(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
転写紙を製造する際にインクジェット記録装置を用いて転写紙基材上に吐出され、前記転写紙と布帛とを重ね合わせて加熱することにより前記転写紙から前記布帛に転写される転写捺染用インクであって、
顔料と、アニオン性の定着樹脂と、前記定着樹脂を中和する中和剤である揮発性アミンと、を含み、
前記顔料の平均粒子径が30nm〜150nmであり、前記顔料と前記定着樹脂の質量比が1:1〜1:5であり、前記揮発性アミンの添加量が中和等量の0.8〜1.5倍であり、
前記定着樹脂が、ポリウレタンラテックスおよびスチレン−アクリル樹脂成分から選ばれた1種以上であり、
前記揮発性アミンの沸点が常圧で50℃以上250℃以下である転写捺染用インク。
【背景技術】
【0002】
従来、綿や、絹、ポリエステル等の布帛に捺染を行う方法としては、スクリーン捺染法やローラー捺染法などが広く用いられていた。これらの捺染方法は、図柄毎にスクリーン枠や彫刻ローラーなどを用意する必要があるため、多品種少量生産の捺染には不向きであった。また、糊剤等を洗い落とす必要があり大量の廃水を排出するため環境負荷の増大が課題になっていた。これに対して、インクジェット捺染法は、スクリーン枠や彫刻ローラーなどの製版作業が不要であり、デジタルデータを変更するだけで図柄や色を変更することができるため、多品種少量生産に向いており、廃水の排出量も大幅に低減できることで近年広く用いられてきている。
【0003】
インクジェット捺染方法としては、インクジェットプリンターを用いて布帛に直接描画する直接捺染法と、インクジェットプリンターで専用紙(転写紙)に印字し、熱転写機によって転写紙に載ったインクのみを布帛に転写させる転写捺染法とが知られている。
【0004】
直接捺染法は、布帛を高速で搬送しながら描画するため、インクジェットヘッドと布帛とを近づけると布帛の表面の毛羽立ちによってインクジェットヘッドの摩耗や傷付きが発生する。そのため、インクジェットヘッドと布帛との距離を一定以上にする必要がある。しかし、インクジェットヘッドと布帛との距離が広がると画像が乱れやすく、適正に描画できなかった場合は布帛を廃棄する必要がある。
【0005】
一方、転写捺染法は、布帛をプリンターに直接的に搬送する工程がなく描画が乱れ難いため、布帛に対して高画質、高精細に画像を転写できること、インクジェットプリンターを用いた描画は転写紙に対して行われるため、描画が適正でなかった場合でも布帛を廃棄する必要がないこと、インクジェットヘッドと転写紙との距離を短めに設定できるため、高画質の描画が可能でインクミストによる汚染も少ないこと等の長所を有している。
【0006】
この転写捺染方法として、昇華性染料を用いた昇華捺染法が一般的に行われている、例えば特許文献1には、基材上に水溶性樹脂と微細粒子を含有する昇華型捺染インク受容層を有することにより、優れたインク吸収性、乾燥性、画像再現性、裏抜け防止性を有する昇華型インクジェット捺染転写紙が開示されている。
【0007】
しかし、昇華捺染法はポリエステル繊維にしか適用できないこと、昇華性染料の分子量が小さいため、染料によっては耐光性が弱く洗濯やアイロンの熱によって色が移行し褪色する可能性があること、転写温度が高温であるため転写時に繊維が圧縮され、風合いが損なわれること等の問題点があった。
【0008】
そこで、非昇華性の顔料インクを用いてポリエステル繊維以外の幅広い繊維に適用できる捺染技術の開発が進んでいる。例えば特許文献2には、平均粒子径が200μm以下且つ最大粒子径が500μm以下の顔料分散体、水溶性固着剤、および架橋剤からなるインク組成物において、水溶性顔料分散剤が、特定のエマルジョン重合体を塩基性物質により中和したものであり、水溶性固着剤が架橋性官能基を有するものであり、架橋剤が、水溶性顔料分散剤の架橋性官能基及び水溶性固着剤の架橋性官能基と100℃以上の温度で架橋反応する官能基を持つもので構成されているインクジェット捺染用インクが開示されている。
【0009】
また、特許文献3には、顔料、水、及び水溶性有機溶媒を含む顔料捺染インクであって、顔料は顔料分散剤によって分散されており、かつ顔料分散剤は揮発性アミン及び無機塩基によって中和されているインクジェット顔料捺染インクが開示されている。さらに、特許文献4には、インク受容層として親水性の糊剤を塗布した転写紙上に、インクジェットプリントにより水溶性染料を用いて図柄をプリントし、天然繊維を主成分とする布帛に転写する転写捺染方法が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の転写捺染方法は、インクジェットプリンターを用いて非昇華性の転写捺染用インクによって転写紙上に画像を形成した後、画像が形成された転写紙を布帛(織物、編み物等)と重ねあわせ、少なくとも熱および圧力を加えることにより布帛に転写捺染用インクを転写するものである。転写捺染用インクは顔料と定着樹脂とを含有し、定着樹脂が転写紙上では架橋せず、布帛への転写時に加熱により定着樹脂が架橋し、布帛の繊維と定着樹脂とが結合することで布帛に対する画像の密着性を高めている。
【0017】
また、転写捺染用インクには転写紙へ高速で吐出したときの着弾安定性が要求され、転写紙には布帛への画像転写時に転写捺染用インクを布帛に移行させる剥離(リリース)機能が要求される。さらに、布帛に対する画像の密着性を確保するために顔料に対する定着樹脂の添加量を高める必要がある。一方、インクジェットノズルからの高速吐出性を確保するためにはインク粘度を一定以上に増大させないことが必要となる。即ち、顔料に対する定着樹脂の配合量を適正な範囲に調整することが重要である。以下、本発明の転写捺染方法に用いる転写捺染用インクについて説明する。
【0018】
(顔料)
転写捺染用インクに配合する顔料としては、従来公知の有機及び無機顔料が使用できる。例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料や、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリレン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサンジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロニ顔料等の多環式顔料や、塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等の染料レーキや、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等の有機顔料、カーボンブラック等の無機顔料が挙げられる。また、インク中の顔料の含有量は0.5〜10質量%であることが好ましい。
【0019】
本発明の転写捺染用インクに配合する顔料は、布帛に転写された顔料が布帛の表面付近に存在するため、顔料粒子の粒径を小さくして発色性を高めることが重要である。具体的には、顔料粒子の平均粒子径を30nm〜150nm、好ましくは50nm〜100nmとする。平均粒子径が100nmを上回ると発色性が弱くなり、捺染物の濃度が低下して鮮明な画像が得られなくなる。
【0020】
一方、顔料粒子の平均粒子径が50nm以下になるとインク中の分散安定性が低下する傾向があり、顔料の凝集体を形成してインクジェットノズルの目詰まりの原因となるおそれがある。そのため、転写捺染用インクに配合する顔料粒子は、後述する分散安定剤や被覆材として存在する定着樹脂によって顔料粒子がインク中に分散されていることが好ましい。顔料粒子の平均粒子径は、光散乱法、電気泳動法、レーザードップラー法等を用いた市販の粒径測定機器により測定することができる。また、透過型電子顕微鏡による粒子像撮影を少なくとも100粒子以上に対して行い、画像解析ソフトを用いて統計的処理を行うことによって測定することも可能である。
【0021】
転写捺染用インクに配合する顔料の具体例としては、マゼンタまたはレッド用の顔料としては、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド222等が挙げられる。
【0022】
オレンジまたはイエロー用の顔料としては、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138等が挙げられる。
【0023】
グリーンまたはシアン用の顔料としては、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
【0024】
(定着樹脂)
本発明の転写捺染用インクは、インクとしての安定性の他に転写紙からの離形性と布帛への密着安定性を有していることが好ましい。転写捺染用インクに配合する定着樹脂は、水に不溶性である水分散性樹脂が好ましい。水分散性樹脂は比較的油溶性であり、布帛に移行した顔料全体を被覆するように定着させることができるため、布帛に対して顔料をより強固に付着させることができる。本発明において、定着樹脂は塩基で中和するなどして水に対して最も安定な状態とすることが重要である。
【0025】
本発明で用いることのできる水分散性樹脂としては、例えば、スチレンアクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、またはスチレンアクリル樹脂−ポリエステル樹脂共重合体、スチレンアクリル樹脂−ウレタン樹脂共重合体等の、上記の樹脂の二種類以上が共重合された共重合体も使用可能である。さらに、布帛への転写時に定着樹脂の一部が架橋及び布帛との強い結合により、分子量の増大または硬化反応を起こす設計が重要である。そこで、定着樹脂として、反応性官能基を有するアクリルモノマー、ポリイソシアネートの水分散体、ブロックポリイソシアネートの水分散体、グリオキザール樹脂の水分散体、又は何らかの架橋剤を含む重合体を使用することができる。
【0026】
また、布帛に対するインクの密着安定性を高めるために定着樹脂の添加量を増加すると、画像が転写された布帛の屈曲性が低下してゴワゴワした質感となり、風合いが劣化する。そこで、ポリウレタン樹脂のように硬化後も柔軟性を有する分子構造をもつ樹脂を用いることが好ましい。
【0027】
スチレンアクリル樹脂としては、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体から選ばれた1種以上を組み合わせて使用することができる。上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルカルビトール(メタ)アクリレート、フェノールEO変性(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等を用いることができる。
【0028】
シリコーン樹脂としては、側鎖型、片末端型、両末端型、側鎖両末端型の変性シリコーンオイル等を用いることができる。
【0029】
ポリエステル樹脂としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、スルホイソフタル酸ナトリウム、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,10−デカンジカルボン酸、ダイマー酸等の二価カルボン酸、トリメリット酸、ピロリメット酸などの三価以上の多価カルボン酸と、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル―1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリテトラエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物などの二価アルコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの三価以上の多価アルコールのエステル結合による重合体、或いはそれらのブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体などを使用することができる。
【0030】
ウレタン樹脂としては、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(エチレンアジペート)、ポリ(ジエチレンアジペート)、ポリ(プロピレンアジペート)、ポリ(テトラメチレンアジペート)、ポリ(ヘキサメチレンアジペート)、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)、シリコーンポリオールなどのポリオールと、トリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水素化トリレンジイソサネート、水素化4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどのイソシアネートのウレタン結合による重合体、或いはそれらのブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体など、を用いることができる。
【0031】
本発明の転写捺染用インクにおいて、定着樹脂は、顔料粒子の周囲に被覆材として存在していてもよいし、ラテックス粒子としてインク中に添加してもよい。
【0032】
定着樹脂を顔料粒子の周囲に被覆材として存在させる場合は、モノマーを溶液重合させて得たポリマー溶液中に顔料粒子を分散させ、水系への転相乳化によって安定で被覆粒子の粒度分布がシャープな転写捺染用インクとなる。定着樹脂で被覆された被覆粒子の平均粒子径は、インクの保存安定性や発色性の観点から80〜150nm程度が好ましい。
【0033】
定着樹脂をラテックス粒子としてインク中に添加する場合は、予め顔料と分散安定剤とを混合し、分散させて顔料分散体を作製する。そして、得られた顔料分散体や中和剤、溶剤、水等の他の成分と共にラテックスを添加して転写捺染用インクを作製する。
【0034】
転写捺染用インク中に添加されるラテックスの例としては、ポリウレタンラテックスが一般的である。ポリウレタンラテックスには、比較的親水性の通常のポリウレタン系樹脂に乳化剤を添加してエマルジョン化したものと、樹脂自体に乳化剤の働きをする官能基を共重合等の手段で導入した自己乳化型のエマルジョンがある。本発明のインクに用いることができるアニオン性自己乳化型のポリウレタン樹脂エマルジョンは後者に属する。特に、顔料の固着性・分散安定性や分散剤との各種組み合わせにおいて、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂エマルジョンは弱アルカリ条件下で可撓性を保持し、強度もあるので有効である。ただし、酸性下では凝集する性質もあり注意が必要である。
【0035】
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂エマルジョンのうち、好ましいものとしては酸価が40以上120以下、分子量が500以上50000以下、及び一次粒子の平均粒子径が150nm以下、好ましくは120nm以下、より好ましくは100nm以下のものが挙げられる。一般的には50nmを下回ると水中での分散安定性が低下する傾向がある。
【0036】
定着樹脂の布帛への定着温度(架橋温度)は100℃〜200℃、好ましくは120℃〜190℃、より好ましくは140℃〜180℃である。定着温度が100℃以下では転写紙上のインクを乾燥させる際の温度で硬化してしまい、布帛に転写した後の対摩擦堅牢試験等で強度が確保できない。一方、定着温度が200℃以上になると布帛の繊維が平たくなり布帛の質感が低下する。
【0037】
転写捺染用インク中の定着樹脂の配合量は、顔料に対して1〜5倍の質量比、好ましくは1〜3倍の質量比となるように配合される。顔料に対する定着樹脂の質量比が1倍未満であると、繊維に対しての密着性が十分ではなく、洗濯堅牢度や摩擦堅牢度が低下する。一方、顔料に対する定着樹脂の質量比が5倍を超えると、インク粘度が増大してインクの吐出安定性が低下するため、転写紙上に長期に亘って安定した画像を描画することができない。
【0038】
また、定着樹脂の酸価は80mgKOH/g以上300mgKOH/g未満であることが好ましく、90mgKOH/g〜250mgKOH/gであることがより好ましい。定着樹脂の酸価を上記の範囲とすることにより、共重合物の乾燥時の粘度増加が顕著になるとともに、乾燥後も更に強固に固化するため顔料の定着性が良好となる。本発明で規定する酸価は、JISK0070に準拠して測定できる。
【0039】
本発明で用いることのできる定着樹脂の分子量としては、平均分子量で2000〜30000のものを好ましく用いることができ、より好ましくは5000〜25000である。定着樹脂のpKa(酸解離定数)は、4〜8のものを好ましく用いることができ、より好ましくは5〜7である。また、定着樹脂をラテックス粒子として添加する場合は、顔料粒子の分散安定剤が分散安定性を失って沈殿した後に定着樹脂の分散安定性が失われるように、分散安定剤のpKaより小さい定着樹脂を用いることが好ましい。
【0040】
(中和剤)
中和剤は、定着樹脂のカルボキシル基を中和するために配合される。転写紙への画像形成・乾燥時には転写紙に形成されたインク画像中に中和剤が残存しており、アニオン性の定着樹脂が顔料と一体となってインク中で分散安定性を保つことができる。そして、布帛への画像転写時には熱、圧力、水蒸気等によって定着樹脂が軟化し、ゲル化することで、布帛への画像の転写を容易に行うことができる。このとき、布帛の疎水性を高めるために、中和剤は布帛への画像転写時に大部分が揮発することが好ましい。従って、中和剤として特に揮発性アミンを用いることが好ましい。
【0041】
揮発性アミンとしては、常圧での沸点が50℃以上であり常温では安定であって、50℃〜250℃の範囲で揮発するアミンであることが好ましい。布帛への転写時には一時的に蒸気圧を高めて転写することも考えられるため、中和剤として常圧での沸点が200℃を超えるアミンを用いることもできる。
【0042】
本発明で用いる揮発性アミンとしては、例えば、トリエチルアミン、2−ジメチルアミノエタノール、2−ジ−n−ブチルアミノエタノール、メチルジエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−メチルアミノエタノール等が挙げられる。
【0043】
一般的なインクジェットプリンター用のインクでは、樹脂成分の配合量は顔料に対して50質量%以下であり、樹脂成分の配合量を増加するとインクの粘度が増大してインクジェットヘッドのノズルの目詰まりの原因となる。本発明の転写捺染用インクは、インクの粘度を増加させることなく顔料に対して定着樹脂を1〜5倍の質量比で配合することにより、インクジェットヘッドからの吐出安定性と、布帛へのインクの固着性を高めることによる洗濯、摩擦堅牢性の向上との両立を図るものである。そのためには、中和剤である揮発性アミンの選択と添加量が重要となる。
【0044】
本発明の転写捺染用インクにおける揮発性アミンの添加量は中和等量の0.8〜1.5倍としている。これにより、転写紙上に形成されたインク層中では定着樹脂と揮発性アミンとが共存するため、定着樹脂が親水性となっている。そのため、布帛への転写時には転写紙基材から発生する水分によって定着樹脂が軟化(ゲル化)することにより布帛への転写性を高めることができる。そして、布帛への転写が完了した時点では揮発性アミンが揮発することで定着樹脂が疎水性に変化し、水に不溶性のインク層を形成するため、捺染物の洗濯堅牢性や湿式摩擦堅牢性が向上する。
【0045】
揮発性アミンの添加量が中和等量の0.8倍を下回ると、アニオン性の定着樹脂のインク中での分散安定性を確保できない。一方、揮発性アミンの添加量が中和等量の1.5倍を上回ると、転写工程での加熱によって揮発性アミンが十分に揮発せず、布帛に転写されたインク層中の定着樹脂が親水性を維持するため、捺染物の洗濯堅牢性や湿式摩擦堅牢性が低下する。
【0046】
(水溶性溶剤)
本発明の転写捺染用インクは水溶性溶剤を含有している。水溶性溶剤の種類および含有量は、インクジェットプリンターからの吐出安定性(インク粘度)、布帛への浸透性、ゲル化速度調整等の観点から適宜その種類および含有量を調整すればよい。本発明の転写捺染用インクの粘度は、23℃で3mPas〜10mPasに調整することが好ましい。
【0047】
本発明の転写捺染用インクに用いられる水溶性溶剤としては、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル等のグリコールエーテル類、プロピレングリコール、グリセリン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルホキシド、ソルビット、ソルビタン、アセチン、ジアセチン、トリアセチン、スルホラン、およびこれらの混合物が挙げられる。転写捺染用インク中の水溶性溶剤の含有量は10〜60質量%であることが好ましい。
【0048】
その他、本発明の転写捺染用インクには、必要に応じて成膜助剤、界面活性剤、防腐剤等をさらに配合してもよい。成膜助剤は、水や水溶性溶剤に可溶であり、水や水溶性溶剤が蒸発する際には蒸発せずにインク中に残存し、定着樹脂を溶解して融着させることにより強固な膜形成を補助するものである。本発明の転写捺染用インクに用いられる成膜助剤としては、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル等の比較的高沸点のグリコールエーテル類を用いることができる。
【0049】
(転写紙)
次に、本発明の転写捺染方法に用いる転写紙について説明する。従来、一般的に行われている昇華転写方式ではインクを転写紙に印刷した後、熱によって染料が昇華することで布帛に画像を転写させる方式であり、化学的な転写方式である。一方、本発明においては顔料を布帛に固着させるために必要な定着樹脂が転写捺染用インクに配合されており、転写装置によって加熱されて定着樹脂が軟化し、顔料を定着樹脂と共に布帛に物理的に転写させるものである。転写条件は、従来の熱の他に圧力、振動、水蒸気等を付加する方式で行われる。そのため、転写紙には水性の転写捺染用インクを高速で受容するとともに転写紙の内部に入り込まないようにするブロック機能と、転写時にインク成分を布帛に剥離させる剥離(リリース)機能とが必要とされる。
【0050】
水性インクを高速で受容するためには、転写紙の表面に微細な凹凸をつけてインクを吸収させる必要がある、そのため親水性の定着樹脂や、炭酸カルシウムやシリカ等の微粒子を配合したインク受容層を形成する必要がある、一方、本発明の転写捺染用インクの物理的な転写を可能にするためには、インク受容層にインクを剥離させるための機能が必要である。より具体的には、画像転写時にインク中の定着樹脂が熱、圧力または水蒸気等によって軟化し、ゲル化することで転写させる。水蒸気による軟化作用は、例えばアニオン性定着樹脂の中和剤を転写時まで残存させておくことによって、容易に軟化させることができる。また、転写紙のインク受容層の一部をインクと共に布帛側に転写させる設計や、親水性のインク受容層の表面にシリコーン樹脂やワックス等の疎水性樹脂をスプレーして疎水層を散在させた、水性インクが剥離しやすいような設計も有効である。
【0051】
次に、本発明の転写捺染方法の手順について説明する。
図1は、本発明の転写捺染方法の転写紙製造工程を模式的に示す図であり、
図2は、本発明の転写捺染方法の転写工程および剥離工程を模式的に示す図である。
【0052】
図1に示すように、インクジェットヘッドを用いて転写紙基材3′上に転写捺染用インク4を吐出して画像を描画し、インク層5を形成した後、インク層5を乾燥することにより転写紙3を製造する(転写紙製造工程)。
【0053】
転写紙製造工程においては、インク層5に含まれる定着樹脂の架橋温度(硬化温度)よりも低温で乾燥させる。また、インク層5に定着樹脂の中和剤として揮発性アミンが含まれる場合は、インク層5に含まれる揮発性アミンの沸点以下の温度で乾燥させる。乾燥温度としては100℃以下が好ましい。
【0054】
次に、
図2に示すように転写紙3を布帛7の片面に積層し、布帛7と転写紙3との積層体9を加圧・加熱処理し、転写紙3のインク層5を布帛7に転写する(転写工程)。
【0055】
布帛7としては、綿、麻、レーヨン等のセルロース系繊維、絹、羊毛等の蛋白質系繊維およびナイロン、ビニロン、ポリエステル等の合成繊維から選択された一種または二種以上の繊維材料からなる織物、編物、または不織布が用いられる。
【0056】
転写工程においては、インク層5に含まれる定着樹脂の架橋温度よりも高温で積層体9を加熱処理する。また、アニオン性の定着樹脂の中和剤として揮発性アミンを含む場合は、揮発性アミンの沸点以上の温度で積層体9を加熱処理する。これにより、転写開始直後はインク層5中に残存する揮発性アミンによってインク層5が親水化して軟化(ゲル化)するため、インク層5は布帛7へ容易に転写され、布帛7に密着してフィルム化する。そして、転写工程が進むにつれて揮発性アミンが気化し、インク層5が疎水化するため、フィルム化したインク層5が布帛7に強固に固着される。
【0057】
また、転写工程での加熱により、転写紙3に含まれる水分が水蒸気となってインク層5の親水化(軟化)を促進する。そこで、転写工程に先立って、布帛7に水分を含浸させる水分含浸工程を追加することにより、転写工程におけるインク層5の軟化を促進し、布帛7へのインク層の転写性を向上させることもできる。
【0058】
転写工程における加熱温度(転写温度)が100℃よりも低い場合、転写紙製造工程におけるインク層5の乾燥温度と同等になる。そのため、転写紙3のインク層5が乾燥時に硬化してしまい、インク層5中の揮発性アミンも十分に揮発しないため、布帛7への転写後に耐摩擦堅牢試験等で十分な強度が得られない。一方、転写工程における加熱温度が200℃よりも高い場合、布帛7の繊維が平らになり、布帛7の質感が低下する。従って、転写工程における加熱温度としては100℃以上200℃以下であることが必要であり、120℃〜190℃が好ましく、140℃〜180℃が最も好ましい。
【0059】
次に、積層体9から転写紙基材3′を剥離する(剥離工程)。これにより、布帛7上にインク層5がフィルム状に転写された捺染物10を製造する。その後、必要に応じて捺染物10中の未定着顔料や定着樹脂等の不要な物質を除去する洗浄工程や、洗浄工程が施された後の捺染物10を乾燥処理する乾燥工程を行うこともできる。
【0060】
布帛7上に転写されたインク層5の膜厚は50nm〜200nmであることが好ましく、50nm〜100nmであることがより好ましい。インク層5の膜厚が500nm以上であると、布帛7がゴワゴワしてきて摩擦堅牢度が低下するとともに、布帛7の風合いが低下する。また顔料粒子の一般的な粒径が50nm〜100nm程度であるため、転写時に顔料粒子の一部が布帛7の繊維にめり込んだとしても膜厚の最小値は40nm〜80nm程度になる。
【0061】
布帛7上に転写されフィルム化されたインク層5の膜厚の測定方法としては、以下に示すイオンビーム法が用いられる。インク層5が転写された布帛7を紫外線硬化樹脂で包埋した後、UVランプの照射によって紫外線硬化樹脂の硬化を行い、測定用のサンプルを切り出す。切り出されたサンプルの切断面を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察し、インク層5の膜厚を測定する。観察ポイントは20箇所を測定した平均値を算出する。
【0062】
布帛7上に転写されたインク層5の膜厚は、転写紙基材3′上に形成されるインク層5の膜厚と相関性を有する。布帛7上に転写されたインク層5の膜厚を50nm〜200nmとするためには、転写紙基材3′上に形成されるインク層5の膜厚を50nm〜500nmとすればよい。転写紙基材3′上に形成されるインク層5の膜厚は、布帛7上に転写されたインク層5の膜厚と同様にイオンビーム法を用いて測定可能である。
【0063】
本発明の転写捺染方法によれば、インクジェットヘッド1を用いて転写紙基材3′にインク層5を形成するため、インクジェットヘッド1による描画が適正でなかった場合でも高価な布帛7を廃棄する必要がない。また、インクジェットヘッド1を用いて布帛7に直接描写する場合に比べてインクジェットヘッド1と転写紙基材3′との距離を短めに設定できるため、高画質の描画がなされた転写紙3の製造が可能である。
【0064】
また、ポリエステル以外の多種類の布帛7への捺染を行うことができ、布帛7の表面付近に顔料を固着させることができるため、従来に比べて鮮明な捺染物を製造することができ、製造された捺染物の堅牢性にも優れている。さらに、布帛7の前処理や後処理を必要とせず、使用済の転写紙基材3′以外の他の廃棄物が発生しないため、環境に対する負荷も少なく適用範囲も広い捺染方法を提供するものである。
【0065】
その他本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では転写紙3を布帛7に重ね合わせた積層体9を上下からプレスするバッチ式の転写捺染方法について説明したが、本発明はロール状に巻かれた長尺の転写紙3と布帛7とを所定の速度で繰り出し、重ね合わせて積層体9とした後に加熱・加圧ローラーを通過させて布帛7上にインク層5を転写させた後、転写紙基材3′を巻き取りながら剥離する連続式の転写捺染方法にも同様に適用可能である。以下、実施例を用いて本発明の効果についてさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0066】
(顔料分散体の作製)
フタロシアニン顔料(ピグメントブルー15:3)20質量%、分散安定剤としてスチレンアクリル樹脂(分子量5000)5質量%、イオン交換水75質量%を配合し、薄膜旋回型高速ミキサー(フイルミックス、プライミックス社製)によって高速分散した後、ビーズミル(ダイノーミル、シンマルエンタープライゼス社製)によって粒度が80nmになるまで分散処理を行って顔料分散体を作製した。この顔料分散体の粘度は8mPasであった。
【0067】
(転写捺染用インクの作製)
表1に示すように、先に作製した顔料分散体を顔料成分が5質量%になるように配合し、水溶性溶剤としてプロピレングリコール、グリセリン、界面活性剤としてサーフィノール104(アセチレングリコール系界面活性剤、日信化学製)を配合し、定着樹脂としてポリウレタンラテックス(UPUD−ST−008、宇部興産製)を配合量が固形分で5質量%、10質量%、15質量%になるように配合し、中和剤として、トリエチルアミン(沸点89℃)を中和等量の0.8倍、1倍、1.5倍配合し(ポリウレタンラテックスの架橋開始温度は140℃以上である)、さらにトータルで100質量%となるようにイオン交換水を配合して撹拌することで転写捺染用インクを作製した(本発明1〜3)。また、比較例として、トリエチルアミンに代えてアンモニアまたは水酸化ナトリウムを中和等量の1倍配合した転写捺染用インク、およびポリウレタンラテックスを配合量が3質量%、10質量%、30質量%になるように配合した転写捺染用インクを作製した(比較例1〜4)。
【0068】
(転写捺染用転写紙の作製)
親水性のコート層が形成された転写紙(Transjet、Cham Paper社製)の表面にワックスエマルション(KW−606、互応化学社製)をスプレー塗布することによって、親水性のインク受容層の表面に撥水性の離型層が散在するコーティング層を有する転写紙基材を作製した。撥水性のワックスエマルションは、布帛への転写時の加熱によって溶融し、親水性のインクと転写紙基材との間に離形膜を形成してインクの転写を容易にするものである。
【0069】
作製した転写紙基材(A4サイズ)に、インクジェットヘッド(KJ4B、京セラ社製)をセットしたインクジェットプリンターを用いて本発明1〜3、比較例1〜4の転写捺染用インクにより濃度100%のベタ画像を形成した。画像形成速度は50m/秒とした。画像が形成された転写紙基材を60℃で10分間乾燥させて転写捺染用転写紙を作製した。
【0070】
(捺染物の作製)
作製した転写紙に綿製の布帛を重ね合わせ、160℃、1MPaで1分間転写を行うことにより捺染物を作製した。
【0071】
(転写捺染用インクの吐出安定性、転写性、捺染物の洗濯堅牢性の評価)
インク組成物の連続吐出安定性について、以下の基準により評価した。
◎:A4ベタ150枚印字において、ドット抜けがない。
○:A4ベタ150枚印字において、ドット抜けが1本以上、10本以下である。
×:A4ベタ150枚印字において、ドット抜けが11本以上である。
【0072】
転写効率(布帛への転写比)は、転写紙に残存した転写残インク量と、布帛に転写されたインク量とを測定して算出した。布帛に転写されたインク層の膜厚は、前述したイオンビーム法により測定した。
【0073】
捺染物の洗濯堅牢性について、ISO105−C10:2006に準じた方法で洗濯堅牢性評価を実施し、以下の基準により評価した。
◎:洗濯堅牢度が4級以上である。
○:洗濯堅牢度が3級以上、4級未満である。
×:洗濯堅牢度が3級未満である。
23℃におけるインク粘度、転写紙上および布帛上でのインクの性質(親水性or疎水性)、布帛上のインク層の膜厚、吐出安定性、転写性、捺染物の洗濯堅牢性の評価結果を転写捺染用インクの配合と共に表1に示す。
【0074】
【表1】
※;中和等量を1としたときの添加量
【0075】
表1から明らかなように、ポリウレタンラテックスの配合量を5質量%〜15質量%(顔料に対する質量比1:1〜1:3)とした本発明1〜3の転写捺染用インクを使用した場合、23℃におけるインク粘度が5〜7mPasの範囲となり、転写紙基材150枚に連続印字したときのドット抜けが10本以下であり、吐出安定性に優れていた。また、転写紙から布帛へのインクの転写効率も80〜85%と良好であった。そして、捺染物の洗濯堅牢度も3級以上であった。この理由としては、転写紙上ではインク中にトリエチルアミンが残存するためインクは親水性に維持され、定着樹脂が軟化、ゲル化し易くなり、転写後はトリエチルアミンが揮発することでインクが疎水性に変化し、布帛の表面に80nm〜150nmと十分な膜厚のインク層が強固に固着したためであると考えられる。
【0076】
これに対し、中和剤としてトリエチルアミンに代えてアンモニアを使用した比較例1の転写捺染用インクを使用した場合、転写紙から布帛へのインクの転写効率が50%と低くなった。この理由としては、転写紙の製造時にアンモニアが揮発してしまうために転写紙上でインクが疎水性に変化し、転写時に定着樹脂が軟化、ゲル化し難くなるためであると考えられる。また、中和剤としてトリエチルアミンに代えて水酸化ナトリウムを使用した比較例2の転写捺染用インクを使用した場合、捺染物の洗濯堅牢度が3級未満であった。この理由としては、転写時に水酸化ナトリウムが揮発せずにインク中に残存するため、布帛へ転写されたインクが親水性に維持されてしまい布帛に強固に固着しないためであると考えられる。
【0077】
また、ポリウレタンラテックスの配合量を3質量%(顔料に対する質量比1:0.6)とした比較例3の転写捺染用インクを使用した場合、転写紙から布帛へのインクの転写効率が50%と低く、捺染物の洗濯堅牢度も3級未満であった。また、ポリウレタンラテックスの配合量を30質量%(顔料に対する質量比1:6)とした比較例4の転写捺染用インクを使用した場合、23℃におけるインク粘度が20mPasと高くなり、転写紙基材150枚に連続印字したときのドット抜けが11本以上であり、吐出安定性が十分ではなかった。
【実施例2】
【0078】
(水不溶性ポリマー溶液の作製)
反応容器内の窒素ガス置換を行い、表2に示すモノマー、溶剤、重合開始剤を入れて混合し、初期仕込みモノマー溶液および滴下モノマー溶液を得た。
【0079】
【表2】
【0080】
窒素雰囲気下、反応容器内の初期仕込みモノマー溶液を攪拌しながら75℃に維持し、表2に示す滴下モノマー溶液を3時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。滴下終了後、反応容器内の混合溶液を75℃で2時間攪拌した。次いで、重合開始剤2質量部をメチルエチルケトン130質量部に溶解した重合開始剤溶液を混合溶液に加え、75℃で1時間攪拌することで熟成を行った。次いで反応容器内の反応溶液を85℃で2時間保持し、ポリマー溶液を得た。 得られたポリマーの重量平均分子量は170,000であった。
【0081】
(顔料分散体の作製)
製造例2で得られたポリマー溶液に対し、フタロシアニン顔料(ピグメントブルー15:3)を、顔料とポリマーとの比率が1:0.6、1:1、1:2、1:3、1:6になるように配合した。分散液は高速回転ディスパー(T.K.ロボミックス+T.K.ホモディスパー2.5型、プライミクス社製)にて分散させた後、ビーズミル(ダイノーミル、シンマルエンタープライゼス社製)にて微分散することにより、70nmの顔料粒子がポリマー溶液中に分散された分散液を作製した。この分散液を水中に転相乳化させることで100nmサイズの大きさで分散させた粒子状の分散液を作製し、さらにこの分散液を減圧下で撹拌することで溶剤を除去し顔料分散体を得た。
【0082】
(転写捺染用インク、転写捺染用転写紙、捺染物の作製)
作製された顔料分散体を用いて、表3に示したインク配合を行うことで、実施例1と同様に転写捺染用インク(本発明4〜6、比較例5、6)を作製した。なお、本実施例では成膜助剤としてトリプロピレングリコールn−ブチルエーテル(ダワノールTPnB、ダウ・ケミカル社製)を2質量%配合した。実施例1で作製した転写紙基材に本発明4〜6、比較例5、6の転写捺染用インクにより濃度100%の画像を形成し、転写捺染用転写紙を作製した。作製された転写捺染用転写紙に綿製の布帛を張り合わせ、160℃、1MPaで1分間転写を行うことにより捺染物を作製した。
【0083】
(転写捺染用インクの吐出安定性、転写性、捺染物の洗濯堅牢性の評価)
インク組成物の連続吐出安定性、転写効率、捺染物の洗濯堅牢性について、実施例1と同様の手法、評価基準により評価した。23℃におけるインク粘度、吐出安定性、転写性、捺染物の洗濯堅牢性の評価結果を転写捺染用インクの配合と共に表3に示す。
【0084】
【表3】
【0085】
表3から明らかなように、スチレン−アクリル樹脂成分の配合量を5質量%〜15質量%(顔料に対する質量比1:1〜1:3)とした本発明4〜6の転写捺染用インクを使用した場合、23℃におけるインク粘度が4〜6mPasの範囲となり、転写紙基材150枚に連続印字したときのドット抜けが10本以下であり、吐出安定性に優れていた。また、布帛上のインク層の膜厚も80nm〜150nmと十分な膜厚であり、転写紙から布帛へのインクの転写効率も85〜95%と良好であり、捺染物の洗濯堅牢度も3級以上であった。
【0086】
これに対し、スチレン−アクリル樹脂成分の配合量を3質量%(顔料に対する質量比1:0.6)とした比較例3の転写捺染用インクを使用した場合、布帛上のインク層の膜厚が60nm、転写紙から布帛へのインクの転写効率が60%と低く、捺染物の洗濯堅牢度も3級未満であった。また、スチレン−アクリル樹脂成分の配合量を30質量%(顔料に対する質量比1:6)とした比較例4の転写捺染用インクを使用した場合、23℃におけるインク粘度が15mPasと高くなり、転写紙基材150枚に連続印字したときのドット抜けが11本以上であり、吐出安定性が十分ではなかった。
【0087】
実施例1、2の結果より、定着樹脂であるポリウレタンラテックスまたはスチレン−アクリル樹脂成分の配合量を5質量%〜15質量%とし、中和剤として揮発性アミンを中和等量の0.8〜1.5倍添加することにより、インクジェットプリンターを用いて転写紙を製造する際の吐出安定性に優れ、転写紙から布帛に画像を転写する際の転写効率が高く、且つ製造された捺染物の洗濯堅牢性も優れた転写捺染用インクとなることが確認された。