ配向結晶化が進み、高い強度の繊維を得ることができる。
【0021】
本発明に用いられるポリプロピレン系樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、通常用いられる酸化防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、帯電防止剤、紡曇剤、ブロッキング防止剤、滑剤、核剤、顔料等の添加物あるいは他の重合体を必要に応じて添加してもよい。
【0022】
本発明では少なくとも1成分のポリオレフィン系樹脂に炭素数が23以上の脂肪酸アミドを含有してなることが、紡糸時の紡糸性を保ったまま割繊性に優れた分割型複合繊維を得るうえで重要である。脂肪酸アミドが異種のポリオレフィン系樹脂間の界面に存在することで、樹脂同士の離型を促進し、割繊性を向上することができる。また、炭素数が23以上の脂肪酸アミドでは紡糸性を損なうことなく、割繊性が向上することを見いだした。
【0023】
本発明では脂肪酸アミドの炭素数が23以上であることが好ましい。樹脂に混合する脂肪酸アミドの炭素数によって、脂肪酸アミドの繊維表面への移動速度が変わることが知られているが、炭素数が小さすぎると脂肪酸アミドが繊維表面に過度に析出し、異種の樹脂成分が隣接する界面での脂肪酸アミドの量が減少し割繊性を低下させる。また、割繊性の向上を目的に炭素数の小さい脂肪酸アミドを多量に添加すると紡糸性が低下する。脂肪酸アミドの炭素数を23以上、より好ましくは30以上とすることにより、脂肪酸アミドが過度に繊維表面に出ることを抑制し、紡糸性、割繊性に優れる分割型複合繊維を得ることができる。割繊性に優れることにより、割繊による不織布の外観や触感の変化あるいは柔軟性や引張強度など不織布物性の変化を増すことが可能となる。また、脂肪酸アミドの炭素数は紡糸性および操業性の観点から50以下とすることが好ましい。炭素数が23以上の脂肪酸アミドとしては、ステアリルステアリン酸アミド、ステアリルエルカ酸アミド、オレイルステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド,エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、ジオレイルアジピン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミドなどが挙げられる。脂肪酸アミドは脂肪酸モノアミド、N-置換脂肪酸アミド、脂肪酸ビスアミドなどに分類されるが、繊維表面への移動速度の観点からN-置換脂肪酸アミドあるいは脂肪酸ビスアミドが好ましく、特に脂肪酸ビスアミドが好ましい。
【0024】
本発明では、炭素数が23以上の脂肪酸アミドのなかでもエチレンビスステアリン酸アミドが特に好ましい。エチレンビスステアリン酸アミドは熱安定性に優れ、高い安定性で溶融紡糸可能であり、高速生産に適した紡糸性を保持しながら、割繊性に優れる不織布を得ることができる。
【0025】
脂肪酸アミドの添加量としては、脂肪酸アミドを添加する樹脂一成分あたり0.1〜5.0重量%であることが好ましい。脂肪酸アミドの添加量が樹脂一成分あたり0.1重量%以上であることにより割繊性に優れる分割複合繊維が得られる。また、樹脂一成分あたり5.0重量%以下であることにより、紡糸性を低下させることなく紡糸が可能となる。
本発明で脂肪酸アミドは、繊維を構成する2種類以上のポリオレフィン系樹脂のうち、少なくとも1種類に添加されていればよく、2種類以上のポリオレフィン系樹脂に添加されていても問題ない。脂肪酸アミドを添加する樹脂が1種類の場合においても、紡糸性を保ったまま割繊性を向上しうることから、コストの観点から1種類の樹脂のみに脂肪酸アミドを添加することが好ましい。
【0026】
本発明の分割型複合繊維は、繊維長さ方向に対して垂直な断面(分割型複合繊維の横断面)において、第1成分または第2成分が他の成分により2個以上、より好ましくは4個以上、さらに好ましくは6個以上に区分されることにより、分割型複合繊維を割繊し易くなり、また割繊が進むことにより極細繊維を得ることができる。
図1は、本発明における分割型複合繊維の横断面(繊維長さ方向に垂直な断面)を例示した模式断面図である。
【0027】
図1の(a)は、ポリオレフィン系樹脂を含有する第1成分と、第2成分とからなる分割型複合繊維の、繊維長さ方向に対して垂直な断面(横断面)において、前記の第1成分からなる領域1と、前記の第2成分からなる領域2が、互いに8個に区分された例を示した模式断面図である。
【0028】
この図1の(a)においては、8個の第1成分からなる領域1と、8個の第2成分からなる領域2との合計16個の領域が、その外周の一部を前記断面の外周と共有している。
【0029】
また、図1の(b)は、中央部に空洞部3を有する中空糸であり、前記第1成分からなる領域1と前記第2成分からなる領域2とが、互いに8個ずつに分割された例を示した模式図である。図1の(b)においては、8個の第1成分からなる領域1と、8個の第2成分からなる領域2との合計16個の領域が、その外周の一部を前記断面の外周と共有している。
【0030】
図1の(c)は、前記第1成分からなる領域1が、並列に並ぶ前記第2成分からなる領域2によって3個に分割されている例を示した模式図である。図1の(c)においては、3個の第1成分からなる領域1と、2個の第2成分からなる領域2との合計5個の領域が、その外周の一部を前記断面の外周と共有している。
【0031】
図1の(d)は、前記第2成分からなる領域2が、前記第1成分からなる領域1によって4個に分割されている例を示した模式図である。図1の(d)においては、1個の第1成分からなる領域1と、4個の第2成分からなる領域2との合計5個の領域が、その外周の一部を前記断面の外周と共有している。
【0032】
図1の(e)は、前記第1成分からなる領域1が、前記第2成分からなる領域2によって4個に分割されている例を示した模式図である。図1の(e)においては、4個の第1成分からなる領域1と、1個の第2成分からなる領域2との合計5個の領域が、その外周の一部を前記断面の外周と共有している。
【0033】
これらのうち、良好な紡糸性と第1成分と第2成分とが紡糸時に分割し難いという観点から図1の(a)の形態が好ましい。
【0034】
一般的な不織布の製法としては例えば、ニードルパンチ不織布、湿式不織布、スパンレース不織布、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布、レジンボンド不織布、ケミカルボンド不織布、サーマルボンド不織布、トウ開繊式不織布、エアレイド不織布等の種々の製法があるが、本発明ではスパンボンド不織布であることが好ましい。スパンボンド不織布は、生産性や機械的強度に優れ、また、長繊維からなるため短繊維不織布に比べて毛羽立ちしにくい特徴を有する。
【0035】
次に、本発明の分割型複合繊維からなる不織布(割繊加工前)の好ましい態様として、スパンボンド法による不織布の製造方法について説明する。
【0036】
スパンボンド法は、樹脂を溶融し紡糸口金から紡糸した後、冷却固化して得られたた糸条に対し、エジェクターで牽引し延伸して、移動するネット上に捕集して不織ウェブ化した後、熱接着または機械的交絡により一体化する工程を要する製造方法である。
【0037】
紡糸口金やエジェクターの形状としては、丸形や矩形等種々の形状のものを採用することができる。なかでも、圧縮エアの使用量が比較的少なく、糸条同士の融着や擦過が起こりにくいという観点から、矩形口金と矩形エジェクターの組み合わせが好ましい態様である。
【0038】
樹脂を溶融し紡糸する際の紡糸温度は、220〜250℃であることが好ましく、より好ましくは225〜245℃である。紡糸温度を上記の範囲内とすることにより、安定した溶融状態とし、ポリオレフィン系樹脂の冷却も進みやすく、優れた紡糸安定性を得ることができる。
【0039】
本発明で用いられる前記の第1成分および第2成分を、それぞれ別の押出機によって、溶融し計量して、分割型複合紡糸口金へと供給し、分割型複合繊維として紡出する。
【0040】
紡出された分割型複合繊維の糸条を冷却する方法としては、例えば、冷風を強制的に糸条に吹き付ける方法、糸条周りの雰囲気温度によって自然冷却する方法、紡糸口金とエジェクター間の距離を調整する方法、またはこれらの組み合わせる方法等を採用することができる。
【0041】
また、冷却条件は、紡糸口金の単孔あたりの吐出量、紡糸する温度および雰囲気温度等を考慮して、適宜調整し採用することができる。
【0042】
次に、冷却固化された糸条は、エジェクターから噴射される圧縮エアによって牽引され、延伸される。
【0043】
紡糸速度は、1,500〜6,000m/分であることが好ましく、より好ましくは2,000〜5,500m/分である。紡糸速度を1,500〜6,000m/分とすることにより、安定的に紡糸することができ、また、配向結晶化が進み高い強度の分割型複合繊維を得ることができる。
【0044】
続いて、このようにして延伸により得られた分割型複合繊維を、移動するネット上に捕集して不織ウェブ化する。
【0045】
その後、不織ウェブは、熱接着により一体化される。熱接着により一体化する方法としては、上下一対のロール表面にそれぞれ彫刻が施された熱エンボスロール、片方のロール表面がフラット(平滑)なロールと他方のロール表面に彫刻が施されたロールとの組み合わせからなる熱エンボスロール、および上下一対のフラット(平滑)ロールの組み合わせからなる熱カレンダーロールなど各種ロールにより熱接着する方法が挙げられる。
【0046】
熱ロールの表面温度は、使用している樹脂のうち、最も低融点の樹脂(以下、低融点樹脂という場合がある。)の融点に対し−100〜−30℃とすることが好ましい。熱ロールの表面温度を低融点樹脂の融点に対し−100℃以上、より好ましくは−90℃以上とすることにより、適度に熱接着させ不織布形態を保持することができる。
【0047】
また、熱ロールの表面温度を低融点樹脂の融点に対し−30℃以下、より好ましくは−50℃以下とすることにより、過度な熱接着を抑制し、後工程において割繊が進みやすくなる。
【0048】
熱接着時の熱エンボスロールの線圧は、200〜1500N/cmであることが好ましい。ロールの線圧を200N/cm以上、より好ましくは300N/cm以上とすることにより、適度に熱接着させ不織布形態を保持することができる。一方、ロールの線圧を1500N/cm以下、より好ましくは1000N/cm以下とすることにより、過度な熱接着を抑制し、後工程において割繊が進みやすくなる。
【0049】
また、エンボス接着面積率は、5〜30%であることが好ましい。接着面積を5%以上、より好ましくは10%以上とすることにより、適度に熱接着させ不織布形態を保持することができる。一方、接着面積を30%以下、より好ましくは20%以下とすることにより、過度な熱接着を抑制し、後工程において割繊が進みやすくなる。
【0050】
ここでいうエンボス接着面積率とは、一対の凹凸を有するロールにより熱接着する場合は、上側ロールの凸部と下側ロールの凸部とが重なって不織ウェブに当接する部分の不織布全体に占める割合のことをいう。また、凹凸を有するロールとフラットロールにより熱接着する場合は、凹凸を有するロールの凸部が不織ウェブに当接する部分の不織布全体に占める割合のことをいう。
【0051】
熱エンボスロールに施される彫刻の形状としては、円形、楕円形、正方形、長方形、平行四辺形、ひし形、正六角形および正八角形などを用いることができる。
【0052】
分割型複合繊維(割繊加工前)の平均繊維径は、10.0〜22.0μmであることが好ましい。より好ましい平均繊維径は12.0〜20.0μmであり、さらに好ましくは12.5〜18.5μmである。分割型複合繊維(割繊加工前)の平均繊維径を10.0〜22.0μmとすることにより、不織布の均一性が向上し、かつ割繊加工後の不織布が柔軟化する傾向となる。
【0053】
本発明の割繊加工前の不織布の目付は、10〜100g/mであることが好ましい。目付を10g/m以上、より好ましくは15g/m以上とすることにより、実用に供し得る機械的強度の不織布を得ることができる。一方、目付を100g/m以下、より好ましくは50g/m以下、さらに好ましくは30g/m以下とすることにより割繊加工前および/または割繊加工後において、適度な柔軟性を有する不織布を得ることができる。
【0054】
本発明の割繊加工前の不織布においては、不織布の長手方向における目付当たりの引張強度は、0.9N/5cm以上であることが好ましい。目付当たりの不織布の引張強度が1.0N/5cm以上、より好ましくは1.1N/5cm以上であることにより、製造時、加工時の工程張力や実用に十分な強度を有する不織布となる。
なお、目付当たりの引張強度は、JIS L1913(2010年)の6.3.1に準じた、次に記載する手法で測定する。まず、サンプルサイズ5cm×30cmで、つかみ間隔20cm、引張速度10cm/分の条件で長手方向3点の引張試験を行い、サンプルが破断したときの強度を長手方向の引張強度(N/5cm)とし、平均値について小数点以下第二位を四捨五入して算出する。続いて、算出した長手方向の引張強度(N/5cm)と目付(g/m)から、次の式より小数点以下第二位を四捨五入して単位目付当たりの引張強度を算出する。
・長手方向における目付当たりの引張強度=長手方向の引張強度(N/5cm)/目付(g/m)。
【0055】
本発明の割繊加工前の不織布のかさ密度としては、0.20g/cm以下であることが好ましく、より好ましくは0.17g/cm以下であり、さらに好ましくは0.15g/cm以下である。かさ密度を0.20g/cm以下とすることにより、割繊加工前および/または割繊加工後において低密度で柔軟なシートが得られる。また、下限値は特に設けるものではないが、かさ密度があまりに小さい場合は強度が低下する傾向となるため、0.01g/cm以上であることが好ましい。
かさ密度は、不織布の目付(g/m)および厚み(mm)から、次式より小数点以下第三位を四捨五入して算出する。
・かさ密度(g/cm)=目付(g/m)/厚み(mm)/1000
なお、厚みはJIS L 1908(2000年)の6.3に準拠した、次に記載する手法で測定する。2500mmの面積を有するプレッサーフットの直径の1.75倍以上の大きさの試験片について、一定時間2kPaの圧力を加えた後、厚さを測定する。試験片10枚分の平均値を算出して、その値を厚みとする。
【0056】
本発明の割繊加工前の不織布は、MD方向の剛軟度が70mm以下であることが好ましい。剛軟度が70mm以下、好ましくは65mm以下、より好ましくは60mm以下とすることにより、割繊加工前および/または割繊加工後において十分な柔軟性を得ることができる。剛軟度の下限値については、あまりに低い剛軟度とすると不織布の取り扱い性に劣る場合があるため、10mm以上であることが好ましい。
【0057】
本発明の分割型複合繊維から構成される不織布は、ニードルパンチ、ウォータージェットパンチ、ギア延伸、超音波処理、ローラー間での加圧処理などにより物理的に力を加える手法および/またはエアスルー、ローラー間での加熱処理などにより熱を加える手法により分割型複合繊維が割繊される。
剛軟度は、JIS L1913(2010年)の6.7.3に準拠した、次に記載する手法で測定する。幅25mm×150mmの試験片を5枚採取し、45°の斜面をもつ水平台の上に試験片の短辺をスケール基線に合わせて置く。手動により試験片を斜面の方向に滑らせて試験片の一端の中央点が斜面と接したとき、他端の位置の移動長さをスケールによって読む。5枚の裏表について測定し、平均値を算出する。ニードルパンチで機械的に交絡しながら分割型複合繊維を割繊する場合は、針形状や単位面積当たりの針本数等を適宜選択し、調整して実施される。特に、単位面積当たりの針本数は、強度、形態保持および分割型複合繊維を割繊させるという観点から、少なくとも100本/cm以上とすることが好ましい態様である。また、ニードルパンチ前の不織ウェブにシリコーン系の油剤を噴霧し、針で繊維が切断されることを防止し、繊維同士の交絡性を向上させることが好ましい態様である。
【0058】
また、機械的交絡をウォータージェットパンチで実施する場合、水は柱状流の状態で行うことが好ましい。柱状流を得るには、通常、直径0.05〜3.0mmのノズルから圧力1〜60MPaで噴出させる方法が好適に用いられる。不織ウェブを効率的に交絡し、一体化させながら複合繊維を割繊させるための圧力としては、少なくとも1回は10MPa以上の圧力で処理することが好ましく、15MPa以上がより好ましい態様である。
【0059】
割繊加工後の平均繊維径は、3.0〜18.5μmであることが好ましい。より好ましい平均繊維径は3.5〜17.5μmであり、さらに好ましくは5.0〜16.5μmである。割繊加工後の平均繊維径を3.0〜18.5μmとすることにより、不織布の均一性が向上し、かつ柔軟化する傾向となる。また、平均繊維径が3.0〜18.5μmの範囲内であれば、未割繊の繊維を含んでいることも許容される。未割繊の繊維が混在した不織布は、未割繊の繊維、あるいは、未割繊の繊維の一部だけが分割された形状の繊維に起因して、不織布強力に優れるためである。なお、割繊加工後の平均繊維径とは、測定した繊維断面積を、丸形断面形状を有する繊維の断面積とみなし、算出された繊維径のことである。
【0060】
本発明の割繊加工後の不織布の目付は、10〜100g/mであることが好ましい。目付を10g/m以上、より好ましくは15g/m以上とすることにより、実用に供し得る機械的強度の不織布を得ることができる。一方、目付を100g/m以下、より好ましくは50g/m以下、さらに好ましくは30g/m以下とすることにより、適度な柔軟性を有する不織布を得ることができる。
【0061】
本発明の割繊加工後の不織布は、各種割繊処理により、処理前に比べて、かさ高なシート構造となる。割繊加工後の不織布のかさ密度としては、0.10g/cm以下であることが好ましく、より好ましくは0.09g/cm以下であり、さらに好ましくは0.08g/cm以下である。かさ密度を0.10g/cm以下とすることにより、低密度で柔軟なシートが得られる。また、下限値は特に設けるものではないが、かさ密度があまりに小さい場合は強度が低下する傾向となるため、0.01g/cm以上であることが好ましい。
【0062】
本発明の割繊加工後の不織布においては、不織布のMD方向における目付当たりの引張強度は、1.2N/5cm以上であることが好ましい。目付当たりの不織布の引張強度が1.4N/5cm以上、より好ましくは1.6N/5cm以上であることにより、製造時、加工時の工程張力や実用に十分な強度を有する不織布となる。
本発明の割繊加工後の不織布は、MD方向の剛軟度が65mm以下であることが好ましい。剛軟度が65mm以下、好ましくは60mm以下、より好ましくは55mm以下とすることにより、特に衛生材料用の不織布として用いる場合に、十分な柔軟性を得ることができる。剛軟度の下限値については、あまりに低い剛軟度とすると不織布の取り扱い性に劣る場合があるため、10mm以上であることが好ましい。
【0063】
本発明の分割型複合繊維から構成され、また分割型複合繊維が割繊された不織布は、機械的強度、均一性および柔軟性に優れており、使い捨てオムツ、衛生用品およびワイピングクロスなどの材料として好適に利用することができる。
【実施例】
【0064】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0065】
(1)紡糸性評価:
紡糸状態を1時間観察し、糸切れが0〜2回を○、糸切れが3〜6回を△、そして糸切れ7回以上を×として評価した。
【0066】
(2)分割型複合繊維の繊維径:
得られた割繊加工後の極細繊維からなる不織布をエポキシ樹脂に包埋して、次いでミクロトームで切断して試料片を得る。次いで、走査型電子顕微鏡で1000倍の写真を撮影し、任意の100本の繊維の断面の面積を測定した。測定した断面積を、丸形断面形状を有する繊維の断面積とみなし、下記式によって繊維径を算出した。算出した100本の繊維径について、平均値を算出し、小数点以下第二位を四捨五入して繊維径とした。
・繊維径(μm)={4×断面積(μm)/3.14}1/2
(3)不織布の目付:
JIS L1913(2010年)の6.2「単位面積当たりの質量」に基づき、20cm×25cmの不織布試験片を、試料の幅1m当たり3枚採取し、標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量り、その平均値を1m当たりの質量(g/m)で表した。
(実施例1)
第1成分として、MFRが18g/10分(荷重;2160g、温度;190℃)、融点が130℃であるポリエチレン樹脂を、第2成分として炭素数38のエチレンビスステアリン酸アミド1.0%を添加したMFRが35g/10分(荷重;2160g、温度;230℃)、融点が160℃であるポリプロピレン樹脂を、それぞれ別の押出機で溶融し、各成分の質量比が50:50となるように計量し、紡糸温度245℃で、分割型複合口金から単孔吐出量0.4g/分で、図1(a)に示された2成分が交互に隣接し16個に区分された断面形状の分割型複合繊維を紡出した。紡出した分割型複合繊維をエジェクターに通し、紡速2600m/分でエジェクターから噴射させ、糸条を牽引、延伸し、移動するネット上に捕集して不織ウェブ化した。引き続き、金属製の水玉柄の彫刻がなされた上ロールおよび金属製でフラットな下ロールから構成される上下一対の接着面積10%のエンボスロールを用いて、線圧200N/cm、熱接着温度70℃で熱接着処理し、目付20g/mの分割型複合繊維からなる不織布を得た。得られた不織布について、繊維径(割繊加工前)、目付(割繊加工後前)を測定して評価した。さらに繊維を分割させるために孔径φ 0.1mmのノズルを使用してノズルから不織布までの距離を15mmとして、15MPaの水圧、ライン速度1m/分で不織布表面と裏面にウォータージェットパンチ加工を3回ずつ施し、目付量が23g/mの不織布を作製した。得られた不織布について、繊維径(割繊加工後)、目付(割繊加工後)を測定して評価した。結果を表1に示す。
(実施例2)
第2成分として炭素数38のエチレンビスステアリン酸アミド2.0%を添加したMFRが35g/10分(荷重;2160g、温度;230℃)、融点が160℃であるポリプロピレン樹脂を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で分割型複合繊維からなる不織布および割繊加工を施した不織布を得た。
(比較例1)
第2成分としてMFRが35g/10分(荷重;2160g、温度;230℃)、融点が160℃であるポリプロピレン樹脂に脂肪酸アミドを添加せずに用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で分割型複合繊維からなる不織布および割繊加工を施した不織布を得た。
【0067】
表1から明らかなように、実施例1および2は紡糸性が良好であり、脂肪酸アミドを添加していない比較例1と比べて平均繊維径(割繊加工後)が小さくより割繊が進行している。
(比較例2)
第2成分として炭素数18のオレイン酸アミド1.0%を添加したMFRが35g/10分(荷重;2160g、温度;230℃)、融点が160℃であるポリプロピレン樹脂を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で分割型複合繊維からなる不織布および割繊加工を施した不織布を得た。
【0068】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、使い捨てオムツ、フェイスマスク、衛生用品およびワイピングクロスなどの材料として好適に利用することができる。
図1