特許第6809309号(P6809309)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6809309電磁チャック装置及び電磁チャック装置を備えた研削盤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809309
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】電磁チャック装置及び電磁チャック装置を備えた研削盤
(51)【国際特許分類】
   B23Q 3/15 20060101AFI20201221BHJP
   B24B 41/06 20120101ALI20201221BHJP
【FI】
   B23Q3/15 B
   B24B41/06 L
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-48408(P2017-48408)
(22)【出願日】2017年3月14日
(65)【公開番号】特開2018-149647(P2018-149647A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2020年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 群司
(72)【発明者】
【氏名】頼経 昌史
(72)【発明者】
【氏名】竹島 雅之
【審査官】 村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−500339(JP,A)
【文献】 米国特許第3340442(US,A)
【文献】 特開2017−019073(JP,A)
【文献】 特開2001−025910(JP,A)
【文献】 特開2017−001102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 3/15
B24B 41/06
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁チャック本体の面板上面に形成される複数の磁極部を備え、前記磁極部の磁気力によって工作物を吸着する電磁チャック装置であって、
前記電磁チャック装置は、前記面板上面である前記磁極部の上面において各対向面が所定の隙間を有して対向し配置される一対の吸着支持部材を少なくとも3組備え、
各前記一対の吸着支持部材は、
それぞれ前記複数の磁極部のうちの隣り合う異なる種類の磁極部間の境界を挟んで配置され、
各前記一対の吸着支持部材の各第一平面が、前記隣り合う磁極部の各上面に接触し、
前記工作物が前記磁気力によって吸着される際、
前記各第一平面と背向する各第二平面が、前記工作物の被吸着面と接触し前記被吸着面を吸着する、電磁チャック装置。
【請求項2】
各前記一対の吸着支持部材において、前記各第一平面の面積は、前記各第二平面の面積より大きい、請求項1に記載の電磁チャック装置。
【請求項3】
前記電磁チャック装置の前記面板は外周が円形に形成され、
前記磁極部は、前記面板上面において、前記面板の中心軸線回りに等角度間隔で分割されて扇状に形成され、
前記一対の吸着支持部材は、前記磁極部の前記上面に3組配置され、
前記一対の吸着支持部材が前記磁極部の前記上面において配置される位置は、前記中心軸線を中心とする同一円周上である、請求項1又は2に記載の電磁チャック装置。
【請求項4】
前記一対の吸着支持部材は、前記各対向面とそれぞれ背向して形成される各背向面が、前記面板の外周側から前記中心軸線に向い傾斜して形成される、請求項3に記載の電磁チャック装置。
【請求項5】
テーブルと、
前記テーブルに設けられ、主軸線回りに回転可能な工作主軸を有する主軸台と、
前記工作物の保持が可能な保持装置と、
前記テーブルに対して相対移動可能に設けられ、前記工作物が前記保持装置に位置決めされ保持された場合に、前記工作物を研削する砥石と、を備え、
前記保持装置は、請求項1−4の何れか一項に記載の電磁チャック装置である、研削盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁チャック装置及び電磁チャック装置を備えた研削盤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作物に対して切削、又は研削等の加工を行なう場合に電磁気による吸着力(磁気吸引力)を利用して工作物を面板上に固定する電磁チャック装置の技術がある。このような電磁チャック装置では、通常、8極や10極の極磁を用い、工作物に磁束を通して磁気力を発生させ、工作物を面板上に吸着し強固に固定する。このため、工作物の被吸着面の平面度があまり良くない場合、工作物は電磁チャック装置の吸着によって面板の形状に倣い変形してしまう場合がある。この場合、工作物が変形した状態のまま、被吸着面以外の面が加工されるので、電磁チャック装置による吸着を解除した際には、拘束されていた変形が開放され、工作物の加工面が変形してしまう虞がある。
【0003】
また、バッキングプレート(吸着支持部材)と呼称される部材を用いて工作物を支持する方法がある。なお、バッキングプレートとは、電磁チャック装置の面板と工作物の被吸着面との間に介在させる磁性体からなる部材である(バッキングプレートの一例としては、下記特許文献1−4がある)。
【0004】
バッキングプレートは、工作物の吸着面を嵩上げする部材である。よって、加工装置(研削盤,マシニングセンタなど)によって工作物の吸着面付近まで加工するときに、加工装置の工具が、電磁チャックの吸着面と接触(破損)することを防ぐことができる。また、工作物を電磁チャックに直接吸着させると、工作物と電磁チャックの吸着面とが直接接触して電磁チャックの吸着表面が変形(破損)し、平面度を保てなくなることがある。これに対し、工作物をバッキングプレートで支持することにより電磁チャックの吸着表面の変形(破損)を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−31602号公報
【特許文献2】特開2016−112650号公報
【特許文献3】特許第5416527号公報
【特許文献4】特開2001−25910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の従来の対策方法では、各バッキングプレートを、S極又はN極のいずれかの磁極の上に配置している。このような配置では、バッキングプレートを、例えば、面板の周方向においてS極→N極→S極の順に配置した場合、最後の磁極(S極)と初めの磁極(S極)とは必ず同じ磁極の組み合わせとなる。このため、S極−S極間では磁路が形成できず、発生する磁気力が低下し、工作物に対する十分な吸着力(把持力)が得られないという課題がある。また、工作物を吸着(把持)する場合に工作物が変形するという課題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、磁気力による吸着によって工作物を把持する場合において、工作物を変形させず、且つ十分な把持力を発揮することが可能な電磁チャック装置、及び電磁チャック装置を備えた研削盤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1の電磁チャック装置は、電磁チャック本体の面板上面に複数の磁極部を備え、前記磁極部の磁気力によって工作物を吸着し固定する電磁チャック装置である。前記電磁チャック装置は、前記面板上面である前記磁極部の上面において各対向面が所定の隙間を有して対向し配置される一対の吸着支持部材を少なくとも3組備え、各前記一対の吸着支持部材は、それぞれ前記複数の磁極部のうちの隣り合う異なる種類の磁極部間の境界を挟んで配置され、各前記一対の吸着支持部材の各第一平面が、前記隣り合う磁極部の各上面に接触し、前記工作物が前記磁気力によって吸着される際、前記各第一平面と背向する各第二平面が、前記工作物の被吸着面と接触し前記被吸着面を吸着する。
【0009】
このように、電磁チャック装置は、加工時における工作物を、少なくとも3組の吸着支持部材によって被吸着面の一部のみを吸着し支持(固定)する。即ち、工作物は、被吸着面全面で吸着されない。このため、工作物が、被吸着面全面で吸着されることにより、変形してしまう虞がない。また、電磁チャック装置において、最も近接して隣り合う磁極部は、必ず異なる磁極(S極,N極)で形成される。このため、隣り合う磁極部に各対向面が所定の隙間を有して配置される各一対の吸着支持部材間では、確実に磁路を形成することができる。従って、工作物は、被吸着面全面で吸着され支持(固定)されなくても、十分な吸着力が得られるので、各一対の吸着支持部材の上面に強固に保持される。これにより、例えば、電磁チャック装置に吸着固定された工作物を工具によって加工しても、工作物が工具から受ける切削又は研削抵抗の方向にずれてしまうことを良好に抑制できる。
【0010】
また、上記課題を解決するため、請求項5の研削盤は、テーブルと、前記テーブルに設けられ主軸線回りに回転可能な工作主軸を有する主軸台と、前記工作主軸に設けられ前記工作物の保持が可能な保持装置と、前記テーブルに対して相対移動可能に設けられ前記工作物が前記保持装置に位置決めされ保持された場合に前記工作物を研削する砥石と、を備え、前記保持装置は、上記で記載の電磁チャック装置である。
【0011】
このように、工作物の研削が行なわれる研削盤の工作物の保持装置に上記電磁チャック装置を適用することによって、工作物を、変形していない状態で加工できるとともに、加工中に工作物が大きな研削抵抗を砥石から受けても面板上でずれることなく安定して研削できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る研削盤の全体構成を示す概略図である。
図2図3の電磁チャック本体部分におけるテーブルのII−II矢視断面図である。
図3図1の研削盤に備えられる電磁チャック本体の平面図である。
図4図2における一対の吸着支持部材の拡大図である。
図5図4におけるQ視である。
図6図4における一対の吸着支持部材を構成する各部を説明する図である。
図7】工作物が支持される一対の吸着支持部材における支持部を説明する図である。
図8】支持部における把持角度と工作物の変形量との関係を示すグラフである。
図9】一対の吸着支持部材の間の隙間と工作物を通過する磁束密度との関係を示すグラフである。
図10】一対の吸着支持部材と工作物との間を通過する磁束を説明する図である。
図11】変形例2における一対の吸着支持部材と、把持角度とを説明する図である。
図12】変形例3における一対の吸着支持部材と、把持角度とを説明する図である。
図13】一対の吸着支持部材を、平面状に形成された電磁チャック本体に適用した場合について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<1.第一実施形態>
(1−1.研削盤の構成)
以下、本発明に係る電磁チャック装置60(保持装置に相当する)を、工作物Wに対して研削を行なう研削盤1に適用した第一実施形態について説明する。なお、図1においては、水平面で直交する方向をX軸線方向及びY軸線方向とし、X軸線方向及びY軸線方向に直交する方向をZ軸線方向とする。
【0014】
図1図3に示すように、研削盤1は、ベッド2と、コラム3と、テーブル5と、砥石車9(砥石に相当)と、主軸台40と、電磁チャック装置60と、を備える。コラム3及びテーブル5はベッド2上に設けられる。また、本実施形態においては、工作物Wは、円環状の部材として説明する。ただし、工作物Wの形状は、あくまで一例であって、円環に限定されるものではない。
【0015】
図1に示すように、コラム3は、砥石車9(砥石)がテーブル5上における工作物Wの研削位置に対し進退可能(相対移動可能)となるようベッド2上に配置される。コラム3は、駆動機構3Aによって、X軸線方向に往復移動(進退)可能に構成される。図1に示すように、コラム3の側面には、駆動機構31によって、Z軸線方向に昇降(進退)可能な砥石台4を備える。砥石台4は、駆動機構32によって、Z軸線回りに回転駆動可能なロータリー型の砥石車9(砥石に相当)を備える。砥石車9は、下方に延びる保持軸33の下端に保持される。
【0016】
図2に示すように、主軸台40は、主軸本体41と、Z軸線方向と平行なG軸線回りに回転可能な工作主軸42とを備える。なお、図2は、図3に示す電磁チャック装置60が備える電磁チャック本体61の平面視におけるII−II矢視断面図である。主軸本体41には、図略の駆動機構が内蔵される。工作主軸42は、主軸本体41が備える駆動機構によってG軸線回りに回転可能となるよう主軸本体41に取り付けられる。工作主軸42は、主軸本体41の上端から若干突出して取り付けられる。そして、工作主軸42の上端には電磁チャック本体61が固定される。
【0017】
テーブル5は、電磁チャック本体61が配置される位置に貫通穴52を備える。貫通穴52には、主軸台40の工作主軸42が、挿通される。そして、主軸本体41が、貫通穴52に対応するテーブル5の裏面に固定される。電磁チャック本体61は、工作主軸42とともにG軸線回りに回転する。
【0018】
(1−2.電磁チャック装置(保持装置)の構成)
次に、本発明に係る電磁チャック装置60(保持装置)の構成について、図3図10に基づき詳細に説明する。電磁チャック装置60は、電磁チャック本体61と、3組の一対の吸着支持部材62,63と、制御装置64と、を備える。本発明に係る一対の吸着支持部材62,63は、電磁チャック本体61の面板61a上面に設けられる。
【0019】
電磁チャック本体61は、例えば鉄系の磁性材料によって、底部である面板61aを上側にして有底筒状に形成される。つまり、面板61aは、電磁チャック本体61の軸線方向から見た場合、外周が円形で形成される。
【0020】
図3に示すように、本実施形態では面板61aの上面に、8個(複数に相当)の磁極部71〜78を備える。各磁極部71〜78は、面板61aのG軸線(主軸線、中心軸線)回りで周方向に等角度間隔で分割され、それぞれ扇状に形成される。8個の磁極部71〜78の上面高さは全て同一である。
【0021】
なお、以降、磁極部71〜78の各上面を上面71a〜78aという。また、分割された各磁極部71〜78の間の境界(線)を境界71L〜78Lとする。このとき、71Lは、磁極部71と磁極部72との間の境界(線)である。また、境界78Lは、磁極部78と磁極部71との間の境界(線)である。他の磁極部72〜77と他の境界72L〜77Lとの関係も同様である。
【0022】
面板61aの上面と、磁極部71〜78の上面71a〜78aとは同一面である。8個の磁極部71〜78は、制御装置64の制御によって図略のコイルにそれぞれ電流が供給されると各々磁化される。磁化された8個の磁極部71〜78では、図3に示すようにS極及びN極が周方向に交互に形成される。なお、この態様に限らず、図3に示すS極をN極とし、N極をS極とするように制御してもよい。
【0023】
ただし、本実施形態においては、磁極部71〜78のうち、磁極部71,72,73,74,76,77の6極のみを制御装置64によって制御し、6極のみに磁気力を発生させればよい。しかし、上記態様に限らず、磁極部71〜78の全てに磁気力を発生させてもよい。なお、電磁チャック本体61は、内部に電磁石等(鉄心,コイル等)を備えるが、公知であるので、その構成、及び作動についての詳細な説明は省略する。
【0024】
(1−3.一対の吸着支持部材)
本実施形態では、面板61aの上面に一対の吸着支持部材62,63を3組備えている。図3に示すように各吸着支持部材62,63は、磁極部71,72の上面71a,72a、磁極部73,74の上面73a,74a及び磁極部76,77の上面76a,77aにそれぞれ配置される。
【0025】
つまり、各吸着支持部材62,63は、境界71L,73L,76Lの周方向両側にそれぞれ配置される。なお、周方向とは、面板61aの中心軸線Gを中心とする面板61a上面における周方向をいうものとする。以降の説明において、説明なく「周方向」とのみ記載した場合は、この周方向のことをいうものとする。
【0026】
3組の吸着支持部材62,63は、それぞれ同様の形状によって形成される。よって、以降では、主に磁極部76,77の上面76a,77aに配置される一対の吸着支持部材62,63のみを取り出し説明する。なお、本実施形態では、3組の吸着支持部材62,63は、周方向において、磁極部71〜78を2個(磁極部72,73),3個(磁極部74,75,76),及び3個(磁極部77,78,71)でそれぞれ区切ったときに形成される各境界73L,76L,71Lを跨いで周方向両側に配置する。つまり、3組の吸着支持部材62,63を配置する各境界71L,73L,76Lは、磁極部71〜78を、周方向において、ほぼ等角度間隔で分割し設定する。
【0027】
図3に示すように、吸着支持部材62,63は、8個の磁極部のうちの隣り合う異なる種類の磁極部76(N極),及び磁極部77(S極)間の境界76Lを挟んで配置される。また、図4図5に示すように、一対の吸着支持部材62,63は、下面62a,63a(第一平面に相当)と、対向面62b,63bと、上面62c,63c(第二平面に相当)と、背向面62d,63dと、径方向内側面62e,63eと、径方向外側面62f,63fと、を備える六面体の部材である。図6に示すように、下面62a,63aは、磁極部76,77の各上面76a,77aとそれぞれ接触面積(面積)S1,S1で接触する。
【0028】
図4に示すように対向面62b,63bは、境界76Lを挟んだ状態で、且つ対向する各対向面62b,63bが所定の隙間α1を有した状態で相互に平行に配置される。また対向面62b,63bは、境界76L及び電磁チャック本体61の中心軸線を含む仮想平面と平行である。
【0029】
所定の隙間α1は、吸着支持部材62,63による工作物Wの十分な吸着力(加工に必要な把持力)を得るために、吸着支持部材62,63を、相互にできるだけ接近させるため設定されるものであり、吸着支持部材62,63の上面62c,63c(図6斜線部参照)の間の距離である(面板61aの上面における周方向において、上面62c,63cの間における最も近い部分)。
【0030】
なお、上面62c,63cは、工作物Wが磁気力によって吸着される際、工作物Wの被吸着面Waと接触する。そして、接触した上面62c,63cによって工作物Wの被吸着面Waを吸着し固定する。図6に示すように、本実施形態においては、電磁チャック本体61の中心軸線方向から見た場合、上面62c,63cの各面積S2,S2は、下面62a,63aの接触面積S1,S1よりも小さく(S1>S2)、且つ境界76L側に寄って配置される。また、上面62c,63cでは、対向面62b,63b側の辺と対向する側の辺が面板61aの外周側から中心軸線(G)と交差する方向に向い傾斜して形成される。
【0031】
このように、上面62c,63cを下面62a,63aより小さくした上で、さらに相互に接近させること、つまり所定の隙間α1を小さくするにより、吸着支持部材62,63の上面62c,63cによって形成される工作物Wの被吸着面Wa(下面)を支持する支持部SP(図7参照)に応じた把持角度θ1を小さくすることができる。
【0032】
なお、このとき、支持部SPとは、図7に示すように、面板61aの中心軸線方向からみた場合において、工作物Wの被吸着面Waと、吸着支持部材62,63の上面62c,63cとが交差する範囲のうち、上面62c,63cの間の隙間α1分を含んだ斜線部の範囲をいう。そして、把持角度θ1は、面板61aの中心軸線(G)と、中心軸線方向からみた多角形の支持部SPの各頂点と、を結んだ各線分同士がなす角度のうち最大となる角度をいうものとする(図7参照)。
【0033】
これにより、工作物Wの被吸着面Wa(下面)を、3組の吸着支持部材62,63により3箇所で吸着し支持(固定)する際、被吸着面Waは、周方向においてそれぞれ把持角度θ1という十分狭い範囲で支持される。このため、被吸着面Waが、面板61aの上面の広い範囲で吸着固定された場合に生じやすい工作物Wの変形を効果的に抑制できる。
【0034】
なお、参考として把持角度θdeg(横軸)と工作物Wの変形量(縦軸)との関係を図8に示す。図8のグラフは、吸着支持部材62,63の支持幅の変化に対しての工作物Wの変形量を分析したものであり、CAE解析等によるものである(3点支持;3組の吸着支持部材62,63)。図8のグラフが示すように、把持角度θ2までの間においては、把持角度θが小さいほど工作物Wの変形量は小さいことがわかる。従って本実施形態で設定する所定の把持角度θ1は、0deg〜把持角度θ2までの間で設定されることが好ましい。
【0035】
しかしながら、所定の把持角度θ1を小さくするため、所定の隙間α1を小さくするにも限度がある。つまり、所定の隙間α1が小さすぎると、例えば、吸着支持部材62を通過する磁束の一部又は大部分が、対向面62bと対向する吸着支持部材63の対向面63bに向かい漏れてしまう場合がある。
【0036】
なお、対向面62bと対向面63bとの間の隙間α(横軸)と、吸着支持部材62,63及び工作物Wを通過する磁束密度Bの大きさ(縦軸)との関係を参考として図9のグラフで示す。図9のグラフは、CAE解析等によるものである。図9のグラフが示すように、隙間αがα2を越えるまでは、隙間αの大きさが増加すると磁束密度Bは増加する。これは、対向面62bと対向面63bとの間を通過する磁束の量(漏れ磁束量)が減少するためである。しかし、隙間α2を越えると磁束密度Bは減少する。これは、磁束が通過する磁路の全体の長さが長くなり抵抗となるためである。従って、本実施形態で設定する所定の隙間α1は、所望の磁束密度Bが得られる範囲Ar1内で設定されることが好ましい。
【0037】
このように、所定の隙間α1及び所定の把持角度θ1は、上記の各条件を両立させるよう事前の検討によって予め求め設定される。これにより、吸着支持部材62,63の上面62c,63cには、良好に磁気力が発生し工作物Wに対して十分な吸着力を得ることができる。
【0038】
そして。上記のように形成された上面62c,63c、下面62a,63a及び対向面62b,63bの各辺を接続して背向面62d,63d、径方向内側面62e,63e、及び径方向外側面62f,63fが形成される。図5に示すように、背向面62d,63dは、各対向面62b,63bに対してそれぞれ傾斜を有した状態で背向して形成される。
【0039】
つまり、背向面62d,63dは、電磁チャック本体61の中心軸線方向において、下方から上方に向って各対向面62b,63bとの距離が漸減するよう傾斜している。また、背向面62d,63dは、面板61aの外周側から中心軸線に向い各対向面62b,63bとの距離が漸減するよう傾斜している。なお、上記態様は、あくまで一例であって、吸着支持部材62,63は、少なくとも、下面、対向面、上面、及び背向面を備えていれば、どのように形成されても良い。
【0040】
また、面板61aの上面において、3組の吸着支持部材62,63が配置される位置は、図3に示すように、面板61aの中心軸線を中心とする同一円周上である。なお、このとき、3組の吸着支持部材62,63の各位置はどのように定義し設定してもよい。例えば、上述した支持部SPの重心が、面板61aの中心軸線を中心とする同一円周上に配置されるようにしてもよい。
【0041】
制御装置64は、電磁チャック装置60を構成するとともに、機能的構成として、コラム3の送りの制御、砥石台4の昇降の制御、主軸台40の回転と電磁チャック本体61の吸引の制御、砥石車9の回転の制御、及びデータやプログラムの記録等を行なう。制御装置64は、予め設定された制御データに基づき、各装置を制御することで研削を実施する。
【0042】
(1−4.研削盤の作動)
次に、研削盤1の作動について簡単に説明する。研削加工前において、工作物Wは、電磁チャック本体61の面板61a上に固定された3組の各吸着支持部材62,63の各上面62c、63c上に載置されるよう搬入される(図3参照)。以降、この位置を研削位置と称す。また、工作物Wは、加工終了後、3組の各吸着支持部材62,63の各上面62c、63cから搬出される。
【0043】
工作物Wの搬入及び搬出は、図略のロボットにより行われる。ロボットは、工作物Wの中心軸線を電磁チャック本体61の回転中心(中心軸線)と一致させた状態で、工作物Wを搬入するよう構成される。なお、工作物Wの搬入及び搬出は、作業者の手作業により行なってもよく、その場合の上記中心位置合わせは、治具等を用いて行なう。
【0044】
工作物Wの研削位置への搬入後、制御装置64は、工作物Wを磁気による吸着力(磁気力)によって電磁チャック本体61に固定された3組の各吸着支持部材62,63の各上面62c、63cに吸着固定する。このため、制御装置64は、磁極部71,72、磁極部73,74及び磁極部76,77の各コイルに電流を供給する。
【0045】
これにより、磁極部71,72、磁極部73,74及び磁極部76,77に磁束(磁力線)を発生させて通過させ磁気力を生じさせて工作物Wを各吸着支持部材62,63の各上面62c、63cに吸着固定する。このような状態において、制御装置64は、コラム3及び砥石車9を制御し、工作物Wの外周面を研削加工する。
【0046】
(1−5.電磁チャック装置の作用)
次に、電磁チャック装置60の作用について説明する。なお、作用の説明は、上記と同様、3組の各吸着支持部材62,63のうち、代表として、磁極部76,77に設けられた吸着支持部材62,63によって説明する。
【0047】
制御装置64の制御により磁束が通過する磁極部76(N極),及び磁極部77(S極)は、相互に異なる磁極(N極とS極)の組み合わせで構成されている。このため、図10に示すような磁束bの経路(磁路)が確実に形成される。磁路は、磁極部76(N極)→吸着支持部材62→工作物W→吸着支持部材63→磁極部77(S極)の順に形成される。なお、磁極部71(S極),72(N極)、及び磁極部73(S極),74(N極)も同様である。
【0048】
これにより、3組の吸着支持部材62,63が工作物Wの被吸着面Waに3箇所で接触し支持する各支持部SPでは、発生する磁気力によって被吸着面Waが強固に吸着される。しかし、このとき、3組の各吸着支持部材62,63間では、隙間αが、小さな所定の隙間α1で設定されている。このため、それぞれ被吸着面Waと接触する各上面62c、63cが各吸着支持部材62,63の各対向面62b,63bと接続される側、即ち境界76L側にそれぞれ寄って形成される。これにより、前述したように各支持部SP(図7参照)の把持角度θ1は十分小さい。
【0049】
このように、工作物Wは、支持部SPの把持角度θ1が十分小さな3組の吸着支持部材62,63によって、周方向の3箇所で支持される。従って、工作物Wは、各支持部SPでそれぞれ強固に吸着されているが、把持バランス及び把持による撓み力が最適な状態で、把持されている(把持バランス(工作物Wの重心位置が支持点群の内側)、把持による撓み力(支持点や工作物Wの形状による支持点間のずれから生じる工作物Wへの撓み力))。よって、工作物Wの全面が変形される虞は低い。また、工作物Wは、上述したように、3組の吸着支持部材62,63によって強固に吸着保持される。このため、外周面の研削加工時(図3参照)に、砥石車9との接点において、法線方向、及び接線方向に大きな研削抵抗を受けても工作物Wが吸着支持部材62,63の上面の研削位置からずれる虞はない。これにより、工作物Wは、精度よく研削加工される。
【0050】
(1−6.変形例)
なお、上記第一実施形態においては、磁極部を8極とした。しかしこの態様には限らず、磁極部は、4極以上、及び偶数個であり、且つ製作が可能であれば何極であってもよい。この場合においても、各吸着支持部材62,63は、本実施形態と同様に、周方向においてほぼ等角度間隔に配置されることが好ましい。
【0051】
また、上記第一実施形態においては、各吸着支持部材62,63を3組としたが、この態様にかぎらず、各吸着支持部材62,63は、4組〜8組のいずれかであってもよい。このような配置によって、工作物Wの形状が、単純な円環状でない場合であっても、工作物Wの形状に合わせて各吸着支持部材62,63の配置を変更することで、工作物Wを安定的に吸着し、支持(固定)できる。
【0052】
また、上記第一実施形態においては、3組の各吸着支持部材62,63は、それぞれ被吸着面Waと接触する各上面62c、63cが各吸着支持部材62,63の各対向面62b,63bと接続される側、即ち境界76L側にそれぞれ寄って形成された。しかし、この形態には限らない。変形例1(図略)として、各吸着支持部材62,63は、各上面62c、63cが、各下面62a、63aと平行で且つ同じ形状で形成されていてもよい。
【0053】
また、変形例2として、3組の各吸着支持部材62A,63Aは、図11に示すように背向面62dA,63dAが対向面62b,63bに対して傾斜していない直方体形状の部材でもよい。この場合、各支持部SPの把持角度θ1は、図11に示す部分の角度をいうものとする(各吸着支持部材62A,63Aと工作物Wの支持部)。これによっても、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0054】
また、上記第一実施形態においては、一対の吸着支持部材62,63は、下面62a,63a(第一平面に相当)と、対向面62b,63bと、上面62c,63c(第二平面に相当)と、背向面62d,63dと、径方向内側面62e,63eと、径方向外側面62f,63fと、を備えたが、変形例3として、径方向内側面62e,63eを備えていなくてもよい(図12参照)。この場合、各支持部SPの把持角度θ1は、図12に示す部分の角度をいうものとする(各吸着支持部材62,63と工作物Wの支持部の外側)。これによっても、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0055】
(1−7.実施形態による効果)
上記実施形態によれば、電磁チャック装置60は,電磁チャック本体61の面板61aの上面に形成される8個(複数)の磁極部71〜78を備える。そして、磁極部71〜78の磁気力によって工作物Wを吸着する。電磁チャック装置60は、面板61aの上面である磁極部71〜78の上面において各対向面62b,63bが所定の隙間α1を有して対向し配置される一対の吸着支持部材62,63を3組(少なくとも3組)備える。一対の吸着支持部材62,63は、それぞれ8個の磁極部71〜78のうちの隣り合う異なる種類の磁極部間の境界を挟んで配置される。各一対の吸着支持部材62,63の各下面62a,63a(第一平面)が、隣り合う磁極部の各上面に接触し、工作物Wが磁気力によって吸着される際、各下面62a,63a(第一平面)と背向する各上面62c,63c(第二平面)が、工作物Wの被吸着面Waと接触し被吸着面Waを吸着する。
【0056】
このように、電磁チャック装置60は、加工時における工作物Wを、(少なくとも)3組の吸着支持部材62,63によって被吸着面Waの一部のみを吸着し支持(固定)する。即ち、工作物Wは、被吸着面Wa全面で吸着され固定されない。このため、工作物Wが、被吸着面Wa全面で吸着されることにより、変形してしまう虞がない。また、電磁チャック装置60において、最も近接して隣り合う磁極部は、必ず異なる磁極(S極,N極)で形成される。このため、隣り合う磁極部に各対向面62b,63bが所定の隙間α1を有して配置される各一対の吸着支持部材62,63間では、確実に磁束の経路を形成することができる。従って、工作物Wは、被吸着面Wa全面で吸着され支持(固定)されなくても、十分な吸着力が得られるので、各一対の吸着支持部材62,63の上面に強固に保持される。これにより、例えば、電磁チャック本体61の面板61aの上面に吸着固定された工作物Wを砥石等の工具によって加工しても、工作物Wが工具から受ける切削又は研削抵抗の方向にずれてしまうことを良好に抑制できる。
【0057】
また、上記実施形態によれば、各一対の吸着支持部材62,63において、各下面62a,63a(第一平面)の面積S1は、各上面62c,63c(第二平面)の面積S2より大きい。従って、各上面62c,63c(第二平面)は、それぞれ対向する対向面62b,63b側に寄った状態で、且つ小さな面積で形成されるので、把持角度θ1を小さくすることができる。これにより、工作物Wを把持(支持)する部分(各一対の吸着支持部材62,63)が、一点での把持(支持)状態に近づく。従って、把持する場合の把持(支持)ずれが少なく(吸着支持部材62,63の幅や高さの誤差や変形などによる)、工作物Wへの撓み力が生じにくいので、各上面62c,63cに磁気力によって吸着されたときに、変形しにくい。
【0058】
また、上記実施形態によれば、電磁チャック装置60の面板61aは外周が円形に形成され、磁極部71〜78は、面板61a上面において、面板61aの中心軸線回りに等角度間隔で分割されて扇状に形成され、一対の吸着支持部材62,63は、磁極部71〜78の上面に3組配置される。そして、一対の吸着支持部材62,63が磁極部71〜78の上面において配置される位置は、中心軸線を中心とする同一円周上である。このように、一対の吸着支持部材62,63が、3組配置されることで、工作物Wを3点で把持(支持)することになる。従って、吸着支持部材62,63のずれや、配置精度不良等による把持(支持)点間のずれによる工作物Wへの撓み力が生じにくいので工作物の把持が良好に行なえる。
【0059】
また、上記実施形態によれば、一対の吸着支持部材62,63は、各対向面62b,63bとそれぞれ背向して形成される各背向面62d,63dが、面板61aの外周側から中心軸線に向い傾斜して形成される。これにより、一対の吸着支持部材62,63を面板61aの中心軸線方向に移動させても、各吸着支持部材62,63が配置される磁極内からはみだしにくい。このため、複数の径で形成された各工作物に対応ができる。
【0060】
また、上記実施形態によれば、研削盤1は、テーブル5と、テーブル5に設けられ、主軸線回りに回転可能な工作主軸42を有する主軸台40と、工作物Wの保持が可能な保持装置と、テーブル5に対して相対移動可能に設けられ、工作物Wが保持装置に位置決めされ保持された場合に、工作物Wを研削する砥石9と、を備え、保持装置は、上記で説明した電磁チャック装置60である。
【0061】
このように、工作物Wの研削が行なわれる研削盤1の保持装置に上記電磁チャック装置60を適用することによって、工作物Wを、変形していない状態で加工できるとともに、加工中に工作物Wが大きな研削抵抗を砥石から受けても面板上でずれることなく安定して研削できる。
【0062】
<2.その他>
なお、上記実施形態においては、本発明に係る電磁チャック装置60(保持装置)を研削盤1に適用したが、この態様には限らない。電磁チャック装置60はどのような加工機の保持装置として適用してもよい。また、加工機に限らず、部品を固定する固定具として、どのような装置に用いてもよい。これらによっても同様の効果が期待できる。
【0063】
また、上記実施形態においては、電磁チャック装置60の磁極部71〜78の磁化は、磁極用鋼材(図略)に巻いたコイル(図略)に通電することで実現するものとした。しかし、この態様には限らない。電磁チャック本体61の磁極部71〜78の磁化は、電磁チャック本体61内の永久磁石(図略)を移動することによって実現させる方式のものでもよい。これによっても同様の効果が得られる。
【0064】
また、電磁チャック装置60は、電磁チャック本体61が有底筒状で形成された。しかし、この態様には限らず、電磁チャック本体61Aが平面状で形成されても良い。この場合、例えば、面板上面の極磁部71〜74は、図13に示すように一列に整列して形成される。そして、このような、電磁チャック本体61Aの極磁部71〜74の上面に、図13に示すように、3組の各吸着支持部材62B,63Bを配置すればよい。そして、3組の各吸着支持部材62B,63Bによって、例えば円環状の工作物Wの被吸着面を吸着し固定すればよい。これによっても、上記実施形態と同様の効果が期待出来る。
【符号の説明】
【0065】
1;研削盤、 9;砥石車(砥石)、 40;主軸台、 42;工作主軸、 60;電磁チャック装置、 61,61A;電磁チャック本体、 61a;面板、 62,63,62A,63A,62B,63B;吸着支持部材、 62a,63a;第一平面(下面)、 62b,63b;対向面、 62c,63c;第二平面(上面)、 64;制御装置、 71〜78;磁極部、 71L〜78L;境界、 S1,S2;面積、 W;工作物、 α,α1,α2;隙間。
図1
図2
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図4
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図10
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図13