特許第6809436号(P6809436)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809436
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】接合方法及び複合圧延材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20201221BHJP
   B23K 103/18 20060101ALN20201221BHJP
【FI】
   B23K20/12 360
   B23K20/12 344
   B23K103:18
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-207762(P2017-207762)
(22)【出願日】2017年10月27日
(65)【公開番号】特開2019-76947(P2019-76947A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2020年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 久司
(72)【発明者】
【氏名】河本 知広
(72)【発明者】
【氏名】中島 栄一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勇人
【審査官】 奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−150380(JP,A)
【文献】 特開2003−039183(JP,A)
【文献】 特開2013−163208(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0367452(US,A1)
【文献】 特開2004−034139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先細りの攪拌ピンを備えた回転ツールを用いて材料の異なる一対の金属部材を接合する接合方法であって、
端面を備えた第一金属部材と、
端面を備え、前記第一金属部材よりも融点の高い第二金属部材と、を準備する準備工程と、
前記第一金属部材及び前記第二金属部材の前記端面同士を突き合わせて突合せ部を形成する突合せ工程と、
回転する前記回転ツールの攪拌ピンを前記第一金属部材の表面のみから挿入し、前記回転ツールの回転中心軸を前記突合せ部に対して前記第一金属部材側に傾斜させつつ、前記攪拌ピンのみを少なくとも前記第一金属部材に接触させた状態で前記突合せ部に沿って前記回転ツールを相対移動させて前記第一金属部材と前記第二金属部材とを接合する接合工程と、を含み、
前記回転ツールの前記攪拌ピンは、先端に前記回転中心軸に垂直な平坦面を備え、
前記第一金属部材の厚みを前記第二金属部材の厚みよりも大きくし、
前記突合せ工程では、段差部を備える架台の上に、前記第一金属部材を前記段差部を挟んで低い面に載置し、前記第二金属部材を前記段差部を挟んで高い面に載置することを特徴とする接合方法。
【請求項2】
前記回転中心軸と前記攪拌ピンの外周面とのなすテーパー角度が角度αである場合、
前記接合工程において、前記回転中心軸を前記突合せ部に対して前記第一金属部材側に角度α傾斜させることを特徴とする請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
前記第一金属部材はアルミニウム又はアルミニウム合金で形成し、前記第二金属部材は銅又は銅合金で形成するとともに、
前記接合工程では、回転する前記回転ツールの攪拌ピンを前記第一金属部材の表面のみから挿入し、前記回転ツールの回転中心軸を前記第一金属部材側に傾斜させつつ、前記攪拌ピンのみを前記第一金属部材のみに接触させた状態で前記突合せ部に沿って前記回転ツールを相対移動させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の接合方法。
【請求項4】
前記突合せ工程では、前記第一金属部材の表面と前記第二金属部材の表面とが面一となるように設定することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項5】
前記突合せ工程では、前記第一金属部材の表面が、前記第二金属部材の表面よりも高い位置となるように設定することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項6】
前記接合工程では、前記回転ツールの移動軌跡が形成される塑性化領域のうち、前記第二金属部材側がシアー側となり、前記第一金属部材側がフロー側となるように前記回転ツールの接合条件を設定することを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項7】
前記回転ツールの外周面に基端から先端に向かうにつれて左回りの螺旋溝を刻設した場合、前記回転ツールを右回転させ、
前記回転ツールの外周面を基端から先端に向かうにつれて右回りの螺旋溝を刻設した場合、前記回転ツールを左回転させることを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項8】
材料の異なる一対の金属部材で形成された複合圧延材の製造方法であって、
端面を備えた第一金属部材と、
端面を備え、前記第一金属部材よりも融点の高い第二金属部材と、先細りの攪拌ピンを備えた回転ツールと、を準備する準備工程と、
前記第一金属部材及び前記第二金属部材の前記端面同士を突き合わせて突合せ部を形成する突合せ工程と、
回転する前記回転ツールの攪拌ピンを前記第一金属部材の表面のみから挿入し、前記回転ツールの回転中心軸を前記突合せ部に対して前記第一金属部材側に傾斜させつつ、前記攪拌ピンのみを少なくとも前記第一金属部材に接触させた状態で前記突合せ部に沿って前記回転ツールを相対移動させて前記第一金属部材と前記第二金属部材とを接合する接合工程と、
前記接合工程で接合された前記金属部材同士を、接合線を圧延方向として圧延する圧延工程と、を含み、
前記回転ツールの前記攪拌ピンは、先端に前記回転中心軸に垂直な平坦面を備え、
前記第一金属部材の厚みを前記第二金属部材の厚みよりも大きくし、
前記突合せ工程では、段差部を備える架台の上に、前記第一金属部材を前記段差部を挟んで低い面に載置し、前記第二金属部材を前記段差部を挟んで高い面に載置することを特徴とする複合圧延材の製造方法。
【請求項9】
前記突合せ工程では、前記第一金属部材の表面と前記第二金属部材の表面とが面一となるように設定することを特徴とする請求項8に記載の複合圧延材の製造方法。
【請求項10】
前記突合せ工程では、前記第一金属部材の表面が、前記第二金属部材の表面よりも高い位置となるように設定することを特徴とする請求項8に記載の複合圧延材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合方法及び複合圧延材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、材料の異なる金属部材同士を回転ツールで摩擦攪拌する技術が開示されている。従来の接合方法では、金属部材同士の端面は、斜めに切断されている。そのため、端面同士を突き合わせて形成された突合せ部も斜めになっている。接合工程では、第二金属部材よりも融点の低い第一金属部材に回転ツールを挿入し、突合せ部に沿って摩擦攪拌を行う。接合工程では、突合せ部の傾斜角度と、攪拌ピンのテーパー角度とが同一になっているため、接合工程の際に材料の異なる第一金属部材と第二金属部材とが混在することを回避することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−150380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の接合方法では、第一金属部材及び第二金属部材の端面を斜めに形成する工程が煩雑になるという問題がある。
【0005】
このような観点から、本発明は、異なる種類の金属部材を好適に接合することができる接合方法及び複合圧延材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するために本発明は、先細りの攪拌ピンを備えた回転ツールを用いて材料の異なる一対の金属部材を接合する接合方法であって、端面を備えた第一金属部材と、端面を備え、前記第一金属部材よりも融点の高い第二金属部材と、を準備する準備工程と、前記第一金属部材及び前記第二金属部材の前記端面同士を突き合わせて突合せ部を形成する突合せ工程と、回転する前記回転ツールの攪拌ピンを前記第一金属部材の表面のみから挿入し、前記回転ツールの回転中心軸を前記突合せ部に対して前記第一金属部材側に傾斜させつつ、前記攪拌ピンのみを少なくとも前記第一金属部材に接触させた状態で前記突合せ部に沿って前記回転ツールを相対移動させて前記第一金属部材と前記第二金属部材とを接合する接合工程と、を含み、前記回転ツールの前記攪拌ピンは、先端に前記回転中心軸に垂直な平坦面を備え、前記第一金属部材の厚みを前記第二金属部材の厚みよりも大きくし、前記突合せ工程では、段差部を備える架台の上に、前記第一金属部材を前記段差部を挟んで低い面に載置し、前記第二金属部材を前記段差部を挟んで高い面に載置することを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、材料の異なる一対の金属部材で形成された複合圧延材の製造方法であって、端面を備えた第一金属部材と、端面を備え、前記第一金属部材よりも融点の高い第二金属部材と、先細りの攪拌ピンを備えた回転ツールと、を準備する準備工程と、前記第一金属部材及び前記第二金属部材の前記端面同士を突き合わせて突合せ部を形成する突合せ工程と、回転する前記回転ツールの攪拌ピンを前記第一金属部材の表面のみから挿入し、前記回転ツールの回転中心軸を前記突合せ部に対して前記第一金属部材側に傾斜させつつ、前記攪拌ピンのみを少なくとも前記第一金属部材に接触させた状態で前記突合せ部に沿って前記回転ツールを相対移動させて前記第一金属部材と前記第二金属部材とを接合する接合工程と、前記接合工程で接合された前記金属部材同士を、接合線を圧延方向として圧延する圧延工程と、を含み、前記回転ツールの前記攪拌ピンは、先端に前記回転中心軸に垂直な平坦面を備え、前記第一金属部材の厚みを前記第二金属部材の厚みよりも大きくし、前記突合せ工程では、段差部を備える架台の上に、前記第一金属部材を前記段差部を挟んで低い面に載置し、前記第二金属部材を前記段差部を挟んで高い面に載置することを特徴とする。
【0008】
かかる接合方法によれば、従来のように金属部材同士の端面を斜めに形成する必要がな
いため、製造コストを低減することができる。また、回転ツールの回転中心軸を第一金属部材側に傾斜させることで、回転ツールと第二金属部材との接触を回避することができ、接合工程の際に材料の異なる第一金属部材と第二金属部材とが混在することを防ぐことができる。また、第一金属部材及び第二金属部材に回転ツールのショルダ部を接触させないため、第一金属部材及び第二金属部材への入熱量を抑えることができる。また、例えば、第一金属部材のみに接触するように回転ツールを挿入すれば、軟化温度の低い第一金属部材に合わせて接合条件を調節することができ、入熱量を抑えることができる。したがって、第一金属部材が大きく軟化してバリが過剰に発生するのを抑制することができ、金属不足による接合不良を防ぐことができる。
また、かかる接合方法によれば、第一金属部材の厚みを大きくする分、塑性化領域を高さ方向に大きくすることができるため、接合強度を高めることができる。
【0009】
また、第一金属部材及び第二金属部材に回転ツールのショルダ部を接触させないため、摩擦抵抗を小さくすることができ、回転ツールや摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる。さらに、回転ツールのショルダ部を第一金属部材及び第二金属部材に接触させないため、回転ツールが高温になるのを防ぐことができる。これにより、回転ツールの材料選択が容易になるとともに、回転ツールの寿命を長くすることができる。
【0010】
また、前記回転中心軸と前記攪拌ピンの外周面とのなすテーパー角度が角度αである場合、前記接合工程において、前記回転中心軸を前記突合せ部に対して前記第一金属部材側に角度α傾斜させることが好ましい。
【0011】
かかる接合方法によれば、攪拌ピンの外周面と突合せ部とを接触させずに、極力近接させることができる。
【0012】
また、前記第一金属部材はアルミニウム又はアルミニウム合金で形成し、前記第二金属部材は銅又は銅合金で形成するとともに、前記接合工程では、回転する前記回転ツールの攪拌ピンを前記第一金属部材の表面のみから挿入し、前記回転ツールの回転中心軸を前記第一金属部材側に傾斜させつつ、前記攪拌ピンのみを前記第一金属部材のみに接触させた状態で前記突合せ部に沿って前記回転ツールを相対移動させることが好ましい。
【0013】
かかる接合方法によれば、銅又は銅合金製の金属部材とアルミニウム又はアルミニウム合金製の金属部材とを好適に接合することができる。
【0016】
また、前記突合せ工程では、前記第一金属部材の表面と前記第二金属部材の表面とが面一となるように設定することが好ましい。
【0017】
かかる接合方法によれば、回転ツールを容易に挿入することができる。
【0018】
また、前記突合せ工程では、前記第一金属部材の表面が、前記第二金属部材の表面よりも高い位置となるように設定することが好ましい。
【0019】
かかる接合方法によれば、第一金属部材の凹溝状の欠陥が第二金属部材の表面よりも下の高さ位置に発生するのを防ぐことができる。
【0020】
また、前記接合工程では、前記回転ツールの移動軌跡が形成される塑性化領域のうち、前記第二金属部材側がシアー側となり、前記第一金属部材側がフロー側となるように前記回転ツールの接合条件を設定することが好ましい。
【0021】
塑性化領域のうち、融点が高い第二金属部材側がフロー側となると、突合せ部での第一金属部材の温度が低下して、異なる金属同士の界面における相互拡散が促進されず、接合不良となるおそれがある。しかし、かかる接合方法によれば、融点の高い第二金属部材側がシアー側となるように設定することで、突合せ部での第一金属部材の温度を比較的高温に保つことが可能となり、異なる金属同士の界面における相互拡散が促進され、接合不良となるのを防ぐことができる。
なお、シアー側とは、接合部に対する回転ツールの外周の相対速さが、回転ツールの外周における接線速度の大きさに移動速度の大きさを加算した値となる側である。フロー側とは、接合部に対する回転ツールの外周の相対速さが、回転ツールの外周における接線速度の大きさに移動速度の大きさを減算した値となる側である。
【0022】
また、前記回転ツールの外周面に基端から先端に向かうにつれて左回りの螺旋溝を刻設した場合、前記回転ツールを右回転させ、前記回転ツールの外周面を基端から先端に向かうにつれて右回りの螺旋溝を刻設した場合、前記回転ツールを左回転させることが好ましい。
【0023】
かかる接合方法によれば、塑性流動化した金属が螺旋溝に導かれて回転ツールの先端側に流動するため、バリの発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る接合方法及び複合圧延材の製造方法によれば、異なる種類の金属部材を好適に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第一実施形態に係る複合圧延材の製造方法における突合せ工程を示す断面図である。
図2】第一実施形態に係る接合工程を示す斜視図である。
図3】第一実施形態に係る接合工程を示す断面図である。
図4】第一実施形態に係る接合工程後を示す断面図である。
図5】第一実施形態に係る圧延工程を示す斜視図である。
図6】本発明の第二実施形態に係る複合圧延材の製造方法における突合せ工程を示す断面図である。
図7】第二実施形態に係る接合工程を示す断面図である。
図8】第三実施形態に係る接合工程を示す断面図である。
図9】第三実施形態に係る接合工程後を示す断面図である。
図10】変形例に係る接合工程を示す斜視図である。
図11図10のI-I断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[第一実施形態]
本発明の実施形態に係る複合圧延材の製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。本実施形態に係る複合圧延材の製造方法は、一対の金属部材同士を回転ツールFで接合した後に圧延し、複合圧延材を得るというものである。以下の説明における「表面」とは、「裏面」の反対側の面という意味である。
【0027】
図1に示すように、第一金属部材1は、板状を呈する。第一金属部材1は、表面1bと、裏面1cと、表面1b及び裏面1cに垂直な端面1aを備えている。第一金属部材1は、本実施形態ではアルミニウム合金で形成されているが、アルミニウム、銅、銅合金、チタン、チタン合金、マグネシウム、マグネシウム合金など摩擦攪拌可能な金属材料で形成してもよい。
【0028】
第二金属部材2は、板状を呈する。第二金属部材2は、表面2bと、裏面2cと、表面2b及び裏面2cに垂直な端面2aを備えている。第二金属部材2は、第一金属部材1よりも融点が高く、かつ、摩擦攪拌可能な材料で形成されている。第二金属部材2は、本実施形態では銅(Cu1020)で形成されている。なお、第一金属部材1及び第二金属部材2の形状は、少なくとも端面を備えていれば他の形状であってもよい。
【0029】
ちなみに、金属部材の軟化温度(K)は、概ね金属部材の融点(K)に比例すると仮定して差し支えないと考えられるので、本明細書において、軟化温度の高い金属部材を融点の高い金属部材として、軟化温度の低い金属部材を融点の低い金属部材として、取り扱うものとする。
【0030】
本実施形態に係る複合圧延材の製造方法は、準備工程と、突合せ工程と、接合工程と、圧延工程と、を行う。準備工程は、第一金属部材1、第二金属部材2及び回転ツールFを用意する工程である。なお、接合方法を行う場合は、準備工程と、突合せ工程と、接合工程と、を行う。
【0031】
回転ツールFは、図2及び図3に示すように、連結部F1と、攪拌ピンF2とで構成されている。回転ツールFは、例えば工具鋼で形成されている。連結部F1は、摩擦攪拌装置の回転軸(図示省略)に連結される部位である。連結部F1は円柱状を呈し、ボルトが締結されるネジ孔(図示省略)が形成されている。
【0032】
攪拌ピンF2は、連結部F1から垂下しており、連結部F1と同軸になっている。攪拌ピンF2は連結部F1から離間するにつれて先細りになっている。側面視した場合において、回転中心軸Cと攪拌ピンF2の外周面とのなすテーパー角度αは本実施形態では約20°に設定されている。テーパー角度αは10〜30°の範囲で適宜設定される。テーパー角度αが10°未満であると、接合時に攪拌ピンF2の外周面からバリが排出されてしまい接合欠陥を発生するおそれがあるため、好ましくない。テーパー角度αが30°を超えると、回転ツールFを傾斜させるのが困難となる。攪拌ピンF2の先端には、回転中心軸Cに対して垂直な平坦面F3が形成されている。
【0033】
攪拌ピンF2の外周面には螺旋溝が刻設されている。本実施形態では、回転ツールFを右回転させるため、螺旋溝は、基端から先端に向かうにつれて左回りに形成されている。言い換えると、螺旋溝は、螺旋を基端から先端に向けてなぞると上から見て左回りに形成されている。
【0034】
なお、回転ツールFを左回転させる場合は、螺旋溝を基端から先端に向かうにつれて右回りに形成することが好ましい。言い換えると、この場合の螺旋溝は、螺旋溝を基端から先端に向けてなぞると上から見て右回りに形成されている。螺旋溝をこのように設定することで、摩擦攪拌の際に塑性流動化した金属が螺旋溝によって攪拌ピンF2の先端側に導かれる。これにより、被接合金属部材(第一金属部材1、第二金属部材2)の外部に溢れ出る金属の量を少なくすることができる。回転ツールFは、先端にスピンドルユニット等の回転駆動手段が設けられたロボットアームに取り付けられることが好ましい。これにより、回転ツールFの回転中心軸Cを容易に傾斜させることができる。
【0035】
突合せ工程は、図1に示すように、第一金属部材1と第二金属部材2の端部同士を突き合わせる工程である。突合せ工程では、第一金属部材1の端面1aと、第二金属部材2の端面2aとを面接触させて突合せ部J1を形成する。また、第一金属部材1の表面1bと第二金属部材2の表面2bとを面一にするとともに、第一金属部材1の裏面1cと第二金属部材2の裏面2cとを面一にする。第一金属部材1と第二金属部材2とを突き合わせたら、架台に設けられたクランプ(図示省略)で各部材を移動不能に拘束する。突合せ工程では、鉛直面と突合せ部J1とが平行となるように配置する。
【0036】
接合工程は、回転ツールFを用いて第一金属部材1と第二金属部材2とを接合する工程である。図2に示すように、接合工程では、回転ツールFの攪拌ピンF2を右回転させつつ、第一金属部材1の表面1bであり、かつ、突合せ部J1の近傍に設定した開始位置Spに回転ツールFを挿入する。そして、突合せ部J1の延長方向と平行に回転ツールFを相対移動させる。回転ツールFの移動軌跡には、塑性化領域Wが形成される。
【0037】
接合工程では、図3に示すように、回転中心軸Cを突合せ部J1に対して第一金属部材1側に傾斜させた状態で摩擦攪拌を行う。本実施形態では、回転中心軸Cと攪拌ピンF2の外周面とのテーパー角度αを20°に設定しているため、接合工程においては回転中心軸Cを突合せ部J1に対して第一金属部材1側に20°傾斜させた状態で摩擦攪拌を行う。また、摩擦攪拌を行う際には、被接合金属部材に回転した攪拌ピンF2のみを挿入し、被接合金属部材と連結部F1とは離間させつつ移動させる。言い換えると、攪拌ピンF2の基端部は露出させた状態で摩擦攪拌を行う。
【0038】
接合工程では、塑性化領域Wのうち、第二金属部材2側(第二金属部材2に近い側)がシアー側となり、第一金属部材1側(第二金属部材2から離間する側)がフロー側となるように回転ツールFの接合条件を設定している。つまり、本実施形態に係る接合工程では、進行方向右側に第一金属部材1が位置するように配置して、回転ツールFを右回転させる。なお、進行方向右側に第二金属部材2が位置するように配置した場合は、回転ツールFを左回転させることにより、塑性化領域Wのうち第一金属部材1側がフロー側となる。
【0039】
図3に示すように、攪拌ピンF2の挿入深さは、適宜設定すればよいが、本実施形態では平坦面F3が第一金属部材1の板厚の90%程度まで達する深さに設定している。また、本実施形態の接合工程では、回転ツールFが第二金属部材2に接触せず、かつ、摩擦攪拌によって第一金属部材1と第二金属部材2とが拡散接合するように開始位置Spの位置を設定している。
【0040】
ここで、回転ツールFの外周面と第二金属部材2とが大きく離間すると、突合せ部J1で第一金属部材1と第二金属部材2とが相互に拡散せず、第一金属部材1と第二金属部材2とを強固に接合することができない。一方、回転ツールFと第二金属部材2とを接触させ、両者の重なり代を大きくした状態で摩擦攪拌を行うと、第二金属部材2を軟化させるために、接合条件を調節して入熱量を大きくする必要があり、接合不良となるおれがある。したがって、突合せ部J1で第一金属部材1と第二金属部材2とが相互に拡散して接合するように、回転ツールFの外周面と第二金属部材2とをわずかに接触させた状態で接合するか、若しくは、回転ツールFの外周面と第二金属部材2とを接触させず極力近づけた状態で接合することが好ましい。
【0041】
また、本実施例形態のように、第一金属部材1がアルミニウム合金部材であり、第二金属部材2が銅部材である場合、接合工程において、回転ツールFの外周面と第二金属部材2(銅部材)とを接触させず極力近づけた状態で接合することが好ましい。因みに、入熱量が大きくなる接合条件下で、仮に回転ツールFの外周面と第二金属部材2(銅部材)とを接触させたとすると、アルミニウム合金部材中に少量の銅部材が攪拌混入され、Al/Cuの相互拡散が促進され、アルミニウム合金部材中に分散したAl−Cu相が液相となり、アルミニウム合金部材側から多くのバリが発生して接合不良となる。
【0042】
図4に示すように、塑性化領域Wの上面にはバリVが形成されるとともに、突合せ部J1に沿って凹溝Qが形成される。塑性化領域Wと第二金属部材2とは隣接している。つまり、塑性化領域Wは、突合せ部J1を超えて第二金属部材2側には形成されていない。凹溝Qは、摩擦攪拌によって金属が外部に溢れることによって、突合せ部J1に沿って形成される溝である。接合工程が終了したら、バリVを切除するバリ切除工程を行うことが好ましい。
【0043】
圧延工程は、接合された第一金属部材1及び第二金属部材2を圧延する工程である。図5に示すように、圧延工程では、ローラR,Rを備えた圧延装置を用いて冷間圧延を行う。圧延工程では、接合工程における接合線(塑性化領域W)を圧延方向に設定して圧延する。以上により、複合圧延材10が形成される。圧延工程における圧下率は、第一金属部材1及び第二金属部材2の材料や複合圧延材10の用途に応じて適宜設定すればよい。
【0044】
以上説明した複合圧延材の製造方法及び接合方法によれば、従来のように金属部材同士の端面を斜めに形成する必要がないため、製造コストを低減することができる。また、回転ツールFの回転中心軸Cを第一金属部材1側に傾斜させることで、回転ツールFと第二金属部材2とが接触するのを回避することができ、接合工程の際に材料の異なる第一金属部材1と第二金属部材2とが混在することを容易に防ぐことができる。
【0045】
また、接合工程における回転ツールFの回転中心軸Cの傾斜角度は適宜設定すればよいが、本実施形態では、攪拌ピンF2の外周面のテーパー角度αと、突合せ部J1に対する回転中心軸Cの傾斜角度とを同一にしている。これにより、図3に示すように、攪拌ピンF2の外周面と突合せ部J1とが平行になるため、回転ツールFの外周面と第二金属部材2とが接触しない状態で、両者を極力近づける作業が容易となる。
【0046】
また、第一金属部材1及び第二金属部材2に回転ツールのショルダ部を接触させないため、第一金属部材1及び第二金属部材2への入熱量を抑えることができる。また、例えば、第一金属部材1のみに接触するように回転ツールFを挿入すれば、軟化温度の低い第一金属部材1に合わせて接合条件を調節することができ、入熱量を抑えることができる。したがって、第一金属部材1が大きく軟化してバリVが過剰に発生するのを抑制することができ、金属不足による接合不良を防ぐことができる。
【0047】
また、第一金属部材1及び第二金属部材2に回転ツールFのショルダ部を接触させないため、摩擦抵抗を小さくすることができ、回転ツールFや摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる。さらに、回転ツールFのショルダ部を第一金属部材1及び第二金属部材2に接触させないため、回転ツールFが高温になるのを防ぐことができる。これにより、回転ツールFの材料選択が容易になるとともに、回転ツールFの寿命を長くすることができる。
【0048】
また、本実施形態のように、第一金属部材1がアルミニウム合金部材であり、第二金属部材2が銅部材である場合、接合工程において、回転ツールFの外周面と第二金属部材2(銅部材)とを接触させず、かつ、極力近づけた状態で接合することが好ましい。このようにすると、アルミニウム合金部材側からバリVが過剰に発生することなく、突合せ部J1で第一金属部材1と第二金属部材2との相互拡散が促進され強固に接合する。
【0049】
塑性化領域Wのうち融点が高い第二金属部材2側がフロー側となると、突合せ部J1での第一金属部材1の温度が低下して、異なる金属同士の界面における相互拡散が促進されず、接合不良となるおそれがある。そこで、入熱量を大きくするように接合条件を調節すると、シアー側となっている第一金属部材1側からバリが過剰に発生して接合欠陥となる。しかし、本実施形態のように、塑性化領域Wのうち、融点が高い第二金属部材2側がシアー側となるように設定することで、突合せ部J1での第一金属部材1の温度を比較的高温に保つことが可能となり、異なる金属同士の界面における相互拡散が促進され、接合不良となるのを防ぐことができる。
【0050】
回転ツールFの外周面を第二金属部材2にわずかに接触させてもよいが、本実施形態では回転ツールFと第二金属部材2とを接触させないように設定しているため、第一金属部材1と第二金属部材2とが混合攪拌されるのを防止することができ、バリVが過剰に発生して接合不良となるのをより確実に防ぐことができる。
【0051】
[第二実施形態]
次に、本発明の複合圧延材の製造方法及び接合方法の第二実施形態について説明する。第二実施形態に係る複合圧延材の製造方法では、金属部材同士の板厚が異なる点で第一実施形態と相違する。第二実施形態に係る複合圧延材の製造方法では、準備工程と、突合せ工程と、接合工程と、圧延工程と、を行う。
【0052】
図6に示すように、第一金属部材1Xは、第二金属部材2よりも板厚が大きくなっている。架台Kは、第一金属部材1X及び第二金属部材2を移動不能に拘束する部材である。架台Kは、第一金属部材1Xが載置される第一面K1と、第一面K1よりも高い位置にあり第二金属部材2が載置される第二面K2とを備えている。第一面K1と第二面K2とで段差部が形成されている。
【0053】
突合せ工程では、第一金属部材1Xの裏面1c及び端面1aを第一面K1及び段差面K3にそれぞれ接触させつつ、第一金属部材1Xの端面1aと第二金属部材2の端面2aとを面接触させる。第一金属部材1Xの表面1bと第二金属部材2の表面2bとは面一になる。
【0054】
接合工程では、図7に示すように、第一実施形態と概ね同じ要領で摩擦攪拌を行う。本実施形態では、回転ツールFの挿入深さを平坦面F3が第二金属部材2の裏面2cと概ね同じ高さ位置となるように設定する。
【0055】
ここで、図3に示すように、回転ツールFの先端は、材料抵抗を受けて折れたり、破損したりするため平坦面F3を設けている。ところが、第一実施形態の接合工程では、平坦面F3があるために突合せ部J1の全長に亘って摩擦攪拌を行うことが困難になり、未接合部分が発生してしまう。
一方、第二実施形態に係る複合圧延材の製造方法では、図7に示すように、第二金属部材2よりも第一金属部材1X側を板厚とするとともに、接合工程において平坦面F3を第二金属部材2の裏面2cの高さ位置まで挿入する。これにより、突合せ部J1の高さ方向全体を摩擦攪拌することができるため、接合強度を高めることができる。よって、未接合部分に起因する割れ等を防ぐことができる。また、第一金属部材1Xの表面1bと第二金属部材2の表面2bとを面一にしているため回転ツールFを容易に挿入することができる。
【0056】
[第三実施形態]
次に、本発明の複合圧延材の製造方法及び接合方法の第三実施形態について説明する。第三実施形態に係る複合圧延材の製造方法では、金属部材同士の板厚が異なる点で第一実施形態と相違する。複合圧延材の製造方法では、準備工程と、突合せ工程と、接合工程と、圧延工程と、を行う。
【0057】
図8に示すように、第三実施形態に係る複合圧延材の製造方法では、第二実施形態よりもさらに第一金属部材1Yの板厚を大きくする。つまり、第三実施形態の突合せ工程では、第二実施形態の突合せ工程と同じ要領で第一金属部材1Yと第二金属部材2とを架台Kに載置する。また、第一金属部材1Yの端面1aと第二金属部材2の端面2aとを突き合わせて突合せ部J1を形成する。その際、第二金属部材2の表面2bよりも、第一金属部材1Yの表面1bが高い位置となるように第一金属部材1Yの板厚を設定する。当該板厚は、接合工程で発生する凹溝Qの大きさ等に合わせて適宜設定する。
【0058】
接合工程では、第二実施形態と同じ要領で摩擦攪拌を行う。つまり、図8に示すように、回転ツールFの平坦面F3が、第二金属部材2の裏面2cと概ね同じ高さ位置となるように回転ツールFの挿入深さを設定して摩擦攪拌を行う。
【0059】
ここで、例えば、図4に示す第一実施形態であると、第一金属部材1の表面1bに凹溝Qが発生する傾向がある。しかし、図9に示す第三実施形態によれば、第一金属部材1Yの表面1bの高さ位置を、第二金属部材2の表面2bよりも高くしているため、凹溝Qが形成されたとしても、第二金属部材2の表面2bの位置よりも下に凹溝Qが形成されるのを防ぐことができる。例えば、第一金属部材1Yの表面1bを第二金属部材2の表面2bの高さ位置に合わせて面切削すれば平坦な表面を形成することができる。また、第三実施形態によれば、第二実施形態と同様に、突合せ部J1の高さ方向全体を摩擦攪拌することができるため、接合強度を高めることができる。よって、未接合部分に起因する割れ等を防ぐことができる。
【0060】
[変形例]
次に、本発明の変形例について説明する。図10は、変形例に係る接合工程を示す斜視図である。図10に示すように、変形例に係る突合せ工程では、第一金属部材1と第二金属部材2とからなる組を複数組(図10では三組)並設させ、架台に設けられたクランプ(図示省略)で移動不能に拘束する。
【0061】
本変形例では、第一金属部材1Aと第二金属部材2Aとからなる第一組と、第一金属部材1Bと第二金属部材2Bとからなる第二組と、第一金属部材1Cと第二金属部材2Cとからなる第三組とを並設させている。第一組、第二組及び第三組の各突合せ部J1は、それぞれ平行になるように突き合わせる。
【0062】
また、第一金属部材1Aの端面と第二金属部材2Bの端面とが突き合わされて突合せ部J2が形成される。また、第一金属部材1Bと第二金属部材2Cとが突き合わされて突合せ部J3が形成される。
【0063】
接合工程では、前記した実施形態と同じ要領で回転ツールFを用いて摩擦攪拌を行い、各突合せ部J1を接合する。また、接合工程では、突合せ部J2及び突合せ部J3に対しても前記した実施形態と同じ要領で回転ツールFを用いて摩擦攪拌を行う。
【0064】
つまり、変形例に係る接合工程では、右回転する回転ツールFを突合せ部J2の近傍であり、かつ、第一金属部材1Aの表面1bに挿入し、突合せ部J1に沿って回転ツールFを第一金属部材1Aの奥側から手前側に移動させる。この際、進行方向右側に第一金属部材1Aが位置するように設定しつつ、第一金属部材1A側に回転ツールFを傾斜させる。
【0065】
つまり、突合せ部J2において、塑性化領域Wのうち第二金属部材2B側がシアー側となるように回転ツールFの接合条件(回転方向及び移動方向等)を設定する。突合せ部J3においても、突合せ部J2と同じ要領で摩擦攪拌を行う。図10及び図11に示すように、本変形例では、第二金属部材2(2A,2B,2C)には塑性化領域Wが形成されず、第一金属部材1(1A,1B,1C)にのみ塑性化領域Wが形成される。
【0066】
第一金属部材1と第二金属部材2は、異なる材料で形成されているためその硬度も異なる。本実施形態のようにアルミニウム合金で形成された第一金属部材1と銅で形成された第二金属部材2とを圧延する場合は、銅部材よりもアルミニウム合金部材の方が硬度が低いため、第一金属部材1の方が大きく変形する。そのため、圧延後に得られる複合圧延材は、第一金属部材1が外側、第二金属部材2が内側となるように平面視して弓形に湾曲してしまう。
【0067】
しかし、変形例に係る接合工程によれば、隣り合う金属部材の組同士を並設させた状態で移動不能に拘束しているため、各金属部材が平面視して弓形に変形するのを抑制することができる。また、一回のクランプ作業で、複数の突合せ部J1,J2,J3に対する摩擦攪拌を連続して行うことができるため、製造サイクルを高めることができる。
【符号の説明】
【0068】
1 第一金属部材
2 第二金属部材
10 複合圧延材
F 回転ツール
F1 連結部
F2 攪拌ピン
F3 平坦面
W 塑性化領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11