(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Si:0.70〜0.95質量%、Fe:0.10〜0.85質量%、Mn:0.40〜1.80質量%、Mg:0.25〜0.35質量%、Ti:0.005〜0.10質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、引張り強度が190MPa以上、0.2%耐力が155MPa未満、伸びの値が15%以上、且つ、2%予歪導入後に170℃×20分間の時効処理を施した後の0.2%耐力が160MPa以上の特性を示す、成形性、曲げ加工性及び形状凍結性に優れた高強度アルミニウム合金板。
Si:0.70〜0.95質量%、Fe:0.10〜0.85質量%、Mn:0.40〜1.80質量%、Mg:0.25〜0.35質量%、Ti:0.005〜0.10質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなる成分組成のアルミニウム合金溶湯を薄スラブ連続鋳造機を用いて厚み2〜15mmのスラブを連続的に鋳造し、前記スラブに熱間圧延を施すことなく直接ロールに巻き取り、最終冷延率70〜95%の冷間圧延を施し、連続焼鈍炉により保持温度450〜570℃で10〜60秒保持して急冷し、自然時効を行い、人工時効処理を施すことを特徴とする、請求項1又は2に記載の、成形性、曲げ加工性及び形状凍結性に優れた高強度アルミニウム合金板の製造方法。
前記人工時効処理が、加熱炉にて保持温度160〜270℃で1〜48時間保持する処理である、請求項3に記載の成形性、曲げ加工性及び形状凍結性に優れた高強度アルミニウム合金板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
自動車用ボディーシートとして、アルミニウム合金板を適用するためには、プレス金型によって所望の形状に成形する必要があり、集合組織を制御した、いわゆるプレス成形性に優れた5000系アルミニウム合金板が開発されてきた。5000系アルミニウム合金板は、マトリックスにMgが固溶する固溶体強化によって、強度、深絞り成形性が優れているため、従来から自動車用ボディーシート材料として使用されてきた。
【0003】
例えば、特許文献1では、Al−Mg系合金板であって、2wt%≦Mg≦6wt%のMgを含有し、Fe、Mn、Cr、Zr、及びCuの内から選ばれる1種以上を総和で0.03wt%以上(Cuが選択される場合はCuとして0.2wt%以上)含有し、且つ個々の元素の含有率がFe≦0.2wt%、Mn≦0.6wt%、Cr≦0.3wt%、Zr≦0.3wt%、Cu≦1.0%であり、残部がAlおよび不可避不純物である組成であり、CUBE方位の体積分率とS方位の体積分率の比(S/Cube)が1以上、GOSS方位が5%以下の集合組織を有し、且つ結晶粒径が20〜100μmの範囲にあることを特徴とする深絞り成形性に優れるAl−Mg系合金板が開発されている。
【0004】
さらに自動車用ボディーシートは、プレス成形後に焼き付け塗装されるため、いわゆるべークハード性に優れることが要求されている。このため、溶体化処理の後に予備時効を施した、いわゆるプレス成形性、低温焼付硬化性に優れた6000系アルミニウム合金板も開発されてきた。
【0005】
例えば、特許文献2には、時効処理されたアルミニウム合金板であって、重量%で(以下、同じ)、Mg:0.15〜2.0%、Si:0.2〜2.0%及びSn:0.03〜0.3%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなることを特徴とするプレス成形性、焼付硬化性に優れたAl−Mg−Si系アルミニウム合金板が記載されている。
特許文献2によれば、プレス成形性、低温焼付硬化性の少なくとも一方が一層向上したアルミニウム合金板を提供することができる、とされている。
【0006】
ところで、自動車用ボディーシートは、アウターパネルとインナーパネルとをカシメて一体化させるため、ヘム曲げ加工を施す必要がある。しかしながら、6000系アルミニウム合金板は5000系アルミニウム合金板に比べ、いわゆる曲げ加工性などが劣るため、曲げ加工後の微小割れや肌荒れを防止することが必要となっている。特に曲げ加工では、高密度なせん断帯の形成が原因とみられる微小割れなどの不良が発生するケースも多く見られ、各種金属間化合物の量的割合を適切に制御することも課題となっている。さらに薄肉高強度化が要求される中で、プレス成形後のスプリングバックを抑制する必要も生じている。
【0007】
例えば、特許文献3には、Si:0.4〜1.5%(質量%、以下同じ)、Mg:0.2〜1.2%を含有し、不純物として含有するFeが1.0%以下であり、残部Alおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金溶湯圧延板材のT4調質材であって、該板材中に存在するAl−Fe−Si系化合物のうち、Mg
2Si化合物と共存するAl−Fe−Si系化合物の量的割合が50%以下であることを特徴とする曲げ加工性に優れたAl−Mg−Si系合金板材が記載されている。
特許文献3によれば、プレス加工後の曲げ加工における割れの発生を抑制し、自動車外板として適用可能なプレス加工後の曲げ加工性に優れたAl−Mg−Si系合金板材が提供できる、とされている。
【0008】
また、特許文献4には、Feを1.0〜2.0質量%、さらにMnを2.0質量%以下含有し、残部がアルミニウムおよび不可避不純物からなり、当該不可避不純物としてのTiが0.01質量%以下に制限された成分組成を有するとともに、平均結晶粒径が20μm以下、{110}方位結晶の面積率が25%以上に調整された組織を有することを特徴とする成形性に優れたアルミニウム合金板が記載されている。
特許文献4によれば、電磁撹拌しながら半連続鋳造(DC鋳造)することで、35%以上の伸び、0.85以上の平均r値、33mm以上の球頭張出高さ、および2.17以上の限界絞り比の全てを達成できる、とされている。
【0009】
さらに、特許文献5には、Mn:1.0〜1.6質量%、Fe:0.1〜0.8質量%、Si:0.5〜1.0質量%、Ti:0.005〜0.10質量%を含有し、不純物としてのMgを0.10質量%未満に規制し、残部がAlおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、金属組織は、円相当径1μm以上の第二相粒子の面積率が1.5〜3.5%であり、平均結晶粒径が20〜50μm、板面に平行な{100}方位結晶の面積率と板面に平行な{123}<634>方位結晶の面積率との比であるAR{100}/AR{123}<634>比が4.8以上である再結晶集合組織を呈するとともに、引張強度155MPa以上、0.2%耐力100MPa以下、伸び26%以上であることを特徴とする曲げ加工性と形状凍結性に優れた高強度アルミニウム合金板が記載されている。
特許文献5によれば、自動車用ボディーシートに適用可能な高強度を有しており、圧延集合組織を焼鈍して得られた再結晶集合組織を調整し、成形性、特に曲げ加工性および形状凍結性に優れた3000系アルミニウム合金板を提供できる、とされている。
【0010】
加えて、特許文献6には、Si:0.5〜1.4質量%、Fe:0.3〜1.1質量%、Cu:0.1〜0.3質量%、Mg:0.03〜0.6質量%、Mn:0.7〜1.4質量%、Ti:0.01〜0.1質量%、及び残部:Al及び不純物からなり、不純物としてのZnが1.0質量%未満、不純物としてのCrが0.1質量%未満、不純物としてのNiが0.1質量%以下である成分組成を有し、引張り強度が180MPa超、0.2%耐力が140MPa未満、及び伸びの値が23%以上であり、再結晶粒の平均粒径が30μm未満である冷延焼鈍材であることを特徴とするアルミニウム合金板が記載されている。
特許文献6によれば、元スラブ鋳造時にMn及びFeを含有する2次合金地金を多く配合することができ、リサイクル性に優れ、自動車用ボディーシートなどに適用可能な成形性及び形状凍結性に優れるアルミニウム合金板を提供できる、とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
確かに5000系、6000系のアルミニウム合金板は、成形性に優れており、自動車用ボディーシートとしての特性を備えている。しかしながら、Mgを必須元素として含むアルミニウム合金板では、表面に生成される酸化皮膜が比較的厚く、プレス成形前に酸洗い等の表面処理が必要とされる場合がある。さらに、プレス成形時にストレッチャ・ストレインマークや、リジングなどの表面模様が発生する場合がある。また、6000系のアルミニウム合金板は、最終板製造後の自然時効によって、その機械的特性が経時変化することが懸念される。
【0013】
また、特許文献4には、必須元素としてMgを含有しない3000系、8000系のアルミニウム合金板が記載されているものの、得られた鋳塊の両面を面削した後、均質化熱処理、圧延加工、最終焼鈍する必要があり、工程数が多くコスト高となっていた。
【0014】
さらに、特許文献5には、工程数の少ない製造方法でMg含有量を規制した3000系アルミニウム合金板を提供できることが記載されているものの、プレス成形時の形状凍結性を高めるために、0.2%耐力を100MPa以下に規制しており、プレス成形−焼き付け塗装後の耐力不足が懸念される。
【0015】
加えて、特許文献6には、工程数の少ない製造方法でMgを含有する3000系アルミニウム合金板を提供できることが記載されているものの、プレス成形時の形状凍結性を高めるために、0.2%耐力を140MPa未満に規制しており、プレス成形−焼き付け塗装後の耐力不足が懸念される。
【0016】
以上のことから、必須元素としてMgを含み、且つ成形性、曲げ加工性に優れた高強度のアルミニウム合金板を開発する必要がある。また、自動車外板用ボディーシートとして使用する場合には、成形性、特に優れた曲げ加工性を備えることは当然のこととして、さらに最終板製造後の機械的特性の経時変化を抑制するとともに、プレス成形後のスプリングバックを抑制する必要もある。したがって、最終板製造後の機械的特性の経時変化が抑制された成形性、曲げ加工性及び形状凍結性に優れた高強度3000系アルミニウム合金板の開発が望まれている。
【0017】
本発明は、このような課題を解決するために案出されたものであり、自動車外板用ボディーシートに適用可能な高強度を有しており、最終板製造後の機械的特性の経時変化が抑制された、成形性、曲げ加工性及び形状凍結性に優れた高強度3000系アルミニウム合金板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の曲げ加工性に優れた高強度アルミニウム合金板は、その目的を達成するために、Si:0.70〜0.95質量%、Fe:0.10〜0.85質量%、Mn:0.40〜1.80質量%、Mg:0.25〜0.35質量%、Ti:0.005〜0.10質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、引張り強度が190MPa以上、0.2%耐力が155MPa未満、伸びの値が15%以上、且つ、2%予歪導入後に170℃×20分間の時効処理を施した後の0.2%耐力が160MPa以上の特性を示すことを特徴とする。さらに、0.2%耐力が140MPa〜155MPa未満であることが好ましい。
【0019】
本発明の成形性、曲げ加工性及び形状凍結性に優れたアルミニウム合金板の製造方法は、Si:0.70〜0.95質量%、Fe:0.10〜0.85質量%、Mn:0.40〜1.80質量%、Mg:0.25〜0.35質量%、Ti:0.005〜0.10質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなる成分組成を有するアルミニウム合金溶湯を薄スラブ連続鋳造機を用いて厚み2〜15mmのスラブを連続的に鋳造し、上記スラブに熱間圧延を施すことなく直接ロールに巻き取り、最終冷延率70〜95%の冷間圧延を施し、連続焼鈍炉により保持温度450〜570℃で10〜60秒保持して急冷し、自然時効を行い、人工時効処理を施すことを特徴とする。さらに、上記人工時効処理は、加熱炉にて保持温度160〜270℃で1〜48時間保持する処理であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のアルミニウム合金板は、高い強度を有するとともに成形性、曲げ加工性及び形状凍結性に優れている。Mgを含有する3000系合金溶湯を薄スラブ連続鋳造機によって、連続的に鋳造して直接ロールに巻き取り、均質化処理や中間焼鈍することなく、最終板厚まで冷間圧延を施すため、スラブ中のMn固溶量を高く保つことができる。また、Mgを含有する3000系合金の冷延材を、連続焼鈍炉により、急速加熱、急速冷却し、その後自然時効を行った後、人工時効処理を施して最終板を製造しているので、Mg
2Siの時効析出によって強度を高めておくことができる。特に人工時効処理を施したものであることから最終板製造後の機械的特性の経時変化が少なくなるため、安定した曲げ加工性やプレス成形性を付与することができる。
したがって、本発明により、自動車外板用ボディーパネル等に適用可能な成形性、曲げ加工性及び形状凍結性に優れた高強度アルミニウム合金板が廉価で提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
従来の3000系アルミニウム合金板は、高強度であっても、特に曲げ加工では、微小割れや外観肌荒れなどの不良が発生するケースも多く見られる。このため、スラブ鋳造時の冷却速度を適切に制御して、金属間化合物のサイズについても適切に調整しておく必要がある。しかも、3000系アルミニウム合金板は、その成分組成あるいは製造工程によっては強度が低い場合もあり、プレス成形−焼き付け塗装後の耐力が不足するという問題もある。
したがって、用いる材料として、高強度で、且つ成形性、曲げ加工性及び形状凍結性に優れたものが求められる。
【0022】
前述のように、プレス成形後のスプリングバックを抑制するために、例えば、Mgの含有量を規制した上で、薄スラブ連続鋳造機によって、鋳造時のスラブ冷却速度を高めて、金属間化合物のサイズを制御する等、鋳造工程に工夫を凝らす方法もある。しかしながら、3000系アルミニウム合金板においてMgの含有量を規制すると、プレス成形−焼き付け塗装後の耐力が低下してしまう傾向にある。したがって、プレス成形−焼き付け塗装後の耐力を向上させるためには、Mgを適量含有させることが必要である。
【0023】
一方、Mgを含有する3000系アルミニウム合金板においては、強度が高くなるものの、その成分組成や製板条件にもよるが、最終板製造後の自然時効によってMg
2Si等が析出することで、機械的特性が経時変化することが懸念される。このように、Mgを含有する3000系アルミニウム合金板では、最終板製造後の機械的特性の経時変化を少なくして、安定した曲げ加工性やプレス成形性を付与することが必要となる。
本発明者等は、Mgを含有する3000系アルミニウム合金板の調査を通じて、成形性、曲げ加工性及び形状凍結性に優れたアルミニウム合金板を得るべく鋭意検討を重ね、本発明に到達した。
以下にその内容を説明する。
【0024】
まず、本発明の3000系アルミニウム合金板に含まれる各元素の作用、適切な含有量等について説明する。
〔Si:0.70〜0.95質量%〕
Siは、鋳塊鋳造時の冷却速度にもよるが、Al−(Fe・Mn)−Si等の微細な金属間化合物を晶出させ、一部はマトリックス内に固溶し、アルミニウム合金板の強度を高める。人工時効処理では、自然時効によってマトリックスに析出した微細なクラスターを核として、Mg
2Siが均一微細に析出してさらに強度を高めるので、Siは必須の元素である。
Si含有量が0.70質量%未満であると、Al−(Fe・Mn)−Si等の金属間化合物のサイズと数が減少するとともに、さらにMg
2Siの析出量も減少するため、所定の強度が得られず、好ましくない。Si含有量が0.95質量%を超えると、アルミニウム合金板の強度は高くなるものの、形状凍結性や曲げ加工性が低下するため、好ましくない。
したがって、Si含有量は、0.70〜0.95質量%の範囲とする。より好ましいSi含有量は、0.75〜0.95質量%の範囲である。さらに好ましいSi含有量は、0.80〜0.95質量%の範囲である。
【0025】
〔Fe:0.10〜0.85質量%〕
Feは、スラブ鋳造時の冷却速度にもよるが、Al−(Fe・Mn)−Si等の微細な金属間化合物を晶出させ、アルミニウム合金板の耐力を増加させるので、必須の元素である。
Fe含有量が0.10質量%未満であると、地金のコストが増加するため、好ましくない。Fe含有量が0.85質量%を超えると、Al−(Fe・Mn)−Si等の金属間化合物のサイズと数が増加することにより、形状凍結性や曲げ加工性が劣化するため、好ましくない。
したがって、Fe含有量は、0.10〜0.85質量%の範囲とする。より好ましいFe含有量は、0.10〜0.80質量%の範囲である。さらに好ましいFe含有量は、0.15〜0.80質量%の範囲である。
【0026】
〔Mn:0.40〜1.80質量%〕
Mnは、アルミニウム合金板の耐力を増加させる元素であり、一部はマトリックス中に固溶して固溶体強化を促進するため、必須元素である。また、Mnは、本発明の合金組成の範囲内では、鋳造時にAl-(Fe・Mn)−Si等の微細な金属間化合物を構成する元素でもあり、さらに溶体化処理時には、マトリックスに固溶していたMnも、一部微細な金属間化合物として析出し、耐力を高くする。
Mn含有量が1.80質量%を超えると、形状凍結性が低下するため、好ましくない。また、Mn含有量が0.40質量%未満であると、アルミニウム合金板の強度が低くなりすぎて、好ましくない。
したがって、好ましいMn含有量は、0.40〜1.80質量%の範囲とする。より好ましいMn含有量は、0.40〜1.70質量%の範囲である。さらに好ましいMn含有量は、0.40〜1.60質量%の範囲である。
【0027】
〔Mg:0.25〜0.35質量%〕
Mgは、マトリックス中に固溶して固溶体強化を促進して、アルミニウム合金板の耐力を高める。人工時効工程では、自然時効によってマトリックスに析出した微細なクラスターを核として、Mg
2Siが均一微細に析出してさらに強度を高めるので、必須の元素である。
Mg含有量が0.35質量%を超えると、形状凍結性や曲げ加工性が低下するため、好ましくない。また、Mg含有量が0.25質量%未満であると、アルミニウム合金板の強度が低くなりすぎて、好ましくない。
したがって、好ましいMg含有量は、0.25〜0.35質量%の範囲とする。より好ましいMg含有量は、0.25〜0.33質量%の範囲である。さらに好ましいMg含有量は、0.27〜0.33質量%の範囲である。
【0028】
〔Ti:0.005〜0.10質量%〕
Tiは鋳塊鋳造時に結晶粒微細化剤として作用し、鋳造割れを防止することができるので、必須の元素である。勿論、Tiは単独で添加してもよいが、Bと共存することによりさらに強力な結晶粒の微細化効果を期待できるので、Al−5%Ti−1%Bなどのロッドハードナーでの添加であってもよい。
Ti含有量が、0.005質量%未満であると、鋳塊鋳造時の微細化効果が不十分なため、鋳造割れを招くおそれがあり、好ましくない。Ti含有量が、0.10質量%を超えると、鋳塊鋳造時にTiAl
3等の粗大な金属間化合物が晶出して、最終板におけるプレス成形性や曲げ加工性を低下させるおそれがあるため、好ましくない。
したがって、Ti含有量は、0.005〜0.10質量%の範囲とする。より好ましいTi含有量は、0.005〜0.07質量%の範囲である。さらに好ましいTi含有量は、0.01〜0.05質量%の範囲である。
なお、Ti含有量については、さらに好ましい範囲を、好ましい範囲に対して下限値及び上限値のいずれも減縮することで規定しているが、さらに好ましい範囲は、下限値及び上限値のそれぞれについて単独で適用でき、双方同時にのみ適用する必要はない。
【0029】
〔Cu:0.05質量%未満〕
本願発明において、Cuは不可避的不純物である。本発明において、Cu含有量は、0.05質量%未満の範囲であれば、形状凍結性や曲げ加工性が著しく低下することはない。しかしながら、Cu含有量が0.05質量%以上であると、形状凍結性や曲げ加工性が著しく低下する。したがって、好ましいCuの含有量は、0.05質量%未満の範囲とする。より好ましいCu含有量は、0.03質量%未満の範囲である。さらに好ましいCu含有量は、0.02質量%未満の範囲である。
【0030】
〔その他の不可避的不純物〕
不可避的不純物は原料地金、返り材等から不可避的に混入する管理外元素であって、それらの許容できる含有量は、例えば、Crの0.20質量%未満、Znの0.20質量%未満、Niの0.10質量%未満、Ga及びVの合計で0.05質量%未満、Pb、Bi、Sn、Na、Ca、Srについては、それぞれ0.02質量%未満、その他各0.05質量%未満であって、この範囲で管理外元素を含有しても本発明の効果を妨げるものではない。
【0031】
ところで、3000系アルミニウム合金板を自動車用ボディーシート等に適用するに当たっては、高強度と優れたプレス成形性及び曲げ加工性を有するだけでなく、プレス成形後のスプリングバックを抑制するため、最終板の耐力を低く抑える必要がある。また、プレス成形−焼き付け塗装後の耐力は高くすることが必要である。プレス成形品の耐力が高いと、自動車の車体用パネルの設計の自由度が高まる。
材料の強度は引張り試験を行った時の引張り強度で、成形性は引張り試験時の伸びの値で、また形状凍結性は引張り試験時の耐力によって知ることができる。また、プレス成形−焼き付け塗装後の耐力を模擬して、2%予歪導入後に170℃×20分間の時効処理を施した後の0.2%耐力を測定することで、焼き付け塗装後のプレス成形品の耐力を知ることができる。
詳細は後記の実施例の記載に譲るとして、自動車外板用ボディーシート等に適用する本発明の3000系アルミニウム合金板としては、人工時効処理された最終板として、引張り強度が190MPa以上、0.2%耐力が155MPa未満、伸びの値が15%以上、且つ、2%予歪導入後に170℃×20分間の時効処理を施した後の0.2%耐力が160MPa以上の特性を示すものが好適である。さらに、0.2%耐力が140MPa〜155MPa未満であることが好ましい。0.2%耐力が140MPa以上であれば、最終板の搬送中に傷がつき難い。
【0032】
また詳細は後記の実施例の記載に譲るとして、いずれにしても、上記特定の成分組成を有し、且つ引張り強度が190MPa以上、0.2%耐力が155MPa未満、伸びの値が15%以上、且つ、2%予歪導入後に170℃×20分間の時効処理を施した後の0.2%耐力が160MPa以上なる値を呈するものが、本発明の成形性、曲げ加工性および形状凍結性に優れた高強度アルミニウム合金板となる。
【0033】
次に、上記のようなプレス成形用アルミニウム合金板を製造する方法の一例について簡単に紹介する。
〔溶解・溶製〕
溶解炉に原料を投入し、所定の溶解温度に到達したら、フラックスを適宜投入して攪拌を行い、さらに必要に応じてランス等を使用して炉内脱ガスを行った後、鎮静保持して溶湯の表面から滓を分離する。
この溶解・溶製では、所定の合金成分とするため、母合金等再度の原料投入も重要ではあるが、上記フラックス及び滓がアルミニウム合金溶湯中から湯面に浮上分離するまで、鎮静時間を十分に取ることが極めて重要である。鎮静時間は、通常30分以上取ることが望ましい。
【0034】
溶解炉で溶製されたアルミニウム合金溶湯は、場合によって保持炉に一端移湯後、鋳造を行なうこともあるが、直接溶解炉から出湯し、鋳造する場合もある。より望ましい鎮静時間は45分以上である。
必要に応じて、インライン脱ガス、フィルターを通してもよい。
インライン脱ガスは、回転ローターからアルミニウム溶湯中に不活性ガス等を吹き込み、溶湯中の水素ガスを不活性ガスの泡中に拡散させ除去するタイプのものが主流である。不活性ガスとして窒素ガスを使用する場合には、露点を例えば−60℃以下に管理することが重要である。鋳塊の水素ガス量は、0.20cc/100g以下に低減することが好ましい。
【0035】
鋳塊の水素ガス量が多い場合には、鋳塊の最終凝固部にポロシティが発生するおそれがあるため、冷間圧延工程における1パス当たりの圧下率を例えば20%以上に規制してポロシティを潰しておくことが好ましい。また、鋳塊に過飽和に固溶している水素ガスは、冷延コイルの熱処理条件にもよるが、最終板のプレス成形後であっても、例えばスポット溶接時に析出して、スポットビードに多数のブローホールを発生させる場合もある。このため、より好ましい鋳塊の水素ガス量は、0.15cc/100g以下である。
【0036】
〔薄スラブ連続鋳造〕
薄スラブ連続鋳造機は、双ベルト鋳造機、双ロール鋳造機の双方を含むものとする。
双ベルト鋳造機は、エンドレスベルトを備え上下に対峙する一対の回転ベルト部と、当該一対の回転ベルト部の間に形成されるキャビティーと、上記回転ベルト部の内部に設けられた冷却手段とを備え、耐火物からなるノズルを通して上記キャビティー内に金属溶湯が供給されて連続的に薄スラブを鋳造するものである。
双ロール鋳造機は、エンドレスロールを備え上下に対峙する一対の回転ロール部と、当該一対の回転ロール部の間に形成されるキャビティーと、上記回転ロール部の内部に設けられた冷却手段とを備え、耐火物からなるノズルを通して上記キャビティー内に金属溶湯が供給されて連続的に薄スラブを鋳造するものである。
【0037】
〔スラブの厚み2〜15mm〕
薄スラブ連続鋳造機は、厚み2〜15mmの薄スラブを連続的に鋳造することが可能である。スラブ厚み2mm未満の場合には、鋳造が可能な場合であっても、最終板の板厚にもよるが、後述する最終圧延率70〜95%を実現することが困難となる。スラブ厚み15mmを超えると、スラブを直接ロールに巻き取ることが困難となる。このスラブ厚みの範囲であると、スラブの冷却速度は、スラブ厚さ1/4の付近で、40〜1000℃/秒程度となり、Al−(Fe・Mn)−Si等の金属間化合物が微細に晶出する。
【0038】
〔冷間圧延〕
薄スラブ連続鋳造機を用いて、スラブを連続的に鋳造し、上記スラブに熱間圧延を施すことなく直接ロールに巻き取った後、冷間圧延を施す。このため、従来の半連続鋳造によって製造されるスラブ(鋳塊)に必要となる面削工程、均質化処理工程、熱間圧延工程を省略することができる。薄スラブを直接巻き取ったロールは、冷延機に通され、通常何パスかの冷間圧延が施される。この際、冷間圧延によって導入される塑性歪により加工硬化が起こるため、必要に応じて、バッチ炉内で保持温度300〜400℃で1〜8時間保持する中間焼鈍処理を行なってもよい。
【0039】
〔最終冷延率70〜95%〕
最終冷延率70〜95%の冷間圧延を施した後、溶体化処理を施す。最終冷延率がこの範囲であれば、溶体化処理後の平均結晶粒径を20〜50μmにして、プレス成形後の外観肌を綺麗に仕上げることができる。したがって、加工コストを低く抑えるとともに、遷移金属元素の固溶量を確保しながら加工を加えることで転位が蓄積されて、溶体化処理工程で20〜50μmに調整された再結晶粒を得ることが可能となる。最終冷延率が70%未満であると、冷間圧延時に蓄積される加工歪量が少なすぎて、溶体化処理によって20〜50μmの再結晶粒を得ることができない。最終冷延率が95%を超えると、冷間圧延時に蓄積される加工歪量が多すぎて、加工硬化が激しく、エッジに耳割れを生じて圧延が困難となる。したがって、好ましい最終冷延率は、70〜95%の範囲である。より好ましい最終冷延率は、75〜95%の範囲である。さらに好ましい最終冷延率は、75〜90%の範囲である。
【0040】
〔溶体化処理〕
溶体化処理は、連続焼鈍炉によって450℃〜570℃の保持温度で10〜60秒間保持した後、その後急速に冷却する溶体化処理が好ましい。急速に冷却する手段としては、エアー噴射による空冷、若しくはミスト噴射による水冷が望ましい。溶体化処理によって、マトリックスに固溶していたMnは、微細に晶出していた金属間化合物に吸収されることにより、再結晶が促進されるとともに、伸びを高める。
保持温度が450℃未満であると、再結晶組織を得ることが困難となる。保持温度が570℃を超えると、熱歪が激しくなるとともに、合金組成にもよるがバーニングを起こすおそれがある。保持時間が10秒未満であると、コイルの実体温度が所定の温度に到達せず溶体化処理が不十分となるおそれがある。保持時間が60秒を超えると、処理に時間がかかりすぎ、生産性が低下する。
【0041】
〔自然時効〕
本発明の製造方法において、溶体化処理後、自然時効を行い、さらに人工時効処理を施して最終板とすることが必須である。溶体化処理後の自然時効によって、Mg
2Si等の析出核となり得る微細なクラスターがマトリックス中に均一に生成する。自然時効は、室温に数時間〜6ヵ月放置するものであってもよいが、コイルの保管温度を適切に管理して、例えば、保持時間を16〜48時間等に規制しておくことが品質管理上は望ましい。
【0042】
〔人工時効処理〕
人工時効処理は、コイルを加熱炉に挿入することで行い、保持温度160〜270℃で1〜48時間保持とすることが好ましい。保持温度が160℃未満であると、最終板の曲げ加工性が低下して、所定の機械的特性を得ることが困難となるため、好ましくない。保持温度が270℃を超えると、最終板の強度が低下して、所定の機械的特性を得ることが困難となるため、好ましくない。保持時間が1時間未満であると、コイルの実体温度が不均一のまま処理が終了する可能性があるため、好ましくない。保持時間が48時間を超えると、生産性が低下するため、好ましくない。
【0043】
以上のような連続鋳造工程、冷間圧延工程、溶体化処理、自然時効および人工時効処理を経ることにより、成形性、曲げ加工性及び形状凍結性に優れた高強度アルミニウム合金板を得ることができる。
【実施例】
【0044】
〔薄スラブ連続鋳造シミュレート材の作製〕
21水準の成分組成のインゴット5kgをそれぞれ#20坩堝内に挿入し、この坩堝を小型電気炉で加熱してインゴットを溶解した。次いで、溶湯中にランスを挿入して、N
2ガスを流量1.0L/minで5分間吹き込んで脱ガス処理を行なった。その後30分間の鎮静を行なって溶湯表面に浮上した滓を攪拌棒にて除去した。次に坩堝を小型電気炉から取り出して、溶湯を内寸法200×200×16mmの水冷金型に流し込み、薄スラブを作製し、各坩堝中の溶湯から実施例1〜8、比較例1〜13の各供試材を得た。これら供試材のディスクサンプルは、発光分光分析によって組成分析を行なった。その結果を表1、表2に示す。この薄スラブの両面を3mmずつ面削加工して、厚さ10mmとした後、均質化処理、熱間圧延を施すことなく、冷間圧延を施して板厚1.0mmの冷延材とした。なお、冷間圧延工程の間に中間焼鈍処理は行っていない。この場合の最終冷延率は90%であった。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
次にこれらの冷延材(供試材)を、それぞれ、所定の大きさに切断後、ソルトバスに挿入して、530℃×15秒(実施例1〜6、比較例1〜10、12、13)又は565℃×15秒(実施例7、8、比較例11)の条件下で加熱保持し、ソルトバスから素早く供試材を取り出して水冷し溶体化処理を施した。その後、室温にて24時間の自然時効を行った。これらをアニーラーに挿入して、200℃×36時間の人工時効処理を施して、最終板とした。
【0048】
さらに、これらの最終板に対して、プレス成形−焼き付け塗装を模擬して、引張り試験機を用いて2%予歪を導入し、さらにアニーラーに挿入して170℃×20分間の時効処理を施して、予歪導入後時効処理材とした。
【0049】
次に、このようにして得られた各供試材(最終板、予歪導入後時効処理材)について、諸特性の測定、評価を行った。
【0050】
〔引張試験による諸特性の測定〕
得られた各供試材(最終板、予歪導入後時効処理材)の特性評価は、引張り試験の引張強度、0.2%耐力、伸びの値(%)によって行った。
具体的には、得られた供試材より、引張り方向が圧延方向に対して平行方向になるようにJIS5号試験片を採取し、JISZ2241に準じて引張り試験を行って、引張強度、0.2%耐力、伸び(破断伸び)を求めた。なお、これら引張り試験は、各供試材につき3回(n=3)行い、その平均値で算出した。
引張り強度が190MPa以上であった最終板を強度評価良好(〇)とし、190MPa未満であった最終板を強度評価不良(×)とした。0.2%耐力が155MPa未満であった最終板を形状凍結性評価良好(〇)とし、155MPa以上であった最終板を形状凍結性評価不良(×)とした。伸びの値が15%以上であった最終板を成形性評価良好(〇)とし、伸びの値が15%未満であった最終板を成形性評価不良(×)とした。また、0.2%耐力が160MPa以上であった予歪導入後時効処理材を成形品強度評価良好(〇)とし、160MPa未満であった予歪導入後時効処理材を成形品強度評価不良(×)とした。これらの評価結果を表3、表4に示す。
【0051】
〔曲げ試験による曲げ加工性の評価〕
曲げ試験用の試験片として、最終板について圧延方向に対して0°方向(L方向)を長手方向として25mm×50mm寸法の試験片を採取した。曲げ試験は、試験片の長手方向に対して90°方向をポンチ径1mmのポンチに押し当てた状態で、40°から60°に曲げたあと、試験片同士が密着するまで圧縮加工した。曲げ加工性の評価は、密着曲げ後の曲げ部の表面状態によって、割れ・シワなし〜破断までを0〜4点の点数でランク付けすることにより行った。0〜1点であった最終板を曲げ加工性評価良好(〇)とし、2〜4点であった最終板を曲げ加工性評価不良(×)とした。なお、これら曲げ試験は、各供試材につき3回(n=3)行い、その平均値で算出した。これらの評価結果を表3、表4に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
〔各供試材の特性の評価結果〕
供試材の特性評価結果を示す表3における実施例1〜8は、本発明の組成範囲内であり、最終板の引張り強度、最終板の0.2%耐力、最終板の伸びの値、予歪導入後時効処理材の0.2%耐力、最終板の曲げ加工性とも全て、基準値を満たしていた。具体的には、最終板の引張り強度:190MPa以上、最終板の0.2%耐力:155MPa未満、最終板の伸びの値:15%以上、予歪導入後時効処理材の0.2%耐力:160MPa以上、最終板の曲げ加工性:0〜1点の基準値を満たしていた。すなわち、実施例1〜8は、強度評価良好、形状凍結性評価良好、成形性評価良好、成形品強度評価良好、曲げ加工性評価良好であった。
【0055】
これに対し、供試材の特性評価結果を示す表4における比較例1〜13は、本発明の組成範囲外であり、最終板の引張り強度、最終板の0.2%耐力、最終板の伸びの値、予歪導入後時効処理材の0.2%耐力、最終板の曲げ加工性のうち、少なくとも一つについて、基準値を満たしていなかった。
比較例1は、Si、Mn、Mg含有量が低すぎたため、最終板の強度評価不良、成形品の強度評価不良であった。比較例2は、Si、Cu含有量が高すぎたため、形状凍結性評価不良、曲げ加工性評価不良であった。比較例3は、Si、Cu含有量が高すぎたため、形状凍結性評価不良、曲げ加工性評価不良であった。比較例4は、Fe、Cu含有量が高すぎたため、形状凍結性評価不良、成形性評価不良、曲げ加工性評価不良であった。比較例5は、Fe、Cu含有量が高すぎたため、形状凍結性評価不良、曲げ加工性評価不良であった。比較例6は、Cu含有量が高すぎたため、形状凍結性評価不良、成形性評価不良、曲げ加工性評価不良であった。比較例7は、Cu含有量が高すぎたため、形状凍結性評価不良、曲げ加工性評価不良であった。比較例8は、Cu含有量が高すぎ、Mg含有量が低すぎたため、最終板の強度評価不良、成形品の強度評価不良、曲げ加工性評価不良であった。比較例9は、Cu、Mg含有量が高すぎたため、形状凍結性評価不良、成形性評価不良、曲げ加工性評価不良であった。比較例10は、Cu含有量が高すぎたため、形状凍結性評価不良、曲げ加工性評価不良であった。比較例11は、Mn含有量が高すぎたため、曲げ加工性評価不良であった。比較例12は、Mg含有量が低すぎたため、最終板の強度評価不良、成形品の強度評価不良であった。比較例13は、Si含有量が低すぎたため、最終板の強度評価不良、成形品の強度評価不良であった。
【0056】
以上のことから、上記特定の成分組成を有し、且つ引張り強度が190MPa以上、0.2%耐力が155MPa未満、伸びの値が15%以上、且つ、2%予歪導入後に170℃×20分間の時効処理を施した後の0.2%耐力が160MPa以上なる値を呈するものが、成形性、曲げ加工性及び形状凍結性に優れた高強度アルミニウム合金板であることが判る。