(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809358
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】ターボチャージャ用シャフト及びターボチャージャ
(51)【国際特許分類】
F02B 39/16 20060101AFI20201221BHJP
F02B 39/00 20060101ALI20201221BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20201221BHJP
F02C 3/05 20060101ALI20201221BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20201221BHJP
F01D 5/04 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
F02B39/16 Z
F02B39/00 R
F01D25/00 F
F02C3/05
F01D25/00 L
F02C7/00 C
F01D5/04
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-85603(P2017-85603)
(22)【出願日】2017年4月24日
(65)【公開番号】特開2018-184847(P2018-184847A)
(43)【公開日】2018年11月22日
【審査請求日】2020年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100163061
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】大蘆 嘉郎
【審査官】
北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−003032(JP,A)
【文献】
特開2000−192980(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2011−0136612(KR,A)
【文献】
特開昭64−33081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 39/16
F01D 5/04
F01D 25/00
F02B 39/00
F02C 3/05
F02C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気のエネルギを利用して吸気を過給するターボチャージャのタービンとコンプレッサとを接続するとともに、前記コンプレッサの近傍に配置されたコンプレッサ側軸受と前記タービンの近傍に配置されたタービン側軸受とによって軸支されたシャフトにおいて、
前記シャフトのうち前記コンプレッサ側軸受と前記コンプレッサとの間の領域に前記シャフトの周方向に亘って設けられて、予め設定された所定の荷重が加わった場合に破断するような破断強度に設定された低強度部を備え、
前記所定の荷重は、タービン側とコンプレッサ側との重量バランスが崩れた状態で前記ターボチャージャが回転することに起因して生じる衝撃荷重以上の値に設定されていることを特徴とするターボチャージャ用シャフト。
【請求項2】
前記低強度部は、前記領域の一部に切り欠き部が設けられることによって構成されている請求項1記載のターボチャージャ用シャフト。
【請求項3】
前記低強度部は、前記領域の一部に、前記シャフトの他の領域の材質よりも破断強度の低い材質からなる低強度材質部が設けられることによって構成されている請求項1に記載のターボチャージャ用シャフト。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のシャフトを備えることを特徴とするターボチャージャ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボチャージャ用シャフト及びこれを備えるターボチャージャに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの排気のエネルギを利用して吸気を過給するターボチャージャが知られている(例えば特許文献1参照)。このようなターボチャージャは、タービンと、コンプレッサと、タービン及びコンプレッサを接続するシャフトとを有しており、エンジンの排気のエネルギによってタービンが駆動し、このタービンが駆動すると、タービンにシャフトを介して接続されたコンプレッサが駆動して、吸気を過給する。また、シャフトは、コンプレッサの近傍に配置されたコンプレッサ側軸受と、タービンの近傍に配置されたタービン側軸受とによって軸支されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−197772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来のターボチャージャにおいて、何らかの原因で例えばタービンの一部が欠損する等して、タービン側とコンプレッサ側との重量バランスが崩れた場合、ターボチャージャのシャフトに対して、重量バランスが崩れたことに起因して生じる衝撃荷重が加わった状態でターボチャージャが回転する。この場合、ターボチャージャは大きく振動しながら回転することになるが、この状態で、ターボチャージャが回転を続けて、エンジンに過給し続けた場合、ターボチャージャの大きな振動が伝わった状態でエンジンが高出力で回転することになる。この場合、エンジンに二次的な被害が生じる可能性がある。
【0005】
本発明は、上記のことを鑑みてなされたものであり、その目的は、タービン側とコンプレッサ側との重量バランスが崩れた状態でターボチャージャが回転することに伴うエンジンの二次的な被害を抑制することができるターボチャージャ用シャフト及びターボチャージャを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明に係るターボチャージャ用シャフトは、エンジンの排気のエネルギを利用して吸気を過給するターボチャージャのタービンとコンプレッサとを接続するとともに、前記コンプレッサの近傍に配置されたコンプレッサ側軸受と前記タービンの近傍に配置されたタービン側軸受とによって軸支されたシャフトにおいて、前記シャフトのうち前記コンプレッサ側軸受と前記コンプレッサとの間の領域に
前記シャフトの周方向に亘って設けられて、予め設定された所定の荷重が加わった場合に破断するような破断強度に設定された低強度部を備え、前記所定の荷重は、タービン側とコンプレッサ側との重量バランスが崩れた状態で前記ターボチャージャが回転することに起因して生じる衝撃荷重以上の値に設定されていることを特徴とする。
【0007】
また、上記目的を達成するため、本発明に係るターボチャージャは、上記のシャフトを備えることを特徴とするターボチャージャである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、タービン側とコンプレッサ側との重量バランスが崩れた状態でターボ
チャージャが回転してシャフトの低強度部に対して所定の荷重(衝撃荷重以上の荷重)が加わった場合に、この低強度部が破断することで、シャフトのうち低強度部よりもコンプレッサ側の部分をシャフトの他の部分から分離させることができる。これにより、ターボチャージャによる過給を強制的に停止させることができる。この結果、エンジンの出力を低下させて、エンジンに二次的な被害が生じることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係るターボチャージャの模式的断面図である。
【
図2】ターボチャージャのコンプレッサ側軸受の近傍の模式的拡大図である。
【
図3】実施形態の変形例に係るターボチャージャのシャフトの低強度部を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係るターボチャージャ用シャフト13(以下、シャフト13と略称する)及び、これを備えるターボチャージャ10について、図面を参照しつつ説明する。なお、図面に関しては、構成が分かり易いように模式的に図示されており、各部材の厚みや幅、長さ等の比率は必ずしも実際の製品の比率と一致しているとは限らない。
【0011】
図1は、本実施形態に係るターボチャージャ10の構成を模式的に示す模式的断面図である。なお、
図1には、参考用としてX−Y−Zの直交座標が設けられている。このターボチャージャ10は、エンジン(図示せず)に接続されている。このエンジンの一例として、本実施形態では、ディーゼルエンジンを用いている。ターボチャージャ10は、タービン11と、コンプレッサ12と、シャフト13と、タービン側軸受14と、コンプレッサ側軸受15と、タービンハウジング16と、コンプレッサハウジング17とを備えている。なお、
図1に図示されている軸線22は、シャフト13の軸線(中心軸を示す線)である。
【0012】
タービン11及びコンプレッサ12は、シャフト13によって接続されている。タービン11は、複数枚のタービン翼を有するタービン翼車によって構成されている。コンプレッサ12も、複数枚のコンプレッサ翼を有するコンプレッサ翼車によって構成されている。シャフト13は、タービン11の近傍に配置されたタービン側軸受14と、コンプレッサ12の近傍に配置されたコンプレッサ側軸受15とによって軸支されている。なお、本実施形態に係るシャフト13の材質は一例として、焼き入れ加工が施された鋼である。
【0013】
タービンハウジング16は、その内部にタービン11を収容している。コンプレッサハウジング17は、その内部にコンプレッサ12を収容している。タービンハウジング16には、排気スクロール部18及び排気出口19が設けられている。コンプレッサハウジング17には、吸気入口20及び吸気スクロール部21が設けられている。エンジンから排出された排気(E)は、排気スクロール部18に流入し、次いで、タービン11に当接し、その後、排気出口19から排出される。コンプレッサハウジング17の吸気入口20には、ターボチャージャ10よりも上流側の吸気(A)が流入する。
【0014】
タービン11は、排気スクロール部18から流入した排気のエネルギを受けて回転する。タービン11が回転すると、シャフト13を介してタービン11に接続されたコンプレッサ12も回転する。コンプレッサ12が回転することにより、コンプレッサ12は吸気を過給する。この過給された吸気は吸気スクロール部21から排出されてエンジンに供給される。このようにしてターボチャージャ10は排気のエネルギを利用して吸気を過給している。
【0015】
図2は、ターボチャージャ10のコンプレッサ側軸受15の近傍を拡大して示す模式的
拡大図である。シャフト13のうちコンプレッサ側軸受15とコンプレッサ12との間の領域(以下、「コンプレッサ側シャフト領域」と称する)には、低強度部25が設けられている。この低強度部25は、予め設定された所定の荷重が加わった場合に破断するような破断強度に設定されている。この「所定の荷重」の詳細は後述する。
【0016】
なお、シャフト13のうちタービン側軸受14とタービン11との間の領域(以下、「タービン側シャフト領域」と称する)には、このような低強度部25は設けられていない。
【0017】
本実施形態に係る低強度部25は、コンプレッサ側シャフト領域の一部に切り欠き部26が設けられることによって構成されている。具体的には、この切り欠き部26は、コンプレッサ側シャフト領域の一部に、断面V字状又は断面U字状の溝がシャフト13の周方向に形成されることによって構成されている。
【0018】
前述したように、低強度部25の破断強度は予め設定された所定の荷重が加わった場合に破断するような強度であるが、本実施形態では、この「所定の荷重」として、タービン側とコンプレッサ側との重量バランスが崩れた状態でターボチャージャ10が回転することに起因して生じる衝撃荷重以上の値が設定されている。
【0019】
この「所定の荷重」の具体的な値は、例えば、シミュレーションや実験等で適切な値を設定すればよいが、一例として、以下の手法を用いて決定することができる。
【0020】
まず、ターボチャージャ10においては、特にタービン11のタービン翼部分が高回転で共振を起こすことで、タービン翼の一部(すなわちタービン11の一部)が欠損することが考えられる。このようにタービン11の一部が欠損した場合において、この欠損した質量をm
t(kg)とし、この質量m
tの等価回転半径をr
t(m)とし、タービン11の回転角速度をω(rad/s)としたとき、タービン11の一部が欠損することよって生じる荷重F
t(アンバランスによる荷重;N)は下記式(1)となる。
【0022】
したがって、タービン11の一部が欠損することによってタービン側とコンプレッサ側との重量バランスが崩れた状態でターボチャージャ10が回転した場合、上記(1)のF
tが衝撃荷重として生じる。
【0023】
そこで、「所定の荷重」として、このF
tを用いることができる。具体的には、ターボチャージャ10について、上記のF
tを計算し、このF
tが低強度部25に対して曲げ応力として付加された場合にシャフト13が低強度部25において破断するように、切り欠き部26の寸法を設定すればよい。
【0024】
あるいは、「所定の荷重」として、以下の値を用いることもできる。具体的には、上記のF
tが発生した状態でタービン11が回転し続けた場合、コンプレッサ側軸受15からシャフト13に対してシャフト13を屈曲させるような荷重が発生し、この結果、シャフト13が軸線22に対してr’(m)だけ偏心した状態で回転し続けることが考えられる。この場合、シャフト13が偏心して回転することによって、下記式(2)に示す荷重F
c(シャフト13の偏心による荷重;N)が発生する。なお、式(2)においてm
c(kg)はコンプレッサ12の質量である。
【0025】
F
c=m
c×r’×ω
2・・・・(2)
【0026】
そこで、「所定の荷重」として、下記式(3)に示す荷重F
total(N)、すなわち、衝撃荷重F
tとシャフト13の偏心による荷重F
cとを合算させた荷重を用いることもできる。
【0027】
F
total=F
t+F
c・・・(3)
【0028】
「所定の荷重」としてF
totalを用いる場合においても、ターボチャージャ10についてF
totalを計算し、このF
totalが低強度部25に対して曲げ応力として付加された場合にシャフト13が低強度部25において破断するように、切り欠き部26の寸法を設定すればよい。
【0029】
以上のような本実施形態によれば、タービン側とコンプレッサ側との重量バランスが崩れた状態でターボチャージャ10が回転してシャフト13の低強度部25に対して所定の荷重(衝撃荷重以上の値)が加わった場合に、この低強度部25が破断することで、シャフト13のうち低強度部25よりもコンプレッサ側の部分をシャフト13の他の部分から分離させることができる。すなわち、本実施形態によれば、所定の荷重が加わった場合にタービン側ではなくコンプレッサ側を優先的に破断させることができる。これにより、ターボチャージャ10による過給を強制的に停止させて、エンジンの出力を低下させることができる。
【0030】
この結果、本実施形態によれば、重量バランスの崩れたターボチャージャ10の大きな振動がエンジンに伝わった状態で、エンジンが高出力で回転することを抑制できる。これにより、エンジンに二次的な被害が生じることを抑制することができる。具体的には、エンジンの例えば燃料配管が大きな振動で損傷する等の二次的な被害が生じることを抑制できる。この結果、修理コストの低減を図ることができる。また、安全性を確保することもできる。
【0031】
(実施形態の変形例)
図3は、実施形態の変形例に係るターボチャージャ10aのシャフト13aの低強度部25aを説明するための模式図である。具体的には、
図3は、本変形例に係るターボチャージャ10aのコンプレッサ側軸受15の近傍を拡大して模式的に図示している。
【0032】
本変形例に係る低強度部25aは、低強度部25aの一部に、シャフト13aの他の領域の材質よりも破断強度の低い材質からなる低強度材質部27を備えている。
【0033】
具体的には、低強度材質部27は、シャフト13aのコンプレッサ側シャフト領域の一部に、シャフト表面から所定距離内側の範囲に亘ってリング状に設けられている。換言すると、本変形例に係るシャフト13aのコンプレッサ側シャフト領域の一部には、断面U字状又は断面V字状の低強度材質部27がシャフト13aの周方向に亘って設けられている。
【0034】
また、この低強度材質部27は、熱処理加工が施されることによって、シャフト13aの他の部分よりも破断強度の低い材質になっている。この一例として、本変形例においては、シャフト13aのうち、低強度材質部27以外の部分は、焼き入れされた鋼(焼き入れ鋼)によって構成されており、一方、低強度材質部27は、焼きなましされた鋼(焼きなまし鋼)によって構成されている。これにより、低強度材質部27の材質の破断強度はシャフト13aの他の領域の材質の破断強度よりも低くなっている。そして、本変形例においても、低強度部25aは、低強度材質部27を有することによって、予め設定された所定の荷重(衝撃荷重以上の荷重)が加わった場合に破断するような破断強度に設定されている。
【0035】
本変形例においても、前述した実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0036】
以上本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0037】
10,10a ターボチャージャ
11 タービン
12 コンプレッサ
13,13a シャフト(ターボチャージャ用シャフト)
14 タービン側軸受
15 コンプレッサ側軸受
25,25a 低強度部
26 切り欠き部
27 低強度材質部