特許第6809373号(P6809373)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6809373マイクロカプセルおよびそれを用いたセラミックスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809373
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】マイクロカプセルおよびそれを用いたセラミックスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 3/02 20060101AFI20201221BHJP
   B01J 13/16 20060101ALI20201221BHJP
   C04B 35/622 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   B28B3/02 P
   B01J13/16
   C04B35/622
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-99136(P2017-99136)
(22)【出願日】2017年5月18日
(65)【公開番号】特開2018-192721(P2018-192721A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2019年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】後藤 裕明
(72)【発明者】
【氏名】津田 圭一
【審査官】 山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−510877(JP,A)
【文献】 特開2003−277154(JP,A)
【文献】 特表2010−506988(JP,A)
【文献】 特表2010−510337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 3/00
B01J 13/00
C04B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアシェル構造を有するマイクロカプセルであって、
コアは、液体成分と固体成分とを含み、
シェルは、温度20℃で固体であって疎水性を示すポリマー組成物で形成され、
前記液体成分は、温度20℃で疎水性の液体であり、
前記固体成分は、周期律表における第4族、第5族または第6族に属する元素の単体、これらの元素の化合物、Coの単体、および、Niの単体からなる群より選択される少なくとも1種を含む粒子を含み、
前記化合物は、炭化物、窒化物または炭窒化物である、マイクロカプセル。
【請求項2】
前記マイクロカプセルの平均粒子径は、10μm以上200μm以下であり、
前記粒子の平均粒子径は、0.1μm以上5μm以下である、請求項1に記載のマイクロカプセル。
【請求項3】
前記粒子の総体積は、前記コアの体積に対して2.5体積%以上40体積%以下である、請求項1又は請求項2に記載のマイクロカプセル。
【請求項4】
前記コアの液体成分は、鎖式炭化水素系化合物を主成分とし、
前記鎖式炭化水素系化合物は、炭素原子数が8以上の、飽和または不飽和炭化水素、飽和または不飽和アルコール、および、脂肪酸からなる群より選択される少なくとも1種類の化合物である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項5】
前記ポリマー組成物のガラス転移温度Tgは100℃以上である、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項6】
前記ポリマー組成物は、スチレンをモノマーとして含むスチレン系重合体または前記スチレン系重合体を含むポリマーブレンドである、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項7】
前記マイクロカプセルの総質量に対して、前記液体成分の質量が1質量%以上90質量%以下である、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項8】
セラミックスの製造に用いられる、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項9】
前記セラミックスは、WCを主成分とする超硬合金、または、TiCおよびTiCNのうちの少なくとも一つを主成分とするサーメットを含む、請求項8に記載のマイクロカプセル。
【請求項10】
コアシェル構造を有するマイクロカプセルであって、
コアは、液体成分と固体成分とを含み、
シェルは、温度20℃で固体であってスチレンの単独重合体で形成され、
前記液体成分は、温度20℃で液体であって、鎖式炭化水素系化合物を主成分とし、
前記固体成分は、周期律表における第4族、第5族または第6族に属する元素の単体、これらの元素の化合物、Coの単体、および、Niの単体からなる群より選択される少なくとも1種を含む粒子を含み、
前記化合物は、炭化物、窒化物または炭窒化物であり、
前記粒子は、平均粒子径が0.1μm以上5μm以下であり、
前記粒子の総体積は、前記コアの体積に対して2.5体積%以上40体積%以下であり、
平均粒子径が10μm以上200μm以下である、マイクロカプセル。
【請求項11】
請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載のマイクロカプセルとセラミックス造粒粉との混合物を加圧成形する、セラミックスの製造方法。
【請求項12】
前記混合物は、さらに、疎水性の造粒用バインダーを含む、請求項11に記載のセラミックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロカプセルおよびそれを用いたセラミックスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末冶金法により所定形状のセラミックスを製造する際に、セラミックス造粒粉を加圧成形する加圧成形法を用いることが知られている。加圧成形法は、ニアネットシェイプでの成形が可能であり、量産性に優れるといった利点を有している。
【0003】
ところが、複雑な形状のセラミックスを得る場合、このような加圧成形法を用いても成形体全体を均質に形成することは容易ではない。例えば、部位によって厚みが異なる形状のセラミックスを得る場合、加圧成形時にセラミックス造粒粉が受ける圧力が異なるため、成形体の薄肉部と厚肉部とで圧縮度が異なり、部位によって密度差が生じるという問題が生じる。部位によって密度が異なる成形体を脱脂・焼結すると、低密度の部位は相対的に大きく収縮する一方、高密度の部位は相対的に収縮が抑制されるため、狙い通りの寸法精度のセラミックスを得ることができない。
【0004】
寸法精度に優れたセラミックスを得るためには、成形体に密度のばらつきが生じないように、セラミックス造粒粉を加圧成形する際の金型の形状を調整すること等が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2010−510337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、金型の調整には費用や時間を要するため、金型を調整する以外の方法で、均一な密度の成形体を得る方法が求められている。
【0007】
本発明者らは、上述の事情に鑑みて、加圧成形法を用いる際に、セラミックスの原料粉末に添加される成形助剤に着目して検討を行った結果、特定のマイクロカプセルを用いることによって、加圧成形時にセラミックスの原料粉末が流動して均一に分散し、均一な密度を有する成形体を形成することができること、その結果、上記成形体を焼結すると寸法精度に優れたセラミックスが得られることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
本発明は、セラミックスの原料粉末が加圧成形により圧縮される際に流動して均一に分散し、特に部分的に厚さが異なる形状のセラミックスを得る場合であっても、成形体全体にわたって均一な密度に形成することができるマイクロカプセルおよびそれを用いたセラミックスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るマイクロカプセルは、コアシェル構造を有するマイクロカプセルであって、コアは、液体成分と固体成分とを含み、シェルは、温度20℃で固体であって疎水性を示すポリマー組成物で形成され、前記液体成分は、温度20℃で疎水性の液体であり、前前記固体成分は、周期律表における第4族、第5族または第6族に属する元素の単体、これらの元素の化合物、Coの単体、および、Niの単体からなる群より選択される少なくとも1種を含む粒子を含み、前記化合物は、炭化物、窒化物または炭窒化物である。
【0010】
また、本発明の他の態様に係るセラミックスの製造方法は、前記マイクロカプセルとセラミックス造粒粉との混合物を加圧成形する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、セラミックス造粒粉を加圧成形して得られる成形体を、成形体全体にわたって均一な密度で提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例で作製したセラミックス造粒粉の成形方法を説明する模式図である。
図2】実施例で作製した成形体を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0014】
[1] 本発明の一態様に係るマイクロカプセルは、コアシェル構造を有するマイクロカプセルであって、
コアは、液体成分と固体成分とを含み、
シェルは、温度20℃で固体であって疎水性を示すポリマー組成物で形成され、
前記液体成分は、温度20℃で疎水性の液体であり、
前記固体成分は、周期律表における第4族、第5族または第6族に属する元素の単体、これらの元素の化合物、Coの単体、および、Niの単体からなる群より選択される少なくとも1種を含む粒子を含み、
前記化合物は、炭化物、窒化物または炭窒化物である。
【0015】
[2] 前記マイクロカプセルの平均粒子径は、10μm以上200μm以下であり、
前記粒子の平均粒子径は、0.1μm以上5μm以下である。
【0016】
[3] 前記粒子の総体積は、前記コアの体積に対して2.5体積%以上40体積%以下である。
【0017】
[4] 前記コアの液体成分は、鎖式炭化水素系化合物を主成分とし、
前記鎖式炭化水素系化合物は、炭素原子数が8以上の、飽和または不飽和炭化水素、飽和または不飽和アルコール、および、脂肪酸からなる群より選択される少なくとも1種類の化合物である。
【0018】
[5] 前記ポリマー組成物のガラス転移温度Tgは100℃以上である。
[6] 前記ポリマー組成物は、スチレンをモノマーとして含むスチレン系重合体または前記スチレン系重合体を含むポリマーブレンドである。
【0019】
[7] 前記マイクロカプセルの総質量に対して、前記液体成分の質量が1質量%以上90質量%以下である。
【0020】
[8] 前記マイクロカプセルは、セラミックスの製造に用いられる。
[9] 前記セラミックスは、WCを主成分とする超硬合金、または、TiCおよびTiCNのうちの少なくとも一つを主成分とするサーメットを含む。
【0021】
[10] 前記マイクロカプセルは、コアシェル構造を有するマイクロカプセルであって、
コアは、液体成分と固体成分とを含み、
シェルは、温度20℃で固体であってスチレンの単独重合体で形成され、
前記液体成分は、温度20℃で液体であって、鎖式炭化水素系化合物を主成分とし、
前記固体成分は、周期律表における第4族、第5族または第6族に属する元素の単体、これらの元素の化合物、Coの単体、および、Niの単体からなる群より選択される少なくとも1種を含む粒子を含み、
前記化合物は、炭化物、窒化物または炭窒化物であり、
前記粒子は、平均粒子径が0.1μm以上5μm以下であり、
前記粒子の総体積は、前記コアの体積に対して2.5体積%以上40体積%以下であり、
平均粒子径が10μm以上200μm以下である。
【0022】
[11] 本発明の他の態様に係るセラミックスの製造方法は、マイクロカプセルとセラミックス造粒粉との混合物を加圧成形する。
【0023】
[12] 前記混合物は、さらに、疎水性の造粒用バインダーを含む。
[本発明の実施形態の詳細]
本実施の形態に係るマイクロカプセルおよびそれを用いたセラミックスの製造方法の具体例を以下に説明する。
【0024】
一般的な加圧成形法では、噴霧乾燥等により造粒された顆粒状のセラミックス造粒粉を金型に充填し(充填工程)、上下でプレスするにつれて、セラミック造粒粉をなすセラミックスの原料粉末が再配列して緻密化され(再配列・緻密化工程)、圧密化され(圧密化工程)、所望の形状に成形される。なお、以下では、上記再配列・緻密化工程および圧密化工程をまとめて加圧工程という。上記した成形体における密度のばらつきは、再配列・緻密化工程と圧密化工程との間で、セラミックスの原料粉末の流動が起こりにくくなっているために生じるものである。
【0025】
本実施の形態では、再配列・緻密化工程と圧密化工程との間でのセラミックスの原料粉末の流動を起こりやすくするとともに、加圧成形法における各工程での取扱い性も考慮して、充填工程では粉末状であって、加圧工程の間に破壊されてコアをなす液体が放出されるマイクロカプセルを用いる。
【0026】
[マイクロカプセル]
本実施の形態のマイクロカプセルは、コアシェル構造を有し、コアとシェルとを含む。
【0027】
(コア)
マイクロカプセルのコアは、液体成分と固体成分とを含む。
【0028】
(液体成分)
コアの液体成分は、温度20℃で疎水性の液体である。コアの液体成分が温度20℃で液体であれば、上記加圧工程の温度(室温)においても液体であるため、上記加圧工程でマイクロカプセルが破壊された後、マイクロカプセルから放出されたコアの液体成分が、セラミックスの原料粉末全体に均一に行きわたるため、上記再配列・緻密化工程と上記圧密化工程との間でセラミックスの原料粉末が流動化しやすくなる。
【0029】
コアの液体成分は疎水性である。セラミックスの原料粉末には炭化物、窒化物、炭窒化物等が用いられるが、これらのセラミックスの原料粉末は疎水性である。セラミックスの原料粉末を造粒する際に用いられる造粒用バインダーも疎水性である。そのため、コアの液体成分が疎水性であることにより、疎水性のセラミックスの原料粉末および疎水性の造粒用バインダーを用いて造粒されるセラミックス造粒粉と、マイクロカプセルのコアの液体成分とを均一に混合しやすくすることができる。これに対し、コアの液体成分が親水性であると、セラミックス造粒粉およびセラミックスの原料粉末との混合性が低下し、コアの液体成分を均一に分散させることが困難となる傾向にある。このように、コアの液体成分が疎水性であることにより、上記加圧工程でマイクロカプセルから放出されたコアの液体成分を弾くことなくセラミックスの原料粉末全体に浸透させて行きわたらせることができる。なお、上記疎水性とは、20℃の水に対して溶解度が0.1質量%未満であることをいう。
【0030】
コアの液体成分は、鎖式炭化水素系化合物を主成分とし、鎖式炭化水素系化合物は、炭素原子数が8以上の、飽和または不飽和炭化水素、飽和または不飽和アルコール、および、脂肪酸からなる群より選択される少なくとも1種類の化合物であることが好ましい。ここで、主成分とは、コアの液体成分のうち最も含有量(質量%)の多い成分をいう。
【0031】
本実施の形態のマイクロカプセルは、後述するシェルをなす成分が重合の進行によって析出し、コアをなす液体成分と分離されてコアシェル構造を形成する。コアに含まれる液体成分の鎖長が短いと、マイクロカプセルを製造する際にコアに含まれる液体成分とシェルとが容易に分離した状態となりにくくなるため、コアシェル構造が形成されにくくなる、カプセル化までに非常に時間がかかるため非量産的となる等の問題がある。そのため、上記鎖式炭化水素系化合物は、炭素原子数は8以上とし、好ましくは12以上、さらに好ましくは18以上である。炭素原子数の上限値については、20℃で液体であるものであれば、特に限定されない。
【0032】
鎖式炭化水素系化合物をなす飽和または不飽和炭化水素としては、例えば、オクタン、ドデカン、オクタデカン、パラフィン等の飽和炭化水素、オクテン等の不飽和炭化水素が挙げられる。
【0033】
鎖式炭化水素系化合物をなす飽和または不飽和アルコールとしては、例えば、オクタノール、オクタデカノール等が挙げられる。
【0034】
鎖式炭化水素系化合物をなす脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸等が挙げられる。
コアをなす液体成分としては、これらの鎖式炭化水素系化合物のうち、飽和または不飽和炭化水素を用いることが好ましい。飽和または不飽和炭化水素を用いることで、飽和または不飽和アルコールや脂肪酸を用いる場合に比べて極性が下がり、マイクロカプセルを製造する重合工程で使用される溶媒(水)に対する界面張力が高くなり、コアの液体成分がマイクロカプセルの外部へ漏出することを防止することができる。
【0035】
コアの液体成分は、セラミックスの異物とならないように、セラミックス造粒粉の成形後に行われる焼結工程で分解されるものであることが好ましく、少なくとも500℃で分解されるものであることが好ましい。また、セラミックス造粒粉に含まれる成分と異なる成分がコアの液体成分に含まれると、セラミックスにおいてコアの液体成分をなす成分が異物となって欠陥として表れることになるため、セラミックスの原料粉末を造粒する際に用いられる造粒用バインダー成分の元素組成(一般的に、炭素、水素、酸素を含むものが多く使用される)とほぼ同じ元素組成のものを用いることが好ましい。
【0036】
コアの液体成分の質量は、マイクロカプセルの総質量に対して1質量%以上90質量%以下であることが好ましく、1質量%以上85質量%以下であることがさらに好ましい。液体成分が1質量%未満であると、マイクロカプセルにおけるシェルや固体成分の含有量が多くなり、セラミックスの原料粉末の流動性を高める効果があまり期待できない。また、液体成分の質量が90質量%を超えると、成形体に液体成分が多く付着して量産性が悪化するため好ましくない。液体成分の含有量は、後述の実施例に記載の方法によって測定した値である。
【0037】
(固体成分)
コアの固体成分は、周期律表における第4族、第5族または第6族に属する元素の単体、これらの元素の化合物、Coの単体、および、Niの単体からなる群より選択される少なくとも1種を含む粒子を含み、上記したこれらの元素化合物は、炭化物、窒化物または炭窒化物である。固体成分は、1種の材料成分からなる粒子であってもよく、異なる材料成分を含む粒子の混合物であってもよい。セラミックスの製造にあたって、超硬合金やサーメット等のように比重の高いセラミックス造粒粉とマイクロカプセルとを混合する際に、マイクロカプセルのコアが固体成分として上記した粒子を含むことにより、セラミックス造粒粉とマイクロカプセルとの比重差を小さくすることができる。これにより、セラミックス造粒粉とマイクロカプセルとが均一に混合しやすくなる。
【0038】
周期律表における第4族、第5族および第6族に属する元素とは、具体的には、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W等を挙げることができる。これらの元素の炭化物としては、TiC、ZrC、HfC、VC、NbC、TaC、Cr、MoC、WC等を挙げることができる。これらの元素の窒化物としては、TiN、ZrN、HfN、VN、NbN、TaN、CrN、CrN、MoN、WN等を挙げることができる。これらの元素の炭窒化物としては、TiCN、ZrCN、HfCN、NbCN、TaCN等を挙げることができる。
【0039】
粒子をなす材料成分は、セラミックスの製造に用いるセラミックス造粒粉をなす材料成分であることが好ましい。そのため、マイクロカプセルを適用するセラミックス造粒粉の材料成分に応じて選定すればよいが、マイクロカプセルのコアの固形成分をなす粒子としては、TiC、VC、NbC、TaC、Cr、WC、TiN、ZrN、TiCN、Coの単体、Niの単体およびこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0040】
固体成分に含まれる粒子は、平均粒子径が0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、また、5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましい。粒子の平均粒子径を0.1μm以上5μm以下とすることにより、平均粒子径が10μm以上200μm以下であるマイクロカプセルのコアの固体成分として好適に使用することができ、セラミックス造粒粉とマイクロカプセルとを混合する際の両者の比重差を小さくしやすい。粒子の平均粒子径は、後述の実施例に記載の方法によって測定した値である。
【0041】
コアに含まれる粒子は通常1粒以上であり、コアに含まれる全粒子の体積の合計である粒子の総体積は、コアの体積に対して2.5体積%以上であることが好ましく、5体積%以上であることがより好ましく、10体積%以上であることがさらに好ましく、また、40体積%以下であることが好ましく、30体積%以下であることがより好ましく、25体積%以下であることがさらに好ましい。粒子の総体積が2.5体積%未満であると、セラミックス造粒粉とマイクロカプセルとの比重差が大きくなり、セラミックス造粒粉とマイクロカプセルとが分離して両者が均一に混合しにくくなる傾向にある。また、粒子の総体積が40体積%を超えると、コアの体積に対して液体成分が占める体積が小さくなるため、セラミックスの原料粉末の流動性を高める効果が小さくなり、成形体を均一な密度で形成することが難しくなって、成形体を脱脂・焼結したときの寸法精度に劣る傾向にある。粒子の総体積の割合は、後述の実施例に記載の方法によって測定した値である。
【0042】
固体成分は、上記した材料成分からなる粒子以外の固体状物を含んでいてもよい。固体状物は、セラミックスの製造に用いるセラミックス造粒粉をなす材料成分であることが好ましいため、セラミックスの製造に用いられる、例えば、Fe、Al等の粉末を含んでいてもよい。
【0043】
(シェル)
マイクロカプセルのシェルは、温度20℃で固体であって疎水性を示すポリマー組成物で形成されている。本実施の形態のマイクロカプセルは、上述のとおり、固体のシェルの内部に液体のコアを内包するものであるため、シェルは温度20℃で固体のものを用いる。これにより、セラミックス造粒粉に、固体状のマイクロカプセルを混合することができるため、均一に混合したセラミックス造粒粉とマイクロカプセルの混合物を金型に充填することができる。
【0044】
シェルをなすポリマー組成物は疎水性である。これにより、本実施の形態のマイクロカプセルはO/W(水中油滴)分散系で製造しやすくなる。また、セラミックス造粒粉を得るために用いられるセラミックスの原料粉末も、造粒用バインダー成分も疎水性である。そのため、上記ポリマー組成物が疎水性であることにより、セラミックス造粒粉およびセラミックスの原料粉末と混合しやすくなるとともに、成形体を焼結したときの残渣を低減することができる。上記疎水性とは、20℃の水に対して溶解度が0.1質量%未満であることをいう。
【0045】
ポリマー組成物のガラス転移温度Tgは100℃以上であることが好ましい。ガラス転移温度Tgの上限値は特に限定されない。ガラス転移温度Tgが100℃未満であると、加圧工程においてマイクロカプセルが軟化して弾性的となり破壊されにくくなる傾向がある。また、後述するように、セラミックスの原料粉末と一緒にマイクロカプセルをスプレードライ造粒し、セラミックス造粒粉内にマイクロカプセルを内包させて、セラミックス造粒粉とマイクロカプセルとの混合粉末を得る場合には、ガラス転移温度Tgを100℃以上とすることで、マイクロカプセルが内包された混合粉末を良好に得ることができる。なお、上記ガラス転移温度Tgは、示差走査熱量測定(DSC)により測定された値である。
【0046】
シェルをなすポリマー組成物は、スチレンをモノマーとして含むスチレン系重合体または上記スチレン系重合体を含むポリマーブレンドであることが好ましい。
【0047】
スチレン系重合体は、スチレンの単独重合体(ポリスチレン)であってもよく、モノマーとしてスチレンを含む共重合体であってもよい。
【0048】
スチレンを含む共重合体の共重合モノマー成分としては、スチレン系重合体のガラス転移温度Tgが100℃以上になるものであれば特に限定されないが、例えばアクリロニトリル、ジビニルベンゼン、ヘキサメチレンジアクリレート等を用いることができる。モノマーのスチレンと共重合モノマー成分との配合比は、スチレン/共重合体成分=95/5〜5/95であることが好ましい。
【0049】
スチレン系重合体を含むポリマーブレンドに含まれるスチレン系重合体以外の他のポリマー成分としては、上記ポリマーブレンドのガラス転移温度Tgが100℃以上になるものであれば特に限定されない。スチレン系重合体と他のポリマー成分との混合比は、スチレン系重合体/他のポリマー成分=70/30〜30/70であることが好ましい。
【0050】
シェルをなすポリマー組成物としては、スチレンの単独重合体を用いることが好ましい。スチレンの単独重合体を用いることにより、コアシェル構造のマイクロカプセルをモノコア型に製造しやすくなり、マイクロカプセルの製造時の重合制御も行いやすくなる。
【0051】
シェルをなす成分は、コアをなす成分と同様に、セラミックスにおける異物とならないように、成形後に行われる焼結工程で分解され、残渣が残らない成分であることが好ましく、特に、有害な金属元素等を含まない材料成分であることが望ましい。
【0052】
(マイクロカプセルの特性)
マイクロカプセルの平均粒子径は、平均粒子径が10μm以上200μm以下であり、セラミックス造粒粉(平均粒子径が30〜150μmである場合が多い)と同程度のサイズが好ましいため、50μm以上150μm以下であることが好ましい。マイクロカプセルの平均粒子径が10μm未満であると、セラミックス造粒粉およびセラミックスの原料粉末に対するコアをなす成分の量が減ってしまい、加圧工程時にセラミックスの原料粉末の流動性を高める効果があまり期待できない。また、マイクロカプセルの平均粒子径が200μmを超えると、セラミックスの原料粉末に対して均一に混合しにくくなり、加圧工程時にセラミックスの原料粉末の流動性を高める効果があまり期待できない。
【0053】
本実施の形態のマイクロカプセルは、加圧工程においてマイクロカプセルのシェルが破壊され、内包物であるコアをなす液体成分が放出される必要があるため、1mN以上60mN以下の圧潰強度を有することが好ましい。圧潰強度が1mN未満であると、マイクロカプセルが容易に破壊してしまうため取扱いが困難になる。圧潰強度が60mNを超えると、加圧工程時にマイクロカプセルが完全に破壊されないため、内包物であるコアの液体成分の放出が困難となる。圧潰強度は、微小圧縮試験機(島津製作所製)を用い、20℃での一軸圧縮試験において内包液体が放出される値である。
【0054】
上述のとおり、マイクロカプセルのコアの液体成分およびシェルは、セラミックスの異物とならないように、成形後の工程で分解されることが好ましい。また、コアの固体成分は、セラミックスの異物とならずセラミックスの一部をなすように、セラミックス造粒粉をなす材料成分であることが好ましい。成形体は加圧工程による成形後に脱脂・焼結されるため、セラミックス造粒粉に混合されるマイクロカプセルのコアの液体成分およびシェルは、この脱脂・焼結工程の温度で熱により完全に分解されるように、150℃以上500℃以下の温度で分解するものが好ましく、300℃での熱重量・示差熱TG−DTA装置で調査した熱分解挙動において80重量%以上が分解するものであることが好ましい。マイクロカプセルのコアの液体成分およびシェルが150℃未満で分解すると、マイクロカプセル自体の取扱いが困難になるとともに、加圧工程時における取扱いも困難となる。また、500℃を超える温度は一般的なセラミックスの脱脂温度より高くなるため、500℃を超える温度において分解しないマイクロカプセルのコアの液体成分およびシェルは異物となり、セラミックスにマクロ欠陥として現れるため、好ましくない。
【0055】
なお、熱分解の程度は、熱重量・示差熱TG−DTA装置を用い、200mL/minのArガスフロー、2℃/minで昇温しながら、室温〜800℃の温度範囲でマイクロカプセルのみのTG−GDA測定を行い、温度[℃]をX軸、重量[%]をY軸としたグラフを作成して決定する。
【0056】
本実施の形態のマイクロカプセルは、セラミックス造粒粉とマイクロカプセルとの混合粉末を得、この混合粉末をプレスして成形体を得る際に使用される。そのため、この成形体を得る工程のすべての工程で、コアの液体成分は液体の状態で保たれることが好ましく、コアの固体成分およびシェルは固体の状態で保たれることが好ましい。
【0057】
本実施の形態のマイクロカプセルは、コアの含有量を多くできるため、コアが1つであるモノコア型が好ましいが、コアが2つ以上であるマルチコア型であってもよい。
【0058】
(マイクロカプセルの製造方法)
本実施の形態のマイクロカプセルは、反応容器に、コアをなす液体成分および固体成分、シェルをなす成分のモノマー、分散剤、水を投入して機械撹拌し、O/W分散系を作製した後、懸濁重合を行うことによって製造される。各成分の配合量は、用いる成分やマイクロカプセルの大きさ(平均粒子径)等に応じて任意に選定すればよい。また、O/W分散系の作製時の機械撹拌の撹拌条件は、例えば室温で2500rpm、1〜5分間とすることができるが、マイクロカプセルの平均粒子径等に応じて任意に選択できる。懸濁重合の機械撹拌の撹拌条件も、例えば温度60〜80℃、100〜150rpm、5〜10時間とすることができるが、マイクロカプセルの平均粒子径等に応じて任意に選択できる。
【0059】
[マイクロカプセルを用いたセラミックスの製造方法]
本実施の形態のマイクロカプセルを用いた成形体の製造方法では、セラミックス造粒粉とマイクロカプセルとの混合粉末を得た後、上記混合粉末を、例えば一軸加圧プレス等によりプレスする加圧工程を経て成形体を得る。混合粉末は、セラミックス造粒粉を造粒する際に用いる有機系バインダー等の疎水性の造粒用バインダーを含んでいてもよい。
【0060】
混合粉末を得る方法としては、セラミックス造粒粉とマイクロカプセルとをボールミル、アトライター、ドラムミキサー等の既知の混合装置で乾式混合する方法や、セラミックスの原料粉末と一緒にマイクロカプセルをスプレードライ造粒し、セラミックス造粒粉内にマイクロカプセルを内包させる方法が挙げられる。このとき、用いられるマイクロカプセルは、セラミックス造粒粉と同様にほぼ球状であることが好ましい。本実施の形態では、マイクロカプセルのコア成分が上記した固形粒子を含むため、セラミックス造粒粉とマイクロカプセルとの比重差を小さくすることができ、セラミックス造粒粉とマイクロカプセルとを均一に混合させやすくすることができる。
【0061】
得られた混合粉末は金型に充填され、加圧工程で圧縮されて所望の形状の成形体となり、これを脱脂・焼結することによってセラミックスが得られる。本実施の形態においては、上記のマイクロカプセルを用いるため、加圧工程時にマイクロカプセルが破壊されてコアをなす液体成分がセラミックスの原料粉末に均一に行きわたる。これにより、セラミックスの原料粉末が流動するため、得られる成形体の密度が全体にわたって均一となり、成形体を脱脂・焼結すると、寸法精度に優れたセラミックスを得ることができる。
【0062】
また、本実施の形態のマイクロカプセルは、特定の粒子を含む固体成分をコアに含んでいるため、セラミックス造粒粉と均一に混合されやすい。そのため、同じ成分の混合粉末から製造された複数の成形体において密度の均一性をばらつきにくくして、成形体を再現性よく製造することができる。これにより、成形体を脱脂・焼結して得られるセラミックスの寸法精度を個体間でばらつきにくくすることができる。
【0063】
加圧工程や焼結工程の条件は公知の条件を採用できる。加圧工程の成形圧力は、例えば9.8MPa(0.1ton/cm)以上980MPa(10ton/cm)以下、好ましくは29.4Mpa(0.3ton/cm)以上490MPa(5ton/cm)以下とすることができる。また、焼結工程の焼結温度は、例えば1300℃以上1600℃以下、好ましくは1350℃以上1550℃以下とすることができる。焼結工程の雰囲気は、例えば、アルゴンや窒素等の不活性ガス雰囲気、または、真空度10kPa以下の真空雰囲気とすることができる。あるいは、焼結時に加圧するシンターHIP(Hot Isostatic Pressing)処理、焼結後に加圧するHIP処理を行ってもよい。
【0064】
セラミックス造粒粉に混合されるマイクロカプセルの量は、セラミックス造粒粉100質量部に対して0.5〜10質量部が好ましく、1.0〜3.0質量部がより好ましい。マイクロカプセルの量がセラミックス造粒粉100質量部に対して0.5質量部未満とすると、セラミックス造粒粉を加圧成形して得られる成形体を成形体全体にわたって均一な密度にする効果が大きくは期待できなくなる傾向にある。また、マイクロカプセルの量がセラミックス造粒粉100質量部に対して10質量部を超えると、コアの液体成分等が多くなりすぎてセラミックスの原料粉末が金型に付着する等の不具合が生じ、量産性が低下する傾向にある。
【0065】
セラミックスの原料粉末の組成や平均粒子径は、任意のものを用いることができる。セラミックスの原料粉末として、例えばCo、Ni、Fe等の鉄系金属の金属粉末、WC等の超硬合金粉末、TiC、TiN、TiCN等のサーメット粉末、Al等のセラミックス粉末を挙げることができる。超硬合金粉末は、WCを主成分とし、結合剤となるCo、Ni、Mo等の結合相金属を含むものである。サーメット粉末は、TiC、TiN、TiCNからなる群の少なくとも1つを主成分とし、結合剤となるCo、Ni、Mo等の結合相金属を含むものであり、特に、TiCおよびTiCNのうちの少なくとも一つを主成分とし結合相金属を含むものが好ましい。なお、主成分とは、セラミックスの原料粉末成分のうち最も含有量(質量%)の多い成分をいう。
【0066】
上記WCには、例えばTiC、TaC、TiN、TiCN、TaCN、ZrC、ZrN、NbC、VC、Crからなる群より選択される少なくとも1種のセラミック粉末を添加してもよく、TiWC等のようにこれらの粉末を含む固溶体を形成してもよい。さらに、上記Ti化合物には、TiCN、WC、MoC、TaC、TaN、ZrC、ZrN、NbC、VC、Crからなる群より選択される少なくとも1種のセラミック粉末を添加してもよく、これらの粉末を含む固溶体を形成してもよい。
【0067】
セラミックス造粒粉は、例えば0.1〜20μmのセラミックスの原料粉末を混合・造粒して平均粒子径30〜150μmにしたものを用いることができる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0069】
〔実施例1〕
(コアの調整)
固体成分は、アトライター等の粉砕機を使用して所定の粒度に粉砕した。この粉砕された固体成分が表1に示す体積割合となるように、固体成分と液体成分とを容器に投入し、羽根撹拌により混合して、コアをなす成分を調製した。
【0070】
(マイクロカプセルの製造)
反応容器に、水を350質量部、界面活性剤として、水溶液全体として5質量%となる量のポリビニルアルコール(PVA)、表1に示すコアをなす成分およびシェルをなす成分を合計が50質量部となるように投入し、さらに、シェル重合開始剤として過酸化ベンゾイル1.4質量部(モノマーとして)を投入して、室温で2500rpm、3分間機械撹拌することにより、O/W分散系を作製した。次いで、75℃の温度条件下で、100rpm、5時間機械撹拌しながら懸濁重合を行った後、得られた懸濁重合物の分散系を水で洗浄・濾過して、室温(温度20℃)にて乾燥し、コアシェル構造のマイクロカプセルを得た。
【0071】
得られたマイクロカプセルのコアに含まれる液体成分の含有量、コアをなす固体成分に含まれる粒子の平均粒子径および体積割合、シェルをなすスチレン系重合体のガラス転移温度Tg、マイクロカプセルの平均粒子径を、後述する測定方法にしたがって測定した。その結果を表1に示す。
【0072】
(セラミックスの製造)
10質量%のCoを含むWC合金の粉末と有機系バインダーとを有機溶剤中で10時間混合し、その後、スプレードライ法によってセラミックス造粒粉を作製した。続いて、得られたセラミックス造粒粉に、上記セラミックス造粒粉に対して3質量%となる量で上記で得たマイクロカプセルを室温(温度20℃)で乾式混合して混合粉末を得、図1に模式図として示す金型1を用いて混合粉末を一軸加圧プレス成形し、図2に模式図として示す成形体を得た。
【0073】
金型1は、図1に示すように、型孔を有するダイ2と、型孔内に挿通される下パンチ3と、下パンチ3に対向配置され、下パンチ3と共に混合粉末5を押圧する上パンチ4とを備えており、プレス成形は、ダイ2の型孔と下パンチ3と上パンチ4とで形成される金型空間に混合粉末5を充填後、下パンチ3と上パンチ4とで混合粉末5を加圧して行った。本実施例では、下パンチ3の上端面(混合粉末を加圧する面)が平坦に形成されたものを用い、上パンチ4の下端面(混合粉末を加圧する面)が深さ方向に階段状に形成されたものを用いた。
【0074】
得られた成形体は、図2に示すように、底面が幅10cm、奥行き10cmの正方形で、上面が階段状に形成されており、階段状に形成された部分のうち、最も高い部分の高さが10cm、横幅が3cmであり、これに隣接する部分の高さが7cm、横幅が4cmであり、さらにその隣の部分の高さが3cm、横幅が3cmであった。この成形体を500℃まで昇温し、500℃で30分間維持した。その後、1400℃まで昇温し、真空雰囲気で30分間維持して焼結を行った後、冷却し、焼結された成形体であるセラミックスを得た。
【0075】
成形体の密度の均一性を評価するために、後述する測定方法にしたがって、成形体の焼結の前後における、図2に示す(ア)〜(カ)の部分の奥行方向の収縮率のばらつき幅を測定し、また、成形体の個体間のばらつきを評価するために、後述する測定方法にしたがって、成形体の焼結の前後における個体間のばらつきを測定した。その結果を表1に示す。
【0076】
〔実施例2〜25〕
コアをなす固体成分が表1又は表2に示す体積割合となるように、固体成分と液体成分とを容器に投入して、O/W分散系を作製する際の機械撹拌の撹拌条件、および懸濁重合における機械撹拌の撹拌条件を調整したこと以外は、実施例1の手順にしたがって、O/W分散系の作製および懸濁重合を行って表1及び表2に示すマイクロカプセルを得た。なお、実施例23〜25においては、表2中のコアの固体成分の粒子の成分の欄に示すように、固体成分の粒子として2つの成分を用い、この2つの成分を、表2中の括弧内に記載した質量の比となるように用いた。
【0077】
得られたマイクロカプセルのコアに含まれる液体成分の含有量、コアをなす固体成分に含まれる粒子の平均粒子径および体積割合、シェルをなすスチレン系重合体のガラス転移温度Tg、マイクロカプセルの平均粒子径を、後述する測定方法にしたがって測定した。その結果を表1及び表2に示す。
【0078】
得られたマイクロカプセルを用いて、実施例1の手順にしたがって成形体および焼結された成形体を得た。後述する測定方法にしたがって、成形体の焼結の前後における、図2に示す(ア)〜(カ)の部分の奥行方向の収縮率のばらつき幅および個体間のばらつきを測定した。その結果を表1及び表2に示す。
【0079】
〔比較例〕
セラミックス造粒粉にマイクロカプセルの添加を行わなかったこと以外は、実施例1の手順にしたがって成形体および焼結された成形体を得た。成形体の焼結の前後における、図2に示す(ア)〜(カ)の部分の奥行方向の収縮率のばらつき幅および個体間のばらつきを測定した。その結果を表2に示す。
【0080】
〔参考例〕
マイクロカプセルの製造にあたって、コアを調整するにあたり固体成分を用いなかったこと以外は、実施例1の手順にしたがって、O/W分散系の作製および懸濁重合を行って表2に示すマイクロカプセルを得、このマイクロカプセルを用いて成形体および焼結された成形体を得た。得られたマイクロカプセルのコアに含まれる液体成分の含有量、コアをなす固体成分に含まれる粒子の平均粒子径および体積割合、シェルをなすスチレン系重合体のガラス転移温度Tg、マイクロカプセルの平均粒子径を、後述する測定方法にしたがって測定した。その結果を表2に示す。
【0081】
得られたマイクロカプセルを用いて、実施例1の手順にしたがって成形体および焼結された成形体を得た。後述する測定方法にしたがって、成形体の焼結の前後における、図2に示す(ア)〜(カ)の部分の奥行方向の収縮率のばらつき幅および個体間のばらつきを測定した。その結果を表2に示す。
【0082】
[マイクロカプセルにおけるコア中の液体成分の含有量]
熱重量・示差熱TG−DTA装置を用いてマイクロカプセルだけのTG−DTAを測定し、コアの液体成分とシェルとの熱分解温度の差に基づいて液体成分の含有量を算出した。具体的には、200mL/minのArガスフロー、2℃/minで昇温しながら、室温〜800℃の温度範囲で重量[%]を測定し、温度[℃]をX軸、重量[%]をY軸としたグラフを作成した。このグラフから読み取った重量変化量に基づいて、マイクロカプセルにおけるコア中の液体成分の含有量を算出した。
【0083】
[コアに含まれる固体成分中の粒子の平均粒子径の測定]
コアに含まれる固体成分中の粒子の平均粒子径は、既知のフィッシャー粒度計で測定した。
【0084】
[コアの体積およびコアの体積に対する粒子の総体積の割合の算出]
上記[マイクロカプセルにおけるコア中の液体成分の含有量]と同様の算出方法により、コアの液体成分、コアに含まれる固体成分中の粒子、及び、シェルの間の熱分解温度の差に基づいてそれぞれの重量比を算出した後、各成分の密度及び体積の関係から、コアの体積、及び、コアの体積に対する粒子の総体積の割合を算出した。
【0085】
[シェルをなすスチレン系重合体のガラス転移温度Tgの測定]
スチレン系重合体のガラス転移温度Tgは、示差走査熱量測定(DSC)により測定した。
【0086】
[マイクロカプセルの平均粒子径の測定]
レーザー式乾式粒度分布測定装置を用い、5回測定した値を算術平均してマイクロカプセルの平均粒子径とした。
【0087】
[収縮率のばらつき幅]
マイクロメーター等の既知の寸法測定法によって、成形体の焼結の前後における、図2に示す(ア)〜(カ)の部分の奥行方向の長さの変化量を収縮率として測定し、1つの成形体の中で測定された収縮率のうちの最大値と最小値との差を測定した。同一ロットから作製した成形体5個に対して測定した上記最大値と最小値との差の算術平均を算出し、成形体の収縮率のばらつき幅とした。収縮率のばらつき幅の値がゼロに近づくほど、焼結の前後において成形体の各部における収縮率の差が小さく、焼結前の成形体が成形体全体にわたって均一な密度を有し、焼結後の成形体が寸法精度に優れていることを示す。
【0088】
[個体間のばらつき]
上記[収縮率のばらつき幅]の項で測定した、1つの成形体の中で測定された収縮率のうちの最大値と最小値との差を、同一ロットから作製した成形体5個に対して測定した。測定された5個の成形体の上記差の値のうちの最大値と最小値との差を、個体間のばらつきとして評価した。個体間のばらつきの値が小さいほど、セラミックス造粒粉とマイクロカプセルとが均一に混合された混合粉末が得られ、再現性よく成形体が製造できることを示す。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
[結果の考察]
実施例1〜25の結果から、本実施例のマイクロカプセルを添加して得られた成形体は均一に形成され、焼結後は、マイクロカプセルを添加していないセラミックス(比較例)よりも収縮率のばらつき幅が小さくなることがわかる。特に、実施例2〜25では、コアの固体成分として粒子を添加することにより、比較例よりも収縮率のばらつき幅を小さくし、かつ、個体間のばらつきを低減できることがわかる。
【0092】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明のマイクロカプセルは、セラミックス造粒粉を成形する際に用いる成形助剤として有益である。
【符号の説明】
【0094】
1 金型、2 ダイ、3 下パンチ、4 上パンチ、5 混合粉末
図1
図2