(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、
図1から
図30を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明の実施形態は、以下に記載する実施形態に限定されうるものではなく、当業者の知識に基づいて設計の変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の実施形態の範囲に含まれうるものである。
【0031】
(定義)
本明細書および特許請求の範囲の記載において、「インキ」とは、ブランケット等の転写体の転写層への転移により形成される「インキ皮膜」を含む概念である。また、「インキ層」は、「インキ」が基材に転写されることで形成され、「印刷パターン」を含む概念である。さらに「インキ層」は、「インキ」が導電性を有する場合、「電極」、「配線(部)」、および「回路」を含む概念である。
【0032】
本明細書および特許請求の範囲の記載において、「印刷物」とは、基材および基材上のインキ層からなるものを指すものとして参照され、「印刷回路」や「配線基板」を含む概念である。
【0033】
本明細書において、「空孔」とは、印刷物に「窪み」が形成されるときにできる基材の露出部分を指すものとして参照される。すなわち、「空孔」とは、基材上のインキ層の貫通孔を指す。
【0034】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係る、ドクター部材による印刷版へのインキ充填について示す図である。また、
図2は本実施形態に係る印刷装置の機械的構成及びブランケットへの転写前の動作状態、
図3は本実施形態に係る印刷装置のブランケットへの転写前の動作状態、
図4は本実施形態に係る印刷装置の被印刷体への転写後の動作状態、をそれぞれ示す正面図である。
【0035】
図1ないし
図4において、印刷装置1は、ブランケット2と、印刷版(凹版)3とを備えている。ブランケット2は、回転可能なブランケット胴4の表面に固定されており、被印刷体5にインキ6を転写可能に配置されている。印刷版3は、印刷版固定用定盤9の上面に固定され、ブランケット2の印刷面にインキ6を転写可能な位置に配置されている。ブランケット胴4は回転可能に台車7に支持されており、台車7は架台8上を移動可能に架台8に支持されている。被印刷体5は、基材固定用定盤10の上面に固定されている。
【0036】
ブランケット2は、その表面でパターン上のインキの授受を行うことにより転写印刷を行う。ブランケット2の表面すなわち印刷面はゴム層からなる。このゴム層として用いられるゴム材料としては、ブランケットとして公知の各種の材料を用いることができる。これらのゴム材料は、インキ及びインキに用いられる溶剤の種類に対応して選択され、溶剤吸収性のあるものが好適である。
【0037】
ゴム層単独でブランケット2とすることも可能であるが、ゴム層はベース基材の上に設けてもよい。なお、ゴム材料からなるゴム層は、ベース基材上でゴム材料を硬化させることも、フィルム上のゴム材料をベース基材と貼りあわせることも可能である。ベース基材としては、印刷時にブランケット胴4に取り付けられることから可撓性のあるフィルム又は金属薄板であれば種類は問わないが、コスト及び寸法安定性からポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル系フィルム、あるいはポリイミドフィルムが好適である。また、ベース基材とシリコーンゴム層の間には、必要に応じてプライマー層や接着層が設けられる。また、ベース基材の下には必要に応じてクッション層が設けられる。クッション層としてはスポンジ状の材料を用いることができる。ブランケット2は、その幅方向の両端部を不図示の取付器具によって巻き締めることによって、略円筒形のブランケット胴4に固定される。
【0038】
印刷版3は、詳細は後述するが、配線に対応する溝を銅板、ニッケル版などの金属版、あるいはガラス版の表面に形成し、溝を形成した表面にクロムめっきやカーボンめっきによる耐擦性皮膜を形成してなる。当該溝は、切削加工、エッチング法、電鋳法、サンドブラスト法などにより形成される。この印刷版3の凹部に対して、ドクター部材(
図1において符号1103で示される部分)によって一定の速度でインキを充填する。
【0039】
インキ6は、例えば、熱硬化性かつ光焼成型の導電性インキを用いることができる。インキが導電性であれば、インキ層を配線層として備えた印刷物(配線基板)が得られる。導電性インキは、例えばAu、Pt、Ag、Cu、Ni、Cr、Rh、Pd、Zn、Co、Mo、Ru、W、Os、Ir、Fe、Mn、Ge、Sn、Ga、In等の金属微粒子、ITO(酸化インジウムスズ)、ZnO(酸化亜鉛)、SnO2(酸化スズ)などの導電性金属酸化物微粒子、あるいは金属ナノワイヤを含むものが好適である。本実施形態では、これらをインキ6のフィラーとして用いることが可能である。金属微粒子を含む導電性インキとしては、例えば銀ナノ粒子を有機溶媒に分散させてなる導電性銀ナノインクを用いることができる。
【0040】
作成するパターンが透明電極層である場合には、ドーピング等で導電率を向上させた導電性ポリマー、例えば導電性ポリアニリン、導電性ポリプロピロール、導電性ポリチオフェン(ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体など)を含むインキを用いることができる。
【0041】
上記導電性銀ナノインクでは、インキ中の溶剤はドデカン、テトラデカンである。インキ中の溶剤は任意のものを用いることができる。例えば、速乾性インクでは常温で乾燥する沸点の低い溶剤(MEK、エタノール、アセトンなど)、水性インクでは水(精製水)、オイル系インクでは常温で蒸発しないオイル(脂肪族炭化水素、グリコールエーテル、高級アルコールなど)を用いることが可能である。溶剤の種類に応じて、その吸収性を有するブランケット2の材料を選択することができる。
【0042】
本実施形態における被印刷体5は、基材固定用定盤10の上面に固定されている。被印刷体5は、例えば、ソーダ石灰ガラス、低アルカリ硼珪酸ガラス、無アルカリアルミノ硼珪酸ガラスなどのガラス板、あるいはポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)などからなるプラスチック板、プラスチックフィルムが用いられる。被印刷体5は、例えば、厚さ125μmのPET製のフィルムとすることができる。なお被印刷体5としては他の材料、例えば電子基板に使われているガラス繊維とエポキシ系樹脂からなるシート(プリプレグ)を用いることができ、またPETなどの他の樹脂材料、紙、不織布を用いても良い。被印刷体5はシート状の材料に限られず、中空又は中実のいずれでも良く、また任意の平面又は曲面を印刷面とすることができる。
【0043】
また、印刷装置1は、印刷装置1の各部を制御するために、制御部11を備える。ブランケット胴4、台車7、印刷版固定用定盤9、基材固定用定盤10のための送り機構は、制御部11に電気的に接続されている。制御部11は周知のコンピュータであって、データバスによって相互接続されたCPU、ROM、RAM、入出力ポート、記憶装置、表示装置及び入出力装置等を含むものである。制御部11はオペレータの操作入力、各種センサ類からの入力、及びROMに格納された制御プログラムに従って、ドクター部材1103を用いた印刷版3へのインキ充填、ブランケット胴4の送り回転及び移動、台車7の移動、印刷版固定用定盤9、基材固定用定盤10のための送り機構の動作、並びに被印刷体5上のインキに対する熱硬化、光焼成などの動作及びブランケット2に対する乾燥の動作を連繋して制御することが可能に構成されている。
【0044】
(印刷方法)
次に、以上のとおり構成された印刷装置1を用いた印刷方法について説明する。初期状態及び前印刷工程の終了状態においては、
図2に示されるように台車7は図中右側に停車した状態である。
【0045】
先ず、
図1に示すように、印刷版3上にインキ6を乗せ、ドクター部材1103にてインキ6を一定の圧力で
図1中の矢印の方向に転がしながら印刷版3上を移動させることで、印刷版3のパターン部(凹部)25内にインキ6を充填する。ドクター部材1103によりインキを充填する速度は、例えば、150mm/秒である。
【0046】
次に、
図3に示すように、台車7のB1方向への移動およびブランケット胴4の図中矢印A方向の回転により、印刷版3に充填されたインキ6に連続的に接触することによって、ブランケット2の印刷面にはインキ6が転写される。ブランケット2への転写速度は、例えば、50mm/秒で行うことができる。インキ6が溶剤を含む場合、ブランケット2の印刷面が、インキ6内の溶剤を吸収可能な吸収性を有するため、ブランケット2の印刷面に形成されたインキ6の濡れ広がりが抑制される。その後、台車7の図中矢印B2方向への移動により、インキ6が転写されたブランケット2は、被印刷体5の設置位置まで移動される。
【0047】
図4に示すように、台車7のB2方向への移動およびブランケット胴4のA方向の回転により、ブランケット2上に形成されたインキは、被印刷体5の印刷面に転写される。ブランケット2の印刷面の回転速度は、台車7の移動速度と略一致させられており、これによってインキ6が被印刷体5に押し付けられて転写される。被印刷物5への転写速度は、例えば、200mm/秒で行うことができる。転写されずにブランケット2の印刷面に残ったインキ6の部分は、例えば、不図示のクリーニングローラーで除去される。なお、本実施形態では転写の際に台車7を移動させたが、ブランケット胴4と印刷版固定用定盤9との相対位置、ブランケット胴4と基材固定用定盤10との相対位置の変化を実現できる限り、印刷版固定用定盤9、基材固定用定盤10を移動させても良く、台車7、印刷版固定用定盤9、および基材固定用定盤10の3つをそれぞれ移動させても良い。
【0048】
その後、被印刷体5上に転写されたインキ6は硬化される。この硬化は、例えば、焼成、加熱、自然乾燥、紫外線硬化、冷却(熱可塑性材料を含む導電性インキを用いる場合)など、使用する導電性インキの種類及び成分に応じた各種の手段によって実行することができる。加熱による場合には、例えば、赤外線ヒータを用いることができる。このようにして、印刷物が得られる。尚、ブランケット2の膨潤量が所定の基準値に達すると、印刷待機時にブランケット2に吸収された溶剤が乾燥させられる機能を印刷装置に備えても良い。
【0049】
ブランケット2の印刷面の材質、使用するインキの種類及びインキ内の溶剤の種類は、上記印刷装置1におけるもの以外の各種のものを選択することができる。
【0050】
ブランケット2は、円筒形のブランケット胴4に固定して使用したが、使用の際のブランケットの形状は円筒形以外の曲面や平面であっても良い。被印刷体5はシート状のほか樹脂成形品などのように、印刷面が曲面であるものであっても良い。
【0051】
(印刷版の形成)
図5は本実施形態に係る印刷版の製造方法における切削加工前の状態を示す斜視図であり、
図6は本実施形態に係る印刷版の製造方法における切削加工後の状態を示す斜視図である。本実施形態における印刷版3は、印刷版母材20の表面に対する切削加工により形成される。
図5において、印刷版母材20は、例えばAl、Niからなるシリンダー21の表面に、内側から順に、銅めっき層22、剥離層23及び銅バラード層24を積層して形成してなる。
【0052】
図6において、印刷版母材20は軸Cを軸として回転させられ、その銅バラード層24に向けて径方向に切削刃30(
図7参照)を作用させて切削を行わせることで、互いに平行な複数の凹部25が形成される。切削の深さは、例えば10μmとすることができる。凹部25は印刷版母材20の周方向に延在していても良く、また、螺旋方向に延在していても良い。切削による凹部25の形成(切り込み移動)と、印刷版母材20と切削刃30との軸Cに沿った相対移動(送り移動)とを交互に行うことで、凹部を周方向に延在させることができる。また、切り込み移動と送り移動とを同時かつ連続的に行うことで、凹部を螺旋方向に延在させることができる。軸Cに向かう切削刃の切り込み深さを無段階又は複数段階で変化させることで、凹部25の幅を変化させることも可能である。
【0053】
図7は本実施形態における切削加工に用いられる切削刃の要部を示す平面図であり、
図8は本実施形態における印刷版を示す平面図であり、
図9は本実施形態における印刷版を示す
図8のIX−IX矢視断面図である。本実施形態では、底部に1つの凸部を有する凹部25が形成される。凹部25の形成は、
図7に示すような切削刃30を用いて行われる。切削刃30は、単一のノーズ部30aと、これを挟む2つの斜行部30b、30cとを有する。斜行部30b、30cは、切削刃30の切り込み方向と非平行かつ非垂直に延在する。切削刃30は、ノーズ部30aに隣接する少なくとも1つの斜行部を有するのが好適である。
【0054】
図9に示されるように、まず切削刃30によって印刷版母材20の表面に対して第1の切削を行うことで、溝26aを形成し、次に、印刷版母材20と切削刃30とを、軸Cの方向(凹部25の幅方向)に沿って、溝26aの切り込み幅wよりも小さい距離(ピッチp)だけ相対移動(送り移動)させ、次に切削刃30によって印刷版母材20の表面を再び切削することによって、溝26bを形成する。溝26a、26bが形成されることによって、底部に1つの凸部28を有する凹部25が形成される。他の2つの凹部25も同様にして形成される。
【0055】
このような切削工程の後、耐磨耗性を高めるために、銅バラード層24の表面の全体に、クロムめっき層(不図示)が形成される。そして、剥離層23から銅バラード層24を剥離することにより、
図8に示されるような平板の印刷版3が得られる。
【0056】
溝26a、26bの間隔(ピッチp)を、溝26aの切り込み幅wよりも小さくした結果、凸部28の先端は、印刷版3の上面より低い位置にされる。すなわち、凸部28の高さh1は、凹部25の深さd1よりも小さい。
【0057】
(印刷版によって転写されたインキの断面形状)
図10は本実施形態における被印刷体上に形成されたインキの断面形状を示す断面図である。本発明に係る印刷物は、少なくとも1つの窪み部を頂部に有する。本発明の第1実施形態では、印刷物40は、
図10に示されるように、少なくとも1つの当該窪み部の深さがインキ層41の高さよりも小さい。図示のとおり、本実施形態に係る印刷版3を含む印刷装置1によって転写されたインキを、硬化及び/又は焼成することによって、被印刷体5上にインキ層41が形成された印刷物40が得られる。なお
図10は被印刷体5の印刷面に垂直な断面における断面形状を示す。図示のとおり、転写及び乾燥後のインキ層41の厚さは、本発明による改良前のインキ層42と比較して、インキ層41の面積の全体にわたり比較的均一になる。
【0058】
以上のとおり、第1実施形態では、凸部28を底部に有する凹部25が形成された印刷版3であって、凸部28の高さh1が凹部25の深さd1よりも小さい印刷版3を用いて、被印刷体5上にインキが転写される。印刷版3の凹部25が、その深さd1よりも高さh1の小さい凸部28を有するので、凹部25の面積にわたり比較的均一な量のインキを保持することが可能になり、転写及び乾燥後のインキ層41の厚さを比較的均一にすることができる。したがって、インキの偏りに起因するはみ出しやかすれを抑制することができ、厚い印刷層の形成や比較的大きな面積のベタ塗りを好適に行うことができる。本実施形態における印刷物は導電性のインキを用いた回路基板であるため、互いに隣接するインキ層41の接触による回路の短絡、及びインキ層41のかすれに起因する回路の抵抗値の増大や断線のおそれを抑制することができ、しかも厚い印刷層の形成や比較的大きな面積のベタ塗りによって回路の抵抗値の増大を抑制し、耐久性を高めることができる。
【0059】
また、本実施形態では、印刷版3の凹部25を、切削刃30による切削によって形成したので、凹部25の断面形状、ひいてはインキ層41の断面形状を自在に制御することができる。また、切削刃30により印刷版母材20の表面に対して第1の溝26aを形成した後、切削刃30を溝26aの切り込み幅wよりも小さい距離(ピッチp)だけ相対移動(送り移動)させ、次に切削刃30によって印刷版母材20の表面を再び切削することによって、溝26bを形成するので、凹部25の深さd1よりも小さい高さh1を有する凸部28を容易に形成することができる。
【0060】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図11ないし
図15に示される第2実施形態は、印刷版の凹部125を、エッチングによって形成したものである。
図11は本実施形態に係る印刷版の製造方法におけるエッチング前の印刷版母材を示す断面図である。また、
図12は本実施形態に係る印刷版の製造方法における1回目のエッチング後の印刷版母材を示す断面図であり、
図13は本実施形態に係る印刷版の製造方法における1回目のエッチング後にレジスト層を形成した印刷版母材を示す断面図である。
図14は本実施形態に係る印刷版の製造方法における2回目のエッチング後の印刷版母材を示す断面図であり、
図15は本実施形態に係る印刷版の製造方法によって製造された印刷版を示す断面図である。
【0061】
第2実施形態におけるエッチングの手順について説明する。先ず、
図11に示されるように、平坦な印刷版母材120の表面のうち、凹部125を形成する領域を囲むように、レジスト層131を形成する。次に、
図12に示されるように、エッチング液を用いてエッチングを行い、レジスト層131で挟まれた領域に、所定の深さの主溝126aを形成する。
【0062】
次に、
図13に示されるように、印刷版母材120からレジスト層131を除去し、主溝126aのうち凸部128を形成する領域を残してレジスト層132を形成する。次に、
図14に示されるように、再びエッチングを行い、印刷版母材120に2つの副溝126bを形成する。最後に、
図15に示されるように、印刷版母材120からレジスト層132を除去することにより、1つの凸部128が底部に形成された凹部125を有する印刷版母材120が得られる。この印刷版母材120の表面の全体に、クロムめっき層(不図示)を形成することにより、平板の印刷版103が得られる。
【0063】
以上のようにして形成された印刷版103においては、凸部128の先端は、印刷版母材120の上面より低い位置にある。すなわち、凸部128の高さh2は、凹部125の深さd2よりも小さい。したがって、当該印刷版によれば、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0064】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
図16は本実施形態に係る印刷版を示す断面図である。
図16に示される第3実施形態は、印刷版の凹部225を、めっき法を利用して形成したものである。本実施形態では、フォトレジスト層の形成、露光、めっき及びエッチングを用いためっき工程を、パターンを変えながら繰り返すことで、印刷版母材220の表面にめっき層231a、231b、231cをこの順に形成する。めっき層231a、231b、231cは、その開口面積がこの順に(下から上に)徐々に拡大するように形成され、これにより、溝226a、226bの間に凸部228が形成された凹部225を有する印刷版母材220が得られる。なお、めっきに代えて3Dプリンタにより、金属又は樹脂からなる同様の構造の印刷版母材220を得ることも可能である。この印刷版母材220の表面の全体に、クロムめっき層(不図示)を形成することにより、平板の印刷版203が得られる。
【0065】
以上のようにして形成された印刷版203においては、凸部228の先端は、印刷版母材220の上面より低い位置にある。すなわち、凸部228の高さh3は、凹部225の深さd3よりも小さい。したがって、当該印刷版203によれば、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0066】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について説明する。
図17は本実施形態に係る製造工程の途中の型母材及び印刷版を示す断面図であり、
図18は本実施形態に係る印刷版を示す断面図である。
図17及び
図18に示される第4実施形態は、型を用いて印刷版303を形成するものである。本実施形態では、まず、
図17に示されるように、フォトレジスト層の形成、露光、めっき及びエッチングを用いためっき工程を繰り返すことで、型母材320の表面に、めっき層331a、331b、331cをこの順に形成して、型321を得る。そして型321の表面の全体に、離型剤で離型層322を形成し、銅めっきでめっき層323を形成し、めっき層323上に樹脂層324を形成し、その後、離型層322で剥離することで、印刷版303が得られる。これによって、
図18に示されるように、凹部325の溝326a、326bの間に凸部328が形成された印刷版303を得ることができる。なお、めっきに代えて3Dプリンタにより、金属又は樹脂からなる同様の構造の型321を得ることも可能である。
【0067】
以上のようにして形成された印刷版303においては、凸部328の先端は、印刷版303の上面より低い位置にある。すなわち、凸部328の高さh4は、凹部325の深さd4よりも小さい。したがって、当該印刷版303によれば、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0068】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態について説明する。比較的大きな面積をベタ塗りするための凹部を印刷版に形成した場合に、大面積の凹部内ではドクター部材1103の撓みによって、インキの偏りに起因するかすれが生じるおそれがある。
図19及び
図20に示される第5実施形態は、単一の凹部425の内部に、複数の凸部428を形成することによって、この課題に対処するものである。
【0069】
図19は3つの凹部425を有する印刷版403を示す平面図である。また、
図20は本実施形態における印刷版の要部を示す
図19のXX−XX矢視断面図であり、
図21は本実施形態における被印刷体上に形成されたインキの断面形状を示す断面図である。印刷版403は、
図5に示されたものと同様の円筒形の印刷版母材420の表面に対して、
図7に示された切削刃30を用いた切削によって形成される。すなわち、
図20に示されるように、まず切削刃30によって印刷版母材420の表面に対して第1の切削を行うことで溝426aを形成し、次に、印刷版母材420と切削刃30とを、軸Cの方向(凹部425の幅方向)に沿って、溝426aの切り込み幅wよりも小さい距離(ピッチp)だけ相対移動(送り移動)させ、次に切削刃30によって印刷版母材420の表面を再び切削することによって、溝426bを形成する。同様にして、切削と送り移動とを交互に繰り返すことで、第3及び第4の溝426c、426dが形成される。これによって、底部に3つの凸部428を有する単一の凹部425が形成される。
【0070】
このような切削工程の後、耐磨耗性を高めるために、印刷版母材420の表面の全体に、クロムめっき層(不図示)が形成される。そして、剥離層23から銅バラード層24を剥離することにより、
図19に示されるような平板の印刷版403が得られる。
【0071】
この第5実施形態に係る印刷版403を含む印刷装置1によって転写されたインキを、硬化及び/又は焼成することによって、
図21に示されるように被印刷体5上にインキ層441が形成された印刷物440が得られる。本実施形態では、印刷物440は、図示のとおり、少なくとも1つの窪み部の深さがインキ層441の高さよりも小さくなっている。なお
図21は被印刷体5の印刷面に垂直な断面における断面形状を示す。図示のとおり、転写及び乾燥後のインキ層441の厚さは、本発明による改良前のインキ層442と比較して、インキ層441の面積の全体にわたり比較的均一になる。
【0072】
第5実施形態では、溝426a、426b、426c、426dの間隔(ピッチp)を、これら溝426a、426b、426c、426dの切り込み幅wよりも小さくした結果、凸部428の先端は、印刷版403の上面より低い位置にされる。すなわち、凸部428の高さh5は、凹部425の深さd5よりも小さい。したがって、当該印刷版403によれば、第1実施形態と同様の効果を得ることができ、とくに、単一の凹部425の内部に、複数の凸部428を形成したので、各凹部425の面積にわたるインキの保持量の均一化を一層促進することができ、比較的大面積の凹部425であっても、ドクター部材1103の撓みによってインキの偏りに起因するかすれが生じるおそれを、好適に抑制することができる。
【0073】
なお、上述した第2実施形態と同様のエッチングを、単一の凹部の内部に複数箇所のレジスト層を形成して行うことによって、第5実施形態と同様に、凸部428の高さh5が、凹部425の深さd5よりも小さい印刷版を作成することも可能であり、第5実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0074】
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態について説明する。上記各実施形態では、単一の凹部の内部に、複数の溝を形成することによって、これら複数の溝の間に凸部を形成したが、溝の深さは、互いに異なるものとすることができる。
【0075】
図22は複数の溝を形成した凹部525を有する印刷版503の要部を示す断面図である。印刷版503は、
図5に示されたものと同様の円筒形の印刷版母材520の表面に対して、
図7に示された切削刃30を用いた切削によって形成される。切削の手順は基本的に第5実施形態と同様であるが、第6実施形態では、5本の溝526a、526b、526c、526d、526eを形成すると共に、切削刃30の切り込み深さを変化させることによって、凹部525の両端部にある溝526a、526eの深さd61と、図中左から2番目及び4番目の溝526b、526dの深さd62と、図中中央の溝526cの深さd63とを、互いに異なる値とする。他の凹部525(不図示)の構造も同様とする。本実施形態における溝の深さは、中央の溝ほど深さが大きくなるように、d61<d62<d63とするが、溝の深さの分布はインキの粘度、乾燥速度や被印刷体との付着性などの物理特性に応じて任意に選択することができる。なお、単一の切削刃30を使用する場合であっても、ピッチpを相互に変化させることにより、凸部528の高さ(ここでは、最も深い溝526cの底部からの距離)h60を相互に変化させることも可能である。また、凸部528の先端は、印刷版503の上面より低い位置にある。すなわち、凸部528の高さh60は、凹部525の深さd60(本実施形態では、最も深い溝526cの深さd63と同じ深さ)よりも小さい。
【0076】
上述したように、比較的大きな面積をベタ塗りするための凹部を印刷版に形成した場合に、大面積の凹部内ではドクター部材1103の撓みによって、インキの偏りに起因するかすれが生じるおそれがある。このため、第6実施形態では、各凹部525の縁から中央に向かって溝を深くしたので、充填されるインキの量を増加させることで、被印刷体に転写されるインキ層の厚さの均一性を付与することができる。
【0077】
(第7実施形態)
次に、本発明の第7実施形態について説明する。上記各実施形態では、単一の凹部の内部に形成される複数の溝は、少なくとも凸部の頂部よりも下の領域では、いずれも溝の長手方向に直交する断面において対称(すなわち、印刷版母材の表面の垂線であって溝の幅方向の中央を通るものに対する線対称)の形状を有する。しかしながら、複数の溝のそれぞれは、凸部の頂部よりも溝の底部側の領域において、溝の長手方向に直交する断面において非対称の形状を有するものとすることができる。
【0078】
図23は本実施形態における切削加工に用いられる切削刃の要部を示す平面図である。また、
図24は本実施形態における印刷版を示す平面図であり、
図25は本実施形態における印刷版を示す
図24のXXV−XXV矢視断面図である。
図26は本実施形態における被印刷体上に形成されたインキの断面形状を示す断面図である。
図23に示されるように、第7実施形態における印刷版603(
図24参照)の製造に用いられる切削刃630は、単一のノーズ部630aと、これを挟む2つの斜行部630b、630cとを有する。2つの斜行部630b、630cの延在方向は、切削刃630の切り込み方向Gに対して互いに異なっており、一方の斜行部630bが切り込み方向Gに対してなす角度αは例えば20°、他方の斜行部630cが切り込み方向Gに対してなす角度βは例えば70°である。
【0079】
図25に示されるように、まず切削刃630によって印刷版母材620の表面に対して第1の切削を行うことで、溝626aを形成し、次に、印刷版母材620と切削刃630とを、軸Cの方向(凹部625の幅方向)に沿って、溝626aの切り込み幅wよりも小さい距離(ピッチp)だけ相対移動(送り移動)させ、次に切削刃630によって印刷版母材620の表面を再び切削することによって、溝626bを形成する。そして、この切込み移動と送り移動とをもう1度繰り返すことにより、溝626cを形成する。溝626a、626b、626cが形成されることによって、底部に2つの凸部628を有する凹部625が形成される。他の凹部625の構造も同様とする。
【0080】
このような切削工程の後、耐磨耗性を高めるために、銅バラード層24の表面の全体に、クロムめっき層(不図示)が形成される。そして、剥離層23から銅バラード層24を剥離することにより、
図24に示されるような平板の印刷版603が得られる。
【0081】
溝626a、626b、626cの間隔(ピッチp)を、溝626aの切り込み幅wよりも小さくした結果、凸部628の先端は、印刷版603の上面より低い位置にされる。すなわち、凸部628の高さh7は、凹部625の深さd7よりも小さい。そして、複数の溝626a、626b、626cのそれぞれは、凸部628の頂部よりも当該溝の底部側の領域において、当該溝の長手方向に直交する断面(すなわち、
図25に示された断面)において、非対称の形状を有することになる。
【0082】
この第7実施形態に係る印刷版603を含む印刷装置1によって転写されたインキを、硬化及び/又は焼成することによって、
図26に示されるように被印刷体5上にインキ層641が形成された印刷物640が得られる。本実施形態では、印刷物640は、図示のとおり、少なくとも1つの窪み部の深さがインキ層641の高さよりも小さくなっている。さらに、本実施形態では、印刷物640のインキ層641は、複数条の畝状部分からなり、当該インキ層641の畝状部分のそれぞれは、窪み部の底部よりも畝状部分の頂部側の領域において、当該畝状部分の長手方向に直交する断面において非対称の形状を有する。なお
図26は被印刷体5の印刷面に垂直な断面における断面形状を示す。図示のとおり、転写及び乾燥後のインキ層641の断面形状は、切削刃630の断面形状に対応して非対称になる。そして、インキ層641は、ピーク部641aと、これを挟む2つの斜行部641b、641cとを有する。2つの斜行部641b、641cの延在方向は、被印刷体5の法線方向Hに対して互いに異なっており、一方の斜行部641bが法線方向Hに対してなす角度は例えば20°から所定範囲内になり、他方の斜行部641cが法線方向Hに対してなす角度は例えば70°から所定範囲内になる。このことに起因して、第7実施形態では、見る方向に応じて反射光の強さが異なる印刷物640を提供できる。
【0083】
(第8実施形態)
次に、本発明の第8実施形態について説明する。上記各実施形態では、凸部の高さが凹部の深さよりも小さい印刷版について説明したが、本発明はこれに限られない。本実施形態では、凸部の高さが凹部の深さと等しい場合も含めて説明する。本実施形態に係る印刷物および印刷版を構成する各要素のうち、同様の機能を有するものについては、第1実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0084】
従来、グラビアオフセット印刷により、基材上に印刷する場合、下記の特性・品質が要求される。
[1]高精細で均一な形状の細線が広い面積に亘り印刷可能なこと。
より具体的には、
[2]印刷された細線が、断線、ショート等を有しないこと。
[3]印刷された細線の膜厚が安定していること。
【0085】
上記品質を満足するために、例えば、特許文献2には、厚膜印刷、微細画像、あるいはベタ印刷など、ピンホール、断線をきらうパターン形成において、オフセット方式による重ね刷り技術の適用が開示されている。重ね刷りにより、細線パターンの断線、版の目詰まりによるピンホール、印刷パターンの伸び縮み等が防止できるとの記載がされている。
【0086】
一方、上記品質を満足させるには、グラビアオフセット印刷を用いて細線パターンを印刷する際に、インキ剥離性を有する転写層上に、印刷版の凹部内に充填されたインキを確実に転移させることが必要となる。また、断線のない細線パターンを形成するには、ドクター部材で凹部内にインキを完全充填し、且つ満たされたインキ面を平滑にした上で、インキ剥離性転写層を有する転写体との接触時に、そのインキ面が均等に転写層と接触することが必要である。
【0087】
しかしながら、印刷しようとする印刷パターン(ここでは配線用の回路とする。)の線幅が太くなると、ドクター部材にて印刷版にインキを充填する際に、印刷版凹部の底部をドクター部材が擦ってしまい、充填がうまく行われないという問題が生じている。加えてグラビアオフセット印刷用のインキはレベリング性が低いため、版への充填形状がそのまま転写層を経て印刷物に転写されてしまい、所望の線幅と形状の回路を形成することができないという問題がある。したがって、細線の形状が設計値と異なってくるため、抵抗値や誘電率の制御が困難になる。この問題は、グラビアオフセット印刷において、高精細な印刷パターンを形成しようとするほどパターン内の広幅部分で顕著になる。
【0088】
そこで、本実施形態では、所定の形状・大きさを有する凸部を凹版に設けることによって、ドクター部材がインキを充填する際に、凹版の底部をドクター部材が擦ってインキ充填がうまく行われないことを抑止する。その結果、線幅の広い部分の抵抗値や誘電率の制御が可能な印刷回路自体の構造と、これを実現するために印刷パターン内で相対的に線幅の太い部分のインキ充填率を向上させ、且つ、充填されたインキの表面平滑性を向上させることが可能になる。
【0089】
本発明の第8実施形態では、印刷版の凹部は、幅が10μmから5mm程度までの範囲で、深さが5μmから20μm程度の凹部によって形成されている。本実施形態は、幅が100μm以上の凹部を備えるグラビアオフセット用印刷版の凹部のインキ充填に対して有効であり、100μm以上の幅の凹部の中に周期的に並ぶ複数の凸部を備えた印刷版である。印刷版の凹部内に凸部を有すると、凹部に充填されたインキ6は凸部の部分に未充填領域を有するパターンになり、最終的に得られる印刷物はインキ6が充填されていない貫通孔を周期的に有するものとなる。
【0090】
本実施形態では、印刷版において、少なくとも1つの凸部の高さが凹部の深さと等しい。具体的には、当該凸部の頂部を規定する境界線上の2点を結ぶ直線の最大値は、5μm以上100μm以下である。また、当該最大値は、凹部の幅に応じて異なりうる。そして、凸部の頂部が線状である場合、凸部の頂部の線幅の最小値は、5μm以上100μm以下であることが本発明の効果を発揮する上で好ましい。当該凸部は、上面視で凹部の面積の20%〜70%を占めていることが望ましい。
【0091】
本実施形態では、印刷物の窪み部は、少なくとも1つの窪み部の深さがインキ層の高さと等しくなるように、基材が露出する露出部分を有する。具体的には、当該露出部分を規定する境界線上の2点を結ぶ直線の最大値は、5μm以上100μm以下である。また、当該最大値は、インキ層の幅に応じて異なりうる。そして、当該露出部分が線状である場合、露出部分の線幅の最小値は、5μm以上100μm以下であることが本発明の効果を発揮する上で好ましい。
【0092】
印刷物に形成される露出部分である空孔群は、上面視で配線(インキ層)の面積の20%〜70%の面積を占めるのが望ましい。20%未満ではドクター部材1103によりグラビアオフセット用印刷版の凹部内にインキ6を充填する際に、凹部の底を擦ってしまうか若しくは充填量が不安定で印刷膜厚が薄くなるという問題が生じて空孔群の効果がみられない。このようになるとパターン設計通りの抵抗値、誘電率などが得られない。他方、70%より面積を大きくすると、インキ部の占める割合が低下して、配線として使用するのであれば抵抗値が高くなりすぎるといった問題が生じる。尚、凸部の形状と占める割合は、下記に示すように凹部の大きさに依存して変える必要がある。
【0093】
また、グラビアオフセット用印刷版はその表面が平滑であることが望ましい。これにより、印刷版表面にインキ漏れを起こすこと無く印刷可能である。また、ドクター欠けなどの異常の抑制にもなる。ここで、印刷版の表面とは、ドクター部材1103と接触する表面、又は、印刷版のパターン状の凹部(溝)の内側表面のことをいう。なお、グラビアオフセット用印刷版の表面は、粗面研磨加工、鏡面研磨加工、超精密研磨加工(ラッピングやポリシング)によって平滑にすることができる。
【0094】
また、ドクター部材1103には、印刷版の凹部内にインキ6を充填し且つ印刷版の表面平坦部上のインキ6を掻き取る必要があることから、ある程度のしなりが求められる。よって、ドクター部材1103は、ステンレスなどの金属、またはウレタンなどの樹脂、セラミックであることが望ましい。
【0095】
(第8実施形態における比較評価)
図27は従来技術が採用する印刷版の凹凸構造を説明するための斜視図であり、
図28は本発明の第8実施形態における印刷版の構造を説明するための上面視の図である。
【0096】
グラビアオフセット用印刷版を2版用意した。各版の仕様は以下の通りである。
a版:
図27に俯瞰図を示す印刷版1200は、1000μm×1000μmの電極部用凹部1211、500μm幅の配線部用凹部1212、150μm幅の配線部用凹部1213、30μm幅の配線部用凹部1214を有する。
b版:
図28に上面図を示す印刷版1300は、a版と電極や配線部の大きさは同一だが、1000μm×1000μmの電極部用凹部1311内に印刷部が50%になるように長軸の長さ50μm、短軸の長さ30μmの楕円形の凸部の群1321が形成されている。また500μm幅の配線部用凹部1312には印刷部が30%となるようにφ100μmの円の凸部の群1322が形成されている。また150μm幅の配線部用凹部1313には印刷部が70%となるように100μm×200μmの長方形の凸部の群1323が形成されている。幅30μmの配線部用凹部1314はa版と同一である。
【0097】
図29に
図28のb版の印刷版1300のXXIX−XXIX矢視断面図を示す。配線部用凹部1312内に凸部の群1322が形成されている。この凸部の群1322によって配線部用凹部1312の底部をドクター部材1103により擦るという現象を防止している。この防止は、凸部の群1321、凸部の群1323についても同様である。
【0098】
a版、b版は、120mm×120mm×3mmのガラス板を用いて、エッチングにて凹部を形成した。
【0099】
この2種のグラビアオフセット用印刷版を用いて、ポリエチレンテレフタレート基材上に導電性銀ペーストによる配線パターンを形成するために、グラビアオフセット印刷を行った。
【0100】
ポリエチレンテレフタレート基材は、厚さが125μm、縦が120mm、横が120mmのものを使用した。また、導電性銀ペーストとして、レオロジー測定装置で角速度15rad/秒で、8.8Pa/sのインキを使用した。また、インキ剥離性の転写体には、ゴム硬さ(JIS A)45°、ゴム厚さ 0.6mmの金陽社製のシリコーンゴムを円筒に巻いたものを使用した。また、ドクター部材1103は、MDC社製ドクターブレードのレギュラータイプを使用した。
【0101】
グラビアオフセット印刷装置は、一般に使用されている印刷装置を使用した。印刷条件は、ドクター速度が50mm/秒、転写体速度が20mm/秒とし、転写体と印刷版の接触幅、転写体とポリエチレンテレフタレート基材の接触幅は一律で10mmとした。
【0102】
印刷タイプの配線基板は以下の工程により作製した。まず、用意したグラビアオフセット用印刷版の凹部に上記導電性銀ペーストを上記MDC社製ドクターブレードによって充填した。次に、インキが充填された印刷版上で、上記転写体を回転及び移動させて、シリコーンゴム上に導電性銀ペーストの皮膜を形成した。最後に、導電性銀ペーストの皮膜が形成された転写体をポリエチレンテレフタレート基材に回転及び移動させて、ポリエチレンテレフタレート基材上に導電性銀ペーストの皮膜を転写し、印刷回路を形成した。
【0103】
上記条件において、a版とb版のグラビアオフセット用印刷版1200、1300にてグラビアオフセット印刷を行い、a版、b版に対応する配線基板を各20枚作製した。
【0104】
a版で作成した配線基板の印刷回路では、1000×1000μmの電極部パターン内にランダムなサイズで空孔が発生した。また500μm幅の回路、150μm幅の回路共にランダムに空孔が発生しており、抵抗値を測定したところ大きなばらつきが生じた。30μm幅の回路には空隙が発生せず、抵抗値も安定していた。
【0105】
一方、b版で作成した配線基板の印刷回路では、設計通りの箇所に空孔を有する電極部パターン、配線パターン部が形成できた。印刷回路の抵抗値を確認したところ、500μm幅の回路、150μm幅の回路、30μm幅の回路共に狙った抵抗値が達成され安定していた。
【0106】
本実施形態のグラビアオフセット用印刷版を用いることで、線幅が太い回路でも、細い回路と同様に形状精度の高い印刷パターンを得ることが可能になる。特に、相対的に線幅の広い回路パターンになるに従って効果は顕著化するため、細線回路と広幅回路の混在している配線基板の形成に適している。また、本実施形態によれば、基材に対し設計通りの箇所に露出部分(空孔)を形成することが可能となるので、インキの偏りに起因するはみ出しやかすれを抑制することが可能となる。
【0107】
(その他)
本発明はこれら実施形態に示された態様のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【0108】
例えば、上記各実施形態では、平板の印刷版を用いて転写を行っていたが、これに限られず、シリンダー形状の印刷版を用いて転写を行ってもよい。
【0109】
上記各実施形態のうち切削刃30、630を用いるものでは、単一のノーズ部を有する切削刃30、630によって切削を行ったが、複数のノーズ部を有する異形切削刃によって切削を行っても良い。
【0110】
上記各実施形態では、ブランケットを介して被印刷体にインキを転写していたが、印刷版から直接被印刷体にインキを転写してもよい。
【0111】
上記各実施形態では、インキの印刷パターンが被印刷体の上に形成されていることとしたが、当該印刷パターンが被印刷体の上に形成された後に、被印刷体が除去されて、印刷パターンのみによりその形状を保持する態様としてもよい。
【0112】
また、上記各実施形態において、インキに付与された導電性は、例えば印刷層に通電することによる真贋判定や、電気回路部材としての利用など、各種の用途に利用することができる。
【0113】
上述した第8実施形態では、印刷版の凹部の深さと凸部の高さとが等しいが、本発明では、これに限られない。
図30は、本発明の変形例に係る、
図28のXXIX−XXIX矢視断面図である。
図30に示す印刷版1400は、凸部1422の形状以外は第8実施形態に係るb版と同一である。本変形例に係る印刷物および印刷版を構成する各要素のうち、同様の機能を有するものについては、第8実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0114】
配線部用凹部1312内に凸部の群1422が形成されている。凸部の群1422の高さは、
図30に示されるように、配線部用凹部1312の深さより小さくなっている。この凸部の群1422によって配線部用凹部1312の底部をドクター部材1103により擦るという現象を防止している。
【0115】
本発明では、第1から第7実施形態のいずれか1つに係る印刷版、すなわち、凹部の深さが凸部の高さより大きい印刷版を用いて、上記空孔を有する印刷物を製造することが可能である。また、第8実施形態に係る印刷版、すなわち、凹部の深さが凸部の高さと等しい印刷版を用いて、頂部に窪みを有する(しかし露出部分を有しない)印刷物を製造したりすることも可能である。